“夜叉姫”斑鳩   作:マルル

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第二十九話 懐かしき山小屋

 “血濡れの狼(ブラッディウルフ)”との戦いから明けて翌日。

 斑鳩たちはツユクサの病院の一室にいた。カグラたちは幸い、打撲や切傷は多くあったものの、どれも後に響くほど深いものはなかった。

 

「申し訳ありません。私たちが不甲斐ないばかりに――!」

 

 カグラはベッドの上で上体を起こし、悔しさに毛布を握りしめる。青鷺は隣のベッドで寝転びながら、顔を手で覆って隠していた。

 

「二人のせいではありまへん。うちらの力が及ばなかったんどす」

 

 斑鳩はベッドの横の椅子に腰をかけながら、失意に沈む二人を宥める。しかし、斑鳩の言葉だけでは気を晴らすことはできなかった。

 

「斑鳩殿、今後のことなのですが……」

 

 カグラたちは斑鳩から既に昨夜の顛末を聞いている。ジーニャが人質として攫われたことも、敵の狙いが斑鳩の師匠にあることもである。

 

「うちは一度、師匠のところへ帰ろうと思います」

「しかし……」

 

 つい先日の食事会で、カグラたちは斑鳩の過去についてもよく聞いている。斑鳩が師匠のために努力していることは知るところであった。

 気遣わしげな視線をよこすカグラに斑鳩はやんわりと微笑んだ。

 

「いいんどすよ」

 

 ただ、それだけを口にする。

 

「斑鳩殿…………」

「そんなことより、カグラはんとサギはんはどうします? どのみち、ボスコへ行くにはツユクサを通らなければなりまへん。このままツユクサで療養していてもいいんどすが」

「そのことなのですが斑鳩殿、私は一度ギルドに戻ろうと思います」

「ギルドに? まさか、あれをとってくるつもりどすか?」

「はい」

 

 カグラは頷く。しかし、斑鳩は不安を覚えた。

 

「あれはまだ未完成のはず。それに、まだ戦闘になるとは決まったわけでは……」

「ご冗談を。ジーニャも斑鳩殿の師も、むざむざヤツらに引き渡す気などないでしょう。ならば当然、戦闘になることは想定して準備をしなければなりません」

「かといって、まだ習得に至っていない剣術でいきなり格上に挑むのは無理があります」

「私だけならばそうでしょう。青鷺、お前もついてこい。お前とて、このまま終わるつもりはないだろう」

「……当然」

 

 青鷺は顔を覆っていた手をどけると、カグラと同様に体を起こす。

 

「……あいつらを倒す策があるなら、私も全力で協力する」

「カグラはん、サギはん……」

「斑鳩殿、あの大男と小柄な女の二人組は私たちに任せてください。斑鳩殿はパンシュラだけに集中して貰ってかまいません」

 

 斑鳩とカグラの視線がぶつかる。斑鳩は強い意思を宿したカグラの瞳に、どんな言葉も無駄であることを悟った。青鷺の方を見てみれば、こちらも決意は固いようである。

 

「わかりました。パンシュラは生半可な敵ではありまへん。そちらに集中できるというのであれば、願っても無いことどす」

「感謝します」

「……ありがとう」

「ふふ、礼はいりまへんよ。仲間を信用するのは当然どす。――では、うちは師匠のところへ。二人はギルドに一度帰還。用事が済み次第再びツユクサで合流し、ボスコへ向かう。これでいいどすな」

「はい。では――――」

 

 早速行動に移ろうとしたところで、部屋のドアがノックされた。

 

「はい、どうぞ」

「すみません、失礼します」

 

 部屋に入ってきたのは、見慣れない男性であった。かすかに、カンジカ討伐を記念して開かれた宴会で見た記憶がある。

 何の用であろうかと首を捻った三人は、男が手に持っていたものを見て驚いた。

 

「あの、これが外に落ちてたんですけど……」

 

 そう言って男が取り出したものは一振りの刀。見間違いようも無い。それはジーニャが持ってきた神刀三日月であった。

 

「あ、ありがとうございます。ですが、どうしてこれをうちらに?」

「この刀と一緒に落ちていた手紙にあなたたちの名前が書いてあったんです。すみません、誰のものか確認するために少し読んでしまいました」

「いえ、かまいまへんよ。届けてくださってありがとうございます」

「あの、これどうぞ。では、私はこれで」

 

 男は刀と手紙を渡すと、そそくさと部屋を後にした。

 刀を受け取った斑鳩は驚きも覚めやらぬままに手紙に目を通す。

 

 

 

『斑鳩さん、カグラさん、青鷺さん。

 見ず知らずの私を助けていただき、ありがとうございました。

 時間がないため、手短に決意を伝えさせて頂きます。

 私は姉妹刀をもって投降します。

 みなさんがこの手紙を読んでいるとき、私は死んでいるのか、捕まっているのかはわかりません。

 しかし、敵討ちも救出も必要はありません。

 神刀は担い手のもとに、私は姉妹刀と共に命を落とす。

 当初の決意となにも変わりは無いのです。

 ですから、神刀とともに逃げ、評議院に通報してください。

 たとえ、私が人質に取られていたとしても気にする必要は無いのです。

 どうかお元気で』

 

 

 

 手紙は走り書きで乱雑に書かれていた。その手紙を読んで斑鳩は理解する。

 

(ジーニャはんは、ヤツらに勝ったんどすな……)

 

 手紙に書かれている通り、ジーニャは斑鳩たちを救い、神刀を担い手に渡すという目的も達成して見せた。その結果、殺されようと人質にとられようとかまわないのだ。たとえすり替えがばれて神刀を再び奪いに来ても、評議院に保護して貰えば対抗できるだろう。

 “血濡れの狼”が斑鳩の師匠に用があったことまでは読めなかっただろうが、それでもあまり変わりは無い。むしろ、斑鳩が修羅に“血濡れの狼”が待ち構えているであろう場所を聞き出し、評議院に通報すれば捕縛できる可能性は高い。

 まさに、ジーニャは“血濡れの狼”に勝利したと言える。

 しかし、それはジーニャの命を度外視すればの話である。それがわかっているから、ジーニャも手紙に気にする必要は無いと書き残したのだろう。

 

(ジーニャはん、すみまへん。それが出来たなら、うちらは最初から手を差し伸べたりはしまへんよ)

 

 手紙を読み終えた斑鳩はカグラに手紙を渡す。青鷺も我慢できずに、ベットから立ち上がって手紙を覗き込んだ。

 三人とも、手紙を読んだところで決意は揺らがない。

 

 

――絶対に助け出す。

 

 

むしろ、その思いはより強い念となったのだった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 

「カカ、こりゃあ一本とられたわい」

 

 パンシュラはジーニャから奪った刀を抜き放ち、その美しい白い刀身を眺めながら笑った。

 

「おい、小娘。この刀、神刀じゃないじゃろ」

「…………」

 

 パンシュラの問いかけにジーニャは黙して応じない。

 場所はとある屋敷の一室。部屋は高価な装飾に彩られている。ジーニャの手と足は縛られて拘束されていた。

 

「だんまりかい。無駄じゃぞ。かまをかけているわけでなく、ワシには分かるんじゃ」

「……なんで分かるんですか」

「なんじゃ、気付いとらんかったんか。ワシもミルマーヤの末裔じゃ」

 

 パンシュラはミルマーヤ族の特徴の一つ、褐色の肌を持っている。

 

「ワシの姓はオーデバリと言ってのう。ミルマーヤでも名高い戦士の家系じゃと爺さんが言っとったんじゃが知らんか?」

「聞いたこともありません」

「なんじゃ、爺さんの話は法螺じゃったか? まあ、よい。ともかく、貴様ほど血は濃くないが、神刀に宿る神の気配ぐらいは読み取れるわい」

「……だとしたら、どうするんですか。私を斬りますか」

「なんでそうなるんじゃ」

「騙されたと、そう言って母を斬ったではないですか! 人質だからと、我慢するような性格でもないでしょう」

 

 そう言葉を発するジーニャの表情は険しい。

 パンシュラはジーニャの怨念を意にも介さず笑った。

 

「うむ、今回はええわい」

「――――! じゃあ、なんで母は――」

「その辺にしとけし」

 

 今までソファでヴァイトにもたれかかりながら、パンシュラとジーニャの話を黙って聞いていたリタラが割って入る。

 

「そこの男は気分で生きてるし。行動がその時々で矛盾しまくり。頭がおかしいんだから考えるだけ無駄だし」

「言ってくれるのう。ワシが怒るとしたら、むざむざ神刀をすり替える隙を与えたお前さんなんじゃが」

「あ? やんのかし」

「カカカ、冗談じゃ。それも悪くはないが、先客が控えているんでのう」

「ふん、ヴァイト行くよ」

 

 リタラとヴァイトは連れだってソファから立ち上がる。

 

「じゃ、アタシとヴァイトは愛し合ってくるから。絶対に邪魔すんなし」

「カカ、貴様らの交尾は特殊すぎて二度と見たくはないわい」

「あっそ。ならいい…………ちょっと待つし」

 

 リタラは部屋を出ようとドアノブに手をかけたところで動きを止める。

 

「お前、今なんて言った?」

「む、じゃから貴様らの交尾なんぞ二度と見たくないと」

「いやいやいや。二度とってなんだし。お前、まさか…………」

「おうよ。一回、気になって覗いてみたんじゃが後悔したわい。ワシがどん引きするなんぞ中々ないぞ。カッカッカ!」

「死ね! まじで死ねし! このゴミクズカス野郎! まじでありえんし!! 次に覗いたら絶対に殺すし!!!」

「じゃから、二度と見たくないと言っとろうが」

「うるせえバーカバーカバーカ!!」

 

 リタラは顔を真っ赤にしてヴァイトとともに部屋を出て行った。

 パンシュラはひとしきり笑うとジーニャに話しかける。

 

「どうじゃ? リタラは面白いじゃろう」

「…………」

「あやつは弟愛しのあまり、ヴァイトに恋人が出来た途端に邪法に手を出したのじゃ。そしてヴァイトを操ってその恋人を殺させると、そのまま闇の世界に落ちてきた。まったく笑える話じゃわい」

「……なんであなたがそんなことを知っているんですか?」

「いやあ、あやつらの過去が気になってのう。高位の解除魔導士(ディスペラ―)を連れてきてリタラの魔法を解除したんじゃ。それでヴァイトから直接話を聞いたんじゃが、それがばれたときのリタラのキレっぷりといったら過去最高じゃったのう」

「…………」

「あの時はヴァイトと殺し合いになったんじゃが、決着がつく前にアキューに止められてしまったわい。…………そういえば、いつもアキューのやつに止められとるな。これは忠告しとかねばならんかのう…………」

 

 ぶつぶつ呟き始めたパンシュラにジーニャはしらけた視線を送る。

 リタラがひたすらパンシュラを嫌っている理由が分かる気がした。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 アキューは広い廊下を進み、ある扉の前に立つとノックをした。

 

「入れ」

「失礼いたします」

 

 アキューが部屋の中に入る。部屋は豪華な屋敷の中でも比較的質素なものだった。

 部屋の奥で五十歳ほどの男が机に座ってペンを走らせている。この部屋は執務室であるようだ。

 

「報告いたします」

 

 そうして、アキューはツユクサでの顛末を報告した。

 

「そうか。あの男は来ると思うか?」

「ええ、ほぼ確実に。例え来なかったとしても、やつの弟子を捕まえて呼び出せば良いだけですので」

「クク、そうか」

 

 男の名はデヴァン・ルウォッカ。ルウォッカ商会の会長であり、ボスコのとある町の有力者である。

 

「ようやく、あの男に復讐が出来るのか。ワシからエドラを奪ったあの男を――!」

 

 暗い笑みを浮かべるデヴァンの前で、アキューは笑みを張り付けたまま立っている。

 

「問題は来たとしてヤツが暴れた場合、ちゃんと対応できるのであろうな」

「もちろんです。パンシュラは一人でギルドひとつに匹敵する腕前。ノルディーン姉弟もそれに並びます」

「そうか。さすがにワシの私兵だけでは心許ないからな。頼りにしているぞ」

「ええ、お任せください。では私はこれで…………」

 

 アキューは執務室を後にする。デヴァンもすぐに執務を再開した。

 

(ふふ、あの方がここまで執念深いとは。それに、あの女への執着がここまであることも予想外でした。なんにせよ、修羅さんは災難ですね)

 

 薄ら笑いを浮かべながら廊下を歩くアキューを屋敷の使用人は気味悪そうに見送った。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 斑鳩は重い足取りで上り坂の山道を歩いていた。

 進むにつれ、気の重さがそのまま足の重さに繋がっていく。

 やがて、見覚えのある山小屋が見えてきた。

 

「よし、よし。大丈夫、勇気を出して――」

「何をしとるんだお前は」

「ひゃあ!」

 

 立ち止まって再度勇気を振り絞っていると、背後から声がかけられた。驚いて振り向けば、そこには修羅が立っている。手に持つ魚が入った桶を見るに、釣りから帰ったところだろうか。

 

「し、ししし師匠! あ、あのこれは、そのぉ…………。恥ずかしながら帰ってきてしまったというか……」

 

 もじもじと中身のない言い訳を並べ立てる斑鳩。

 修羅は溜息をひとつ吐くと、斑鳩の肩をポンと叩いた。

 

「とにかく上がっていけ。何か用事があるのだろう」

「は、はい…………」

 

 修羅と斑鳩は連れだって小屋の中へと入っていった。

 

 

 

「デヴァンか。懐かしい名だ……」

 

 斑鳩の話を聞いて、修羅は沈痛に顔を伏せた。そして、心配そうに顔を伺う斑鳩に気付くと笑みを浮かべる。

 

「昔のことだ。お前が気にする必要はない」

「でも…………」

「大丈夫だと言っておろう。とにかく話はわかった。私も行こう」

「一応、場所だけ教えて頂ければうちらだけで行ってこれますけど」

 

 修羅は首を振る。

 

「それではジーニャという娘の安全は保証されまい。私が行った方がよかろう」

「師匠、無理はしてはいけまへんよ」

「誰にものを言っておるのだ、お前は。とにかく、準備もある。出発は明日だ。お前も今日は泊まっていけ」

「いいんどすか?」

「いいもなにも、ここはお前の家でもあるだろうが」

「……ふふ、師匠はまた嬉しいことを言ってくだはる」

「何がだ?」

 

 首を捻る修羅を見て斑鳩は笑みを浮かべる。そして、表情を真剣なものに戻すと話を切り出した。

 

「師匠には謝らなければなりまへん。大層なことを言って家を飛び出しておいてうちは……」

「なんだ。言ってみよ」

 

 修羅に促されて斑鳩はぽつぽつと修羅のもとを離れてから何があったのかを話し始める。特に戦いを楽しむ性質とそれに思い悩んでいることを。

 

「申し訳ありまへん。結局うちは師匠の期待に応えられず……。これでは弟子失格どす」

「――大馬鹿者め」

 

 

 俯く斑鳩の頭を修羅が小突いた。

 

「し、師匠?」

「私は最初から、お前の思う通りになんでもかんでも物事が進むなどと思ってはいない。そもそもだな、斑鳩よ。十九になるまで山に篭もりきりだった世間知らずが、社会に出て順風満帆に生きていけるなどと思う方がおかしいとは思わんか?」

「ぐ……」

「失敗など誰でもする。大事なのは失敗してからではないか?」

「うぐ……」

「それをお前はくよくよと悩みおって。お前の持ち味は脳天気さではなかったのか」

「うぐぐ、そこまで言わなくても……」

 

 修羅が言葉を重ねる度、斑鳩はどんどんと身を縮めていった。

 

「それにな、戦いを楽しむことはそこまで悪いことなのだろうか」

「師匠?」

「少なくとも、私にはそこまで悪しきものには感じられなかった。だからこそ、何も言わなかったということもある」

「でも、うちは実際にエルザはんを」

「お前はそのエルザという娘を傷つけたことに楽しみを覚えたのか。それとも、楽しみに我を忘れて傷つけたのか。その差は大きい」

「それは後者どすが……」

「であれば、お前がまだまだ子供だと言うだけだ。まあ、私の育て方も悪かったのであろうが」

「……師匠の言っていることは難しくてよくわかりまへん」

 

 顔を顰める斑鳩を見て修羅はかすかに笑う。思い返してみれば、斑鳩は口で言うよりも実際にやってみて覚えていくことが得意な子であった。

 

(だからこそ、口がたいして上手くない私のもとでも育ったのであろうがな)

「お前ならば、すぐに答えを見つけられよう。己の本質を抑え込んで実力が出せようはずもないしな。よく向き合うことだ」

「……はい。がんばります」

「とりあえず、難しい話はこれで終わりだ。日も暮れたし、飯にしようではないか」

「あ、うちもお手伝いします」

 

 師弟がともに過ごす夜は和やかに過ぎていく。斑鳩は家を飛び出して二年とたっていないのに、酷く懐かしく感じた。

 

 

 

「大事なのは失敗してから、か。私がよくもそんなことを口に出来たものだ」

 

 深夜、修羅はひとり呟いた。斑鳩は既に寝入っている。

 

「いや、立ち止まった私だからこそ言わねばなるまい」

 

 修羅は刀を腰に差し、荷物を入れた袋を担いだ。

 

「アキューの要求は私がデヴァンのもとに赴くこと。お前たちは関係ない。さらばだ斑鳩。私のしがらみにお前を付き合わせるわけには行くまいよ」

 

 そう言い残すと、修羅は音をたてないように静かに小屋を出た。

 

 

 翌日。

「…………あれ、師匠?」

 斑鳩が目を覚ましたとき、小屋には静寂だけが広がっていた。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 “人魚の踵”のギルドからカグラと青鷺が出てくる。

 

「少し時間がかかってしまったな。ギルドは斑鳩殿の師の家よりも遠いという。急いで戻らねば」

 

 そう言うカグラは腰に新しい刀を差していた。これまで使っていたものよりも随分と長い。通常とは違って柄を下に、鞘を上にしている。

 

「……それが、新しい武器なんだ」

「ああ、斑鳩殿とたびたび修練していた。お前は付き合ってはいなかったから知らないだろうがな。とはいえ、これを使った剣術はまだ未完成。ヤツらとの勝負にはお前の力が必要不可欠だ」

「……分かってる。作戦通りに」

「――待ちな、てめえら」

 

 カグラと青鷺が列車に乗るため、駅に向かっていると不意に声をかけられた。

 振り向けば、フードで顔を隠した人影が二つ。時刻は早朝。人並みが少ないことも相まって怪しいことこの上ない。

 

「そなたらは何者だ?」

「おいおい、もう忘れちまったのかよ」

「速ェことはいいことだが、すぐに忘れちまうのは良くねえぜ」

 

 フードをとり、隠れていた顔があらわになる。その顔を見て、カグラと青鷺は驚きに目を見開いた。

 

「……六魔将軍」

 

 忘れもしない。ワース樹海においてニルヴァーナを巡って繰り広げられた戦い。その時、“人魚の踵”と死闘を繰り広げた二人。コブラとレーサーの姿がそこにはあった。

 

「貴様ら、何をしに来た!」

 

 カグラは警戒を強めて刀に手をかける。

 

「そう邪険にすんじゃねえ。今回は仕事のついでに、てめえらの大将に忠告しに来てやったんだが――――どうやら一歩遅かったみてえだな」

 

 そう言って、コブラはにやりと笑ったのだった。

 


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