“夜叉姫”斑鳩   作:マルル

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第十一話 魔獣の正体

「はあ、疲れたあ……」

 

 翌日、斑鳩は“食事処イチリン”にて昼食をとっていた。

 その表情には少しばかり疲労の色が浮かんでいた。

 

「確かに、あんな騒ぎになるとはねえ」

「ほんとどす」

 

 苦笑するライラに斑鳩は深いため息を返した。

 そう、斑鳩の疲れは昨夜の魔獣との戦いによるものではなかった。

 

「残骸を持ち帰ったくらいで騒ぎすぎどす。何も倒せていませんのに……」

 

 

 *

 

 

 昨日、日が暮れる頃になって斑鳩は帰還した。

 警戒のために村の門番をしていた青年は驚いたような顔をしつつ通してくれたが、その時に触手の残骸を求められ、なぜかは分からなかったが困ることもないので渡してあげた。

 不思議に思いつつ村長への報告を終わらせ、ライラにも報告しておこうかと村長宅を出た瞬間のことである。

 

「おおっ! 出てこられたぞぉ!!」

「………………………へ?」

 

 大量の村人たちに囲まれた。

 

「魔導士様! どうかこの村をお救いください!」

「やっと、憎き魔獣の姿を見ることができました!」

「あの残骸を見て胸がすかっとしましたよ!」

「ぜひとも俺たちに飯をおごらせてくれえ!!」

「え、ええっと……。な、なにこれ」

 

 騒ぎ立てる民衆を前にどうしたらいいのか分からなくなった斑鳩がフリーズしていると、後ろから出てきた村長夫妻が説明してくれた。

 

「みんな喜んでるんですよ。あなたが魔獣をこらしめたから」

「でも、まだ倒せていませんよ?」

 

 首を傾ける斑鳩にパメラは首を横に振る。

 

「それでも、ですよ。村の仲間が五人も行方不明になって平気なはずがない。でも、倒してくれるために駆けつけてくれた魔導士の方々も勝てなかった。不安だったんですよ。いつ魔獣が村を襲うか、いつ村が滅ぼされるのか。みんな生きた心地がしないまま数ヶ月過ごしてきたのです」

 

 パメラは斑鳩に微笑む。そこからは、負の感情は読み取れず、ひたすらに斑鳩の活躍を喜んでいた。

 その横にたたずむヴィンスも同様の表情をしている。

 

「そこに、あなたが魔獣の残骸を持って帰ってきた。それも五体満足で。これまで圧迫されていた感情が爆発しても仕方のないことでしょう。ご迷惑でなければ、彼らに付き合ってあげてはくれないでしょうか」

「いや、はは。そうどすなあ」

 

 なんだか斑鳩は気恥ずかしかったが、目の前の村人たちを笑顔にすることができたと思うと誇らしかった。

 

「そう言うことなら、おつきあいしましょう」

「ありがとうございます」

 

 再び、騒ぎ立てる村人たちの前に立つ。

 

「今日は魔獣討伐の前夜祭どす! 思う存分に騒ぎましょう!!」

「おおおおおおおお!」

 

 その日、調子に乗った斑鳩は日が明けるまで騒ぎ続けた。

 

 

 *

 

 

「まあ、自業自得な気もするけどねえ」

「それはまあ、否定はできませんけど……」

 

 なんやかんやで一番楽しんでいたのは斑鳩だろう。

 大食い対決に腕相撲、全ての騒ぎに参加し、さんざん暴れて最後には陽気に歌い出す。

 結局、最後まで立っていたのは斑鳩と、その騒ぎの裏方をしていたイチリンの従業員くらいのものだ。

 

「でも、楽しかったろう?」

「そりゃあ、まあ」

 

 斑鳩は照れたように目をそらし頬をかく。

 斑鳩の歯切れが悪いのはただ単に昨日騒ぎすぎたのが今になって恥ずかしくなっただけである。

 

「それで、昨日、魔獣を倒す前夜祭だー、なんて言ってた気がするんだけどどうするんだい?」

「う……、痛いところを」

 

 もう日は高く昇り、真っ昼間である。

 

「まあ、今から行って狩ってくるしかないでしょうなあ」

「大丈夫なのかい? あんな遅くまで騒いでたのに」

 

 ライラの心配はもっともであるが、修羅との修行は生半可なものではなかったし、魔導士としての仕事も甘いものではない。

 このくらいは、戦闘に影響しても微々たるものであろう。

 

「心配してくれるのはありがたいんどすが、この程度でへばっちゃ魔導士なんてやっていられませんよ。それにさっきまで寝てましたし……」

 

 斑鳩は照れたように店の床を見つめる。

 明朝、最後まで立っていた斑鳩はつぶれた人たちを家に運ぶ手伝いと、店の片付けの手伝いを終わらせた後、糸の切れた人形のようにつぶれてしまった。

 幸い、昨夜の騒ぎで体力を使い果たしたのか斑鳩が床に倒れ込んでいるあいだに来た客は一人くらいのものであったが。

 

「作戦もありますし、今度はなんとかなるでしょう」

「へえ、面白そうだね。聞いてもいいかい」

「…………ふう、聞きたいのならしょうがないどすなあ」

 

 斑鳩は口元を緩ませながら言った。

 ライラは聞いて欲しかったんだろうなあ、と思ったが無粋なので指摘はしない。

 

「相手は触手で相手を囲んだ後に一斉攻撃をしかけてきます。さらに時間をおけば再生もしてしまう」

「ああ、それでいままでの魔導士は何本か触手を落としても他の触手に手こずっている間に再生されてじり貧で負けちまったんだろう」

「ええ、ですがそれについてはうちの作戦が当たりました」

「それは?」

「一斉に全ての触手を切り落としてしまえば再生している間に時間ができます!」

 

 さも名案だろうと満面のどや顔をかます斑鳩にライラは顔を引きつらせる。

 その理屈はどう考えてもおかしい。そんな作戦ができるならみんなやっている。

 斑鳩はどうだと言わんばかりにライラの方をチラチラとうかがっており、さすがに変に突っ込んで落ち込ませてもかわいそうなので、笑顔を作って賞賛し先をうながす。

 笑顔が引きつっていなければいいのだが。

 

「そして、そのあいた時間で触手をたどりました」

「へえ、でも昨日は敵の本体を見つけられなかったんだろう?」

「ええ、昨日触手の出所をたどろうと思ったんどすが、どれも地下から続いていたんどす」

 

 加えて、途中からは足下からも触手が襲いかかってきた。

 精度が低くなるとはいえ、地中まで天之水分による感知を行っていたおかげで不意打ちを食らうことはなかったが。

 

「それで、どうしようかと考えつつ襲いくる触手を切り落としながら移動していたんどすが、だんだんとある一方向からの触手の量が多くなっていったんどす。微々たるものではありますが」

「…………なるほど。魔獣は一体、多くとも三体もいない、か」

 

 斑鳩は触手を切り刻んでは移動していた。

 魔獣が一体のみと仮定すれば、斑鳩を仕留めきれないことにじれて無意識的に自分側の触手を多くしてしまっても仕方のないことであろう。

 

「実際にその仮定が正しいかどうか確認するために、そちらの方に探りを入れる意味でも適当に攻撃を放ってみたんどすが、見つかったと思われたのか逃げられてしまいました……」

 

 そう言って斑鳩は肩を落とす。

 たどり着ける糸口が見えたとたんに逃げられたのだから無理もない。

 

「だとすると、魔獣は知能が高い上に逃げ足も速いってかい。難儀だねえ」

 

 一連の魔獣の行動からは知性が感じられる。

 だとすれば、それなりの作戦をたてなければ捕まえられそうにないが。

 

「それで、ここからが本題の作戦なんどすが」

 

 斑鳩は人差し指をたて、ライラの目を見つめると、自信満々に言い放つ。

 

「相手の場所をつかんだ瞬間、周囲の触手を無視し、敵のいるであろう方面を全力で吹き飛ばします」

「…………ああ、うん」

 

 触手の攻略法を聞いていた時点で嫌な予感はしていたが、相変わらず力技な作戦である。

 でも、触手についてはうまくいったということだし、斑鳩には可能なのだろうと深く考えるのをやめた。

 だが、一点だけどうしても気になることがあった。

 

「でも、周囲の触手を無視するってのは大丈夫なのかい? 相打ち狙いは危険じゃないかい?」

「ああ、それならご心配なさらず、攻撃はくらうつもりはありませんよ」

 

 無視という表現には少し語弊があった。

 ライラへの説明は無月流に触れないものだったのでざっくりとしてしまったが正しくはこうだ。

 相手の位置をつかんだのならば、即座に攻撃を放つことが重要だ。

 しかし、大規模に夜叉閃空を放つのにための時間が必要となる。

 かといって、触手を全て切り落とした後に準備をしていると簡単に魔獣に感づかれて逃げられてしまうだろう。

 だからこそ、斑鳩に攻撃をしかけてきた瞬間が狙い目なのだ。

 おそいくる触手については、これまで相対した感じから触れなくとも天之水分を使えばくらわないように流すのは容易なはず。

 そして、流しつつため、虚をつき一気に夜叉閃空を放つのだ。

 本来は迦楼羅炎のほうが適しているのだが、戦いの場が森である以上うかつに使用はできないのでそこはあきらめるほかない。

 

「任してください」

「……はあ、まあ、あんたが大丈夫だって言うんならいいけどね。ちゃんと無事に帰ってくるんだよ」

「ええ、もちろんどす」

 

 昼食もとりおわり、腹も少し休めることができたので、森へ行くために斑鳩は立ち上がろうとする。が、その寸前でカウンターに飾られていた一枚の写真が目に入った。

 

「あ……」

「どうかしたのか、って。――ああ、この写真か」

 

 その写真は夫婦が一人の息子と写った家族写真。

 おそらく、現在よりも多少若くはあるが、夫婦の妻がライラであろう。

 三人ともが純粋な笑顔を浮かべている。

 

「もしかして、息子のことを聞いたのかい?」

「ええ、村長さんたちからすこし……」

「まったく、親父もお袋も……」

 

 気まずげに斑鳩は目を伏せる。

 

「隠してて悪いね。余計な気を遣わせたくなかったんだ」

「悪いだなんてそんなことは……」

「……あたしにはできた息子だったよ」

「……へ?」

「ま、せっかくだ。聞いて行きなよ」

 

 そう言ってライラは苦笑する。

 斑鳩は断ることもできなかったので、そのまま聞くことにした。

 

「あたしの息子はね、メルトって言うんだけどさ」

「メルト……」

 

 息子の名を呼ぶライラからはその愛情が深く感じられた。

 

「幼い頃に父親――あたしの旦那が病気でおっ死んじまってね。それからは大きくなったら誰にも負けないくらい強くなってあたしのことを守るんだ、ってのが口癖でねえ、微笑ましくってそれだけで救われたような気分になった」

 

 そう語るライラの瞳はとても穏やかなものだった。

 斑鳩もまた、微笑ましいエピソードに胸が温まる思いだ。

 師匠も自分のことを思っていてくれるとよいのだが。

 

「そんで、町に出かけた時に立てこもった強盗相手に魔導士が大立ち回りしてんの見てからは魔導士にあこがれてねえ。すごく強い魔導士になるんだってさ。あんたに会ったらきっとなついたと思うよ」

「そうどすかねえ」

 

 なんだか気恥ずかしくて斑鳩は言葉を濁す。

 その様子を見て、かかとライラが笑った。

 その笑いは心の底から出た本物の笑いだとなんとなく分かった。

 

「……確かに、息子がいなくなったのは悲しいさ。でもね、こうやって昔を懐かしんで笑うこともできるんだ。あんたが気負うことじゃない。思う存分魔獣ぶっ倒してきな!」

「――ええ、もちろん!」

 

 息子の話をしたのはライラなりの気遣いだったのだろう。

 その気遣いに感謝しつつ斑鳩はライラの笑顔に送り出され、魔獣との決着をつけるため、森へと向かった。

 

 

 *

 

 

「で、出てこない……」

 

 探索を開始して数時間、森の中はいたって平穏だった。

 触手など一つも目につかない。

 

「昨日ので警戒してしまいましたか。知能が高いと行っても所詮は魔獣と侮りすぎましたなあ」

 

 昨日さんざん痛めつけたのだ。

 隠れることも想定してしかるべきであったが、どうやって倒すかばかり考えて見つけることに関しては何も考えていなかった。

 すぐに襲いかかってくるだろうと思っていたのだが、あてが外れたらしい。

 仕方がないので天之水分による感知範囲を広げる。

 魔力消費が大きくなる上に、影響力が薄れ、相手の攻撃を流すほどの力を発揮することは難しくなるが、見つけられなければ始まらないので仕方がない。

 森の奥から風が吹く。

 

 ――ふと、斑鳩の鼻が異臭をかぎとった。

 

「――――っ!」

 

 反射的に臭いのするほうへと一気に駆けだす。

 奥へ奥へと進むうちにどんどんと異臭が強まっていく。

 斑鳩の人生でもこのにおいをそれほど多くはかいだことはない。

 だが、確実に言えるのはこのにおいが良いことを運んでくるわけがないということ。

 なぜならこれは――。

 

「なんて、こと…………」

 

 肉の腐ったにおいなのだから――。

 

 

 *

 

 

 斑鳩は目の前の光景に広がる光景に呆然とした。

 広く、深く掘られた穴。

 そこに積み重なる魔獣の死体、死体、死体。

 人間の姿が見えないことだけが救いか。

 

「あーあ、廃棄場が見つかっちゃった。急いで閉めに来たのに間に合わなかったなー」

 

 斑鳩の背後から抑揚のない男の声がする。

 下手な芝居でもしているようにわざとらしい。

 

「こうなったら仕方がないなー。これを見られて生かして返せるわけないもんなー。うんうん、戦うしかない。そう、臨機応変、臨機応変」

「――――あなたは、なに」

 

 一人うなずく男の宣戦布告ともとれる言葉に、いつでも斬りかかれるように身構える。

 警戒しつつ、斑鳩は相手の様子をうかがう。

 男は全身を外套で包み、顔もフードに覆われていて見ることは叶わない。

 

「なにって言われてもね。まあ、その穴――廃棄場に関係ある立場って感じ?」

「廃棄場……」

 

 斑鳩は男の軽薄な態度に苛立ちつつも、気になる言葉について尋ねた。

 廃棄場、この言葉が正しくこの穴のことを指しているのなら、魔獣の群れは何かに利用したと言うことだろう。

 これだけの死体を作り出すことがなんなのかはわからない。

 しかし、まともなことであるはずがないだろう。

 少しでも情報が欲しい。

 

「うん? 気になる? まあ、そりゃ気になるよねえ。そっかそっか、知りたいかー」

「…………ええ、できれば教えてほしいものどすなあ」

 

 今すぐに斬りかかりたい衝動に駆られるも、感情を押さえ込んで様子をうかがう。

 ひとしきり、男は考えるそぶりを見せると、

 

「じゃあ、僕に勝ったら教えてあげる!」

「な――!」

 

 その言葉と同時に男が襲いかかる。

 だが、男が襲いかかってきたことについて驚いたわけではない。

 驚いた理由、それは――、

 

「――触手!?」

 

 地面、そして男の外套の裾から大量の触手が現れる。

 驚きはしたが、警戒して天之水分による感知を行っていたおかげでくらうことはない。

 

「無月流、夜叉閃空!」

 

 斑鳩は刀を抜き放ち、即座に全ての触手を切り刻む。

 すると、ぱちぱちと男が手をたたきながら言った。

 

「さすがだね。僕を追い詰めただけはある」

「――その口ぶり、森に現れた魔獣の正体は」

「そう、僕だよ」

 

 斑鳩の問いになんともなしに男はうなずいてみせた。

 同時に斑鳩の中でふつふつと怒りがわいてくる。

 五人もの村人が行方不明になっている。

 獣に襲われたのであれば、悲しくはあるものの災害のようなものだと、無理矢理納得させることもできよう。

 しかし、襲ったのが同じ人間だったのであれば――、

 

「――許せない」

 

 恐怖に圧迫され続けた村人たち、そんな彼らを案じ続けた村長夫妻、息子が消え悲しんだであろうライラの姿が脳裏に浮かぶ。

 

「許せないからどうだって言うんだい!」

 

 言うやいなや、再生した触手が再び斑鳩に襲いかからせる。

 だが、簡単にやられるほど斑鳩は甘くはない。

 

「何度やっても同じどす」

 

 斑鳩も再び夜叉閃空によって全ての触手を切り刻む。

 それは、先ほどまでの焼き回し――ここまでは。

 

「それはどうかな」

 

 斑鳩の目前に男が迫る。

 昨日までと違い本体である男は自在に動けるのだ。

 触手に隠れて斑鳩の刃をかわしつつ接近。

 手に持ったナイフを斑鳩の脳天めがけて振り下ろし――、

 

「――――え?」

 

 ――ナイフは斑鳩の体の横を振り抜けた。

 

「無月流、天之水分。昨日は見せておりませんでしたなあ」

 

 生半可な攻撃では斑鳩に触れることすらかなわずそらされる。

 次の瞬間、斑鳩の剣が男の全身を斬りつけた。

 必殺と思った一撃を触れることなくそらされ、なにが起こったのかもわからず、男が呆けてしまった一瞬の空白。

 そこをついた斑鳩の剣は一つ余さず男の体をとらえた。

 なすすべもなく、男の体は地に沈む。

 それを見届けた斑鳩は刀を鞘に納めるが、

 

「――――へへ、なかなか効いたよ」

 

 男は相変わらずの軽薄な口調で斑鳩に声をかけ、立ち上がろうと体を起こす。

 

「……驚いた。殺しはしないまでもしばらく立ち上がれないと思ったんどすが、再生能力はあなた本体にもあるんどすか」

 

 こちらに背を向けつつ立ち上がる男の体はとても人とは思えぬ異形であった。

 触手をつかっていた時点で想定はしていたが、おそらく相手の魔法は《接収(テイクオーバー)》だろう。

 ならば、他の魔獣に変身する可能性もあろうと斑鳩は警戒を続けるが、

 

「――――え?」

 

 ――振り返った男の顔を見た瞬間、斑鳩の思考は白く塗りつぶされる。

 

「あ、あなたは――」

 

 男の顔の半分は異形化し、不気味さが際だっていた。

 だがそんなことはどうでもいい。

 問題はその顔が斑鳩にとって見覚えのある顔(・・・・・・・)であったこと。

 そう、それはほんの数時間前に見た――。

 

 

 *

 

 

「いない、いない、どこにもいない!」

 

 魔導灯の照らす石室の中、汚らしい格好をした男――ノルシェは苛立っていた。

 

「やつめ、あの女と戦いに行きおったな……」

 

 ようやく今おこなっていた研究が一段落つきそうだと徹夜で作業していたことがあだとなった。

 昨日、動かないように命令していたはずの男がどこにもいないのだ。

 

「くっ、見張りをつけるか、勝手に出て行ったら俺に伝わるよう仕掛けをしておくべきだったか」

 

 ノルシェは近くにあった椅子にふかく腰掛けると、ため息まじりに呟いた。

 

「――どうかやられてくれるなよ、メルト(・・・)

 


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