“夜叉姫”斑鳩   作:マルル

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定期更新にしようと思ったんですが不定期更新に戻します。
書けたら即投稿スタイルが私には合っているようです。


第四十話 大魔闘演武其ノ一

 それは大魔闘演武四日目の夜のことであった。

 ガジルが闘技場の地下にあるドラゴンの墓場を偶然発見。ナツ、ハッピー、ウェンディ、シャルル、グレイ、ルーシィはガジルに連れられてその場所を訪れていた。

 そこへ、フィオーレ王国軍クロッカス駐屯部隊桜花聖騎士団団長アルカディオスと臨時軍曹のユキノがやってきた。

 なぜユキノが軍に入っているのか疑問に思う一同に、アルカディオスがある作戦のために星霊魔導士の力が必要であるため、協力してもらっているのだと説明する。

 その言葉にルーシィはあることに思い至る。

 

「星霊魔導士の力って……。まさか、エクリプスのこと?」

「なんと、それをどこで耳にしたのだ!?」

 

 軍の機密であるはずの情報をルーシィが知っていたことに、驚きを隠せないアルカディオス。

 ルーシィは魔女の罪(クリムソルシエール)から聞いたことを明かした。

 

「魔女の罪。なるほど、姫がおっしゃっていた者たちか。世界の闇を狩る者たち」

「彼らの言葉が本当なら、扉は開かないと約束されているはずよ。なぜ開こうとしているのかしら」

「そ、そうなのですか!?」

 

 疑い深くアルカディオスを見つめるルーシィ。ユキノも初耳だったのか目を丸くしている。

 

「それは安易に開いてはならないという約束だ。今回はそれに当てはまらない」

「すぐに開かないといけない理由があるっていうの?」

「ここで話せるようなことでもない。ついてきたまえ。説明しよう」

 

 アルカディオスは身を翻すと歩き出した。疑いつつもアルカディオスに付いていくルーシィたち。エクリプスについて知らなかったガジルとリリィにはウェンディとシャルルが道中で説明した。もちろん、周りに人がいないことを見計らってである。また、アルカディオスは大魔闘演武二日目にルーシィを狙ったのは自分であることを明かして謝罪した。

 そうして案内されたのは華灯宮メルクリアス。中へと入り、地下へと下っていくと巨大な扉が現われた。

 

「これが、エクリプス……」

「でっけえな」

 

 見上げんばかりの巨大な扉が広い空間の中心にそびえ立っている。

 

「太陽と月が交差するとき、十二の鍵を用いてその扉を開け。扉を開けば時の中、四百年の時を渡り不死となる前のゼレフを討つ。ここまではいいかね」

「おおむね聞いた話と一致するわ。太陽と月が交差するときっていうのは初耳だけど」

「エクリプスの研究は進んでいる。七年前よりも分かっていることは多いのだ」

 

 そして、三日後の七月七日。日食が起こるその日に扉を開くことを告げ、その上でルーシィに協力して欲しいと頼んだ。

 そこでグレイが口を開く。

 

「おい待てよ。まだ扉をその日に開かなきゃなんねえ理由を聞いてねえ」

「そうだったな。……これはまだ、私と姫しか知らないことなのだが」

 

 その時である。

 

「そこまでだ!!」

 

 突然地下に王国兵がなだれ込んできた。王国兵はアルカディオスも含め、たちまち全員を取り囲む。兵たちの間から国防大臣のダートンが姿を現す。

 エクリプス反対派のダートンが強硬手段に出たのである。ダートンは有無を言わさずにアルカディオス、ユキノ、ルーシィの三人を拘束させた。

 

「ルーシィを巻き込むんじゃねえ!」

 

 ナツが抵抗しようとするが、魔法を使った途端にナツの魔力が全てエクリプスに吸い込まれた。大魔闘演武はエクリプスに魔力を供給するためのシステム。今、エクリプスの近くで魔法を使えば全魔力を吸い込まれてしまうのだ。

 ナツは気を失って倒れてしまう。グレイたちも魔法を使えなければ為す術はない。そのままルーシィたちは連れて行かれてしまった。

 

「私とて本意ではないことを理解して頂きたい。全ては国家のため。だが、一つだけ助言することもできよう。陛下が妖精の尻尾(フェアリーテイル)をたいそう気に入っておられる。大魔闘演武で優勝できたなら陛下に謁見する機会を与えよう。心優しき陛下ならば仲間の処遇についても配慮してくれるやもしれん」

 

 そう言い残してダートンが立ち去る。

 結局、グレイたちは扉を開かねばならない理由を聞くことは出来なかった。

 明けて翌日。妖精の尻尾はこれを受けて大魔闘演武の最終日当日、大魔闘演武出場班とルーシィ救出班に分かれて二正面作戦を行う事に決めたのだった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 ルーシィとユキノは同じ牢に入れられた。アルカディオスがどこに連れて行かれたのかは不明である。

 牢の中でユキノは膝を抱えてふさぎ込んでいた。

 

「まさかこんなことになってしまうなんて。私は本当に不運を呼ぶ」

「何言ってんの。落ち込む暇があったら脱出方法考えよっ」

 

 ユキノに対してルーシィは前向きだ。牢に捕まってなお笑みを浮かべ、謝るユキノにユキノのせいではないとはげました。

 そうこう話しているうちに、エクリプスを実行するべきかどうかという話に及ぶ。

 どちらが正しいか分からないというルーシィに対してユキノは実行するべきだと断言した。

 

「私には姉がいたんです。ソラノと言う名前でした。私は何をやってもドジばっかりしていつも両親に怒られてました。でも、姉はそんな私をいつでもかばってくれた」

 

 両親の怒りに晒され、泣いて蹲るユキノ。そんなユキノを両親から遮るように立ちはだかる姉の後ろ姿を今でも鮮明に覚えている。

 

『ユキノは悪くないゾ』

 

 いつも姉はそう言ってユキノをかばってくれたのだ。

 

「優しくて、綺麗で、私は姉が大好きでした。だけど、ある日ゼレフを妄信する集団に両親は殺され、姉は連れて行かれてしまいました。私は命からがら逃げ出す事しかできませんでした。その後の姉の生死は不明です」

 

 ぎゅっと膝を抱える腕に力が入り、目元には涙が浮かぶ。

 

「エクリプスを使えばゼレフを倒せます。この世界にゼレフがいなければ姉は……」

 

 ユキノの言葉はそこで途切れた。エクリプスを開くべきだというユキノの気持ちは分かった。しかし、ルーシィはでも、と思う。

 

(世界が自分の思い通りに変わるとは限らない。それが歴史を変える危険性……)

 

 しばらくの間、牢には沈黙だけが広がった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 ジェラールたちは大魔闘演武前日の七月五日、目を覚ましたルーシィから全てを聞いた。

 ルーシィはエクリプスを通って数日後の未来から来たこと。そして、七月七日に一万を超えるドラゴンの群れが襲来してフィオーレ王国が滅ぶことを告げたのだった。

 

「一万を超えるドラゴンの群れ……。ヒスイ姫は何らかの理由でこれを知り、エクリプスを開こうとしていると考えるのが妥当か?」

「でも、エクリプスはあくまでゼレフを討つための計画。一万のドラゴンとは繋がらないゾ」

「いや、一万のドラゴンなんて現実的に考えてあり得ないわ。ゼレフがなんらかの手段で呼び出したとも考えられるんじゃない?」

「少なくともこの七年。イシュガル中を回ってもドラゴンの一匹とも遭遇しなかったしね」

 

 考え込むジェラールにソラノ、ウルティア、メルディも各々の考えを述べていく。

 

「ゼレフだからって一万のドラゴンを使役できるものなのか? 私はちょっと疑問だゾ」

「確かにそうね。ドラゴンは人間よりもはるかに高位の生物だと言うわ。だけど、土塊から悪魔をも作り出してしまうゼレフなら、と思えてしまう。多くのことが出来てしまうだけに、私たちでは限界を想像できないのが痛いわね。やっぱり、手がかりは何も思い出せないかしら、ルーシィ」

 

 そう言って、ウルティアは隣に腰をおろしていたルーシィに問いかけた。

 

「ごめんなさい。その時、あたしは牢の中にいたから何もわからないの。本当にごめんなさい……」

 

 申し訳なさそうにルーシィは俯いた。すかさずウルティアがフォローする。

 

「責めるつもりはないのよ。この情報を持ってきてくれただけで助かってるんだから」

 

 そこで、メルディが何かに思い至ったように口を開いた。

 

「エクリプスって過去に繋げるんだよね。誤作動して扉からドラゴンが来たって線はないのかな?」

 

 ジェラールが頷き、だがと続ける。

 

「そうすると扉を開く理由がなくなるんだ。ドラゴンが扉を潜ってやってくるなら、扉を開くためにドラゴンが襲来する以外の理由が別にあることになる」

「確かに」

 

 ヒスイ姫との約束がある以上、開くだけの脅威が存在しなければ扉は開かないはずだ。

 

「姫が単純に約束を破った結果ということもありえるゾ」

「そのような人だとは思えんが、その可能性も大いにある。なんにせよ現状では答えを出せそうにない。幸い襲来は日付が七日に変わった直後という。ならエリックが真実を聞き取るには十分な時間があるということだ。今はただ待つとしよう」

「そうね」

 

 そこで、ルーシィがおずおずと口を開く。

 

「あの、あたしは城に捕まるみんなを助けに行かないといけないから、そろそろ失礼してもいいかしら……」

「ああ、そのことか」

 

 ルーシィの話によれば、一度はナツたちの手で救出されるルーシィとユキノだったが、迷ったあげくにエクリプスに辿り着いてしまったせいで魔法が使えなくなり、再度ナツたちを含めて全員が拘束されるのだという。そうならないため、ナツたちを脱出させる手引きをしなければならないというのがルーシィの話だ。

 

「しばらく待ってもらえないか? オレたちにも人員はいる。姫の調査だけでなく、君の手伝いにも人員を割けるだろう」

「それに、ナツたちとの合流は地下でする予定なんでしょ? リチャードがいれば地面の中を潜って移動もできるし助けになるわよ」

「救出には私も力を貸すゾ」

「ソラノはユキノちゃんが心配だもんね」

「みんな……」

 

 四人の言葉に、ルーシィの目元に涙が浮かんだ。絶望の中、無我夢中でエクリプスを開いて過去へと戻った。だが、ルーシィは解決策を持っていたわけでもない。過去に渡ってなおルーシィは絶望の中にいた。

 だが、ジェラールたちは疑いもせずにルーシィの言葉を信じて対策を講じてくれている。なんと頼もしいのだろうか。もしかしたら、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 七月六日、大魔闘演武最終日。

 花火がいくつも打ち上げられ、まだ始まる前だというのに闘技場は大いに賑わっていた。

 

『いよいよやって参りました! 魔導士たちの熱き祭典、大魔闘演武最終日!! 泣いても笑っても、今日優勝するギルドが決まります!!』

 

 最終日は実況チャパティ、解説ヤジマ、そしてゲストには大会マスコットのマトー君が迎えられて行われる。

 

『今日は審判のお仕事はよろしいのですか?』

『今日は大丈夫カボ。みんながんばるカボー』

 

 そして、選手入場の時間を迎えた。選手たちは下位から順番に入場することになっている。

 四つ首の仔犬(クワトロパピー)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)と闘技場に姿を現し、続いて現在三位の剣咬の虎(セイバートゥース)が登場する。

 

『おや? 何か雰囲気が変わりましたね』

『気合いを入れ直スたのかね?』

『かっこいいカボー!』

 

 確かに身に纏う衣装が変わっているが、雰囲気の変化はそれだけではないように感じられた。観客も多少ざわめいたが、次のチームが登場する段になって再び活気を取り戻す。

 

『そして現在二位! 一位となり、七年前最強と言われていたギルドの完全復活の日とできるか!? 妖精の尻尾入場!!』

 

 初日では考えられなかった歓声とともに入場する妖精の尻尾。しかし、その姿を見て再び観客たちがどよめいた。

 

『おや!? こちらは何とメンバーを入れ替えてきた!!』

 

 先日大活躍したナツが抜け、代わりにジュビアが入っている。ナツを楽しみにしてきた観客も多く、惜しむ声が上がった。

 だが、まだチームは出揃っていない。

 

『そして現在一位! 再びフィオーレ1の座を手に入れるのか!? 初代優勝メンバーの三人が率いる人魚の踵(マーメイドヒール)の登場だ!!!』

『オオオオオ!!!』

 

 斑鳩たちは闘技場へと足を踏み出す。迎えいれるのは大歓声。

 

「……凄いね。六年前に優勝を決めたとき以上じゃない?」

「うちらが出ない間にも、大魔闘演武はどんどんと人気をあげていきましたからなぁ」

 

 五人は大歓声の中、堂々と歩みを進めた。

 

「みゃあ、こんな大歓声初めてだよ」

「私もさ。気持ちの良いものだね。ちょっと緊張はしちゃうけど」

「ふふ、気負う必要はない。祭なのだから楽しめばよいのだ」

 

 態度はともかく、内心少し緊張していたミリアーナとアラーニャに、カグラがリラックスできるようにと微笑みかけた。

 こうして参加する全選手が闘技場に集結する。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 丁度その頃、ジェラールたちとエリックたちが合流。魔女の罪が集結した。

 

「はあ、はあ……。死ぬ、まじで死ぬ……」

 

 グロッキーなのは長距離を乗り物で移動したエリック、――ではなくソーヤーだった。

 

「助かったぜ。おかげで気分がいいや」

「お、覚えてろよてめえ……。貸しだからな……」

 

 エリックが到着しても乗り物酔いで動けなくなっていては困る。ということで、ソーヤーがエリックを担いで走ったのだ。全てではないが、クロッカスに向かうラストスパートでは半日以上走りっぱなしだった。

 

「長旅で疲れているところ悪いが、早速仕事に取りかかりたい。こちらで掴んでいる事態を説明させてくれ」

「分かりましたデスネ」

 

 ジェラールから現状を聞かされる四人。エリックたちもこちらに向かう途中、特に異常はなかったことを伝える。

 情報共有をした後、華灯宮調査班と救出班の二手にメンバーを分けることになった。

 

 

 華灯宮調査班。

 ジェラール、エリック、マクベス、ソーヤー。

 

 

 救出班。

 ウルティア、メルディ、リチャード、ソラノ、ルーシィ。

 

 

 いざクロッカスへという段になって、ソーヤーがマクベスに声をかける。

 

「おいマクベス。お前の空飛ぶ絨毯貸してくれ。魔導二輪に乗る元気もねえんだ」

「嫌だよ。君の汗で汚れるだろう」

「いいじゃねーか! 洗濯はしてやるから!!」

 

 マクベスは聞く耳持たずについと顔を逸らした。

 

「ウルティア。ソーヤーの第三魔法源(サードオリジン)を解放してあげたらどうだい。そしたらまだ走れるはずさ」

「しょうがないわね。さあ、心の準備はいいかしら」

「いいわけねーだろ! オレを再起不能にする気か!!」

 

 がやがやと騒ぎ立てるソーヤーたちに頭を抱えるジェラール。

 

「ウルティアまでのるんじゃない」

「ふふ、ごめんなさいね」

「まったく、早く行くぞ。ソーヤーはオレが担いで行ってやる」

「さすがリーダー、話が分かるぜ!」

「頼むからもう少し緊張感を持ってくれ……」

 

 疲れたように溜息をつくジェラール。そこにリーダーとしての苦悩が少し見て取れる。

 

「だ、大丈夫なのかしら……」

 

 つい先日までの評価から一変。ルーシィは少し不安になった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

『己が分を、魔を、そして仲間との絆を示せ! 最終日、全員参加のサバイバルゲーム“大魔闘演武”を開始します!!』

 

 実況の声が響く。だが、闘技場に参加する魔導士たちの姿はない。全員が集結してすぐに闘技場を後にしたのだ。

 

『バトルフィールドとなるのは何とクロッカスの街全域。各ギルドのメンバーはすでに分散して待機しています。街中を駆け巡り、敵ギルドのメンバーと出会ったら戦闘となります。

 相手を気絶、戦闘不能にするとそのギルドに直接1Pが加算されます。

 また、各ギルドには一人だけリーダーを設定してもらいます。これは他ギルドには誰がリーダーかは分かりません。リーダーを倒せば5P加算されます。

 これで最多ポイントの理論値は45。どのギルドにも優勝の可能性はあります。チーム一丸となって動くか分散するか、戦略がわかれるところです』

 

 実況の説明が流れている間、斑鳩たちは街の一角で円陣を組み、中心で手を重ねる。

 代表してリーダーの斑鳩が言葉をかける。

 

「うちらは現在一位。ですが油断してはいけまへん。全力を持って臨み、魔闘を楽しみ、ギルドへフィオーレ1の称号を持ち帰りましょう」

 

 そして、試合開始の銅鑼が鳴る。

 

「絶対勝つぞ!」

「オオォ!」

 

 かけ声とともに重ねていた手を跳ね上げて散開した。

 斑鳩、カグラ、青鷺は単独行動。ミリアーナとアラーニャは二人一組で行動する作戦だ。

 

『始まりましたね、最終戦』

『やはり分散スて各個撃破の作戦をとるチームが多いね』

『みんな頑張るカボー!』

 

 各チームの動きを観察する実況席と観客たち。彼らは開始直後、すぐにその異常に気がついた。

 

『あーっと、これはどうしたのでしょうか!? 妖精の尻尾、全員目を閉じたまま動いてないぞ!!』

 

 その奇妙な行動に、他の妖精の尻尾のメンバーたちでさえ慌てている。

 実際に競技をしている魔導士の中ではルーファスと、少し遅れて青鷺が妖精の尻尾の奇妙な行動に気がついた。

 

「……いったい何を考えているのか」

 

 青鷺はその行動が気になり、影狼を使って妖精の尻尾を見渡せる小高い建物に転移した。影狼を使って各地の状況を確かめつつ、妖精の尻尾がどんな動きを見せてもいいように準備をする。

 そうしている間に街では最初の接敵があった。

 

「オレが魔法を封じてる間に」

「おおーん!!」

「二人かよ。――ぐはっ!」

 

 二人組で行動していた蛇姫の鱗のユウカとトビーが四つ首の仔犬のノバーリを撃破。

 蛇姫の鱗は四つ首の仔犬を狙っていたのか、さらにリオンがセムスを、ジュラがイェーガーを撃破し、一気に3Pを獲得する。

 

 

 四位 蛇姫の鱗38P

 

 

 勢いに乗る蛇姫の鱗。だが、ユウカとトビーの前にやられてばかりはいられないとバッカスが姿を現す。

 

「あんまり甘く見てんじゃねーぜ」

「バッカス!」

 

 戦闘の構えをとる三人。

 

「――あ?」

 

 しかし戦闘が始まる直前、バッカスが頭上に気配を感じて顔を上げる。だが、気づくのが少し遅かった。スティングの奇襲を受けてバッカスは地面に叩きつけられて気絶。四つ首の仔犬のリーダーを倒したことで剣咬の虎に5Pが加算され、妖精の尻尾を超えて二位に浮上する。

 

 

 二位 剣咬の虎46P

 三位 妖精の尻尾45P

 

 

「やられたちくしょう!」

「二人でこいつやっつけんぞ!」

 

 標的をバッカスからスティングへと変更し、倒そうと意気込むユウカとトビー。

 スティングはそんな二人の後方を見て驚いた表情を浮かべた。

 

「割り込み御免」

「なっ!」「おがっ!」

 

 後方より現われたのはカグラ。ユウカとトビーを斬って捨て2Pを獲得。スティングはカグラに気がついた瞬間に逃亡を始めていたので取り逃してしまった。

 剣咬の虎ではジュラ、斑鳩、カグラとの戦いは消耗するだけなので後回しにしようと作戦を立てていたのだ。

 

「逃げ足の速いことだ」

 

 一方、ミリアーナとアラーニャも四つ首の仔犬のロッカーを撃破。

 カグラと合わせて人魚の踵は3Pを獲得する。ちなみに、これで四つ首の仔犬は全滅である。

 

 

 一位 人魚の踵51P

 

 

「いえーい! やったねアラーニャちゃん!」

「なにげに私は今大会初ポイントなのよね」

 

 手を叩いて喜びを分かち合うミリアーナとアラーニャ。引き続き敵の捜索に行こうとしたときである。

 

「小魚風情が浮かれるでない」

「――っ! 誰!?」

 

 二人が声のする方向に視線を向ければ、いつの間にかミネルバが姿を見せていた。

 

「ミネルバ……」

「さて、蜘蛛女はどうでもよいが、猫女は何かと利用できそうだ」

「くっ! やるよアラーニャちゃん!!」

「ああ!」

 

 直後、闘技場ではアラーニャの脱落がコールされ、剣咬の虎に1Pが加算される。

 

 

 二位 剣咬の虎47P

 

 

 その頃、いまだ動かない妖精の尻尾に応援席のメンバーたちは焦っていた。

 

「何のマネじゃ! ルーシィを助けるために勝たなきゃならんのだぞ!」

 

 怒鳴ったのはマカロフであるが、他のメンバーたちも気持ちは同じである。

 

「だからこそ。だからこそ冷静にならねばなりません」

「――!?」

 

 マカロフの言葉に応じたのは、妖精の尻尾初代マスターのメイビスである。

 

「私は今までの四日間で敵の戦闘力、魔法、心理、行動パターン、全てを頭に入れました。それを計算し、何億通りもの戦術をシミュレーションしました。敵の動き、予測と結果、位置情報、ここまで全て私の計算通りです」

 

 そこで突然、メイビスの雰囲気が変わる。普段の癒やされるような雰囲気から、隣にいたマカロフをぞわりとさせるほどの冷たい雰囲気へと。

 

「後は機を待つだけです」

「機、ですかな?」

「ええ」

 

 そう言うメイビスは闘技場の空中に浮かび上がる、大魔闘演武の様子を映し出した魔水晶映像(ラクリマビジョン)の一つを食い入るように見つめていた。

 

 

 斑鳩は敵を探して街を彷徨い歩いている。索敵の天之水分は最低限の範囲でしか使っていない。天之水分は範囲内の形を把握し、人間がどこにいるのか判別できるがそれが誰でどの程度の魔力を持っているのかまでは判断できない。

 元々索敵用の魔法ではないこともあり、範囲を広げればそれだけ爆発的に魔力の消耗も増える。だから、不意打ちを防げる程度にとどめることが最良の使い方なのだ。

 だからこそ、意図してその人物と遭遇したわけではない。

 

「これはこれは、縁があると言うべきどすか」

「全くですな。こうも早く決着をつけることになろうとは」

 

 巡り会ったのは聖十のジュラ。バトルパートで戦うことかなわず、決着をつけられるのは今日しか存在しない。そう思っていた矢先のことである。

 

「ふふ、いいんどすか? 聖十同士の戦いは天変地異すら引き起こすと言います。あまり望まれているものではありまへんよ」

「ご冗談を。今更刀を納める気などないでしょうに」

 

 互いににやりと笑う。

 斑鳩は腰の刀に手をかける。ジュラは合掌して魔力を高めた。

 

「しっ!!」

「はあっ!!」

 

 そしてクロッカスの街の中、莫大な魔力がぶつかり合った。

 

 

 その魔力の激突はクロッカスに散らばる魔導士の誰もが感知した。

 

「今です! 妖精の星作戦発動!!」

 

 メイビスが観客席で叫びを上げる。

 同時、妖精の尻尾の五人が目を開いて散開した。

 

『妖精の尻尾が動いた!!』

 

 実況と観客もどう動くのかと注目する。

 ルーファスはその動きを把握していたが、星降ル夜ニは一日目の競技で既に攻略されているため手を出さなかった。

 メイビスが言う。

 

「まず、真っ先に倒しておかねばならない魔導士がいます」

「倒さねばならない魔導士ですか……。それは一体……」

「市街戦においては最も厄介な相手、――人魚の踵の青鷺です」

 

 青鷺は散開した妖精の尻尾のメンバーのうち、ラクサスを直接追っていた。

 斑鳩は三日目にラクサスの戦いを見て聖十大魔導級と評した。しかし、斑鳩とジュラがぶつかった以上ラクサスを止められる戦力がいないことになる。

 そこで青鷺はラクサスの戦いを影ながら妨害して消耗させようと動いたのである。事実、影狼と転移を駆使すれば討てないまでも十分に可能な作戦である。それに仮にラクサスが青鷺を標的にしたとして、逃げに徹されたら青鷺を捕まえるのは困難だ。

 しかし、その考えも、青鷺が潜んでいる位置も、メイビスを通じてラクサスには筒抜けだった。

 

「――!」

 

 青鷺に気付いたそぶりも見せなかったラクサスが、青鷺の方を見ることなく的確に雷を放ってきた。

 完全に虚をつかれた形になったが、さすがの反応と言うべきか。高速で迫る雷が到達するよりも早く、反射的に近くの影狼の場所に転移した。

 

「……今の反応、完全に私の居場所に気付いていた。まさか探知系の魔法を隠して――!」

 

 その時である、後方より飛来するものに気がついた。

 

(……だめだ! インターバルが)

 

 なんとか躱そうとするも努力むなしく青鷺に直撃。

 

(……これは氷!?)

 

 青鷺に直撃したのは氷の矢。見れば、まだ次々に氷の矢が飛んできている。

 その延長線上、遠くに見える高い建物の屋上に人影が見えた。

 

「……グレイ」

 

 氷で作った弓を手にしたグレイ。

 この遠距離で直撃させる技量もとんでもないが、問題はそこではない。矢の速度とグレイの位置からして、明らかに青鷺が転移してくる前に矢を打ち込んできている。

 

(……ラクサスは探知できていたわけじゃない。妖精の尻尾は私の動きを全て読んでいたんだ)

「……く、無念」

 

 氷の矢の雨を浴びて青鷺は地に伏した。そして、妖精の尻尾に1Pが加算される。

 

「満足とは言えねえが。ひとまずこれで借りを一つ返したって事にしとくぜ」

 

 グレイはそう呟くと、次の目標位置へと移動を始める。

 

 

 三位 妖精の尻尾46P

 

 

 その後、妖精の尻尾の怒濤の追い上げが始まる。

 エルザが青い天馬のジェニーを撃破。

 ガジルが同じくレンとイヴを撃破し、一人逃げたヒビキを先回りしていたグレイが倒す。

 これで、合計四人を倒してさらに4Pを獲得し、一気に二位へと躍り出たのだ。

 

 

 二位 妖精の尻尾50P

 三位 剣咬の虎47P

 

 

 その後も、的確に状況を言い当てていくメイビスにマカロフはさらに畏敬の念を強める。

 

「お、思い出したぞ。初代の異名。その天才的な戦略眼をもって数々の戦に勝利をもたらした。――妖精軍師メイビス」

 

 可愛らしい見た目と性格から忘れがちだが、妖精の尻尾の創始者であり偉大な人物であるということを改めて認識させられる妖精の尻尾の面々だった。

 

 

 一夜が氷付けにされたヒビキのもとへと駆けつける。既に妖精の尻尾の面々の姿は無い。

 

「一夜さん、申し訳ありません……」

 

 ヒビキの呟きに、一夜はしっかりと頷いた。

 

「うむ、後は私にまかせ――ぽぎゅ!」

 

 しかし、突然降り注いできた岩石群が一夜を押しつぶす。斑鳩とジュラの戦いの余波である。

 一夜も魔法の香り(パルファム)さえ使っていれば相当の実力者なのだが、逆に香りを嗅いでいないと並の魔導士以下である。香りを嗅いでいなかった一夜はそのまま気絶。意図せず蛇姫の鱗に5Pが加算される。

 

 

 四位 蛇姫の鱗 43P

 

 

 また、これにより青い天馬も全滅したのだった。

 

 

 途中経過。

 

 

 一位 人魚の踵51P

 残りメンバーは斑鳩、カグラ、ミリアーナ。

 

 

 二位 妖精の尻尾50P

 残りメンバーはエルザ、ラクサス、ガジル、グレイ、ジュビア。

 

 

 三位 剣咬の虎47P

 残りメンバーはミネルバ、スティング、ローグ、オルガ、ルーファス。

 

 

 四位 蛇姫の鱗43P

 残りメンバーはジュラ、リオン、シェリア。

 

 

 五位 青い天馬31P

 全滅により順位確定。

 

 

 六位 四つ首の仔犬16P

 全滅により順位確定。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 魔女の罪はクロッカスに入る直前で二班に分かれる。

 救出班はリチャードのリキッドグラウンドで地面に潜りながら移動、調査班はマクベスの反射(リフレクター)で光を屈折させて姿を隠しながら移動する。

 ジェラールたちは華灯宮の一角、人気がない場所に潜伏した。

 

「すげえ魔力。こりゃあ、斑鳩が全力出してるみてえだな」

「彼女が全力を出すほどの相手というとジュラかな」

 

 ソーヤーとマクベスがまさに大魔闘演武が行われているクロッカスの街並を眺めながら話している。街の一角では岩石と、時折炎が舞っていた。

 一方、エリックは耳を澄まして情報収集を行っている。

 エリックが一つ息をついたのを見計らってジェラールが声をかけた。

 

「どうだ、何かわかったか」

「ああ、いろいろとな。まず、姫が扉を開く理由は一万のドラゴンに対抗するためで間違いねえ」

「やはりか。ならば、ドラゴンの出現にはゼレフが関わっているのか?」

「いや、それは分からねえ。だが、扉を開くのは時間を渡るためじゃねえんだと」

「なんだと? ならば何故開く」

 

 ジェラールが怪訝そうに眉を寄せた。時を超える扉を、時間を渡る以外の理由で開くなど考えられない。

 

「エクリプス2計画。これまで溜め込んだ魔力はエーテリオンにすら匹敵する。それをエーテリオンさながらにドラゴンの大群に撃ち込むらしい」

「エクリプスにそんな使い道があるのか? エーテリオンに匹敵する魔力を溜め込んでいたとして、それを撃ち出す機構が扉にあるとは思えない」

「姫自身、この使い方を知ったのは最近みてえだ。未来から来た男によって教えられた」

「未来から来た男だと? ルーシィ以外にも時を渡ってきた人間がいたのか」

「最も、時を渡ってきたなんて姫は半信半疑みてえだがよ」

 

 それもそうだ、とジェラールが頷く。

 

「普通はとても信じられるような話ではないからな」

「だが、エクリプスなんて代物に関わってんだ。男の言うことを嘘だとは斬り捨てず、男が言う大魔闘演武の決着の仕方が当たっていたなら、未来から来たことを素直に信じて扉を開くらしい。……ちっ、ネタバレくらったぜ」

「どうせ大魔闘演武なんて見ていられる状況じゃないんだからいいだろう。しかし、なるほどな……」

 

 これで、ここ最近起こっていた事態を大まかに把握することが出来た。だが、そうすると問題が一つ残る。

 

「エリック、その未来から来た男が何者なのかは分からないのか? そいつが信用に足る人物とは限らないだろう」

 

 エリックは首を横に振った。

 

「ダメだな。姫の心の声を聞くだけじゃ分からねえ。さっきから本人を探してんだが中々見つけられねえんだ」

 

 エリックはどれだけ声が多くとも、知り合いの心の声ならばすぐに聞き分けて見つけることが出来る。だが、今回は未来から来た男という情報しかない。

 一人一人心の声を聞いて精査して判別しなければならないのだ。難易度は格段に高かった。

 

「まだ時間はある。なんとか探し出してくれ」

「分かってる。もうちょっと待ってな」

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 ルーシィ救出のために華灯宮に向かったナツたちは、ミラジェーンの変身魔法を駆使して潜入を果たす。しかし、その動きは華灯宮側に把握されていた。

 罠にかかって地下の奈落宮へと落とされたナツたち。周囲に出口は見当たらず、天井も塞がれている。

 それでも出口を探して彷徨い歩いていると、ボロボロになって倒れているアルカディオスを発見した。

 助けおこしたナツたちに、アルカディオスは痛む体を震わせながら呟きを発した。

 

「逃、げろ……」

 

 直後、襲撃を受けるナツたち。

 アルカディオスによれば襲撃者たちの名は餓狼騎士団。影から王国を支える独立部隊であり、王国最強の処刑人集団。

 戦いの最中、ナツの咆哮で天井の一部が崩落。分断されることになる。

 

「うう……」

 

 ルーシィが呻きつつ体を起こす。周りにはユキノ、ハッピー、シャルル、アルカディオスしかいなかった。

 

「もしかしてみんなとはぐれちゃった?」

 

 もう一度辺りを見回すが、やはり他の人影は見つからない。

 

「よりによって戦力の無い者同士が一緒になっちゃうとか……」

「鍵もないですしね」

 

 心配になるシャルルにユキノが同意する。

 そして不安は的中。餓狼騎士団の一人が姿を現す。

 

「処刑人ウオスケ」

 

 そう名乗った男はどことなく抜けた顔つきをしている。正直、とても強そうには見えない。

 

「こんなの魔法なくても勝てるんじゃないの」

 

 ハッピーの言葉に、シャルルも確かにと同意する。

 

「そんな事言ったら怒っちゃうぞー」

 

 ウオスケが反論するが、その言葉には抑揚がなく力もこもっていない。

 

「勝てるかも! ザコっぽい」

「はい!」

 

 希望が見えて浮かれるルーシィとユキノだったが、アルカディオスの表情はなおも暗い。

 

「いかん、ぞ……。奴は処刑した者の骨すら残さぬと言う……」

「え?」

 

 その言葉が誇張でないことを、直後に身をもって知ることになる。

 

「地形効果・溶岩帯!」

「崩れ……!」

「きゃあ!」

 

 ルーシィとユキノの足下が崩落する。その下には煮えたぎる溶岩が待ち構えていた。

 

「くっ」

 

 なんとか崩落していない地面に捕まり、溶岩への落下は免れる。だが、熱によって体力を奪われ、汗で滑って中々地面の上に這い上がれない。

 

「今行くよ!」

 

 ハッピーとシャルルが背中に翼を生やし、二人の救出に向かおうとする。しかし、ウオスケが手をひょいと返すと、ハッピーとシャルルの体は制御を失って浮かび上がった。

 

「地形効果・重力帯!」

「ぐぎゃっ」

 

 続いておこなったのは重力変化。ハッピーとシャルルは地面に叩きつけられてそのまま動けなくなる。

 ルーシィとユキノも長くは持ちそうにない。まさに、絶体絶命。

 

(二人を失うわけにはいかない。私が助けなければ……!)

 

 アルカディオスが覚悟を決める。溶岩の中に飛び込み、二人を地面の上に押し上げる。

 そう覚悟を決めたときだった。

 

 

 ――アルカディオスの横を純白の翼が横切った。

 

 

「なん、だ……?」

 

 翼は真っ直ぐとルーシィとユキノのところへと向かい、ひょいと二人を持ち上げると安全な地面へとゆっくり下ろす。

 

「タ、タイ?」

 

 ウオスケが想定外の乱入者に驚き、その乱入者を観察する。

 マントを羽織り、フードを深く被っている。純白の翼はマントを押し上げるように生えており、フードの中からは翼と同じ純白の髪が伸びていた。そして、その素顔は仮面によって覆われている。

 ユキノはその人物を見上げて思わず呟く。

 

「あ、あなた様はいったい……」

「私の名前はエンジェル仮面。覚える必要はないんだゾ」

 

 それだけを言うと、翼をばさりとはためかせてウオスケに向き直る。

 

「さあ、かよわい女の子を襲う悪い子には、この私がお仕置きしちゃうゾ!!」

 

 エンジェル仮面はそう言って、びしりとウオスケに指を差したのだった。

 




○こぼれ話
元六魔勢は原作のように捕まっていた事によるブランクがなく、七年間闇の勢力と戦い通しだったこともありかなり強化されている。また、魔法習得の時間もあったと言うことでソラノとソーヤーの魔法は原作から変更しています。

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