インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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戦闘訓練

 テレサと出会ったその日の放課後。授業は滞りなく、リィンとフィーが他の留学生同様に国語系授業で多少躓く程度のトラブルで終了。

 昨日と同じく、真耶せんせーに教えて貰った広場でいつもの五人で訓練をしてた時、ふと二人分の気配が近付いてくるのを感じ取った。

 調度僕の真後ろだったから振り向けば、そこにはブンブンとダボダボの裾を振り回して僕の名前を呼ぶ本音と、その隣で苦笑いしてる静寐がこちらに歩いてきていた。

「あー、すーちゃん達はっけーん! とう!」

「うおぁっ!? 本音危ない! これ刃物だから! 冗談抜きで切れるヤツだから!」

 で、突然走り出して、こっちが武器を持ってるのにもお構いなしに飛びついてきた本音にはさすがに怒鳴ってしまう。刃物持ってる人に突然抱きついて、身体のどこかが切れても知らねーからな!

「にゃはは、ごめんごめん。りーんにふぃーちゃん、ゆいにゃんにえまえまも、おっすー!」

 ともかく本音は直ぐに退いてくれて、集まってきた四人にも挨拶する、て、軽いなぁ、その挨拶の仕方。本音らしくていいけど。

 された側はやや微妙な反応をするも、嫌という感じじゃなく、単に慣れないって感じっぽいだけだし。

 けど、ゆいにゃんとえまえまって……なんか新鮮でいいな、それ。僕もたまにそれで呼んでみようかな。

「ゆいにゃんって、始めて呼ばれたかも、そんなあだ名」

「お、俺もだ。なんかこう、慣れない呼ばれ方だ」

「えまえまって……。いえ、いいんですけど」

 とりあえずの挨拶も終わって、二人に何しに来たのか聞いてみる。昨日は一緒に居た清香も居ないし、こんな先生に聞いてやっと知った様な辺鄙なところに来るなんて、なんかあったのかな。

「で、本音も静寐もどうしたの? 清香も居ないみたいだし」

 すると本音から意外……という程でも無いけど現代の日本では意外に聞こえる返答が帰ってきた。

 多分、優衣とリィンの斬り合いの音かな。僕とフィーにエマの場合、剣がぶつかる音よりも、金属が弾き合う鈍い音になるから。

「あのね、剣で斬り合う音がしたから、気になって来てみたのー」

「清香は部活の方に行ってるよ。それで、ごめんね。邪魔、しちゃったかな?」

 清香は部活中。で、別に見学って意味なら本音と静寐が居ても全く問題ない。ていうか、確か部活参加必須だったよねこの学校。真耶せんせーに言われた通り、この訓練も部活にしちゃった方がいいのかな? 一応、部活設立条件の最低人数五人は僕達だけでもクリア出来るし、ついでに、うまくいけば本音と静寐にも入って貰えるかもだし。後は顧問の先生次第だよなぁ。真耶せんせー、顧問になってくれないかなぁ。

「いんや。大丈夫だよ、静寐」

 そう伝えれば、静寐が指さしながら僕に聞いてきたのは、僕が左手に持ってるブレードライフル、ベルゼルガー改。なお、ゼムリア大陸の猟兵御用達武器筆頭格なこのブレードライフルみたいな変則武器は、地球ではIS用を含めてほぼ存在しない。僕達の手持ちと月岡重工製IS武装以外には、ね。

「よかった。ちょっと見てたけど、凄いね、その武器。剣と、機関銃が一つになってるのかな? 見た事無いけど、使えるの?」

「使えるよ。僕の得意な武器の一つだからね」

「一つってことは、他にもあるんだ」

 静寐がまじまじと見つめるベルゼルガー改を軽く振り回して右腰に吊した後、左腰と後ろ腰を見せる

「あとはこの子達。メインはこの二つだね」

 そのまま指さしながら、左腰の特注ホルダーに挿してある大型導力銃剣ディオーネと強化ブレードテティス。そして腰の専用フックに吊してる強化戦輪のティエラリンクを見せてから、ディオーネとテティスを手に取り、ディオーネを静寐に渡してみる。

「大きな拳銃に大きな剣……て、重ぉっ!? この銃、重すぎてわたしじゃ両手でも無理っぽいなぁ。あと、その輪っか型のって、なに?」

「それって、戦輪だよね。こんなに大きな戦輪、初めて見たかもー。普通、指先でくるくるーって回す位の大きさなのに」

 ディオーネの物理的なサイズは、地球にあるPDWの平均より少し大きい位。でも実体刀に実弾機関と導力機関と三種も積んでる上に、本体で殴り合いが出来るくらいに頑丈なこの子の重量は見た目以上、地球にある対物ライフル系の重機関銃並みの重さがある。ティエラリンクに関しても、普通に投げて使う以外に、円形ブレードとして斬り合いにも使えるサイズと形状になってるから、いわゆる地球の戦輪とは少し違うものだからね。

 というか、さすがに両手で持ってもディオーネを支えきれなくてふらふらしてる静寐には、危ないからと直ぐに返してもらう。そして戦輪を普通に知ってる本音は多分、それなりに武術を修めてるんだろう。暗器の類いに近い戦輪を知ってることから恐らく、忍び的な感じなんだろうけど。実はあのダボ袖には暗器でも詰まってるんだろうか? ちょっと聞いてみたいかも。

「かもね。でも、なんていうか、ちょっと前まで僕が居た環境が割と特殊だったからね。で、静寐。無理すると危ないから、ほら」

「うん、ごめんね。ていうかステラって、細いのに力持ちなんだね」

 なんにせよ、地球では珍しいティエラリンクは、実のところゼムリアでも珍しい感じだった。けど、とにかく生き残るための装備として訓練して、慣れて、そして殺し合った僕の大切な相棒の一つだ。

 それに静寐の言う僕の力についてだって、僕が普通の人間と違うからとしか言えない。魔眼だなんてファンタジーノベル的なモノを左目に持ってるが故の珍しい生き物だからこそ持ち合わせてるモノだし。寧ろ人外と言ってもいい。まあ、某劫炎や某領主、某劇場女優に束姉に千冬姉やらと、並み居るバグキャラ達程までは行かないけどさ。

「ちょっと、ね」

 だから少しだけ済まなそうにはぐらかそうとしたら、逆に静寐の方に沈んだ顔をさせてしてしまった。

「あ……。ごめんね、詮索するみたいに言っちゃって」

 ともかくこのチカラは僕の特異能力ってだけなんだから、静寐に気にさせちゃダメなんだ。そもそも詮索されたと思ってないし。だからことさら明るく大丈夫と声をかければ、静寐も笑ってくれた。IS学園に来て初めて出来た友達だから、笑顔で居てくれるだけで嬉しい。

「気にしなくていいよ、静寐。僕達友達じゃん?」

「えへへ。ありがと」

 そして話題は僕から外れてリィンと優衣の方へ。刀。リィンの緋皇は、実際には構造的に日本刀に似た曲剣だけど。

「それでリィンさんと優衣さんは刀なんだね」

「ああ。流派は全く違うけどな。さっき本音が言ってた斬り合う音ってのも多分、俺と優衣の斬り合いの音だろうな」

 リィンは八葉一刀流。優衣は籐韻流(とういんりゅう)っていう、涼夏お母さんの実家が本家になってる古流の流派。因みに僕も束姉に篠ノ乃流を習うと同時に、涼夏お母さんと蒼弥兄に籐韻流を教えて貰ってる。

「そうなんだ。それでフィーちゃんとエマさんは?」

 そしてフィーとエマは元々の双銃剣と魔導杖を見せる。因みにフィーは例の如くこちらでも多少の爆薬類と暗器類を。エマも篠ノ乃流を習って暗器として鋼糸と苦無を袖に仕込んでたりする。いや、エマってば最初に会った頃に比べて近接戦闘に慣れた、というか前衛戦闘力上がりまくりだよね。

「わたしのはコレ。二丁一対の双銃剣。拳銃とナイフの複合武器で、ステラの武器の小型版みたいの、かな」

「私はこれですね。普段は杖術として使ってます」

 因みにエマが習ってるのは篠ノ乃流の薙刀術と籐韻流の棒術に、双方の徒手系武術全般で、たった半年ちょっとで自分なりのモノにしてたりする。天然秀才な才女ってマジ怖いわー。吸収力高すぎて笑えない。

「みんな意外と武闘派って事なんだね」

「ていうかていうか、見ただけで手練れだってわかるもん」

 そんな僕らを見ての静寐の意外そうな感想に、本音は逆に見ただけでそれなりに力量を見られた感じがする。本音はマジで侮れないかもね、これは。さすがは更識家の側付きの家系って事だろうか。入学前に更識家の娘が居るって調べてなかったら、あののほほんをした態度に完全に騙されてたかもなぁ。

「今度一緒に訓練してみるか? ついでで良ければ、基礎から教えられるぞ」

「はい! お願いします!」

 ともかく、今日はもうこれ以上の訓練を終わりにして、静寐に基礎練習の仕方を教えながらみんなで柔軟したり走ったり跳んだりと、割と平和な感じで訓練時間は終了した。

 

 翌日に真耶せんせーに聞いたところ、部活の顧問はしてないということなので、早速顧問のお願いと部活設立の申請をすることにした。まずは僕達五人に静寐を加えた六人で、総合武術部という名前で使われてない第三練武場を部室として使う許可が下りた。

 なお、活動を続ける内に掛け持ちも含めて一組からは十人以上、二、三、四組からも数名ずつに、更にテレサまでが入部することになって、最終的にはかなりの人数の部活になってしまった。

 まあ、みんなちゃんとやる気を出して本気で取り組んでくれるから、教える僕達も結構楽しんでやっていくことになる。

 

 因みにこの部活を初めて暫くして、僕と優衣がそれぞれ篠ノ乃流と籐韻流の師範代に昇格しました。束姉に柳韻さん、それに涼夏お母さんからは特例とか言われたけど、人に教えるのに師範代の位がないと体裁が取れないからと言われた。てわけで、より一層修行に励まないとだね、と優衣と二人して今まで以上にがんばることになりました。まる。




ここまで来てあまりIS自体が登場していませんが、次回、ISを本格的に出す予定です。
今回の話しは、個人的な考えの下、ISを本気で扱うには生身で十二分に戦闘を行える身体と技術を養わなければいけないのではないかという理屈から書かれています。
一夏やリィン達エレボニア組はあの内戦をくぐり抜け、また一夏は篠ノ乃流を、優衣は実家の流派籐韻流を修めていますが、そうじゃなくとも、身体を動かす技術がISの操縦には必要なんじゃないかと考えています。
この辺りの考えは独自設定ではありますが、実際、原作作中でもシャルとラウラの二人が、某メイド喫茶を襲撃した強盗達をあっさり鎮圧する程の生身での戦闘能力を持っていますから、的外れでもないのかな、と思います。

原作ではサブキャラ未満的な静寐も、後々活躍する予定です。ほぼオリキャラ化してしまう感じなので、好みが人によって分かれてしまうでしょうが……(・・;)
そして本音ですが、十巻でのあまりのヒロイン力にやられました。暴力振るわないし、超癒やし系だし、なんだか他のヒロインズよりもずっとヒロインしてた気がする。……まあ、それ以前に本音は好きなキャラだったので贔屓入ってますが(^^

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