ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
ちょくちょく手直ししようと見てみたら
一晩の内にお気に入り指定が一気に15個も!!?
嬉しさ余ってストックしていた炎龍戦も投稿です!(炎龍とは戦いませんが)


第八話 炎龍 堕ちてた

第一戦闘団の加茂 直樹(かも なおき)一佐の号令に従って、火威の高校の後輩、出蔵 尚は搭乗する74式戦車を前進させる。特地の道路事情なら10式なんかが良いんだけどなぁ……とは思いながらも、無理な事を強請っても仕方ないので黙々と任務を果たす。

しかし第一戦闘団が総力を挙げての最初の任務が、先輩が血道を挙げて成し遂げようとしていた炎龍退治とは……。出蔵としては、毎朝錘付きのランニングで、先頃イタリカに行くまでには遂に85kgの荷を持ち運んで8kmをランニング出来るようになった先輩に若干申し訳無く思いつつも、まぁあんな害獣は速やかに殺処分した方が良いよね。とも思う。

第一戦闘団が向かうのはアルヌスの丘から遠く離れたエルベ藩国領国境沿いの砦だ。そこまで行けば探査支援……というか、救助すべき伊丹二尉も彼や自衛隊が討伐しようとしてる炎龍の手掛かりも掴めるらしいことは、先日アルヌス駐屯地に助力を求めてきた褐色エルフ、もといダークエルフの女性の話から推察出来た。

出倉にとっては「やっぱ褐色エルフ居たんだなぁ」と悦に入る事実が判明した瞬間である。ならばやるしかない。彼女達の為に。

だがここまで長距離の行軍を経験した部隊は少ないようで、装甲車輛が履帯脱落を起こしたりタイヤがバーストする車輛が少なくない。

「だから10式使えって……」

「いや三尉、最新は無理ですって」

「わってるよンなこたァ」

度々無理を思ってあまつさえ言ってしまうのもダークエルフを助けたいが故である。

しかし、こうして出蔵が部隊で動けるのも上からの命令があるからで、最初にダークエルフの女性からの救援要請があったと知った際には、どうする事も出来ない自身に忸怩たる念いを持つ事しか出来なかった。

そんな中だ。伊丹二尉がそれまでの任務を放棄してエルベ藩国内の資源調査の任に就いたのは。

緊急性の高い任務らしいが、現在の内閣がいくら弱腰でも他国の勢力を首都に入れる事は考え難いし、仮に入れたとしてもその活動はアルヌス周辺だろう。

従って、伊丹二尉は炎龍の討伐に向かったと考えられる。金髪エルフのテュカが、伊丹二尉の事を父と呼んでいたからだ。以前からテュカが夕刻のアルヌスの町の中、誰かを探している姿を見ていた自衛官は少なくないが、伊丹二尉を父と呼ぶようになってからは彼女の危うさを周辺の多くの者が感じていた。

これもダークエルフが来てから加速した事なのだが、そう考えると彼女の奸智は中々に侮れない。だが、そうする以外に緑の人たる自衛隊の力を借りる方法がなかったのも事実だ。

出蔵が所属する第一戦闘団がエルベ藩国内を通れるのも、第四偵察隊が付近の修道院で保護した老人がエルベ藩国王で、伊丹二尉が炎龍討伐に出立するのを見ていたからだという。

 

自衛隊の制圧地域やフォルマル家の領地から出た時には、その土地の領主に通行許可を貰うのに些か時間が掛かったものの、「炎龍」退治という目的を伝えるとあっさり許可が下りた。

多くの人々が炎龍を恐れてた事が知れる。自然災害や事故、それらと同様に炎龍に襲われて死んだという事なら仕方ない、諦めるしかないと思われていた存在を、鉄の象や鉄の天馬を操るこの者達なら倒せるのではないかと思ったのかも知れない。

ロマ河に渡橋するにしてもそうだ。炎龍討伐を明らかにすると、行き交う船の運航を止めてくれもする。その架橋を渡していると思いも寄らぬところからクレームが来た。河の中からだ。

最初は怪異の一種かと思って警戒した自衛官だが、架橋のせいで魚が逃げたという河の民という亜人からのクレームだった。

ただ、特地語を勉強して日常会話程度なら出来る出倉にも聞き取れないくらい訛りが強い。エルベ藩国の国王という老人が話を付けているところを見守る事しか出来なかった。

河の中に住む種族の中には女性もいて、これがまた抜群のプロポーションだ。しかもトップレスである。出倉は少しだけ視線を奪われたが「先輩が居たら危なかったな」と漏らすのみだ。

「三尉の先輩って、火威三尉のことですか?」

「うん」

「火威三尉は巨乳一択じゃ……」

「いや、あの人は障害物に当たると進む方向を変えるチョロQみたいなところがあってな……」

自身の力で変えられない事があると、結構簡単に方向転換するらしい。だからか、イタリカや悪所に行っている先輩が自身と同じ立場に立ったらどうするだろうか、と気になった。

出蔵が知る火威という男は自尊心の強い男だ。それでいて程々に計算高く、同じくらい正義感もある。

十数年振りに会った今では角が取れて丸くなり、大人としての自覚がある性格のようだが、巨乳好きは変わってなかった。

そんな先輩だから、彼自身の矜持と巨乳が懸かった事態になれば、簡単に命令違反や独断行動をしてしまうかも知れない。

第一、火威は特地に骨を埋める気なんだから、機会があれば進んで戦闘中行方不明になりたがるかも知れない。つまり、炎龍退治して、ちゃんと生きていれば、特地の巨乳さんと知り合い、そのまま所在不明になるかも。なのである。

 

帝国とエルベ藩国の国境沿いに来るまでに、幾つかの村を見つけたが生存者は発見出来なかった。だいぶ前から炎龍の縄張りの中に居るらしい。帝国側の砦は炎龍が襲ったのか、人が逃げたのかは解らないが無人だ。エルベ藩国側の砦には剛毅にも複数の軍人が居て、藩国の国王というヘリに乗ったデュラン老人が姿を現すと驚いていた。

その夜にはエルベ藩国のワット伯や加茂一佐や柘植二佐らと軍議が設けられたが、この場に居るヒトらには炎龍の巣は判らない。シュワルツの森に住むダークエルフに聞く方が良い、という結論になった。

そんな簡単にエルフと会えるワケが……と、思ったら、砦の付近を歩哨していた陸曹らがダークエルフに話し掛けられていた。

 

  *  *  *                     *  *  *

 

炎龍の巣があるというテュバ山地の最高峰、テュベ山に第一戦闘団が陣形を整えて進む。

やがて伊丹二尉やレレイ、テュカ、ロゥリィ聖下、そしてアルヌスに助力を求めに来たダークエルフが草木の生えない山中に見えた。

もう明け方なので暗視機器を使わないでも双眼鏡があれば見れるのだが、全員、第一戦闘団が到達するまでに戦闘でもあったのか、かなり体力を消耗しているようにみえる。

しかも、四人の前には大鎌を持ち、ロゥリィ聖下に似たゴスロリ服を着た深縹色の肌の亜人の女性と、彼女が引き連れているらしい小さい炎龍が二体も居る。

大きい炎龍が居たであろうテュベ山の火口は、山体崩壊でも起こしたかのように潰れてるし、炎龍は小さくなった上に一体は色も黒く変わって二体いる……完全に別目標だが、伊丹二尉達と相対しているようなので、やることに変わりは無い。

出蔵が見てる前で二拍、ダークエルフが亜人に斬りかかり、それよりも速く鋭い大鎌の一閃が振り下ろされた。

伊丹二尉はダークエルフに飛びつき胴を抱えて引きずり倒すと、亜人の大鎌は空を切る。そこにロゥリィ聖下が亜人目掛けてハルバードを振り下ろした。

亜人は身を逸らしてこれを避け、そこに赤い小型炎龍の頑強な爪が振り下ろされ、ロゥリィ聖下が跳ねるようにして、これを避けた。

伊丹二尉はダークエルフを抱えて地を転がりながら9mm拳銃を抜くと、赤い小型炎龍の頭部を撃ったが、強靭な鱗に阻まれる。

 

この間にも「伊丹早く離れろ」という声が出蔵の耳に入りそうだ。

というか、実際にあちらこちらで言っている。加茂一佐や柘植二佐の人相がますます悪く……もとい厳しく見える。

すると空自のファントムが低空で接近してくるのが、主翼が空気を切る音で判った。伊丹二尉達も再び小型炎龍と敵対したようで、レレイやロゥリィ聖下を抱えて走って山を下っている。

如何に速く走ってるとは言え、空を飛ぶ龍と人とでは勝負にならない。走って逃げる伊丹達目掛け、上空から炎を浴びせかけようと口を開いた。その時。

ファントムから発射された4基のサイドワインダーが二頭の小型炎龍――新生龍を爆発に包む。

その爆発を皮切りに、日本国内では絶対に不可能な第一戦闘団の過飽和攻撃が開始された。




今回の最後に「ダークエルフが斬り掛かった亜人」とありますが
出倉から見ればゴスロリ服を着た竜人にしか見えないので、亜神とは表記しませんでした。
今作も、またちょくちょく修正するかも知れません。

とかく、ご意見など有りましたらご気軽にどうぞ!
ご感想も頂けると大変嬉しいです!

ちなみに、当小説でのヒロインは今のところ不明です。
12月に外伝4の文庫が出てから決めます。

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