Fate/stay night ~ For someone's smile ~   作:シエロティエラ

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予告通り、更新します。


それではごゆっくりと






聖杯、そして間桐の今

 

 

 

 

 

第三次聖杯戦争。

アインツベルンは最悪のサーヴァントを召喚した。

クラスはイレギュラーの「復讐者(アヴェンジャー)

その英霊の真名は「この世全ての悪(アンリ・マユ)

ゾロアスター教にて、最高悪神として記されている存在である。

 

しかし、召喚されたのは本物のアンリ・マユではなく、アンリ・マユとして生け贄に捧げられた、ただの一人の少年。

『悪であれ』と願われ、生け贄となった一人の少年。

 

無論他のサーヴァントに勝てるはずもなく、四日目に敗退した。それが全ての始まりだった。

敗北したサーヴァントは、聖杯の器として、その魔力が使われる。

その際、聖杯戦争の基盤となる大聖杯へと吸収される。

 

無色の魔力の固まりであった大聖杯は、アヴェンジャーを吸収したことによって、汚染されてしまった。

アヴェンジャーは悪であって欲しいと願われた存在。

無色の大聖杯はその願いを受けてしまった。

 

以降、聖杯戦争に勝利し、願いを叶えた場合、曲解した方法で願いを叶えてしまうようになる。

例えば、自国を救うと願えば、自国以外の全ての生命を死滅させてしまうなど。

ただ、第三次聖杯戦争は途中で終わり、勝者がでなかったことから聖杯が顕現することはなかった。

ここまではアインツベルン本家に残されていた記録によるものである。

 

 

しかし第四次聖杯戦争の終盤。

衛宮切嗣は言峰綺礼との死闘の最中、聖杯から漏れ出た「この世全ての悪(アンリ・マユ)」の呪いの泥を浴び、聖杯が汚染されていたことを知った。聖杯が完成すれば、この星の全土に呪いがばら蒔かれると判断した切嗣は、自らの召喚したセイバーの宝具を用い、これを破壊する手段をとった。

 

しかしここで切嗣は呪いの漏れ出る孔ではなく、聖杯本体を破壊してしまった。

それによって呪いが少しこぼれ落ち、冬木の新都を焼き払った。

たった少量で都市一つを飲み込み、焼き付くした。

結局生存者は数人しかおらず、それも中心地から遠く離れた場所で炙り出された人々だけであった。

 

泥を浴びた切嗣は、年々呪いの浸食で衰えていった。

しかし第四次聖杯戦争終結から五年、外部の魔術師の力を借り、アインツベルン本家に特攻した。

彼らとの議論の末、アインツベルンは自らの非を認め、聖杯を解体、浄化することを決定した。

その場に偶々居合わせた万華鏡もそれを承認し、間桐も後にそれを承諾。

第四次が聖杯を破壊という形で終了したために、第五次聖杯戦争にて計画を実行するということになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………というわけだ」

 

「……正直半信半疑な状態よ」

 

「……シロウ」

 

「なんだ? セイバー?」

 

「聖杯は……本当に汚染されているのですか?」

 

「ああ。確かに汚s「汚染されておる」……? アハトじい様?」

 

 

セイバーの質問に答えようとした矢先、一人の老人の声が部屋に響き渡った。その老人は腰まで伸びた髪を背中へと流し、白い装束を身に纏っていた。その傍には、二人のメイドが控えていた。

彼の老人こそ、アインツベルン現当主である、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンである。

 

 

「え、衛宮君? まさかこの人は」

 

「ああ、アインツベルンの現当主だ。アハトじい様? 何でここに?」

 

「うむ。此度の聖杯戦争で聖杯を解体するためにな。必要になるだろう資料等を持ってきたのだ」

 

「お爺様? 本音は?」

 

「うむ。孫達が聖杯戦争に参加するのだ。それが心配でな」

 

 

……やっぱり。

俺とイリヤ姉さんは、アハトじい様の発言に少しだけ呆れた。しかしアハトじい様はそれを気にすることなく、遠坂とセイバーの元へと近寄り、懐から2、3枚の紙を取り出した。

 

 

「ここに来る前に大聖杯を調べたが、その結果だ。今ここで目を通してくれ」

 

 

アハトじい様にそう言われ、遠坂とセイバーは渡された紙を受け取り、読み始めた。遠坂は読むにつれて顔をしかめ、セイバーは顔に絶望の色を宿していった。暫くして遠坂はアハトじい様に紙を返すと、深い溜め息をついた。

 

 

「どうやら本当のようね。わかったわ、衛宮君、イリヤ。あなた達の話を信じるわ」

 

「ああ、助かる」

 

「ありがとう」

 

 

聖杯についての説明は終わった。しかし、セイバーは呆然とした表情をしたまま固まり、床に座り込んでいる。俺はセイバーの元へと近寄り、座り込んで目線を合わせた。

 

 

「セイバー。大丈夫か?」

 

「……」

 

「……悪い、遠坂。姉さん。少し俺は席を外す」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

説明の最中に体の感覚が戻った俺は、セイバーに肩を貸しながら自室へと移動した。セイバーは俺にされるがままになっており、部屋に着いても床に座り込んでいた。

それほどにまで、聖杯を求めていたのか。

 

 

「……セイバー」

 

「……シロウ? ここは?」

 

「俺の自室だ。少し心を整理するために、お前をここに連れてきた」

 

「そうですか」

 

 

セイバーはそう一言、無気力げに言葉を紡いだ。その目は何も見ていなかった。この世の全てに絶望した目をしていた。

 

 

「なぁセイバー。お前は聖杯が欲しかったんだよな?」

 

「……ええ」

 

「そうか。それ程にまで叶えたい願いなのか」

 

「……はい」

 

 

セイバーはその後暫く、俺が何を聞いても肯定か否定の返事以外しなかった。

 

 

 

 

 

 

「……とりあえず聖杯戦争に関しては理解したわ」

 

「そう」

 

「それで? あともうひとつ聞きたいことがあるんだけど?」

 

「なにかしら?」

 

「何で桜が魔術を使ってるわけ?」

 

 

リンがサクラを見ながら私に聞いてきた。これは私個人の判断で話していいことではない。だから私はサクラに視線を向けた。サクラは私を見て一つ頷き、リンの方を見てこう言った。

 

 

「それは私が魔術面における、マキリの当主だからです」

 

「え? どういうこと? 蔵硯じゃないの?」

 

「……遠坂先輩。いえ、今この家にいる人たちは、サーヴァントの方々と三枝先輩を除いて全員知ってますね」

 

「だからどういうことよ?」

 

「……姉さん。姉さんはお父様から、私の養女についてなんと聞かされていました?」

 

 

サクラは真剣な顔で、リンに質問した。成る程。最初に双方の事情を把握して、情報の齟齬を修正するのね。聞かされたことと実際にあったことの違いを修正し、認識するために。

 

 

「……その前にいい?」

 

「はい?」

 

「三枝さんがこれ聞いていいの?」

 

 

尤もである。ユキカは一般人。巻き込まれただけの人なのだ。本来なら記憶を消して、そのまま日常に返すことが最善である。けど。

 

 

「普通の魔術実験とかを見られただけなら、私から記憶操作するわ」

 

「え? 私の記憶を?」

 

「あくまで普通は、よ。でも今回は特殊。聖杯戦争に巻き込まれたとなれば、仮令記憶を消してもまた狙われるわよ?」

 

「……」

 

「それに、三枝先輩がいなくなっちゃったら悲しいです。私もイリヤさんも兄さんも、衛宮先輩も勿論」

 

「だから、最低限こちらの事情を知ってもらうのよ。その方が行動しやすいし」

 

「わかったわ。ならそのことについてはもう言わない」

 

 

リンはそう答え、本題に戻った。

サクラが間桐に養女に出されたことについて、リンは殆ど聞かされていなかったらしい。ただ一つ、「その方が桜が幸せだから」という理由で。それ以後は、関わることを良しとされなかったらしい。だから出会ったとしても、他人として接するしかなかったようだ。

 

それに対し、サクラは自分の身に起こったことをリンに話した。

連れていかれたその日に、間桐蔵硯の蟲蔵に入れられ、ありとあらゆる場所を犯されたこと。

体内に刻印蟲を何匹も寄生させられ、体を内部から改造されたこと。

それが何年も続いたこと。

蔵硯本体を心臓近くに寄生させられ、まさに彼の操り人形同然だったこと。

 

それらを全て話した。リンは話を聞くうちに顔を青ざめさせ、そして次には怒りで顔を赤くしていた。拳を握りしめ、必死に何かに耐えるようにしていた。

 

 

「丁度四年程前です。ある日、いつものように蔵に連れていかれました。しかし私が蔵に入る前に、何者かが屋敷へと侵入しました」

 

「え?」

 

「それは衛宮先輩とイリヤさんのお父様、そして今は私の師匠となっている、ある魔術師。言峰教会の神父に衛宮先輩でした」

 

「綺礼も?」

 

「ええ。数分間ドンパチやっていたんですが、お爺様が私を盾にして、彼らを脅しました。しかし衛宮先輩が不思議な剣で私を刺すと、私は無傷のまま、中の全ての蟲が死滅し、お爺様の本体も私の体から出てきたんです」

 

「剣で刺した? それで無傷?」

 

「はい。後ほど聞いたら、宝具の一つといってました。といっても、今は使えないようですが。そのままお爺様は神父さんによって魂まで消滅し、残りの蟲も、師匠によって全て処分されました。ですが、魔力や魔術回路の制御のため、今は師匠に手解きを受けてるんです」

 

「……」

 

 

サクラが一通り話終えると、リンは黙りこんだ。暫く拳を握りしめ、唇を噛むと、サクラの前に移動して頭を下げた。所謂「Japanisch Dogeza」をするリンに、サクラと慎二、ユキカは非常に戸惑っている。かくいう私もだ。

私達があたふたしていると、リンは頭を下げた状態で言葉を紡いだ。

 

 

「……ご免なさい。今更なのは、もう遅いというのはわかってる。でも……」

 

 

リンはサクラに謝罪、懺悔していた。サクラはハッとした表情を浮かべ、リンを見つめている。リンは頭を下げたままだ。

 

 

「気がついてあげられなくて、何もできなくて、何もしなくて、本当に……」

 

 

でも言葉は続かなかった。サクラがリンの頭を抱え込み、抱き締めたのだ。サクラの行動に、リンは呆気にとられていた。

 

 

「大丈夫です。確かに辛かった。痛かった。何度も何度も、私を養女に出したお父様を恨みました。でも、たまに姉さんが優しく接してくるとき、本当に嬉しかったんです。それにお爺様の呪縛からも、既に兄妹揃って救われています。だからもう恨んでません」

 

 

サクラの言葉にリンは暫く固まり、そして静かに涙を流し始めた。サクラも静かに泣いていた。互いにすれ違っていた姉妹は、漸く仲直りの一歩を踏み出した。

私はその光景を見ながら思った。もっと早く、キリツグ、お父様と仲直りすれば、もっと長く、シロウとアインツベルンのみんなで幸せな時間を過ごせたのではと。もはや叶わない願いに少しの羨望を抱きつつ、私は泣き続ける姉妹を暫く眺めていた。

 

 

 

 

 







はい、ここまでです。
いかがでしたでしょうか?

私としては、肉親が距離をおいたまま、というのはあまり好きではないので、このように早い段階から仲直りのさせました。

因みにこのあとの展開ですが、こんな会話がありました。



「ところで桜、遠坂。お前たちこれからどうするんだ?」
「え?」
「お前たちの関係だよ」
「えぇっと……」
「その……」
「ああ~焦れったい!! また元のように姉妹として接するの? それとも今まで通り他人として接するの!?」
「えぇ!? ちょっ!?」
「に、兄さん!?」
「うだうだ悩んでも仕方ないだろう!! 桜も!! お前はたまには我が儘言ったらどうなんだ!!」
「う、うぇ?」
「で、でも……急に姉妹として接したら、遠坂先輩に迷惑じゃあ……」
「迷惑じゃない!!」
「え?」
「全然迷惑じゃないわ!! むしろ私だって姉妹として関わりたいわよ!!」
「……本当に?」
「無論よ!!」
「ッ!! 姉さん……」
「桜ァ!!」


そして再び抱き合って泣く姉妹。それを優しい目で見つめる士郎とセイバー以外の面子。
いやはや、この作品では慎二さんが灰汁抜きされ過ぎて、ツンデレワカメになっちゃいますね。タグに入れたほうがいいのでしょうか?


さてさて、次からはこちらの作品は一時更新を停止し、ハリポタの更新をしていきます。

ちゃんと両方とも完結させるのでご安心を。


それでは今回はこの辺で



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