インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

22 / 42
代表就任パーティ

 その日の夜。整備室で作業しながら、マルチモードにした端末で開発部に繋いで簡単な顔見せと打ち合わせをした後、簪と本音に静寐、レナ、テレサも交えてちょっと賑やかに夕食を取って、いざ部屋に戻ろうとしたところで清香と夜竹さゆかに呼び止められた。

 なんでも千夏がクラス代表になったからパーティをしようって事になったそうだ。お祭り好きなのか、ウチのクラス。

 ということで優衣達と別れて連れて行かれた談話室は一年一組の貸し切りで即席のパーティ会場になってて、テーブルには大量のお菓子とジュースが並んでた。

「それでは、千夏君のクラス代表就任を祝して、かんぱーい!」

 僕達が最後だったみたいで、全員が揃ったてことでジュース片手に乾杯!

 そして主賓こと千夏が挨拶をすると、あちこちから拍手が鳴り響く。

「えっと、俺なんかのためにパーティを開いてくれてありがとう。その、みんなの期待にどこまで応えられるかわからないけど、がんばります!」

 でも拍手を受ける中で急に自信なさげな表情を作って僕達に問いかけてきた。てか、話し合いで決着は付いてるはずなのにまだ不満なのかい、お前は。

「というか。俺、結局全戦全敗なのに代表って、なんでだ?」

「勝者の権利として、代表を辞退したんだよ。一番弱い織斑に、より多くの経験を積ませるためにね」

 ともかく、一度以上は勝利してる僕とリィンにフィーとセシリアは、勝利者として辞退を申し出て、更に候補者の内でただ一人、誰にも勝てなかった千夏を訓練する意味も込みでクラス代表にすることになったのだ。

 なお、織斑先生と真耶せんせーもその辺りは承知してくれた。

 まあ、実のところは他にも沢山の理由があるんだけど。

「上から目線ウゼエし」

 そんな僕の一言に、千夏は心底嫌そうな目を向けてくる。でもなぁ。 

「悔しいなら同じ目線までさっさと這い上がってこいよ、駄犬」

「そうですわね。その威勢の良い態度も、実力が伴っていないとわかった今では、子犬の威嚇にしか聞こえませんわ」

 実際に千夏は弱いし、技術も知識も経験も足りなすぎて、このままじゃ専用機(白式)を持っていても自衛すら出来ない。だからこそこちらが嫌みや皮肉をわざと言ってでも、やる気と覚悟を引き出さないと危険なんだ。世界でたった二人の男性操縦者。実戦経験豊富なリィンならば放っておいても撃破するなり、逃げ隠れするなりの判断も出来る。でも千夏はそれ以前の問題。最後に会った頃からあまり伸びてない剣道の腕は、ここ一週間で少し向上はした。けどそれだけだから、狙われたら抵抗する間もなく白式を奪われて、捕獲された上で人体実験、なんて最悪な末路になる可能性が大きい。それだけは避けたいからね。

「くそ、イヤミかよ、テメエら」

「落ち着け千夏。お前なら出来るのだから」

 最初はウチの部に入れて徹底的に扱こうって案もあったんだけど、それは先生二人に止められた。クラブ入部の強制はダメだ、と。だから手加減無用の実戦形式でのIS戦闘訓練を繰り返そうという形で落ち着いた。当面は基礎機動や素振りを力尽きるまでやらせる感じだけど。後は僕達の早朝ランニングに参加させて基礎体力作りか。

 そんなこんなで若干やさぐれてる千夏。箒が慰めてるけど、少し論点がずれてるせいかあんまり意味が無いみたいだ。まあ、箒だし。で、お構いなしに騒ぎたいお年頃名クラスメート達が盛り上がってきた頃に、乱入者が一人。 

「はいはーい。クラス代表アーンド、専用機持ち四名さん。私は二年新聞部部長の黛薫子です。まずは織斑君。クラス代表就任おめでとう。早速だけど、クラス代表に就任した意気込みをどうぞ」

 突然入ってきて千夏と僕達四人を指さす乱入者。黛薫子と名乗ったこの上級生は、いきなり流れを全部持って行って、自分のペースに巻き込んだ。ぶっちゃけ空気白けたんだけど、とは思ったけど、当の本人は脇目も振らず千夏にインタビュー始めてる。ちょっとヤな感じの人だな。

「え? えっと、まあ、任された以上は責を全うできるようにがんばります」

「……うーん。つまんない。もっと無いのかな。こう、全部俺に任せろ、とか。IS学園は俺が革命する、とかさ」

 でもって唐突に指名された千夏はといえば、いきなりすぎて逆に割と真っ当な事を言い出した。

 まあ、この前の試合で四人がかりで鼻っ柱たたき折った感があるから威勢が悪いからだろうけど。

 でもこの黛女史、なかなかに無茶振りな事を言うように仕向ける。なんだろうこの、自分の欲しい記事が書きたい、ゴシップ記者のような感じは。IS学園の新聞とか読んだことないから何とも言えないけど、やっぱり嫌な感じがする。

「な、いや。そう、いわれてもな……」

 当の千夏も言われたことに困惑気味。だけど、黛女史はそんな千夏の様子に首を傾げるも勝手に自己完結して今度はセシリアに千夏の事について質問を投げかける。

 問われたセシリアはまあ、訓練や今日の授業の様子を見て、感じ取った事をそのまま話す。

「どうしたの? まあいいや。それじゃ次、オルコットさんだっけ。イギリス代表候補生の。織斑君の事で、何か一言貰えるかな」

「織斑のことですか? そうですわね……。まあ、搭乗時間が十数時間程度の素人としては十分ではないでしょうか。これからに期待、ですわね」

 実際、千夏自身の潜在能力は大きい。天才だって言われるのも自称なんかじゃない。認めたくないけど、コイツは正真正銘天才といわれる人種なんだ。勿体ない事に努力と積み重ねが無いけど。

 けど、それを表面的にしか受け取ってないらしい黛女史は、セシリアのコメントに対して堂々と捏造宣言する。

「なるほどね。在り来たりだから、適当に書くことにするわ。次は緒方さん。織斑君のコーチを断ったって噂だけど、真意はどうなのかな?」

 セシリアもこの捏造発言には唖然として、恨みを込めて黛女史を睨み付けながら、小さく愚痴を呟いた。

 そんなセシリアを宥めつつ、千夏のコーチの件を僕に聞いてきた事についてコメントする。

「な、納得がいきませんわ」

「まあまあ抑えて。それで、噂が何かは知りませんけど、対戦相手に利するような行為をする者が居ると思いますか? それだけですよ」

 断ったのは噂じゃ無く事実だし、する意味が分からない。理由も無く敵に塩を送るつもりなんてなかったし。

「ふうん。割と普通の答えで、いまいちインパクトがないんだよなあ。なんていうか、千夏が強くなっても、私は負けない。とかないのかな。面白味がないのよね」

 だけど、インパクトに面白味、ね。なんだそれ。コメント求めてきた側のセリフかよ、それ。こっちはちゃんとコメントしてるってのに、それでも記者かっての。

「ないですよ、そんなもの。そういったことはおもしろ可笑しく書く様な事柄じゃない筈です。仮にも新聞を名乗ってるんですから、ゴシップ誌の様な記事じゃなく、ちゃんとした記事を書いて下さい」

「ねえリィン。この人はふざけてるの? それとも、本気?」

「本気なんだろう。意味がわからないが」

「本当に意味が分かりませんわ。新聞部と名乗っている割に、随分と程度が低いのですね」

 だから素直にその事を告げる。リィンとフィーも呆れ気味だし、セシリアもやっぱりご立腹の様子。

 黛女史は僕ら四人の言葉と目線に少し狼狽えてるみたいだけど、そこに最近聞き慣れたテレサの声が彼女に追撃をかけた。

「……な、なんでかしら。この子達に勝てる気がしない。私が目指した報道は、多くの人に見てもらえる楽しい記事を書くことだったのに」

「そりゃ、今のあんたがステラ達に勝てるわけないわよ。あんたのいう楽しい記事って、事実を捻曲げて伝える、大衆に迎合したゴシップ誌のそれなんだから」

 今度は完全に怯んで、テレサから大きく距離を取る黛女史。

「げ、テレーザかよ」

 けどテレサは彼女との距離を詰めながら、このインタビューの無意味さを指摘する。

「あたし個人として織斑はどうでもいいんだけど、セシリアとステラの発言を意図しない形で曲げるとか、それならインタビューする意味が無いでしょ。違う、とは言わせないわよ? それともあんたはパパラッチかジャパニーズワイドショーかっての。他のクラスは見向きもしてないのに」

 実際、黛女史が僕らに求めたのはゴシップ誌的コメントであって、真面目な答えは要らないと言ったんだ。テレサの指摘は間違ってない。

 リィンとセシリアもテレサに同意して、実際に言葉にする。……ていうか一組だけなの、インタビューしたの。

「そうだな、テレサの言うとおりだ。三人ともせっかく答えたのに、適当に書くって言われれば納得は出来ないだろう」

「ええ、リィンさんの言うとおりですわ。あなたは、適当に書く、という言葉の意味をはき違えていませんか?」

 僕も当然文句を言わせて貰う。ついでに思ったことを聞いてみる。テレサが言う通りなら、この人は他はレナや簪、二組の代表にはインタビューしてないし、するはずもない。だって……。

「黛先輩。今僕達が答えたような、真面目で代わり映えのしない決意表明やコメントなんて、書くのも読むのも面白くないのでしょうね。それに、なんでウチのクラスだけ取材してるんですか? まさかリィンと織斑が居るから、とか言わないですよね?」

 他のクラスは訪れず、一組にだけ来るなんて、理由は一個しか無い。専用機持ちが五人もいることじゃない。もっと希少な存在(たった二人の男性操縦者)がいるからだ。

「……。その、まさか、です。世界でたった二人、ISを動かせるシュバルツァー青年と織斑少年が居る一年一組は格好の取材対象だ、か、ら……」

 そしてその予想は寸分違わず大当たり。溜め息しか出ない。というかそろそろウザったくなってきたんだよね。手始めにこの人からでいいかな、いいよね。

「ねえみんな。僕さ。そろそろリィンと、ついでに織斑の扱いについてマジギレしてもいい頃合いだと思うんだけど、どうかなあ?」

 リィンと千夏に纏わり付く有象無象な面倒事。未だ追いかけ回してくる生徒達に、それを止めもしない教師達。

 束姉が釘を刺したはずなのに未だ取材申し込みが殺到してる月岡重工では、電話応対に支障がでたから、一時はメディアの取材を完全シャットアウトにしたほど。因みにリィンの名前が出た瞬間に通話を切り、黒翼型の取材と称してリィンの事を聞き出そうとした記者を叩き出した事もあるらしい。報道の自由となんでもやっていいはイコールじゃ無いってのにね。

 それにリィンも随分参ってるから、そろそろ爆発しそうなんだよね。外出もままならなくなって、随分苛立ってたし。

「あー、まあ、いいんじゃないか? 俺もいい加減辟易してるところだ。やるなら、俺にも声を掛けてくれ」

「障害は排除するのみ。慈悲はない。不埒者には当然の末路だね」

「リィンさんと、ついでに織斑君。入学してから、訓練以外のプライベートな時間、あんまりゆっくり出来てないみたいだしね」

「うん。ほんとは、安易に力に訴えるのも良くないよ、て言いたいけどー、そうだねー。いい加減、叩き潰せるところは叩き潰しちゃっていいんじゃないかなあ?」

「ソイツに関してはあたしが許す。存分にやっておしまい」

 というか爆発したわ。後、リィンの心理状態に気付いてるフィーは当然として、割と温厚な静寐に本音まで賛成するなんてね。でもってテレサは最初っから制裁するつもりで来たっぽい。多分、談話室に向かう黛女史を見かけて、追いかけてきたんだろう。僕達がパーティに参加することを知ってて、そして黛女史とは同級生で、この人が何かやらかすって気付いて。

「あ、えと、ね、ねえ」

 で、僕ら五人に囲まれて怯える黛女史。でもそこにセシリアから静止の声がかかる。

「まあまあみなさん大人気ないですわよ? そういったことは、子犬にじゃれつかれたと思って流して差し上げるのが、一番よろしいのではなくて?」

 僕達が興奮してた間に、一人冷静になってたみたいだ。セシリアに言われて僕も頭冷めた。確かに、言われてみれば仔犬だわ、この人。

「ふふ。流石は現役代表候補生。一皮むけたらいきなり大人だね」

 入学初日の彼女が嘘みたいに見える。ホント、こんな短い間にここまで変われるなんて、やっぱり凄い。

「ふふ。それも、あなた達やテレサさんのおかげですわ。まあその、山田先生からの補習も、ですが……」

「うんうん。そう言えるってことは、ちゃんと勉強し直せたってこと。いい感じだよ、セシリア」

「ありがとうございます」

 そしてセシリアが口にしたお礼にはテレサが彼女の頭を撫でながら褒めることで全員が頷く。見違えたってのはこういうこと言うんだよね。千夏もちゃんと人の言うこと聞いて、変わってくれるといいんだけどな。憎いとは言え元弟、現妹として実の兄が今のまま腐って行くのを見るのは忍びない。でもって黛女史。若干泣きそうになりながら、それでも部屋全体に聞こえる位の声で謝ってくれた。さすがに周りを見渡して反省してくれたらしい。

「……あ、あの、ごめんなさい。出直します。えっと、パーティを邪魔しちゃって本当にごめんなさい。その、お詫びに集合写真を撮らせて下さい。これは絶対に記事に使ったりしませんから」

 そして集合写真を撮ることになったから、リィンを中心にして全員を集める。他のクラスの子もしれっと混ざってるみたいだけどまあ、いいか。

「全員にプリントして下さいね。取り敢えずリィンが真ん中で、織斑、その前に座って。で、僕とセシリアでリィンの両脇について……。あとみんな適当に入っちゃえ!」

 とりあえず千夏を適当な椅子に座らせたあと、その後ろに立ったリィンの右腕に抱きつくと、左腕にはセシリアが抱きついた。当たり前のように。ていうか懐くの早すぎだよ、セシリア。まあ問題はないんだけどさ。

「わたしはリィンの背中」

「あ、ふぃーちゃんズルイ! わたしもりーんの背中げっとー!」

 ついで、フィーと本音がリィンの背中、というか両肩に張り付くと、いつの間にか来てた簪が僕の目の前、リィンの右腕の中に滑り込んできた。

 ……あれ? なんで簪ここにいるし?

「みんな騒がしいね。ここに居ていいのか微妙だけど、その、わたしはここで」

「とか言って簪。ちゃっかりリィンの腕の中に入るんだね」

「それじゃその、私はカンザシの反対側で」

 ていうか全員集合かい。レナもちゃっかりリィンの左腕の中にいるし、エマと優依までいる。

「あたしは本音の隣かしらね。……て、簪にレナに、優衣まで来たの?」

「呼ばれてないけど、来ちゃった」

「あの、優衣に引っ張られて、気付いたらここに」

 どうやら独断で優衣が三人を連れて乱入してきたらしい。簪とレナは少し戸惑ってるけど、エマは意外と楽しげにしてる。真面目な委員長タイプに見えるけど、割とノリがいいしね。

「いいんじゃないですか、簪さん。こういうのもありだと思いますよ。私はセシリアさんの後に入りますね」

「うん。てわけで私はステラの前に!」

 そうして優衣とエマ、テレサと静寐もそれぞれリィンの側に立ってこっちは準備完了。

 千夏が自棄になってクラス全員に集合をかけようとして……。

「……意味わからねえ。あー、クラス代表命令! 緒方が言った通り全員……」

「適当に周りに集まれ、ですわ!」

 セシリアにセリフ取られてやんの。でも本当に変わったわ。高飛車なお嬢様だったのがまあ、なんというかノリが良くなっちゃって。

 そんな千夏とセシリアの呼びかけに、僕達の周囲にクラスのみんなプラスアルファがわちゃわちゃ集まってくる。

「て、俺のセリフとんじゃねえよオルコット!」

「ふふ。言った者勝ちですわよ、織斑。楽しんだ者が勝つのです」

 その中でちょこっと微笑ましく口で千夏を言い負かしてるセシリアのドヤ顔がカワイイ。

「うわぁ、シュバルツァーさんが全身に花束だわ。それじゃ撮るわよ! 二十二足す十四引く三十二のルートは?」

「えっと……2(ニィッ)!」

 で、全員集合したところでシャッターが切られるけど、なんでルート使って2を出させるんだか。わかるけど意味不明だろ!

「よくできました!」

 まあ、それはそれってことで、ひとまず撮影された写真を見せて貰うと千夏が呻く。漸く他のクラスの子達が混ざってるのに気付いたらしい。

「なんだよこれ。なんか他のクラスのヤツまでいるみたいなんだけど……。まあ、いっか」

 ま、千夏だし。それに楽しかったんだからいいじゃんね。

 

 こうして消灯時間ギリギリまでみんなで騒ぎまくった代表就任パーティなのでした。

 やっぱり無邪気にわいわいがやがやと騒ぐのも悪くないね。




ある意味原作通りに千夏がクラス代表です。ここに織斑一夏はいないので。
そして千夏と箒の扱いはやっぱ適当です。

後はなんだ、こう、レナと簪がリィンに懐くのがセシリア以上に早いのはどう説明しよう?←

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。