“夜叉姫”斑鳩   作:マルル

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記憶造形に関する独自解釈を多分に含みます。


第三十六話 隠密

 大魔闘演武当日、会場は大歓声に包まれていた。

 

『今年もやってきました! 年に一度の魔法の祭典、大魔闘演武!!』

 

 やがて開幕の時間が迫り、実況の声が会場に拡声される。

 実況はチャパティ・ローラ、解説は元評議員であるヤジマによって行われる。

 日替わりで呼ばれるゲスト席には青い天馬(ブルーペガサス)のジェニー・リアライトが腰をかけていた。

 

『さあ、いよいよ選手入場です』

 

 チャパティの口上とともに続々と選手が入場してくる。

 

 

 予選八位通過。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチーム。メンバーはナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ、エルフマン。

 

 予選七位通過。

 四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)。メンバーはロッカー、ウォークライ、イェーガー、ノバーリ、セムス。

 

 予選六位通過。

 青い天馬(ブルーペガサス)。メンバーは一夜、ヒビキ、イヴ、レン、謎のうさぎの着ぐるみ。

 

 予選五位通過。

 蛇姫の鱗(ラミアスケイル)。メンバーはジュラ、リオン、シェリア、トビー、ユウカ。

 

 予選四位通過。

 大鴉の尻尾(レイヴンテイル)。メンバーはアレクセイ、オーブラ、フレア、クロヘビ、ナルプディング。

 

 予選三位通過。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチーム。メンバーはラクサス、ミラジェーン、ガジル、ジュビア、フリード。

 

 予選二位通過。

 人魚の踵(マーメイドヒール)。メンバーは斑鳩、カグラ、青鷺、ミリアーナ、アラーニャ。

 

 予選一位通過。

 剣咬の虎(セイバートゥース)。メンバーはスティング、ローグ、オルガ、ルーファス、ユキノ。

 

 

 以上で出場ギルドが出揃った。中でも、剣咬の虎が入場したときには一際大きい歓声があがり、その人気の程が見て取れる。

 斑鳩、カグラ、青鷺、ミリアーナの四人はその剣咬の虎のメンバーを見て、ひそひそと小声で言葉を交わす。

 

「あれが、ソラノはんの妹どすか?」

「……あんまり似てないね」

「姉妹と言っても双子ではないのだ。そんなものだろう」

「みゃあ。でも、あの綺麗な白い髪は一緒だよ」

 

 アラーニャは何の話しかわからず首を傾げている。

 

「なんでしょう、あの方たち……」

 

 ユキノもまた斑鳩たちの視線に気が付いて、怪訝そうに眉間に皺を寄せた。いずれともどこかで知り合った覚えはなかった。

 

『では、皆さんお待ちかね。大魔闘演武のプログラム発表です!』

 

 闘技場の中心に巨大な石版が出現する。そこには次のように記されている。

 

 

 DAY1 hidden+battle

 DAY2 ???+battle

 DAY3 ???+battle

 DAY4 ???+TAG battle

 DAY5 ?????? 

 

 

 一日に競技とバトルをそれぞれ行う形である。

 競技では一位から八位まで順位がつき、順位に応じて次のようにポイントが振り分けられる。

 

 

 一位 10ポイント

 二位 8ポイント

 三位 6ポイント

 四位 4ポイント

 五位 3ポイント

 六位 2ポイント

 七位 1ポイント

 八位 0ポイント

 

 

 また、競技パートでは自由にメンバーを選出することができる。

 続いて、バトルパートではファン投票の結果などを考慮して主催者側でカードを組むらしい。

 

 

 Aチーム vs Bチーム

 Cチーム vs Dチーム

 Eチーム vs Fチーム

 Gチーム vs Hチーム

 

 

 このように一日四試合が行われ、勝利チームに10ポイント、敗北チームに0ポイント、引き分けの場合は両者5ポイントが入るようになっている。

 

『では、これより大魔闘演武オープニングゲーム”隠密(ヒドゥン)”を開始します。参加人数は各チーム一名。ゲームのルールは全選手出揃った後に説明します』

 

 一通りのルール説明が終わり、いよいよ競技を行う段となる。

 

「ふむ、競技に出るメンバーはこちらで決めて良いと言うことどすがどうします? ルールは直前までは分からないみたいどすが」

「……私が行くよ。字面的に私が適任そうだから」

 

 青鷺が一歩前に出た。他の面々からも反対はない。

 

「青鷺、思う存分やってこい」

 

 カグラが激励の言葉を送る。それに続くように他の三人からも応援の言葉をかけられ、青鷺はしっかりと頷いた。

 他のチームも選出が終わり、参加者は闘技場の中心で一堂に会する。

 

 

 剣咬の虎、ルーファス。

 人魚の踵、青鷺。

 妖精の尻尾B、ジュビア。

 大鴉の尻尾、ナルプディング。

 蛇姫の鱗、リオン。

 青い天馬、イヴ。

 四つ首の猟犬、イェーガー。

 妖精の尻尾A、グレイ。

 

 

 以上の八人が参加者である。

 青鷺が立っていると、リオンとジュビアと三人でなにやらもめていたグレイが、逃げるように青鷺の近くに寄って来た。

 

「よう、お前にはまだ楽園の塔での借りが返せてなかったな」

「……借り? 私が負けてたと思うけど」

「あんなのは勝ちに入るかよ。ショウと二対一だったんだ。今回は覚悟しておけよ」

「……そっちこそ、七年での私の成長にビビるといい」

「そりゃ楽しみだ」

 

 ところで、と青鷺はグレイの隣に目を向ける。そこには先ほどからジュビアが頬を膨らませて嫉妬の視線を送ってきていた。ジュビアから逃げるように青鷺に寄っていったのだ。当然のリアクションであった。

 

「……私をいざこざに巻き込まないで欲しいんだけど」

「ああ……悪い」

 

 グレイがさっと目をそらす。

 その後、ナルプディングから二人いる妖精の尻尾が有利ではないかと抗議があがるが、特にとりあってはもらえなかった。

 運営側としては、百チーム以上の中から二チーム残ることは非常に困難であり、それを果たしたことによって与えられる当然のアドバンテージであるとの見解である。ナルプディング以外の参加メンバーからも別にかまわないと言われ、ナルプディングは舌打ちを一つして引き下がった。

 

『フィールドオープン!! カ、カボ』

 

 マトーくんの号令とともに、闘技場に町並みが具現されていく。

 同時に参加者は別々の場所に転送された。

 

『会場の皆さんは街の中の様子を魔水晶(ラクリマ)ビジョンにてお楽しみください』

 

 観客たちに様子が伝わるよう、空中に画面が映し出され、各魔導士の様子が中継される。参加している八名は互いの様子を知ることはできない。

 

『隠密のルールは簡単。互いが鬼であり追われる側なのです』

 

 実況のチャパティによって競技のルールが説明されていく。

 具現化された街の中で互いを見つけ、一撃を与える。ダメージの有無を問わず、攻撃を与えた側が一ポイントを獲得する。また、他の魔導士にやられてしまった場合は一ポイント減点されてしまう。

 ここまで説明されたところで、街中に参加者八人のコピーが大量に出現した。

 間違えてコピーを攻撃してしまった場合も一ポイントの減点となるらしい。

 

『さあ消えよ、静寂の中に! 闇夜に潜む黒猫が如く!! 隠密開始!!!』

 

 チャパティの声とともに、競技開始の銅鑼が大きく鳴らされた。

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 

「グ、グレイ様がいっぱい! これだけいるんだから一人くらいジュビアがもらっても……」

 

 ジュビアは本物そっくりのグレイのコピーを前に目をハートにしていた。

 

「グレイ様~ん。──きゃうん!!」

 

 ジュビアがグレイのコピーに抱きつくと、ブザーとともに得点をマイナス一ポイントされてしまう。

 

『この場合、10秒後に別エリアからリスタートになります。他の魔導士にやられてしまった場合も同様です』

 

 実況からルールの補足が入った。

 

「この競技、隠れるより見つける方が難しいだろ」

 

 グレイは街を走り回り、他の魔導士たちを捜索していた。

 

「いやいやいや、ルールは早めに理解しておいた方がいいでサー」

「誰だ!?」

「大鴉の尻尾、ナルプディング」

「てめえの方からやってくるとはな。見つける手間がはぶけたぜ! 氷鎚(アイスハンマー)!!」

 

 グレイが現われたナルプディングに攻撃を加える。しかし、ブザーとともにグレイの得点がマイナスされ、別エリアからリスタートされる。

 ナルプディングは自分のコピーの後ろに隠れ、コピーが本物であるかのように見せかけたのである。つまり、グレイが攻撃したのはコピーだったのだ。

 

(くそ、やっちまった! 自分のコピーをうまく利用して敵に近づく。奴のような作戦も有効だが、もし敵を特定できたら不意打ちも可能。そして、こちらがコピーのふりをしていれば特定されることもない。これが隠密……)

 

 グレイ同様、多くの魔導士がコピーの中に紛れ込む。

 観戦者たちが膠着状態に陥ったかと思ったとき、一人が動く。

 青鷺であった。

 

(……うん。この競技、だいたい把握した)

 

 コピーたちの間を縫い、影がうごめく。探知能力を持つ影狼はコピーに惑わされることなく、本物に向かっていく。

 

「な、なんだ!?」

 

 参加者たちが足下にちくりとした痛みを感じたときにはもう遅い。一ポイントの減点とともに別エリアからリスタートされる。

 

(……ダメージの有無を問わないのがいい。ただ、一人逃したか)

 

 これで青鷺に追加されたポイントは六ポイント。仕留め損ねたのは誰なのか、影狼が取得している情報を共有できる青鷺は理解している。剣咬の虎のルーファスである。

 

「影狼、記憶。そして忘却」

 

 その言葉を紡ぐと同時、影狼は消滅してしまった。

 

(……魔法を消された。けど、他の影狼は消えていない。忘却と言っていたけれど、私が影狼自体を使えなくなるわけではないらしい。でも、消すなんて造形魔法の範疇を超えているように思えるけど)

 

 ルーファスの記憶造形(メモリーメイク)は謎が多い。考察を進めている間に、街でまた動きがあった。

 

「この競技、私の一人勝ちだと思ったのだが、もう一人厄介なのがいるようだ」

 

 そのルーファスが街でも一際高い建物の上に姿を現す。

 これでは参加者全員から狙われてしまう。突然の暴挙に唖然とする観衆の中、ルーファスは悠然と構えている。

 

「私は憶えているのだ。一人一人の鼓動、足音、魔力の質」

 

 ルーファスは両手の人差し指と中指を立ててこめかみに当てる。

 

「記憶造形、星降ル夜ニ」

 

 雷光が空を走り、たがうことなく魔導士たちに降りかかる。

 それを避けたのはナルプディング。

 

「ヒヒヒ、あんたは目立ちすぎでサァ」

 

 即座にルーファスを狙い殴りつける。しかし、ルーファスは霞のように消えてしまい、ナルプディングの拳は空をきった。

 

「しまった! コピーか!!」

「安心したまえ、それは私がそこにいた記憶。私に模型(デコイ)は必要ない」

 

 ナルプディングの後ろに出現したルーファスが攻撃を加え、ポイントをゲットする。これで、ルーファスの獲得ポイントは六ポイント。全員倒したとしたら一ポイント少ない。

 そう、ナルプディングの他にもう一人星降ル夜ニを躱した魔導士がいた。

 

「本当に厄介だね。剣咬の虎に敗北は許されないというのに」

 

 ルーファスの涼やかな顔がほんの僅かに歪んだ。

 躱したのは青鷺である。光を目視すると同時、近くにいた影狼のところへ瞬時に転移。なんなく躱してみせたのだ。

 そのルーファスを囲むように、今度は五匹ほどの影狼が迫る。だが、ルーファスは詳細に探知している。

 その場で空中に飛び上がる。目下には空中のルーファスを追うために実体化した影狼たち。

 

「記憶造形、荒ブル風牙ノ社」

 

 ルーファスの巻き起こした竜巻が影狼たちを蹴散らした。

 

(……今度は影狼を消さなかった。一匹ずつじゃないと消せない?)

 

 ルーファスは着地と同時、青鷺がいる方向に視線を向けた。そして再び魔法を発動する。

 

「記憶造形、輝ケル閃光ノ矢」

 

 今度は真っ直ぐに、青鷺めがけて閃光が走る。しかし、それも別の影狼の場所へ転移することで躱してしまう。

 

「──これも躱すか。今のは私の記憶する中で最速の魔法だったんだけどね」

 

 ルーファスの頬を汗が伝う。少し焦りが出てきていた。

 ルーファスの魔法を避けた青鷺は記憶造形について考察を進め、既に仮説を立てていた。

 

(……恐らく、自分の記憶の中から目にした魔法を消去。その記憶を現実に形にすることで魔法を消している。ただし、制限もある。一回につき消せる魔法は一つだけ。そして、瞬間移動のような魔法は消しようがない。使っている記憶造形という名称から恐らく記憶にある魔法を使っている。迷うことなく私だけを狙ってきたことから、同じ魔力を持つはずの影狼と私とは区別できているはず)

「記憶造形、星降ル夜ニ」

「……またか」

 

 再び雷光が降り注ぐ。しかし、今度は青鷺個人を狙ったもの。青鷺、そして街にいる全ての影狼に向けられていた。

 

「これまで、君は影狼のいる場所にしか転移していないと記憶している」

 

 青鷺は影狼の探知で、全ての影狼に雷光が迫っていることを即座に把握。ルーファスの狙いも見抜く。だが、そこに慌てる様子はない。

 

「……読み違えたね」

「何!?」

 

 青鷺は短距離転移(ショートワープ)で簡単に躱してしまった。青鷺が今まで影狼に転移していたのはその方が魔力消費が抑えられるからにすぎない。

 青鷺はすぐにやられた分の影狼を出現させて補充すると、再び街中に散開させた。そして、青鷺は転移使う。

 

「消えただと?」

 

 ルーファスが青鷺の反応を見失う。転移を発動したところまでは補足していた。だが、転移発動後、街に青鷺の反応が現われなかったのだ。

 動揺しているルーファスのもとに、今度は十匹もの影狼が襲ってきた。考える暇を与えまいという青鷺の意図である。

 

「くっ、記憶造形、荒ブル風牙ノ社」

 

 先ほど同様に竜巻が影狼を蹴散らした。だが、数が多かったせいか一匹だけ討ち漏らした。

 

「影狼、記憶。そして忘却」

 

 一匹だけなら消した方が早い。そのルーファスの判断は結果を見れば安易であったと言える。影狼は消滅、その中から青鷺が現われた。

 影狼の内部に転移することでルーファスの探知をかいくぐったのだ。

 

「くっ、記憶造──」

「……遅い」

 

 青鷺の一撃をもらい、ルーファスは一ポイントの減点とともに別エリアからのリスタート。

 記憶造形は思考で魔法をくみ上げる性質上、発動までの時間が多少かかる。その上、冷静な思考が求められるため少しの動揺が命取りになるのだ。それを読んでの奇襲であった。実際、ナルプディングのときのように幻影を作ることもできなかった。

 これで青鷺が七ポイント、ルーファスが四ポイントで越されてしまう。

 

「まずい、このままではマスターになんと言われるか……」

 

 最低限、一位だけはとらなければならない。その焦りの中でルーファスが選択する。

 

「記憶造形、星降ル夜ニ!」

 

 他の魔導士から六ポイントをとり、順位だけでも青鷺を越えようとしたのである。

 

「……それは、悪手だよ」

 

 青鷺は雷光を見て呟いた。

 

「同じ手を二度もくらうかよ!」

「バカな! 避けただと!?」

 

 星降ル夜ニは上空に光を目視してから二秒以内に緊急回避でかわすことが可能。しかし、それを知らずとも一度やられているのだ。歴戦の魔導士であれば目視して即座に回避行動に移ることなど当然であった。加えて、青鷺の影狼を潰すために発動した際に観察されたことも大きい。

 結果、直撃を受けたのは四つ首の猟犬のイェーガー一人だけ。

 

「……おこぼれはもらうよ」

 

 そして、緊急回避をしてできた隙を青鷺は見逃さない。各魔導士をつけさせていた影狼の攻撃で五ポイントを獲得する。これで青鷺は十二ポイント、ルーファスは六ポイントである。

 その後、二人のポイントは硬直。他六人の間でポイントが変動していった。

 そして、そのまま制限時間を迎え、実況の興奮したような声が響いてくる。

 

『ここで終了! これが初代王者の実力か! 予想を覆し、人魚の踵が首位に立った!!!』

 

 波乱の幕開けに、場内に大歓声が轟く。最終順位は次のようになった。

 

 

 一位 “人魚の踵”青鷺

 二位 “剣咬の虎”ルーファス

 三位 “大鴉の尻尾”ナルプディング

 四位 “蛇姫の鱗”リオン

 五位 “青い天馬”イヴ

 六位 “四つ首の猟犬”イェーガー

 七位 “妖精の尻尾B”ジュビア

 八位 “妖精の尻尾A”グレイ

 

 

 剣咬の虎が敗北した衝撃からか、最下位の妖精の尻尾に対する嘲笑はほとんどなかった。だからといって、グレイの悔しさはなにも変わらない。

 拳を壁に叩きつける。それは、不甲斐ない己への怒りの発露であった。

 

「大鴉の尻尾、造形魔導士、青鷺……。この借りは必ず返す」

 

 一方、青鷺は大歓声に迎えられていた。

 

「さすがはサギはんどすな」

「みゃあ! 一位なんてすごい!」

「まさか、あのルーファスを手玉にとるなんてねえ」

 

 斑鳩、ミリアーナ、アラーニャが大喜びで迎えいれる。

 

「ふふ、青鷺ならば当然の結果だな」

 

 カグラも腕を組んで、誇らしげに頷いている。

 それらを見て、青鷺は口元を綻ばせた。だが、同時に疲労の色も濃かった。

 

『いやあ、ヤジマさん。剣咬の虎がまさかの二位という結果でしたが、この戦いをどう見ますか』

『魔導士としての力量でいえば、ルーファスくんも青鷺くんに負けていなかった。むしろ勝っていると言ってもいいんだけどね。それを補って余りあるほど、青鷺くんが上手く戦ったという印象だね』

 

 解説の言葉が聞こえてくる。

 

「実際はどうだったんだ?」

「……かなり強かった。バトルパートじゃなくて良かったよ。競技中も結構綱渡りだったしね」

 

 青鷺はカグラの問いに頷いた。そして競技を振り返る。

 青鷺はルーファスと六ポイントで並んだ後、ルーファスが青鷺にこだわらずに他の参加者を狙い、ポイントを稼がれていたら不利だったとみている。

 影狼ではリスタートした魔導士を再捜索しなければいけないのに対し、ルーファスは常に魔導士の位置を補足している。また、影狼一辺倒の青鷺に対して、ルーファスの記憶造形は多彩である。実際、後半では影狼は警戒されてポイントが取れていない。

 これらの理由から、ポイントの取り合いになったときに青鷺の方が不利なのだ。なので、勝つためにはルーファスの意識を青鷺に向けさせる必要があった。それで煽りでもいれようとかと思ったのだが、幸運なことに何をするでもなくルーファスは青鷺にこだわった。

 

(……王者のプライドか、それとも負けられないプレッシャーか)

 

 青鷺は観客席の一角に目を向ける。先ほどから感じる威圧感のもとを辿ると、剣咬の虎のマスター・ジエンマが射殺さんばかりに睨んできている。

 

(……なんにせよ、一番大きな勝因はルーファスに心の隙があったことかな)

 

 青鷺は心の中で一つ呟くと、興味なさげにジエンマから視線をきった。

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 

 競技パート終了後、すみやかにバトルパートが始まった。

 

 

 第一試合は“妖精の尻尾A”ルーシィvs“大鴉の尻尾”フレアである。

 ここで一つの事件が起こる。戦いの最後、大魔法を放たんとしたルーシィの魔力がかき消されたのである。

 

「斑鳩殿」

「ええ」

 

 斑鳩は不快そうに呟くカグラに頷いた。あまりに不自然であり、外からの介入があったとしか考えられない。

 

「この試合、どうにか出来ないのでしょうか」

「難しいどすな。一応運営側に抗議は出しますが、魔法を使った痕跡を一切感じさせまへんでした。証拠不十分ではねのけられるだけでしょうな」

 

 そう言って、斑鳩は観戦する大鴉の尻尾のメンバーたちを見る。状況から、介入したのが大鴉の尻尾の誰かなのは間違いない。だが観衆の中、痕跡を見せずに魔力を消してしまう所行ははっきり言って異常である。

 

(いったい何者?)

 

 結局、抗議を出したものの、斑鳩の予想通り証拠なしとしてはねつけられた。こうして第一試合は後味悪く終わってしまうのであった。

 

 

 続く第二試合、“青い天馬”レンvs“人魚の踵”アラーニャ。

 

「去年より腕を上げたようだなアラーニャ」

「あの天馬が女を攻撃してもいいのかしら? レンちゃん」

 

 アラーニャが糸魔法で蜘蛛の糸のような粘着性の糸を出し攻撃するが、それをレンは巧みに躱す。

 

「エアリアルフォーゼ!!」

「うああああ!」

 

 アラーニャが捕えられずにいる間にレンの大魔法が炸裂。アラーニャの敗北となった。

 

「ごめんよ青鷺。せっかく競技で一位をとってくれたのに」

「……まだ一日目だし。切り替えていこう」

 

 結果、人魚の踵は一日目10ポイントで終了する。

 

 

 第三試合、“四つ首の猟犬”ウォークライvs“剣咬の虎”オルガ

 この勝負はウォークライをオルガが一撃で倒してしまう。これで剣咬の虎のポイントは18ポイント。首位を確定させ、王者としての面目を立たせることに成功した。これには剣咬の虎のファンも大歓喜であった。

 

 

 そして、第四試合。“蛇姫の鱗”ジュラと“妖精の尻尾B”フリードの名前がコールされた。

 

「こいつァついてねえな」

「あのジュラとぶつかっちゃうなんて」

「そんなに強ェのか、あの坊主」

「私とエルザの二人がかりでも勝てるかどうか」

 

 いまいちジュラの実力を知らないガジルに反し、ラクサスとミラはよく知っている。

 

「相手は強大。だが、雷神衆隊長として、妖精の尻尾の名を背負うものとして、無様な戦いだけはしないと誓おう」

「おう、全力で戦ってこい」

「ああ」

 

 ラクサスに頷いて闘技場に向かうフリード。そこでは既にジュラが待ち構えていた。

 

「個人的には妖精の尻尾にはがんばってほしいが、うちのマスターがうるさくてのう。すまぬが手加減はせぬぞ」

「望むところだ」

 

 会話を交わすと同時、試合開始の銅鑼が鳴る。

 

闇の文字(やみのエクリテュール)──」

 

 瞬間、フリードが見たのは高速でせまるジュラの掌底。それを最後にフリードの意識は暗転した。

 

「──悪いな」

 

 そして、会場にジュラの勝利が宣言される。

 

「マジかよ……」

 

 誰よりもフリードの実力を知っているラクサスが思わず呟いた。確かに、フリードは使う魔法、術式や闇の文字の性質上よーいどんで始まるバトルパートは得意とは言えない。それでも、まさか一撃で倒されるなど予想も出来ない。

 観衆から妖精の尻尾への嘲笑が響く。だが、この試合の意味を理解しているものがどれだけいるのだろうか。

 

「これは、想像以上どすな……」

 

 斑鳩もその一人である。己の中に、僅かながら戦慄の念が浮かんだのを認めないわけにはいかなかった。

 

 

 こうして、大魔闘演武一日目が終了する。総合順位は次のようになった。

 

 

 一位 剣咬の虎 18P

 二位 大鴉の尻尾 16P

 三位 蛇姫の鱗 14P

 四位 青い天馬 13P

 五位 人魚の踵 10P

 六位 四つ首の猟犬 2P

 七位 妖精の尻尾B 1P

 八位 妖精の尻尾A 0P

 

 

 人魚の踵は総合順位五位で一日目を終了するのであった。

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 

 フィオーレ王の居城、華灯宮メルクリアス。

 その一室で、ヒスイ姫は遠く歓声が届いてくるドムス・フラウを眺めていた。

 

「大魔闘演武、もしあの方の言うことが本当ならば……」

 

 ふと、六年ほど前のことを思い出す。

 王城の警備をかいくぐってきた者たち。世間に大犯罪者として知られる彼らはしかし、誰よりも世界の安穏を求めて動いていると印象を持った。

 

『最終手段としてエクリプスを残しておくのは構いません。しかし、安易に扉を開くことだけは絶対にないようにお願いいたします』

 

 あの時、真摯な青年の言葉にヒスイは頷いた。しかし、

 

「今こそ、開かねばならない時かもしれません」

 

 その呟きは、誰にも拾われることはなかった。

 




三十二巻巻末風ステータス表。
※あくまでジェイソン記者が取材結果から独断で評価したものであり、実際とは異なる場合があります。

○斑鳩
攻撃力:COOL 防御力:5 スピード:COOL 知性:3 無月流:COOL

○カグラ
攻撃力:5 防御力:COOL スピード:COOL 知性:5 COOL:COOL

○青鷺
攻撃力:3 防御力:3 スピード:4 知性:COOL 身長:2

○ミリアーナ
攻撃力:2 防御力:3 スピード:4 知性:2 ネコネコ:5

○アラーニャ
攻撃力:3 防御力:3 スピード:4 知性:3 ピッタリスーツ:5

原作をお持ちの方は三十二巻巻末と見比べてみてもおもしろいかも。

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