Fate/stay night ~ For someone's smile ~   作:シエロティエラ

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久しぶりに更新します。今回は短めです。
今度は何話更新できるか。


それではごゆっくりと。






夢のあと

 

 

夢を見た。

 

本来サーヴァントは夢など見ないが、例外としてマスターの過去を、夢として見ることがある。

今、私が見ているのはシロウの過去だろう。

 

始まりは地獄だった。

生の代わりに死が蔓延し、無数の(ニク)が焼け落ちていく。

私は自分の目が信じられなかった。これが、シロウの始まりだというのか。親の顔ではなく、こんな地獄が……

 

声が聞こえた。少年の声だ。

まさか、生きている人がいるのか。

そう思い、私は声のもとへと駆け出した。それは不気味な黒い太陽の昇る方向だった。

 

声の元に辿り着くと、そこには一人の少年と二人の男女がいた。大人の二人には瓦礫が積み重なり、身動きがとれていない。その瓦礫に、火の手は迫っている。

私は駆け寄り、彼らに重なる瓦礫を退かそうとし、すり抜けた。忘れていた。これは、シロウの記憶の中。

 

 

『父さん!! 母さん!!』

 

『士郎……逃げるんだ……』

 

『いやだ!!』

 

 

ッ!? この少年が……シロウなのか?

 

 

『行きなさい士郎……あなただけでも……!!』

 

『いやだ!! 父さんも母さんも残して行けない!!』

 

 

女性と男性、シロウの両親が必死にシロウを逃がそうとする。だがシロウは首を縦に振らなかった。彼らの顔は、ぼやけていて見ることができない。

火の手が迫る、もう時間がない。子供ながらに悟っているのだろう。それでもシロウは動こうとしなかった。

そこで母親と父親が手をのばした。母親はシロウの頬に、父親はシロウの頭に手を置いた。

 

 

『士郎、よく聞くんだ』

 

『……』

 

『お母さん達はもう助からない、それはわかるわね?』

 

『……ッ!!』

 

 

シロウは顔を俯かせたまま、何も言わない。しかし、その肩は震えていた。父親と母親は、そんな士郎に優しい視線を向けている。

 

 

『僕たち親が望むのは、子供の未来、子供の幸せだ。決して子供が一緒に死ぬことを望まない』

 

『……』

 

『だから士郎、生きなさい。生きて生きて生き抜いて、そして幸せになりなさい』

 

『……うん』

 

『これはお母さん達との約束よ? ちゃんと守れる?』

 

『……うんッ!!』

 

『じゃあ指切りしようか』

 

 

士郎は顔をあげ、ゆっくりと母親と小指を絡ませた。

 

そのとき、彼らの一部分がはっきりと見えた。

父親の髪は赤銅、その瞳は黒。

母親の髪は黒、その瞳は琥珀色。

 

そのとき、大人達の上の瓦礫が少し動いた。火も彼らのすぐそばまで来ている。

 

 

『さぁ立って、前を向いて。大丈夫よ、士郎なら絶対に』

 

『決して振り返ってはいけないよ。さぁ走るんだ!!』

 

『……ッ!!』

 

 

二人に叱咤され、シロウは両親に背を向けて走り出した。同時に瓦礫は崩れ、シロウの両親は火に包まれた。それでもシロウは、振り返ることなく走り続けた。

 

 

━━ 助けてくれェェェエ!?

 

━━ この子だけでも……連れてって……

 

━━ 熱い……熱いよぅ……

 

━━ お……かあ……さ……

 

 

シロウは走る。

耳を塞ぎ、涙を流し、それでも走り続ける。少しでも遠くに逃げるために、少しでも黒い太陽から離れるために。親との約束を、守るために。

 

これが……これがそうだというのか。

私達が……私が聖杯を求めた結果だというのか。

民を救う、国を救う、そう願って聖杯を欲した。だが私達が好き勝手やりたい放題にやった結果、一つの街を無慈悲に地獄に変えてしまった。

 

雨が降りだした。

地に降り注ぐ雨はやがて、数えきれない命の灯火と共に炎を消し去った。

燃え残った瓦礫の間を、シロウは独り歩いていた。瓦礫からは、炭となったヒトの一部分が、そこかしこからのぞいている。

歩き続けるシロウは、やがてその体を大きく傾けた。

 

 

「ッ!? いけない!?」

 

 

私は咄嗟に手をのばした。だがここは記憶の中、私の体はシロウをすり抜けた。

すり抜けたシロウはそのまま倒れ、仰向けになった。

 

 

「あ……あああ……ああああ!?」

 

 

何もできない。この手は、たった一人の少年さえ救うことができない。剣を手に取り、人を斬ることしかできないというのか。私に人を、救う資格がないというのか。

 

 

『……まだ……約束……生きる』

 

 

シロウは天に手をのばした。その目に宿る光は、だんだんと弱々しいものになっていく。

このままでは……このままでは、シロウは死んでしまう。

 

 

「誰か……誰かいないのですか!? このままではこの子が……シロウが、死んでしまう……」

 

 

自分の無力さが悔しかった。どんなに手をのばしても、どんなに声を張り上げても、私は干渉することができない。

だが誰かが、落ちそうになったシロウの手を掴んだ。

 

 

『生きてる……まだ生きてる……!!』

 

「ッ!? 切嗣!!」

 

『ありがとう……生きていてくれて、ありがとう……』

 

 

切嗣は涙を流し、感謝の言葉を繰り返していた。

その言葉を聞いたとき、私の視界は黒く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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目が覚める。

自分はいつの間に寝てしまっていたらしい。枕元にはシロウが座っていた。どうやら私が寝かされている布団は、彼が用意したものらしい。

私は身を起こし、シロウに顔を向けた。

 

 

「……目が覚めたか」

 

「……はい」

 

「そうか。……安心していいぞ。セイバーが寝てから二時間程度しか経ってない」

 

「……そうですか」

 

「もうちょっとしたら昼飯だ。大丈夫か?」

 

 

シロウ私に向き直り、声をかけてくる。何故……

 

 

「あなたは……」

 

「ん?」

 

「シロウは……聖杯が欲しいとは……思わないのですか?」

 

「……どうしてだ?」

 

「眠っている間にあなたの過去の一部を、夢として見ました」

 

「……そうか」

 

 

私の問いに、シロウは黙りこんだ。そしてゆっくりと言葉を紡いだ。

 

 

「……ああ。聖杯はいらない」

 

「ッ!! ……理由を聞いても?」

 

「過去を変えたところで、また同じことにならないとは限らないからな。もしかしたら、もっと酷いことになるかもしれない。それにな?」

 

 

シロウは少し身を乗り出し、私の目をまっすぐと見つめた。

 

 

「起きてしまったことは変えられない、失ったものは戻らない。そのときの悲しみ、苦しみを無かったことにするなんて、俺にはできないよ」

 

「……」

 

「父さんと母さんは、俺に生きろと願った。生きて幸せを掴めってな。もし過去を変えたりしたら、その願いや込められた想いも無駄にしてしまう。俺はそんなことしたくない」

 

 

シロウは真っ直ぐに私を見つめ、そう言葉を紡ぐ。その目は、今言った言葉が本気であると、そう雄弁に語っていた。

 

 

「……あなたは」

 

「うん?」

 

「……あなたが家族を失った理由を……シロウは知っていますか?」

 

「……ああ、知っている」

 

「ッ!! ……そうですか」

 

 

シロウは……知っているのか。

 

 

「原因が切嗣、親父達と知ったときは、そりゃ言葉にできない程怒ったよ。悲しさと苦しさのままに、俺は親父を殴った。何度も何度も。殴り過ぎて、俺の手から血が出るほどに」

 

「……」

 

「でも虚しいだけだったよ。だってそうだろ? 親父を殴ったところで、父さん達が生き返るわけじゃないしな」

 

 

シロウは悲しみを帯びた目をしながら、振り返るように、懐かしそうに言葉を続ける。

 

 

「しかもそのときの親父、何て言っていたと思う?」

 

「……私にはわかりません」

 

「涙を流して、ひたすら謝り続けていたんだ。何度も何度も、俺も怒るのをやめたよ」

 

「……」

 

「それからだ、俺が魔術を学び始めたのは。親父の次に、滅茶苦茶厳しい師匠がついて、無理難題をいくつもこなして、やっとこのレベルまできた。アインツベルン本家と和解したのも、そのときだ」

 

 

シロウの目から憂いは消え、代わりに強い意思を感じさせる光が灯った。

 

 

「セイバー、俺はお前の願いはわからない。でもセイバーがそれほど精神的に追い詰められるってことは、セイバーにとってそれはとても大切なことなんだろう?」

 

「……はい」

 

「俺はそれを否定しない。何が大切かは、それは人によって違う。でもこれだけは言わせてくれ。この地の聖杯は、正しい形で願いを叶えない。俺の過去を見たのなら、尚更わかるだろう。だからしっかりと見極めてくれ」

 

 

シロウはそう言うと私の返事を聞かず、部屋から出ていった。

シロウは聖杯を壊す、その決意は並々ならぬものだ。悲しみも苦しみも、全てまとめて今の自分が在ると、シロウはそう言っていた。それらを無かったことにほできないと。

 

私はどうだろうか?

カムランの丘で戦う前、家臣の半数以上が私に反旗を翻した。だがたしかに、私に味方したものもいた。ベディヴィエール卿なども、私に味方したではないか。

私に反旗を翻した筆頭である、円卓騎士の一人の彼、前回の聖杯戦争で対峙したランスロット卿は、最後に何と言っていた?

魔力へと還っていくランスロットは、私に何と言っていた?

彼が遺した言葉が真実ならば、ならば私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"ーやってしまった」

 

 

現在絶賛自己嫌悪中。

凄く上から目線な言葉がだった。もう少し別の言い方があっただろうに、何してんだ俺は。思い返すほど憂鬱になる。

 

 

「それにしても……」

 

 

まさかセイバー、俺の過去を見ていたとは。しかも覚えている限り、一番初めの大火災のやつ。

聖杯から溢れた極大の呪いによって、俺は家族と記憶の一部を無くした。だが生きると、幸福を掴むと両親と養父(きりつぐ)に誓った。

だから俺は聖杯戦争を終わらせる。俺の大切な人たちの笑顔を守るために、俺と同じ思いをする人を出さないために。

 

そうこう考えていると、居間に到着した。時刻は11時半頃、そろそろ昼食の準備をするか。

俺は部屋に入り、そしてずっこけた。

 

 

「おい」

 

「なんだ?」

 

「何でテメェが台所(ここ)を使ってる? それに何で食器の位置を知ってるんだ」

 

「なに、家主がなかなか戻ってこないのでな。時間も時間だから、私が貴様の代わりに用意してやろうと思ったのだ。食器の位置に関しては、黙秘させてもらおう」

 

「お呼びじゃねぇよ、赤い不審者(アーチャー)。どけ、そこは俺のテリトリーだ」

 

弓兵(アーチャー)だ。残念ながら、殆ど終わっている。あとはメインディッシュだけだ」

 

「ならそれは俺がやる。お前は他をやれ」

 

 

俺はアーチャーを押し退けるようにして台所に立った。慎二と桜は料理以外の準備をしており、三枝はイリヤ姉さんと遠坂の二人と、何やら話をしていた。

そういえばサーヴァントたちは食べるのだろうか? まあ多めに作っておいて損はないだろう。

 

 

「衛宮君とアーチャーさんって仲が良いんだね」

 

「「良くない。ッ!? ハモるな!!」」

 

「なに二人でコントやってんのよ」

 

「「チッ」」

 

 

やっぱり俺、この赤い不審者、嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

こちらを更新するのは久しぶりですね。
番外編も下書きを進めていますので、ゆったりと待っていてください。



それでは今回はこの辺で

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