ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
昨日までエフリとイフリを間違えてエフリをお姐系にしてました。
危うくお姐系飛龍のまま外伝1を終わらせる所でした……。

で、更に言いますと……
やっぱり1話に残りを全部詰め込むのとか無理でしたっ!!
あと1~2話必要そうです…。
構成力無い癖に1話で終わらせるのは無理じゃったんよ……。


第二十話 桜

ミリッタの神官にも関わらず、危うくエムロイの治める戦士の冥府に行きかけたサリメルは、自身を助ける事になったヒト種の女性の素性を尋ねる。

彼女はロマリア・デル・ドリードと言う名の二十代半ばくらいで栗色の長髪を持った魔導士だった。戦闘魔法の大家であるリンドン派魔導士を体現したような女性で、若くして導士号を得た後、大陸各地を廻って知識と魔法の腕前を研鑽し続け、武者修行していたがその最中に砂漠に棲む巨大怪異の噂を聞き、ご苦労な事に態々(わざわざ)西方砂漠まで来て、砂漠の怪異と戦っているサリメルを見つけたのだと言う。

彼女が学問の神ではなく、盟約の神の名を持つのは、大陸中を巡り歩き、自身より強大な相手を知るまでは旅を辞めないという、自分自身への誓いだった。

あれから百年程経った今にして想うと、彼女はアルヌスから来たジエイタイのクリバヤシ・シノに似ている。

ロマリアことロマは、サガルマタ以降、ヒトという種族に失望したサリメルの考えを変える切欠となった。

巨大な相手を探し求め、自身の青春は疎か、人生すら不意にしかねない彼女にテュバ山で眠り続ける古代龍の話しをしてやると、少し困ったような顔をしていた。

後に彼女は、自分と同等以上の実力を持った相手を探していたとも言ってたから、もしかしたら結婚相手でも探していたのかも知れない。

 

 

*  *                            *  *

 

 

サリメルの宿を警護するため宿周辺を歩哨していた火威は、案の定の事態に辟易しつつも、頭を悩ませていた。

と言うのは、フォル球のルールに関して、色気と下心たっぷりのサリメルに誘われたのだ。どうせまた賭け試合でもやろうと言うのだろうが、サリメルは本当に痴呆なのだろうかと言うくらい物覚えが良い。先日も津金から理論だけ聴いた爆轟で宿の敷地内に侵入してきた無肢竜を倒したと聞く。

今度試合をすれば火威が負けてしまうかも知れない。

だが「自衛官なのは午後五時までさ!」という言質を与えてしまっている。

精神に作用する魔法でもあるのか、ノリ良く応えてしまった火威は、自分の気が触れたとしか思えない振る舞いに頭を抱えた。

サリメルの領地は決して広くは無い。先日ニァミニアを仕留めた泉が存在するロルドム渓谷。その近くに拡がるシュワルツの森の端に位置するロマの森の二リーグ四方が彼女の土地だ。

そこに有る温泉施設の裏手を歩哨中、火威は思わぬものを目にした。

薄桃色の花弁に白が注した、春に日本で良く見る花の咲く樹木だ。そしてその森の中に(いしぶみ)が存在する。

もしこの場に建物でも有ったら、それが神殿と推察できるただろう。

それほどの清爽(セイソウ)さを持ちつつ、えにも言われぬ神秘的な活力が沸いてくるような場所だ。日本で見たような光景が、故郷とは何の縁も無い特地に有るせいかも知れない。

火威は地面に落ちてる花が付いた枝を拾い、見分してみる。

「それはセレッソの花じゃ」

投げ掛けられた言葉に振り返るとサリメルがいた。

セレッソと言う言葉に対して「スタイリッシュ痴女!?」と直感してしまった火威だが、同時にこの時に限っては彼女から続けられる言葉が待ち遠しい。

ちなみに『スタイリッシュ痴女』のゲームに登場する銃は『セレッサ』なので、完全に火威の思い違いである。

「此処は森が今のように呼ばれる切っ掛けとなったロマリア・デル・ドリードが眠る……いや、彼女が此処に居た事を伝える為の場所じゃ」

それは、ロマリアの魂も魄も世界に溶けて生まれ変わってるだろうという事を意味していた。

いや、そうあって欲しいとサリメルが願ってるのかも知れない。

ロマリアというのはアルヌスからロンデルに向かう途中の山地の名でもあるから、もしサリメルの言うロマリアと関連があるなら彼女は名のある人物なのかも知れない。

「ロマの……母の墓碑をここに作ったのはな、彼女の好きな花がセレッソだったからじゃ」

火威が拾い見るセレッソの枝に付いた花は、桜そのものだ。ファルマート大陸の他の地域では目にする事がないセレッソは、大陸の外から持ち込まれた物と推察出来る。

「日本じゃこの木のことは桜って言ってますよ」

普段なら、サリメルに異世界の情報は教えたくないが、舞い散るセレッソの花びらは桜そのものなので、今更秘匿しても仕方ない。

「ほぉ」

「実家の近くにも一杯咲いてますよ」

「ふむ、また門が開けば行ってみたいものよな」

その時はちゃんと服着て下さいよ、なんて言って少しばかり雑談を楽しむの火威には、サリメルが子供返りを患っているとは思えなくなってきた。

 

 

*  *                            *  *

 

 

外見年齢ではサリメルより年下だったロマリアも、大陸の外の旅から帰ってサリエルが居るシュワルツの森に居を構えた時には壮年期を越えて人生を折り返す所まで来ていた。

サリメルと共にファルマートの外を旅した彼女は、手に入れた複数の植物の苗を森に植える。

中でもお気に入りのセレッソは、丁寧に等間隔に植えて、時期が来れば薄桃色の花が咲く森を作っていた。

若い時にこそ、サリメルの両性愛趣味に明らかに退きつつも極稀に付き合う事があったが、夫などの親縁は出来なかった。その代わり、サリメル達のような家族が居る。ロマリアはサリメルやその子供達に対して実の親のように接していた。

そして、ダークエルフ等の亜人もロマリアの知識を尊敬し、施される数々の魔導を礼賛した。

エルフとしては少女と言って良い歳の頃に母を亡くしたサリメルにとって、彼女は友人であり師であり、第二の母だった。

実の両親が亡くなっから約千年の時が経つ。サリメルはロマリアを母と慕いながら過ぎ行く季節を楽しみ、実の親子のように接していた。

古代龍の活動し始めたのは、ロマリアが老年期を迎えた頃だった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

火威が手首のスナップを効かせ、回転を付けて弾いたフォル球をサリメルが打ち損ねる。

予定通りというかサリメルの計画通りというか、自衛隊の課業を終えた後、火威は約束してしまったフォル球に付き合わされていた。

日が長い季節では無いので室内には光の精霊を召還して作った光球が各所に浮き、それだけで昼間の明るさを確保している。

部屋の脇にはサリメルがまた何か良からぬ事を企んでるのではないかと気を揉んだルフレが得点を数え、その傍には栗林が居る。彼女はサリメルが呼んだらしいのだが、フォル球台を見るや「さ、三尉。これ拙いですよ!」と狼狽えていた。

どうやら栗林も考えることは火威やサリメルと同じらしい。なので「サリさんが漫画読んで再現してしまってな……この前からルールとか色々卓球とは別物にするため頑張ってる」などと言って取り敢えずのところは安心させている。

とはいえ、ファル球のテストプレイは文化侵略の予防……強いては聖下からの断罪を避ける為にもやらなければならい事ではある。火威が思うには椅子にじっと座って考える方法でも十分な気がする。

だがそれでは済まないというのがサリメルの主張だ。彼女は一応、導師号を持つ賢者なのだし、『子供返りとは違うんでないか?』と思い始めた火威も、博士号を持つ自分より賢者号を持つサリメルの考え易い方法を取った方が良いとも思い始める。

そして何より、フォル球に付き合い、サリメルの話しを聴いたら彼女が所有している蔵書を閲覧して良いという条件が決定打となった。その上、博物学の本に載っている生物の中には、生血が劇烈に効果のある毛生え薬になる動物が記載されてたハズ……なんて話しを聞いている。

火威が特地の文字を読めることはサリメルも知っているので、嘘ということは無い。そもそもサリメルが自衛官らに嘘を吐いたという事も無かった。

フォル球をする事になった火威は、既に閲覧権を手にいれたのだが、今では焦りつつある。

後悔してると言っても良い。

対戦相手であるサリメル……めっちゃ上達しているのだ。恐らく以前に敗戦してから知らない時に地道に練習していたと思われるのだが、火威も成功率の低い胡瓜サーブなどは使わず、サリメルが卓球ルールを知らないのを良いことに台の下から少し浮き上げて強襲サーブを放ったり、サーブを打つ直前までボールを手で隠すというステルス姑息戦法に頼った。

だが器用貧乏程度の凡才と、エルフにも関わらず窮理(物理のこと)の魔法をも使いこなす天才とでは才能に差があり過ぎた。

最初こそ台の下からの強襲サーブや、ラリー中に織り交ぜる回転ボールに手古摺ったサリメルだったが、直ぐに適応して球を返して来る。ステルス戦法に至っては、返された球に回転が掛けられて火威があらぬ方向に返してしまった程だ。

今回からのルールは、ジュース抜きの泣いても笑っても十五点勝負である。

火威が十点取った時にはサリメルが十一点先取していた。

「そぉい!」

火威が速球を叩き返し続けるとサリメルは台から引いき、長距を空けて返さざるを得ない。

しかしこれが火威の着実な策である。

サリメルが台からだいぶ離れたと見ると

「そい」

と勢いを殺したフォル球を、ことりとサリメル側の陣地に落とす。

「な、なにィ!?」

サリメルの運動能力を以ってしてもこれは返せなかった。打ち返そうと走り込み、台に激突して突っ伏す。

「さ、流石はハンゾウ……やるな」

肩で息するサリメルは、少し前に火威に言われた事を思い知る。

 

     ―――『卓球は卓上の格闘技』―――

 

日本や日本がある世界で同じように考える人間が何人居るか知らないが、火威の中ではそういう事になってるらしい。サリメルも、このような激しい運動量は過去に経験した事がある格闘に似ていると考え……ちゃったりもする。

「あ、相手側陣地に球を置いたら五点ってことにしません?」

火威が提案した突然のルール改訂は、サリメルには受け入れ難いものだ。

「なっ、それではハンゾウが勝ってしまうではないか!?」

「そっすね」

「くっ、そして“また”妾を抱こうというのかっ」

「“また”ってなんすか!?」

栗林が近くに居るので、サリメルの妙な妄言を信じられては堪らんと反論する。サリメルはやっぱり痴呆か、と思う反面、この女油断ならねぇという警戒心を強める事にもなる。

「だいたい今回の勝負は何も架かってないでしょっ」

「いや、妾とヌシとの勝負では常に懸かり物あるから。ヌシの勝ち逃げとか許さんから」

なん……だと……。蔵書を餌にまんまとしてやられた火威が感じたのは、その一言に尽きる。

なし崩し的に一点ずつの勝負に固定されたフォル球玉が火威のすぐ脇を通り抜ける。勝負は直ちに再開されていた。

「チ、チクショウメェー!?」

火威が十一点に、サリメルがこれで十二点。最早このまま挑戦せず、失敗を恐れて安全に攻めていては負ける。

フォル球玉を左手に持ち、右手に持つラケットを首の左側に構えると火威の雰囲気が変わった。

「ほほぉ……」

それに対するサリメルのそれは、王者の物だ(ホントは初心者だが)。

胸前からラケットを繰り出して放ったサーブは至極低い。ネット代わりにした糸の壁ギリギリでサリメルの陣地に突いたフォル球玉は、懸けられた回転に沿って約60度の角度でサリメルの左側に弾かれる。

「……ッ!」

ここに来て“きゅうりさあぶ”か!そう声に出し掛けるサリメルが直ちに身体の左側から繰り出すラケットで打ち返した。

ナムサン! 会心の胡瓜サーブを返されてブッダに祈りかけた火威だが、強敵に会した彼の神経は、流れる滝の一滴を見定めるが如く、研ぎ澄まされていた。

「そこぉ!」

打ち返したフォル球玉は速球スマッシュとなってサリメルの真横を抜けた。

「よしィ! あと三点!」

喜ぶ火威だが、その様子にも構わずサリメルは不敵に笑う。以上のような事が二回続くが三回目にして……

「お遊びは……ッ! ここまでじゃぁ!」

物凄い回転を付けられた球が台のエッジ当たって落下する。

「これで十三点じゃなァ……」

ククク…と喉で笑うサリメルに、火威は一種の脅威を感じる。だが球がエッジに当たるなど狙って出来ることでは無い…ハズ。

「ふんぬッ なんのォ!」

ここまで来れば小細工抜きの低高度サーブがサリメルの振ったラケットの下を潜って抜ける。空振りとはサリメルにしては珍しいミスだと思ったが、その理由は直ぐに解った。

その後すぐのサリメルのサーブは自分のコートで球はバウンドしたが、火威側ではバウンドする事なく床に落ちてしまった。

ここに来て痴呆の症状が出て来たのか。そう思ってしまった火威だが、続けて打たれたサーブはエッジに当たってサリメルの得点となる。

「フフフ、今回は“じゆうす”は無いんじゃったよな。互いにあと一点じゃ。あと一点。あと一点でヌシは妾を抱けるぞ」

「いや、また飯作ってもらいますから」

「では妾が勝ったらヌシに抱いてもらおう」

やっぱそう来たかこのエロフ! と考える火威は半分しか知るまいが、サリメルは前回の失敗を教訓にフェトラン等の媚薬では無く、正攻法で火威と栗林と閨を共にするつもりでいた。全然正攻法では無いが、サリメルにとってみれば正攻法なのである。

栗林も巻き込むつもりなのだから、宣言しておかなければならない。

そう余計な事を考えたのが、今回も良くなかった。

「そうじゃな、ここまでの稽古量を考えればヌシだけではツリが来るな!それでは先ずは妾とハンゾウとシノの三人とで混浴じゃ!」

その宣言が、シノって誰だったっけ? と火威の頭の回転を若干遅くした。その隙にサリメルがエッジを狙ったサーブを放つ。

「しまっ……!」

しまったと言いかけた時、既に球はエッジに当たって在らぬ方向へと弾かれていた。

「ちょっと待ったァァァアアアア!!!」

「むぎゃ!?」

有らぬ方向に飛んでいったフォル球をスリッパで打ち返し、サリメル側のコートにバウンドさせてそのままエロフの顔面にフォル球を叩き付けて卒倒させた人物が居る。栗林だ。

あ、そか、栗林の事か。と、想いい人の下の名を思い出した火威が少しばかりの安堵感と共にやる瀬なさを感じた。

そこまで拒否しなくても……という栗林への思いとサリメルに負けなくて済んだという安堵感にだ。

だが見学の栗林が試合に乱入して最後の得点を決めるのって、どうなの? なんて事をスコアラーのルフレに聞いて意見を仰ぐと、「フォル球は決まり事を決めてる最中だから有効」なんて意見を貰った。

 

数年後、フォル球は防具を付けて行う遊撃・伏撃ありの戦術性の高い武道としてエルベ藩国を起点に広まり、フォル球で一汗流してから温泉に入るのが貴族の間で流行ったとかなんとか。

 

*  *                            *  *

 

 

古代龍の襲来は古来から起きてきた災害で、休眠期から脅威となる活動期の大凡の間隔はそれぞれの国や部族で伝書・口伝、様々な形態で記録されている。

龍が冬眠するテュバ山に近いシュワルツの森に住むダークエルフの部族なら猶更で、古代龍の活動期が近付くに連れて前回の活動期の記憶がある年嵩のダークエルフ達が戦いの準備を始めた。

古代龍相手の無謀な戦いだ。戦っている最中に仲間を少しでも遠くへ逃がす為で、どうしても一部は犠牲になる悲壮なものである。

ロマリアは昔、彼らの長老からダークエルフの部族は一度定住すると決めた森を離れては生きれない…という話を聞いたことがある。

なし崩し的に家族か養子のような関係になったサリメルはエルフとしては珍しい部類であることも、彼女の日頃の言動を見ていれば理解できた。

翼のある古代龍の出現場所は、賢者であるロマリアにも判らない。だが決まった範囲を護ることは可能かも知れない。

古代龍が活動を開始すればサリメルやアリメル、ティトやリトなど身内同然で接してきた彼らの住む場所が、龍の活動範囲内に入ってしまう。

ロマリアは、もう悩む事など無かった。

 




そういやDVD最終巻では24話にオーディオコメンタリー付くんですかねェ。
23話にも付いてて良さそうな気がしますが、空挺降下の内容だと喋り難そうですかねェ。
いっそのこと両方に付いてて良いのよ? と言ってみる次第であります。

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