インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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朝の出会い

 2日目の朝を迎えて、食材の用意がまだ無いのでいつものメンバーで朝食を食堂で摂っていると、淡い栗色の髪をサイドテールで左肩に流してる長身の女性が近付いてきて、リィンに声をかけた。

「おはよう。突然で悪いんだけど、君が噂のシュバルツァー君、だよね?」

「え、あ、はい。そうですけど。あなたは?」

 突然の他人からの声かけに僅かに反応が遅れたリィンが、相手に名前を問いかける。

「あー、ごめんね。あたしは二年のテレーザ・ランプレディ。テンペスタⅡを開発してるフィアットの専属操縦者よ。テンペスタは、知ってるよね?」

「ええ、まあ……」

 それに対して女性は二年生であることと名前を言い、所属まで明かした。一度は大事故で開発が頓挫しかけたテンペスタⅡの開発元、フィアットアルマートの専属だという。

 曖昧に頷きながら記憶を掘り返す。確かテンペスタⅡは現状、不具合も大凡解消されて開発が継続し、イグニッション・プランでの審査も、ドイツのシュバルツェア型にやや遅れ気味ながらも順調だと聞いている。でも、そんなフィアット所属の彼女がここに来る意味がわからない。リィンに対してハニートラップでも仕掛けに来たのかと、全員で警戒心全開の目で彼女、テレーザを見る。

「あ、わ、ちょ、ちょっと待って! みんなしてそんなに警戒しないで。疑われるのも仕方ないけど、勘違いされる前に言っておくね。あたしは別に君達に取り入ろうとか、彼にハニトラ仕掛けようとかって積もりはないから。その意味では、国からも会社からも、何も言われてないし」

 すると随分慌てながらも、彼女はフェアな状況で、お互いの情報や技術が交換できれば問題ないでしょ? なんてしれっと曰った。まあ、彼女の言うとおり、確かにそれは問題ない。問題は無いが、だからこそ疑問に思う。ホントになんなんだ、と。

 そして聞かれたのは代表選出戦のこと。もう全学年に行き渡ってるんだろうな、と、相変わらずの女子の情報伝達の速さに呆れてると、リィンは面識のなさと、僕と優衣が教えてることを引き合いに出して断ろうとした

「君、週明けにクラス代表を決めるためにイギリスの代表候補生や織斑先生の弟君。それに君達同士でも戦うんでしょ? で、あたし個人として君の事が凄く気になったから、よかったら手伝いたいなって思って来たのよ」

「そうですか? でも、俺はあなたとは面識がないし、もうステラと優衣にも見て貰ってるし」

 すると彼女は、まるで友達からよろしく、といった感じで気さくに話を続ける。そして問いかけられたのは僕と優衣のこと。僕達を見渡すその目を見る限り、興味はあれど、本当に裏が無い様に感じる。

「だったら、面識は、今から知り合っていくって事でどう? さっきも言ったとおり、あたし自身が手伝いたいって思ってるから。それで、すてらとゆいって子は、えっと……どの子?」

「こっちが優衣で、反対側がステラですよ」

 そしてリィンの両隣に座ってた僕と優衣の肩に手を置いて彼女に紹介してくれる。

「緒方優衣です。優衣と呼んでください。リィンの事は、同僚として教える事になってますから」

「緒方ステラ・バレスタインです。ステラでいいですよ」

 そこで僕達はそれぞれフロートディスプレイに自分達の生徒情報を表示して挨拶をする。

 しかし悲しいかな、僕達は新入生ということで、教えることについては若干信頼されていない。まあ、普通ならご尤もって感じだけどね。

「ふうん。でもさあ、君達も一年生でしょ? 教えられるの?」

 でも僕達は違う。エマとフィーはともかく、優衣は黒翼の前身になる蒼風(あおかぜ)と疾風の開発初期からで四年以上。僕も地球に帰還した翌週からで二年以上のIS操縦経験がある。

「僕も先輩と同じ企業専属で、月岡重工所属。それぞれ専用機を保有して、僕の搭乗歴は二年程、優衣の方は四年以上になります。でも、本格的なISでの訓練をする時には、僕達以外の操縦者もいた方がいいかも知れませんね」

「たしかに。私達やフィーとエマじゃ、対応距離や戦術は違うけど、もう根本的なクセを掴んじゃってるからね。手札はまだあるけど、そういう意味では先輩の協力は渡りに船、なのかな」

「私達もそう思います。リィンさんやステラちゃん達がいいなら、それでいいかと」

 しかし全員の戦闘パターンはここ半年でほぼ出尽くして、他にもいるテスパイ達を含めてもクセを掴みきった感じがある。個々人が持ってる裏技以外は。ということで訓練の時には協力してもらうことにする。僕達の機体データは全員分が公開されているし、データ収集なんかは、どんなにがんばっても公式戦でかなり取られてしまうから。

「うんうん。話しわかってるじゃん。あたしもそれでいいよ。君達がテスパイなら、シュバルツァー君を教えるのに知識も経験も問題ないだろうし。ていうか、所属が同じなんだよね、君達」

 このテーブルに居る全員が同じ月岡所属。そしてテレーザさんも企業所属。訓練時に新しい風を入れるにはちょうどいいのは確か。

「そうですよ。それではその、訓練する時はよろしくお願いします」

「いいよ、お姉さんに任せなさい、て事で、連絡先交換しよっか」

「あ、はい。えっと」

 そうしてマルチモバイルで各自の連絡先を登録してると、テレーザさんが愛称で呼ぶようにと言ってくる。

「テレサとかテッサって呼ばれてるよ」

 テレサにテッサ。どちらもなじみは薄いけど、どちらかと言えばテレサかな。テッサはこう、相手がいいと言ってくれてても馴れ馴れしすぎる感じがするから。

「では、テレサ先輩で」

「ノンノンノン。テレサでいいよ。先輩とか付けられても嬉しくないんだ。年上とか思わなくていいしさ」

 すると先輩扱いが嫌なのか、呼び捨てを要求される。まあ、呼び捨て自体は気にならないからテレサと呼ばせてもらう。

「じゃ、テレサ。よろしくね」

「こちらもよろしく、テレサ」

「ピアチェーレ、優衣、ステラ。それで、君達は?」

 ピアチェーレは確か、よろしくって意味だったっけ? ともかくIS学園に来て初めての上級生の友達が出来ることになった。

 で、まだ紹介してなかったエマとフィーが自己紹介すれば、テレサもそれに応える。

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ」

「エマ・ミルスティンと申します。エマと、お呼び下さい」

「シィ、カピーレ、フィー、エマ。ピアチェーレ。それでシュバルツァー君……て、そういえばあたしより年上なんだっけ?」

 そして今更ながら、実は学園で一番年上になるリィンとエマ。何も言わないだけで地味にテレサより年上、十七歳のフィー。ついでに僕も、こっちに戻ってきた時、戸籍を日本で生まれた年を基準に再登録したから十五歳なんだけど、実年齢はテレサと同じ十六歳なのだ。七歳から十四歳までゼムリアで過ごしていたからね。

「ええ。俺とエマは十九になりますから。でも、俺もエマもそういうの気にするの嫌だから、俺の事は気軽にリィンでいいぞ、テレサ」

 とはいえ、ここに居る全員、年齢の差を気にするタイプでは無いから気が楽でいい。

「さすが、こんなに女の子達に囲まれてると、そういうの強くなるのかな。それじゃ訓練するって連絡待ってるから、決まったら教えてね。チャオ!」

 そんなリィンに微笑みながら、テレサは彼が女の子に囲まれ慣れてることを揶揄する様に言いながら、訓練の日が決まったら教えてね、と手を振りながら食堂を出て行った。

「パワフルな人だね、テレサって」

「ああ。でも、俺はあの人、嫌いじゃないな」

「同じく。僕も好きだよ、ああいう人」

 明るい人という印象が強いけど、芯が確りしてる感じも見える強い女性。それがテレーザ・ランプレディなんだろう。

「ていうか、あの人、サラにそっくりかも」

「確かにそうですね。声は織斑教諭とサラ教官がそっくりです。けど、性格の方はテレサさんの方が教官に似てる気がします」

 フィーが言ったサラ姉に似ているってのは確かかもしれない。基本的に影を見せず、明るく振る舞う。そんなところはサラ姉そっくりだと僕も思う。

 因みに千冬姉とサラ姉。声の質が少し違うだけで、声音はほぼ一緒なんだよね。IS学園の実技試験で久しぶりに千冬姉の声を聞いた時、ふと二年以上会ってないサラ姉のことを思い出しちゃった位だし。エマの言うように、性格は全然違ってるけどね。うーん。本当、千冬姉の考えてることをもう少し詳しく知りたいな……。

「そうだな。それよりそろそろ時間だし、早く教室に行こう」

「そうだね。ごちそうさまでした」

 こうして朝一に起きたテレサとの出会いが、テレサがIS学園を卒業する二年後、そしてその後も長く続き、IS学園や国内外の様々な場所で起きるトラブルや戦いに一緒に立ち向かっていくことになる長い長い付き合いになるなんてのは、今の僕達にはまだわかっていないことだった。




テレーザは声ネタと性格ネタの一環として思いついてしまったキャラですが、プロットと設定上で超強化しすぎてしまった感がある亡国機業に対しての、こちら側の戦力強化キャラの一人です。なお、テレーザの性格はやや真面目なサラといった感じで設定してます。声ネタ面は当然、豊口めぐみさん演じる千冬とサラですが、実は千夏は内山昂輝さんでは無く、内山さんとはガンダム繋がりな神谷浩史さんで設定してます。ついでに言うと、千夏まで内山さんで設定すると、似た声が教室に二人も居るとか何それ怖いって感じだったので。


テレーザ・ランプレディ
イタリアのIS開発企業フィアットアルマート社専属テストパイロット
イタリア第三世代機の主任設計士であるエリオ・ランプレディの娘で、その縁と高いIS適性から専属のテストパイロットをしている。
テンペスタⅡの完全カスタム機を専用機として保有し、その専用機はテンペスタⅡの中でも特に特殊な仕様で構成されている。
登場する女性キャラクター中、最も長身且つグラマラスだったりするが、それが本編で描写されるかは作者次第。書くのか、それとも書かれないのか。

……て感じで、人物紹介って必要ですかね?

なお、フィアットアルマートと実在のFIAT社及びその関連会社とは全く関係ありません。作者設定として、フィアットがIS開発部門を創設したらという妄想から名付けた架空企業です。他の企業も似たような感じで設定しています。
ついでにランプレディの由来も、わかる人には直ぐにわかると思います。

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