ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
なにやら水曜に投稿出来てしまいました。

今回は最後の方に、一部台本形式があるのでご了承下さいませ。
あと、サリメルの過去話は次回に纏めて二話分やります。




第六話 エルベの森の痴女(下)

「こんなの良いんですかね……」

栗林が零した言葉は、火威や出蔵も当然思う事だ。

馳走される夕食の前に、温泉に案内され、飯は善で運ばれる。任務の最中なので酒精を含む物は取れないと言っておいたので酒の類は出ることは無かったが、それでも豪勢な夕飯だった。

あのエロフならやり兼ねない全泉混浴という事も無かったし、善に盛られた飯にしても和食に近いものだった。

ただ、温泉で栗林は(エロフに)軽く揉まれた。アルヌスに居るテュカの恋愛対象も主に女性だったらしいから、精霊種エルフには男が産まれ難いのでは無いかとも思ってしまう。

しかし、それ以外は日本の温泉旅館に近い。

温に浸かると火威なんかは疲れと眠気が一気に出て、危うく水没するところだった。

アルヌスの街でも和風の建物は数少ない。栗林がお突き合いをしていた練武館の他は、片手の指で数える程しか無い。

だからアルヌスから離れたエルベ藩国内の森の中に住んでる、エルフが営む温泉宿が、(にわ)か日本被れの外国人がやらかすような間違い日本が多いとは言え、多くの和装を取り入れてる事に疑問が浮かぶのだ。

「……まぁ後で聞いてみる」

鸚鵡鳩通信による救援要請があったから、三名の自衛官とダークエルフの姉弟だけの構成で来たが、本来なら津金 和文(つがね かずふみ)一等陸尉の他、九名の自衛官とキャットピープルやドワーフ、更にはワーウルフの傭兵の現地協力者四名、そして火威達の十八名で当たる任務である。

現時点の暫定で隊長の火威だけは、後で研究小屋に来るよう、従業員らしいヒト種の中年男性から言伝っている。彼等は大型の無肢竜に村を破壊されてから、サリメルの宿で働きながら生活しているらしい。

面倒臭ェなぁ……とは思いつつも、サリメルには和食以外にも聞きたい事がある。温泉の水質は明らかに硬水ではなく軟水だった。

もっとも、無肢竜が出現する現場に詳しいであろう協力者から呼ばれたのだから、当方に多少の不都合が有っても当然行かなくてはならないのだが。

火威とティトは、わざわざ三ヶ月も掛けてロンデルで水質を変える装置の設計図と材料を知るに至ったのである。

ロンデルに行って目的を簡単に済ませ、残った期間で博士号を取ったりベルナーゴで物見遊山もしたが、多額の金銭を盗まれた上に旅の仲間の黒チョコボを食う羽目になったのだ。

一応付け加えるが、この場に居る自衛官が着ているのは浴衣などではなく戦闘服である。バリっとしたスーツ(男の戦闘服)とかではなくて緑の斑模様のヤツ。

火威がサリメルのもとに向かうまでに、栗林が最初で火威が最後という不寝番の順番も決めておく。

火威を最後にしたのは、再びサリメルと会合する火威の睡眠時間を長めに確保しようと言う栗林の意見で決まった。

こ、この気遣いが出来る可愛い爆乳さんめ……! そんな言葉が火威の頭を過ぎったが、実際には携行してきた装置が数少ない中で、一番の戦力が“いざ”という時に使い物にならないと困るという実質的な判断からであった。

 

 

*  *                             * *

 

 

火威を招く前に羅紗を肩から羽織り、露出度を低くしたサリメルは慌てた。

自分自身で寛ぐ為にと、地下から湧き出る熱水に含まれる不純物を、取り除く装置を作ったのは良い。

無肢竜の出現で周辺の村々を追い出された人々を、使用人や従業員を兼ねた形で宿に匿うのも良い。

付いてきた少年達にフェトランの媚薬を混ぜた果汁を飲ませ、一晩中朝までしっぽりと娼年の園を楽しめたのだから。

ジエイカンが来る前に混浴はイタリカ近くで拾ったルフレに禁止されてしまったが、同性でもイケるサリメルには嬉しいことにハンゾウと共に来た二人のジエイカンの内、背の低い女の方はサリメルも驚くほど豊満な胸を持ち、女性としては過去に見た大剣を操る傭兵並の筋肉質の肢体だ。

サリメル、こういった同性も大好物である。だがハンゾウ程見知った仲でもないので、今回は軽く触って済ます事にした。

問題はここからだ。まさかジエイカンが任務中とは言え、酒を呑まないと思わなかった。サリメルは現在、ジエイカンらの隊長であるハンゾウを研究小屋に呼んでいる。

彼女には、今居るジエイカンの最大の戦力であるハンゾウが戦いで斃れないように保険を掛ける重要な使命が控えていた。

無肢竜の巣となっている洞窟の場所を教え、攻めていく順番を考えるという建前で呼んでいるのだが、本当はフェトランの媚薬を呑ませて前後不覚にした上で、無肢竜を倒す上で重要な計画を実行するつもりでいる。

そのつもりでハンゾウに呑ませる酒に最後の一粒である媚薬を投入した時、ルゼ村から避難してきた中年の従業員が言ってきた。

「ジエーカンの人達ゃ茶しか飲まないんですぜ」

早く言ってよ、と思うサリメルであるが、済んでしまった事を悔やんでも仕方ない。

今はどのようにして酒に入れてしまった媚薬を飲ますか考えなくてはならない。

ダメ元でそのまま出す、という方法で呑んでくれるなら一番手っ取り早いが、再三に渡るサリメルのアピールにもかかわらず、指一つ触れなかったハンゾウには期待出来ない。

この方法は、少し前にモーター・マブチス鎚下が鍛えた大剣フルグランを持つ男には成功させている。にも拘わらず、ハンゾウの半分ほどの興味も示さないとは、何処ぞの眷属の如く根っからの衆道かとすら思ってしまう。

次に、無肢竜討伐の計画としてハンゾウと番う事を今回はキッパリと諦めるという選択肢もある。

だがフォルマル領で一目惚れに近い形(互いに素顔は知らなかったが)で知り合った相手を呼ぶのに、絶好の理由が発生してくれたのだ。

それに以前に寄った傭兵団も一番大型の無肢竜、ニァミニアの討伐に失敗したと見え、周辺の村や町の被害は後を絶たない。

ミリッタの神官になってからも大陸を旅する事もあり、本来は今も旅の最中なのだが、ロマの森に落ち着いてる事だし、神殿(という名の旅館)の運営もあるから、アルヌスまで行くのは勘弁して欲しい。

それにサリメルと見知った上で、好印象の(相手はどう思ってるか知らないが)相手が二人も居るのだ。このまま見殺しには出来ない。確実性を得るためにも、この計画は何としてでも実行させる必要がある。

そうなれば媚薬入りの酒をお茶で割って、二度か三度に分けて飲ますしかない。そんなワケで、火威の世界で言うところの水注に入った所謂(いわゆる)酒のお茶割りが三杯分、出来上がったのである。

「うむ、これで万全じゃな」

一時は諦めるしか無いかと思われたフェトランの罠が敷かれたところで、研究小屋のドアをノックする音が鳴った。

 

 

お茶の入った容器を机に置きながら、木材で作った二股のフォークで焼いた鶏肉を刺す火威。

「いやぁ、まさかアルヌスから出た漫画が帝都を回って入って来てるとは」

少ししか呑んでいないにも拘わらず、酒の影響で気が大きくなっているのか媚薬の影響なのか、火威は昼間のような警戒心も持たずに、無肢竜が潜む洞窟の場所と攻略方法を議論した後に軽食などの饗応を受けている。

本当なら用件が済んだら真っ先に宿舎に戻るのだが、サリメルから「この地に住む者の為に茶の一杯も出さないとあっては、カルピス家末代までの恥っ」とか言われたので、彼女が造ったという料理を口にしながら、妙に量の多いお茶を飲んでいるのだ。

驚いた事にサリメルは魔法で氷も作ることが出来るし、火威も精製する様子を見た。

空気中の水分を凍らせてるということだが、火威もアルヌスに帰還したら再びミードをロックで一杯やれる事を嬉しく思った。

そしてロマの森でサリメルに会った時から疑問に思ってた彼女の髪色に関しても、「ロンデルで博士号を会得した時の魔法」という答えを得れた。

どうも、博士号審査では変わった物やユニークジツの類が見られる気がする。

と言っても、火威自身とサリメルの二例しか知らないのだが。

「フフっ、下の毛がどうなってるか気にならんか?」

料理と学位で感心してたらエロフに戻った。だが答えに窮する火威に構わずに続ける。

「ところでハンゾウ、聞きたい事があるんじゃが、“えろふ”ってなんじゃ」

思考を読まれた!? そう思って些か慌てる火威を余所に、サリメルは更に続けた。

「ヌシに付いてきたもう一人の男の方が妾を見た時に言ったんじゃがな」

この時に火威も思い出したが、サリメルと会った時に近くにいた出蔵は確かにそう呟いている。火威でさえ聞き取るのがやっとの小声だったのに、エルフの穂笹耳って一体どんだけ地獄耳だよ、と思わせる事実だ。

で、出蔵ェ……。後輩を恨みつつも、賢者号を持つ魔導士に対しては下手な欺瞞でごまかすより、正直に言った方が良いという思考が働く。

「す、すみません。部下が無礼な事を申しまして……。エロフっていうのはエルフと《性的な様》を意味するエロスを一緒にした言葉遊びなんです」

「な、なんじゃとっ」

サリメルの反応を見て、火威は観念する。

「すみませんっ!」

このエルフなら笑って許してくれるかとも少しは思ったが、エルフ全体への侮辱とも取れる言葉である。

最終的にマズイ事になったら、出蔵を質にして出すしかない。

そう思った火威だが、

「ニホン語には何という素晴らしい言葉が……!!」

まさか悦ばれる事になるとは、火威 半蔵 思わなんだ。

エルフもエロスも日本語とは違うし、二つを合わせたエロフも微妙に日本語とは言い難いのだが、訂正しても面倒な事になりそうなので、直すのはまた今度にしようと思う。

「ハンゾウ! アルヌスの門が再び開いたら日本を案内してもらえんか!?」

「アッハイ、良いですよ」

火威としても後輩を質に出す必要が無くなったのだから、日本観光の案内程度は負担でも無い。

「うむむ、それならば神殿の運営はルフレに押し付けて……」

そんなサリメルの独白を聞き、火威は当然疑問に思う。

彼は自分達自衛官が泊まる宿舎が、まさかミリッタの神殿を兼ねているとは思わない。神殿とはもっと荘厳で、厳めしい作りをしているという思い込みがある。

だから「近くにでも神殿があるのかなぁ」と、少し興味を持つ程度だ。

「まぁハンゾウ、良いから酒……では無く茶でも飲めィ。グビっと三杯ほど」

サリメルが計画し、用意したフェトランと酒を含むお茶を火威は全体の六分の一も飲んでいない。火威は自分のペースを乱されるのが嫌がる性格ではあるのだが、自衛隊に入隊し冬季遊撃レンジャー資格をも得る程に矯正されたので言われるがままにお茶(という名の酒)を飲む。

ぐいっと、湯呑を扇いだ火威はデジャヴのような感覚に襲われた。

「うぅむ、なんかこのお茶、非常に効くというか強いというか……」

サリメルの失敗は、火威が「酒には結構弱い」という事実を知らずに、フェトランと同じ時に帝都で手に入れた3トリー謹製の琥珀酒を使ってしまった事である。

「ん、どうしたハンゾウ?」

言いながら、再び火威への最接近を試みる。そしてフェトランとウイスキー入りのお茶を勧めた。

火威の顔は紅潮してきているのは、媚薬が効いてきたのかと思ったのだ。

「や、何でもないです……」

とは言うものの、いよいよ酒精が効いてきて火威の瞼は重い。

真横には現地協力者の賢者が居るから必死で目を開けようとするが、三晩徹夜のツケはお茶(という名の酒)を飲んだ事で一気に襲ってきた。

「ちょっと…横になりたいなと……」

横になる→ベッドIN→Make love。普通そんな連想が成り立つか知らないが、サリメルはそう思ったらしい。

肩を覆う羅紗の羽織りを脱ぎ捨てると、肝心な部分のみを隠す紐のような下着姿で火威に迫る。

「イイとも! さ、早く寝所で横になって……!」

「いや、ちょっ…! なんで脱ぐの!?」

サリメルの考えなど知る由も無い火威は、突然脱ぎだし、昼間に見たマイクロビキニに似た衣装より、更に露出度の高い恰好の豊満エルフに驚き、思わず席を立つ。そんな彼だが、フェトランの媚薬は少しばかり効き始めていた。

「さぁ、さぁ! ヌシと妾で寝ると言ったらやる事は一つしかなかろう!?」

「お、俺一人で寝るし!? なんでこんな事に……!!」

己の運命を嘆くように言う間にも、サリメルの胸にある二つの柔らかいものが火威の上腹部に強かに押し当てられ、眠気を遮って獣欲が頭を(もた)げる。

一線で持ち堪える火威の頭の中で、脳内会議が開始された。

 

火威A「ここは耐えろ。耐えるべきだ」

火威B「添え善食わぬは男の恥だろ。抱いちまえYO。押し倒しちゃいなYO」

火威C「待て、ここは控えろし。パワーが栗ボーに届のもそろそろだし」

火威D「ちょっと触るくらいイイじゃね?」

火威E「もう孕ましちまえよ」

火威F「黙れよエロ河童」

B「多夫多妻が理想的って言ってたのは誰だYO」

A「オレだオレだオレだ」

C「サリメルもデカいが栗ボーは更にデカいぞ」

F「黙れよエロ河童」

火威の脳内で、火威の火威による火威の為の乱闘が開始された。拳を振り上げ、互いに殴り合う火威。乱闘の過程で当然というか、火威に火威が積み重なる。火威達が積み重なっていき……

…………

……………………

…………………………………………キング火威になった。

 

表現が些か古くて申し訳無いが「頭がフットーしそうだよぉ!」というヤツである。

「けふぅ」

脳内に王様が出現したっぽい火威はそう排熱すると、先程まで座っていた椅子にどっかりと再び座る事になり、そのまま「スヤァスヤァ」と寝息を立て始めたのである。




内容的には余り……という、全然進みませんでした。
次回からいよいよ無肢竜退治予定ですが、構成が下手過ぎるのでどうなるやら……。

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