Fate/stay night ~ For someone's smile ~   作:シエロティエラ

8 / 16

更新です。


それではごゆっくりと





弓と槍

 

 

 

Side 凛

 

 

次の日、いつも通りの時間に起床して学校へと向かう。背後には霊体化させたアーチャーを従えている。校門を潜ると、違和感が体を襲った。甘ったるい感じである。

 

 

「……アーチャー」

 

━━ ああ、結界だな。まだ発動はしていないが。

 

「どこの馬鹿よ? こんな分かりやすく結界を張るだなんて。まるで……」

 

━━ まるで囮のようにあつかっている?

 

「ええ、そうよ」

 

━━ 幸運と言うべきか、発動するまでに期間を要するようだ。だが逆に言えば、それほどに大規模なもの、と言うべきだな。

 

「取り敢えず、放課後に調査するわ。授業中は偵察とかお願いね」

 

━━ 了解した

 

 

アーチャーは私の頭の中に直接、私は周りに怪しまれないよう小声でアーチャーと会話する。これほどに大規模な結界は、その殆どが質の悪いものである。まだ詳細まで調べてはいないが、この学校に張られたものもその例に漏れないだろう。私達魔術師は一般人への秘匿が義務付けられている。ならそいつを捕まえるためにも、準備を怠らずに、わざと相手にのるのがベターだろう。

結界と相手への対策を考えながら、私は今日の放課後まで過ごした。昼休みに、穂群原陸上部三人娘の一人である三枝さんに、昼食のお誘いがあったけど丁重に断り、私は結界の調査をしていた。けど昼休みの時間は短いので、結局は結界の大まかな位置、校舎の半分より上ということしかわからなかった。

 

放課後にもう一度調査をした。範囲は絞れていたので、昼休みほどは時間はかからなかった。それでも部活生が帰るまでは大きな行動ができなかったため、結界の効果を調べる頃には日がとっぷりと暮れていた。

屋上へと行き、結界が刻まれている位置までいく。もしもの時のために、アーチャーを私の脇に待機させておく。私は結界の解析を始めた。

 

……………………信じられない。質が悪すぎる。

 

 

「これは……結界内にいる人間に無差別で効果を与える。術者以外の全員に。人間を溶かしてそのまま術者に糧として供給するタイプ」

 

 

ある程度対魔力を持っていれば耐えられないことはないが、この学校には私以外魔術師はいないはず。発動はするタイミングがタイミングなら、この学校の生徒全員が巻き込まれてしまう。冬木のセカンドオーナーとして、そんなことをさせるわけにはいかな……

 

 

「よう。なんだ消しちまうのか、それ」

 

 

突然声を後ろからかけられた。アーチャーによる警告がなかったことから、相手が相当のやり手ということはわかる。私は咄嗟に後ろを向き、相手の姿を目に入れた。それは青い軽鎧を身に付けた若い男だった。貯水器の上に座り込んでいる。

 

 

「……これ、あなたの仕業?」

 

「いいやぁ? こそこそと策を弄するのは魔術師の専売だ。そうだろう?」

 

()()()()()()()()

 

 

彼のその発言からわかった。霊体化しているアーチャーが見えている。ならば、

 

 

「やっぱりあなたはサーヴァント」

 

「いかにも。それがわかるお嬢さんは、俺の敵ってことだな? あ~あ、こりゃ失敗だな。面白がって、声かけるんじゃなかった」

 

 

男はそういいながら、赤く輝く槍をどこからともなく取り出した。敵はサーヴァント、しかも槍を持っていることから、恐らく素早さは最高級のランサークラス。周りを確認する。しまった、金網で四方を囲まれている。

 

 

「ほう? 周囲の状況を確認か。まぁ悪くない。そんじゃ……」

 

 

ランサーはそう言うと、こちらへと飛び降りてきた。私は軽量と強化の魔術を用い、金網を飛び越えて屋上から飛び降りた。着地はアーチャーに勢いを殺してもらい、そのまま強化した体で校庭を走る。しかし直ぐ後ろにはもうランサーがおり、まさに今私の首は跳ねられようとしていた。

だが、間に実体化したアーチャーの邪魔が入り、私は一命をとりとめた。アーチャーは左手に黒に赤い線で亀甲模様の描かれた中華剣を握っている。

 

 

「いいねえそう来なくちゃ。見たところセイバーじゃあないな。てことはアーチャーか。いいぜ、弓を出すまで待ってやるよ。そら、さっさと得物を出しな」

 

 

だがアーチャーはランサーの言葉に反応することなく、ただ私を見つめている。それに私はようやく察した。アーチャーは私から命じられるのを待っている。

 

 

「アーチャー、手助けはしないわ。あなたの力、ここで見せて!!」

 

 

私がそう言うと、アーチャーは一つ口のはしを歪めて笑い、そして全身に魔力をみなぎらせた。そして次の瞬間視界から消え、轟音と共にランサーとぶつかり合っていた。

 

轟音と共に赤と青の光がぶつかり合い、校庭の地面には亀裂が入っていた。そしてついにアーチャーの黒い剣が砕かれた。そのまま一突きされてしまうと思った矢先、アーチャーは右手に白の波紋のついた剣を。左手には先程のと同じ、黒い剣を持っていた。

 

 

「二刀使いか」

 

 

ランサーがぼそりと呟く。アーチャーはそれに対して無言で双剣を構える。

 

 

「弓兵風情が剣士の真似事とはなぁ!!」

 

 

そして再び赤と青がぶつかり合った。何度も何度も剣戟が鳴り響くと共に、より戦いも激しくなっていく。アーチャーとランサーがぶつかり合うなかで、アーチャーの双剣は何度も弾かれ、砕かれた。しかしその度にアーチャーは新しく剣を取り出し、応戦していた。そして今、またさらに一つ黒い剣が弾かれ、私から少し離れた位置に突き刺さり、霧散した。二人の英霊も、一旦互いに間を開けた。

 

 

「二十七。それだけ弾き飛ばしてもまだあるとはな。何者だ、てめぇ……」

 

「随分と慎重だな。様子見とは君らしくない」

 

「ったく、いいぜ。聞いてやるよ。てめぇどこの英雄だ。二刀使いの弓兵なんぞ見たことも聞いたこともねぇ」

 

「そういう君は分かりやすいな。槍兵は最速の英雄が選ばれると聞く。君ほどの腕を持つ者は、三人ぐらいしかいないだろう。そしてその獣の如き敏捷さと言われれば、恐らく一人」

 

「ほう? そうかい」

 

 

ランサーはアーチャーの言葉に目を燃やし、槍の先を下げて構え直した。するとランサーの持つ槍に、周りに漂う魔力が吸い込まれていく。槍は貪るように魔力を食らっていき、その赤い禍々しい輝きを増していく。

宝具だ。ランサーは宝具を放つ気だ。

 

 

「ならば受けてみるか、我が必殺の一撃を!!」

 

「止めはしない。いずれは越えねばならん相手だ」

 

「アーチャー!!」

 

 

何とアーチャーは、ランサーの宝具を受けると宣言した。流石の私もそれには驚愕し、彼に声をかけた。だがアーチャーは私の声に返答することなく、ただただランサーを見据えていた。ランサーは燃えるような目をし、濃密な殺気をたぎらせながらアーチャーを睨み付けていた。

と、突然ランサーの槍から魔力が霧散した。

 

 

「誰だ!!」

 

 

ランサーがアーチャーから目を外し、鋭い声をあげる。ランサーが目を向けた方向を見ると、一人の女生徒が走って逃げていくのが見えた。ぬかった!! てっきり全員帰宅していると油断していた!!

 

 

「弓兵、勝負は預ける。逃げられると思うなよ!!」

 

 

ランサーはそう言うと、女生徒を追っていってしまった。アーチャーと私は、見ることしかできなかった。って、

 

 

「アーチャー!! 追うわよ!! アーチャー!!」

 

「ぬっ? すまない、凛。今なんと?」

 

「だから!! ランサーを追うって言ってるの!! 行くわよ!!」

 

「了解した」

 

 

アーチャーは返事をすると私に近寄り、抱えて移動を始めた。ランサーを追う際に何度かの小さな剣戟が聴こえ、そしてしばらくして走り去る男子生徒の影が見えた。まさかさっきの剣戟は彼が? とにかく先を急ぐと、ランサーは立っていた。それはまるで私達が来ることを待っていた、とでも言うように。

 

 

「よう、また会ったな」

 

「……さっきの女の子と男子生徒は?」

 

「あん? 一旦逃がしたよ」

 

「逃がしただと?」

 

「おうよアーチャー。ただし、条件付きでな」

 

「一般人なら問答無用で殺すと思ったが?」

 

「ちょいと面白いものを見せてもらってな。てめぇの相手をしている間だけ逃げるなり何なりしろと言ったのさ。あの魔術師の坊主、中々おもしれぇ。お前と同じように何本も武器を出してたぜ、アーチャー」

 

「……何だと? いや、そんな筈は……」

 

 

アーチャーが珍しく動揺している。けどランサーが槍を構えると、意識を切り替えて戦闘態勢に入った。

 

 

「そんじゃまぁ、第2ラウンドと洒落こもうや!!」

 

 

ランサーの一声を皮切りに、再び赤と青はぶつかり合った。

 

 

 

-----------

 

 

 

 

戦闘に一段落つき、ランサーが去っていったおと、私達は一息ついていた。無論このあともランサーを追う。しかし連戦だとアーチャーもきついだろうと思い、今少しだけ休んでいる。

 

 

「では凛、そろそろ行こうか」

 

「ええ、行きましょう」

 

 

私は再びアーチャーに抱えられ、夜の街を高速で移動した。

 

 

「アーチャー、走っていた男子生徒の特徴はみた?」

 

「ああ。白いメッシュが入っていた」

 

 

白いメッシュ。ということは桜が通っている家の生徒、衛宮士郎だ。ランサーは彼が魔術師と言っていた。とすると、彼は潜りである。加えて今はランサーに追われている。何としてでも、ランサーに殺される前に駆けつけなければならない。

アーチャーに抱えられ、道を指定しながら彼の家へと向かう。そして件の広い日本家屋へとたどり着き、私達は一旦止まった。

 

 

「この獣臭さ。間違いない、ランサーだな」

 

「獣臭さって」

 

 

そう言いつつ、私はアーチャーと共に塀の上に立ち、その中の状況を確認した。そして私は今までの常識を覆されるものを見てしまった。隣に立つアーチャーもいつもは崩さない表情を変え、今は目を見開き、口を半開きにしている。

 

 

「……そんな……何故……」

 

 

アーチャーは譫言のようにそう呟いていた。

私達の目の前に広がるのは夜なのに限定して明るい空間。阻むものがない青空の下、無限に広がる草原につき立つ無限の剣群。そしてその身を横たえる大小様々な錆びた歯車。その中心で戦うランサーと、その他二人の英霊。少し離れた場所に固まる三人の同級生と一人の後輩。同級生の一人であるメッシュの少年は腕を振り、剣を飛ばしてランサーに攻撃している。

 

 

私達が追ってきたメッシュの少年は魔術の大禁呪、固有結界を展開していた。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。


次回はいつ更新するかはわかりませんが、こちらは教会に行った次の日までの話を書き、ハリポタの更新に戻ります。


ではこの辺で





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。