ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
だいぶ久しぶりになりました。
ゆっくり進めよう…! と思ってら凄くゆっくりになってしまいました。
で、ようやく久しぶりの戦闘回ですが、全然戦闘してません。
言うなればストフリがターキーショットしてる感じです。


4月14日
サリメルの名字変更。


第三話 天航から地吶へ

魔導グライダーを使っていた時も同じであった。

滑空する翼竜の背中に乗っていると、何もする事が無いので非常に眠くなる。

これがハンドルを操作する車や飛行機なら緊張感もあるのだろうが、火威なんかは特に眠い。いや、車や飛行機でも今なら居眠り運転してしまうかも知れない。

これで火威の後ろに乗って彼の腰に手を回すのが栗林やジゼルだったら寝てしまうだろう。まぁ男のティトでも丁度良い具合の体温だから、寝てしまいそうなのだが。

「……………………スヤァ」

「ちょ!? ヒオドシさん! ヒオドシさん!」

ティトは翼竜に座したまま寝息を立て始めた火威の肩を叩き、必死で起こそうとする。夢の世界の門戸をノック中だった禿頭男は、再び現世に連れ戻された。

「あ、大丈夫。寝てないよ」

よしんば寝たとしても落ちないよ、と鸚鵡鳩を入れた竹の籠が付いた鞍の金属製の輪っかに、兜跋の篭手に増設したウィンチギミックから伸ばしたワイヤーの先のフックを引っ掛ける。

「ま、まさか先輩、寝ずに非常食研究とか……」

「ティト、ヒオドシが寝ないようにずっと話し掛けてるのよ!」

火威が乗る翼竜の異常に気付いた出蔵が呟くと、栗林の前に乗っているアリメルがティトに指示する。

ちなみに出蔵は一人で翼竜に乗っているので、少し多目の予備燃料と対物ライフルを携行しているし、飛龍はその足にオリーブドラブのコンテナが詰まった貨物を確りと掴んでいる。

「いやぁ、大丈夫大丈夫。いざとなったら空だって飛べちゃうよぉ」

ダメだコイツ早く何とかしないと! そう皆が思った。眠気が度を過ぎて世迷言を言い出したのかと思ったが、竜騎兵でもない彼等は目的地まで火威が落ちないように努力するしかない。

火威としては世迷言でもなく、単に「浮遊の魔法」を兜跋に使った事が無いだけなので、皆が思う程心配してもいない。

「あー……そうですね、それじゃー……」

「あ、それじゃティトさ、好きな女性のタイプ教えてよ」

お喋りが苦手なのか、話題を広げるのに苦労するダークエルフを見兼ねた火威が助け舟を出す。

それならと、ティトは“指折り”言い出した。

「同じ(?)ダークエルフのヤオさんですかねー……」

「ほほぅ、やはり年上好きか」

火威にも覚えがあるが(実年齢はどうあれ)この年頃の時分には大人っぽい女性に惹かれるものだ。だがティトの言葉はまだ続く。

「あとニホンに帰ってしまったけど、マルヤマさんとかウダさんとかクロカワさんとか」

デリラさんとかテュカさんとかドーラさんとか、同じく食堂で働いている毛長種キャットピープルの方とか……。

「あとクリバヤシさんも良いですね」

「そ、そうか……」

最後は駄目だぞ……そんな言葉も脳裏に過ぎらせつつ、温厚ダークエルフが予想もしてなかった肉食ダークエルフだった事に驚愕する。お陰で若干だが眠気が醒めた。

本当なら火威がタイプの女性を話す番なのだが、戦力調査隊で話したからこの話題は終わっしまっている。

すると待ってたのかのように出蔵から楽器についての話を振ってきた。むろん、離れた翼竜の背からでは大声を張り上げないと伝わらない。

百歳も二百歳もするエルフは、様々な域で玄人のレベルに達するのは、アリメルと付き合い、結婚も秒読みに入っている出蔵は勿論、火威も栗林も知っている。だから自衛官はこの場に居る二人のエルフの答えを期待した。

実際にティトはケーナという葦笛を手慰み程度に吹けると言う。アリメルは音楽の神の名を貰っているが、彼女が奏でられるシタールという弦楽器はそれほど上手くはないと恥ずかしそうに告白した。

「それに女性でシタールを弾くのは、私しか居なかったから……」

彼女の里で使用されたシタールは総じて大型だったという。

「そういう女性も素敵ですっ」

力強く言ったのは出蔵だ。

任務中に惚気るとかイイ度胸してんなオラ! そんな三人と一頭の飛竜のジト目が降り注ぐ。

「出蔵三尉は何か音楽なさってないんですか?」

火威を寝かせない為の会話を栗林が続けるが、

「俺もアリメルと同じ弦楽器やってたなぁ。大学ではギターやってたよ」

そこまで惚気たいかこのリア充め。

話を振った栗林がしかめ面を作る。そんな雰囲気の悪転を感じ取ったのか、慌ててティトが口を開いた。

「ク、クリバヤシさんは何か楽器とかやってますか」

そう問われて答える栗林の言葉も濁る。

「あ~、私はカスタネットとかリコーダーとか、その辺だけ」

火威も出蔵も同じ事を思った。それ小学校でやったんだろ、と。

栗林は白状し終えると、すぐに火威の音楽懺悔(ざんげ)を迫る。

「俺は……アレだ。少しだけピアノをやっただけ」

その答えに栗林は驚いたし、高校以降の経歴しか知らない出蔵も意外性を感じて驚きの声をあげる。

「“ぴあの”ってなに?」

疑問に思ったのは二人のエルフだ。火威はその二人に、白と黒の鍵を叩くと、それに連動した弦をハンマーが叩いて音を出す楽器だと教える。

似合わねー。イメージに無いわー。そんな事を言う自衛官二人に構わず、火威は続ける。

ピアノを教わったのは二十年程前、火威家が貧窮する最中の事だ。火威の母親が家計の足しにと、実家から運んできたピアノでピアノ教室を開いていたのだ。貧窮が故に習い事の一つも無かった火威家の三人の子供は、全員が母親からピアノの演奏を教わっているのである。

「まぁ、ふた昔も前の事だから今は全然弾けないけどな」

「簡単なモンでも弾けないっすか?」

そう出蔵が迫ったので、火威も可能そうな曲を脳内で探してみる。

「う~ん、【キラ星】とか【さくらさくら】みたいな曲とか弾けたし……あと最近は、たぶん【ゾルザル】轢いたな」

「ぅえッ!!?」

「あれアンタがやったんかい!?」

童謡めいた曲に続けられた告解に一様が驚く。

フォルマル領の決戦の後、帝国正統政府軍に確保された後に自衛隊の医療機関で検死を受けたゾルザルの死因は、硬くて巨大な物が衝突したことによる臓器の損傷だった。

同じ際に捕らえたゾルザル派の兵の話でも、「空飛ぶ荷車」云々の話は明らかになっている。

 

 

*  *                          *  *

 

 

エルベ藩国の将兵に従い、火威達は洞窟の入り口からの内部に進む。

竜を降りた自衛官とエルフらは、飛竜に持たせておいた荷から装備を引っ張り出していると、エルベ藩国の将兵と会った。

もともと着陸予定の場を結集予定の場としていて、火威は空を移動中にも全員に一つ確認している。

以前、炎龍討伐の際にエルベ藩国とは資源についての条約を結んでいるが、エルベ藩国側に不利な条件で結んでいる。その事もあってエルベ藩国の諸侯らの反発を買っているので、出来るだけ彼等に背中を見せてはいけないと注意したのだ。

洞窟内を進む隊列は前列がキャリバーを担いだ火威と栗林と出蔵。中列にエルベ藩国の諸侯のエギーユと藩国の将兵二人が続き、最後尾に「精霊魔法での支援」と後方への警戒を名目にティトとアリメルに付いている。

ティトとアリメルには、エルベ藩国将兵を背後から見張る事も頼んでいるが、戦闘時にはアリメルにキャリバーの使用時の支援も頼んでいる。

このキャリバーの基本設計は百年近く前……そして半世紀以上前から使われ続ける傑作機関銃であるが、歩兵が使うには運用が難しい事でも知られている。

それを運ぶのは火威だ。彼なら手持ちで撃つ事も出来るが、戦闘時では対物ライフルか爆轟を使うことにしている。

火威達が通る洞窟はエルベ藩では少なくない溶岩洞窟らしい。余り地中深くは無いようで、天井は所々穴が空いて太陽の光が差し込んでいる。

両手を開いて歩いても三人が並べる程に広いが、ロゥリィのハルバードを掲げれば天井に穴が空きそうだ。

周囲を見れば砕けた石が散乱し、何かが這った跡が見られる。それは右方に曲がり、見れば洞窟奥の行き止まりまで続いていた。

フォルマル邸で見た博物誌やジゼルはら聞いた話では、無肢竜の姿はその名の通り火威達の知る蛇に似てるらしい。

その幼体と思しき小さな蛇が洞窟内部正面、壁の下に群れて(たむろ)し、蜷局(とぐろ)を巻いている。

「まだ孵ったばかりか? この程度なら我々でも……!」

剣を抜いて近付こうとしたエルベの軍人を火威が手で遮る。

その間にも火威の背から重機関銃を降ろした出蔵が地面に据え付け、狙撃用スコープを取り付けている。

「私が指名されて来た以上、味方に被害を出すワケには行きません」

エルベの軍人を進ませまいとしていた火威自身も、対物ライフルのバレット95で目標を狙う。その間にも地面に据えたキャリバーが火を噴き小さな蛇達を吹き飛ばした。

その銃撃に気付いたのか、洞窟奥の隅にある穴の中から、大蛇のような生き物が姿を現す。

地球世界の蛇と違うのは、この世界の竜という生き物は一定期間、子育てをすることにある。

幼体の危機を感じ取ったのか、銃撃を聞いたのか、あるいは偶然かは判らない。だが現れた成体と思しき無肢竜に、火威もバレットで大蛇の頭を向けて引き金を引いた。

 

 

*  *                             *  *

 

 

溶岩洞窟で無肢竜を掃滅した後、ロルドム渓谷を回って高機動者を回収した火威一行は、魔女と呼ばれる賢者の住むロマの森の中を進んでいた。

洞窟内での無肢竜との戦いは、それこそ戦いと呼べるようなものではなく、害獣駆除を事務的に進めるようなものであった。見える範囲の無肢竜を排除後、未だ孵っていない卵を探し、粉砕するという念の入れようだ。余裕のある任務に、自衛官らは生態系のバランスが心配になったりもしたが、依頼主であるエルベ藩国の軍人が希望するのだから仕方ない。

ここまで一方的な暴力は、第一戦闘団がテュバ山で新生龍を屠って以来久しぶりの出来事だった。

戦闘後アリメルとティトは、ダークエルフの族長達への挨拶があると言うので、今晩は別行動となった。

自衛官とエルベの軍人を乗せた高機動車は森の中に入れないので、携行可能な装備以外は荷台に乗せて鍵を掛け、注意書きした後に通常魔法と精霊魔法、出来ることなら神々の呪いも欲しかったが今はジゼルもロゥリィも居ないので、充分な致死性のトラップを掛けて森の中に放置するしかない。これで生きてるなら亜神くらいのものだろう。

暫く進むと、森の中にはそぐわない建造物が目に入った。いや、それどころか特地に存在すること自体が不自然の家屋が建っていた。

「ちょっ……! なんで !?」

自衛官を代表するかのような出蔵の呟きと共に、歩みを進めていくと建物の全貌が姿を現す。

言うなれば、それは「日本家屋の趣きある茅葺屋根のお宿」といった感じの建物だった。

そこから離れた場所にある、事務所かと思われる家屋から人が出てくるのが見れる。見ると足元も頼りなく、フラフラと歩いてきた。時折、走ろうと地面を蹴るが、どうも脚に力も入らないようだ。

するとどうしたことか、火威達の前を進んで案内していたエルベの軍人が走ってその人物に駆け寄った。

「トマシュ! 良くやってくれた! 十字勲モノだぞ! 」

見れば、トマシュと呼ばれた兵士の顔色は実に悪い。頬や目の下が痩せこけ、ぎりぎり死相の一歩手前まで来ている。

(あぁ、俺ももう一晩徹夜してたらあんなんに成ってたかも)

そう思う火威の前で、トマシュが出てきた建物からもう一人の人物が出てくる。笹穂耳のその人物を見て、自衛官ら一瞬、反応に困った。だがアルヌスに居る妖精種エルフのテュカ・ルナ・マルソーを基準にして考えると、大いに驚けた。

その魔女と呼ばれる賢者、サリメル・ミリ・カルピスの姿は、凹凸が豊か身体を持ち、お色気くノ一スタイルだったのだから。

 




最後の出てきたサリメル、書いてる本人からしても地雷臭がします。
GATEの世界感から逸脱した感のあるオリキャラなんで…… (;’Д')
そんな感じでご了承下さいませッ!

そういえば、蛇でもニシキヘビの一種は抱卵するらしいですね。
鰐なんかも子育てするんだとか?

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