ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
ここんところ1話に余り内容を詰められないです。
これは低速になりながらも暫し溜めるべきか……。


第十三話  龍斃

ジゼルは数日前、伊丹とテュカがバーレントに向けて発った日の夕方にアルヌスを出て、先ずはベルナーゴ神殿でハーディの託宣(ジゼルが直接聞いたので“示現“と言うべきかも知れないが)を聞いたのだという。

それに拠れば、氷雪山脈の山間に世界の理を曲げようとする輩が数人存在するという。

ロゥリィや伊丹から聞いた話しでは、ハーディという神様は禄でもない神様と聞いたが、一応は世界の心配をするらしい。

……と、考える火威が知る由も無いのだが、ジゼルがこの託宣を聞いた時のハーディは、何か面白い事が始まるのを待つかのようにクスクス笑っていたのである。

「で、お前これからどうする?」

「疲れてるんで飯、食って寝ます」

そんな事を話して飯の支度を始める火威。ジゼルも夕飯がまだなのかそれとも二度目の夕飯なのかは不明だが、何時の間にか火威と向かい合ってパエリヤやら雪肝やらを並べる。

その事が、火威の心に引っかかった。

主食のパエリアになる米は、避難民が命辛々持って来たものがあるから余裕はある。だが現在のマリエスは食料全体は豊富とは言えない。

今日……というか昨日、竜肝を大量に確保する事が出来たが、あれでも現在のマリエスでは三日分しか無いらしい。

「あぁ、これ。今日一色目」

どうやら感情が顔に現れていたようで、簡単に釈明された。ジゼルにすら心の内を読まれて、果たして特選群になれるのだろうか、と心配になるところである。(実際の所、隊内では稀少過ぎる魔法という特殊技能を伊丹や狭間に推薦されたのであるが)

亜神は太らないし痩せもしないというが、この時間帯に食べる女性には警告を送りたい火威である。

 

食事の中で火威は心強い話しを聞いた。

閉門時に蟲獣を圧倒した時のように、ジゼルは複数の翼竜や飛龍を従えて来ていて、それらは寒さに弱いことから、現在はマリエス付近の複数の洞窟に隠れているらしい。

これは、現在の氷雪山脈では戦闘地域の最前線の拠点(FEBA)も満足に築けない火威達に取っては非常に有益な知らせである。

また、単純に戦力が増強されたという意味でも非常に大きい出来事だ。

こうなれば、火威は一旦アルヌスに帰還して装備を整えた後、帝都で特戦群と合流して来る事が出来るのだ。

「そういやお前、閉門時に蟲獣ブッ飛ばした時みたいにやらないのか? あれなら一変だろ?」

火威も同じ事をちょっぴり考えた。しかし出来ない理由がある。

「敵に制圧されてる村とか街は取り返したら、また使うんですよ。それに雪とか氷河が溶けて一気にロー川に流れ込んだら、下流の街が大変なことになっちまうでしょ?」

アルヌスに住み、人間の法を尊重するようになった美女の女神だが、今一考えが及ばないところがあるらしい。

 

 

*  *                             *  *

 

 

その日の朝、火威は慌てた様子のミューというメイドでハリョの娘に起こされた。

使用人が直接客間の中にまで入って火威の身体を揺するのだから、余程のことだろう。

それもその筈、ロゼナクランツの龍が再びマリエスを襲撃してきたのだ。

「懲りん奴らめ」と思いながら、兜跋を装着しながらシュテルン邸を出て空を見た火威は、自身の予想が甘かった事に気付く。

現段階では城壁側に見え、我が物顔で空を征く黒い龍の姿は先日の亜龍よりも巨大だったのだ。

それが城内に入らず、城壁外に留まっているのは龍人種の戦斗メイドが彼の龍を引き付けているからに過ぎない。

「出来るだけ剣とか刃物を用意して!表に出しておいて!」

ミュー達メイドにそれだけ言うと、火威は戦域に急いだ。

 

ユエルが剛弓で引いた矢も、龍の鱗には傷を付けるすら叶わない。

ならばと、用意された鉄槍を投擲し、その腹に当たったが、空に在る龍の気を引くものですら無かった。

「クソッ!降りて来い!」

蜥蜴野郎にンなこと言って解るかっ!とは某航空自衛隊の某整備班長の言葉だが、それはこの氷雪山脈でも同じらしい。

大型の鎌を振るって空中戦をしていた黒色主体のシックなメイド服を着ていた龍人女性が、極厚な鉄の扉を思わせる重厚な龍の手によって叩き落とされた。

「おのれ!」

口角泡を飛ばすユエルと、空を駆けて接近中の火威の台詞が被ったとは、よもや思うまい。

グランハムや帝国の兵の多くは、城壁の上からマリエスに押し寄せる生ける屍共を射ているし、ノウ゛ォールの亜人は城門から侵入しようとする敵を押し返している。

ユエルも城門に向かって敵を倒しに行けば良いのだが、真っ先にマリエスに向かって来る龍を発見したのも彼だ。

会敵当初に背中にある剣で龍に傷を負わせた彼が、今更他の目標に向かう事など出来ない。

「オラァ!」

ユエルの見る前で、龍に突撃し城外にまで突き飛ばしたのは蒼い竜甲の鎧・火威だった。

「この餅龍がッ。舐めてンじゃねぇぞッ!」

マリエスを攻めてくる怪異や生ける屍の群れの中に叩き落とされた龍が、咆哮を上げた火威の姿を探す。

成長促進した龍→膨らむイメージ→膨らむ→餅→餅みたいな龍。そんな連想ゲームで勝手に綽名付けた龍は、すぐに火威を見つける事は出来なかった。

「あいつ何やってんだ!?」

ユエルが見たのは、急いだ様子でシュテルン邸に引き返す火威だ。

龍は自身を突き飛ばした敵が見えないとなると、再びマリエスへの侵入を試みる。だがその脳天には両刃の剣が振り下ろされた。

ユエルだ。

「漸く手の届く範囲に来たのだ。こいつ!」

龍の頭部にしがみつき、何度も剣を振り下ろし突き刺す。

懐に入っているも同然なので、極太の尻尾で払われたり、噛まれたり炎を吐きかけられたりしないのだが、この龍の鱗は簡単に刃を通さなかった。

傷は付いているのだが、刃が肉まで届かないのだ。

「くっ、これは……!」

明らかに魔導士が成長促進させた龍などではない。その龍がユエルを振り払おうと右に左に頚を振り回す。

「あぁ、こいつぁホンモンだ!」

振り払われて、城内側の中に投げ出されたユエルを受け止めたのは、先程龍の痛撃を受けた龍人女性・ジゼルだ。

だがそのジゼルが、再び龍を見ると目を見張ってユエルを放り出す。

「や、やべっ!」

次の瞬間、ジゼルは龍が吐いた炎に飲み込まれてしまった。

 

シュテルン邸に戻った火威は、直ちに刀剣類を物体浮遊の魔法で浮かしていく。

「苦戦しているのか?」

「いやちょっと敵が固いだけだよ」

他の事に余り神経を使えないのでリーリエへの回答もおざなりになった。

「連中、今すぐブッ殺してやる!」

生ける屍は既に死んでいるから生ける屍なのだが、火威が「ブチ殺し」たいのは主に龍である。

今は遠くに見える龍は、ミャミニアよろしく炎なぞを吐いている。

その中で、誰かが炎に巻き込まれたようだ。コイツぁマジ許せん。

火威の中では口から何か吐いて良いのは、ゴ○ラとザ○レロと酔っ払いのオッサンだけである。

「何時までもゲロってんじゃねェぞブルァ!」

三十本以上の剣を引き連れ、戦線に戻った火威は未だ炎を吐き続け龍の顎に体当たりを喰らわせて吐瀉物のような炎を中断させた。

速い……と、疾風と冦名されるユエルとて、そう思わずにはいられない速さだった。

「大火傷決定ぃー!」

口の中が、である。そして龍は顎を突き上げられ、再びそのまま上空にいた。

「あぁ、下に見てンじゃねェーぞゴラァ!」

位置的に理不尽な事を言う火威だが、自身も空へ飛び上がる。

龍よりも高度を取った火威は詠唱し、その手の中に複数の光弾を作りだす。

「喰らえよや!」

目標は炎龍と違い、二つとも健在な龍の目であった。

「ANENO・IGEN―――――――ッ!!!」

ロンデル滞在中にレレイの義姉、アルペジオ・エル・レレーナから物体浮遊の魔法と一緒に習った攻撃魔法である。幾つも光の矢が爆発性を伴う矢となって龍の両眼と城門を襲う的集団を吹き飛ばし、排除する。

これ程の凶悪な威力を持った魔法だというのに実戦証明済みというのだから、その時の相手も余程の手誰か龍のような巨大怪異だったのだろう。

当時はそう感じていた火威であるが、今の状況では非常に有効な魔法であった。それに畳みかけるように、シュテルン邸から率いてくるように運んで来た刀剣類の一本に連環円錐を纏わせる。

アルペジオから学んだANENO・IGENという長ったらしい名の魔法は、非常に役立ってくれた。龍の両眼も潰せたし、爆炎によって発生した煙も多量に出してくれている。

大型の龍と戦う時は、炎龍を基準に考えているから極力情報を与えたくないのだ。与えぬまま排除できれば倒せなくても勝利なのである。

そして、両目を潰した今では視覚的情報を与える心配も無くなった。

指を鳴らすと、それが墳進式の弾頭の如く柄から炎を伸ばして龍に突き進み、その鱗を貫いた。

レレイが対炎龍戦でも使った爆轟の応用技である。

その結果を見たり、痛みを感じたりして火威は薄く笑い龍は悲鳴を叫ぶように雄叫びを上げた。

「ふっ……ふふ」

三十を越える刀剣……奇しくも火威の今の年齢と同じだけの数の剣の柄すべてに、連環円錐を纏わせて龍に向けた。

「怯えろぉ! 竦めぇ! 龍の個体性能を生かせぬまま死んでいけッ!」

次々と龍へ撃ち出される剣の数々。その中には火威が今の愛刀としているフルグランもあり、それが龍の鱗を砕いて心臓を抉ると勝負は着いた。

 

 

*  *                             *  *

 

全身に剣を受けて傷付けられ、(あまつさ)えフルグランで断ち斬られた心臓から噴出した血液は空気に触れた途端に炎のように燃えた。

城内に墜ちるとヤバいかな、と考えた火威によってマリエス付近の雪原まで弾き飛ばされた龍の血炎の飛沫(しぶき)は周囲を焼き、龍自身を内部からも焼き、侵食し、包み込み始めた。

「す、凄ぇぞ! ヒオドシ! ヒトが古代龍を斃すなんて!」

背後から投げ掛けられたのは、ジゼルの声だった。

「えー、何言ってんです。 炎龍の同類があんな弱いワケ……」

火威にとって見れば、準備さえすれば屠るのは簡単な龍だった。精々でニャミニアの次くらいの強さだったろうか。もっとも、ニャミニアも今戦えば弱く感じるのだろう、と、火威は思っている。

そんな火威が言いながら振り返ると、そこにはやはりジゼルがいた。産まれたままの姿だが。

「って、なっ……なんて格好してるんですジゼルさん!?」

サリメルが伝染(うつ)った!? なぞと小言を嘯きパニくる火威ではあるが、一応は男の部分が反応していた。まさかこの場で本能に従う訳は無いであるが。

「スマンスマン。今の龍に焼かれちまってな。着るモンが無いんだ。少しの間はコレで勘弁してくれよ」

ベルナーゴ神殿の神官服では寒かったので、マリエスのメイド服を借りていたとジゼルは語る。

「ふゃっ、ジゼル猊下おっぱい大きいなぁ~ん」

「素晴らしい身体なぁ~ん」

「是非とも嫁さんに欲しいなぁ~ん」

そうこうしている間にも、比較的本能に忠実な連中が集まって来た。

「ジゼルさん、こういう連中がいて危険ですから、帰りは空を飛んでシュテルン邸に」

「コレで飛ぶのは寒ぃから勘弁してくれよ」

仕方ないので火威がジゼルのガードになって、徒歩でシュテルン邸まで還ることになる。

「ジゼルさんは今は日本のアルヌスの住民だからなー。お前ら手ぇー出すんじゃないぞ」

そう言ってノヴォールの連中を牽制しながら、ジゼルにも問う。

「あの、翼竜とか……何処スか?」

「あぁ、ちょっと離れた場所だったからなぁ……」

一度はアルヌスに帰還することが出来るようになったのだから、今日か明日中にでも飛龍や翼竜用に雨風と吹雪を凌げるところをマリエスの近くに作る必要がある。

 




数話前にアルヌスに来て、伊丹とテュカに貸し出された飛龍がエフリとイフリしかいなかったのは、
原作の外伝Ⅲを読んだ方なら理由は不要かと思いますが、次回で軽く説明します。

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