インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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茶番の二幕目 兄妹対決、織斑千夏 vs 緒方ステラ・バレスタイン

 自身の緋鋼とフィーのシルフィードを調整しながらリィンとセシリアの試合を見ていた一夏は、最後に見たセシリアのあの笑顔と浮かれ方に、またか、と思い溜め息をつく。

「……はぁ。リィンのヤツ、やっぱりまた堕としてるし」

「あっははー。リィンってば凄いなぁ。あっさり代表候補を下すまでは想定通りだけど、まさか本人まで堕とすなんてねえ」

 その事にテレサは、倒すと共に本人まで陥落させられるとは思ってなかった様で、素直に驚いている。しかしそんな彼女に一夏とフィーは声を揃えて違うという。あれがリィンのいつも通りなのだ、と。

「テレサ違う。それも含めて、想定通りだから」

「問題は、周りが認めちゃってる事の方だもんね。僕やフィーもそうだしさ」

 リィンが女性と戦ったり、助けたりするたび、全員では無いがかなりの確率で相手は彼に惚れてしまうか、少なくとも小さくない好意を抱くようになる。そんなところがリィンにはあるのだ。そして彼の周りに居る女性達の殆どが、その事を受け入れ、許容してしまっている。一夏とフィーもそんな許容出来てしまった者の一人である。

「マジかー。ていっても、確かにあたしもあのイギリス代表の事を笑えないからなあ」

 二人から明かされた事実にテレサは感嘆の声を上げると共に、言われてみれば自分自身もセシリアと変わらないなと思い返して苦笑いを浮かべる。まだ僅か数日、一週間にも満たない付き合いなのに、既に彼が自分の真横に居ることを許し、居てほしいと考え、そして一夏達がその近くに居ても許せてしまっているからだ。

 そんな中、管制室からの通信が繋がり、織斑千冬を映したフロートウィンドウが展開すると共に、彼女は用件を言い始めるが、ピット内にテレサが居ることに気付き、その事を問い詰めてくる。

《Dピット。織斑の準備が出来たので再度対戦順を変更する。緒方、準備は良い……。なぜ二年のお前が居る、ランプレディ。関係者以外立ち入り禁止の筈だぞ》

 千冬からそう問われたことに、テレサは思わず返答に詰まってしまう。だが実際に山田麻耶から見学のための立ち入り許可を得ている。また一夏達が設立した総合武術部の他、アリーナでの実機訓練の先導もしているため、立ち入りの為に必要な要件は揃っているため、その事をそのまま千冬に告げる。

「は……い? あの、あたし、ステラ達と一緒に訓練してたので関係者っていうか、寧ろ訓練の引率者ですし、クラブの部員でもあります。それに、この事は全て山田先生に申請しておいたはずですよ。織斑先生はいつ行っても不在だったので」

 なお、入学初日から昨日までの間、千冬は織斑千夏の訓練に付き添っており、常に千夏と篠ノ乃箒、そして指導教員一名か二名と行動していたという。……という事を、テレサが立ち入り許可申請を出した際に、千冬が処理するべき書類や仕事を全て代行していた真耶が愚痴っていたのだ。

《……確かに受理されているな。まあいい。次は織斑対緒方の試合とする。緒方、準備は出来ているか?》

 当の千冬は、真耶がそのような要らぬ苦労を強いられていたことに気付かぬ様子で、しかし画面の表示範囲外を向いて申請受理の確認を取った後、あくまでも教師としての顔で一夏に対して準備が整っているのか確認してくる。

「出来ています」

《では緒方対シュバルツァー戦を変更し、織斑対緒方の対戦を開始する。問題は無いな》

 この時点で緋鋼もシルフィードも設定値の確認を終えた後なので、どちらが先に出ることになっても問題ない。ということで、準備完了と即答する。

「わかりました。さあ緋鋼。楽しく踊ろうね」

 何の因果か、相手が気付いていない事とは言え、因縁の兄との直接対決となった事に、一夏は若干嗜虐的な笑みを浮かべて緋鋼を纏い、カタパルトでアリーナへと飛び出していった。

 

 ピットから飛び立った一夏は指定された高度と座標で静止し、先に位置に着いていた千夏と向き合う。その際、一夏のハイパーセンサーに表示された千夏が纏う機体の固有名は《白式》。その名前に、思考の片隅で原作の僕が使ってるのと同じだね、と考える。そして一夏と千夏の視線が交わった瞬間、不満を隠そうともしない千夏が、一夏に向かって文句を付けてくる。

「……遅い。俺を待たせるなんて不遜じゃないか、緒方。最初の日、俺と千冬姉はお前に教えてくれって頼んだ。なのに拒否した。許せないんだよ!」

「ごめん、意味がわからないから、それ」

 そんな千夏が紡ぐ意味不明な文句を聞きながら、一夏はかつてトールズでの訓練中に言葉で叩きつぶしたとある貴族の息子を思い出した。そして、千夏は彼の様に改心することが出来るのだろうかと、本来する必要も無い心配を胸の内に沈め込み、一言だけ告げて精神を安定させる。だが千夏の方は何かあるのか、一夏やその周囲の者に向けて、更に不満の声を叩き付けてくる。

「俺は織斑千夏だ。なんでお前は俺に従わないんだ。お前だけじゃない。シュバルツァーやクラウゼル、オルコットもそうだ」

 意味の無い言葉を紡ぎ続ける千夏に、どこか焦りのようなものを見た一夏は少々鎌をかけてみることにした。優衣に聞いた原作の話しと、そして千夏が纏うISの形状に見える工業的に過ぎる意匠が重なって見えたからだ。恐らく彼の白式もまた、初期化及び最適化の最中で、初期状態で出てきているのだろうと。

「あの、さ。もういい? グダグダ喋ってないでもう試合始めようよ。それとも、時間稼ぎでもしたいわけ?」

「っな! て、てめえ、いい加減なこと言うんじゃねえよ!」

 すると効果は覿面。千夏は不満げだった表情を焦りのそれへと変じさせ、苛立ち紛れに怒鳴り始める。つまり一夏の想像と言ったことは当たりだったと言うことだ。

「うわ、図星かよ」

《試合開始》

 そんな風に、思った通りの反応を返した千夏に対して、図星を指摘する一夏。そして千夏の焦りの表情が怒りの表情へと変わった瞬間、試合開始のアナウンスが鳴り響く。

「黙れよ、この!」

 そのアナウンスが聞こえると共に、千夏は右手に持っていた実体刀を正眼に構え、それを振りかぶりながら一夏に向かって加速し、そして袈裟懸けに斬り付けた。

「振りが遅い、剣筋も甘い。構えが乱れてるし、振り抜いた後も流されすぎて次に繋げられてない。結論、弱い。以上」

 だがその剣筋は、一夏にとっては止まっているに等しい程の速度にしか感じられず、千夏に向けて様々なアドバイスをかけながら、避けられたまま体勢がふらつく千夏の腰部装甲を軽く蹴りつける。

「……な、何様のつもりだよ! 大体武器も持たないで、舐めてんのか!」

 押される程度の蹴りで体勢を更に大きく崩した千夏は、どうにか体勢を取り戻し、武器も持たずに自分と相対している一夏に対して不満を怒鳴りつける。

「武器、出して欲しい? だったら出させてみなよ。ぶっちゃけ、僕は無手でも君と対等以上に戦えるから必要ないんだけど」

「うぜえ……。なんだよそれ。お前、うざいんだよ!」

 しかし一夏にとって、今の千夏程度の初心者に対して、武器を持って相手をする必要など全くない。それを素直に告げれば、千夏は更に怒りを顕わにし、罵りの言葉を口にし始める。そして殆ど動いていない一夏に対して、幾度も薙ぎ払いと袈裟斬りによる攻撃を繰り返す。

「剣はその種類に関係なく、回数を多く振るえば良いってものじゃない。確実に中てられれば一撃で十分。連続で斬り付けるにしても、外す事を計算に入れてる時点で間違えてる」

 だが一夏は、それら斬撃を全て身をずらすだけで避け続け、当たらない攻撃を繰り返す意味は無いと、千夏にアドバイスを与える。入学初日に断ったISの講義である。今更だが。

「お前、人に教えるの断ったくせに、こんな時に講釈垂れてんじゃねえよ!」

「いやぁ、こんな時だから解説してあげてるんだけど、わかんないかな? 実戦に勝る訓練はないんだよ?」

 その事に千夏は激昂し、一夏が訓練要請を断ったことが悪いかのように抗議するが、一夏は実戦の中で指摘する方が効率的であると考えているため、今が講義をする絶好の機会なんだと諭す。これで、千夏の訓練を断った一夏への怒りと、一夏の訓練方針の違いから双方の見解は食い違い、堂々巡りとなる。

「講釈はいいから、さっさと武器を出せ! 堂々と勝負しろよ!」

「どーどーと、ねえ。だったらこれでいっかな」

 幾ら斬り付けても当たらず、そして避け続けながら講釈するだけで攻撃も防御もしない一夏に対して、千夏は一度攻撃をやめ、武器を出せと啖呵を切る。堂々と、と少々意味を履き違えた言葉を用いて勝負しろと叫ぶ。一夏は脳裏で正々堂々と堂々は意味が違うぞと突っ込みを入れつつ、千夏に冷めた視線を向けながらベルゼルガー改を模して造られた大型複合銃剣である《透徹(とうてつ)》を左手に量子展開し、肩に担ぐように構える。

「……お前、剣と剣の勝負に銃なんて持ち出すな!」

 こうして、要望通り武器を装備した一夏に対して、しかし銃器を持ち出してきたことを千夏は強く抗議する。だがそれは非常に的外れな抗議。なぜならば、この試合は一部を除きクラス限定の非公開とは言え、公式に組まれたIS戦だからだ。

「剣と剣って……。あのさあ。これはISの対戦だろ? いつから剣道の試合にでもなったんだ? ていうか、もし僕が遠距離型だったらどうするつもり? 近接装備がない純遠距離型にまで剣を使った近接戦を求めるっての?」

「それは……」

 一夏が見て考える。あの千夏の纏う白式が実体刀一本だけを装備している事と、優衣から聞いた原作情報を合わせて恐らく、白式には一次移行後に雪片弐型へと変化するだろうその実体刀しか武装が無いのだろう。しかし一夏の緋鋼には全距離での交戦を可能とする銃器や刀剣、爆装類等、多種多様な武装が格納されている。そして何より、これは刀剣のみの決闘などでは無い、純粋なIS戦である。例えば、緋鋼の仕様がエマのゾディアックと同じような純遠距離型だった場合、近接格闘戦用の武器を搭載していないことも多い。そうなれば、剣と剣の試合など不可能になるのだ。尤も、ゾディアックには緋鋼が持つ最も強力な近接装備の攻撃力を遥かに上回る凶悪な近接武器が搭載されているのだが……。

「兎も角、この対戦は装備に縛りのない試合だ。僕は自分の使いやすい得物を使う。ただそれだけだっつーの!」

 閑話休題。何にせよ、一夏にとっての戦いとは、自分が扱える得物ならば敵が使っていた武器を使ってでも戦うという、良く言えば柔軟な、悪く言えば常道から外れたものなのだ。今も、千夏の希望通りに透徹という少々変わった武器を取り出し、それで戦うというだけのこと。そう言いながら千夏に向けて加速し、透徹の強化ブレード部分で千夏の腰部装甲付近を薙ぎ払うように斬り付ける。

「くぁっ! ぐっ……ぅえっ! うげっ、おぇぇっ!」

 ただ斬り付けただけであるが、その衝撃で千夏はアリーナのシールドまで吹き飛び、地面へと落下。薙ぎ払われた衝撃が腹へ浸透したのか、少々吐き戻している。

「その程度で吐くなよな。粋がってるクセに弱すぎだ、君。ただ振り抜いただけの薙ぎ払い位、見切れないと試合にもならないよ?」

 だが一夏にとって、ただ薙ぎ払っただけで吐くなどひ弱にも程があると呆れるばかり。しかも先の一撃で、一夏が動いたことに千夏は反応出来ていなかったのだ。

「ちょ、調子に乗るなぁ!」

「だから遅いし、動き丸見え。次、右逆袈裟、その後左薙ぎから右薙ぎへの三連撃コンビネーション、かな?」

 ひとしきり吐き戻し、立ち上がった千夏は、激昂して叫びながら一夏に向かって飛び上がり、それなりの速度で斬りかかっていく。しかし一夏にはその挙動が全て手に取るように分かってしまう。まず動作自体が遅い。そして千夏の構えが、篠ノ乃流の()()で教えられる小手と胴への三連続と同じ挙動だったからだ。

「……」

 故に袈裟斬りと左薙ぎは避けられた上、右薙ぎに至っては透徹を持ったままで白刃取りされてしまい、千夏の思考に一瞬の空白が生まれる。

「ほいさ、しんけんしらはどりー! かーらーのー、回転キーック!」

「げぁっ! て、め……フザケてんじゃねえ! なんだよ、バカにしてんのか!」

 そしてあろう事か、千夏の剣をその両手で不安定に保持した一夏は、抜群の柔軟性と振り抜かれた千夏の剣の勢いをも乗せた身体の捻りによって、右脚による後ろ回し蹴りを千夏の頭部へクリーンヒットさせた。

 そんなふざけた攻撃も千夏には十二分のダメージを与え、白式のシールドエネルギーは大きく削り取られる。しかしその攻撃方法が気に入らない千夏は、再々一夏に向けて怒鳴りつける。

「そんなことないよ。出来たからやっただけ」

「じゃあなんでそっちの武器は使わねえんだよ。もしかして使えねえんじゃないのか」

 尤も、その攻撃は一夏がふざけて行ったものなどではなく、あの場面で最適に出来る攻撃を行っただけなのだ。しかし千夏は透徹をろくに使っていない一夏が気に入らず、使えないからふざけてるなどと、意味の無い挑発を行う。

「あー、ないない。僕、自分が使えない装備を自分の機体に積むようなアホじゃないし」

 なお、その程度の挑発は一夏にとって全く意味が無い戯れ言でしかなく、またも講義をしながら左肩に担ぐように透徹を構えた後、使い方を実戦するため、一気に千夏へ向けて加速しながら袈裟に斬り、反動を殺した後腹部に突きを入れ、そのまま実体弾をバースト射撃する。

「ちなみにこの武器は大型複合銃剣。別名ブレードライフルって言う武器で、名前の通り強化ブレードとマルチバレットライフルの複合武器。僕的に凄く馴染んだ装備だよ。で、これは、こうやって使うんだ!」

「ちぃっ! よけ……ぐぶっ! あがっ、がぁっ!」

 この攻撃には千夏もどうにか反応し、袈裟斬りを避けようとするも間に合わず左肩装甲を抉り取られ、反動を強引に止めて繰り出された突きでがら空きの腹部に強化ブレードの切っ先が刺さった後、そのすぐ真上の銃口から放たれた大口径実体弾によるに五回もの連続した衝撃を受けて吹き飛び、またもアリーナのシールドへと激突する。

「だから、剣と銃だって言ったでしょ。斬って突いての後に銃弾が飛んでくるって、予想するまでもないはずだけど」

「……卑怯じゃねえか、そんなの」

 一夏が行った三連撃は、ベルゼルガー型のブレードライフルとしては至極真っ当な使い方であり、使える機能を使っての攻撃だと指摘する。しかし剣と銃が一体化している時点で千夏にとっては卑怯な武器としか見えないらしい。

「戦いに勝つためには卑怯も何もないだろうさ。それに、君が狙ってたのとは違うだろうけど、そろそろ時間なんじゃない? 時間が欲しかったんでしょ。初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)の時間がさ」

 とは言え、試合といえど戦場において卑怯も何もあったモノではない。戦う以上、その戦いに勝つことが優先であり、その為の手段など過程でしかなく結果が全てだ。そう告げた時、白式が淡い光を放ち始める。恐らく一次移行が始まったのだろう。

「……マジ、ウゼェ。なんでも知ってる風なその話し方、気に喰わねえ」

 何度目か分からない図星を指された千夏は吐き捨てるように愚痴り、一夏の態度に悪態をつく。

「くく……はははっ! やっぱ俺は恵まれてるよ。お前なんて、姉さんの思いを継いだこの剣で切り裂いてやる。雪片弐型。千冬姉の雪片と同じ剣だ」

 しかし一次移行が終わった瞬間、千夏が笑みを浮かべて笑い始める。白式は白い騎士のような雰囲気の機体へと変貌し、傷ついた装甲も、何事も無かったかのように無傷となった。そして、右手に持った雪片弐型の切っ先を一夏に向けながら要らぬ口上を述べる。

「ふうん。それで? 君は今手に入れたばかりのその武器(オモチャ)、使い熟せるんだ。武器ってさ、訓練と修練の積み重ねの末に使い熟して、初めて意味をなすモノだよね。でも君、持ったばかりでそれが出来るって、凄いねー」

 だが、それがどうした、と一夏は思う。どんな武器であろうとも使いこなすまでには時間がかかるモノである。同種の武器でも持ち替えれば慣れるために訓練するのは当然。それが、千夏は既に使いこなせると宣言したのだ。それはもう凄いとしか言えないだろう。普通じゃないのだから。

「バカにしてるのか。俺と、千冬姉を」

「織斑先生にはそんな事思わないよ。けど、君はねえ。うん、マジテンサイ、みたいな?」

 そんな一夏の態度と言葉に、千夏は自身と姉が侮辱されたと感じる。しかし一夏に千冬を侮辱する気持ちなど無い。一緒に暮らしていた頃の思い出にいい物が少ないとは言え、千冬の事は寧ろ尊敬すらしている部分が大きい。だが千夏は違う。今は何もかもを勘違いし、他人の威を自分の物と声高に叫んでいるのだ。バカにされても仕方ない事である。

「……黙れよ、この阿婆擦れがぁっ!」

「無理無駄無意味。当たりに行かないと当たらないレベルで剣線見え見え。ついでに、その剣の使い方を根本的に間違えてる。その剣も、そのISも、君は使い熟す気があるの?」

 それでも千夏は馬鹿にされていること自体が気に入らない。罵りの言葉と共に我武者羅に雪片弐型で一夏に斬り付けるが、今度は全て紙一重で避けられ続ける。雪片弐型と対になる機能(零落白夜)すら把握せず、ただただ振り回すだけの剣など、子供のチャンバラ遊びと同じ。そんな千夏を、一夏は戦いに赴く者としての資格が無いと断ずる。彼にはIS(白式)も、その装備(雪片弐型と零落白夜)も、真剣に扱う気がないのだと分かってしまったから。

「うるせえ、黙れよ、クソが!」

 だが千夏はその正論すら気に入らないと、ただただ振り下ろすだけの唐竹に一閃する。

「ホント、未熟だね……。真、雷光……一閃」

 そのような一撃、仮に零落白夜が発動していたとしても一夏が受けるはずもなく、呆れを隠さない表情のままに本気の殺意を放ち、自身がブレードライフルで扱う大技であるクラフト、雷光一閃をその最大威力で放つ。

「っひ! ぎっ……ぎゃがあぁっ!」

 雷光一閃はその名の通り、ブレードライフルの強化ブレードによる直進しながらの強力な一閃である。千夏の斜め上から地表に向けて放たれた雷光一閃は千夏の胸部から腹部にかけて直撃し、振り抜いかれた勢いで彼は地面に叩き付けられた。

《白式、シールドエネルギーエンプティ。勝者、緒方ステラ・バレスタイン》

 そしてアナウンスとフロートディスプレイで勝敗が通知され一夏の勝利が確定したが、彼女は最後に静止した場所に浮遊したまま、地面で蹲る千夏をただ見下ろし続ける。

「い、いてぇ……。な、なんで、だよ。なんで、こんなに、イテエんだよ。絶対防御があるのに、なんでイタイんだよ」

 千夏は気絶していないが、痛みに蹲り、呻き続ける。一夏の放った雷光一閃は白式のシールドエネルギーを削りきりながらも絶対防御は発動させず、その衝撃を直に千夏自身へと浸透させた。()()()()()()()()()()()。ISに関わる者にとっての常識も、彼にはまだ埒外の事のようだ。これを一つの経験として学んでくれればいいのだが、と一夏は考える。あんなのでも自分の双子の兄なのだから、いい方向へと変わって欲しいとも思っているから。

「その子達の特性も理解しないで、ただ手に入れたオモチャを振り回す子どもには、多分わからないだろうね。本当、その子達、可哀想だよ。もっと覚悟を持って、真剣に向き合いなよ」

 尤も、それ以前にIS自体の知識、白式と雪片弐型、零落白夜の特性。これを考えることも無く、今のようにただ与えられたから使おうとするだけならば、彼に先はないだろう。それを、千夏の傍らに降り立ち、彼を睥睨したまま口頭で伝える。今言ったことは聞こえているのだろうが、果たして伝わったのか。その判断は今暫く待つべきだろうなと、頭の片隅で思考する。

「ああ、そうだ織斑千夏。僕もね、バレスタインと緒方の名に泥を塗るわけにはいかないんだ。血の繋がらない養い親だけど、育ててくれた母と、今の両親の家名に誇りを持とうとする以上、努力を怠る事は出来ない。例え勝負に負けるとしても、名を汚す不様を曝すつもりはないんだ」

 そして自分の誇りと想いを口にする。血の繋がりもない、ただ猟兵崩れに強姦されかけていた所を助けただけの一夏を七年近くもの間育ててくれた母、サラ・バレスタイン。そして、ただその家の庭に転移したと言うだけで縁を結び、実の子である優衣や優亜、蒼弥と変わらず愛し、そして今なお養ってくれている父と母、樹と涼夏を初めとした緒方の家。この二つの家の名に感謝の念だけではなく、その名に不名誉を付けてはいけないと一夏は常に自制している。しかし……。

「でも君からは、その心構えすら感じられない。無自覚で君のお姉さんの名前を汚してる事にも気付いてない。ホント、不様だね。天才、織斑千夏君」

 一夏からみた千夏からは、その気持ちが一切感じられない。実の姉すら、自身の後ろ盾のように見ているのではないかとも思ってしまうほど、織斑の名に傷を、不名誉を与えているのに気付いてない兄を、一夏は心の底から軽蔑し、そして哀れに思いながら、せめてどこかで気付いて欲しいとも願いながら待機場所であるDピットへ向けて飛び立った。

 

 試合時間十四分半。兄妹による因縁の対決は、妹による一方的な蹂躙と言える試合であった。

 

「たっだいまー!」

 そしてピットに飛び込んで来た一夏は、先程、千夏に掛けた冷めきった声とは正反対の、明るく暖かみのある声でフィーとテレサに声をかける。

「ステラ。奥義(クラフト)で決めるなんて、大盤振る舞いしすぎ」

 ピットのフロアに着地すると同時にISの展開を解き、駆け寄ったフィーを抱き留める一夏。

「別にそんな事無いよ。アレしか見せてないんだし、問題ないって」

「でもさ、ホントに君達って強いよね。実戦経験者は違うって実感するわ」

 そのままギュッと互いを抱きしめ合いながら、先程の戦技、真・雷光一閃について返すと、テレサはただただ感心した声音で、一夏達の強さの一端を見た感想を紡ぐ。

「僕達がしてきたことは、最後の方はただの殺し合いだったんだ。全然、誇れる様な事じゃないよ」

 だがそんなテレサの言葉に、しかし一夏達はあまり頷く事は出来ないと異口同音に口にする。それでも、経験があるとないとじゃ全然違うわよ、とテレサは囁き、二人を纏めて抱きしめる。その時囁かれたテレサの言葉に、千夏との対戦でささくれていた一夏の心は僅かながらも慰められた気がした。

「……うん、ありがと」

 だから、一夏は溜め息を僅かに溢すと共にテレサに微笑みかければ、テレサも顔を綻ばせて一夏の頭をやや乱暴に撫でる。

 そんな、戦いの後とは思えない穏やかな空気が流れるDピットに、空気を読まない千冬からの通信が入る。

《……。次の対戦、クラウゼル対シュバルツァーだ。クラウゼル、行けるな》

 フロートウィンドウの中には、抱き合う三人を呆れた目で見つめる千冬が居たが、当の三人は気にせず、一際強く抱き合った後に離れ、そしてカタパルト近くまで歩いて行ったフィーがシルフィードを展開し、カタパルトに乗る。

「もちろん行ける。シルフィ、行くよ!」

 一夏がフィーに向けて右拳を突き出せば、彼女は静かに頷き、アリーナへと飛び立っていった。

「がんばれ、フィー!」

「……ん」

 

 尚、この時のフィー対リィンの試合は、オープンスペースなのにトラップ満載のゲリラ戦を展開したフィーが、僅か十五という残りSE量の差での判定勝利となった。

 ここまでで全試合が終了するまであと七試合。そして翌日の夕方にその全試合が終了した時、全勝者は居ないものの、全敗した者が居たことだけをここに記しておこう。誰がとは、その者の名誉のために名を伏せることにするが。




漸く書けた兄妹対決。
この時点では当然、IS戦でも生身でも、圧倒的な経験の差で(千夏)(一夏)に勝てる要素なんて何処にも有りはしません。
この後千夏が、某貴族の子息君の様に更生するのか。それはまだまだ先の話です。
ぶっちゃけ彼はある意味正反対になった感じで、ゲームやってて少し笑っちゃいましたが。

しかしアリーナでトラップ使ったゲリラ戦って、どうやったら出来るんだろう、とか書きながら自己ツッコミしてました。まあ、フィーだから仕方ない。
縦横無尽にトラップ張って跳び回るフィーと、そのトラップを破りながら攻撃するリィン。だけど回避カウンター貰ってダメージが蓄積するリィンに、リィンの攻撃を回避しきれなくてやっぱりダメージ蓄積してくフィー。書いてみたいような気もするけど、ちゃんと描写出来る自信がないし冗長になるので、次はアリーナでの訓練シーンに飛びます。試合結果は書いてある通りなので。基本、全員一試合は負けています。

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