水上の地平線   作:しちご

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15 平穏な平穏な日々

 

稼働中の13型はウチが最初で最後やなかったのかと性悪妖精を股裂き状態で問い詰めれば

それは間違いないという、ならアレは何やと、他の妖精の仕業かもって待てやコラ。

 

全自動艤装装着施設、試作型 with 箱物申請書類などが多々

 

漢数字の入った舞台から艦娘が水上に射出、活動状態に入った艤装が次々に装着される仕様。

艤装は鎖に引っ張られ海中から引き揚げられたり、どこからか勢いよく射出されたりと、

誰が何のためにこうしたのか、謎すぎる装着法が採用されていた。

 

何かどこかで見たような、間違いなく本土に居やがるな、という感じの設備である。

 

本土の年末の不始末、現地政府と仲良くやっている希少な泊地である5番泊地からの苦情は

思ったよりも大きな反響を呼んだようで、新設備などの便宜というご機嫌取りが通達された。

 

しかしどうにも、人体実験と言う言葉が頭をよぎって仕方がない。

 

だって明石(マッド)がさっきから頬緩めっぱなしだし、夕張(バリバリ)も何かテンション高いし

そんな折、興味深く眺めていた日向を押しのけて、扶桑が施設へと足を進める。

 

「おや、扶桑さん試してみますか?」

「伊勢、日向には負けたくないの」

 

「いや、私は眺めていただけなのだが」

 

惨状が予想されたので修復剤のバケツを取りにドックへと向かう。

 

バケツを持ち上げた頃、遠くから姉さまの背骨がああぁぁぁという叫び声が聞こえた。

 

 

 

『15 平穏な平穏な日々』

 

 

 

次々と出る犠牲者に、次々とバケツが消費されていく。

 

修復剤がまだいくつか必要かと、ドックへと向けて足を動かせば

楽しそうに笑いあいながら、バケツを抱えて施設へと向かう駆逐艦とすれ違う。

 

良い娯楽になっているのやろう、資材が消費されていくのが洒落にならんが。

 

思う、人類側の快進撃は続いている。

 

当初の予想よりも随分と被害が少なく、いくつかの東南アジア方面の深海側前線泊地の

攻略を果たし、南方、戦艦、装甲空母と複数の鬼や姫の撃破を達成している。

 

おかげで、東南アジア方面の航路は以前とは段違いに安定してきていた。

 

そのせいか、泊地に浮足立つような空気が流れている、いや

むしろ焦っているような、緩んでいるというより ―― 勝ち戦に緩んでいる

 

そのせいか、泊地に浮足立つような空気が流れている。

勝ち戦に緩んどるんやろうか、いやむしろこれは ―― 勝ち戦に緩んでいる

 

そのせいか、泊地に浮足立つような空気が流れている。

勝ち戦に皆が緩んでいるようや。

 

あれ、今、何か違和感が ―― 無い

 

そのせいか、泊地に浮足立つような空気が流れている。

勝ち戦に皆が緩んでいるようや。

 

何もおかしい事はない。

 

頭痛がする、魄の底からの確信がある、今、ウチらは勝っている。

 

頭が痛い、額を握りしめる、視界が歪む。

 

「どうしたの、龍驤ちゃん」

 

頭痛の果ての幻覚か、何やら視界に肌色のウサギが見えた、って島風やん。

 

「いや、ちょっと頭痛が痛うてな」

「お腹が腹痛みたいな表現だね」

 

「そのまんまやーん」

 

軽く戯ければ、島風が背中を向けて座り込む。

 

「今日は特別に超速島風便を利用させてあげよう」

 

「触っても大丈夫なんか」

「龍驤ちゃんならいいよー」

 

せっかくの好意だからと、遠慮なく背中に圧し掛かる。

肌に触れる折に緊張が走るのがわかったが、何も言わない。

 

「どこ行く? ドック、それとも部屋?」

「立っとくだけなら大丈夫や、新施設のとこに戻ってぇな」

 

負うては子に従いと言うが、駆逐艦に背負われると自分が老人になった気分や。

いや、それを言うなら老いてはだろと心の中でツッコミ、分裂症かいなウチ。

 

「島風は速いなぁ」

 

艦娘一隻背負っているのに気にせず風を切る。

 

雷を電が肩車して雷電っちゅう持ちネタがあったな、それならウチらは龍驤島風。

語呂悪ぅ、ちゅーかネタになってないな、対空駆逐艦龍風、なんか凄く強そう。

 

魔法少女島風はストライカーパックを交換する事により様々な状況に対応するのだ。

などと対空兵装の龍驤ストライカーが益体も無い与太を無為で心に浮かべ続ける。

 

「私ねー、今度はもっと速く走るんだ」

 

気軽に響いた声に、何故か遺言の匂いがした。

 

「龍驤ちゃんには、先に伝えておきたかったの」

 

何故やろうか ―― 何もおかしくはない

何故その時ではなく ―― 何もおかしくはない

だって龍驤は島風より ―― 何もおかしくはない

 

そうあるべきだからこそ、おかしい事など何もない

 

頭痛がする。

 

わからない、何も問題は無いはずなのに、焦燥感だけが募っていく。

 

何処かで誰かが何かを言っている。

 

 

 

(TIPS)

 

 

 

山城が撥ねられた、轟音を響かせて飛んできた巨大な艤装に。

 

扶桑は艤装装着時に、背骨から何か聞こえてはいけない音が聞こえたそうだ。

 

加賀は飛んできた弓に顔を弾かれ、のけぞった脇腹に甲板が突き刺さった。

 

吹雪は、受け取った武器の勢いで姿勢を崩して後頭部に背面艤装が直撃。

 

金剛さんの腰骨で破滅の音が鳴ってしまい、飛鷹が艤装を顔面セーブ。

 

空気抵抗の悪戯は実に恐ろしい、もはや現場はバケツリレーの様相である。

 

「よっと、こんな感じか」

 

ようやくに装着成功者が出る、天龍だった。

 

背面艤装の稼働音、缶から出る蒸気がプロペラを回す音が海面に響く。

海の中から現れたのに何で問題も無く動くのか、妖精技術の謎は深い。

 

「まあ、稼働状態で装着するからいろいろと手間は省けるな」

 

危なげなく海面を滑る姿に、普段から親交の篤い駆逐艦を中心に歓声が上がる。

次々と無駄な犠牲者を産んだ、本土仕込みの馬鹿騒ぎもこれで収まるだろう。

 

龍驤が埠頭にしゃがみ込み、視線の高さを合わせて問いかける。

 

「他に気ぃ付いたとこは?」

「背中がシットリして気持ち悪ぃ」

 

施設の封印が決まった。

 


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