クロッカスの街の一角で、ミネルバは一人たそがれていた。
周囲に人影は見当たらない。
(これで居場所を失った。妾は結局なにがしたかったのであろうな)
一体これからどうしたらいいのかも分からない。心にはぽっかりとした空洞が広がっていた。
背後で足音がする。誰か来たのかと振り返り、直後にミネルバは殴り倒された。
「見つけたぞ」
「ち、父上……」
見上げるとそこには憤怒に顔色を染めたジエンマが立っていた。
ジエンマは足を振り上げ、倒れるミネルバをさらに蹴飛ばす。
「よくもこの父に牙をむいてくれた! その結果があのていたらくか! 我が最強のギルドを台無しにしおってからに! つくづく使えぬ愚図の娘よ!!」
何度も何度も、ジエンマはミネルバを蹴飛ばし踏みつける。
それにミネルバはなんの抵抗もしなかった。心の折れたミネルバにはそんな気力も残っていない。もうどうにでもなれと自棄になっていた。
黙って蹴られていると、やがてジエンマの暴行もおさまった。
「やはり正規ギルドなどぬるい。これでは最強のギルドは作り出せぬ。行くぞミネルバ」
「行くとは、どこへ……?」
「闇へ行くのだ。闇こそ我が真の実力を発揮するに相応しい」
それを聞いてミネルバは自嘲の笑みを浮かべる。
(ついに妾も落ちるところまで落ちるということか)
ミネルバがこれからの運命を諦めとともに受け入れたときである。
再びその場に足音が二人分聞こえてくる。
「それは困りますなぁ。ミネルバはんを闇に引きずり込むだなんて」
「斑鳩……」
やってきたのは斑鳩。その隣には青鷺も黙って佇んでいる。
「貴様は人魚の。なんの用だ」
「あなたに用なんてありまへん。うちはミネルバはんに用があって来たんどすから」
「この愚図にか。何用だ」
そのジエンマの口ぶりに斑鳩が眉を顰める。
「実の娘を愚図呼ばわりとは。あなたに娘への愛情はないんどすか?」
「笑止! これは我が最強の血を後世に残すための道具にすぎんわ!!」
本気で言っている。斑鳩はそう思った。
言葉、語気、表情、雰囲気どれを見てもミネルバへの愛情を感じることができない。
「……サギはん」
「……ん」
もうこれ以上語る気も起きない。ひとまずこの男のことは後回しにしようと、斑鳩は隣の青鷺に目配せをする。
「む!」
ジエンマの足下に影が纏わり付くと同時、次の瞬間にはジエンマの姿が影も形も無くなった。
青鷺の影狼でとりあえずクロッカスの外まで飛んでいってもらったのだ。
斑鳩は両親に命をかけて守られ、育ての親である修羅に大切に育てられた。親子の愛は無上のものと信じているが、その愛を持ち得ない者もいるのかと悲しくなった。
斑鳩と青鷺は倒れるミネルバを抱え起こす。
どうやら大した傷はないようで斑鳩たちはひとつ安心する。
「なぜそなたらがここにいる……」
「ミネルバはんの様子が気になったもので、いざセイバーの宿を訪ねてみれば行方不明というではありまへんか。だからサギはんに頼んで探してもらったんどす」
斑鳩の言葉に隣の青鷺もこくりと頷く。
「妾を探し出してどうするつもりだ」
「もちろん、連れて帰るに決まってます」
そこで再びミネルバは自嘲する笑みを浮かべた。
「今更どんな面をして帰れようか」
一度心が折れたことでミネルバは冷静に、半ば他人事のように過去の所行を思い返して分析することが出来ていた。
「そなたは勝利以外にも価値あるものはたくさんあると言っていたな。だが、妾には何も無い。強さ以外には何も……。あいつらとは違うのだ……」
あいつらとはギルドメンバーのことだろう。それぞれによきところはある。スティングとローグでいえば、レクターとフロッシュへの愛情などだ。
しかし、それをミネルバは己の中に見いだせない。
「妾があのギルドにいられたのは強かったからだ。ひどいこともした。負けた以上、もう妾のことなど……」
その言葉に斑鳩はゆっくりと首を横に振った。
「少なくとも、うちはあなたのギルドへの愛情は素晴らしいと思います。やり方はともかくどすが。それはカグラはんも言っていたことどす」
「カグラが……?」
「ええ。他ギルドのうちらがわかるんどす。きっとギルドのメンバーならばうちら以上に理解してくれているでしょう。──ほら」
斑鳩がどこか遠くを指さした。
ミネルバがそちらの方向に視線をやると、すぐに多くの影が現れる。
「お嬢!」
ミネルバを呼ぶ声がする。それも一つや二つではない。
目を丸くして斑鳩を見上げれば、斑鳩が悪戯っぽく笑っていた。
「さあ、立って。お仲間が迎えに来てますよ」
斑鳩の手を借りてミネルバが立ち上がる。
その前に、スティングを先頭に剣咬の虎のメンバーたちが集結した。
「な、なぜ……」
「なぜって、お嬢を迎えに来たんだよ」
ミネルバはスティングたちの方を向けずに視線を落とした。
「妾はレクターを使ってそなたを脅したんだぞ」
「お嬢がギルドのためを思っていたことは分かってる。それに、お嬢がマスターからレクターを救ってくれたことに変わりはない。感謝はしても、恨んだりなんかはしないさ」
ミネルバに攫われていたレクターもただ眠っていただけだった。最初から害するつもりがなかったことくらいは分かっている。
「お嬢がこれまでの行動を後悔しているのは分かる。けど、それはオレたちだって同じなんだ。だからやり直そう。オレたちと一緒に」
剣咬の虎のメンバーたちを背に、スティングがすっと手を差し出した。
差し出された手に視線を落とした途端、ミネルバの目から涙がひとりでに流れてきた。
「よ、よろしく頼む……」
そうして、ミネルバはスティングの手をとった。
その瞬間、剣咬の虎のメンバーたちから歓声があがる。
「お嬢が泣いた!」
「こりゃ槍でも降るぞ」
剣咬の虎の面々はミネルバを囲んで和気藹々と大盛り上がり。大きな笑い声が街に響く。
そんな中からローグが斑鳩たちの所に進み出てきた。
「お嬢の居場所を教えてくれてありがとう。おかげで連れ戻すことが出来た」
「いいんどすよ。うちも気になっていたことどすから。それと、ミネルバはんとの再会に喜んでいるところ悪いんどすが、もう少しここで待っていてくれまへんか?」
その斑鳩の言葉にローグが首を傾げる。
「それは別にいいが。何かあるのか」
「ふふん」
斑鳩は指をひとつ立てると、得意げな表情で口を開く。
「みなさんがお探しの、虎の新生に必要なメンバーがもう一人いるでしょう。そちらも既に捕捉済みどす」
そんな斑鳩を横目で見て、
「……見つけてるのは私なんだけどな」
青鷺が誰にも聞こえないくらい小さく呟いた。
*******
カグラは影狼に先導されてユキノを探していた。
「そろそろか」
カグラは木々に囲まれた緑豊かな公園へと入っていく。
そして、遠くにひとりでベンチに腰を掛け、視線を下に落としているユキノを見つけた。
「お──」
ユキノに呼びかけようとしたときだった。
突然、カグラは背後から口を塞がれる。
その謎の人物に対してすぐに反撃しようと試みたとき、その人物はそれを読んだかのようにひらりと離れた。
カグラは振り返ってその人物を睨み付け、次にその目を丸くした。
「お前、エリックか」
「シー」
エリックは口元に人差し指を当てて静かにするように促すと、手招きしてカグラを近くの茂みに呼び込む。
不信に思いながら付いていくと、そこには木陰や茂みに身を隠し、遠巻きにユキノを見つめる魔女の罪のメンバーたち。
「…………そなたらは何をしているんだ」
カグラは思わずじと目で睨んでしまう。
こんなアホみたいな光景を作り出している集団が、どいつも聖十級かそれに準じるレベルの実力を持つ魔導士たちだというのだから頭が痛い。だが、別に斑鳩殿も似たようなものだなと思い直して頭痛をおさめた。
カグラも彼らにならって身を隠す。
「で、もう一度聞くが何をしているんだ」
「てめえみたいな邪魔が入んないように見張ってんのさ。まあ、見てろ」
エリックに言われてユキノの方を見る。
すると一人、ユキノの前に立つ人影が現れた。顔には仮面をはめている。
「あれはソラノか?」
「そうだ」
カグラの言葉に隣のエリックが頷いた。
「元気がないな! 可憐な少女よ!!」
ソラノはなぜか芝居はがかった口調でユキノに言い放つ。
そこで、ユキノはようやく目の前の人物に気がついて視線を上げた。
「え、エンジェル仮面様!?」
「うむ。その通りだ」
エンジェル仮面のキャラがおかしな事になっている。ソラノも緊張していた。
「悩みがあるなら私が聞くゾ」
その言葉に、ユキノは少し迷った後、素直に悩みを打ち明け始めた。エンジェル仮面から感じる懐かしい空気がユキノの口を軽くしていたのかもしれない。
「私といると周りの人が不幸になるんです。今回も、私が関わったとたんにアルカディオス様はあのようなひどい目に会いました。私のせいで妖精の尻尾の皆様を危険に巻き込んでしまいました。餓狼騎士団との戦いでも。エンジェル仮面様が駆けつけてくださらねばどうなっていたことか……」
ユキノは涙を浮かべ、再び視線を下に落とした。
その姿にソラノの緊張はどこかへと吹き飛んでしまう。そして、自然な態度でユキノに歩み寄るとその頭を優しく撫でた。
そして、告げる。
「大丈夫──ユキノは悪くないゾ」
「──え?」
その言葉が、告げるエンジェル仮面の姿が、かつての姉と重なった。
「ユキノは優しいから全部背負い込んじゃうだけなんだゾ。だから、仲間と一緒に苦しみを分かち合えば、きっと前を向いて歩いて行ける」
ソラノがゆっくりと撫でていた手を離す。
「ユキノを待っている仲間が必ずいる。それは私が保証する。だからちゃんと、その子たちのところへ帰るんだゾ」
そう言って、ソラノはユキノに背を向けてその場を後にしようとした。
「待ってください!!」
それをユキノが、声を張り上げて呼び止める。
「お姉様、あなたはソラノお姉様なんですね!」
「……私に妹なんていないゾ」
「そんなはずはありません! あなたはソラノお姉様です! 私にはわかります! ずっと、もしかしたらそうなんじゃないかと思ってたんです!!」
押し黙るソラノに、ユキノはさらに言葉を続けた。
「私、ずっと探してたんですよ! 幼い頃、悪い人たちに連れて行かれてしまったお姉様を! 今回だって、私はお姉様を取り戻したくてエクリプス計画に手を貸したんです!!」
ユキノの両目から涙が溢れ出す。
「いつも、いつも私をかばってくれたお姉様が大好きで……」
「人違いだゾ」
「どうして、そんな意地悪を……」
沈痛な声色で話すユキノの声に、ソラノは肩を震わせた。
「お前には罪人の姉なんかいないゾ。私の妹は正しい世界で生きているんだゾ。罪人の姉なんかいちゃいけないんだゾ!」
「お姉様……」
「だから、だからいつか、私の罪が許される事があったら、妹を抱きしめてあげるんだゾ」
ソラノの足下に、ぽたぽたと雫が落ちる。
それを見て、ユキノは小さく笑みを浮かべた。
「その日はいつか来ますよね」
「その為に戦っているんだゾ。だから、今は私を許さないで……」
「生きていてくれるだけで十分です」
ユキノが笑顔を浮かべて涙を拭う。
ソラノは歩み去り、やがてその姿が見えなくなる。
「いい姉を持ったな、ユキノ」
「カグラ様!?」
突然声をかけられて振り返ると、そこにはカグラがいた。
「すまん。なりゆきで会話を聞いてしまった」
「それは構いませんが、なぜここに……」
「そなたの姉が言った通りさ。ちゃんと仲間のもとに帰るんだ」
そう言って、カグラがユキノの肩に手を置いた。影がカグラの手を伝ってユキノに触れたと思った時には、公園から二人の姿は消えていた。
後には見守っていた魔女の罪のメンバーたちが残される。
「なあ、ジェラール」
一同がジェラールの方に視線をやる。その視線にジェラールは頷いた。
「分かっている。折角のめでたい日だ。少し羽目を外すぐらい構わないだろう」
「よっしゃ! さすがリーダー、話が分かるぜ!!」
「全く、お前たちが騒ぎたいだけじゃないだろうな」
ジェラールははしゃぐ一同、主に元六魔勢の姿を見て苦笑した。
この夜、人気のない荒野の真ん中で、ソラノを主役に一晩中騒ぎ明かしたという。
*******
カグラに肩を叩かれたと思ったら、視界が一瞬で切り替わった。
「さあ、振り返ってみろ」
カグラに言われてユキノが背後を振り返る。
そこには、剣咬の虎の面々が集結していた。
「スティング様、ミネルバ様……皆様、どうしてここに…………」
ユキノは思わず目を丸くする。
そんなユキノに先頭のスティングが口を開いた。
「お前には、その……、いろいろ冷たく当たっちまって悪かった。これからオレたちは剣咬の虎を仲間を大切にするギルドにしたいと思っている」
そして、スティングがミネルバにしたのと同じようにユキノに手を差し、今度は頭も下げる。
「調子がいい話だとは思う。けど、戻ってきて欲しい」
「私なんかでいいのですか……」
「誰でもない、ユキノに戻ってきて欲しいんだ」
ユキノが他のメンバーたちを見渡せば、彼らも真剣な表情で頷いていた。
ついさっき、最愛の姉に言われた言葉を思い出す。
『ユキノを待っている仲間が必ずいる。それは私が保証する』
また、ユキノの頬を涙が伝った。
「なんて日なのでしょう。今日は涙が涸れてしまいそうですね」
だが、それは決して悲しみの涙ではない。
ユキノは屈託のない笑みとともにスティングの手を取った。
虎の新生を、斑鳩たちも傍らで見守っていた。
これからは仲間を大切にする、優しいギルドへと変わっていくはずだ。
それに手を貸すことができたと、誇らしく思うのは思い上がりすぎだろうか。
輪の中で憑きものが落ちたような笑みを浮かべているミネルバを見てふと思う。
(こうして、誰かを導ける立場になれるのなら、年を重ねることも悪い言葉ばかりではありまへんな)
かつての未熟な己を思い返しつつ、剣咬の虎の笑顔の輪を見て思いをはせるのだった。
ジエンマは青鷺に飛ばされた後、影狼を潰すとそのままどこかへ姿を消した。周辺を捜索してみたが見つからず、そのまま消息を絶ってしまう。
*******
数日後、大魔闘演舞打ち上げパーティーが華灯宮メルクリアスで開かれた。
参戦ギルドのメンバーは全員集合している。
「調子はどうだ、斑鳩」
「あら、エルザはん。万全とはいえないまでも、もう大分回復しました。右腕もほらこの通り」
そう言って、斑鳩は怪我をしていた右腕をぶんぶんと振り回す。その様子を見てエルザが苦笑した。
「さっきまで剣咬の虎のみなさんと話をされていたみたいどすが、どうなりました?」
「無事に和解が出来たよ。ルーシィも引きずる性格ではないからな。謝罪を素直に受け入れてそれで終わりさ」
「それはよかった」
妖精の尻尾と剣咬の虎による確執は四日目の海戦によるものだ。それさえ解消されたのなら問題は特になくなるだろう。
まあ、斑鳩としてはあそこまでされて素直に許せるルーシィの器量に驚くばかりではあるのだが。
「それにしても、お前はいつも通りの服装なのだな」
エルザが斑鳩の全身を見渡して言った。
王城のパーティーともあって、会場中を見渡せば誰もがきらびやかな服装をしている。エルザもまた同様だ。だが、斑鳩の服装はいつもと変わらない白い和服。
「いつも通りではありまへんよ。ほら」
斑鳩が手を広げてエルザに和服の模様を見せた。そこには十字の紋章があしらわれている。
「これは聖十の紋章か?」
「ええ、この服さえあればどんな場にでも出れるんどすよ」
斑鳩は正直、あまりきらびやかな格好は落ち着かない。
十九まで山に篭もって修行の日々。ギルドに入ってからはクエスト、クエスト、そしてクエスト。着飾るなどということとは無縁の日々だった。
「もったいないな。折角だしどうだ。今度一緒に服でも買いに行かないか?」
「ううん……遠慮しときます。そういうのはほら、カグラはんの方が似合いますよ」
斑鳩が会場の一角を示し、エルザもそちらに視線を向けた。
そしてエルザはほう、と感嘆の声を上げる。
「だから、似合わんと言っただろ……」
そこには綺麗なドレスで着飾ったカグラの姿があった。
「ううん、超似合ってるよ」
「綺麗だよカグラ」
「カグラなめちゃいけないねえ」
「カグラちゃんかわいい!」
ベス、アラーニャ、リズリー、ミリアーナがそろって褒め称えるが、当のカグラは顔を赤らめるばかりである。そして、カグラは視界の端に青鷺を見つけると思い切り睨み付けた。
「裏切り者め……」
着飾ることが性に合わないのは斑鳩だけでなくカグラと青鷺も同じであった。
人魚の踵のメンバーは総出で斑鳩たち三人を着飾らせようとしたのだが、斑鳩は聖十の紋章入りの服があるからと固辞。青鷺は普通に逃走した。全力で逃げた青鷺を捕まえられるはずもなく、結局カグラだけが捕まって今に至るのだ。
青鷺は会場の端っこで目立たないように気配を消しながら、黙々とごちそうを食べている。着ているドレスは青いシンプルなデザインのものだ。一瞬カグラの視線に気がついてそちらを向くが、睨むカグラを見つけるとすぐに視線を逸らし、見なかったことにして食事を再開するのだった。
「まったく、なぜ私だけ……」
「ちょっとカグラ、飲み過ぎだよ」
カグラは恥ずかしさを紛らわすように、ボトルを開けてどんどんと酒を飲み下していく。
そんなカグラの様子を見てエルザが口を開く。
「あれでは長く持ちそうにないな」
「そうどすなぁ。理性が残っているうちに話しておいたほうがいいんじゃありまへんか?」
「そうしたほうが良さそうだ。では、私はこれで失礼しよう」
エルザが席を外し、既に酔い始めているカグラのもとに向かった。
「ではうちも」
そう言って、斑鳩もグラスを片手に移動する。
「…………もう既に随分と飲んどるんどすな」
「お? あんたは人魚の」
まだパーティーは始まったばかりだというのに大量の空き瓶を転がすカナの姿に、斑鳩は引きつった笑みを浮かべる。
「私になんか用かい」
「ふふ、カナはんには三日目の競技でしてやられましたからなぁ。ぜひ、お話をと」
「ありゃ、これは大変なのに目をつけられちまったか」
そう言ってカナが呵々と笑った。
「悪いけど、あんたの期待には応えられないと思うよ。あれは借り物の魔法で期間限定だったんだ」
「あら、そうなんどすか。でも、魔法が借り物とはいえ、扱う魔導士に力がなければあんな威力は出せまへんよ。それこそ、潜在魔力はうちを上回るかもしれないと思うんどすが」
カナが複雑な表情で頭を掻いた。
「ああ……、まあ、それはあのクソ親父のおかげかな」
「クソ親父?」
カナの言葉に斑鳩が首を傾げていると、酔っ払ったマカオとワカバが入り込んできた。
「カナの親父はなんたってあのギルダーツだ!」
「そうだぜ、妖精の尻尾の最強魔導士さ!」
「おい! 余計なこと言うんじゃないよ!」
怒鳴りつけるカナだったが、既に斑鳩はその話に興味しんしんだ。
斑鳩の表情を見てカナが苦笑いを浮かべる。
「……その目、どうしても話を聞いてみたいって感じだね」
「ええ、ぜひとも」
しょうがないとカナは深く溜息をつくと、新たにボトルを一本開けて斑鳩のグラスになみなみと注ぐ。
「分かった分かった、話してやるよ。けど、代わりにとことん私の飲みに付き合ってもらうからね!」
「ええ、望む所どす!」
その後も、ナツが王様の格好をして登場したりと事件を含みつつ、パーティーは騒がしく進んでいった。和気藹々と、時に喧嘩をしながら大魔闘演舞で争った六ギルドの者たちは交流を深めていったのだ。
そして──、
「うう、き、気持ち悪い……」
「どうしたー。だれもいないのかー。わたしはまだのめるぞー」
会場にはカナに酔いつぶされた斑鳩と勝手に自滅したカグラが転がっていた。
二人を見下ろしながら、青鷺は深々と溜息をつく。
「……この二人はまったく」
宿まで運ぶのは影狼があるのでともかく、二人を介抱するために青鷺たちがさんざん苦労したことは語るまでもないことであった。