インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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一夏と真耶せんせーとラッキースケベなバカ

 午後の授業は午前と正反対に何事も無く過ぎていき、あっと言う間に終了。

 放課後になったので早速鍛錬をと思って山田先生に聞いてみる。学園のことはまだ殆ど把握できてないんだし。

「てわけで山田せんせー! ちょっと質問いいですか?」

「はい、なんでしょうか緒方さん」

 僕達五人全員、ゼムリアで使っていた武器やこっちで新調した道具なんかを個人装備として持ち込み申請して携帯許可をもらってる。当然、持っているだけじゃ意味は無いから訓練出来る場所がほしい。ということで、危険物でも大っぴらに出来そうな場所を手っ取り早く教えてもらおうと山田先生に聞いてみることにした。

「えっとですね。戦闘訓練をしたいんですけど、どこか良い場所はありませんか? 携帯許可を取っている銃器や刀剣類を使うので、あまり大っぴらには出来ないと思って」

「そうですね……。この持ち込み許可の類いなら、設備棟の裏側に結構広めの広場があるので、そちらではどうでしょうか。もしくはシュバルツァー君や妹さん達とクラブを設立して練武場を部活として使うか。どちらかでしょうか」

「わかりました。それなら、暫くはその広場の方で様子を見ながらやってみようと思います」

 山田先生も名簿から僕らが持ち込んでるモノを把握しているようで、学園内にあるだだっ広いだけの広場を教えてくれた。無理そうならクラブ活動にすることも提案してくれる。まあ、顧問さえいれば予算も要らない部活になりそうだから、その提案は割と願ったり叶ったり、かもしれない。

「はい。お役に立てましたか?」

 やっぱ織斑先生じゃなくて山田……真耶せんせーに相談して良かったかもしれない。織斑先生は良くも悪くもIS至上主義的な面が見えるから……。

 てわけで親しみを込めて真耶せんせーと呼んでみたらびっくりされてしまった。あれ?

「勿論です。ありがとうございます、真耶せんせー」

「ま、まや?」

 えと、流石に馴れ馴れし過ぎたかな……。

「あ……。ダメでした?」

 と思ったけど、驚かれただけでよかった。ていうかいくらなんでも先生を渾名呼びしたりしませんて。

「いえ。いきなりで驚いただけですから。別に真耶で良いですよ。呼び捨てや渾名呼びだったり、ちゃん付けだったりしたら怒りますけどね」

「よかった。それじゃ真耶せんせー。ありがとうございました!」

 とにかくこれで、訓練というか鍛錬というか、腕を錆び付かせなくて済むようになったかな。

 閉門時間もそんなに早くはないし、十分鍛錬出来るよね。

「はい。それじゃ、ケガをしないようにと、寮の閉門時間には気を付けて下さいね」

「はい、わかりました!」

 そこで別れようとしたところで、真耶せんせーが僕を名前で呼んでいいか聞いてきた。優衣が居るからとのことだけど、僕的にはそのほうが嬉しかったりする。先生と生徒だけど、名前で呼んで貰えるのは仲良くなった気がするからだ。

「……あ。そう言えば。緒方さんには妹さんも居ましたよね。不便なので名前で呼んでも大丈夫ですか?」

「全然問題ないですよ。呼ばれ慣れてますし、その方が仲良くなれそうで、好きですね」

「ふふ。授業時間以外では、そうしましょうね、ステラさん」

 そうして、お互いに笑顔を交わしてこの場はお開きにした。真耶せんせー、なんか書類沢山持って大変そうだったしね。

 

 こうして今日のところは教えて貰った広場で訓練をしたけど、人も寄り付かなかったし、暫くはあそこでよさそうかな。

「訓練できる場所があって良かったな」

「だねー。でも、リィンもフィーもエマも、やっぱり強いわー。一緒に訓練するようになって大分経つけど、やっぱゲームの印象まんまだよ」

 ひとまず訓練自体は十分に出来た。それぞれの得物を振り回しても全く問題ない位広い場所だったから。別の問題があるとすれば、導力魔法(アーツ)が使えないことと、僕とフィーが使う銃弾、かな。導力銃としてなら導力の回復速度が向こうに比べて遅い事以外に問題ないけど、実弾銃としては弾の口径も構造も地球のそれと全然違うから、供給にちょっと難ありって感じで。まあ、開発部の方で特別に少量生産してもらってるから、どうとでもなるんだけどね。束姉が独自に導力機関の開発や修理も出来るようにしてくれてるし。

 そして唐突に始まる優衣の過去……前世の話。小説《インフィニット・ストラトス》とRPG《英雄伝説 閃の軌跡》のお話し。

「そういえば、優衣の前の場所じゃISも俺達の世界の出来事も、両方とも物語の中の事だって言ってたからな」

「うん。だから、現実と物語で全く同じかはわからないけど、アリサ達の事も知らないわけじゃないよ。あ、でもクロウって、内戦終わっても生きてるんだよね?」

 話しには聞いてるけど、未だに実感は出来ない。僕が男のままで、世界で唯一の男性IS操縦者で、しかもオルコットや鈴達に振り回されて、世界を股にかけるテロリストに命を狙われるとか、想像も付かない。今の僕が、僕の全部だし。それにクロウが実は死ぬはずだったとか、今更言われてもなぁ。あいつ、殺しても死ななそうな位しぶといのにね。

「ああ。ステラの魔眼と、タリサさんの力で助けてくれたんだ。今もヴィータとスカーレット引き連れて、最前線の特殊任務に就いてるんじゃないかな」

「あの時はね。タイミングギリギリだったし、テスタ=ロッサというかエンド・オブ・ヴァーミリオンに魔眼が効いたからなんとかなっただけだよ」

 尤もあの最終決戦。僕の魔眼で一瞬だけどエンド・オブ・ヴァーミリオンの動きをを止められたから助けられたってのはあるんだけど、実はそれ以上に、束姉のオーバースペックな人力でオルディーネを引き摺り倒せたっていう、今思い返してもビックリな事実があるんだ。ホント、姉さんのオーバースペックってヤバイくらいにスゴイ。まあ、束姉もどっかの劫炎さんやら子爵さんやらと同じでバグってる方の人種だからね。

「そっか。私が知ってるゲームの結末だとさ。囮として攻撃を受けて、最終的に死んじゃうんだよね。ぶっちゃけ、クロウって好みのタイプだったから、最初はショックだったよ。でも結末が決まってる物語だから、生き残るって話しもないし」

「そうか。そういえば、ステラは居ないんだよな、その話しの中には」

 ともかく、本来閃の軌跡の登場人物に僕と束姉はいない。当然だよね。別の物語(インフィニット・ストラトス)の登場人物なわけだし。

「うん。そして、私が知るインフィニット・ストラトスに、織斑千夏なんていう一夏の兄も居ないし、私やリィン、ステラにフィー、エマもいない」

 そしてこのISの世界にリィン達が来ることもない。なぜか二つの世界(地球とゼムリア)が混ざりあってる今が本当はおかしいのかもしれない。

 でも、今はこれでいい。例えおかしかろうがなんだろうが、ここが唯一の現実だし。

「もっと言うと、月岡重工なんて言う会社も、黒翼なんて量産型第三世代機も出てこないね」

 そもそも月岡重工という、倉持技研以外の大手IS開発企業が日本にあって且つ、既に第三世代機と第三世代兵装の量産化が可能になってる時点で、小説インフィニット・ストラトスという物語からは外れてるわけで。現状、優衣が知る原作なる物語(小説インフィニット・ストラトス)はあくまで参考にしかならない。まあまあ今の展開的に、似たような歴史自体は辿ってるけど。

「ま、最初から優衣の"お話し"に頼る積もりなんてないし。気にしないで、僕達は僕達で適当に過ごそうよ」

「……ふふ。そうだね」

 僕達は僕達でしかない。そんな風に笑い話にしたところであまり聞きたくない悲鳴が聞こえてきた。

「ちょ、ちょっと待て箒! 落ち着け!」

 声の元を辿ると、寮の壁に背を預けてへたり込んでる我が愚兄がそこに居た。初日から何してんの、このバカ?

「織斑千夏。廊下に座り込んでなにしてんだ?」

「あ、緒方! 助けてくれ!」

 そう思いつつ、見てしまった以上はと声をかければ、なぜか助けを求められました。Why?

「へ?」

「うん?」

 それに優衣と顔を見合わせたところで今度は篠ノ乃箒の叫び声が聞こえ、思わずそちらを向けば……。

「ちなつぅっ!」

 木刀を構えて今にも突きを繰り出そうとする箒の姿が……てぇっ!?

「うわ! リィン、受け取って!」

「とと、任されたよ」

 あまりの危なさに千夏の襟を引っ掴んでリィンに投げ渡せば、危なげなくキャッチしてくれる。

「それとあなた、落ち着きなさい!」

 箒の方も、優衣が壁に食い込んだ木刀を圧し折ることで箒の手を封じてくれた。

 それでも箒は、その一連の動きが気に入らないのか、僕の方を睨み付けて文句を言ってくる。

「……緒方。なぜ千夏を庇う」

 でもそれは完全に的外れだ。庇わないわけが無い、生死がかかってたんだから。

「なぜ、だって? 庇うのは当たり前だと思うよ? この寮のそこそこ頑丈なドアを突き破ったり、壁に突き刺さる様な一撃を受けたりしたら、普通の人は防具を着けてたって大ケガするか、最悪死ぬ。それを庇わない、なんて出来ないな」

「千夏は大丈夫だ」

 しかし箒は千夏なら大丈夫などと抜かし始める。昔からそういった部分はあった。何々なら何、と、自分基準でしかない何かを人に押し付けるクセが。

 もっとも千夏自身は天才だなんだと持て囃されようと、その肉体の強度自体は千冬姉や束姉、そして今の僕の様な人外的なものじゃない、普通より多少力が強く、丈夫な程度。つまり、あんな攻撃された時点で恐怖しか無いわけだ。

「な、だ、大丈夫なわけないだろ箒! あんな攻撃、普通に恐いし、受けたら死ねる!」

「まあ、僕的には織斑がどうなろうと別に構わないんだけど、ここは織斑の言うとおりだね。さっきも言ったけど、この一撃じゃコイツは死ぬか、良くても骨折くらいはする。コイツなら大丈夫とか、そんなファンタジーな事はない」

 ということで千夏の抗議も尤もなもので、僕がコイツを気にくわないとは言え、その考えを否定することは出来ない。そもそもあんな一撃に平然と耐えられる人間は劫炎並みのバグキャラ達だけで十分。僕やリィンでもそれなりに痛いと思うし。

 優衣もそれに同意してくれる訳で、僕の横、千夏を庇う位置に並び立ってくれてる。

「そうだね。それで、なにがあったかは知らないけど、この木刀を折ったことは謝らないからね。そもそもキミ、なんのために剣を振るっているの? こんな風に暴力を振るうため?」

 とはいえ箒にとって優衣の存在は僕と同様に邪魔なモノで、しかも知らない人間でもあるって事で、とても攻撃的に優衣に問いかける。

「違う! というか貴様は誰だ!」

 まあ、優衣の方はその程度の威嚇でビビる程柔な鍛え方をしてないからさらっと流して自己紹介して、箒の責任を追及し始めるけど、流れ作るのうまいなぁ。

「私も緒方。こっちの緒方の妹だよ。で、違うって言うなら、このザマはなに? キミが振り下ろした木刀の切先が突き刺さってるこの壁や、穴が空いたあのドアは? これが暴力以外のなんだって言うの? 教えて?」

 当の箒はそれら優依の問いかけを全部無視して、きびすを返して部屋に戻ろうとする。けど、当然それは呼び止める。

 破られたドアに木刀が突き刺さってる壁。こうなった理由が千夏にあるのは明白。でも、この状況自体は、どう考えても箒が悪いとしか言えない。

「……部屋に戻る」

「待ちなさい。あなたは戻る前に、まず彼に謝りなさい。こうなった理由はわからないし、実際に彼が悪いのかも知れない。だけど、こんな事態になって誰が一番悪いかは、一方的な暴力を振るったあなただよ」

 しかし箒は悪びれること無く、そして折れた木刀の欠片を拾うこともなく、自らが突き破ったドアを開けて、中に入ってしまった。

「……私は、悪くない。それではな」

 正直、身勝手な部分は昔からあった。でも、ここまでは酷くなかったような気がする。

 リィン達が持った箒の印象も、やっぱりいい物では無いみたいだし。

「やってられんな」

「意味不明」

「まるで子どもの様ですね」

 そこは初めて実物を見る優衣も同じみたいだけど、そこはそれ。気を取り直して千夏に向かって何があったかを聞き出す。

「同意……。それで、キミは彼女に何をしたわけ?」

 すると言いよどみながら見たと一言だけいう。てか、あー。そういうこと?

「え? あー、その、えっと、見ちまったんだ」

「見たって、なにを?」

 教えられた通りの部屋に入ったところ、シャワーから出た箒とばったり。つまり……。

「山田先生に教えられた通りに部屋に入ったら、その、箒が、シャワーを浴びてたみたいで、その、アイツが出てきたところで、ばったりと」

 千夏が、本来は僕が通るはずだった原作通り且つ、典型的ラブコメ展開を繰り広げたあげくのあのバカ騒ぎって事ですか。

「なるほど。キミはラッキースケベをしちゃったわけか」

「まるでラブコメマンガみたいだな。くすっ」

「わ、笑うことないだろっ」

 ひとまず笑った事に抗議を向けてくるけど、この騒ぎ自体、発端が千夏自身のせいなわけで、助けたからにはこれ以上関わる意味なし。

「ごめんごめん。取り敢えず僕達は部屋に戻るから、後は適当に。これ以上は何も出来ないからね」

「あ、えと、ちょっと!」

 てわけで僕らはお部屋に戻ることにして。

「一先ずは助けたから、それじゃねー」

 後は自分でなんとかしろよ、テンサイ、織斑千夏君。


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