インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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漸く本編に辿り着きました。



いざ、IS学園へ
学園初日(サイショノイッポ)


「そんなこんなでIS学園入学日と相成って、か。大丈夫、リィン?」

 あの衝撃の発表があった日から一ヶ月と少しを慌ただしく過ごして今日、IS学園に入学って事で隣の、数十と言える視線に曝されて超緊張しまっくってる憐れな男の子(ヒロイン)に声を掛けてあげようかね。

「はっ!? あー、え、お、おう。というか、いきなりどうしたんだよステラ」

 物凄く狼狽えてるリィンかわいいよリィン。地方男爵とはいえ貴族の子だから見世物には慣れてるけど、世界でたった二人のISを操縦出来る男の子で、IS学園でたった二人の男子生徒の内の一人。注目されないわけがない。

「平気っぽく振る舞ってるけど、物凄い緊張してるんじゃない? 顔、凄い事になってるよ?」

 同じクラスという事で、織斑千夏と交互とはいえ、僕とフィー以外のクラスの女子達の、殺気の欠片もない好奇の視線に曝されてる彼は、自覚無しに緊張して表情が引き攣ってる。

「マジか……。でも悪い。なんとなくここ、居心地悪くてさ。敵意とかならまだマシなんだけどな」

 言ってる事はすごくよくわかる。多分これが殺気や敵意なら、もっと平然としてるんだと思う。けど、基準がずれすぎてるね、僕達。まあ、どっちにしても助けられないけどさ。

「だろうね。もうすぐ先生も来るだろうし、あとちょっとだって。自己紹介でも考えてみたらどう? 気が逸れるだろうし、自己紹介失敗したらもっと居心地悪くなるだろうし」

 ちなみに視線の内の大半は、時々僕と、あとフィーにも突き刺さってくる。敵意のそれで。なにせ彼女達にしてみれば、誰もがリィンと千夏に興味を持ちながらも、話しかけるのをためらい牽制し合ってるなか、僕一人だけ抜け駆けしてるのと同じ様な感じなわけで。しかも僕とリィンにフィーは、お揃いのデザインの改造制服を身につけてるから。ぶっちゃけトールズの制服風に改造しただけなんだけどね。

 まあ、負け犬の視線と思えば痛くも痒くもないし、そもそもマクバーンやクロウ達のそれに比べればそよ風にすらならない。フィーも同様で、サッとリィンの様子を見たあと、周囲の気配を探っては呆れを込めた溜め息を吐いてる。

「……ああ、そうだな。そうするよ」

 そんな感じでノホホンとリィンと声を交わしつつ、クラスの様子を窺っても千夏がやや緊張してる以外は然程変化はない。あの傍若無人な千夏も、流石にこの中じゃ緊張するのか。在る意味、衝撃の事実だな、コレは。

「おはようございます!」

 そうこうしてる内に、私服を着た小柄な、だけど胸部装甲が物凄く厚い女の子……にしか見えない女性が一人、大きな声で挨拶をしながら教室に入ってきた。

 優衣情報曰く、我等が副担任殿のお着きですね。……てか、凄いなアレ。一種の兵器じゃん、あの胸部装甲。と、自分の胸を見ながらそんな事を考え、羨望の溜め息を吐きつつリィンの表情と視線を探った僕は完全に女なんだな、と。改めて思ってしまう。今更だけどね。

「みなさん初めまして。わたしはこのクラスの副担任を務める山田真耶といいます。今日から一年間、よろしくお願いしますね。それでは早速、席の順番で自己紹介をしてください」

 一瞬で静かに、そして視線の集中が止んだ教室を歩き、教卓の横に立った山田先生は、無駄なことなど一切話さず、一気に自己紹介まで進めてしまった。優依から聞いてるのとはちょっと違うけどまあ、現実と創作の誤差範囲だね、これは。

 とりあえず席順で廊下側最前列の相川清香から始まった自己紹介は、数人で廊下から二列目最前列の僕の番になってしまった。まあ、言う事なんてそんなに多くないんだけどね。

「緒方ステラ・バレスタインといいます。こんな髪色と名前ですが、一応純粋な日本人です。それから、代表候補生ではありませんが月岡重工の企業専属操縦者をしてます。趣味は料理と音楽鑑賞にカラオケ。あと最近、スノーボードとサイクリングを始めました。それから、三組に妹がいますので、妹共々、よろしくお願いします」

 とこんな感じで軽く自己紹介。以前の僕なら、こんな女の子だらけの中で自己紹介とか、絶対出来なかっただろうな。

 ちなみに、身長は女としては若干高めの165センチ。体重とスリーサイズは内緒。優衣や優亜、中学の友人達曰く、大きくないけど美。体型は羨ましい、だそうですよ。

 毎日の基礎トレーニングと修行の賜だね。元々、姉さんを師に篠ノ乃流を修めていたのに加えて、向こうでは遊撃士を目指してた上にトールズでの訓練。さらに涼夏お母さんの実家が古武術の流派っていうのも、思った以上に自分のタメになりました。

 なお、僕の次は後ろの席に座るこの子。

「フィー・クラウゼル。ステラと同じ企業の専属操縦者。フィーでいいよ。よろしく」

 と、酷く簡潔なフィーの自己紹介だけど、口数の少ない彼女にしてはがんばった。事前に言わなかったら名前だけで終わってたはずだ。ある意味わらえない……。

 そして夜竹さゆか、鷹月静寐、四十院神楽、布仏本音と続いてリィンの番。

「リィン・シュバルツァーです。男ではありますがISを動かしてしまい、今はステラとフィーの同僚として月岡重工の企業専属操縦者をしています。趣味は釣りと剣術。あと料理も得意です。以後、よろしくお願いします。あー、それから、俺はみんなより年上の十九歳ですが、気にせず、気軽に声を掛けて下さい」

 場馴れ、という物でも無いけど、無難な挨拶。多分、悪い感じじゃない筈だ。……フラグ建てなきゃ尚良しなんだけどね。まあ無理だろうな。無自覚人誑しのリィンだし。

「えっと、お、織斑千夏です。えっと、シュバルツァーさんと同じく、男だけどISを動かしてここに来ました。特技とかは特にないですが、趣味でゲームをよくやってます」

 さらに少し飛ばしてクラス唯一の代表候補生セシリア・オルコットの次がリィンの隣に座る元兄、織斑千夏。アイツ、要領だけは良いから、緊張で少し噛んではいるけど、割とまともに自己紹介してる。……目の表情さえ見なければね。

「あー、その、これから一年間よろしく」

 ついでに言うと、今みたいに間をおいて付け足すのがあざとい。それに目が得物を探す肉食獣のそれになってるから。ぶっちゃけ、欲望と情欲を隠さない猟兵崩れや邪教徒よりもずっと質が悪い。

「貴様は自己紹介もまともに出来んのか」

 そんな風に思ってると、後のドアから入って来た誰かが千夏の頭に出席簿が振り下ろしたっ!?

 ていうか隠した感情云々はともかく、内容はあれで良いんじゃないの? ちゃんとした自己紹介ってどんなの? まさか、もっと固くて重い感じのじゃなきゃダメだったのか? てかよく見ればこの人は千冬姉じゃん……って、今のはよくわからねー。千冬姉、ここまで厳しかったっけ?

「ぐぅぇっ! ぃ、いてぇ……ち、ちふゆ、ねぇぐゃっ?」

「ここでは織斑先生だ」

 千夏は千夏で頭を抱えて蹲って、思わず呟いた名前でまた叩かれて……て、それはまあいいか。千夏だし。寧ろいいザマだ。

「諸君。私が今日から一年間、このクラスの担任を務める織斑千冬だ。私の仕事は、次の三月までに貴様らヒヨッコを半人前の半人前程度まで育て上げる事だ。尚、返事はハイかイエスのみ。それ以外はない。いいな。返事は!」

 そうこうしてる内に織斑先生の挨拶をするけど、なんだこれ。本職の軍人で、相当に厳しめだったナイトハルト教官でもここまでじゃなかったよ? リィンもフィーも驚いて口半開きだし。

 しかも二度ブリュンヒルデの栄冠を受けている千冬姉は同性に人気がある故か、まるでアイドル扱いの様な歓声……てか、マジうるさい。耳塞いでるのに耳痛くなってきたし、リィンもフィーも顔を顰めてるし。

 とりあえず、現状ではISには兵器としての側面が多分にある。むしろ地球最強の兵器と言える。それでもここIS学園は士官学校じゃない、IS競技者や技術者を育てる学校。織斑先生のあれはやり過ぎな面もあるように感じる。

「黙れ! 騒ぐな、喚くな。お前らのような面倒くさいヤツらを必要以上に構うつもりはない。憧れや尊敬があれば甘えて良いなどと思うなよ、ガキ共。全く、なぜこうも毎年、バカ共が私のクラスに割り振られるのか」

 そんなことを思いながら耳を塞いでいると、それでも聞こえる程の織斑先生の怒声と、それに続けて、ゴミでも見るかのような目で騒いだ女子生徒を見渡し、吐き捨てるように口から放たれる拒絶の言葉。……どれが本当の千冬姉なんだろう。事実を伝えるかは別にしても、ここに居る間に、千冬姉の真意を見極められるのかな。

「えーっと、それでは自己紹介の続きをお願いしますね」

 一瞬で静まりかえった教室に響く、山田先生の優しく問いかけるような声に、千夏で止まってた自己紹介も再開。

 まあ、知らない人ばっかりだからね。確り聞いておかないと。

 

 自己紹介も全員が終わって、ホームルームも終了。

 授業までの短い休みの間にリィンとフィーと少しだけお話し。

「リィン、お疲れ様」

「おつかれ、リィン」

 視線の嵐と周りの子達の歓声で疲れたのか、やや憔悴気味のリィンが、思わずと言った風に千冬姉の事を話題に出す。

「……ああ、おつかれだステラ、フィー。それにしても織斑教諭って一体どんな人物なんだろうな。さっきの自己紹介も、あのナイトハルト教官の言葉が子守歌かの様に聞こえたんだが」

「同感。ちょっと恐かった」

 フィーのリィンへの同意に、僕も頷きながら、確かに千冬姉は自分にも他人にも厳しかったけど、なにがどうして映画の鬼軍曹みたいになったのか、身内のはずの僕も理解に困った。

「実の姉だけど、あれはぶっちゃけわかんないな。ここは割と特殊な学校とは言え、軍学校じゃない。少し専門的なだけの普通の高等学校。違う言い方をしてもIS専門の養成所のはずなんだけどね。ほら、山田先生はあんなだったし」

 事実、山田先生は優しすぎる感じはあるモノの、普通の学校の先生といった印象だったが、実際には国家代表目前まで至った猛者である。だからこそ、どうして千冬姉があれだけ恫喝まがいの事を言うのかがわからない。

「だよな。意味わかんないな」

 そんなことを話しているとそこに、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットが来て、唐突に話を遮ってきた。

「ちょっと、よろしくて?」

「……あなたはたしか、セシリア・オルコットさんでしたね。なにかご用ですか?」

 やや見下した視線で僕達……というよりリィンをみた彼女は、すぐに落胆したような表情を作って話し始める。

「いいえ。世界に二人だけの男性操縦者と言う事でしたので、声を掛けてみましたが、特筆する事はなさそうですわね」

「それはすまない。生憎、俺は出来る事を出来る限りやっているだけに過ぎないからな。どうやら俺では、あなたの期待に応える事は出来なそうだ」

 彼女がリィンの中に何を見たのかはわからない。侮蔑のような感情は見られないものの、何かを探るような視線を向けている。

「……あなた、一体何者ですの?」

「俺はリィン・シュバルツァー。それだけだよ」

 そして放たれた言葉は、リィンも、そしてセシリア本人も恐らくわかっていない事だろう。

「失礼しますわ」

 何とも言えない表情を浮かべて自分の席へと戻っていったセシリアをみて、フィーが呟く。

「なにをしに来たのか理解不能」

 それに、優依から聞いた話を思い浮かべて何となく予想が付く言葉を並べてみると、フィーに似てるなんて言われてしまう。

「大方リィンに、"無知なあなたに、わたくしがISを教えて差し上げてもよろしくてよ"、とか言いに来たんじゃない?」

「……ステラすごい。似てた」

「やだなあ。あんなのに似ててもうれしくねーって」

 ぶっちゃけ、今の彼女に似てると言われてもね……。




原作を読んで、そして自分で書いてても思うのは、一組専用機持ち多いなぁ、ですね。
この世界では、入学初日時点で一組に一夏、リィン、フィー、セシリアの四人。エマと優衣を含めて一年全体で六人も専用機持ちが居ることになります。
ここにオリ兄の千夏やヒロインズに、味方側オリキャラや昇格キャラを含めると、一年生だけで専用機持ち十五人にもなります(予定)。自分で書いてて、これ多くね? とか思いましたが、反省も後悔もしてません。
最終的に全学年で合計十八人にもなる(こっちも予定)の専用機持ちが居て、書き分けと活躍させられるかの方がずっと問題ですしね。
尤も、亡国さん側のパワーアップ具合をインフレ気味に設定してるのでどうなることやら……(^^

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