水上の地平線   作:しちご

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77 その空白時間帯

ゆーらりバラバラ離島ハウス、我らの家は流れてる。

 

などと景気良い津波に家ごと攫われた深海組は、見事なまでに海の藻屑と化していた。

 

「離島ッ、無、事ッウゴフッ、カァッ、ヌグアッ」

 

様々な漂流物が吸い込まれるように戦艦棲姫に直撃し、次々に直撃し、直撃する、した。

 

下半身を海面に突き出し、殺人現場の如き姿勢で流されている防空棲姫の横

戦艦型の姫の盾のおかげで無傷であった離島棲姫が、流されながら落ち着いた声色を零す。

 

「コレハ、盲点ダッタワネ」

「実ハ思イ付キデ行動シテルダロウ貴様アアアァッ」

 

巨大な廃材にめり込んでいる空母棲姫が叫んだ。

 

「機ニ臨ミ変ニ応ジ弾力的ナ対応ヲ前向キナ姿勢デ善処シテイル所存ヨ」

「前カラ思ッテタガ帝国海軍混ザッテルヨナ、オ前ッ」

 

とりあえず持ち帰り上司と相談する勢いだ、しかし中枢棲姫は既に沈んでいる。

 

そこへ犬神家的なアレであった防空棲姫に、勢い良く流れていた廃材が直撃し、

綺麗に回転のベクトルを与えられ、飛び魚の如くと海面を吹き飛ばされていく。

 

「アレ、動カナイ……アハハハ、海ト 空ガ ―― 綺麗」

「沈ムナ防空ゥーッ!?」

 

問答無用の壊滅で在った。

 

その後の行方は、誰も知らない。

 

 

 

『77 その空白時間帯』

 

 

 

と言う報告が、舞鶴所属の秋津洲より提供されたとか何とか。

 

火山灰のせいで衛星の見える範囲が相当に制限されとるとかで、

長距離偵察のために秋津洲がサイパンに出ずっぱりらしい。

 

まあ、何はともあれ、貴重な時間を確保出来た事は間違い無いわけで。

 

とりあえず集めた資材を第二に持ってって、そのまま本土に支援物資として

ピストン輸送しとる今日この頃、有り難いのは確かなんやが、何かなあ。

 

まあ一息吐く暇も出来たかと執務室を抜け出し、煙草持って巣に向かう最中。

 

出撃しとった緑のニ航戦が、相も変わらず九九艦爆をたゆんたゆんさせながら、

何や凄い笑顔で埠頭から駆け寄ってくる、帰投した所か、いや待て、止まれ。

 

「センパイ、在りましたよ貨物コンテナッ」

「でかしたッ」

 

猪突とばかりに突っ込んできた船体をひらりと躱し、首を抱え込む様に腕を回して

開いた手でガシガシと髪をぼさぼさにする攻撃、偉い偉い。

 

蒼龍は、やれば出来る子やとウチは信じとったで。

 

そんなはにかむ様な表情の後輩の向こうで、引き揚げられたコンテナの横

そっと近寄った利根が、ガイガーカウンターを押し当てたのが見える。

 

凄い音がした。

 

無表情の航空巡洋艦が、そっと、液晶画面をコッチに見せてくる。

 

凄い数値が出とった。

 

髪型を崩していた手を、流れる様に顎の下に潜らせて、左右の手をロック。

 

そのまま勢いよく前に駆け出せば、あれ、とか言っていた正規空母が

固まった首に付随するが如く、前につんのめる様に引きずられるわけで。

 

跳んだ。

 

はみ出した九九艦爆が一番下の状態で、落ちる。

 

ぐえ、とか言う何かが潰れた音が、肩の下から響いた。

 

ブルドッキングヘッドロック。

 

巨乳死すべし、慈悲は無い。

 

 

 

とりあえず、この放射性廃棄物をどうしてくれようかと言う問題や。

 

「提督には近づけられん数値じゃのう」

 

眉間を揉みながら、利根が端的に言う。

 

まあウチらは、入渠でもしとけば謎の妖精技術で問題は無いやろうが。

 

「中身は牛肉じゃな、米国産の」

 

冷凍された半身の牛が、これでもかと詰まっとったわけで。

 

「サンドバックにしたら、拳が被爆しそうやな」

「食い物を粗末にするでないわ」

 

いや、既にこれ放射性廃棄物やで。

 

「まあ確かに、これは埋めるか沈めるかせんといかんが」

「自爆装置つけて、深海側に流すのも手間やなあ」

 

ペスト患者の衣服を城壁に放り込む感じで。

 

ああでも無いこうでも無いと、話しとっても埒が明かんし、

泊地がじわじわ汚染されるだけや、まあ仕方無い。

 

ここは素直に赤城と加賀を呼び付けようと。

 

「え、今日は人間の食べ物を食べて良いんですか」

 

試みた折、鉄板を齧っとった赤い方がそんな事を言う。

 

「ああ……しっかり食え」

「いや待て龍驤」

 

利根が何か言うが聞こえへん。

 

コンテナの牛を見ながら、期待に満ちた瞳でコッチとアッチに

視線を往復させる赤城と加賀の、何か言いたそうな表情。

 

「おかわりもええでッ」

 

花が咲くような喜びの表情を見て、ウチの心も温かくなる。

 

「遠慮すんな、今までの分食え」

 

ふ、涙もろくなったもんやな、2隻の顔がよく見えんわ。

流石にアレなので顔を背けとるわけやないで、きっと。

 

「龍驤が、未だかつて無いほどに優しい」

 

ホロリと、加賀の眦から水滴が零れた。

 

あ、ウチの良心が何かキリキリ傷んどる。

 

ウチに良心なんか在るのかって、ちゃんと在るで、外付けで。

具体的に言えば、今まさに胃のあたりを抑えて沈んどる利根や。

 

「まあ被爆するから、食い終わったら入渠しとけやー」

 

素早く七輪で火の音を立てとる一航戦に、情報開示の義務を果たしておいて

軽い返事を受け取りつつ、静かに、ことさら自然にその場を立ち去っていく。

 

「ククク、42年に戦没やから、放射能の恐ろしさは知らんやろう」

 

ああ、赤い空が爽やかな泊地の空気を祝福しとる様や。

 

「悪魔かお主は」

 

魔女と呼ばれた記憶は在るな。

 

 

 

利根とブラブラと見回っている内、飴玉袋を持った司令官と合流する。

 

漁業関連の船団護衛の交代に立ち会った所だとか。

 

「今回はジャンプオールスターズだから、お裾分けが期待出来そうだ」

 

飴玉をコッチにも渡しつつ、妙に縁深いフィリピン出稼ぎ連中の名を司令官が出す。

 

「前から思っとったが、何でジャンプオールスターズと呼んどるのじゃ」

 

利根に言われて思い出す、そういや別に正式名称でも何でも無いな、コレ。

 

しかし意味言われてもな、ラセンガーンが持ちネタの、ナルト船長が纏めとる船団やし。

 

ちなみに他の構成員の名が、ゴクウ、ベジータ、セイヤ、ハナミチ、リョウ、ケンシロウ。

誰が呼んだかっつーか、ウチと司令官が勝手に呼んどるジャンプオールスターズ。

 

どうでも良いが、本国に居るナルト船長の嫁さんはランマと言うらしい。

 

出版社の垣根を越えとるな。

 

「漫画の登場人物の名前じゃったか」

「正確には、アニメや」

 

偶然の一致にしては出来すぎじゃろうと言うので、解説を入れておく。

 

「フィリピンは外国統治の歴史が長いからな」

 

スペインの植民地時代の名残で、高齢者はスペイン系の名前が多い。

 

「戦後はアメリカやから、アメリカ式の名前が主流へと移り変わった」

 

最近はアメリカ式にアレンジを加えたり、何か色々と独自路線を模索しとるとか。

 

「漫画との関連が見えんのじゃが」

「要するに船長は、日本のアニメが入って来た頃の世代や」

 

流行ったねん、アニメキャラ由来の名付け。

つーか過去形やなく、現在進行形やな。

 

コロコロ名付け法則が変わった歴史のせいか、そう言う所はフレキシブル言うか、

インド人が子供にシヴァとかガネーシャとか名付ける感じのノリか。

 

まあ何や、誰も彼もと言うほどではないが、忌避されるほど少ないわけでも無い。

 

他にも芸能人由来や玩具由来など、結構いろんな方向性が在るし。

 

などと聞いて、どうにも反応に困っとる利根の向こうで、司令官がしみじみと語った。

 

「知ってる日本語が在ると言われて、ラセンガーン言われた時は衝撃だったな」

「見事な持ちネタやな、つーか船長、日本語話せるやろ」

 

ネタのためだけに片言で話せるほど堪能に。

 

「今度生まれる娘さんの名前は、ウサギにするそうだ」

「月に代わってお仕置きでもして来るんか」

 

出産祝いにプリキュアグッズあたり贈っておくべきか。

 

何か酷い状況のはずなのに、やたらといつも通りの泊地やった。

 

 

 

(TIPS)

 

 

 

ブルネイ発フィリピン人漁船団の船団護衛から帰投した島風です。

 

通称ジャンプオールスターズのナルト船長さんから、何か差し入れだとかで

余ったお魚と一緒に、UFOなる焼きそばを貰ってしまいました。

 

ハラール認証付き、フライドラーメンとか書いてあります。

 

聞けばミーゴレンならぬ、ラーメンゴレンとも呼ばれているとか。

 

そして貰った件を報告したら、普通に食べて良いとの事でしたので、

艦隊を組んでいた陽炎隊で遅めのお昼と洒落込もうとした所。

 

報告時に聞いたのですが、何でも戦後の日本でUFOブームの時に発売された便乗商品で、

そのまま定着してロングセラー化したインスタント食品だとか。

 

近年は海外展開されており、インドネシアで作ってマレーシアあたりでも

売っていると、言われてみれば近くの雑貨店で見かけたような気がします。

 

その時代、その傾向に合わせて小まめに配合とかマイナーチェンジしているそうで、

太麺に変更された辺りから、UFOとは「美味い・太い・大きい」の意味とか、

 

何か頓珍漢な事を言い出したと、龍驤ちゃんが言っていました。

 

パッケージには「UNIDENTIFIED FLYING OBJECT」と書いてあるのに。

 

創業者と後継者の確執から来た迷走の名残とか言っていましたが、よくわかりません。

 

何はともあれ、間宮でお湯を貰って食べるとしましょう。

 

「何か色々と付いてるわねえ」

 

包装を破った隊長が、内容物を取り出しながら零しました。

 

オイリーなソース、乾いた謎の肉、フライドガーリック、スパイシーマヨネーズ、

出来上がった後に混ぜるみたいですね、キャベツとかは既に麺と一緒に入っているみたい。

 

「乾燥紅生姜入りの青海苔は無いんですか」

 

ぬいぬいは日本製を食べた事が有るとかで、内容物の違いを言っています。

 

それはともかくと、冒険のお湯を入れて3分、蓋に付いてる小さい蓋を剥がすと

アルミっぽい色合いに湯切り穴がたくさん開いていて、いや凄いねコレ。

 

早速にお湯を切る、楽だ。

 

何よりも3分だよ、3分、全工程が。

 

速い。

 

速すぎる。

 

風が語り掛けるほどに素晴らしい。

 

そしてあとは混ぜてー、混ぜてー、混ざってー、混ぜて―

混ぜ疲れて混ぜるまでー、混ぜてー

 

口にすれば、実にジャンキーな味わいが思考を染め抜きました。

 

果実の甘い香りに際立つスパイシー、カリカリの謎肉やガーリックも尖っていて

マヨのまろやかさすら口の中で凄い主張している、お淑やかさの欠片も無い。

 

さながら、日本酒の肴に菊茎の和牛包みを出されて、もそもそと食べながら

切り落とし肉1kgの方が嬉しいのになあとか思ってしまう感じの、成長期に嬉しい味。

 

「つまり、これが ―― 若さか」

「どういう感想よ」

 

天津風ちゃんに半目でツッコミを入れられました。

 

えーとつまり、労働の後は美味しく食べられる、主に塩分的な意味で。

 

「日本製より味が濃いですね」

 

普通に凄い勢いで消費していたら、同じような状況の隊員たちの内、

唯一日本製を知っている次女からポロリと、興味深い感想が。

 

「東南アジア系のインスタントは塩分多めだけど、これもそうなのかな」

「そんな感じですね、オリジナルはもう少し柔らかい味です」

 

最近は大混乱なので難しいですが、いつか機会が在ったら試してみたい所ですね。

 

そんな麗らか、と言うには多少ソースの香りがキツイ気がする、お昼過ぎでした。

 


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