ということで、ドーモ、庵パンです。
誤字というかそれ以前というか、この小説、「ファルマート大陸」を「フォルマート大陸」にしてました。
よく使う単語なのに、ずっとフォルマート大陸にしてたんですよ……。
って言うか、庵パンがフ“ォ”ルマートだと思い込んでいたのですよッ!!
とりあえず、その内じわじわ直していきます。
そして、女性側の合コン参加人数がおかしかったので訂正しました(;
以前から、薔薇騎士団では火威の二つ名が現実に沿って無いという意見があった。
彼女達が皇城で改めて見る火威も、以前と変わらず歴戦の猛者を感じさせる目の上の傷痕と、戦士特有の威圧感がある。
ピニャ殿下のゲイ術の成果を直視しても、耐えられる精神力も流石は魔導士と言ったところだ。
だが奇想天外な発想をする事も少なく無い。
ニホンの超技術とか言って見せて来た「じんたいせつだんまじっ」とやらには少しばかり幻滅したが、まさか翡翠宮と東宮殿のカップリングを捩り出すとは、意外過ぎて「その手があったか!」と、建造物のカップリングを団員が実践するに至るまで、数日を要したほど感動したものだ。
実際のところ、火威が日本にいる時に見聞きした「スカイツリー×東宮タワー」を特地で実践して、オリジナリティーの欠片も無いものなのだが、騎士団のお嬢様方は
そんな火威から感じのは明らかな『陽』的な物。
ウロ・ビ・エンコの悪魔と言ったような、陰に充ちた二つ名は適さないのだ。
そこで編み出された二つ名は、過去にニホン語研修で高いレベルのニホン語を習得し、尚且つ外来語にすら食指を伸ばしつつあるシャンディー・ガフ・マレアーとスイッセス・コ・メイノが考えついた「ヘッドショットおじさん」と「コンバットおじさん」であった。
彼女達は最終決戦でハリョの刺客の猛攻を受けたフォルマル邸で、火威の凶人めいた戦い振りを最も間近で見てはいるが、同時に命を助けられたと、誰よりも自覚している。
「ヘッドショットおじさんて……」
思いも寄らないニックネームに、火威は自分が生まれる前の昭和のゲームセンターで、そんな二つ名のオジサンが居た事を思い出す。
「ヒオドシ殿、このゴーコンというものにイタミ殿は参加するのだろうか?」
再び皇城に来て、今日は合同コンパの案内を持って来て、四千円銀貨相当の参加費用を徴収している火威にピニャが訊ねる。
「いやぁ、伊丹二尉は神様やエルフやエルフと天才少女に四方を囲まれてますからねぇ。出れないと思いますし、囲まれてなくても二尉の人柄だと出ないと思います」
「くっ、そうだったのか……」
この人、次期皇帝だよね? 伊丹二尉狙ってたの? 良いの? 教えて偉い人。
なんて考えてる火威の後ろでヴィフィータの声がした。
「って、なんだこれ! 男女の出会いとか書かれてるじゃねーか!?」
「……せやで?」
「オレ出れねぇよ! シュンヤが居るんだから!」
はぁ!? 解ってますよそんなこたぁ!と、口では言わないまでも、ニコラシカに預けていた、何時の時代の血判状かと言われるような長い参加者名簿をひったくるように取って確認する。
そこには、ピニャ・コ・ラーダの名と共に確かにヴィフィータ・エ・カティの名が記されていた。
えっと……最初、合コンという物の話しをした時に主旨も説明したよね? どうして? どうしてこうなっちゃうの?
大祭典直前になって起こったイレギュラーに一瞬、眩暈がした。今まで二十五名揃っていると思っていた合コン参加者から、ヴィフィータとピニャを引かなければならないのだ。
大祭典の時にアルヌスに行く人員はこれ以上増やせない。火威はアルヌスに帰ると急いで倉田に現状の参加者を聞いた。
「どうも具合は余り良くないっすねぇ」
ピニャとヴィフィータが抜けた騎士団の女性方を合わせても合コンの女性参加者は二十四名。男の方は二十三名しかいない。
「ちょっ! オカシイだろ!? なんで男がこんな少ないんだよ!?」
「あぁ~、多分……」
火威が高射特科の要望を、追加できる人数の枠は五名分という中途半端にも及ばない効き方をして、
「おおおぉ....そりゃないろだろ、うぉい……」
精神がボコっとへこむようなダメージを受けるが、それどころかでは無い。
異世界の女性と合コン出来るってだけで人生で得難い経験だろォ! と、恨み節を秘めた火威はアルヌスの街や駐屯地を回り、土下座で参加を頼み込んだのだ。
特地では裕福な地域に入るアルヌスでも、四千円相当の参加費は一般人が気軽に出せる額ではなかったようで、女性参加者の募集は困難を極めた。
色好い返事が貰えたのは、ジゼルの神殿で司祭と助祭をやっているウルドの他、カプシと神官のリーゲル。
ウルドはベルナーゴから派遣された優秀な司祭で、近い肉親にダークエルフがいるらしく、少し横に突き出た耳と、褐色の肌の肌に白いゴスロリ神官服が映える魅力的な女性だ。名前からして、ちょっと神様っぽい。
カプシは犬っ娘……と言うより人狼っぽい女性神官で、リーゲルはヒトだ。
ロゥリィの所も……とは考えたが、ニーナという神官は美人で可愛い女性神官なので自衛官からも人気が出るだろうが、正直言って怖い。モーイはアレで男だし、フラムは元気だがお婆ちゃんと言ってよい。
でも差別とか良くないから、寄った時に「こういった催しがあります」と案内を配っておいた。
明日の昼にでも参加の確認をしに、再び来なければならないのだが。
男の参加者も、あと七人集めなければならない。
もう既に課業の時間は終わっていたから、隊員が居る場所もバラけて駐屯地内やアルヌスの街を走り廻って隊員を見付ける度に頼み込まなければならなかった。
それはもう、火威の土下座が安くなるくらいに。
次の日の昼までに、火威は一人の羊系の亜人女性の他、久里浜や西本、それに瑞原ら空自の隊員などの五名の自衛官に土下座で頼み倒して参加表明を得ていた。
そのせいで、火威の土下座はインフレを起こし、すっかり価値のない物になっていたとか。
最大の難関と思われるエムロイの神官に、参加の是非を聞きに行き、参加する場合は参加費を徴収しようと考えたが、アレはホントにヤバかった。防御魔法が無ければ即死だった。
「ぐぅぅ……あと二人、あと二人ずつ足りねぇ……」
ニーナという女性神官になんかしたかな……と、首から血が出てないか抑えて確かめつつ、昼の始めに食堂のテーブルで頭を抱えて火威が呻く。
「ちょうど二十八人同士ですし、これでも良いんじゃないスか?」
「いやスマン、以前にペリエとマリナにな、大祭典の後夜祭で男女合わせて六十人の飯やら菓子やら、それとなく頼んでたんだよ」
ベリエは女性向けの調度品が列べられ、菓子を出す。テュカの他にレレイやロゥリィも良く行く最近になって出来た甘いものが美味い店だ。
火威は騎士の女性達も甘い物は好むだろうと、この店から出前を頼む事にしていた。
マリナは同名の店がロンデルに存在するが、それとは関係なく、単に新しく出来た料理の美味い店である。
「げっ、それじゃ六十人集めないと」
火威は、こうも集まりが悪いとは思わなかったと、しくじりを悔やむ。
「一人か二人くらい欠けても、男女の数が同じなら俺が金出すから良いんだが……」
だが、男女合わせて四人の欠席者分の食事費用を出すのは勘弁願いたい。
一人か二人分なら皆で料理や菓子を分けたりすれば良いのだ。
その方が、火威の財布的にも優しい。
「んなら、いっそ三尉が出席しちゃったらどうっすか?」
「えー、幹事って出て良いの?」
「おKっす。その場の幹事は俺がやりますから」
「じゃぁもう一人は倉田、お前出ろよ」
「だから俺、幹事ですって。それにペルシアの地獄車で地獄酔いしちまいます」
以前、伊丹とピニャがグラス半島で遭難した時、捜索に行った倉田と民間人協力者ということで着いて来たペルシアというキャットピープルは、長い髪を水着代わりにしたアクアスという人魚のような種族の姿に釘付けになった倉田に、綺麗な卍固めを決めていた。
18禁なファンタジーな光景を脳みそに焼き付けた火威だが、キャットピープルという種族の戦闘メイドは侮れないと思った瞬間だ。
「車酔いじゃぁねぇのか……」
「っつーか三尉、栗林二曹に惚れてるなら、やっぱり三尉が誘って出りゃ良いじゃないっすか」
ジゼルだけではなく、倉田にまで知られていた。しかも、その事実が知れ渡っているかのような口ぶりだ。
「く、倉田、どうして知って……いや、そんなことは、どうでも良い」
ジゼルが知ってるのだから、特定地域じゃ結構有名な話しなのかも知れない。
そんな事も想定しながらも、倉田に問う。
「富田んトコで栗林が暴走したろ」
「……そっすね」
「アレ見てもまだ惚れていられると思う?」
「た、確かに……アレを見て退くなっていうのは無理っすが……」
下を向き、呻く倉田。それを余所に、火威は会計を呼んだ。
「しかしっすね、付き合おうと言うなら相手の欠点も受け入れなきゃならないでしょ」
ふと、漏らすように倉田が呟いた。
倉田の言う事が、恋人であり夫婦という物なのだろが、火威が見た栗林の所業は火威の許容範囲を余裕で越えていた。
「いや、しかしな倉田……」
「細かいこと言ってんじゃねぇよヒオドシ」
呼ばれて来た会計係の従業員はジゼルだ。竜人の聴覚が特別良いとは聞いた事が無いから、亜神は色々規格外なのかも知れない。
「お前、ナッシダが終わったらクリバヤシを孕ませるんだろ!」
「そこまで言ってないでしょ!?」
以前にした約束を、明け透けるどころか物凄く掘り込んで言うジゼルに火威は慌てて訂正する。
「結果的には同じことだろ」
だが、そこまで言った所でジゼルの口は火威の手で塞がれた。日本語の解る者が倉田や火威の居る席に視線を集中させたからだ。
「ちょっ、勘弁して下さい! 性的な事を言ってると皆見るからっ」
「……好きなクセに」
少しの同棲生活の間に、火威の嗜好を憶えたジゼルが小さく呟くが、当の火威には聞こえない。そして突然、ジゼルは火威の胸倉を掴んで引き寄せる。
「えッ、何!?」
「ヒオドシ! 前に約束したよな!」
火威も以前にジゼルと約束したことは憶えている。
「だったらゴーコンに出る女の後の二人のはオレに任せろ。それでお前も出ろよ!」
そう言って、ジゼルは参加費用を大きく越えてしまう金貨を火威に握らせた。
有無を言わさない早さだった。
「げ、猊下、これ多過ぎっ!」
「二人分だって言ったろ!釣りは返せよ」
言った切り、ジゼルは別のテーブルに行ってしまった。
* * * *
その日の夕方には、ペニエとマリナの両店に60人分の材料費を支払い、火威もその内の一人に入っていた。
男の残る一人は、どれだけ土下座して廻っても見付からなかったので、火威が二人分の参加費を払い、二人分食べることになった。
合コンに出るのはジゼルと、彼女が連れて来る女性の誰かだと思うが、火威にはそれが栗林であると予想することしか出来なかった。
「って言うか神様が合コンに出て良いのか……?」
その神様とエロいことしていた火威が言ってよい台詞では無い。
隊の中で、聞けばジゼルは食堂で働き、日本人が馴れ親しんだ味や食感を出すために伊丹や他の自衛官にも試食してもらった事が、何度かあったらしい。
本人は火威のためにした事なのだが、それが男性の独身自衛官の人気を呼ぶ事になったのだ。本人は無自覚であったが。
「猊下は誰とも付き合おう気無いんだろうし、良いのか、コレ……」
終業ラッパが響くアルヌスの街の中、火威が独りごちる。
食堂の前に差し掛かる。今夜は家で自炊するつもりなので素通りしようとしたが、食堂から火威を呼び止める者がいた。ジゼルだ。
「どうしたヒオドシ、食べて行かないのか?」
「今日は自炊ですよ」
しかし、「ちょっと待て」とか言いながら、路地に面したテーブルから歩いてくるジゼル。それが、またしても火威の胸倉を掴んで怒鳴る。
「イジイジしてんじゃねぇぞ! 悩むも何も、オレと決めたことだろうがッ!」
「アえぇッ!?」
どうやら、ジゼルには火威が合コンの事で悩んでるように見えたらしい。火威としてはそこまで悩んでるような事はないのだが、敢えて言えば「貴女のことで悩んでるんですよ」と言いたい。
どうして火威が栗林に惚れたのか。惚れた時にどんな想いで彼女を見ていたのか。そのままニホンに帰った後、別れ別れになって良いのかとジゼルは火威に言い聞かせた。
そのジゼルは、
* * * *
火威が栗林に惚れた
そして彼女を見ている内に、彼女が能力の高い自衛官であること、そして極めて高い格闘能力を知って惚れ込んでしまったのである。
亜神クリバヤシこと、栗林が人外めいて来たと思ったのは、戦争中にチヌークの機内に出現した巨大怪異を格闘で葬ったという報告を聞いてからだ。
ここまで強いと流石にお突き合いなりお付き合いは普通なら躊躇ってしまうが、火威はますます惚れ直した。
安全な国と言われる日本でも、子供や女性に向けられた凶悪な事件は起こるので、栗林なら子供を守ってくれたり、犯人を返り討ちにしてくれそうだからだ。
それはエルベ藩国に遠出した時に、ニャミニアとかいう巨大無肢竜相手に白兵していた彼女を見た事で確信に変わる。
だが、凶悪だったのは栗林だった。
とは言え、数日経って落ち着いてみると、倉田の言う通りなのかも知れないと考えるようにもなる。恋人ともなれば、似たようなことは無いだろうし、あれば男が不貞した時くらいのものだ。
数日前に聞いたジゼルの『見解』は聴かなかったことにして、日本に帰還してから離れてしまうのは別々の駐屯地に勤務している火威と栗林なら確実なことだ。
火威が自衛官になってから、既に五年以上が経つ。安定収入が得られる職を手にした後は嫁探しだと思ったが、中々出会いも無いので三十路にまでなって、遂にはオークなどという怪異まで呼び寄せるに至ってしまった。
そうだ。最初はオークから逃れるために栗林と結婚したかったんだ……と、火威はこの時になって思い出した。
そう思って彼女の戦歴と戦い振りを見ている内に、勝手に栗林のイメージを美化していったのだろう。
それが解ると火威は居ても立ってもいれなくなった。
ジゼルが「お前のせい」と言ったことが、
火威はこの時、目の前を覆っている全ての蒙が払われた気がした。
曇っていたものが心の中から払われると、火威は走り出そうとする。
だがその火威を呼び止める者かいた。
「ヒオドシィ、慌てて何処行くのぉ?」
ロゥリィだ。
火威は今し方はっきりした事をロゥリィに告げ、栗林に会いに行こうとしていた事を話す。
「でもぉ、今は止めておいた方が良いわよぉ」
「えっ?」
「このところの貴方はイジイジしてたものぉ。それはシノの好みからぁ、とっても離れていたわぁ」
「げっ!?」
ここ数日の間に、火威の精神は不安定と言って良い。何度か肌を重ねたジゼルは出て行ってしまうし、しかもその彼女から栗林と突き合えなんて言われている。
その上、この二~三日の間に独身自衛官とアルヌスの独身女性に土下座して周ったのだ。
火威に『The土下座』だとか『土下座の火威』なんて二つ名が付き兼ねないくらいである。
「こ、これは……どうしよ…」
火威の額に一筋の汗が流れるのは、気候のせいだけではない。
「安心なさぁい。大祭典の後になったらシノがヒオドシィを見る目も変わるからぁ」
確かに、結婚式の後ならば……と、火威は考える。
女性というのは目の前で行われた結婚した知り合いを見て、自身も身を落ち着けたくなると、聞いた事があるからだ。
迷いが無くなった火威が、ロゥリィの前から去って行く。
彼の次の戦場は決まった。大祭典後の合コンである。
その彼の背を見る神が二柱。
「良いことしたわねぇ。こうなるって解ってたのぉ?」
ジゼルが火威を拒否し、諭し続けていたのが彼女の成長のように感じたのはロゥリィだ。
「えぇ、ハンゾウは馬鹿じゃねぇから、これまでの事を思い出しゃ……」
「……ジゼルゥー?」
「ハ、ハンゾウ=サンは間抜けじゃございやせんから、今までの事に気づ気づ気づ気付かれたらきっと解られるものと」
ロゥリィに睨まれるジゼルが、亜神らしく喋れるようになるには、まだ数百年必要なようだ。
「でもぉ、あれで貴女は良かったのぉ?」
アルヌスに来て以来、そして火威という男に会ってから、すっかりと変わった使徒に問う。ロゥリィは『誰かの為に自分が犠牲になる』と言ったような、自己犠牲的な行為が嫌いなのだ。
「オレはーー」
「言葉使い」
「あ、アタイはー、ですね……」
出だしから睨まれて、実に締まらないジゼルが一呼吸置いてから続ける。
「ハンゾウー……サンと良い思いをしました故、それで充分するけぇ」
それは、ロゥリィには余り面白くない話しだ。なぜ自分の眷属はそこまで一線を守り続けるのか。女は見て愛でるものとでも思っているのかも知れない。というか、絶対そうだろ。
「まぁ出来れば愛人とかでも……」
その言葉を言った切り、ジゼルは口を閉じた。愛人や妾の類はファルマートでも良く話に聞く。そして同じ数だけ愛憎の話も聞く。
「そ、それは難しそうねぇ」
あの栗林志乃が、自分以外の事実婚を認めるとは思えない。
ロゥリィはアルヌスに来て以来、自分の妹分のように働きだした神の前途を思い、悩むのだった。
猊下がヒロインらしいところは終了っぽいですが、大祭典はまだまだ続きます。
っていうかこの猊下、高性能猊下です。今のところ全ヒロインの中で最もヒロイン力の高い猊下です。
しかしながらジゼルのターンはまだ少し続きます。
まだ大祭典やってないんで。
ってうかお気に入り指定が340越えてた!?
この場を借りて、誠にありがとう御座います!