Fate/stay night ~ For someone's smile ~   作:シエロティエラ

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久々の更新になります。
今回から凛視点になります。


ではごゆっくりと。






赤い主従

 

 

 

Side 凛

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ!! 天秤の守り手よ!!」

 

 

エーテルがはじけ、魔力が迸った。やった!! 最高のカードを引き当てた!! そう確信した私は目を開けた。しかし私の目に飛び込んできたのは、何もいない部屋だった。役目を終えた召喚陣は光を収めて静かに床に刻まれた状態に戻っている。

おかしい。確かに召喚は成功した筈。しかしサーヴァントの気配はない。時計を見ると、確かに時間は……しまった。確か今日に限って屋敷じゅうの時計が一時間早かったのだ。そのせいで今朝はいつもは起きない時間に起きてしまったのだ。時間を間違えるなんて、なんてうっかり……なんて考えていると、屋敷の一角から何かを突き破る音、そして何かを破壊する音、そして凄い振動が伝わってきた。

 

 

「ええい、何なのよ!!」

 

 

私は急いでその部屋へと向かった。扉の前に着き、そのまま開こうとした。しかし扉は壊れたのか、ドアノブを捻ってもビクともしなかった。ええい、鬱陶しい!!

 

 

「こんの!! 開きなさい!!」

 

 

苛々が限界まできて、私は扉を蹴破った。この程度ならあとで修復できるので気にしない。

扉を開けた先に見たのは、天井に空いた穴。破壊されて瓦礫と化している家具の数々。そしてその瓦礫の上に足を組んだ状態で座っている、赤い外套を纏った白髪肌黒の青年だった。

 

 

「はぁ……またやっちゃった、反省。それで? 貴方は何なの?」

 

 

私は自分の失態について反省しつつ、赤い青年に質問した。すると、

 

 

「さて、こちらも状況を把握しきれていない。召喚直後が屋外、加えて遥か上空と来たものだ。何が何だかわからないまま、天井を突き破る結果となった。いやはや、これはまたとんでもないマスターに引き当てられたものだな」

 

 

質問の三倍はある皮肉で返された。倍返しを信条とする判事も吃驚だ。

 

 

「ぐっ、それについては悪かったわ。私が聞きたかったのは、あなたが私のサーヴァントかってこと」

 

「寧ろこちらが聞きたいものだな。こんな乱暴な召喚をされたのだ。君こそマスターなのか? そしてそれを証明するものは?」

 

「これよ」

 

 

私は彼の質問に対して、右手の甲に浮き出る令呪を見せた。それにしてもこのサーヴァント、一々皮肉を交えないと会話ができないのだろうか? しかもニヒルな笑みを口に浮かべながら。正直苛々が溜まる。

 

 

「……クククっ」

 

「……何がおかしいのよ」

 

「いやなに、令呪をマスターの証とするのかと思ってね。それは確かにサーヴァントを律するものだが、契約していない個体には無意味なものだろう? まさか失念していたわけではあるまい?」

 

「う……」

 

「……まさか本気でそう思っていたのか?」

 

「……」

 

「……」

 

 

気まずい沈黙が私たちを襲う。私は彼に指摘されたことが図星で、彼はまさかと思っていたことが当たってしまって。私たちは互いに渋い顔をしながら黙っていた。すると彼が先に口を開いた。

 

 

「すまない、少々からかいが過ぎた。ようやくラインが確認できたし、君が私のマスターであることは確かなようだ。しかし先のような勘違いを起こすとは、未熟であることは変わらないみたいだな」

 

「悪かったわね、未熟で」

 

「だが素質はあるようだ」

 

「? あんた言っていることが矛盾してない?」

 

「君から流れ込んでくる魔力が申し分ないからだよ。ポカはやらかすようだが、素質は確かにあることはわかるものだ」

 

「あらそう、ありがとう」

 

 

皮肉屋であることはわかったけど、ちゃんとフォローもするのね。そこは改めないといけないかしら?

 

 

「それで、あなたは何のサーヴァントなの?」

 

「見てわからないか? アーチャーのサーヴァントだよ。こんな身なりの輩が剣を取って正々堂々とやり合う質に思えるか?」

 

「なんだ、セイバーじゃないのか」

 

 

少しがっかりだった。高い宝石をいくつも使って召喚をしたのだ。なのにセイバーではなかったのだ。ふと青年、アーチャーを見ると、彼は少し拗ねたような顔をしていた。

 

 

「どうせアーチャーでは派手さに欠けるだろうよ。悪かったな、セイバーでなくて」

 

「あら、気を悪くしちゃった?」

 

「ああ、気に障った。見てろ、いずれその発言を後悔させてやる」

 

「そう、なら楽しみにしてるわ。私を後悔させてね?」

 

 

彼の発言と顔が可愛らしかったので、ついついからかいを入れてしまった。まぁ先程の皮肉の仕返しと考えればいいだろう。

 

 

「それで、あなたの真名は?」

 

「その事だか、マスター。私の真名はわからない」

 

「……は?」

 

 

今こいつは何と言った? 自分の真名がわからない?

 

 

「どうやら記憶に混濁が見られる。故に真名が自分でもわからない」

 

「ちょっ!? ならどうするのよ!? 宝具とかは!?」

 

「これは君の不完全な召喚のつけだぞ? 私がとやかく言われるすじはないのだが?」

 

「う……それは」

 

「まぁその程度は些末なとこだ。何ら問題はない」

 

「問題はないって、あなたね」

 

「何を言う? 君が召喚したのだ。そのサーヴァントが最強出ないはずがない」

 

「なっ!?」

 

 

何なのよこいつ。誉めたり貶したりわからない。

 

 

「わかったわ。今はこれ以上聞かない。さてアーチャー。早速頼みたいことがあるんだけど」

 

「いきなり戦闘か。今回のマスターは中々に好戦的だな。相手は?」

 

「この部屋の修復と片付け、お願いね?」

 

「は? まてまて、君はサーヴァントを何だと思っている!?」

 

 

私が箒と塵取りを投げると、アーチャーは心外だ、とでも言いたそうな顔をしてこちらを見ていた。けど投げ渡した二つを受けとることから、結構人がいいらしい。

 

 

「使い魔でしょ? 正直召喚直後で魔力が減って眠いの。だからお願いね」

 

「なっ!? おい、ま……」

 

 

アーチャーが何か言っていたが、私は無視して寝室へと向かい、そして着替えてベッドに潜り込んだ。疲労が溜まっていたのか、直ぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side アーチャー

 

 

召喚されたのが上空、加えて直後に天井を突き破る事態になったので、召喚主たる赤い服を着た少女をからかってしまった。まぁそのあとこうして屋敷の修復を押し付けられたのだが。

修復をしながら状況を確認していた。どうやらここは冬木の街らしい。そして記憶の欠片を紡ぎ合わせると、ここは俺がまだ若かった頃の場所であるとわかった。

零に等しい可能性を私は手繰り寄せたとわかった。ようやく、ようやく私の望みが果たせると。八つ当たりとはわかっているが、無ではない、自分の存在を消すことができる、限りなく低い可能性を手繰り寄せた。

 

私は自然と口を歪ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 凛

 

 

夢を見た。

それは男の夢。

人のために戦い続け、最後は助けた人に裏切られて死んだ男。

死後も人のためにと思い、「世界」と契約した男。

しかしその願いは裏切られ、人の後始末ばかりさせられた男の。

 

 

 

 

「うう……」

 

 

窓から差しこむ朝日を浴びて、私は目を覚ました。私が見た夢。恐らくアーチャーの過去だろう。マスターは契約したサーヴァントの過去を、夢として見ることができると聞いている。

 

 

「……何なのよ」

 

 

人のために戦い続けた男の末路は、永遠に終わらない殺戮地獄。決して報われない生涯と死後。無性に苛々した。頑張ったのならそのぶん、幸せにならなければならないのに。

ノロノロと着替えて寝室を出ると、部屋は完璧に修繕されているだけでなく、掃除もされていた。

 

 

「ああ、やっと起きたか。朝食を用意しておいたぞ。時間も時間だから軽いものにした。それと浴室の機器が故障していたからそれも修繕しておいた。それから台所は勝手に使わせてもらっている」

 

 

それをした張本人は、今は台所で紅茶を淹れている。しかも料理も紅茶も美味しいときたものだ。そしてそれを見たアーチャーはニヤニヤと笑みを浮かべている。頭痛くなってきた。

 

 

「……私は茶坊主を雇った覚えはないけど」

 

「それは失礼した」

 

「まぁいいわ、美味しかったし。それよりあなた、記憶は戻ったの?」

 

「いや、まだだめみたいだな」

 

「なら宝具は?」

 

「そもそも私は特定の武具の類いは持っていない」

 

「……は? 宝具を持っていない?」

 

「正確にはそれに該当するものはある。使い時を間違えなければ、鬼手になりうるほどのな。タイミングは君に任せるさ」

 

 

それは責任重大ね。覚えておきましょう。

 

 

「マスター、何か忘れていないか?」

 

「は?」

 

「……ハァ。契約において大切なことを忘れているぞ、君は」

 

「えっと……あっ名前」

 

「そうだ。マスター、君の名前は?」

 

「私は凛。遠坂凛よ」

 

「では凛と。ああ、この響きは君によくあう」

 

「なっ!?」

 

 

何てこっ恥ずかしいことを言うのよこの男は!? しかも顔を見る限り、からかいではなく、本気でそう思っている表情をしていたので、不覚にも顔を赤くしてしまった。

まぁ色々とあったが私は学校を休むことにし、霊体化したアーチャーを連れだって冬木の新都を散策した。彼に街の地形を知ってもらい、戦術に役立たせてもらうためだ。夜のとあるビルの屋上から街を見ていたとき、同級生の髪に白いメッシュの入った少年がこちらを見上げていたが、気のせいと流すことにした。

 

そんなこんなで一日が過ぎた。

 

 

 

 

 

 






はい、今回はここまでです。


前回から時間が遡り、少々時系列がわかりにかったと思いますが、そこら辺は前回までと照らし合わせて確認していただけたらと思います。


ではこの辺で



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