インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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アリーナでのIS訓練

 放課後に部活として訓練するようになって3日目。2日目にテレサが今まで入っていた部活を辞めてまで入ってきたのはビックリしたけど、それとは別の問題が急浮上。なぜかISの実機訓練が全く出来ない状態になってしまったのだ。土日も全く空いてないとか、それってどうなんだろうか。

 まずアリーナが上級生優先といわれて予約が取れず、同じく本音と静寐が一緒に訓練したいというのに、訓練機の貸し出し申請を何度しても全く通らない。申請をお願いした真耶せんせーも困り顔で、空きが無いわけでもないのになぜか許可が下りないとぼやいていた。

 そこで早速知己であり且つ、上級生であるテレサの力を借りることにした。すると不思議、一発で両方申請が通ったのだ。

「チャオ、みんな。とりあえず訓練機は打鉄とラファール・リヴァイブを一機ずつ借りて、ここの利用許可、二時間だけもらったよ」

 そして割り当てられた第三アリーナの一角で、打鉄とリヴァイブが乗ったISカートを背にしたテレサが、お気楽な挨拶で僕達を出迎えてくれる。

「ありがとう、テレサ。私達だと、なんでか申請しても通らなかったらどうしようかと思って。ホント、相談してよかった!」

「ホントにそうだね。ありがとう、テレサ!」

 一年だから申請が通らなかったのか、単純に慣例としてこの時期は一年には許可を出さないないのか。どっちかはわからないけど、前者の可能性が高そう。真耶せんせーが困り顔してたくらいだから。

 何はともあれ、訓練機を借りてアリーナの利用申請も通してくれたテレサにお礼を伝える。ホント、テレサが居てくれなかったら本音と静寐の訓練はともかく、僕達の訓練が全く出来なかったから。

「ノンノン。気にしない気にしない。手伝うって言ったのあたしだし、流石に実機を使わないでのIS訓練なんて無理だもの」

「そうですね。何となくは伝わるけど、実際動かした時とイメージずれる事ありますから。でも、よく二機も借りられましたね」

 でもテレサは何でもないように手を振って、なぜか僕の頭を撫でながら実機訓練の大切さを語り始める。

 それなりの搭乗時間を費やしてきたけど、IS操縦でのイメージの精度は、テクニックの訓練と同じくらいに重要。そしてイメージは実機操縦じゃないと確りとは掴めない。でもテレサ、専用機持ちなのにどうやって二機も訓練機を借りてこられたんだ? 申請の仕方の問題、なのかな?

「コネは使えるときに使う物。生徒会だって知り合いなら使いようってさ」

 という疑問にははっきりとコネと言われたっす。あー、生徒会関連って、確か生徒会長は二年生で、専用機持ちのテレサが、同じく二年で専用機持ち且つロシア国家代表でもある更識楯無と知り合いじゃない、とは思えないから。

 そして、テレサは僕の右腕の側とリィンの背中に視線を向けてから、訓練機を使う二人を確認する。

「……で、そのリィンの背中にくっついてる子と、ステラに抱き付いてる子が?」

「あわわ。すみません。一年の鷹月静寐といいます! その、よろしくお願いします!」

「わたし、は布仏本音と、いいます。えっと、りー、リィ……」

 それに対して静寐は慌てて僕の右腕を離してお辞儀をしながら自己紹介。本音もリィンの背中から降りて横に立つと自己紹介するけど……おい、舌足らずな口調は演技じゃなくてマジなのかこの子。まさかリィンの発音に躓くとは思わなかったわ。

「あー、普段通りでいいよ? あたしはテレーザ・ランプレディ。二年整備科に所属する企業専属で、今回はちょっとワケアリで……て、本音。あんた知ってて来てるよね。虚に聞いてるんじゃないの?」

 とは言え、やっぱり生徒会とそれなりの繋がりがあるらしいテレサは、本音に普段通りでいいと断言する。生徒会には本音のお姉さんが居るのか……。てか、今の口ぶりだと本音も生徒会に入ってるっぽいんですけど、仕事は? ここで訓練なんてしてていいの?

「おねーちゃんには聞いたけど、りーん達の訓練に来たのはわたしが来たかったからだよ」

「なるほど」

 という僕の疑問も、本人達には特に問題ないみたいで、まあ、本人達が納得済みならいいか。

 本音がISの操縦訓練を受けたいって言うのは本気だってのはわかってた事だし。

「とりあえず静寐と本音は交代で打鉄とリヴァイブを着けて、感覚の違いを見てみた方が良いかも」

「はーい」

「わかりました」

 ひとまずは静寐が打鉄を、本音がリヴァイブを身につけて立ち上がる。うん、二人とも随分と早く立ち上がれる方じゃないかな。

 てことで、二人がISを装着し終わったのを確認してから僕達は自分の愛機達を展開していく。

「それじゃ、おいで、黒鋼」

「踊るよ、緋鋼」

「Su ballare. Stagioni, primavera」

 まずは黒い装甲色で要所要所が防具的な構造になってる優衣の黒鋼。分類的には汎用的な近中距離メインの機動戦型IS。

 そして緋色の装甲に、左腕に巨大な特殊変形武装を装備してる僕の緋鋼。分類は、実は全距離対応型という名の器用貧乏機だったりする。元々の僕の戦い方になる、多種多様な武器を使って戦う器用貧乏な部分がそのままISにも反映されました。

 そして僕と同じ踊ろうという意味のイタリア語のかけ声と共に展開された白い装甲色に青いラインが入った、高い機動性を感じさせるISを纏うのはテレサ。固有機体名をテンペスタ・スタジオーニというテンペスタⅡのフルカスタム機は、プリマヴェーラ、春というの名を持つ装備を纏って現れた。……フィアットの第三世代システムである瞬時換装システム、スタジオーニの名を機体名に冠して、今の装備が春って事は、残りの四季の(エスターテ)(アウトゥンノ)(インヴェルノ)と三種の装備もあるんだろうなぁ。どんな装備なのか、装備の詳細は殆ど公開されてないし、公開されてるテレサの戦闘映像も殆どがこのプリマヴェーラでのだったから、ちょっと楽しみだったりする。

「来い、ヴァール!」

「行くよ、シルフィード!」

「参りましょう、ゾディアック」

 ま、そのことはテレサに聞いても詳しく教えて貰えないだろうけど、これから模擬戦する中でわかるようになるだろうね。で、続けてリィン達三人もISを展開する。

 まずリィンのヴァール。北欧神話に出てくる誓いの女神の名を冠した騎士甲冑を思わせる見た目の、装甲部分が多い機体はリィンが最初に起動した月岡製の試験機、疾風をリィンの戦い方である近接格闘戦に合わせて改装と調整したもの。凍牙の補助システム《ブラスターシステム》も搭載しているけど、現状ではヴァールは凍牙を搭載してないので実質的には二.五世代機。但し男性操縦者試験機としての検査機材を多分に搭載してるため、ここにある月岡製IS五機の中では最も特異な機体かもしれない。

 次にフィーのシルフィード。優衣の黒鋼を筆頭にする黒鋼シリーズの四号機で、大本のフィーの戦い方に合わせた近中距離機動格闘戦型ISになってる。メイン装備はもちろん双銃剣を模したIS用双銃剣に爆装系とトラップ系武装のオンパレード。1人ゲリラ戦オッケーの機体だ……て、僕の緋鋼も同じ様な装備構成だったわ。

 最後にエマのゾディアック。黒鋼シリーズ三号機にして、後衛主体だったエマの戦い方を参考にした結果、超重防御な遠距離攻撃型のISとして建造されている。機体装甲自体も厚いけど、搭載装備が大型複合可変防盾1枚と浮遊可変盾6枚に超射程荷電粒子砲2門という、防御を固めて砲撃する固定砲台的な、意味不明な防御特化型ISに仕上がってる。

 因みに、極端にスマートなシルフィードと真逆に重装甲なゾディアック、その間に騎士の如きヴァールが並ぶと、割と絵になる。まるで中世の戦争に赴く戦士と騎士の様に見えるからだ。

 こうして僕達六人の専用機の展開が終わると、静寐が感嘆の声を上げる。

「それがみんなの専用機」

 キラキラと興味津々の目で僕達を見る静寐に、それぞれの機体を軽く紹介する。

「この子は黒鋼。月岡重工製第三世代IS、黒翼のカスタム機だよ」

「同じく黒翼のカスタム機で緋鋼。優衣の黒鋼のバージョン違いって所かな。フィーのシルフィードとエマのゾディアックも黒鋼のバージョン違い機だよ」

「俺のはヴァール。俺が最初に起動したリヴァイブ系の試験機を、黒鋼に近い仕様でカスタム化した特別仕様機だな」

 月岡の専用機型ISには黒翼の専用機仕様の黒鋼シリーズと、男性操縦者試験機のヴァールシリーズの二種類がある。緋鋼とゾディアック、シルフィードは黒鋼の二から四号機。ヴァールシリーズには、ヴァールの他に黒翼をベースに開発された黒翼改弐型と呼ばれる男性操縦者試験機が二機存在している。まだ動かせた人は居ないけど。

「あたしのは開発中のフィアット第三世代機、テンペスタⅡのパーソナルカスタム機、テンペスタ・スタジオーニよ。まあ、機体性能はともかく、外装デザイン的には原型留めてないんだけどね」

 そしてテレサも愛機であるテンペスタ・スタジオーニの説明をするけど、確かに公開されてるテンペスタⅡの面影全然無いよな、この機体。むしろ装甲を減らした高機動戦仕様のリヴァイブですって言われた方が納得出来るかも。

 それにしてもこう、なんだ、静寐と本音の目の色が、キラキラしててまぶしいわ。

「綺麗……」

「うんうん、みんなキレイでカッコイイよー」

 呟かれた二人の言葉にこう、微妙に恥ずかしくなる、なんてーの、僕達が纏ってるISは兵器だし、僕自身も綺麗とか可愛いって言われるの、少し恥ずかしいからなぁ。

「グラッツェ、静寐、本音」

「あ、ありがと」

「あぅ、うん」

 で、二人の褒め言葉にテレサは素直に礼を言って、その場で360度ターンしてから、戯けたように執事の様な右手を身体の前に回す礼をとる。

 けど僕と優衣はといえば、そんなテレサの後ろに隠れて小さくお礼の言葉を言うので一杯一杯だった。

「にひひ、ゆいにゃんとすーちゃんが照れててかわいー」

「うん。フィーちゃん達も、格好良くて可愛くて。羨ましいな」

 その姿を見られて本音にからかわれ、静寐は僕達だけじゃなくて全員にもう一度声をかけて、羨望の眼差しを送った。

「もう! とりあえず二人とも、装着出来たんならまずは歩く! 今週は、今日のこれから二時間しかチャンスが無いんだからさっさと動けー!」

 このままだと恥ずかしさから逃げられないから、思わず逆ギレみたいに訓練するよと怒鳴ってしまう。あうぅ、どっちにしても恥ずかしいなぁ、もう……。

「照れ隠し乙、って感じね」

「ステラも優衣も、こういう褒め言葉に耐性無いからな」

 最後に、とどめはテレサとリィンに刺されました。もう、八つ当たりしてもいいよね。いいよね。大事なことだから二回言ったからね!

 

 とまあ、バタバタな感じで始まったたった二時間の訓練で、本音と静寐はテレサと優衣の指導でサークルロンド擬きを出来るように。残る僕達はゾディアックの防御力を最大限に活用した近接戦訓練と対遠距離射撃防御訓練をした。結果はまあ、たった二時間にしては上々って感じだったかな。




漸くIS学園で初めてISが出てきました。
なお、アリーナや訓練機を借りられなかったのは、織斑千冬を信奉するIS主義者の陰謀です。彼女達は織斑千夏を何よりも優先したいが為、一夏達一年の専用機持ちや他の代表候補生へのアリーナ及び訓練機の利用許可申請を妨害していました。
同時期セシリアは、真耶せんせーによる代表候補生としての心構えを補講を受けた後に、一学年上で直接の先輩でもあるサラ・ウェルキンを頼って少しずつ訓練を重ねていました。意外と努力家なんです、彼女。
そして千夏がどのような訓練をしていたのかは作者にも分かりませんが、まあほら、テンサイですからね、彼(^^

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