インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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自惚れ(セシリア・オルコット)と考え無し(チナツ・オリムラ)

 最初の授業、IS理論の基礎授業が終わり二時限目。千冬姉……織斑先生によるISの装備に関する授業が始まる直前、彼女が唐突にクラス代表を決めると言い出した。

「諸君。早速授業を開始したいところだが、その前にクラス代表を決めたい。クラス代表は年間行事への出席や、各種トーナメントなどへの参加が義務付けられている。自薦他薦は問わないが、他薦の場合の辞退は認められない。それでは、誰か居るか」

 クラス代表はまあ、一般校の学級委員長と似た様なものだけど、権限や義務的には生徒会役員に近い部分もあるみたいだ。

 そしてこんなタイミングで他薦まで認められると言うことは当然……。

「はい! 織斑君がいいと思いまーす!」

「私も賛成!」

 このクラスにしか居ない、珍獣の如き男性操縦者が推薦されるに決まっている。

 真っ先に推薦された世界最強(ブリュンヒルデ)の弟である千夏は、なぜか推薦されるなんて思ってなかったようで狼狽えてるけど。

「は!? 俺? なんでだよ! 俺はそんなものやる気無いぞ!」

 それは織斑先生によって黙殺される。

「他者による推薦だ。貴様に反対する権利も反論する権利も無い。他に居るか」

 で、千夏が推薦されると言うことは当然、リィンも推薦されるわけで。

「シュバルツァーさんを推薦します!」

「あ、私も!」

「やっぱりか……」

 こちらは諦めが入ったリィン。けど、ついでとばかりになぜか推薦されるフィーと僕。

「カワイイは正義! 寡黙可愛いフィーちゃんに一票!」

「ならあたし、ステラちゃんに一票入れまーす!」

 確かに僕とフィーも企業専属で専用機も持ってる。けどさ、いくら何でも僕達までっておかしくない!? しかもフィーの推薦理由がまた意味不明なんだけど! いや、確かにフィーってクールカワイイ系だけどさ。クーデレちゃんだけどさ。僕を推薦したやつ、ならってどういうことさ、ならって! 次いでって事かい、コラ!

 そんな風に思ってると教室の後方から机を叩く音と共に金切り声が聞こえてくる。振り向かなくても分かる。セシリア・オルコットだ。

「待って下さい! そのような選出は納得がいきませんわ! 緒方さんとクラウゼルさんならばまだしも、織斑さんの様な低能で躾もなっていない極東の男や、シュバルツァーさんの様な無教養な男ではなく、代表候補生であるわたくしにこそ相応しいのです」

 彼女にしてみれば、男と言うだけでリィンと千夏が推薦され、代表候補生である自分が推薦されないのが気にくわなかったみたいだ。たかが代表候補生が自意識過剰にも程がある。この学園には世界最強と現役国家代表が在籍してるのを忘れてるんじゃないか。彼女達に比べたら代表候補生なんて十把一絡げだろうに。

「は、別にいいぜー。俺はクラス代表なんてのに興味ないし、辞退したいんだ。ちょうどいいからオルコット。やる気満々なあんたに譲ってやるよ」

「まあ、なんという言い種! これだから極東の猿などと呼ばれるのですわ」

 尤も、当の千夏はやりたくないオーラ全開で挑発して、オルコットを更に煽る。やっぱバカだ、こいつ。頭いいけどやっぱりバカだ。代表候補生に適当な挑発するな。国にケンカ売るのと同義だって分かってんのか、コイツ。

「なあオルコットさんよ。俺に何か言うのは別にいいだけどさ、お前のさっきの一言で、このクラスのほぼ全員を敵に回す事になるぜ? ここに居るのは殆ど日本人なんだからさ?」

「……本当に、しつけがなっていないようですわね。それにあなた、シュバルツァーさん。あなたは何も言い返さないのですか?」

 そして売り言葉に買い言葉。お互いに罵り合う状態が醜い。しかも事実上英国から日本への宣戦布告と取られてもおかしくない事をオルコットは言っている。更にオルコットはリィンにまで難癖を付けた。なんなの、この女。千夏も酷いけど、この女も、国を代表して来てるって自覚あんの?

 なおリィンはどちらも気にかけてない様子で、ただ静かに二人を諭す感じで話す。

「別に言い返すほどのことでもない。俺の持っている礼儀作法も、人によっては無礼と取られる可能性は十分承知している。ISに関しても、知識も経験もまだ十分とは言えないから、無教養と言われても否定は出来ないしな。尤も、あなたの言い分も織斑の言い分も、正しいなどと思っていないが」

「な……。ぶ、侮辱ですわ!」

 しかしそんなリィンの言葉もオルコットには煽り文句に聞こえたのか、リィンを強く睨み付けた。意味わからんし。

 とまあそんなことを続けてる内に織斑先生が止めてくれたけど……僕達まで巻き込まれた。てか総当たり戦って、面倒いなぁ、もう。五人の総当たりって十試合にもなるじゃん。一日で終わらないし、どうするつもりさ千冬姉。

「貴様達いい加減にしろ。私から見ればオルコットも織斑もシュバルツァーも大差ない。緒方とクラウゼルを含めた五人の総当たり戦でクラス代表を決める。いいな、異論は無いな?」

「わかりましたわ!」

 まあ、同意する以外に選択は無いから同意だけしておく。オルコットが妙にやる気なのはまあ、エリート様だから、ということにしておこう。面倒だから。

 とりあえずこれで授業開始かな、と思ったところで千夏がアホなことを言い始める。

「……。あの、織斑先生」

「なんだ、織斑」

「俺はまだ、試験の時の一度しかISに乗ってません。流石に代表候補生達相手では勝負にならない気がします。正直、勝ち負け以前の問題だと」

 千夏がISを動かしたのは2月に入ってから。実際の搭乗も、試験を含めても最大で二回から三回程度か。確かに勝ち負け以前の問題ではあるけど、ここで言うことだろうか?

「逃げるのですか? やはり所詮は」

「だまれオルコット。それ以上言うなら、それ相応の処置が下されることになるぞ。自分の立場をわきまえて発言しろ」

 それを逃げととって罵ろうとするオルコットも何というか、本当に勘違いエリート様々って感じだけど、さすがにそれは織斑先生に咎められる。

「……納得いきませんが、わかりました」

 なぜ納得いかないのか理解不能だけど、とりあえず座れ、金髪縦ロール。と思ってると思わぬ矛先が僕に向かってくることになった。 

「それから、そうだな。緒方。お前が織斑のコーチをしてやってくれ。現状、お前が適任だ」

 なんで僕が千夏なんかの面倒見ないといけないわけさ! 絶対にやらないからね、そんなの。

「……織斑先生。申し訳ありませんが、コーチの件はお断りさせて頂きます。そもそもなぜ、私なんですか?」

 てわけで当然断らせていただきますよ。敵に塩を送るつもりもないし、千夏が僕に気付いてなかろうと、昔、僕に危害加えてきてたバカ共の主犯相手に手心加えるつもりも無い。

「たかが試験とは言え、筆記試験で上位十人以内に入り、実技試験では私の攻撃を三十分以上避け続けた上に直撃を与えてくれた程の相手が適任でないわけがなかろう。それとも、教えるのは自信が無いのか?」

 それを試験結果で説得しようとする織斑先生だけど、それと教えることは違う。僕は戦うことに関しては何処までも実践派だから、教官に向かないのは自覚してる。だから断ろうとすれば、口答えするなと言う。ホント千冬姉、あんたどこの鬼教官なわけ!? 大体、生徒の訓練位教員の方でしろよな!

「ええ、教えるのは苦手です。それに私自身に、彼に教えるメリットがありません。そもそも、ここはISの事を教える学校ですよね。でしたら、必要のある生徒の訓練は先生方でするのが正しいのでは?」

「……口答えする気か? 私は言ったぞ。返事はハイかイエスのみだと」

 内心怒りつつ、口調は努めて穏やかにを心がけて押し問答してるところに、今度は千夏が口を挟んでくる。でも正直、この問題に強いとか弱いとかは関係ない。絶対何か勘違いしてる。ISのことも、力のことも。

「あの、ちふ……織斑先生。その緒方さんというのは、そんなに強いのですか?」

 しかし千冬姉は千夏の疑問に素直に答えてしまう。ていうか、試験結果って機密じゃ無かったの!? なんか山田先生オロオロしてんだけど、千冬姉、ちょっと先生としてまずい発言してるんじゃない?

「コイツは強いぞ。装備の選択や扱い。遠近問わない交戦距離の切り替え。それに守りから攻めへの流れを作るのも上手い。実技試験では私もそれにやられてしまった。そして筆記においても学年トップクラスだ。このクラスの生徒で、ド素人以下のお前に教えるならば緒方以上の人選は居ない」

「そうですか。それじゃ緒方さん。俺に教えてくれないかな。何もわからないのは、流石に困るんだ」

 まあ、そんな山田先生を気にもかけてないようで、織斑先生は話を続ける。確かに千冬姉は強かった。IS競技の頂点に二度も立っただけのことはある。でも、生身でのそれ程じゃない。生身なら数居るバグキャラ達に並ぶ千冬姉だけど、並み程度の量産型ISじゃ枷にしかならないから、必殺の一になる斬撃にさえ気をつければ射撃はいまいち。僕にとっては躱しきれない程速い斬撃って訳でも無かった。僕自身も訓練機のリヴァイブと他社製装備に慣れてなかった分、攻撃する隙を作れなかったけどね。でもそれだけ。なんでそれで、僕が千夏に教えなきゃいけないんだっつの。

「お断りします。理由は前程述べた通り。それに何故、対戦相手を鍛えるなどという真似をしないといけないのですか? 私は他薦されました。ですが推薦された以上、負けるつもりも、敵に利するつもりもない。それはリィンやフィー相手でも同じです」

「貴様、まだ言う気か。私は織斑に教えろと、お前に命令している」

 それでも断ろうとする僕に、半ば脅しかけてくる千冬姉。ホント何考えてるんだよ! と思ってるとさすがに見かねたのか山田先生が仲裁に入ってくれた。

「お、織斑先生! それ以上は緒方さんへの無理強いになってしまいます。教師による強制は流石に問題になってしまいますし、緒方さんは間違った事は言ってません!」

 やっぱ千冬姉の、織斑先生としての指導方法が標準では無いようでよかった。山田先生、助けてくれてありがとうございます!

「山田先生……。仕方無い、織斑の訓練と補習の件は別に考えるとします。お前達の対戦を来週月曜日と火曜日の放課後とし、十戦中勝率が最も高い者を代表とする。以上だ。ああ、それから山田先生。オルコットの特別補講準備をお願いします。流石に見過ごせないからな、あれは」

「え? ああ、はい、わかりました。オルコットさんは今日からしばらくの間、放課後に一時間、特別補講を行いますので予定を入れないで下さいね」

 そして織斑先生も山田先生の説得に応じてくれたのか、僕に千夏の訓練させるのは諦めてくれた。但しオルコットは別。

 彼女は代表候補生としてやっちゃいけないことをしてる。国際問題になりかねないことをしてるのだ。

「どういうことですか?」

「まだわかっていない。それ自体が補講の対象だ小娘。逃げるなよ」

 しかしそれを理解していないのか、山田先生に食ってかかるが、そこを織斑先生に一喝されて怯えて同意する。

「……ひっ! わ、わかり、ました」

 ま、オルコットは自業自得って事で、潔く成仏しろよー。


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