ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
この一週は定刻通りの投稿が出来て何よりです。
ですが主人公がどんどんリア充化してきやがりました。ちくせう……。
もっと苦労しろよ!酷い目に遭えよ!

とか言いつつ、ヒロイン増やしてんの庵パンなんですがね。



第七話 急撃

雪原の中に浮かぶ街、マリエスは九十年程前に帝国軍人、ロミーナ・フレ・シュテルン卿が拓いたヒト種の街だ。

先の内戦では当時のシュテルン侯爵家頭首のパラオが主戦・講話派何れを支持するか決めあぐねていたが、ゾルザルが軍勢を率いてテルタへ遷都することの知らせが届くと、パラオは真っ先にテルタからマリエスへの道を倒木の障害物で防ぎ、散々格下として侮り、奴隷にすることもあった龍人を召集して竜騎兵として取り上げたのである。

結果として講話派に組みすることにしたパラオであるが、これは彼がある意味で臆病で、尚且つ【情報】というものを最重視した結果である。

帝国が異世界に進攻し、彼の地の国を侮った結果、帝国軍の六割を喪失。

逆にファルマートに進攻され、門があるアルヌスを制圧した彼の地の軍隊に対し、モルトが召集した連合諸王国の十万の軍勢が敗北である。

その異世界の軍……ジエイタイと講話派は同盟関係にあるに等しい状況だ。余程の馬鹿か、自分に決定権が無い限りゾルザルの主戦派は択ばない。

幸い、ゾルザル派帝国軍の翼竜による竜騎兵は氷雪山脈上空では寒さの為に動きが悪く、武装した龍人が比較的容易に倒すことが出来た。

とは言っても、氷雪山脈以外での地域に比べてのことであって、数人掛かりで一頭倒すのにも相応に手間が掛かる。

最初の内は数人の犠牲者が出た程だ。

その内戦後はジエイタイが来た先の国、ニホンとの和平が成ったことで、極力戦争の被害も無くシュテルン領には平和が訪れた。

そう、一度は訪れたのである。十ヶ月という短い間ではあるが……。

 

 

*  *                             *  *

 

 

雪と氷の大地に囲まれた城塞都市、マリエス。その都市は川に面した南側を除き、三方に敵性勢力からの猛撃を受けている真っ最中だった。

「こ、このっ!」

「 隊長さんと輝下が居ない時に襲撃とか、死人なのに底意地悪いなぁ~ん!」

それぞれの城門を守備する亜人が、敵の進撃を抑えて押し返そうと奮戦していた。

「ジオ!そこどいてっ!そいつ殺せなぁ~ん!」

「や、コイツらもう死んで……!」

律儀に返答しようとした亜人だが、門内に侵入してしまった(かつ)ては守る側だった敵が振り回す鎖付きの鉄球に吹き飛ばされた。

「あべし!」「ひでぶっ」

「たわば!」「ぐるわっ」

サブカルチャーを嗜む自衛官が聞いていたら「訓練されたコメント」と評したかも知れない悲鳴を上げる。

ジオとその同族の、一見するとショタに見える亜人は吹き飛ばされはすれど、再び剣や槍を手に敵を押し返そうとしている。

ノウ゛ォールと言う集落から来た彼等は、見た目より遥かに肉厚な種族だった。

ゆったりとした口振りや行動でマ・ヌガを擬人化したような種族だが、決定的にマ・ヌガと違うのは、長く垂れたその耳だ。

種族的に暑さに弱く、性に奔放だが、男女ともに他種族と子供を作っても相手種族しか産まれないので非常に数が少ない。

だが、先の通りに途徹も無く死に難く出来ている身体なので、戦争などで急に数を減らすということが起き難い種族でもある。

その種族的特徴から、帝都から来た部隊長に現地徴兵という形でマリエスの防衛隊に組み込まれたり、部隊長やこの地を訪れた亜神と供にマリエスの隣の町を奪還すべく行動している帝都の部隊に組み込まれてるのであるが、彼等には戦士になりえない種族的特徴も合わせ持っていた。

「これで終わりなぁ~ん」

木の槍で鉄球の屍の首を貫こうとするが、手応えを感じる前に槍が中程からボキりと折れた。

長らく使われてないから、一回の戦闘で壊れるほど悪くなっていたのだ。

「なぁっ……!武器がボッキリ逝ってしまったなぁん!僕の心もボッキリなぁん」

そのジオに屍の軍団数人が迫り、凶刃を向ける。

「そいや!」

だがジオの直ぐ近くには、同族の仲間が四人も居るのだ、瞬く間に屍の軍勢を弾き飛ばして、青銅の斧で敵の頭を兜ごと潰すように叩き割ってしまった。

ぶべしびべし、ぶんがぶんがと残りの屍の兵も斃し潰し、無力化する。一度、調子に乗ってしまうと彼等の種族は強かった。

「ふぅ、一段落なぁんね。何だかお腹空いたなぁ~ん」

「きっと隊長さんに付いて行った皆もお腹ペコペコなぁ~ん」

彼等が戦士になりえない理由……、それは彼等の種族全体に言えることで、長時間の集中力が続かないということだ。

腹を空かせたと主張するジオ達は、鳩尾の辺りを撫でて見た目にも空腹を主張しだした。

だが、そんな気の抜けたジオ達の元に錦糸のような長髪を靡かせ、4~5m程の円錐の槍を片手に携えた年若い女性が、栗毛の馬に乗って来た。今のマリエルの代表であるリーリエ・フレ・シュテルン侯爵夫人だ。

馬上で使う槍は殆どの部分が鉄製にも関わらず、それを表情一つ変えずに扱う様子は彼女の膂力の強さを示していた。

「あ、リーリエさん、侵入者退治お疲れ様なぁ~ん」

戦闘に臨むにも関わらず、身体に纏うのは緋色の戦装束のみで、鎧も着ない女性騎士は馬の突進力を利用したランスチャージで三方ある城門の守りを抜け、市内に広がり蹂躙しようとする敵を地道に撃破していた。

「お前達、気を抜くな。他の二方は未だ交戦中だ。敵はまた来るぞ。手の空いた者から食事を摂らせて再び守りに付け!」

そんなリーリエの言葉を聞き、ジオ達亜人は一斉に飯を食いに行こうとする。全員手が空いていたので、言葉通りに食事を取りに行こうとしたのだ。

「ちょ、ちょっと待て。お前ら全員で行くな! 取り敢えず、お前とお前。先に食事を摂ってこい。それとお前、武器はどうした?」

リーリエが皆を制止し、ジオとその友人のナサギを指さしてから、ジオが徒手状態であることを聞く。

「さっき壊れましたなぁ~ん。木の槍なんて戦争に使う武器じゃないですなぁ~ん」

「それでは食事の後に屋敷の使用人に言って、武器を貰って来い。話は私が通しておく」

そう言うので、ジオとナサギは飯やら武器やらと、色々補給しにシュテルン邸まで向かうのだった。

 

 

*  *                            *  *

 

「ふぎィ、美味しかったなぁ~ん」

「やはし料理カクメンが起きた帝国料理とは言っても、雪肝を添えたパエリヤには敵わないなぁ~んよ」

「雪肝が一本あればパエリヤ十杯はイケるなぁんね」

飯を食って新しい武器を貰ったジオは、ナサギと話しながら先程まで守っていた城門に戻ってきていた。

先の襲撃で、凹み一部損壊はすれど打ち破られ無かった城門は補強を施され再度襲撃された時に備えている。

ジオ達は飯を食いに行く最中に、他の二門でも敵を撃退し、マリエスを守り切ったという情報が立て続けに耳に入っている。

それもその筈。他の二方を守っているのもジオと同じ種族でジオ達よりも武芸が達者な者達だ。或は敵の数が多かったか、後続の敵と続けて戦闘していたのかも知れない。

「敵はあと、どれだけ残ってるのかなぁ~ん」

ナサギが口にしたことは、マリエス兵の皆が思うことだ。

敵の数は単純に味方の戦死者数と反比例する訳では無い。

死に方にも因るが、多くの敵が(かつ)ては自分達と話し、戦線を共にした仲間の身体なのだ。

こんな戦いが何時までも続けば、何れは精神が参ってしまい士気どころかの話しでは無くなる。

その中でジオの種族は、この混乱で集落を追われて来た者の集まりだから、マリエスのヒト種よりも格段に士気が高く、戦闘に向いている精神状態なのだ。

それでも何時、ジオの種族から犠牲者が出るか解らないのだ。油断は出来ない。

「ふぁぁ、もう少し食べたかったなぁ~ん」

油断は出来ないのは彼等にも解っているのだが、他の種族から見れば緩み切っているようにしか見えないのが種族全体の苦労である。

だが川に面した南側を含め、城内各所が俄かに騒がしくなる。

ジオが守る西門もそれは同じで、ナサギと二人、武器を取り構える。

リーリエの口添えでジオが受け取った武器は、木の槍なぞという訓練や玩具にしか使えない物では無い。

しっかりと鍛鉄された金属の槍だ。それもファルマートでは未だに少ない鋼の槍である。

リーリエという貴族の娘は武張った物言いで、如何にも「戦闘専門ですよ」的な印象だが、美しい剣のような雰囲気も併せ持っていて下の者の働きを見ていてくれる武闘派娘だ。

ちょっと結婚してくれなぁ~ん、と少しばかり無理な事をジオは思う。

だが思ったところで、尚且つ鋼の槍が何本あっても今の状況を覆せるとは思えない。

「ちょっ!なんで!なんで亜龍まで来るなぁ~ん!?」

翼竜程度なら数人の龍人兵が数の暴力で倒せよう。

だが目の前に見えるのは翼竜の十倍はあろうと言う巨体の亜龍で、見た目にも解る歳を経て古代龍並になった危険な存在だ。

即座にナサギは城壁上のバリスタに向かい、ジオは亜龍の攻撃がギリギリ届かない範囲まで逃げた。

今、使える武器の中で一番強力なのは、大型の矢を発射するバリスタしかない。

ジオの集落の仲間を率いて別の都市を奪還しに行っている隊長が、「大型の怪異には此れを使え」と以前に言っていたのだ。

バリスタには自身が使っていた鉄の槍を据え付けたが、これを外したらジオの鋼槍でも使うしかない。

バリスタを操作するナサギが亜龍に照準を合わせると、意外にもジオは善戦していた。

というか亜龍の方が齢を重ねている筈なのに、おっかなびっくり、と言った感じて積極的に攻撃していないのである。

「ジオ!そこどいて!そいつ殺せなぁ~ん!」

「それ二度目!」

芸の基本は繰り返しから……ということが、この種族の中では伝わっているとして、ジオが退く前に亜龍は翼を羽ばたかせて上昇してしまう。

仲間を巻き込む恐れの無くなった相手にバリスタを向けて発射するが、鉄の槍は敢え無く目標を外れて兵舎を盛大に傷付けた。

「何やってるなぁ~ん!隊長さんやリーリエさんに怒られるなぁ~ん!!」

「いやこれホント難しいなぁんね」

「言い訳はしないで次は僕にやらせるなぁん!」

兵舎とは言え、バリスタの破壊力を見た亜龍は迂闊に二人には近付かなかった。

だが二人を放って場内を襲わないのは、二人を餌として認識したからである。

律儀に待っているように見えるのは、今発射された武器らしき物がもう一本あるからだ。

「喰らうなぁん亜龍。鋼の槍が最初に討ち取る獲物はお前なぁ~ん!」

そして発射された鋼の槍は亜龍を大きく外れ、城内の何処かに落ちていった。

「な、何やってるなぁん!このジオめ!」

「それより武器! 武器どっか無いなぁん!?」

完全に攻撃力を失った二人に亜龍は急降下し始める。

二人に出来るのは別々の方向に逃げる事しかない。

サっと走り出すジオ。龍を倒せなかったのは残念だが、バリスタ程度で倒せたのか、という言い訳じみた思考をしながら城壁の突き当たりを右折する。

気が付けば、そのジオと並走するようにナサギも走っていた。「あ、知ってる人だ」なぞと、ちょっぴり安心しかけた自分を罵倒したい。

「な、なんで同じ方向に来るなぁん!?」

「ジオこそ反対側に行くと思ったのになぁ~ん!」

二人の考えを端的に言うならば「この馬鹿、逆の方向に行ってろ」である。

振るわれた龍の手が二人の背中を強かに叩く。

「うわばら!」

「えひゃい!」

背中を強かに叩かれ、それだけでもヒト種なら絶命する所だが、ジオの種族は大怪我で済むという頑丈且つ柔軟な肉体を持っている。城壁に叩き付けられて血だるまにはなったが、身体の機能に影響を及ぼすような事はない。

「あばだだ」

「い、痛っいなぁん……」

地面に落ち、相応の酷い傷を負った二人が辛うじて立ち上がり、顔を上げる。

敵を正視する余裕はなかったが、亜龍の(アギド)が直ぐ近くまで迫っているのは状況であることは解る。

いくら頑強な種族と言っても、龍の咀嚼に耐えれる肉体は持ち合わせていない。

もはや最後と目を瞑ったジオとナサギの脳裏に、様々な思いが駆け巡った。

輝下・グランハムは世界の理を乱そうとするヒト種の魔導士を断罪するために、眷属ユエルとこの地に赴いたと言っていた。

そして、通常なら亜龍がこんな寒冷地に居る訳がない。

魔導士でも龍人以外の人間が亜龍を使役することは不可能だ。

ならば、成長しきった個体が「たまたま」マリエスに来て、運悪くジオ達を捕食しようと思ったのだろう。

これから自分達は死ぬが、龍に喰われるから生ける屍になる事も無い。

それだけがジオ達を安心させてしまっていた。

目を閉じて「その時」を待っていると、何かが爆発するような大きな衝撃音が聞こえる。

身体をビク付かせながらも、ついに来たか、と思いそのままでいた。

だが幾ら待っても痛みも何も訪れない。

即死した死後の世界とはこういうものか。などと思っていると、痛みの代わりに誰かのシャウトが木魂した。

 

「3tプレス!!」

3トンのロクデ梨を積んだ籠で龍の頭をプレスする、火威の勢いに任せた必殺技である。

籠の底面と地面に頭を挟まれて血を噴き出した亜龍は、新たな敵を探そうと首の力で籠を払い除けようとした。

だがその頸が、神鉄で鍛えられた大剣で断ち斬られて宙を舞う。その余りの柔らかさに拍子抜けしたのは火威の方だった。

「え、えらい柔らかいな……」

本物の古代龍ではないとは言え、ここまで成長した亜龍の鱗がこうも脆弱なのは信じられない。

だが考えるのは後回しだ。街の各所が何者かに使役されているのかいないのかは不明だが、特地害獣乙種やそれ以上の敵性生物に襲われている。

亜龍に襲われたと思われる亜人は酷く負傷しているが、二人とも自分の足で立っているから救援は後回しで良い。

火威は城内を転戦するため、フルグランを担いで飛び立った。




はい、今回でシリアス死にました。

で、今回登場させたノヴォールの衆ですが、まぁオリジナル種族です。
特地を探せば似たようなのが居るかも知れませんが、オリジナルです。
それで種族名は「不明」です。不明っていう種族名じゃなくて決まってないのです。
っていうか、あるPBWの種族で友人のPCが元です。
身体が頑丈ってい設定は、この中でのオリジナル設定です。

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