インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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IS訓練初日

 2日もかけて十戦もさせられたクラス代表を決める戦いが終わった翌々日。当事者五名と織斑先生、真耶せんせーの七人で話し合った結果、千夏がクラス代表に決定した事が発表された。当事者の千夏は不満を持ち、またその戦績上、若干残念がる生徒が居つつも決まったこと自体は歓迎された。なお、セシリアは2日目の朝、ホームルームの時間でクラス全員に行きすぎた発言を謝罪した。こちらは初日の試合で僕とリィンとフィーに謝ってお互いに許し合った事も分かっているため、素直に受け入れられた。ただし千夏はまだ認められないとのこと。初日に千夏にも謝罪してるけど、千夏がそれを受け入れなかった上に、考え方の面で根本的に反りが合わないらしい。まあ、これはセシリアと千夏の問題だからいずれ当人同士で解決して貰うほかない。少なくとも僕達と一緒に千夏を訓練すると決めたセシリアはそのつもりだとか。千夏のヤツ、意固地になってる感じだし。

 そして今日、IS学園に来て初めてアリーナでの実機訓練が行われる日になった。

 この実機訓練は一組と二組のニクラス合同のため、人数がとにかく多い。しかもその中で僕達一組に専用機持ちが五人も居るので、何がどうなることやら。

 ともかくどんな授業になるのかはこれから分かることだから、と思っていると千冬姉……織斑先生が真耶せんせーを伴ってアリーナに入場。整列してる僕達の前に立って授業の開始を伝えるけど、最初が僕達のデモンストレーションとは思わなかった。

「さて諸君。初めての訓練になるわけだが、今はまだISその物を使わせることは出来ない。まずは専用機を持っているオルコット、緒方、クラウゼル、シュバルツァー、織斑の五人にデモンストレーションを行って貰う。五人とも、前へ出ろ」

「はい!」

 なんにせよ織斑先生の指命通りに列を抜け出して先生達の側へ行き、呼ばれた順に並ぶと、他の生徒達の方を向く。すると間髪入れずISを展開するように言われた。

「では順次機体を展開。まずはオルコット」

 一番先生寄りにいたセシリアがブルー・ティアーズを展開。月曜日に自分の非を認めてから随分と態度が和らいだ彼女は、気負い過ぎた部分の緊張も抜けたのか、悠々と、でも素早く展開する。

「はい。行きますわよ、ブルー・ティアーズ!」

「うむ。機体の展開速度はまずまずだが、もっと早く出来るだろう。次、緒方」

 僕の目からは、セシリアの展開は無駄が無いように見えたけど、元国家代表で世界最強の目からはまだまだ甘いらしい。ちょっと涙目になってるけど、がんばれ、セシリア。

 そして次は僕の番。緋鋼を展開する。

「はい。踊るよ、緋鋼!」

 コアと機体との適応も高くなって随分と早くなったつもりだけど、どうなんだろう、と思ってると、やっぱりまだまだらしい。もっとがんばらないとだね。で、次はフィー。

「無駄が少ないが、お前ならもう少し早く出来るはずだ。次、クラウゼル」

「うん。行くよ、シルフィード」

 まだ半年少しと慣れてないからか、展開自体は早いんだけど、展開を始めるのに一拍置いてしまう感じらしい。フィー曰く、呼び出すのに慣れないとか。そしてそこは織斑先生にも見抜かれて指摘される。フィーも、僕達と一緒にがんばろう。

「起動から展開を始めるまでにまだ若干のラグがある。全体的に展開時間をもっと短くするよう励む事だ」

「わかった」

 当のフィーも織斑先生の言葉には素直に頷いて、リラックスした姿勢を取る。そしてリィンの番が来た。リィンはなぁ……。

「次、シュバルツァー」

「はい。行くぞ、ヴァール!」

 右手を挙げてヴァールを展開する。実はずっと直すように言ってたのに未だに直らない。ヴァリマールを呼んでた時のが完全に癖になってて、全く同じポージングでヴァールを展開しようとするんだ。

 だから織斑先生にも怒られる。当たり前だよね。ISの試合は見世物だけど、子供向けのパフォーマンスじゃ無いから。

「展開速度はまずまずだが、ロボットヒーローモノのアニメじゃないんだ。無駄なポージングは控えろ」

「あ……。はい、わかりました」

 でもってリィンも僕達に言われてたことを更に織斑先生にも言われて、ちょっとヘコみ気味。ま、リィンも要努力って事で。で、最後は千夏。こいつは、なぁ。

「よし。では最後、織斑」

「はい。白式、来い!」

 まだまだ全然遅い。機体各部が実体化するのが目で追える位遅い。慣れてない上にイメージ力もまだ追いついてないんだろうな。まあ、搭乗時間十時間未満のド素人以下にしては十分だけど。

「まだ展開に時間がかかりすぎている。最低、後半秒は短縮しろ」

「わ、わかりました」

 流石に織斑先生は厳しいから、半秒短縮だって。まあ、要領はいいから直ぐに出来るようになるでしょ、この愚兄さんなら。

「よし。織斑の白式は登録されたばかりでまだだが、オルコットのブルー・ティアーズに、緒方姉やクラウゼル、三組の緒方妹とミルスティンの緋鋼と黒鋼、シルフィード、ゾディアック。それからシュバルツァーのヴァールは概略が公開情報に載っているから、各自で確認するように」

 因みに黒翼型の公開されてる情報は、製品として販売可能となってる分、リヴァイブ並みに情報量が多い。流石に凍牙とブラスターシステムの詳細は乗ってないけど、それでも理論解説は公開されてるし、それ以外の汎用武装も含めて大半が公開されてる。で、そのカスタム機の一例として僕達の機体も公開されてる。世間的にはヴァールも一応、黒翼型のカスタム機扱いだから。実のところは、ブラスターシステムを搭載してる以外に黒鋼型との共通点は全くないんだけどね。

 そして機体の次は武装に移る。これも、基本的にISは武装を量子格納してるから、どれだけ早く展開して構えられるかが勝敗を決める鍵になるって所からだろうね。てことでまたもセシリアの番なんだけど……。

「次に主力装備と搭載装備を展開しろ。まずはオルコット」

「はい!」

 て、おま! ちょっと待てーっ! スターライトこっち向けんな! 思わず粒子加速銃を出して構えちゃったじゃないか!

「……オルコット。展開時間はまあ、及第点だが、お前はどこに向けてそれを撃つつもりなんだ?」

「そ、それは」

 当然その事には織斑先生も注意するわけで、聞かれた事に言い淀むセシリアに右を、スターライトを向けている方を向けと言う。

 セシリアも言われた通りにこっちを向いて……。

「右を向いて見ろ。これが実戦なら、お前がそれを撃つ前に、緒方とクラウゼルに頭を撃ち抜かれているぞ」

「へ? ひぃっ!」

 目線が合った瞬間に悲鳴を上げられた。まあ当然だよね。僕の粒子加速銃、鮮華(あざか)にフィーのIS用双銃剣、疾風(はやて)の銃口、合計三つが目の前に並んでるんだから。

「あはは、ごめんねーセシリア。条件反射でついなー」

「味方が狙われたら当然の反応。もしわたしが狙われたとしてもステラは同じ事をする。気を付けた方がいい」

 ぶっちゃけ、僕とフィーのこの行動は条件反射、殆ど無意識のレベル。銃口向けられたら撃たれる前に撃つしか無いじゃない。トリガー引く前に止まれてホント良かった。セーフティは解除しちゃってたから。

「と言う事だ。身を以て危険性を経験した通り、味方に撃たれたくなかったら意味の無いポージングは禁止。次回までには直せ」

「で、ですがこれはモチベーション維持のた……」

「な、お、せ。いいな」

 因みに止まってなかったらセシリアの綺麗な顔が無くなってた所だった。でもまさかリィンと同じようなことするなんて、以外とお茶目さんだよね、セシリア。あと織斑先生の脅しは間違ってないからー。ついでにリィンが怒られるのも確定だね。

「……ひっ! は、はいっ!」

 当人は織斑先生に睨まれて悲鳴を上げながら縮こまってるけど。

「よし。それでは次、近接武器を出せ」

 で、次は近接武器って事はインターセプターだけど、多分……。

「……」

「うぅ……」

 出せないんだな、これが。昨日はアリーナを借りられたから一緒にがんばってたけど、出来てなかったし。

「……くぅ、い、インターセプター!」

 やっぱりまだ、コールしないと出せないみたいだ。一応組み手の形で近接戦の練習したけど、まだ無理っぽいね。コールしてからの展開速度は随分速くなってるけど。

「近接武器位、コール無しで呼び出せ。でないと、次もまた懐に潜り込まれて、撃墜の憂き目を見ることになるぞ」

「は、はい」

 それはそれ、これはこれ。セシリアにとって一番の弱点である懐に潜り込まれることは、早めに対処しないとだね。まあ、本人も相当気にして、ウチの部に掛け持ちで入って訓練するって言ってたし、近い内になんとかなるっしょ。

 そんでまた僕の番。今は凍牙のリグを展開してないからまずは凍牙の展開から、と。

「では次、緒方」

「はい!」

 背面装甲の両側に凍牙のハンガーリグを展開して、両翼に四基ずつ吊ってる凍牙を切り離して周囲を旋回させる。

 するとセシリアが素っ頓狂な声を上げてこっちを指さしてきた。人を指さしちゃいけませんよー、セシィ。

「なっ! すす、す、ステラさん! それはブルー・ティアーズではありませんか!」

 まあ、この凍牙については織斑先生が説明してくれたからいいけど、理論解説までは公開してるんだからチェックしておこうよ、セシリア。

「はぁ……。おいオルコット。同じ独立浮遊機動兵装ではあるが、それは月岡独自の第三世代兵装、凍牙だ。公開情報位ちゃんと目を通しておけ。それで緒方。武装はそれが全部ではないだろう?」

 それでまあ、遠近問わず多種多様に限界まで積み込んでますからね、この子(緋鋼)。ぶっちゃけ歩く武器庫だし。

「はい。後は先程のライフル以外にも銃砲火器と近接武器があります」

「では順次呼び出せ」

 てわけでさっきの鮮華と対になる振動剣の烈空(れっくう)、そして入れ替えで透徹と投擲円剣の瞬閃(しゅんせん)。更に軽機関銃に重機関銃、グレネード、可変攻盾などなど、多種多様に入れ替えて格納と展開を繰り返す。

「うむ。クイックシフトもそれなりに使えるみたいだな。精進しろ」

「わかりました」

 にひひ、一応褒めて貰えたって事でいいのかな。ホント、初めて乗った時は時は展開にも一苦労したのはいい思い出だよ。展開遅いのに扱いだけは上手でアンバランスだって、お父さんにもさや達にも笑われたからなぁ。それからはイメージングに必死になったもんだよ。

「では次、クラウゼル。先程の拳銃以外も全て展開出来るな」

「はい。行きます」

 そんなことを思い出してる内にフィーの番。フィーは元より戦いのプロフェッショナル。僕と同じく最初は展開に手間取ってたものの、クイックシフトが出来るようになるまでの時間は僕よりずっと早かった。うらやましい。そして器用貧乏な自分が恨めしい。

 凍牙の展開から初めて、爆装類が若干多い以外は緋鋼と似たような構成の装備を次々と展開しては収納していく。

「うむ。武装の呼び出し、クイックシフト、共に十分だ。機体の展開速度向上に重点を置くといい。次シュバルツァー」

 後は機体の展開速度だけど、もう少し慣れればラグも短くなるでしょ。

 そして問題のリィンの番。またあれやっちゃうんだろうな、きっと。

「来い、緋皇」

 左手を前に突き出して緋皇を量子展開。そのまま左腰装甲のハードポイントにマウントして右手を柄に添える。格好はいいんだよ、格好は。並んでる子達の方からもキャーキャー歓声が聞こえてるし。でもね。

「……シュバルツァー。貴様は一々ロボットヒーローごっこをせんといかんのか? オルコット同様、次までには直せ。あと、残りの武装も全て出してみろ」

「……了解です」

 ほら、やっぱり怒られた。素直にハードポイントに直接展開しろってみんなして言ってるのに、クセって直らないからクセなんだろうなぁ。

 だって、その他の銃火器やら別の刀剣類なら普通にクイックシフト出来るんだから、やれば出来るはずなのに。

「……お前、本体とその剣だけがアレで、他はクイックシフトまで出来るのか」

「なんとういか、ちょっと不思議ですね」

「すみません。以後、気を付けます」

 緋皇だけは思い入れが強すぎて難しいみたいなんだよね。だから流石の織斑先生に真耶せんせーもこのリィンの状態にはあきれ顔。まあ、本人も言われ続けて自覚が出てきてるから、もうちょっとでなくせるだろうけどね。

「当然だ、バカ者。最後、織斑」

「はい!」

 それで最後の千夏はまあ、こっちも慣れてないから展開出来てもまだまだ全然遅い。コール無しで展開出来る分、素人としては凄いと思うけど。

 その辺については織斑先生がちゃんとアドバイスしてる。でもさ。ブレードオンリーとか、ISの対戦格闘ゲームIS/VS(アイエス・ヴァーサス)のプレイ動画でよくある装備縛りプレイみたいな機体だからなぁ。冗談抜きで素人に与えていい機体じゃないよ、この白式って機体。

「まあまあだがまだ呼び出しに時間がかかりすぎいる。織斑には今のところそれしかないのだから、もっと展開時間を短くし、瞬時に左右を入れ替えるなどのテクニックも身に付けておけ」

「わかりました」

 どっちにしても千夏は機体制御と剣の腕を上げていく方向でいかないとだよね。それしか無いとも言えるけど……。

「それでは最後に、飛行と着陸までを一通り行ってもらう。今転送したコースを飛行して、指定座標にて滞空。その後、こちらの指示に従って降下するように。では行け」

 で、全員の武装展開も終わって、今度は飛行デモらしい。オープンチャンネル経由でアリーナ上空を周回する割と複雑なコースが送られてきた。ゴール地点はアリーナ上空150メートル。その後は多分、一定の地上高での降下停止だろうね。

「ではみなさん。お先に行きますわね」

「それじゃ俺も行く」

「先に行く」

 全員同じコースなんだろうか、セシリアが最初に浮かび上がって飛び立つと、殆ど間を置かないでリィンとフィーが飛び立っていく。

「えっと、行きます」

「そんじゃ殿はお任せ、てね」

 千夏も少し戸惑いながら飛び立ち、最後尾を追うように僕も飛び立つ。レースじゃないし、追いついて編隊飛行でもすればいいかな。

 と思ってると、一番最後に飛んだ僕にも追い越された千夏に、織斑先生から激が飛んでくる。オープンチャンネルで。僕達にも丸聞こえのそれに、若干悔しそうな表情を浮かべてる。

「なにをしている織斑。白式のスペックならば、他のどの機体よりも速く飛べるはずだぞ」

「……すみません」

 とりあえず全員で千夏の飛行速度に合わせて、コースに乗せての編隊飛行に入る。そして思うように飛べないことを気にしてる千夏に、まあまあがんばってるんだと、セシリアと二人で声をかける。正直な話し、千夏の基本的な才能というか適性自体はかなり高い。ゲームに例えれば、僕達はレベル数十まで行ってるけど、千夏は経験値が低くてまだレベル一桁台のニュービーってだけ。それだけ。十時間も乗ってないド素人以下の千夏がここまで飛べてる時点で本来は十分なんだ。

「まあ、気にすることはないと思いますわよ、織斑さん。あなたはまだ数時間しかISに乗っていないんですから。あなたなりのイメージを確立するといいですわ」

「そだね。焦らないでじっくり慣れて行けばいいと思うよ」

「あ、ああ。ありがとう」

 すると意外にも反発も無く、お礼まで言われた。ちょっとビックリ。

 そしてセシリアはフィーの飛び方を見てちょっと微笑んで話しかける。時折脚を前後にスライドさせて、走るように飛ぶんだよね、フィーって。

「それにしてもフィーさんは、面白い飛び方をしますのね」

「うん。走る方がなれてるから」

「ふふ。人それぞれ、ですわ。ちょっと珍しい飛び方でしたので」

 小さい頃に猟兵団《西風の旅団》に拾われた孤児のフィーは、十歳で猟兵として戦場に立って、《西風の妖精(シルフィード)》の通り名まで持つベテランの戦士。そして西風の旅団解散後、サラ姉に引き取られて直ぐにトールズ士官学院に入学。そして内戦と、戦場暮らしが長いフィーにとって、飛ぶより走る方が馴染むらしい。まあ、イメージの問題だから仕方ないね。

「気にしてないから、いいよ」

 フィー本人も、飛びやすいイメージしたらこれだったってのを理解してるから問題ないし。

 なんて和やかに飛んでるところにオープンチャンネルから怒声が響く。……て、箒、何してんの?

「……千夏、何をのんびりしている! 早く降りてこい!」

 まだ行程の半分位の場所を飛んでるのに、降りて来いなんて勝手に言い出す箒。てかお前何様や、真耶せんせーからインカム引っぺがしてまで何してんの!

「何をやっている、篠ノ乃箒。山田先生のインカムを使う事など許可していないし、お前に命令権もない。大人しく後で見ていろ」

 案の定織斑先生の出席簿アタック食らって怒られてるけど、当たり前だよね。なに考えてんだかあいつ。ていうかここまで酷かったっけなぁ。僕にとって多少面倒な子とは思ってたけど、十年前……離ればなれになった小学四年の頃はこんなに酷くなかった気もするんだけどな……。

「あれ、何やってるんだ。先生に迷惑掛けてまですることなのか?」

「ないない。頭沸いてんじゃないの、あの子」

「やっぱり意味不明だね」

「篠ノ乃さん、お労しや」

 リィン達の会話もご尤もで、ホント頭沸いてるとしか思えない。入学初日からいろいろと意味不明だし。

「……流石に、すまん」

 でもって千夏が珍しく頭下げてる。これは、千夏も箒と何かあったんだろうな。同室だし。

 そんな風に話してる内に飛行コースを飛び終えて、指定ポイントに到着。静止すると直ぐに織斑先生からの指示が飛んでくる。

「よし。では全員、急降下からの完全停止を行え。目標は地表十センチ」

 十センチか。まあ、難しくは無いね。千夏が若干不安だけど。

 そして今回もセシリアが一番手で降下。

「了解しました。それではお先ですわ」

 急加速で降下して、逆噴射と慣性制御を合わせてピッタリ十センチで地表降下。ま、なんだかんだ言っても代表候補生だね。

 そんでもって次は僕とフィーが順番で降りさせてもらう。

「それじゃ。今度は僕が先に行くね」

「ん。わたし、次」

 地表に向けてダイブ、スラスターカットして軽い逆噴射と慣性制御で止まってみせる。

 直ぐ隣には数秒の間を開けてフィーが同じ位置に降りてきた。僕ら二人も十センチクリア。

「織斑、先に行け。俺が最後に行く」

 そしてリィンの呼びかけで千夏が降りてくる。ちょっと不安があるからセシリアとフィーと三人で少し離れる。万が一に巻き込まれたくないからねー。

「……わかったよ」

 当の千夏は、白式に加速力に若干遊ばれながらも、なんとか地表十センチ、よりちょっと上で停止。

 続けて降りてきたリィンは危なげなく規定の十センチで完全停止する。まあ、半年以上乗ってれば、これくらいはね。

「よし、五人ともよくやった。本当は経験の一番浅い織斑が失敗して墜落してくれれば悪い手本に出来たのだがな」

「はぁっ!? ちふ……お、織斑先生なに言ってんですか!」

 そうして五人、集まったところで織斑先生の爆弾発言! 確かに千夏が一番事故る確率高いよ? 原作だと僕が地面に突っ込んでここに大穴開けてたはずだし。でも、それ生徒に言っちゃいます?

 まあ、目が笑ってるし、口角も少し上がってたから冗談だってのは直ぐに分かるんだけどさ。

「あはは、それ酷いなあ。生徒が危険な目に遭うのを期待するなんてさ」

「ええ。酷い先生ですわ」

「同意。先生は酷い人だね」

 だから、セシリアとフィーと目を合わせて、敢えてこっちも乗ってみることに。

「ふっ」

 すると、こちらの意図を察してくれたのか、授業中は基本表情を崩さない織斑先生が僕達を見てドヤ顔。あー、意外とカワイイかも?

「何が危険だというのだ? ISを装備していれば怪我などするわけがないだろう」

 なんて思ってたら箒がまた意味不明なことを言い始めた。

 確かに千夏のことは好きじゃ無い。むしろ嫌いな部類だし、いろんな意味で認められない相手。それでも、ケガしてざまぁ、とか思うほどじゃない。というかケガしたら一応心配くらいはする。

「……は? それ、マジで言ってる? ていうか、人の心配をするのって、当たり前の事じゃないの?」

「そうですわ篠ノ乃さん。他人を気遣うのは当然のことですし、ISを装備していても負傷することはありましてよ?」

「装備は、飽くまでも装備でしかないよ。負傷や死亡の危険性が低くはなっても、無くなりはしない」

 そんな箒の問題発言に、流石に僕達も抗議する。箒が言ったことは、ISの事をある程度理解してたら出来ない発言なんだから。

「猫かぶりどもが言うのか」

 すると僕達三人を睨み付けてきた上で、猫被りだって。そんなモノ被ったつもりなんてないし、そもそも箒の方が……猫どころか鬼だよな。

「鬼の皮をかぶってるよりは、ねえ?」

「ええ、そうですわね」

「うん。本物の鬼より恐い。ていうか、本物の鬼は優しい、かもね」

 なお、僕とフィーに関しては冗談でもなんでもない。混血ではあるけど、正真正銘の鬼であるリィンが居るから、僕達にとって鬼という存在は非常に身近な存在だったりするし、鬼ではないけど僕も純粋な人間とは言い切れないから、鬼って形容しても間違ってない。……まあ、僕もリィンも、いろいろ複雑で、嬉しくもなんともないし、全く笑えないけどね。

「篠ノ乃箒。貴様は何度授業を妨害すれば気が済む。言っていることはその三人が正しい。シュバルツァーもその認識はきちんと出来ているし、驚いた織斑も、それに答えた緒方達も私の冗談に乗っただけだ」

「ですが、ISには絶対防御があるではないですか」

 とりあえず、今のこの短い間だけでも箒は二度も授業の邪魔をしている。普段の授業でも、授業態度がいい方ではない。

 ISに関心が無いのか、それとも何か理由があって嫌々受けているのか、表面的なことしか見ていないような気がするし。

 ……そういえば、箒って日本政府の要人保護プログラムを受けてたんだよね、確か。その関係、なのかな。

「絶対防御など万全では無い。それはある程度ISに関わる者の間では常識だ。それ故ISにはシールドエネルギーを用いたシールドバリアーと強固な物理装甲や盾などの能動的な防御装備。更に機種や用途によっては全身装甲や増加装甲まで用いた多重防御が成されている」

 まあ、だからってそれは理由にならない。授業を受けてれば分かる範囲のことしかしていないし、言ってないから。

 因みに絶対防御は最終防壁というだけで、絶対の名が付きつつも絶対じゃ無い。絶対防御を抜く攻撃手法や兵装も相当にある。その辺はちょっと勉強するだけで分かること。

 クラス代表決定戦で僕が千夏にやったことだってそれだし。致命傷にならないように威力は抑えたけど。千夏も身をもって知って、そして放課後に訓練する時にも教えて理解してくれた。でも箒はそうじゃないらしい。

「今後、私の前で自らの不勉強を曝すなよ、篠ノ乃」

 結果、織斑先生の反省を促す言葉と共に、出席簿アタックが箒に炸裂した。

 ……箒、会えなかった間にものすごい変わっちゃったんだね。元々あんまり印象良くなかったけど、もっと、良くない方に。




箒さんがモップ状態ですが、今作では当面こんな扱いです。
でもいつかは箒さんになってくれるはずです。いつかは明言しませんが。

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