“夜叉姫”斑鳩   作:マルル

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大魔闘演武編
第三十四話 七年後の人魚たち


 X784年12月16日。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地、天狼島はアクノロギアにより消滅した。

 当時、天狼島では妖精の尻尾の主力メンバーがS級昇格試験を行っていた。そのため、天狼島の消滅に伴い彼らは行方不明となり、妖精の尻尾は弱体化の一途を辿ることとなる。

 それから七年の月日が流れたある日。生存が絶望視されていた妖精の尻尾の主力メンバー、俗に言う天狼組が奇跡の帰還を果たす。

 この一大ニュースは即座にフィオーレ中を駆け回り、この時国外にいた彼女たちのもとにすら届いたのだった。

 

 

 

「斑鳩殿! 大変です!! 妖精の尻尾の主力メンバーが帰還を果たしたそうです!!!」

 

 カグラの叫びとともに、宿で借りている部屋の扉が音をたてて開いた。

 そのカグラの慌てようともたらされた一大ニュースに、部屋で朝食を食べていた斑鳩と青鷺は口にものを含んだまま停止した。

 やがて、我を取り戻した二人は急いで口の中のものを飲み込んで口を開く。

 

「本当どすか!? 全員無事に?」

「はい。無事どころか七年前から成長していないようです」

「いやぁ、それはめでたいどすな。早速お祝いに駆けつけたいところなんどすが」

「……タイミングが悪かったね」

「そうどすなぁ」

 

 現在、斑鳩たちはクエストを受注し丁度昨夜、仕事場所に到着したところである。今回のクエストはフィオーレ国外への遠征である上、そう簡単に片づくようなものでもなかった。

 

「さすがに、SS級クエストはすぐに片付けられそうにありまへんし」

「ええ、一月以上は確実にかかるでしょうね」

 

 同意するようにカグラと青鷺も頷いた。SS級クエストはS級クエストのさらに上を行く高難度クエストである。

 

「あの子を早くエルザはんたちに会わせてあげたいどすな」

「……私たちを待たずに会いに行くんじゃない?」

「いや、あいつは以外と律儀なところがあるからな。おそらく待っているはずだ」

 

 三人はこの七年で新たに人魚の踵に加入したメンバーのことを思い出す。三人とも仲がいいが、さすがにSS級クエストに連れてこられるレベルではないのでギルドに居残りしている。

 

「……なら、少しでも早く帰らないとだね」

「そうどすな。それに、うちらの成長も見て欲しいものどす」

 

 そう言って、斑鳩は懐にしまっていたペンダントを取り出す。そこには、十字の入った紋章が刻まれていた。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 大魔闘演武。X785年から開催されているフィオーレ1のギルドを決める祭である。

 現在、フィオーレ最下位である妖精の尻尾であるが、この祭りで優勝さえすれば即座にフィオーレ1のギルドに返り咲くことが可能であった。

 天狼組は乗り気なのだが、居残り組が反対する。

 

「無理だよ!! 天馬やラミア……」

剣咬の虎(セイバートゥース)だって出るんだぞ!!」

「ちなみに過去の祭じゃオレたちずっと最下位だぜ」

「そんなの全部蹴散らしてくれるわい」

 

 しかし、弱気な発言を聞いても天狼組はひるまない。むしろさらに闘志を燃やしていた。

 ちなみに、剣咬の虎は近年台頭してきた現フィオーレ一のギルドである。

 

「その大会いつやるんだよ」

「三ヶ月後だよ」

「十分だ! それまでに鍛え直して妖精の尻尾をもう一度フィオーレ1のギルドにしてやる!!」

 

 ナツは拳に火を灯して手を打った。なおも弱気な居残り組をよそに、天狼組の熱気は高まっていく。七年のブランクを三ヶ月で埋めなければならない。しかし、悲観する様子は微塵もなかった。

 

「目指せフィオーレ1! チームフェアリーテイル!! 大魔闘演武に参戦じゃあ!!」

 

 マスターマカロフの言葉に呼応して、ギルド内で雄叫びが大きく響く。

 その雄叫びが収まった直後、エルザが口を開いた。

 

「ところで、人魚の踵(マーメイドヒール)というギルドを知っているか?」

「知ってるけど、何かあるの? ギルド間での付き合いは特になかったと思うけど」

 

 ビスカが首を捻って問い返す。

 

「ああ、私たちのチームは何かと縁があってな。三人ほど知り合いがいるんだ。斑鳩、カグラ、青鷺というんだが知らないか?」

「確かにラミアや天馬の話は聞いても人魚の話は聞かないな」

 

 グレイも怪訝そうに呟く。七年前の時点で斑鳩はエルザと互角だったし、カグラと青鷺もナツやグレイと並ぶほどの実力を持っていた。その三人がいればフィオーレトップクラスのギルドに名を連ねていてもいいはずなのだが、人魚の踵の話はさっぱり聞かない。

 

「そりゃまた凄いメンバーと知り合いだな」

 

 マックスが苦笑いしながら呟いた。

 

「凄いメンバー?」

 

 ルーシィが首を捻る。

 

「ああ、近年の人魚の踵の大魔闘演武における成績は十位前後ってところだ。だけど、X785年に行われた第一回だけは違った」

「いったい何位だったんだ」

「剣咬の虎はX786年から昨年まで大魔闘演武で連覇している。だけど、第一回の優勝ギルドは人魚の踵。その立役者と言われているのが斑鳩、カグラ、青鷺という三人の魔導士なんだ」

「ほう。ジュラが参戦していないとはいえ、一位をとるとはやるな」

 

 エルザが感心して頷いた。聖十大魔導の一人であり、蛇姫の鱗に所属しているジュラは自重して一度も大魔闘演武に出場していない。

 

「でもよ、今は十位くらいなんだろ? もう参加してないのか?」

 

 ナツが疑問をはさむ。その疑問にマックスは頷いた。

 

「その通り。第二回以降、主力の三人は不参加だ。ちなみに、当時の剣咬の虎はマスターこそ既に変わっていたが、現在の主力である五人は加入していなかった。だから一昔前は今戦えばどっちが勝つか、っていうのは話の種としては定番だったんだ。人気も相まってだいたいは剣咬の虎が勝つだろうって結論で終わるけどな」

「しかし、なぜ自重するようになったのだ」

 

 マックスはにやりと笑い、ここが話の胆だと少しためてから口を開く。

 

「実はな、第一回大魔闘演武の直後。人魚の踵のリーダーである斑鳩に聖十大魔導の称号が贈られたのさ」

「なんと……」

 

 エルザたちは驚いて目を丸くする。そのリアクションを見てマックスは満足そうに頷くとさらに話しを続けた。

 

「聖十の称号を贈られて以来、斑鳩たちは高難易度クエストを受注して遠征を繰り返している。それにカグラと青鷺も着いていくもんだから基本的に大魔闘演武には出てこない。例えれば半ギルダーツ化してるんだ」

「そうか……」

 

 マックスの話を聞いて、エルザは遠く空を見て思いをはせる。

 

(これは、気合いを入れて鍛え直さねば。随分と実力を離されてしまったかもしれんな)

 

 こうして、エルザはさらに気合いを入れるのだった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 天狼組帰還からおよそ三ヶ月後のとある浜辺。

 

「終わった……」

「ヒゲー!!! 時間返せー!!!」

 

 エルザたちは力なく砂浜に倒れ込む。ルーシィの叫びがむなしく響いた。

 大魔闘演武にむけて海合宿に来たナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ、ウェンディ、ジュビア、レビィ、ジェット、ドロイ。しかし、合宿二日目に彼らは星霊界の危機を知らされる。星霊界を救うため、ジェットとドロイを除く七人は処女宮の星霊バルゴに連れられて星霊界へ赴いた。

 実際は星霊界の危機というのは嘘であり、ルーシィたちの帰還を祝して宴が開かれた。一日かけて宴を楽しみ、元の世界に帰還したのだがそこで問題が発生する。なんと星霊界で一日を過ごすと現実では三ヶ月が経過するというのだ。

 

「なんということだ……」

「大事な修行期間が」

「三ヶ月があっという間に過ぎた……」

「どうしよう……」

 

 大魔闘演武は既に五日後に迫っている。だというのに、まったく魔力が上がっていない。

 

「今回は他のみんなに期待するしかなさそうだね」

 

 レビィが諦めたように溜息をつく。そこに、ジェットとドロイがやってきた。

 

「おーい、客が来てるぞ」

「客?」

 

 エルザたちがジェットとドロイの方に顔を向ける。二人の影から、見覚えのある顔ぶれが現われた。

 

「みなさん、久しぶりどすな」

「斑鳩にカグラ、青鷺も。元気だったか!」

「ええ、もちろん。挨拶に来るのが遅くなってすみまへん。なにせ、皆さんの帰還を知ったときは仕事中だったもので」

「構うものか。こうして再会できただけでもよろこばしい」

 

 斑鳩とエルザが再会を祝う。初対面のレビィにはルーシィが説明をしている。

 

「しかし、カグラは随分と成長したな。だいぶ大人びた感じがするぞ」

「私ももう二十三だ。いつまでも少女ではいられないさ」

 

 エルザとカグラが会話をする横で、グレイが青鷺に話しかける。

 

「しかし、七年も経ってんのにお前はチビのま、ぐはっ!!」

「グレイ様!!」

 

 青鷺に腹パンをくらうグレイ。それを見たジュビアが驚いて叫ぶ。

 

「……身長は小さい方が身軽に動けるからいいんだ」

「じゃあ殴んなよ……」

「……デリカシーのないお前が悪い」

 

 そんなやりとりを横で見て、エルザとカグラがやれやれと肩をすくめる。

 

「ところで、実はエルザはんに会わせたい人がいるんどすよ」

「会わせたい人?」

「ええ。もう出てきていいどすよ」

 

 斑鳩が呼びかけると、近くのヤシの木の影からひょこりと顔を出す人物がいた。

 

「元気最強?」

「ミリアーナか!」

「久しぶり! 会いたかったよー」

 

 ミリアーナがエルザに飛びついた。それをエルザが優しく受け止める。楽園の塔以来の再会である。

 

「人魚の踵に入ったのか!」

「うん! 知り合いがいるギルドは妖精の尻尾と人魚の踵しかなかったしね」

 

 人魚の踵とは楽園の塔での縁もあるし、なによりシモンの妹であるカグラがいる。エルザは行方不明になっていたこともあり、ミリアーナは人魚の踵に入ったのだ。

 

「シモンやショウ、ウォーリーはどうしている?」

「あの三人はまだ旅をしてるよ。カグラちゃんと私で定期的に連絡をとって会ってるけどね」

「そうか。本当に会えて嬉しいぞミリアーナ」

「私もだよ。エルちゃん」

 

 二人は涙ながらに抱き合う。そうしてしばし二人は旧交を温め合った。

 それも落ち着いた頃、エルザがそういえばと斑鳩に声をかける。

 

「聞いたぞ斑鳩、聖十大魔導になったんだってな。遅れたが祝わせてくれ、おめでとう」

「ふふ、ありがとうございます」

「だが、それが原因で大魔闘演武への出場を自重しているらしいな。戦い好きなお前としては残念なんじゃないか?」

「それなんどすが、うちらも今回は出させて貰おうと思ってるんどすよ」

「そうなのか?」

「ええ、今回はどうやらジュラはんも出るようどすし、うちも自重する必要はないでしょう。その上、妖精の尻尾も参加するとくれば出ないわけにはいきまへんよ」

「そうか。だが、残念だな……」

 

 エルザが少し悲しそうに俯く。

 

「私たちは今回参加を見送ることになりそうだ。私も成長したお前たちと是非剣を交えてみたくはあるのだが……」

「事情はジェットはんとドロイはんから聞いてます。でもそれ、なんとかなるかもしれまへんよ?」

「何だと!?」

 

 斑鳩の言葉に、その場にいた妖精の尻尾の面々が反応する。

 

「たった五日で魔力を増強する方法があるというのか!?」

 

 斑鳩は頷いて西の丘を指さした。

 

「今、あの丘である方たちが待機してます。その方たちならなんとかしてくれるでしょう」

「ある方たち? 誰だそれは」

 

 そのエルザの問いに答えたのは斑鳩ではなくミリアーナだった。

 

「それは実際に会ってみてからのお楽しみだよ! きっと驚くと思うな!」

 

 ミリアーナがにやにやと笑う。

 

「では、ミリアーナはん」

「うん! じゃあ、私が案内するからみんな着いてきてね! 斑鳩たちはちょっと待ってて!」

 

 ミリアーナを先頭に、妖精の尻尾の面々が西の丘に向かっていく。やがて姿が見えなくなり、浜辺には斑鳩たち三人だけが残された。

 斑鳩は溜息をひとつ吐くと、どこへともなく声をかける。

 

「そろそろ出てきたらどうどすか?」

 

 斑鳩の声に呼応するかのように、周囲に五つの影が現われた。

 

「まったく。人を伝書鳩のように使って……」

「いいじゃねえか。ついでなんだから」

 

 答えたのはエリックだ。他の面々はそれぞれマクベス、ソーヤー、リチャード、ソラノ。元六魔将軍にして現独立ギルド魔女の罪のメンバーたちであった。

 

「それにしても、相変わらずお前は声が聞こえねえな」

「ふん、それはもう対策済みどす」

 

 天之水分・羽衣。この七年で新たに開発した斑鳩の新技だ。ガルナ島でおこなった解呪の応用である。斑鳩に干渉しようとする魔力があれば即座に反応して押し流す。これにより、干渉系の魔法のほぼ全てを無効化できるようになった。

 

「しかしそなたらは堂々と会いに来るな。もう少しジェラールたちを見習ったらどうなのだ」

「ジェラールたちが気にしすぎなのさ。僕の反射(リフレクター)なら光を屈折させて姿を隠すなんて造作もないのに」

 

 カグラにマクベスが答える。今も元六魔の五人の姿は斑鳩たち以外からは見えないようになっている。

 

「だいたい、ばれてもお前たちの場合はヒスイ姫がかばってくれるから大丈夫だゾ」

「尊きは人の縁デスネ」

「……ヒスイ姫。エクリプス計画の実権を握っている人か」

 

 ソラノとリチャードの言葉に青鷺が小さく呟いた。

 

 

 それは六年前、第一回大魔闘演武でのことである。出場中の斑鳩たちにエリックとマクベスが接触する。反射で姿を誤魔化しつつ、エリックの耳で危険を避けての接触であった。

 なんでも会場からゼレフの魔力を感じるというのだ。斑鳩たちの手引きのもと会場を調べるが怪しいところはない。そして、主催者であるフィオーレ王室を怪しんだ。結果、エリックがヒスイ姫の心の声を聴くことでエクリプス計画が発覚したのである。

 その後、ジェラールがエリックとマクベスの支援を受けてヒスイ姫と密かに接触。話し合いにこぎつけることに成功する。話し合いは結果だけを言えば、エクリプス計画は継続されることになった。

 エクリプス計画とは、まず大魔闘演武を利用して大勢の魔導士から、時間を越える扉エクリプスに魔力を集める。そして、十分な魔力が貯まれば扉を開き、四百年前の不死になる前の黒魔導士ゼレフを討つというものであった。

 しかし、過去を改変した結果現在がどうなるかはわからない。大きなタイムパラドックスを起こす可能性があった。したがって、エクリプスを最終手段として残しておくのは構わないが、あくまで最終手段。決して、魔力が貯まったからと言って安易に開いてはならないと約束が交わされたのであった。

 同時に、この時エリックの発案でもう一つの交渉が行われた。ヒスイ姫に後ろ盾になってもらえないかということである。しかし、まだ実権を握っている訳ではないヒスイにそこまでの権力はない。エクリプス計画とて独断で秘密裏に行っている計画だ。

 妥協案として、やむを得ず正規ギルドの協力を得て活動した後、協力した正規ギルドがジェラールたちとの繋がりを疑われた場合はヒスイ姫にかばってもらうという案が採用された。ヒスイ姫も魔女の罪の活動理念に理解を示し、快く承諾してくれたのである。

 

 

「……それで、今年も大魔闘演武の監視に来るんだ」

「一応な」

 

 青鷺の言葉にソーヤーが頷く。

 エクリプスはゼレフが作ったものだ。だからこそ、エクリプスからはゼレフの魔力が感じられる。何か気付いていない仕掛けがあるかもしれない。そこで、魔女の罪は問題が発生した際に対処するため、毎年数人を大魔闘演武の監視に割いているのである。

 

「今年はジェラール、ウルティア、メルディ、ソラノの四人だな」

「……エリックはいなくて大丈夫なの?」

「これまで異常は特にねえし大丈夫だろ。それに今は冥府の門(タルタロス)の方が重要だ」

「……そっか、そっちもあったね」

 

 

 数年前、魔女の罪と冥府の門は小競り合いを起こしている。エリックの耳で九鬼門の一人を見つけ出したのだ。しかし、たいした交戦もなく逃亡されてしまう。

 心の声を聴いて分かったことはマスターENDの復活を狙っていること。拠点である冥界島はイシュガルの空を飛び、常に移動し続けていることくらいである。

 いつENDを復活させる算段を立て、実行に移るか分からない。一刻も早く見つけ出したいところではあるが、冥府の門も警戒しているのか一向に足取りをつかめないでいた。

 

 

「しかし、これはあくまで私たちの仕事。あなたがたが心配する必要はありませんデスネ」

「そういうこった。必要なときは手伝ってもらうがよ。とりあえずてめえらは大魔闘演武を楽しんできな」

 

 リチャードとエリックの言葉にカグラが微かに笑みを浮かべる。

 

「それもそうだな。だが、困ったときは頼ってもらって構わない。協力自体は私たちとてやぶさかではないのだ」

「そうどすな」

 

 青鷺もコクコクと頷く。

 そこでエリックがそうだ、と口を開く。

 

「今回はソラノの妹が大魔闘演武に初出場する。確かユキノっていったか。戦うことになったらよろしく頼むぜ」

「む」

「妹どすか?」

 

 エリックの言葉にソラノが口を尖らせる。

 

「私に妹なんていないゾ」

「本人はこう言ってますけど」

「妹が出るから監視役に名乗り出たんだろうが。全く、素直に会いに行けばいいのによ。めんどくせーやつだ」

「ストーカーに言われたくないゾ」

「ぶっ!!」

 

 ソラノのあんまりな言葉に思わずエリックは噴き出した。

 

「知ってるゾ。妖精の尻尾のギルドにキナナって子の声を聴きに行ってること。前から思ってたけど正直キモいゾ」

「なんだとてめえ……」

 

 もの凄い剣幕で睨み合う二人の間に斑鳩が割って入る。

 

「まあまあ。お二人ともひとまず落ち着いて」

「ファザコンアラサーは黙ってろ」

「そんなんだから、その歳で男の一人もいないんだゾ」

「んなっ!!」

 

 怒りの矛先が斑鳩にも向いてくる。あまりの暴言に斑鳩の顔が引きつった。

 

「ふ、ふふ……、上等どす!!」

「落ち着いてください斑鳩殿!!」

 

 暴れ出しそうになる斑鳩を慌ててカグラが羽交い締めにして抑えこむ。そのままカグラはエリックとソラノを見やる。

 

「そなたらもいい加減にしろ。くだらないことで争うな」

 

 今度はカグラが二人を窘めようとするが、それが裏目に出た。

 

「うるせえブラコン。てめえもほとんど斑鳩と同類だろうが」

「知ってるゾ。兄の前だと口調が砕けて甘え出すって。お前も二十三でそれはキモいゾ」

 

 斑鳩に続いてカグラの顔も引きつる。

 

「…………斑鳩殿、すみません。私が間違っていたようです」

「分かってくれればいいんどす」

 

 カグラが斑鳩を離す。二人はゆらりとエリックとソラノに詰め寄った。対する二人も好戦的に睨みを効かせる。

 

「その暴言、力ずくでも撤回させてもらおう!」

「やってみろオラァ!」

「望むところどす!」

「後悔しても知らないゾ!!」

 

 完全にキレた四人によってつかみ合いの喧嘩が始まった。魔法や武器を使わないだけまだ理性があるというべきか。

 

「仲がいいのはよろしいことデスネ」

「リチャード、僕は寝るから終わったら起こしてくれ」

「分かりましたデスネ」

 

 どこかずれているリチャード。マクベスは興味なさげに寝てしまう。

 そんな光景を少し離れたところでソーヤーと青鷺が見ていた。

 

「それで、お前はどうなんだ? 男とかいねーのか?」

「……私はまだ二十一だし大丈夫。そのうちできるよ」

(この根拠のない自信。こいつもダメそうだな……)

 

 ソーヤーは一人、やれやれと肩をすくめるのだった。

 

 

 一方、妖精の尻尾の面々はジェラール、ウルティア、メルディと再会を果たしていた。

 ジェラールたちはエクリプス計画のことについて教え、何か不穏なことがあればすぐに報告するように願い出た。その報酬として、ウルティアの進化した時のアークによって第二魔法源を解放。無事パワーアップに成功するのであった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 大魔闘演武をいよいよ翌日に控え、フィオーレ王国の首都クロッカスは賑わいを見せている。

 人々が口々に話すのは優勝予想。

 絶対王者剣咬の虎(セイバートゥース)

 天狼組が帰還した妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 聖十のジュラとリオンがついに参戦する蛇姫の鱗(ラミアスケイル)

 第一回優勝メンバーの主力三人が再参戦する人魚の踵(マーメイドヒール)

 他にも青い天馬(ブルーペガサス)四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)など、今年は有力なギルドが力を入れている。

 剣咬の虎一強の時代は既に終わった。かつてない激戦が予想される大魔闘演武を前に、国中の人間が胸を高鳴らせるのであった。


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