ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
栗林のターンなのにエロフがやたら目立ちます。
でもホントに栗ボーのターンです。


第二十二話 鬼の胎動

現在のマリエスの状況を、順序立てて特選群に説明するのはそこまで難しいことではなかった。

火威自身、何度も頭の中で予行演習をしているし、集結している亜神を紹介するにしてもジゼルはアルヌスに神殿を構えている。

グランハムとユエルは大祭典で面識はあるし、シュテルン邸の者も問題なく紹介できた。また、ノスリの連中も「その他大勢」的な民兵の一部としてサラっと流れ作業で紹介する。

だがサリメルが問題だ。

「この人はですね、内戦終結後にエルベ藩国で任務が有った時に泊まった宿の女将さんで神様です」では意味が良く解らないので、「ハイエロフが出身種族のサリメル悦下です」と紹介せねばならなかった。正しい説明かは不明だが。

「ドーモ、初めましてじゃ~」

なぞと愛想が良いが、続けられた言葉が「中々良い男が揃っておるのぅ」だったのは不安を感じる。呪いを解いてなければ爆発してたかも知れない。

 

「おい、火威」

暫し経ったマリエス東門の城壁上で、特戦群指揮官の二佐、南雲は火威に声を掛ける。

「なんで、あのエロフは日本語が堪能なんだ?」

傍には剣崎や忍野など、他の隊員もいるが彼等の疑問も同じようだ。火威の答えを待っている。

「あぁ、何やら帝都を回ってエルベ藩国に入った日本の漫画を読んだみたいですよ。レレイと同じで研究熱心な人だから憶えるのも早いんです」

実際には火威が少々教えているのだが、それを除いてもレレイもサリメルも驚異的なスピードで日本語を習得した。

「レレイは純粋に天才って気がしますが、サリメルって人は“好きは物の上手なれ”って気がしますね」

現実に、サリメルは日本への再開門を夢見てロマの森でも行動しているし、山脈でも人間好きが高じてマリエスの防衛能力を高めている。平たく言うと、自身の欲望に忠実な亜神であった。

「人っていうか、あれは一応神様なんだろ?」

「あぁ、そうでした。ついつい何時も……」

剣崎の指摘は火威が余り直そうと努力しない部分である。比喩すれば、マッハで火威の懐に潜りこんだサリメルとは、瞬く間に友人関係を結ばされたというところか。そしてその仕方のない性癖の友人に何時も手を焼いている火威、という構図であろう。

「それにしても、今日はまた敵は来ますかね」

特戦群と火威の注意を、エロフから山脈に引き戻したのは栗林だった。本来なら上官同士の会話の腰を折るのは厳禁だが、何時までもエロフの事について喋っていても仕方ない。なので栗林は咎めることは出来ない。

「今日は陽が照っていて暖かいからなぁ……。まぁ用心はせにゃならんだろうが」

答えたのは火威だ。これまでに敵の襲撃が有った日の天気は、決まって曇りで気温も低かった。とは言っても、今現在の気温も0℃以上で10℃は越えていないのではある。

しかも、午前中に特戦が接敵し交戦したスノーゴーレムの造りは不細工だったと火威は思い出す。

「あれには擲弾を4発ばかり当てたからな」

剣崎は言う。その熱で雪が解けたのではないかと。今更ではあるが、ロゼナ・クランツの優位性は気温が関係しているようだ。ならば本格的な冬が来る前に倒さないと、冬が明けるまでマリエスを放棄するしかない。

「っと、これからツスカがあるんで、ちょっと俺は行ってきますね。栗林、襲撃が遭ったら無理ない範囲で頑張れ」

特選群と栗林に周囲の警戒を頼んで、火威は城壁の階段を降りる。

「眼福じゃねぇか火威。頑張れよ」

言うのは同格ながら、先に三尉になった剣崎だ。ツスカに気が進まないと言っていた火威をフランクにからかう。

「剣崎さんにはミザリィさんがいるでしょ。俺には栗林がいるんですよ」

火威と栗林の交際は隊では周知の関係かと思っていた火威だが、富田とボーゼスが新婚旅行と諸々の報告を兼ねて帝都に向かったのに先駆け、特戦は帝都の悪所事務所に詰めている。

マジで? と特戦の視線を集めたのは、残された栗林だった。

 

 

*  *                             *  *

 

 

広場に設置された風除け用の大型天幕に入ると、サリメルは直ぐに見付かった。

「おぉ、ハンゾウ」

彼女は火威を見付けると、直ぐに駆け寄って来た。

この天幕、ツスカを開くことを火威とサリメルが決めてから、マリエスに住むメイドや女達、或は体力の余る者が大急ぎで拵えた物である。

それと解っているから、サリメルもわざと失敗して何度も脱ぐ、などというバカな真似は出来ない。

また、それと解ってもバカな真似をしそうなノスリ共は、今日も兵舎に監禁して鍵を掛けておいた。

ツスカの最中は踊り子さんへのお触りは厳禁である。

「思うんじゃがな、ヌシが残骸を回収して妾が作ったゴム、いるじゃろ?」

スノーゴーレムがどうしたというのか、火威は「うんうん、そんで?」と頷いて話の続きを促すが、(にわ)かに天幕の外が騒がしくなった。

外に出て見ると大型の龍……いや、姿形としては翼竜に似ている龍種が7頭、ジゼルが連れて来た龍との交戦状態にある。

「なんじゃコリャ? ちょいデカいなァ」

最近は少なくなっていたので油断していたが、ロゼナ・クランツが使役していると思われる龍の襲撃だった。兜跋を装備し直した火威は、ジゼルの龍が迎い出ていながらも最もマリエスに近い龍から排除しに向かった。

 

見た目よりも意外に長い脚で竜の頚を絞めるように体勢を維持し、首の鱗を剥いでいくのは栗林だ。

未だ指揮権を移譲しない状況で、将来の旦那になるであろう上官から命じられたのは、マリエスの防衛と接敵した際には味方に被害が出ないように敵の殲滅だった。栗林はそう判断している。

堪らないのは、生きながら鱗を剥がれている竜である。古代龍のように腕があれば首の後ろの栗林を取り除けるのだろうが、残念ながら彼らには腕が無い。

特地に来た当初、アルヌスに住む事になったコダ村避難民の子供から人気のあった栗林は、コダ村の子供が翼竜の鱗の剥ぎ取り方を自慢げに話すのを聴いている。その方法にパワーという要素を加えて力任せに肉ごと剥ぎ取っていたのだ。

「ギャァァァ!!」

竜の咆哮は威嚇か、はたまた悲鳴か。それは竜かジゼルに訳してもらわないと解らないが、栗林は血の噴き出る肉を露わにした部分に散弾銃レミントンの銃口を突っ込む。

そして発砲。一撃で足りないとみるとポンプアクションで再び発砲。

オートポンプの如き連続発射で二丁目のレミントンの弾が尽きる頃には、竜の首は薄肉一枚で繋がって、プランと空中に垂れていた。

()った」

ドスを背負った男のようなセリフを吐く栗林は、妙な達成感を感じつつも地面に激突する前に翼竜めいた怪異を放棄。雪上なら落下時の衝撃も少ないと判断して空中に身を投げ出すと、そこで火威に掬われた。

「志乃さん、どんな高みまで行ってしまうの……」

火威は確信した。

お突き合いの時は絶対に本気じゃなかったな……と。

 

 

 

*  *                             *  *

 

 

今回、火威の活躍はほぼ無かった。

接敵間もなく特戦群がLAM5本の釣る瓶打ちで3頭纏めて駆除。その後、急降下してきた竜を栗林が()()()()()に持ち込み、少しだけ本気を出したことで駆除し、その間にも剣崎と南雲が単調に接近してきた竜に確実にLAMを命中させて駆除。他の龍種と比べても頭脳は発達していないようだ。

残りの一頭は火威が叩き落とすと、ナサギを埋葬した場所から這い出てきた怪異の如きムキムキマッチョマンにバラバラにされてしまった。

このマッチョ、見るからにエティより筋肉量が多いがエティでナサギであった。ノスリが戦死すると、戦いに適した姿のエティに生まれ変わるらしい。ノスリやエティは、この現象を「エムロイの祝福」と呼んでいる。

「……今のナサギ、街で会ったら道空けちゃうよ」

「エティに街で会うことは皆無だ」

性格も取っ付きにくくなっていた。

「手早いな。流石はハンゾウの言う“せいえい”部隊じゃな」

のっそりとサリメルが天幕から出てくる。そのサリメルがナサギに気付いた。

「はて? こんなんマリエスにいたっけ?」

「サリさん、ナサギです」

「誰それ?」

そもそもサリメルはナサギが一時退場した後に来たのである。ノスリ時代のナサギも知る訳がない。

「しかしエティが加勢してくれるのは心強いな。一体だけでも百人以上の兵の力はある」

サリメルは筋肉モリモリの怪異の如き生物をエティと信じられたようだ。相変わらず適応力が高い。

はへぇ……と、驚くのは栗林だ。ここで早々に他の男に(雌雄は無いが)心を動かされると火威は困る。

「あぁ、サリさん。エティは雌雄が無くて植物との半精霊なんですよ」

火威はテクシスから仕入れた知識をサリメルに、そして栗林にも聞こえるように語った。

栗林が求めるのがイノセントラブだったら火威には拙いことだが。

「な、なんだってェー!それは本当かヒバヤシ!?」

多分にネタ塗れで、サリメルは問い質す。火威は思った、こりゃぁ真面目に聞いてねぇな……と。

 

直後、実際にサリメルは驚いたのだが、それは「エティに雌雄が無い」ということであり「植物の精霊」ということでは無かった。

そして今の龍種が魔導生物という物だとサリメルは話す。

「な、何でもアリっすね。薔薇冠の連中は」

「今のを見て判ったが、ニャミニアも連中の仕業と決まったな」

「容疑者には入ってたンすね」

サリメルには昇神する前に、ロゼナ・クランツとの交戦経験があった。

以前にも、今回と同様の事件から発展した動乱があったのはグランハムから聴いている火威だが、その時は未だギリギリで精霊種エルフだったサリメルが関わっていたのは初耳だった。

「あの時、初めて聖下の御耳目に会ってなぁ」

その時、ロゥリィに指針を示されたからロマリアに逢えたし、エルベ藩国に住むようになったのだという。

「しかし魔導生物というのは只事では無いな」

話を戻したのは南雲だ。聞けば、特戦群と40騎の帝国兵を連れてマリエスに戻る途中に遭遇した。あれは、やはりゾルザル派帝国軍の残党が軍閥化したものだった。

「連中の中の首領が言うには、氷雪山脈から逃げて来たんだとさ」

南雲は続ける。残党の首領が言うには、この動乱を引き起こした首魁の魔導士は人間の姿をしているが人間ではないと。その首魁が作りだした魔導生物が逃亡する騒ぎに巻き込まれ、大勢の仲間が死亡したと。

「はぁ……ロゼナ・クランツの首魁は人間の姿じゃけど人間じゃないし人間を人間と思わないのじゃな」

「大人しく百姓にでもなっておきゃ良かったのに」

フゥー、やれやれだぜェ……と、精神の疲れを感じた火威は、身体だけでも解そうと肩を回す。

「二佐、逮捕者が言っていた“首魁は人間ではない”とは、どういう事なんです?」

火威は氷雪山脈で襲撃してくる敵を多く見ていたから、精神衛生上の安全を考えて聞かなかったことを栗林は聞く。

「それはな、軍閥化して敵魔導士に下った連中の中から時折選ぶんだよ」

勿体付けた言い方をしながら、南雲は言う。

「生きながらに生ける屍にして、忠実な手駒にする人間をな」

 

 

*  *                             *  *

 

 

「ハンゾウ! 先程は話し忘れたが、先の戦いでは凄かったではないか!」

広場に展開されている大天幕に戻った火威に、早速サリメルが話しかける。

「サリさん。さっきの戦闘では全然俺の出番無かったっすよ」

「あぁ、それは見てたから知ってる」

へ? と意表を突かれたかのような顔の火威にサリメルは続ける。

「“とくせんぐん”とシノ。瞬く間に翼竜が基礎の魔導生物を倒しよったじゃないか。彼奴らにもツスカを見てもらおう!」

火威は暫し言葉を失った。この恥女、やっぱり特戦にエロ目を使いやがった……と、思ったのだ。

「サリさん、特戦を呼ぶ意味が解らない。ホントはサリさんの恥女な部分が働いて“観られたい”って思ったンじゃないスか?」

女性を詰問するということは、今までの人生の中では片手の指で数える程しかしたことの無い火威だが、眷主であるサリメルにはそれだけの疑いを持ってしまっている。

今までが今まで過ぎる。

「違ーうよ。ほらナサギとか言う、やたら強いエティがいるじゃろ。エティが半精霊なのは知っおるよな」

「えぇ、そりゃあ。まぁ」

今朝早くにテクシスからも、同じ内容の話を聞いている。

「ツスカは精霊の声を聴く占術じゃ。ナサギという強き精霊がいるなら、奴の周囲に精霊を呼んでも良いが、呼び水にするなら精霊や精霊使いでなくてもナサギと同じように剛者でも良いんじゃよ」

精霊使いではあるが、精霊に頼った占術に詳しくない火威には判断出来ないことだった。

「え~、それホントですかぁ?」

と、怪訝な声で疑問をぶつけることしか出来ない。

「いや、その方法で試した事が無いから解らん。だが不都合な事が起こることは無いじゃろ」

可能性を肯定することも否定する材料も火威は持たない。ならばサリメルの推論通りにするしか無いのである。

「すいません、二佐。特戦の皆さん。それに栗林。後でエロフから説明があると思うけど、ちょっと大天幕に集まってください」

説明はサリメルに丸投げである。火威の口から言うと下手な誤解を生みそうだから……という措置だが、サリメルの口からの説明でもそれは変わらない。幸い、自衛官達は何も誤解をすることは無かったが。

火威はナサギも呼びに行く。特戦を集めるのだから、ナサギがいないと意味が無いのだ。

ナサギはノスリを監禁した兵舎の付近にいた。

「あー、ナサギ。ツスカって占術をやるからナサギも大天幕に来てちょうだい」

「それは解ったが、このままだと拙いぞ」

「どゆこと?」

兵舎の門には閂が通されていたが、この程度ではノスリの突破を容易に許してしまうので鎖を何重にも巻き付けて鉄壁の衛りを持たせていた。鉄の鎖を作る程度の鍛鉄能力は、この特地にもあるのだ。

その筈であったが、その鎖が伸びて今にも引き千切られそうになっている。

ノスリが兵舎の内部から、何度も扉を抉じ開けようと体当たりでもしているようだ。

「アイツらホントに、ホントなンなのッ?」

火威をして、言うべき言葉が見つからない。

「獣欲に関する感だけは鋭いようだ。このままにしておくと、占術の最中に乱入してしまうぞ」

ハイ・エロフが氷雪山脈に来たことで、ノスリのエロい感が冴えわたっているらしい。

兵舎に監禁しているとは言うが、常に監禁しているわけでは無い。

ノスリはその頑丈な肉体と共に、他の種族にはない膂力を持つマリエスの重要な戦力だ。

それに、今のマリエスでは肝心な糧である雪肝を得る時の取手でもある。

ツスカを練習するサリメルに纏わり付くと練習にはならないので、練習時にのみ監禁してた。だが火威が執った方策は短絡的でマズかったようだ。

最初に監禁する時は、不承不承という感じではありながらも特に疑うことも無く兵舎に閉じ込められた。しかし先程は「エロフのマッパを独り占めとはトンだエロハゲなぁん!」なぞと文句を言っていたから、ノスリのスケベレーダーは侮れない。実際には、この時はまだサリメルは一度も脱いだことがなかったのだが。

「よし、じゃあナサギ。協力してくれ!」

こうして、ツスカの時にノスリ連中を解放して大天幕内に入れる代わり、ナサギや特戦、そして栗林がノスリの見張りと強行時の阻止をすることになったのである。




原作から栗林強化していると以前にも書いた気がしますが、
取り敢えず今の段階でティラノサウルスを素手で殴り殺せる程度に強化してます。
ただ、原作でも足場が栗林向きでしたら、ダーを指一本で破裂させていたかも知れません(
なので栗林強化率はまだ0%ということで……。
次回はツスカ後から始めるので、エロいことはないです。多分。

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