ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
今回の出だしのメイン舞台となる場所でのお話は、本編合わせても一番キツいものになると思います。
15禁Gっていうか……まぁGな表現ですのでご注意ください。
Gっつてもゴキじゃないです。
んで、最近では一番長くなりました。


第三話 異獣

タト―ヴィレを襲われてから、もう月の満ち欠けが一度繰り返した。

ミューの腕の中で息を引き取った幼子を、昨今の騒乱の中で手に入れた絹の下地が敷かれた棺に寝かせる。

我が子を抱え、命からがら住んでた街を逃げだしたミューには喪服を用意することも適わない。

神官も呼べない簡易過ぎる葬儀で、我が子を彼岸に送らなければならない事を、ミューは両親とその先祖、そして棺に安置したフィーに申し訳無く思う。

この子が目を閉じて、開かなくなってから十五日も経つと言うのに、その顔は綺麗なままだ。

今年のファルマートは乾季や雨季のほか、フユという寒さが襲って来るとサガルマタの賢者が言っていた。氷雪山脈はこれまでも常に一年中寒かったから、相応の準備は必要だろう。

だが、夫に続いて我が子まで失ったミューの心からは光が失せ、自身もこのままハーディの元に召したいとすら考える。

出来る限りの蘇生は試みた。奇跡を祈って何回も抱き締めたりもした。そうして我が子と離れられずにいる。

ミューと姉のハルマが産まれる前に、この地に降臨したロゥリィ・マーキュリーは、身体の一部でも残り続けると魄は救われないと仰られたと、長命種の者達が言っている。

それに、この子が何時生ける屍になるかも解らないのだ。周りの人間はミューの心情を(おもうばか)りつつも、不安の芽を少しでも早く摘みたいと思うもの。

ミューにもそのことは解っていた。ルカマイトの兵に見つからないよう、無理を言って何日も離れた家屋に隠れるのを見逃してもらったと言うのに、これ以上の我儘は言えない。

「ミュー……」

龍人とヒトとの間に産まれたハルマが、そっとミューの背中に手を当てる。実の姉に諭され、ミューは我が子を安置した棺桶と、その周りに敷き詰めたられた薪の山から後退った。

彼女の心にあるのは諦念と絶望。そしてこの状況が悪い夢であって欲しいという現実逃避だ。

男達が手にする松明によって、薪の数か所に火が放たれる。ミューはその光景を正視することが出来ずに顔を伏せていた。

火が周り、棺を炎が包むとパチパチと薪の崩れる音が鳴る。

と、その時、棺から空気の弾ける大きな音がした。

「フィー?」

顔を上げて見ると、棺は炎に囲まれて見えなくなっている。

だが良く見ると、炎の中に人の影が見えた。

「フィー!?」

炎に向けて駆け出そうとするミューだが、ハリマに抑えられる。

「姉さん放して!フィーが!フィーが出たがってる!」

ミューが見たのは実際に遺体なのだが、遺体の筋肉が焼かれて縮み、遺体を起こしているに過ぎない。

「バカ!あんたまで死んじゃうでしょ!」

そう言って、ハリマがミューの頬を張り叩く。そして、火葬で起こる現象を怒鳴るように教えるとミューは泣き崩れ、ハリマの胸に縋り付いたのだった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

門が閉ざされて以降、火威のエンゲル係数は高い。

帝国から支払われる賠償金の一部を、特地に残された自衛官達へ小遣い程度の給与として支給しているから多くの自衛官のエンゲル係数は高めなのだが、火威の場合は自主訓練として駐屯地やアルヌスの街の周りを朝から走り回るから、朝食を多く摂る事がある。

従って、エンゲル係数は七割から八割。しかも昨日の夕食は栗林とのお突き合いで勝利した後だったので、早速栗林を食堂まで連れて奢ったのである。

「恋人特権」なぞと嘯いて火威は栗林に馳走したが、帝国からの報奨金も忍者屋敷の建設と新鋭機開発、そして家の改築で尽きてしまっている。

一晩経ってみて、「恋人気取りは早過ぎた」と後悔もする。

男が一度示した好意は区切りが出来るまではしなくてはならないと思っている火威は、これからの昼と夕飯の事を考えると頭が痛い。

お突き合い後の栗林は、案の定トゲトゲしい態度だった。回し蹴りで悶絶させらるし、決まり手となったバックドロップはお突き合いとして認められないのかと思ったが、「三尉の外見では女と付き合うのは難しいですから、良いですよ。恋人になってあげます」と、酷いことを言われてロゥリィ立ち合いの元で恋人関係になった。

そしてラッキースケベの代償として回し蹴りで悶絶させられるが、その後で「()()()()は注意して下さい」と御叱りを受けたのだ。

次はパイプカットだぞゴラァ……という意味なのかも知れない。

兎にも角にも、火威と栗林は恋人関係になった。栗林は大方の予想通りツン期からの出発だが、果たしてデレ期というのが存在するのかも不安になる。

 

しかし資金面に関して言えば、この日に限って言えば火威の心配は杞憂だった。

課業開始直後に、昨日に続いてアルヌスから派生した植民村付近で黒曜犬の群れが発見されたと知らせがあったのだ。

アルヌスに近ければ早馬で知らせに来るが、鸚鵡通信が存在する今では直ぐに村長や、それに類する立場の人間から救援要請が届く。

最近の特地派遣隊は大祭典が終了し、エルベ藩国から輸送した原油の精製や、門の研究が佳境に入って忙しい。

そのため、専門知識を持たずに戦闘に特化した特殊技能を持つ火威なんかは、周辺の街や村からの救援要請があると優先的に彼らの任務となった。

彼はヘリや車両で燃料を使わずとも移動できる高い機動力を持つから、隊としても使わずにはいられないのだ。

 

このところのアルヌス外での火威の移動手段は、自衛隊の車両に物体浮遊の魔法を使って性能以上の機能を生み出す物だった。

「おっと、いた」

アルヌスから三十リーグ程離れたハトチャ村まで、ハリポタ感溢れる空飛ぶ96式装輪装甲車、通称96は、14.5トンのその重量を凶器として時速120kmで黒妖犬を撥ね飛ばす。

「ざ、雑っすね」

戦闘で使用されることを想定してない96式装輪装甲車だが、小銃や砲弾片程度なら十分に防ぐ装甲に防御魔法を掛けている、轢かれた黒妖犬のダメージは言わずもがな。

しかも車体後方上部を観音開きにして、轢かれてから後方に向かう黒曜犬に12.7mm重機関銃を撃ち込む容赦ない徹底ぶりである。

現在、襲撃してきていた黒妖犬を排除した自衛官らは、村の中央に停めた96から村の各所に展開し、火威が村長から黒妖犬の被害を聞くのを待った。

村長に寄ると、朝早くに村の中を傍若無人に走り廻る数頭の黒妖犬を確認し、マ・ヌガ等の家畜が三頭潰されたのだと言う。

人的被害は災いなのか幸いにしてと言って良いのか、ヒト種の農夫が足を噛まれ、右足の小指を失う大怪我。

足の指を失うだけで済んだのは、駐在する傭兵が黒妖犬の群れに挑み、一人のワーウルフの男が意識不明の重体になる程の傷を負いながらも、一度は黒曜犬のを追い払ったからだ。

死者はまだ出ていないが、ワーウルフをアルヌスの診療所まで連れて行く必要があるだろう

村の人間は、ほぼ村の中央にある村長の家やその周辺に避難している。

火威は村の各所に展開した自衛官に招集を掛け、現在の状況を伝える。

「そういうワケで、俺はちょっとアルヌスまで怪我人を護送する」

火威はフル装備の九名の自衛官の顔を見回す。

その中には昨日、恋仲になった栗林も居るし、合コンに出てウルドと良い仲になった三角も居る。

可能なら全員に兜跋を装備して欲しいが、一品物の上に装着して動くのには慣れが必要だ。

「黒妖犬は無理に倒さず、追い返すだけで良い。周辺の村との間に巣がある可能性があるから、アルヌスに負傷者を送ってきたら叩き潰しに行くな」

そう言って火威は、アルヌスに行く前に村長や襲われたマ・ヌガの所有者に許可を取って、その死体に精霊魔法の罠を仕掛ける。

死体の周囲を風が渦巻き、引き擦る度に水が吹き出るようにしたのだ。

ワーウルフが96に運び込まれ、重傷を負った農夫が乗り込みワーウルフの身体が車内でぶつからないように三人の村人が乗り込む。

「おい、栗林」

昨夜、お突き合いの末に勝った女の名を呼ぶ。

「なんです?」

「くれぐれも深追いするなよ? あと倒すなら白兵せずに銃撃で倒せ。白兵は最後の手段だ。それと罠を持ってく敵は倒すな」

「わ、解ってますよ!」

言葉の裏には、心配しているのだろう事は解るが、ここまで信用が無いと若干悲しくなる。

「あ、それとな」

「まだ、あるんですか?」

些か辟易という様子で栗林が聞き直す。

「今度、デートしようぜ」

「な!?」

こういった任務中の私語を、普段の栗林は蛇蝎(だかつ)の如く嫌う。だが昨夜、栗林が自身で規定した水準を越えた男の言う言葉は、普段と違って聞こえた。

「いいから! 今にも死にそうな怪我人がいるでしょ! 早く行って下さいっ!

「いや、クリバヤシの姐さん。オレまだ死んでないから」

意識不明の重体だったワーウルフは、何時もウォルフと連るんでる白い毛並みの男で、今し方の栗林の大声に起きていた。

「お、無事か? とりあえず一時間くらいで戻る」

言うと96式の八輪ある車輪が宙に浮かぶ。ピニャの芸術の成果を伊丹に届け、合コンの打ち合わせをするために週に数回、帝都に行くことで魔導を鍛え、神格を高めて来たのは無駄ではなかった。

 

*  *                            *  *

 

 

アルヌスに戻った火威は、急ぎ看護師を呼んでワーウルフの傭兵をストレッチャーに乗せる。ヒト種の農夫は付いて来た村人に担架に乗せられ、診療所まで移送された。

ハトチャ村の怪我人を全て診療所まで送った火威は、飛んで来た道を帰ろうとする。

だが第五戦闘団の明野一尉に捕まった。彼によると、五リーグ程離れたユノマーンという開拓村から九救援要請が自衛隊に届いてるという。

直ちに自衛隊とアルヌス傭兵団の混成部隊で怪異の討伐・駆除するが、現地到着までは多少時間が掛かると言う。

だから混成部隊が到着するまで、害獣の跳梁を抑えるか排除しに行って欲しいと言う。

というか、命令なので「抑えに行って、ついでに排除しろ」と意訳される。

混成部隊にはダークエルフの精霊使いが居るから、味方の戦力的には心配要らないが、救援要請を出している村は開拓初期の村の為に、住んでる種族の比率が偏り、戦闘に向いた種族は少ない。

組合でも、その比率を危惧し、テュカやロゥリィが話し合っていたところだ。最近のアルヌス周辺で怪異が異常発生の理由は解らないが、各村に傭兵団が常駐するなどの方策が示されるだろう。

ユノマーンという村はハトチャ村とは逆方向にある。8km程度の距離なら物質浮遊の魔法で96を飛ばせば十分も掛からない。

火威は栗林や三角達に心の中で少し遅れることを謝罪しつつ、ユノマーンを跳梁する怪異共を滅殺する為に96式装輪装甲車に乗り込んだのである。

 

 

*  *                            *  *

 

 

三角は12.7mm重機関銃、隊内ではキャリバーと呼ばれる装備を、村の中央から外に向けて据え付ける。

先ほどワーウルフの傭兵をアルヌスの診療所に護送した三尉なら手持ちで撃てるのだろうが、今の分隊の中では同じ事が出来そうなのは先程、三尉と話していた目の前の女性自衛官しか思い当たらない。

実は、この二人の自衛官はサイボーグで、その(よしみ)で付き合い始めたんじゃないかと邪推してしまう。

だが現実には今の日本に巨大怪異を格闘で倒せるような女性型アンドロイドもサイボーグも無い。自衛隊が実戦テストをしているなんて話もある訳ない。また、巨大な蟲を一度に纏めて倒す魔法を使うのも、感覚的には無機物の集合体である人型機械に出来るとは思えない。

アルヌスでは、遂に栗林が特定の人物と付き合い始めた……というのが専らの話題になっていると言って良い。

というか、栗林がお突き合いに負けたということが話題の大半を占める。その相手が禿頭で強面の自衛官というのが、アルヌスに住む一部の女性達からの同情を買っているのだ。

もっとも、アルヌスに避難民として住み始めた古株の住人からは、子供を含め男女共に火威や栗林は好評で、祝福されている。

「あぁ、栗林」

「はい?」

「さっき、火威三尉と何を話してた?」

「戻って来るまでに一時間程だと言ってましたよ」

火威が操る96式ならアルヌスとハトチャ村間の移動には、片道で30分も掛からない。

今し方、馬鹿な想像をしたばかりだが、火威三尉には、戻る時間は部隊のナンバー2である自分に言っておいて欲しかったと思う。

遅れて合コンに参加させてもらった御蔭で、ジゼル猊下の神殿に務める司祭のウルドと良い関係になれたのは感謝しているが、些か公私を混同しているのではないかと思う。

火威としては、戦闘になったら突撃しそうな栗林に注意したついでに戻る時間を伝えたのだが、これは明らかに火威が悪い。

大祭典が開催される前にロゥリィとモーターの会話の中に出てきた「禁忌の存在」が、アルヌスに目を付けたのでは無いかと憂慮していて、通常なら三角に伝えるべきことを栗林に伝えてしまったのだ。

怪異や害獣の異常発生に確たる証拠は無いので、ロゥリィやジゼル。そしてモーターに相談することも出来ない。ワレハレンは植物で、既に現身である実は皆で食べてしまった後なので相談することも出来なかった。

 

火威がアルヌスに向かってから、既に一時間が経つ。

三角や栗林は、ハトチャ村に来た時に轢いた連中を合わせて、既に十四頭の黒妖犬を射殺・駆除していた。

野生動物ならとっくに退散してて良さそうなものだが、今日遭遇した黒妖犬の群れは違った。

「どうなってんだ、このバカ犬共っ」

「ボス犬をヤれば散るかなぁ」

斎藤三曹が吐き捨てるように言うと、三角が野良犬の習性でも沿うように言う。その傍らで栗林はこの黒妖犬の動きに憶えがあった。

ゾルザル派帝国軍が、商人や民間人を騙ってアルヌス周辺の村でゲリラ活動していた時の、黒妖犬の動きに似ているのだ。

黒妖犬などの怪異は、ファルマート全般で怪異使いという特殊技能者でなければ扱えない。しかも怪異を操るには、近くに居なくてはならないという弱点があるのだ。

戦争中はこの弱点を利用し、敵の大部隊を幾つも潰してきた。しかし、ヘリ部隊あっての共同作戦である。ヘリを動かす燃料にも困る今の状況では、火威が操る空飛ぶ装甲車が無ければ不可能な作戦だ。

そしてその火威が乗った96式装輪装甲車は未だ現れない。到に一時間を過ぎるが、最近は害獣が異常発生しているので、他の部隊の支援をしているのかも知れない。

だが目の前の茂みから黒妖犬が現れると、他の部隊を支援していると言っても仕方ないとは言い続けれなくなる。後方を警戒する三曹も発砲していることから、部隊は囲まれてしまったらしい。

栗林は近接戦闘の可能性を考え、即座に64式少銃の銃剣を付ける。他、八名の自衛官も隙を見て少銃に銃剣を付けた。火威は白兵するなと言っていたが、ここまで接近されては仕方ない。

銃撃が得意とは言えない栗林ではあるが、即座に二頭の頭を吹き飛ばして建物の影を警戒する。その後、即座に背後を警戒すると斎藤が撃ち漏らした一頭……いや、その背後から二頭、合わせて三頭が向かって来ている。

斎藤と一頭ずつの黒妖犬を撃ち殺し、残りの一頭の鼻先から後頭部にかけてゴボウ剣で貫いてから銃撃して引き抜く。

「ちょっ……これ多過ぎるだろ!?」

三角の見る方向から五頭の黒妖犬が走ってくる。「ここまでやりゃぁ群れが消えるな」と思う半分、「逐次投入とは馬鹿め」と思ってしまったりするところである。

遠慮なく銃撃して、弾丸が黒妖犬に着弾するが、様子が可笑しい。他の黒妖犬に比べて、異常にデカいのだ。「犬」とは言いつつ虎並みの大きさを持つ黒妖犬であるが、それが小型トラック並みに大きい。

直ぐにキャリバーを向けて銃撃し、一頭は倒したものの他にも四頭も小型トラック並み大きさの「犬」が居る。

「な、なんだこれっ?」

「手榴弾!」

栗林が味方に手榴弾の使用を知らせながら、転がしたレモン型の榴弾で一頭の黒妖犬の四肢を吹き飛ばす。他の自衛官も真似してM61破片手榴弾で黒妖犬の四肢を狙うが、思いのほか上手くは行かなかった。

破片で傷付けはしたが、脚を吹き飛ばすには至らない。

「げェッ!これヤバい!」

誰かが言った時、空から奇声が轟いた。

「蹴り殺してやるぞ!この畜生がァァァ!」

空から来た声の主は一頭の黒妖犬の背骨を踏み潰して背骨をへし折る。そしてその両脇を走っていた大型黒妖犬の首の皮を握り、地面が隆起するほど盛大に叩き付けた。

他の自衛官が、残った一頭に64式で銃弾の雨を降らせて即座に肉塊に変える。

 

自衛官らが周囲に残る敵性残存勢力を確認して、それが無いと解ってから、漸く張りつめていた糸のような緊張感を緩ますことが出来た。

「最後にトンでもないボスが残ってたなぁ」

三角が言うが、火威は申し訳なさそうに皆に告げた。

「散々遅れて来てスマンが、アレは中ボスかも知れんわ」

火威はユノマーンで、先程駆除した大型の黒妖犬に似た生物を駆除したことを皆に伝えている。

ただし、その大きさはハトチャ村で駆除したものよりは小ぶりだ。そしてハトチャ村で仕掛けておいた追尾用の罠餌がなくなっているのだ。

絶えず風が渦巻き、動かす度に水が噴き出るマ・ヌガの死体なぞ、明らかに怪しいのだが黒妖犬はそれでもお構い無しだったようだ。

三角達に聞いたところ、絶えず水を吐いてるような黒妖犬は駆除しなかったという事だから、連中の巣や(ねぐら)に帰っていると思われる。

アルヌスの傭兵や自衛官ら、最近の事情を知る人間の予想通り、大量に数が増えた故に黒妖犬の中では食料事情が逼迫(ひっぱく)しているらしい。

「よし、じゃあ巣を捜索してこれを叩きに行くぞ」

火威が宣言すると、三角が誰でも思うことを火威に尋ねた。

「あの、三尉」

「ん、何か?」

「96はどこに?」

すると火威は上だと答える。

自衛官らが顔を上げて見ると、96式装輪装甲車が腹を見せてホバリングするヘリのように、三階くらいの高さに停まっていた。

 

 

*  *                            *  *

 

 

マ・ヌガを引き摺って行った跡は、罠から噴き出した水で土が湿って黒くなっていたり、草木が風の精霊で変に倒れたり折り曲がっている。

そんな跡が残る道筋を96に乗って辿っていくと、背の高い草が生い茂る草原に出た。

完全武装の自衛官とは言え、完全に地の利は敵にあり敵の数もどれだけ残っているかも解らない。空中から偵察しても背の高い草木に阻まれて黒妖犬がどれ程いるかは不明だ。

そうなると、近くに人間が建てた建造物もないし、態々敵のテリトリーに入って後れを取るのも嫌な火威が執るべき方法は一つだった。

彼は自身が指揮官としての才覚が低いと思っているし、実際に低い。このまま草原に入ればハリウッド等のモンスターパニック映画の如く、隊に被害を出すことを明確に感じていた。

なので、閉門騒動時の蟲獣に対して使ったように、柱の男の技に炎を足し、火炎旋風で辺り一帯を焼き払ったのである。

爆轟や水の精霊を使役して消火作業の時に、黒妖犬だったらしい黒焦げの死体を三十体以上見つけたが、その多くは虎並みの大きさか小型トラック並みの大きさで人間では無いことが解る。

「火威三尉ってホントに火威だな……」

特戦群での火威のコードネームを知らない筈の三角が、まさかそのものであることを知らずに呟いた。




三部は緩い感じとシリアスを織り交ぜながら進めたいと思いますが、
次回は脳を軟化させていきたいと思います。
っていうか、そろそろ秋が来て段々寒くなって行きそうですから冬に備えて脳軟化させていきたいところです。

そしてお気に入り指定が380人(?)を突破!
お読み下さる皆様、本当に有難う御座います!!

これからも感想や意見など御座いましたら、何卒お送り下さいませ!

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