なんだかんだで今回から三部です。
13話で終了っていうのは、妙に不吉な予感がして避けたかったんで……。
ちなみに三部は栗林のターンですが、前のヒロインも目立つ回であります。
流石にサリメルが二十一話に対してジゼルが十二話ってのは余りなんで……。
でも栗林のターンはちょっと長めに考えております。
まぁメインヒロインなんで、これくらいは……ね?
前のヒロイン二人も出ることだし。
第一話 新たな夜明け
ベルティの魂から真実を聞いたメイベルは狼狽えた。
狼狽えながらも、真実を否定しようとする。
だがロゥリィのハルバードが二閃。ディーヴァを叩き落とし、得物の腹でメイベルを遥か彼方まで撲り飛ばしてしまったのである。ベルティが居る前でその子孫を八つ裂きにするのは忍びないと思った末の配慮なのだろう。
その後、ディーヴァを巡って伝統貴族達の狂態を見せつけられたが、ピニャの詰問やらボーゼスやビーナの執り成しで伝統貴族達の頸は切り離されずに済んでいる。
その執り成しで伝統貴族の狂態は式の余興として扱われ、貴族社会からパレスティ家を爪弾きにしていた伝統貴族もパレスティ家に毒念を向けことは出来なくなったし、ボーゼスの結婚に反対する訳にもいかなくなった。
「よろしぃ。二人を夫婦と認めるわぁ。夫婦は共に戦う同盟者で戦友で、また同時に好敵手よぉ。最後まで死力を尽くして戦いぬきなさぁい!」
こうして富田とボーゼスは晴れて夫婦となった。そしてロゥリィも祭祀を務め切り、ズフムートの呪いを払拭したことを衆目に示したのである。
その後は日本の文化紹介ということで、ブーケトスが行われた。
栗林がピニャや貴族の女性に言い伝えでジンクスと説明しているが、自らも腕まくりしている。
本来なら相手を探すのに困らない容姿の持ち主だろうに、栗林が婚期を逃しているのは他ならね栗林自身に理由があると火威を始め、彼女を知る者なら誰しも思う。
栗林と交際するのは、栗林と同等以上の強さの男だけしかいないと栗林自身で言っているのだ。
ダーを格闘で倒せる男を人間の中から探すのは難しい。
ボーゼスが後ろ向きにブーケを投げると、そのブーケを取ろうと女性陣が動く。
だがブーケはどういう訳だか、火威の手に収まっていた。
棒倒しでユエルに弾き飛ばされて負傷し、レレイから回復魔法を受けた清水の代わりに、撮影チャンスを伺ってカメラを構えていた火威が、飛んで来た物は矢でも鶉でも掴んできた癖でついつい取ってしまったのである。
「あ……」
やっちまった自分自身に思わず声を漏らす。
その直後、火威はブーケを求めて暴力の塊となった独身女性の嵐に、ボロ雑巾のようにされてしまったのである。
* * * *
その後は、夫婦となった二人の子供が主人公のナッシダが行われた。
元はこのナッシダが想起されたのだが、ここに自衛官のフラストレーションを健全な方向で発散させる為に、巨大な駐屯地祭みたいな物が付いてしまったのである。
「人生とは創り上げるものだ。この赤子が匠神の加護を得て、素晴らしき人生を創らんことを」
言いながら、モーターが舞の額に指を当てる。
続けて祝福したのはグランハムだ。
「この娘が太陽の加護の下で明るく、元気で、美しくあらんことを」
「主上さんの加護で、死んだら極楽に指定席だ」
と言って舞の左手に唇わ当てたのはジゼルだ。
「そう簡単に死なせるもんですかぁ。エムロイはこの者から死を遠ざけ、戦う術を与えるわぁ」
ロゥリィはそう言って、舞の右手に唇を寄せる。
最後はワレハレンだ。
「実リ多キ、木々ノゴトク豊カナ将来ガモタラサレンコトヲ。ソノタメニ、他人ノ言葉ヲヨク聞キ、真実ヲ聞キ分ケル耳ヲ授ケヨウ」
ワレハレンはそう言って、自身の右耳を取って舞の口に含ませた。
それを見て火威なぞは「歯の生えてない子に果物って良いンかな?」とか思ったりしたが、伊丹と富田は「ちょっと待った」と止めに入ろうとした。
宗教的儀式とは言え、人間の肉体を赤子に食べさせてはいけないという常識的な感覚が働いたのだ。だがそれもボーゼスやロゥリィに止められる。
「あれは神体拝受という儀式よぉ。ワレハレンの身体を食べると寿命が十年延びるって言われてるわぁ」
後で皆にも配られると言うロゥリィに、ワレハレンを皆で食べる事に威驚く伊丹。
この人も慣れないなと、内心で苦笑する。
確かに最初に会った時には西瓜やメロンのような緑色だった美女が、今では白桃の如き色の魅力的な桃色だ。
見た目にも美味しそうだが性的な意味でも美味しいに違いない。そんな美女に会えなくなるのは悲しい。
だがロゥリィの「新鮮な内に食べなきゃ無駄になっちゃうの。その方がもったいないのよぉ!」という言葉もある。
美女を物理的な意味で食べるのは気が退けるが、グスグスに腐った美女を見るのも勘弁願いたい。
と、そんな事を思う火威は、隊の誰よりも特地に順応していた。
様々な障害を乗り越え、ロゥリィがズフムートの呪いと妨害を打破した結婚式は披露宴に入っていた。
その披露宴もたけなわになった頃、火威は見事に祭司を勤めきったロゥリィの姿がないことに気付く。
恐らく九百五十年振りに会う親友とアルヌスの街か周辺をブラついているのだと想像するが、何故、親友であるベルティという娘の魂が九百年もの間、
と言うのも、以前にエロフことサリメルから、この世界で人間が死ぬと、魂はハーディかエムロイの下に行き、そこからまた転生していくと聞いたことがあるからだ。
そうなると、何か特別な事情でハーディの下に留め置かれたとしか思えない。
…………が、今はそれより優先して考えるべきことがある。
披露宴が終わり、式が無事に終了しても火威の頭は優先して考えるべきことが占拠していた。
それは太陽神フレアの使徒、グランハム・ホーテックの眷属のシュワちゃんことユエル・バーバレンに負けたことだ。
棒倒しの結果はそのものは引き分けだが、個人の勝負として火威は負けたと言って良い。火威は勝ち負けに拘るほど武闘派の性格の人間では無いが、後に栗林に交際を申し込まなければならない。
にも関わらず、棒倒しで張り倒されて暫し気を失ってしまっていた。アレは栗林の目から見たら明らかなマイナスポイントだ。
相手の力量を見極める前から格闘戦に持ち込み、初めて力で劣る相手に正面から挑んでしまったことを、火威は後悔していた。
「ぐぬぬ……」
「どしたんス?」
思わず呻く火威に、腹でも壊したのかと聞く倉田の姿があった。
* * * *
四日目の最終日。
大祭典は盛大な閉会式を行い、大成功に終わった。
そして解ったことと言えば、樹下はきっと薔薇科植物であろう。そんな味であった。
ワレハレンは神体拝受式を行って果肉を皆に振舞い、その果肉に含まれる種を埋めさせたのだ。
その過程でモーイ少年には大いに同情すべきことが起きた。だが、また美人のワレハレン樹下は緑色の状態から復活……というか樹に成るからドンマイ、と、火威は声を掛けたい。
その時、火威に声を掛ける者がいた。誰かと思えばユエルだ。
「昨日の棒倒しで貴様は実力の半分も出してないと見た。今度はオレと差しで勝負しろ」
なぞと言って来る。願っても無いことなのだが、昨日の棒倒しの前には狭間陸将から伊丹を始め自衛官は私闘出来ないことを聞いていなかったのだろうか。
「飛び道具専門なら飛び道具を使え。オレはこれで……」
と言いながら、背中の鞘に差している剣柄に手を伸ばすユエルの目は座っていた。昼間っから酒を飲んでるとは良い身分だなこの野郎。
しかし好機でもある。
「あぁ、良いよ。OK。でも命の取り合いは出来ないから武器はこっちで用意させてもらうし、重大な任務が控えてるから今は無理だけど、それで良いならな」
「差しの勝負だぞ」
「うむ、了解している。武器以外は自分の能力全開で勝負するのな」
「その通りだ」
ユエルは火威が魔導士だとは知らない。その時になって魔導全開で自身を有利にしようと言うのだ。正に忍者、汚い忍者。
後夜祭の夜は大祭典当日以上に盛り上がった。
今までもてなす側だった街の人達や自衛官が楽しむ側になったのだからそれもそのはず。
後夜祭では帝国式の料理を貴族達が持ち寄り、大きな晩餐会が開かれている。
そして意外な事に、ケモナー貴族のカトリと楽しそうに話しているのは倉田だけでなく、出蔵も加わっていた。
「カトリさんにはユニコーン娘とか似合いそうなんですよねぇ」
「いやいや、彼女らは処女以外が乗ろうとすると、その角で刺し殺されるから難しいですね」
「あぁ、こっちのユニコーンも処女厨っスか」
出蔵がカトリの外見から導き出した発言を、真面目に返したカトリの言葉に倉田が反応する。
カトリの見た目はメガネを掛けてる以外、確かにザビ家の遺児を恋人にすると良さそうな青年であった。
だがザビ家の遺児っぽいフォルマル家の伯爵夫人は、今年で十二歳くらいだったハズ。でも今現在は帝都に居る菅原が、当時十二歳のシェリーが俺の嫁宣言しているから、この世界では有りなのかも知れない。まぁザビ家の遺児っぽいミュイにも選択権があるのだが。
そんなことより、火威には合コンが待っている。
場所は開会式の会場の大広場の端である。というか、目と鼻の先にある。
合コンは男女比が同じであるべきだ。カトリの相手は出蔵に任せて、火威は倉田を連れて行った。出蔵がケモナーという話しは聞いたことが無いが、嫁さんが他種族なので、有意義な話しは出来るだろう。
合コン会場に行くと、そこには薔薇騎士団の女性方の参加者全員と、アルヌス在住の他種族女性。そして男性自衛官が席に着いていた。
「おせーぞ幹事」
なぞと、からかい半分のヤジが飛んでくる。「サーセン」と謝る火威や倉田も大概だ。
しかし、既にマリナやペリエからバイキング式の料理やフルーツポンチに似た菓子が運ばれてきているというのに、女性側の参加者が二人足りない。
「あり? 猊下は?」
居ないのはジゼルと、ジゼルが連れてくるであろう栗林と思われる人物だ。酒精が弱いとは言え、果実酒もあるから酒好きの二人が欠席するとは思えないのだ。
とは言え、時間はまだあるし……と、思った所でジゼルが一人の人物を連れて来た。
「おー、ヒオドシ、遅れて悪かった」
「あぁ、猊か、ぁっ?」
火威だけで無く、他の参加者も驚き言葉を失った。
ジゼルが連れて来たのは、栗林でなくロゥリィ・マーキュリーという亜神だったのだから。
「えっ、聖下?」
「まさかのロゥリィ!?」
騎士団の女性も忍者屋敷屋敷向かいのジぜラの神官も、倉田も驚く展開にロゥリィは口を開く。
「愛を司る神を目指す身としてはぁ、こういった催しも知っておくべきでしょぉ?」
その発言の半分が耳に入っていたら良い方で、この場に居る者の半数以上が死神と恐れられたロゥリィ・マーキュリーが合コンに出ているという事実に石化していた。無論、火威も含む。
「って、おい。大丈夫か? お前ら」
ジゼルの声で現世に引き戻される参加者達。ふっ、と我に返った火威に、ジゼルは小さく呟く。
「クリバヤシはお前の家の前に行くように言った。もしお前がアイツに会う気があるなら急いで行ってみろ。長くは居ない筈だ」
ジゼルとしては火威の本気度を測る必要があった。
散々「合コンに出ろ」と栗林を連れて行くように思わせておいて本番では別の人物を連れて行く。そして肝心の栗林には、火威から話があるから家の前で待つように言っていたと、偽の話しをしておく。
それで栗林が火威の家の前で待って居なかったら、栗林にその節は無しと判断されるだけだ。目出度くジゼルが火威のパートナーになって良いし、火威が急いで家に戻らなくてもジゼルが火威と寄りを戻しても良い。また火威は結構、金に執着する男である。参加費用分は食べてから行こうとするかも知れない。
「あぁ、そういや三尉。結局花火やらないンすか?」
空気読めてない幹事の倉田なんかが、石化した皆の空気を変えようと火威に声を掛ける。だが火威はジゼルに言った。
「そ、それじゃ俺の分も良かったら猊下と聖下で食べてください。ちょっと行ってきます!!」
そう言って、一応参加者の一人である火威はアルヌスの街を抜けていったのである。
火威が抜けた合コンでは、ロゥリィが最年長者として参加者から恋の悩みを聞くカウンセラーのようなポジションになり、ジゼルが涙を忘れる為に果実酒を呑んだくれたという。
* * * *
黄薔薇屋敷に突入してしまったのは、ロマの森の温泉宿でサリメルから、彼女の師匠が生涯独身だったという話を聞いたから……と、言ってしまっては責任転嫁になるだろう。
だが、あの話を聞いた時は、久しく今の身の上が怖くなった。
忍者屋敷の前で、火威の帰宅を待つ栗林の手にはカンテラがぶら提げられていた。
エルベ藩国からアルヌスに帰って暫く経つと、共にロマの森に行った禿げの上官が自身の事を好いているなんて話を、方々で耳にすることになる。
確かに、特地に来てから少し経った時から毎朝、独自の訓練を重ね、走り、特地の魔法まで憶え、強さという物を求めている姿勢は、彼女……栗林・志乃には魅力的に見えた。
外見から、かなり年上かと思われた年齢も伊丹隊長より年下という恐るべき事実も知った。
だが栗林が想いを寄せるのは、あくまでも富田・章だ。
誰からも見られない自身の心の内とは言え、二股は避けたい。何より、自分自身で赦されない行為だ。
それにゾルザル派帝国軍との戦争中の火威は、落ち武者のような髪型だった。正直言わなくても、あれは勘弁して欲しい。
戦争が終わったであろう時に、蟲獣の大群を滅殺した彼の頭部からは眉毛を含む毛が一本も無くなっていたが、現在は眉毛も生えてただの右目の上に傷が走るスキンヘッドという、ただの恐面に戻っている。
だからと言って簡単に富田から火威に想いの先を替えれる程、栗林は尻の軽い女ではない。
火威から交際を申し込んでくれたらなぁ……などと思ってたら、伊丹から富田がボーゼスに結婚を申し込む場を確認する任務にお呼びが掛かったのである。
しかも『特地派遣隊レクリエーション部』らしきものに所属する火威も一緒だ。
そしてトドメは煮えっ切らない富田のプロポーズだったろう。
栗林はその時に感じた。「言うならさっさと言えガルルッ!」
…………当時は逆の事を言った気もするが、そんな事が有って、栗林は猛獣のように走った。
お陰でスッキリした。
だが後悔もした。
黄薔薇屋敷突入以降、火威が栗林を怖がって避けるようになってしまったのだ。
一度の暴走で、二人分の想い人の心を失うのは、結婚願望が強い栗林には大ダメージである。
少し前に一度、ジゼルから呼ばれて忍者屋敷に上がり、ジゼルが料理を勧めてくれたが、気不味い余りに早々帰ってしまった。
今思えば、あればジゼルに対して失礼だった事である。
結婚式の場で行われた棒倒しで、火威はユエルという特地の戦士っぽい人に昏倒させられてて、その場では火威の不甲斐無さに呆れたものだ。
不甲斐無い様を見せつけられては、例え交際が申し込まれてもお突き合いで叩きのめして、考えを改めさせる必要があると思う。
だが少し時間を置いて考えてみると、相手は複数の自衛官と蒼軍の攻撃斑数名を棒の上の伊丹に投げ付ける程の怪力だ。
相手の力量も見極められない内に正面から向かって行ったのだから、仕方ないとも言える。
今夜はその火威が呼んでいるのだ。伝えに来たのはジゼルだが、あの二人は伊丹とロゥリィのように仲が良いように見える。最近は疎遠になっているようにも見えるが、大祭典の準備で皆が忙しいのが影響しているのだろう。
彼は今、特地派遣隊のレクリエーション係りとして合コンの幹事をやっているだろうから、栗林は来るのが早過ぎたかも知れないと少しばかり後悔した。
どうせなら、帝国料理を味わっておけば良かったとも思う。
だが、待ち人は意外なほど早く来た。テュカが使うような精霊魔法による光が、アルヌスの街を抜けて近付いて来たのだ。
幹事だと言うのに、成すべき仕事を他の隊員に任せて来た様子だ。
「く、栗林……!!」
火威が、嘗て確かに想いを寄せて、そしてジゼルに諭されて恋心を思い起こした相手の姿を確認した。
火威はこういう時に、多くの言えるべき言葉を知る男ではない。場面に相応しい策を持つ奸智もない。対古代龍で導き出した最終手段の一つも「レベルを上げて物理で殴る」が答えだった男である。
言うべき言葉、取るべき態度は一直線だった。
「どうか…!」
何を思ったか、ぴょーん、とジャンプして要らん捻りを加える。
「結婚を前提に付き合ってください!!」
人にモノを頼む時は土下座。それが染み付いている火威は、着地後から流れるような動作で最上級の土下座(五体投地で土下座)を敢行したのであった。
安西先生…………。
押絵が……欲しいです……。
というネタをやりたいが為に書き直し印を押す事になった庵パンです。
お気に入り指定、370を突破!!
本当に有難う御座います!!
取り敢えず栗林はヒロインらしさっていうか、このターンで鬼強くする予定です。