Fate/stay night ~ For someone's smile ~ 作:シエロティエラ
お待たせしました、運命の夜編です。
それではごゆっくりと
姉を抜いた面子で朝食をとった後、俺たち四人は学校に出発した。藤ねえは相変わらずのテンションで、
「四人とも遅刻しないようにね? あと士郎。今日は仕事の関係で晩御飯私食べれないから。よろしくね~」
といってスクーターをぶっ飛ばしながら学校に向かった。毎度思うがよくそれで一日持つな。俺はそんなテンションなら半日も持たないぞ?まぁそれはさておき、慎二が真面目な顔をしてこちらに話かけてきた。
「衛宮、すこし話がある」
慎二が真面目な顔をするときは、俺たち男しかわからないくだらない話か魔術絡みの話である。そして桜がさりげなく三枝を俺たちから引き離したことから、魔術絡みの話で間違いないだろう。
「昨晩、桜がライダーを召喚した」
「そうか」
「今は学校にライダーの宝具の結界を張ってある。中にいる人を溶かして自らの糧にする類いのな」
「ッ!? まさかお前……」
「最後まで聞いてくれ。桜もライダーも、無論僕も生徒や教師たちがいる間に結界を発動させる気はない」
慎二は言葉を続ける。
「けど結界に魔力を供給する呪刻は破壊しないと、自然に発動させてしまう。破壊には桜も協力するし、桜が既にイリヤさんに報告している。だから衛宮にも呪刻の破壊に協力してほしい」
「多分見つけるには俺は最適だと思うが、破壊は出来ないぞ? それに呪刻を破壊したら結界を張った意味がないんじゃないか?」
「今回張った結界は、俺たち以外のマスターを誘き出すためのエサ、囮さ。衛宮、お前も聖杯戦争に参加するんだろう? だから予め同盟を結んでおきたいのさ。だからお前に言ったんだ。」
「わかった。いつから始めるんだ?」
「明日からだ。頼むよ」
「わかった」
話は一段落ついたから、俺たちは前方で待っている三枝と桜のもとに走っていった。学校に着くとなるほど、慎二のいっていた違和感の意味がわかった。なんだか甘ったるい、不気味な感じが体を満たしてくる。俺はそれを表には出さず、平静を保ちながら校門をくぐった。
「ああそうだ衛宮。悪いけど今日の放課後の弓道場の掃除をやってくれないか? 僕は間桐の家に用事があってね」
「別に構わないけど」
「あ、衛宮君。私も今日は道具の点検とかで遅くなるかもしれない」
「そうか、とすると弟たちはいいのか?」
「うん、今日はお父さんとお母さんと一緒に食べるって。私も一緒に行こうとしたらなんか『あんたはしっかりと首輪をつけてきなさい』って言われたんだけど。どういうことだろう?」
「「ああ~なるほど」」
「何がだ?」
「なら三枝は衛宮と一緒に帰ったら?」
「そうですね。最近物騒ですし」
「うーんお願いしていい?」
「ああ、大丈夫だ。なら、終わり次第俺がそっちに行くよ」
「じゃあお願いします」
そうしてそれぞれの部活に向かっていった。さて、俺も一成のところに行くか。
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その日の学校も虎が気絶したり、虎が雄叫びあげたり、虎が暴れたりと比較的平和な一日だった。平和じゃないって? 必殺虎竹刀を持ち出さないだけものすごくマシだ。そして弓道場の掃除しに行ったときに、一悶着あったが平和的に解決し、今は掃除をしている。
しかし美綴のやつ、まだ俺を弓道部に再入部させることを諦めていなかったのか。俺の弓は邪道だと何度もいっているのに、物好きだな。
よし、あとは弓と弦の手入れをするだけだ。下手な扱いをするとすぐに弦は切れるし、弓は悪くなって思うように矢が飛ばなくなる。道具はデリケートだから丁寧に扱わn………………
気のせいか? 先程から金属音が絶えない。パイプ同士がぶつかり合うような軽い音じゃなく、もっと重たい、もっと鋭利なものがぶつかり合う音だ。それに、なんだか嫌な予感が、胸騒ぎがする。まさか、まだサーヴァントが七騎揃っていないのに戦闘しているやつが…………
気になった俺は掃除を中断し、音源へ向かった。
Side out
Side 三枝
私が今見ているのは夢なのだろうか?
部活が終わり、使用した道具の点検をして足りないものや、新調すべきものを確認して帰る準備をしていた。それで衛宮君がいなかったから弓道部のところに行こうとしていた。そしたら運動場から大きな音が聞こえてきた。今は校庭には誰もいないはず。気になって見に行くと赤い外套の男性と青い鎧? みたいなのを着た男性が戦っていた。青い人は赤く光る槍を振り回して、赤い外套の人は二本の白黒の剣を使って捌いていた。
今の世の中で、あんな危険なものを振り回す人なんてほとんどいない。ましてや鎧を着るなどそれ以上にいない。だから私は、今目の前で起こっていることが、普通じゃないってわかった。そして怖くなった。
ふと頭に浮かんだのは、先日あった夜の殺人事件。一家は長物で殺されていたという。いま二人が持っているのは、種類が同じものかはわからないけど、全く同じ凶器の類い。だから私は思わず後ずさりして、足元の小枝を踏んでしまった。
「ッ!! 誰だッ!!」
青い人に気付かれた。私はなりふり構わず、走り出した。捕まったらあの槍で刺されてしまう。考えなくてもわかることが怖くて必死に逃げた。角を曲がったとき、人にぶつかってしまった。誰だか知らないけど、巻き込む訳にはいかない。
「…………三枝? どうした?」
なんてことだ。よりによって衛宮君を巻き込むなんて。早く……早く逃げるように言わなきゃ。でないとあの男の人に殺されちゃう!
「よう、よくここまで逃げてきたな」
…………ああ、終わった。もう助からない。私がモタモタしていたせいで、私だけじゃなくて衛宮君まで巻き込んでしまった。我知らず、涙が溢れた。それは止まることなく流れ続ける。ごめんなさいお父さん、お母さん。家族をのこして死んでしまう私を許してください。弟たちもごめんね、こんな情けないお姉ちゃんで。そして衛宮君、巻き込んでごめんなさい。どうか、衛宮君だけでも逃げてください…………
そう心で懺悔していた。後ろから恐ろしい圧迫感のある男の人が近づいてくる。足音がいやに大きく響いている。一歩一歩近づいてくる度に呼吸ができなくなる。もうどうしようもなく恐ろしくなって私は目をつむり、すぐに襲ってくる死を覚悟した。
突然圧迫感がなくなった。目をつむっていたから理由がわからない。恐る恐る目を開けると、そこには見慣れた背中があった。私と槍の男の間に立つ彼の後ろ姿は、不謹慎にも騎士のように見えた。
Side end
Side back to 士郎
胸騒ぎがして校庭に向かう途中に、三枝と出会った。いや、何かから逃げている三枝とぶつかった。怯えかたが尋常じゃない。声をかけたけど、まともに話せるような精神状態じゃないのは一目でわかる。
「よう、よくここまで逃げてきたな」
唐突に前から聞こえた声に顔ををあげると、そこには紅の槍を担いだ青い革鎧の男がいた。間違いない、サーヴァントだ。
「あん? なんだ増えたのか。ったく面倒な手間をかけさせやがって。こちらとしてもあんまり一般人を殺すのは本意じゃねぇってのに」
どうやらこの男は無意味に殺すことは好きじゃないらしい。まぁ意味のある殺しがあるのかは知らないけど。
「なら見逃してくれないか?」
「無理だね、見られたからには坊主にも、そこの嬢ちゃんにも消えてもらわなくちゃならねぇ。ま、自分の運のなさを恨むんだな」
どうやら見逃してはくれないらしい。かといってなにもしないでやられるつもりはない。それに、三枝も逃がさなくてはならない。だとすれば……
俺は三枝から離れ、彼女と槍の男の間に立った。
「あん? 俺とやるのか? やめておけ、お前じゃ相手にならない」
「でも簡単に殺される訳にはいかない」
「そうかよ、じゃあ…………」
槍男は愛槍を構える。
「さっさとあの世にいけ」
そう言ってこちらに一突きしてきた。だが幸いやつはこちらが一般人であるとみて、たいして力を入れずに突いてきた。このぐらいの早さなら、俺でも捌ける!
━━
自身への暗示を心のなかで唱え、無銘だが丈夫な剣を投影し、やつの槍を弾く。
「!! てめぇ…………そういうことか」
「悪いが逃げさせてもらうぞ。三枝、立てるか?」
「え? あ、うん」
「よし、なら俺の背中に捕まれ。手は腹に回してくれ」
「わ、わかった」
三枝に指示をだし、再び男と向き合う。
「…………いまの間に殺そうと思えば殺せたんじゃないか?」
「そうだな、だがちょいとな。お前に興味が湧いたんだよ」
「なに?」
「いまお前はどこからともなく剣を出したな? そんで力をいれてなかったとはいえ、俺の槍を一度捌いた。魔術師に切りあいを望んでも仕方ないと思っていたところにお前の存在だ。興味持つに決まってるだろう?」
「何がいいたい」
「魔術師でこの地域にいるってことは、俺がどういう存在かわかるだろう? それでも俺から逃げると面と向かって言った。そこでだ」
男は続ける。
「俺の槍を十合捌いてみろ。そうすれば他のやつを相手にしている時間だけ逃げる猶予をやる。どうだ? 悪くない話だろう? その間に新たなサーヴァントを喚ぶなりなんなりすればいいのだからな」
確かにこちらにとっては美味しい話だ。だがわからない。何故そんなことを突然言い出したのか。
「わからないな。なぜそこまでしてくれる」
「なに、気紛れさ。マスターのいうことを全て聞くってのもしゃくなもんでね。ちょっとした意趣返しのものもあるな」
「…………わかった」
俺は三枝から距離をおき、槍の男と対峙する。
「…………衛宮君?」
「悪い三枝。今はなにも聞かずに俺の家に行ってくれ。いいな」
「でも…………」
「いいから早く、あいつが見逃してくれるうちに。行けッ!!」
三枝を無理矢理避難させ、両の手に剣を投影して構える。すると目の前のサーヴァントは怪訝な顔をした。まるでどこかで見たことがある、とでも言いたそうな顔だった。
「どうした、始めないのか?」
「…………気のせいか、なんでもない。そんじゃまぁ」
サーヴァントが槍を構える。
「俺はランサーのサーヴァントだ。さて坊主、ついてきてみなッ!!」
その言葉を皮切りに、俺とランサーはぶつかりあった。
突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く
避ける避ける避ける避ける避ける弾く避ける弾く避ける避ける避ける弾く避ける避ける避ける避ける避ける避ける弾く弾く弾く避ける避ける
5回弾いて右の剣が壊れ、再度投影する。七回目で左の剣が壊れ、再度投影する。九回目で両方の剣が壊れた。
「詰みだ、じゃあな」
ランサーが最後の一突きをくり出す。投影して弾く時間はない。ならば……
━━
体内、そのなかでも手の甲に直接剣を投影し、表面を剣の鱗のようにする俺独自の一時的な緊急防衛方法。これを使うと体内から剣が突き出るので、使用後は必ず手当てか、俺の体に埋め込まれている鞘に魔力を流す必要がある。だが防御面に関して言えば、近接戦闘において重宝するものである。
それを使って、最後の一突きを捌いた。ランサーは睨み付けるようにしてこちらを見つめる。
「てめぇ……なんだ今のは」
「俺しか使えない魔術だ。緊急防衛のひとつだよ。もっとも、使ったあとは手がこんな風に使い物にならなくなるからな。残念ながら多用はできない」
俺がそう説明すると、ランサーはしばらく考え込んだのちに一つ舌打ちをして言った。
「ったくさっき戦ったアーチャーみたいに何本も剣を出したかと思えば、果てはそんな芸当までやらかすとはな。いいぜ、褒美だ坊主。後ろから来るアーチャーを相手している時間だけくれてやる」
「…………感謝する」
「坊主、逃げられると思うなよ? すぐに見つけられるんだからな」
俺が全身を強化して走る直前に、ランサーからそう言われた。恐らくすぐに見つけられる何かがあるのだろう。だが今は折角時間を作ることができた。ならばその間に少しでも万全な体制を整える必要がある。それにしても気になることを言っていたな。アーチャーが俺と同じように何本も剣を出したと聞こえた。なんか嫌な予感がするが、今は放っておこう。
俺が校門にたどり着く頃には、後ろのほうで再び剣のぶつかり合う音が聞こえた。多分アーチャーと再戦している音なのだろう。鞘にも魔力を回しつつ、全力で家路につく。
衛宮邸に着くと、三枝と間桐兄妹が駆け寄ってきた。その後ろにいる眼帯をつけた女性は恐らくライダーなのだろう。幸い右手の怪我は既に治っている。魔力の残りは八割弱。ライダーのサーヴァントは広範囲での戦闘が得意だったはずだ。ならば。
「桜、慎二。ランサーがこれから来る」
「「なんですって(なに)?」」
「衛宮君、それってもしかして……」
「ああそうだ、俺と三枝を殺すために追ってきてる。だが幸い今はアーチャーの相手しているらしい。だからその間に俺もサーヴァントを喚ぶ」
「わかりました」
「衛宮、陣は土蔵の中にある。ライダー」
「なんでしょうか?」
慎二がライダーを呼び寄せ、長身の眼帯女性がそれに答える。俺はその間に土蔵に入り、サーヴァント召喚の詠唱を始める。
「これから衛宮がサーヴァントの召喚をする。なにが来るかは知らないけど、最後の七騎目だ」
「私達は衛宮先輩と同盟関係を結びます。アインツベルンとも同様です。いい?」
「わかりました」
俺が召喚を行っている間に、慎二たちが大まかな方針をたてる。俺の詠唱も最終節に差し掛かる。
「━━ 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪よりきたれ、天秤の護り手よ!!」
エーテルが集まり、魔力が弾ける。眩しい光が視界を満たし、一度強く脈動したのちに光は収まった。そして魔法陣の中央には、銀に輝く甲冑を身につけた、金髪の少女がいた。俺の右手に令呪が刻まれる。
目の前の少女が言葉を紡ぐ。
「召喚に応じ参上した。問おう」
━━ 貴方が、私のマスターか ━━
その日、運命に出会った。
はい、ここまでです。
けっこう長くなってしまいました。慎二の性格面に関して色々と思うところがあるかも知れませんが、ホロウとCCCの慎二は私には中々好きなキャラの部類に入るので、「ならいっそのこと足して2で割ろう!」ってことにしました。
あと本作品の士郎には、原作に加えてちょいちょいオリジナル魔術を使用します。投影剣甲がその一つの例ですね。あと師事した人たちが人たちなので、性格と精神面が愉快なことになっています。
さて次回は戦闘と言峰教会編、若しくは凛視点の話の予定です。正直バーサーカーをそのまま彼の大英雄にするか、今までの型月作品に出てきたどれかにしようかと迷っています。まぁ追々組み立てていくので、暖かく見守っていてくださると嬉しいです。
ではこの辺で
次はメイン作品を更新します。