Fate/stay night ~ For someone's smile ~   作:シエロティエラ

4 / 16
聖杯戦争前の日常です。

それではごゆっくりと







嵐の前の平穏

 

制服に着替え、食卓に向かう。

 

 

「おはよう、桜。慎二。藤ねえ」

 

「おはようございます、先輩」

 

「おはよう衛宮。今日も寝坊か」

 

「うむ」

 

 

あれ、藤ねえの様子がおかしいな。いつもは耳を塞ぐぐらいうるさいのに。まぁいいか。

 

 

「三枝も桜も悪いな。最近朝は任せてしまって」

 

「いえ、大丈夫です。気にしないでください先輩」

 

「そうだよ、衛宮君。私達もやりたくてやってるんだし」

 

「そうか、わかった」

 

 

そういい、皆で揃って朝食に手をつける。だが藤ねえは相変わらず黙りこくっている。これは何かあるな。

 

 

「藤ねえ、醤油とってくれ」

 

「ほい」

 

「とろろにですか、先輩?」

 

「ああ、やっぱとろろには醤油だな、俺はね」

 

 

藤ねえがピクリと動く。

やっぱりな…………

 

 

「レディーファーストだ、藤ねえ。ほら」

 

「え? アアッ!?」

 

「どうしたんだ藤ねえ? 俺はただ醤油を藤ねえのとろろにかけただけだぞ? まさか…………これが醤油じゃないとでも言うのか?」

 

「………………す……」

 

「なんだって?」

 

「激甘ソースです……」

 

 

それ見たことか。

 

 

「先生? ちゃんと食べてくださいね?」

 

「そうですよ、藤村先生? 食べ物で遊んだらだめです」

 

 

桜と三枝にも言われ、渋々とろろに箸をつける。不味い不味いと涙目で言っているが、自業自得だ。ほら、過去に同じことを俺にした慎二も怯えている。あのときは初めてクロイアクマが…………もといキレた桜を見た。

そんなこんなで平和? な朝食の時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

-----------------

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私は先にいってるわね! 四人とも遅刻しないのよ?」

 

 

テストの採点しなきゃーっなんて叫びながら藤ねえはスクーターをかっ飛ばして行った。というかテストの採点やってなかったのかよ。それでいいのか英語教師。ああ、そうだ。

 

「姉さん、これから行くんだよな?」

 

「ええ、これから飛行機に乗って本家に行ってくるわ。明日の夜には帰ってくるから、晩御飯だけ用意してくれれば大丈夫」

 

「わかった」

 

「あれ? イリヤさんどこかに行かれるんですか?」

 

「ああ、ちょっと実家にいかないといけなくなっちゃって。外国だからすぐに出発しないといけないの」

 

「そうなんですか。大変ですね」

 

「ええ、そうね。だからユキカ? 私がいないからってシロウにイタズラしちゃ駄目よ~?」

 

「し、しないです!」

 

「なんだよそれ……」

 

 

イリヤ姉さんにからかわれて三枝がワタワタと両の手を振っている。何かちょくちょく姉さんは三枝をからかうよな。何故かは知らんが。

 

 

「それより衛宮、三枝。そろそろ出ないと部活に遅れるぞ? 衛宮は部活に入ってないけど、柳洞の手伝いがあるんだろう? 何が楽しくて備品の修理をしてるか知らないけど」

 

「そうですよ、先輩たち。そろそろ行きましょう。イリヤさん、では失礼します。また明日」

 

「ええ、また明日ねサクラ、シンジ」

 

 

そうして俺達は学校へ、姉さんはアインツベルン本家に出発した。

道中何やらパトカーが騒がしかった。一体何があったんだ?

 

 

「なあ、さっきからパトカーのサイレンが響いているが……」

 

「衛宮君知らなかったんだ。ニュースで言ってたけど向こうで一家殺人事件があったみたい」

 

 

三枝の話によると、なんでも夜中のうちに起こったらしく、使われた凶器は長物、槍や長刀の類いらしい。それに最近は新都のほうでガス漏れ事件が多発しているみたいだ。

…………考えたくはないが、魔術師の誰かが既にサーヴァントを召喚して魂喰いをさせている可能性はある。警戒しておくか。慎二や桜はある程度自衛できるだろうが、三枝は一般人。巻き込む訳にはいかない。

少し微妙な空気になりつつも、俺達はそのまま学校へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

 

「いや、すまない衛宮。いつも備品を修理してくれているお陰で文化部に予算を回せる」

 

「気にするな一成。俺がやりたくてやってるのだからな」

 

 

柳洞一成。

新都のほうにある山の上の柳洞寺の次男坊にして、ここ穂群原高校の生徒会長である。俺の数少ない一般人の友人である。寺の跡取りになるらしく、日々精進を心掛けているらしい。

 

 

「ところで今朝もひとついいか? 放送室のストーブがどうやら天寿を全うしたらしくてな。見てほしいのだ」

 

「天寿を全うしたなら、俺が見ても変わらないと思うが?」

 

「いや、俺が見てそうだとしても衛宮がどう判断するかわからん。だから一応見てほしいのだ。頼めるか?」

 

「わかった」

 

「うむ、助かる」

 

 

そう言いつつ、俺達は放送室に向かう。と、

 

 

「しかし今日は遠坂が休みらしい。先程職員室に行ったときに聞こえたが、何でも用事とかで今日はこられないそうだな」

 

「そうなのか」

 

 

遠坂凛。

穂群原高校のアイドルにして高嶺の花。成績優秀、容姿端麗ときているが、裏の顔はここ冬木のセカンドオーナーなる魔術師。遠坂の当主である。そしてハッチャケじいさんの話によると、酷いうっかり持ちらしい。

因みに俺が魔術使いであることはまだバレていない。一応師匠が作った魔力殺しのアミュレットを身に付けているから、魔力が漏れることもない。

 

そして一成は遠坂を毛嫌いしている。なんでも偽りの仮面の下には一癖も二癖もあるのだとか。うん、ある意味一癖も二癖もあるな、遠坂は。ああそうだ。

 

 

「一成。なんのかんの言いつつ、遠坂を気にしてんだな」

 

「なんだと!? 訂正しろ衛宮! 俺はあの女狐のことなんぞどうとも思っておらん! ええいそこに直れ、衛宮! 柳洞寺の説法を聞かせてくれる!」

 

 

後程ストーブを修理しながら一成から説法を受けそうになったが拒否した。

 

 

 

 

 

 

放課後、帰る準備をして陸上部に顔を出す。今日はバイトがあるから、先に夕食を食べておくように三枝に伝えるためだ。因みに桜と慎二には既に伝えてある。

グラウンドに向かったが、おいおい何してるんだあれは?

 

 

「なぁ三枝。これどういう状況?」

 

「あ、衛宮君。ええとね? 薪ちゃんが何か知らないけど一年生を追いかけてて、鐘ちゃんがそれを止めようとしているとこ」

 

 

薪寺楓。

穂群原高校陸上部のスプリンター。自称冬木の黒豹。何度か話したことはあるが、あれは会話が成立しないな。猪突猛進を体現したような少女だ。だが意外と怖いもの嫌い。そして俺のことをバカスパナと呼ぶ。

 

氷室鐘。

穂群原高校陸上部の高跳び選手。薪寺とは違い、冷静沈着な少女。だが聞くところによると、他人の恋愛話や噂には耳が早いらしい。

 

この薪寺、氷室、三枝の三人はよく一緒に行動していることが多く、穂群原では有名な三人組である。

 

 

「ああー! バカスパナ! 由紀っちになにしてんだコノヤロー!」

 

「薪の字落ち着け。いい加減に止まるんだ」

 

「うっせー! あたしはバカスパナの毒牙から由紀っちを守るんだー!」

 

「いや、毒牙ってなんだよ……」

 

 

人を誑しみたいに言いやがって、失礼な。

 

 

「薪ちゃん、失礼だよ? 衛宮君に謝らないと」

 

「うぇ? でも……」

 

「薪ちゃん?」

 

「うぅ…………ごめん」

 

「いや、気にするな」

 

 

そして俺は本題に入る。

 

 

「三枝。今日俺はバイトがあるから、先に夕食を食べていてくれ」

 

「うん、わかった。桜さんたちは?」

 

「もう伝えてある。最近物騒だから早めに帰ったほうがいいかもな」

 

「わかった。弟たちにも伝えとくね?」

 

「ああ」

 

「おーい衛宮。由紀っちに手を出してないだろうなー。出していたら私が地獄の果てまで追いかけてやるからなー」

 

「何でだよ……俺そこまで信用ないのか。じゃあな三枝、氷室。それから薪寺」

 

「うがー!! なんであたしはついでなんだー!!」

 

「薪ちゃん、落ち着いて」

 

 

陸上部の三人組の騒ぎを聞きつつ、俺はバイトに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイトが終わって、家路についている。夜遅くに終わり、流石に皆帰っているだろうと思いつつ、新都の道を歩いている。

ふと気配がしたから上を見上げると、ビルの上に人が立っていた。あれは…………遠坂か。何をしているんだ、あいつ? 暫く見ていると、遠坂は姿を消した。恐らく今回の聖杯戦争、あいつもマスターとして参戦するだろう。うっかりはしつつも、魔術師としての才覚は俺の遥か上だ。敵に回るとやっかいだろうな。

 

そうやって考えに耽っていると、いつのまに家に着いていた。しかも明かりが点いている。藤ねえあたりか。そう思いながら家に入ると、予想外にも三枝が藤ねえといた。弟たちはいないみたいだ。

 

 

「あれ? 三枝、なんでいるんだ?」

 

「あ、衛宮君。おかえりなさい。衛宮君の夕御飯を準備して待ってたの」

 

「そうなのか。慎二たちは?」

 

「間桐君たちは先に帰ったよ? あと弟たちは間桐君が送ってくれるって」

 

「そっか。で、藤ねえは見たまんまおやすみ中と」

 

「あはは。うん、そんなところ」

 

「じゃあ先に三枝を送っていくか」

 

「あ、いいよ。先に夕食を済ませちゃって」

 

「いや、最近物騒だから。親御さんに心配かけちゃまずいだろう。だから送っていく」

 

「うーん、わかった。じゃあお言葉に甘えて、お願いします」

 

「ああ」

 

 

 

こうして夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

いやはや、三枝さんは原作でもあまり出ないキャラクターでしたから口調が難しい。
でも書き始めたからには完遂します。


さて、次回からついに聖杯戦争の開幕です。
シロウが強化されているぶん、どれだけ変わるのか。




それではこの辺で

メイン共々、よろしくお願いいたします。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。