インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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学生食堂の一時

 一悶着二悶着と続いた入学初日の昼休み。

 リィンと千夏見たさに休憩時間毎に教室周辺に群がる他クラスの生徒達をかいくぐり、優衣とエマと合流してやって来ましたIS学園の食堂!

「おっひる、おっひるー」

「ごっはんーごっはんー」

 僕は燃費の悪いこの身体に正直に。優衣は、単に美味しいと評判のご飯を食べたいが為にアホな感じになってる。

「ふふ。賑やかです」

「いいと思うぜ。ステラと優衣らしいしさ」

「そだね」

 リィン達がなんか言ってるけど、本気でご飯が楽しみだから仕方ない。

 そして辿り着いた食堂を見れば、学生食堂とは名ばかりの室内と調度に、リィン達が唖然としてる。

「しかし、これが学生用の食堂なのか」

「トールズとも全然違う。まるでアンネローゼみたい」

「そ、そうですね。流石は国営、と言ってしまっていいのでしょうか」

 アンネローゼ。エレボニア帝国クロイツェン州の州都で、翡翠の公都とも呼ばれるバリアハート市にある、貴族御用達のレストランにも引けを取らないほど豪華で綺麗なのだ。

 これは噂以上に整った食堂らしい。まあ、セルフサービスなのと、券売機があるのがこう、いかにもな学生食堂ぽいところだけどね。

「日本人だけじゃなくて、各国のエリート層や上流階級出身の生徒も居るからね。それに応えたらこんな感じになったらしいよ」

 各国の代表候補生や企業専属に上流家庭の子達も多く通う上、各国上層部の意見を取り入れたらこうなったらしい。但し費用は日本持ちで、だけどね……。

「ついでに言うと、ここって軍隊育成用の施設じゃなくて、上等過ぎるくらいのお嬢様学校って事になってるからだね」

「なるほどな。お嬢様、か」

 そんなことを話してる内に適当にランチメニューを頼んで受け取り、幸運にも広めの円テーブルコーナーが開いてたので占拠させてもらった。

 すると横合いからちょっとのんびりした声がかかった。 

「ねーねー。一緒にご飯、いーい?」

 ダボダボで長い裾に完全に隠れてる手でトレーを持った女の子に、活発そうな子と優しげな表情の子の三人が立ってた。

 たしかこのダボダボ制服の子は……。

「うん? ああ、いいよ。えっと、布仏本音、だったよね?」

「うん。本音でいーよ。えっと、すーちゃんとりーんとふぃーちゃん以外は、他のクラスの子?」

「……は、ぇ? すーちゃんって、僕の事?」

 いきなりあだ名を付けられました。初めてのタイプの。すーちゃんって……。いいけどさ、いいけど。

「そうそう。ステラだからすーちゃん。で、りーんとふぃーちゃん」

「あー、納得。こっちは僕の妹の優衣。それと親友のエマ」

 ステラの最初の一文字だけ取ったのね。リィンとフィーの呼び方もこう、ちょっと舌足らずな感じで。まあ、そういう子なんだろうな、この本音って子は。

「三組の緒方優衣です。ステラの、義理のだけど妹です。優衣でいいよ」

「三組のエマ・ミルスティンと申します。エマとお呼び下さい。リィンさんと同じ十九歳ですが、あまり気にせず、よろしくおねがいいたしますね」

 ともかく三人に座ってもらいながら優衣とエマが自己紹介して、本音と、鷹月さんに相川さんの自己紹介。

「わたし、布仏本音だよ。本音って呼んでー」

「鷹月静寐です。静寐でいいですよ」

「相川清香でーす。清香でいいよ。宜しくね、みんな」

 自己紹介も終わって、全員座ってこれから食事というところで、どうしてここに来たのかを聞いてみる。興味本位だけなら、少し嫌な気分がするから。

「で、どうしてこっちに来たんだよ。他も空いてるだろ?」

「……あのね。最初はおりむーのところに行ったんだけど」

「なんていうか、篠ノ乃さんがすっごく恐くてね」

 でも三人の話しぶりと目の色から、興味を含みつつも、仲良くなりたいといった気持ちが流れてきた。けど、同時に怯えも見えた。原因は多分、あいつらだ。

「あー。まあいっか。あいつ達は兎も角、本音達に悪意はなさそうだし。ここもリィンが居たから来たのか」

「単純に仲良く出来たらなー、位な感じだけど」

「篠ノ乃さんの視線がホントに、殺される、とか思っちゃったもんね」

 実際、この本来共学、でも事実上女子校状態のIS学園でたった二人の男子生徒。お近づきになりたいと思う生徒が殆どだろう。

 言葉通り、最初はもう一人の男子生徒で、世界最強の弟でもある織斑千夏の側に行こうとしたのだろう。けど、その隣に居る篠ノ乃箒の視線と気配。これが三人が怯える原因だ。

 未だにこちらを睨み付けている箒。ただでも鋭い目付きに乗ってるのは、拙いとは言えども殺気と呼べるモノ。

「……今もそうっぽいな。ずっとこっちを睨んでる。睨まれる覚えはないんだけどな」

 脚裁きと身のこなしから恐らくそれなりに武術の心得があると見える本音でも軽く怯えてるその目線は、清香と静寐には相当に応えるモノだろう。

 そんな三人を僕との間に座らせるリィンはやっぱり真摯だ。僕とリィンで壁になれば視線は届かなくなる。

「とりあえず、あんな子供だまし同然の殺気は無視して食べよう。本音達は俺とステラの間に来るといい。そこよりは、あの視線から隠れられるはずだ」

 リィンの誘いに本音達はおずおずと席を移動して、落ち着いたところで笑顔を見せてくれた。

「……りーん、すーちゃん。ありがとー!」

「ありがとうございます。リィンさん、ステラさん」

「サンキューです、リィン君、ステラちゃん。……て、ステラちゃん、そんなに食べられるの?」

 そうして漸く食事を始めることが出来た。今日は日替わり和定食の大盛りにラーメン大盛り。お味の方は、食堂としてはなかなかな感じでした。

 ちなみに三人には僕の食事量に驚かれました。ぶっちゃけ、リィンの倍以上は食べるからねぇ……。

「うん。僕って燃費悪くてさ。これくらい食べないと夕食前に力尽きちゃうんだよねー」

 てわけで、ごちそうさまでしたー!

 


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