水上の地平線   作:しちご

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リクのあった劇中劇、テンリューレディからスピンオフしたマスターリュージョーの
アヴェンジャーズ参戦回です、全3回、Ep1だけでぶん投げます、続きません

シビルウォー後のパラレルです、変な個所はきっとトニースタークが何かやらかしたんです

天龍のインタビューから想像の翼を広げたバッタモンなので実在の艦娘とは異なります

衛星経由で電子書籍を入手した横須賀鎮守府が、総力を結集して翻訳作業をしたために
マスター・リュージョーの口調だけは無駄にブルネイ龍驤が再現されています

つまり嫌がらせです


AVENGERS-LP 前編

彼は夢を見て、彼女は戦っていた。

 

二つ括りの髪が後ろに流れ、キモノドレスの上に羽織った外套とコントラストを作る。

剣閃は銀光と成り、小柄な身体が踊る度、バタバタと有象無象が倒れ伏す。

 

刀身より漏れ出すカンムス・エナジーが辺りを明るく照らし出した。

 

今まさにマスター・リュージョーが振るっているサムライソードの銘は「イセ」、

軍艦より削り出した霊刀、テンリューが佩刀「ヒユウガ」の姉妹太刀である。

 

喧騒は続けざまであり、軽快な速度で移動を続け、悲鳴と爆音が木霊する。

その騒動はやがて、彼が安置されている部屋の付近にまで到達した。

 

北極で安らかな、およそ彼の生涯には見当たらない安息と言う物を手に入れて

様々な人々の祈りと共に眠っていた、彼の遺体を掘り起こした者が居る。

 

マスター・リュージョーは、控えめに言って怒っていた。

 

排斥と、凶弾を以って彼に応えた身勝手な人々に、今まさに遺体を辱めてまで

彼を踏み躙ろうとする傲慢に、柄ではないと悪態を吐きながら走っている。

 

―― 何故、彼を放っておかない、何故、彼の眠りを妨げる。

 

心中は散々に乱れ、それでも身に染みついた殺人芸術は僅かの衰えも見せず、

 

そして遂には扉を開き、目にした光景に激怒した。

 

寝台に横たわる大柄な肢体、その彫刻めいた完璧さは、かつての同盟国の盟主ならば

涎を垂らして褒め称え、アーリアの称号を捧げるであろうほどの見栄えであった。

 

そこではない、摘出された凶弾でもない、怪しげな機械や薬品も視界に入らない。

 

胸が上下している。

 

かつての一人の化学者が抱いた信念が、妄執の鎖と化して彼を現世に留めている。

凶弾に、極地の氷に、冥府の淵でなお彼を現世に留め続けた。

 

それはもはや、呪いだ。

 

やがて鼓動が早まり、彼が瞼を開いた。

 

視線を彷徨わせている内、部屋に踏み込んでいたリュージョーと視線が合う。

 

「これは、夢なのかリュージョー」

「そやな、悪夢には違いないわ、スティーブ・ロジャース」

 

呑気な仇敵に、彼女は舌打ちを以って応えた。

 

 

 

『AVENGERS -Lost Paradise- Ep.1 』

 

 

 

スーパーヒューマン登録法の施行より4半世紀、その国はヒーローを失った。

 

要因は様々にあるだろうが、特にコレと言う物は無く、現実として次々と引き起こされた

数々の問題を解決する内に、一人、また一人とヒーロー達は姿を消していった。

 

残ったのはイニシアチブ、所謂人工ヒーローの一団だけである。

 

やがて、それらは箍が外れたかの如くに力ある集団として振る舞い、民衆を弾圧し

言論を封じ、そしていざ事の起こった今現在、硬質化した組織は敗北を喫した。

 

柔軟で無くとも良い、ただ状況に対応する、それだけの行動すら出来なかったと。

 

ロジャース大尉が受けた説明はそのようなものであった。

 

シー・デビルズ、深き海の底から訪れる異形の軍団。

 

その不可思議な肉体はあらゆる攻撃を受け付けず、政府が辛うじて幾度か接触を果たせた

Mr.ファンタスティックの考察に因れば、存在自体がこの世界からズレていると。

 

そんなよくわからない理屈で以って存在している脅威であった。

 

例外として妖精の力(フェアリーフォース)、例えばカンムス・エナジーなどがその肉体に届く事が出来る。

 

登録法とは距離のある同盟国、極東に居を構えていたシルバー・サムライの紹介で

幾隻かのカンムス・エナジー遣いがこの地に派遣され、均衡を保ち今に至っていた。

 

前線基地、埠頭に建設されたその施設の廊下、各種検査を受けているロジャースに付いて

色々と話しているのは妙齢の黒人女性、次から次へとマシンガントークが止まらない。

 

イカヅチ・マミー、テンリュー配下のヒーローチーム、ロックガールズの内の一隻である。

 

ややだらしない身体と癖の強いパーマが特徴的だ。

 

「わからないな、ネイモア、いや、アトランティスとかは何もしなかったのかい」

「そこらへんも音沙汰無しでね、見捨てられたのか、既に食われたのか」

 

「トニーは …… いや、何でも無い」

 

続けるほどに辛気臭くなる話に、二人で溜息を吐く。

 

僅かでも空気を換えようと、大尉が保護された時点、先日より気に成っていた事を尋ねた。

 

「それにしても、まさかリュージョーがカンムス・マスターを継いでいたとはね」

「そこらへんはわからないなあ、アタシの場合マスターは既にリュージョーだったし」

 

ロジャース大尉の記憶にあるリュージョーは、大戦時に相対した悪魔だ。

 

悪意と狂気をぶちまけた様な戦場で、敵味方に恐怖を与える姿が強く記憶に残っている。

そして、マスターみたいな面倒な立場は御免被るとか言っていたはずなんだがな、と。

 

「僕の記憶ではホーショーと言うカンムス遣いがマスターだったんだ」

「ああ、名前だけは聞いた事があるや、先代様だね」

 

見るからにヤマトナデシコって印象の女性で、よくリュージョーを揶揄うネタにした物だと

語れば、イカヅチがあんたら戦時中に何やってたんだいと呆れた声で言う。

 

そんな益体の無い会話が続き、一通りの検査が終わった頃、イカヅチが最後に問うた。

 

「アンタは、これから一体どうするんだい?」

 

単純にして、難しい問題である。

 

彼はしばし口を噤み、自分の考えを、言葉を選ぶ様に口を開いた。

 

「ひとつだけ、わかった事がある」

 

僕たちは言葉を尽くすべきだったんだ。

 

彼の脳裏に浮かぶのは最後の戦い、国を割り、親友と矛を交えた無造作な悲喜劇。

 

「それなのに人々の不安に、恐怖に対し、暴力で以って応えてしまった」

 

殺人者との同盟、ヴィランの協力、憎悪を混沌にぶち撒けたかのような悪夢の饗宴は

どこまでも肥大化し、ありとあらゆる者を巻き込みながら悲惨へと加速した。

 

そしてついに、英雄は兵器として造られる。

 

「あの戦いは、間違っていた」

 

気が付けば守るべき人々は傷付き、ヒーローに呪いの言葉を吐き掛けていて。

 

称えられ続けた生涯が生み出した慢心、それに気が付いたが故、彼はマスクを脱いだ。

 

「そして償いすら許されなかった、もう僕にヒーローで居る資格なんて無いのさ」

 

肩を竦めた偉丈夫に、溜息を吐くマミー。

 

「まあそれもいいさ、マスターも同意見みたいだしね」

 

意外な所で出てきた名前に大尉が驚き、そして自嘲を表情に浮かべれば

イカヅチが慌てて言葉を繋げた、そういう意味ではないと。

 

問い直すまでも無く、言葉を待てば続く。

 

「ロジャースはもう戦わなくても良いはずだ、そう主張しているのさ」

 

軽い言葉に、静寂が訪れた。

 

 

 

(Chapter.5 テンリューの病室)

 

 

 

ロジャース大尉は幾人かの紹介を受け、テンリュー・レディの病室を訪れる。

 

慢性的なデビルズの襲撃に全ては疲弊し、抑えきれぬ攻勢を受け止めた若きヒーローは、

通し切った無理の代償を払うため、しばしの療養を余儀無くされていた。

 

「ああ、アタシがテンリューだ、んで、アンタが ――」

「スティーブ・ロジャースだ」

 

ベッドより上半身を起こした姿勢で迎えたのは、若い女性。

短めに揃えた黒髪と眼帯の目立つ、軽巡洋艦(ライトクルーザー)のカンムス遣いであった。

 

新旧の英雄が握手より入り、他愛の無い会話が続き、途切れることが無い。

 

その会話の内、思ったよりも自分の事に詳しいなと疑問をテンリューに問えば

内心に思い当たりを探る顔で、苦笑と共に答えを口に出した。

 

「師匠が良く言っていたのさ」

 

リュージョーのせいであったかと、興を覚えて続きを促す。

 

「この国には、趣味の悪いスケイルメイルを身に着けた変態が居るって」

「あの俎板(パンケーキ)とは、一度懇々と話しあう必要がありそうだな」

 

大尉の笑顔に怖い物が混ざった。

 

そんな大人げ無い反応にテンリューが笑う。

 

「いや流石だね、師匠をパンケーキ呼び出来るヤツなんてそうは居ないよ」

 

明るい言葉に毒気を抜かれた大尉が、笑顔の色に苦笑を浮かべた。

 

「そこを感心されてもなあ」

 

随分と軽くなった空気を、突如に引き裂く騒音が響く。

施設の各所で騒音が生まれ、人々の移動する重い音が響いている。

 

彼が鳴り響くブザーの意味を問えば、テンリューは強張った表情で言葉を吐き出した。

 

施設に対する敵襲だと。

 


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