またしても昨日投稿予定が一日ずれました。
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誠にありがとうござぁーっす!!(最上級土下座で感謝)
ジゼルは火威の自宅部屋を、頼まれても無いのに勝手に掃除していた。
同居する家族としては当然の権利であり義務でもある。すると火威の寝床の下から一冊の本が見つかった。
麗しい女性の裸体が描かれた、いわゆる「エロ本」というヤツである。
「あいつ、こんなモン見てやがったのか」
呆れるやら軽く憤懣を募らせるやら。それでも「こんなモン見ないでオレを抱きゃ良いっていうのに」と独りごちるジゼルの言葉が、彼女の心理を一番表している。
“べっどめいきんぐ”が出来てない火威のエロ本を、机の上に解り易く投げ出す小難い演出をしておいてやろうとも考えたジゼルだが、その前に顔を紅潮させながらもペラペラと
「うわ、すごっ」なぞと言いながらも、熱心にエロ本に目を通す。
火威が好みそうな性癖を知ろうというのだ。
「ヘヘヘ、これでいきなりハンゾウ好みにやりゃ驚くだろな」
ご丁寧にも零しつつ、パラパラと次の頁へ。
「お、これならオレにも出来そう……って、男の方は痛そうだな」
何を見ているのか、そんなことを呟くジゼルだが
「あ、歯は立てないのか。ならオレもハンゾウと出来そうだな。でもアイツのはこの絵の男のよりずっとデカいからなぁ」
火威の股にブラ下がっているモノもデカいが、ジゼルの胸はエロ本で見る女より大きい。頑張れば「挟んで咥える」ことくらい出来るはずだ。
毎度、ジゼルの下腹部から出血させて痛い思いをさせているのを苦に感じていたであろう火威を、龍人出身の亜神は想像した。
思えば文句のつけようが無い愛々しい夫婦関係。
子供は出来ないが子供を作る真似事の遊戯は気持ち良いし心が満たされる。
今日も子供が出来そうなくらいしよう。火威だから一晩の内に二十回くらい出来る。
見たエロ本には、裸に胸当て付きの前掛けをした女の絵もあった。今度の夜伽ではあの格好をやってみよう。
そんなことを考えていたら、火威が帰ってきた。早速、裸前掛けで家主を迎えに行かなければならない。
ジゼルは胸を高鳴らせ、いそいそと服を着替えて火威の元へ行ったのである。
* * * *
「ジゼルさん。ジゼルさぁーん?」
栗林は幸せそうな表情で寝入っている龍人の亜神に数度、声を掛ける。
「ジゼルさん!」
「はっ!?」
幸せな夢の世界から、ジゼルは火威の本当の嫁に叩き起こされた。
簡単な言葉にして言うならば「ちくしょう、夢だったのか」というところだが、寝覚一発目に本妻の顔というのは、如何にも気拙い。
「もう出発ですよ。用意して下さい」
栗林ら自衛官やジゼルを始めとする亜神、また、シュテルン家で存命のリーリエ、そして帝国から助力に来た薔薇騎士団の数十名と、筋肉で巨大化したナサギらノスリの集団はサガルマタ攻略の途中にあった。
遂に40人の雪中戦経験者は間に合わなかったのであるが、到着し次第マリエス防衛に当たらすことをアロンに伝えている。
リーリエが言うに、サガルマタはマリエスより大きな都市らしい。
とは言っても、マリエス自体が帝国貴族が治める街としては小ぶりだ。イタリカの六割程度の規模しかない。
そんな規模の都市に、山脈に住んでいた5千人弱の人口を押し込めていたのだ。無理が出ない訳がない。
その一部を移したロマの森のニンジャオンセン郷と、残りの大半を預かるアルヌスにも無理をさせている。一刻も早くロゼナ・クランツを排除して山脈の安全を確保しなければならない。
マリエスからサガルマタへの道筋は、リーリエを始め多くの地元民が知っていた。今はその途中で野営するため雪と魔導で複数のカマクラを拵え、その中で一晩過ごしたのである。
リーリエが言うに、今日の夜方にはサガルマタに到着するらしいが彼の地には敵群が蔓延っているはずだ。
手前でもう一晩、野営するか、夜の内にでも火威や特戦による影戦で主立った敵を排除する必要がある。
雪の中を行軍する火威達はペンギンのようにねりねり歩く。
雪中の行軍で体力を消耗しない為の術だが、魔導を使える者が時折遠くの雪上に空気の球を飛ばして破裂させる。それも雪竜の接近を確かめる為だが、そんな苦労をしながら少しずつでしか進めなかった。
その速度を加味して「今夕にはサガルマタに着く」とリーリエが判断なら大したものだが、それは誰にも解らない。
ノスリは違う方向から来たというし、サガルマタから避難してきた者は全てロマの森かアルヌスに避難してしまったのだ。
度々マリエスとサガルマタを行き来することがあったリーリエにしか解らないのである。
昼近くになると、早々とノスリの連中が昼飯の催促を始めてきた。
自分勝手に生きてる連中が故に体内時計はしっかりしている。
ただ、帝都で生活していたナモはもうちょっと協調性があったような気がする火威である。
これを見ると女のノスリがノスリのエロショタ連中の中に見られないのが理解出来る。
察するに、同族の男には魅力が無いのだ。
一足先に大人になったナサギに黙らせてもらい、道なき道を進み続けて一時、漸く行軍する隊列は昼飯を取ることにした。
と言っても火威や特戦の忍野、そして薔薇騎士団の二名は、後に味方の交替を待って歩哨しなければならない。
火威は昨日の内に、サリメルから一つ質問を受けていた。
「ハンゾっ、鎚下から“ろうまん”武器を貰ったってどんなん貰ったんじゃ?」
純粋な
「そりゃ~ねぇサリさん、物凄く浪漫武器だから教えてあげたいんだけど、山の中はロゼナ・クランツの勢力圏だから教えられんのですわ。ロマの森でも言ったでしょ。壁に耳あり……」
「正直メアリーかっ!」
多分に勘違いしているのであろうが、言うと拙いことだけは解った(?)らしい。「ふむむ、なら仕方ないのぅ」との言葉を残して退散した。
スケベで変態だが、素直なところは好感が持てる。そして女子力が突き抜けて高いところもだ。
それよりも火威には気になることがある。
マリエスを出発する前の夜、マリエスの対空防衛がジゼルの連れて来た二種類の龍種がいるとは言え、より巨大な個体が何体も襲来すると紙装甲を通り越してザルだったことから、味方のスノーゴーレム、通称ゴムの改良をサリメルの指揮の下で行っていたのである。
晩餐やアロンの謝罪の後での話だ。当然寒い。極寒の中での作業に決まっている。その中でゴーレムを改良できるのは、魔導を使える火威とサリメルしか居ないと思われた。
しかしそこにリーリエとアロンが現れたのだ。考えてみれば、火威がグランハムから聞いた話しでもシュテルン家は魔導士を排出する高い霊格を持った家系。サリメルの指揮さえあれば、ゴーレムの改良は可能である。
対空攻撃能力を持つスノーゴーレムは、以前に火威が接敵して撃破している。それに+αした能力を持たせればマリエスの防衛は鉄壁に近付くのだが、敵ゴーレムが投擲した岩の塊が危うくマリエスに落下しかけたのを火威は見ている。
なのば、+αの内容は見えてくる。
大型と中型のゴムは火威が拵えた龍種の巣の外周100レンの地点を警戒。二種類の龍はその内側で雪竜を掃討しながら警戒し、マリエス城市内にも小型のゴムを作って警戒することにした。
「しかし狡ぃーなー、アイツら」
シュテルン邸のメイド服を借りてるジゼルが、何事か文句を垂れ始めた。
味方の飛龍は火威やサリメルでも簡単にやるべき仕事を教えることが出来るが、翼竜はジゼルが言い聞かせないと中々覚えてくれないのだ。
「どしたンす?」
「翼竜だろうと古代龍だろうと、本当ならこんな氷雪山脈みたいに寒い場所にゃ棲まない……棲めないハズなんだよ」
それらが快適に過ごせる小屋を複数建てている火威自身、世界の理を無視している気がしなくもない。
「それを無理矢理だ。龍の躯を造り変えてテメェらの手駒にしようってんだからよ」
「断罪待った無しっすな」
「いや、オレが心配すんのはお前もヤバいんじゃないかってこと」
「ええ~、今回の任務は聖下や鎚下の御指名でもあるんスが」
「まぁ今回は大丈夫だろうけどよ」
それで調子に乗られるとマズイ。ジゼルはそう言いたかったのだが、余計な事を言って火威のやる気というか戦意を奪うのも良くない。
ジゼルの言葉で言わないのなら、それを「モチベーション」というのだが、ジゼルの語彙の中には相応しい言葉が見付からなかった。
二つ目のカイロが冷える頃、漸く火威達の仕事は終わった。
もう数時間すればマリエスを発つ時刻だ。
アロンは屋敷に戻り、ジゼルやサリメルも少しでも休息を取ろうと屋内に入った。
体力のオバケの火威は寒さ嫌いにも関わらず、ロゼナ・クランツへの敵愾心から追加の対地・対空攻撃を持った小型ゴム30体を作っていた。
雪に画く呪紋は、すぐ近くに有るサリメルが作った大型ゴムのものを見本にすれば良い。
「奏者殿、これで30体目です」
リーリエが魔導を通すと、小型のゴーレムが一瞬だけ青く光る。
「ありがとう御座います。この後すぐにサガルマタへの行軍が待っているというのに、手伝わせてしまって申し訳ありません。行軍中は必ずやリーリエさんをお守りしますので」
「いや、本来なら我が私兵だけでやらねばならなかったことです。それなにの輝下や猊下や悦下、そして奏者殿の御助力頂いている。その奏者殿と一晩明かすことは、この地を治める者には誉となりましょう」
言い回しが妙に積極的な上に火威の呼び方が危険水域である。
どう危険かと言うと、マスターとサーヴァント的な意味でだ。
サリメルが行ったツスカでは、確かに火威は音楽の奏者的なポジションだった。
だが全編スキャットである。火威なぞは適当にハンドドラムのような楽器を叩いて「あ~」だの「う~」だの呻いていただけだ。
「奏者殿、以前に貴方に聞いて頂きたいことがあると言いましたが……」
確かに、最初に一時帰還して、二つの車両と栗林を連れて来る為にアルヌスに一時帰還する前の夜、リーリエはそんなことを言っていた。
「貴方に知って欲しいのは……っ」
30体目の仕上げに雪を固める火威の手に、リーリエは手を重ねて言う。
なぜウル目で赤ら顔なのかサッパリ意味が解らないが、彼女の手は温かかった。
意味が解らないよ。
「ロゼナ・クランツ首領の名はラウア・バル・ローゼン。我がシュテルン家と始祖同じくする東方エルフの血筋を持つ者です」
そんな解告をされても困る火威ではある。だがリーリエは火威の力を信用したからこその行動だということも理解できる。
聞けば、ラウアの呪いでマリエスが雪に埋もれないのも、ロゼナ・クランツでは近い血脈にある近親者に危害を加えられない呪いに近い「定め」というものがあるからだとか。
シュテルン家が氷雪山脈などという僻地を任されているのも、過去の戦争時に枝分かれしたロミーナの両親をロゼナ・クランツの塞の目として帝国が貴族として取り上げたからだという。
そんなことを言われても、火威が所有する心の辞書には上手い返し方は載っいない。
或は、載ってたとしても咄嗟に使えるような精神的余裕は無かった。
何せ、赤セイバーそっくりの女性が火威を頼っているのである。
もし栗林との「お突き合い」に負けてたり、フラれてたりしたら、富田のように帝国貴族のこのお嬢さんに交際を申し込んでたかも知れない。
何せ「胸のあるイケメン」である。
「胸のあるイケメン」の定義は諸説存在する。「巨乳でカッコイイ女性」「格好良すぎるカリスマ性、風格を備えた女性」など様々言われるが、端的にはイケメンの定義を満たす「カッコ良さ」と女性の象徴である「おっぱい」の両方が際立ってる時に用いられる呼び方である。
そんなお嬢さんと二人きりで、お嬢さんの出生に関わる帝国の歴史の些意を聞いたのだ。
慌てない訳がない。
しかし……、と、火威は心の内で一息ついて、自らを落ち着かせようとする。そしてそれは成功した。
今の火威には栗林がいるし、背が低いとは言え彼女も火威の中では「胸のあるイケメン」である。いや、むしろちっちゃいアマゾネス。胸のあるイケメンの類語である
取り敢えず背が低くて爆乳なのだから、世の中に自慢して恥ずかしくない妻である。取り分け美人という訳ではないが、可愛い系だし若く見られる。
26歳の彼女でもセーラー服を着れば女子高生に見えるんじゃァなかろうか? と、火威は贔屓目で見ている。
しかも、確実に目茶苦茶強い。
そんな妻になる人がいて、浮気や不倫なぞバチが当たる。
そう思ったから火威の復活も速かったのだ。
「大丈夫。ま~かせて」
閉門騒動後、散乱する瓦礫と焼け跡だらけになったアルヌスの街で、火威が尊敬する伊丹がアルヌスの住民と特地に残った自衛官達に言った言葉だ。
能力の問題で自身は伊丹を大きくした回ると考えてる火威だが、この言葉にどれほど多くのアルヌス住民が救われただろうか。
今、リーリエに必要なのは実務的な算段ではなく希望なのだと火威が考えた訳ではない。
他に言うべき言葉が見つからなかったのだ。それでも。
それでもだ。
「ありがとう……!」
その言葉に救われたらしいリーリエは、火威に対して熱い抱擁を敢行する。火威が咄嗟に贈った言葉は、リーリエの心の隅間にスッキリと嵌ったらしい。
志乃にこんなところ見られたらブチ殺されるな……。そんなことを考えながら、嬉しくないモテ期の到来とリーリエの体温を実感するのだった。
後書きで書く事があったんですが、間違えて投稿してしまったので今回は行き成り訂正印付きです。
今回、行軍中の回想で1日から数日遡って終わってますが、次回はまぁたぶん戦闘回です。
んで投稿ペースが狂いつつあるので、暫くお休みを頂くかも知れません。
んではまた!