ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、箸休め回です。でも魔法初登場の回でもあります。


第四話 都心追撃戦

火威は思う。イタリカ救助戦のロゥリィのパッチ、完成してたら車に貼り付けて来られたんだがなぁ……。

一昨日の国会中継をアルヌスで見ていたが、案の定、レレイは抑揚の無い声で見たままを冷静に話し、金髪エルフのテュカは日本人女性の平均寿命を大幅に超えていた。だが「見た目の十倍くらいかな?」と考えていたので、予測の範囲内とも言える。予測を大きく上回ったのはロゥリィだ。まさか1000歳近い961歳とは、特地の特殊性に慣れた自衛隊でも考えられた者は居ない……と、火威は思っている。

そして、そのロゥリィと三偵と自らが所属する第四戦闘団の飛行部隊が活躍した証であるイタリカ救助戦パッチを、付けてこようなどと思う自慢したがりな自身の性格に苦笑した。

実際に火威がイタリカ救助戦で働いているから虚栄心とは違うのだが、そのような物を付けた自衛官が特地から出てきて、万が一マスコミ関係者に事の詳細を聞かれたら困ってしまうので、これはコレで良いか、とも思う。

その火威が特地側からゲートを越えて、先ず見たのは異常とも言える数の人々だ。

「ま、祭でもやってんの?」

地方から都心に出てきた者の第一印象がそうであるように、火威の第一印象も同じだった。だが今回は明らかに違う。そもそも人が多過ぎる。何かのイベントらしいものであり、何かを待っているというものだ。

何か祭やイベントでもあるのか。ゲート傍の詰め所の警務官に聞くと「献花した後、特地に帰る三人娘を見に来た」とのこと。

確かに一昨日の国会中継はインパクトがあった。もし国会中継が毎度、一昨日のようなものなら間違い無く毎回高視聴率だろう。そして三人娘の人気は買い物に行く道すがら、思い知る事になる。

『アナタおバカかぁ?』とは一昨日の国会で、政府批判に繋げようと自衛隊のアラ探しに躍起になってた野党議員に投じたロゥリィの言葉だ。それが街頭テレビや神田の業務用スーパーに行く為に乗った中央線のトレインチャンネルでも映し出されているのだから、彼女達のインパクトの強さが知れる。火威だって国会でその発言はマズいだろ、とは思いつつ、ぶっちゃけ溜飲が下がる思いだった。帰ったら参拝して柏手を打たなければ。

「さて、先ずはホットケーキ粉を……」

難民キャンプの避難民は全員で25名。現在はPXを建築中で、店員をイタリカのフォルマル邸の亜人メイドに頼むなんて話を聞いているが、まだPXは出来ていない。

「でもまぁそんな労力変わらんし」

念のため一箱に三袋のケーキ粉、その袋一つで三人前……早い話が一箱九人前のホットケーキ粉を十箱を買い物かごに入れる。箱のまま取っておけば暫く悪くなる事はないし、卵や牛乳の代用品は特地でも手に入る、と思ったのが余分に買った理由だ。

次に買うのは牛乳だが、コダ村の少年に「プロ並」と言ってのけた手前、 箱に書いてある説明通り作るのは自身の気が済まない。だからヨーグルトを使う事にした。しかし困った事に、ホットケーキを作る時に使うヨーグルトは何時も目分量なのだ。だから目分量でファミリーサイズを五箱買う事にした。そして最後は卵だ。

「これは3パックありゃ十分かなぁ」

割れ物なので緩衝材が欲しかったが、そんな物は売ってなかった。なので段ボールを貰ってその中に卵を入れ、周りに細かくした段ボールを詰める。

これで大丈夫、と思って顔を上げると、そいつは居た。

人間よりも肉厚で体格が良く、緑色で残忍。ファンタジーモノのアダルトゲームに出るとほぼ間違いなく女性キャラを陵辱する汚れ役&やられ役として使われる。姿は醜悪かつ不潔で盗む・奪う・犯す・殺すなど負の部分が強く、ひどい時には「ぷぎー! ぶひー!」などまともな言語を話せず、形勢不利と知るや尻尾を巻いて逃走するか、改心や命乞いと見せかけて背後から騙し討ち(だがあっさり返り討ちに遭うぐらいの見え見えの小芝居)を仕掛ける程度の知性は持っている。

そんな感じの火威の見合い相手が居たのだ。

(ヤ、ヤバイ!ナンデッ、なんでこんな所に!?)

門を越える時に、もしや……とは思った。こう成らない為に特地に骨を埋める決心もした。だが避難民の少年に宣言した「特定のお菓子作りのみプロ級」という言葉を実践し示そうとしたところ、畏れていた事が起きようとしている。

幸いオークはこちらに気付いていない。火威はレジを通した買い物をレジ袋に移していく。

意外と重い。主犯は間違い無くヨーグルトだ。だが殆ど毎朝アルヌス駐屯地の周りを50Kg強の重りを担いで二周走ってる火威からしてみれば、大した重さではない。レジ袋を三重にして、万が一の悲劇にも備える。

顔を見られないようにオークに背を向けて出入り口に移動する。しかし唯一の出入り口はオーク側にあるので、遠回りしなければ成らなかった。

静かに素早くッ。オークがスマホを弄ってる瞬間に出入り口へ向かう。そして瞬く間に火威は店舗から離れ、神田駅へ向かった。

電車に乗ってしまえば最早安心だ。そう考え腕時計を見る。その針は一時を指していた。昼飯を食べるには丁度良い時間だ。

銀座駅を出ると門の近くにある牛丼屋へ向かう。銀座に溢れる人の波は来た時より更に増していたので、火威は両手の荷物を掲げて歩かねばならなかった。しかし人は増えていく一方だ。手近な店を見つけて火威が飯を食べて店を出ると、自由に身動きが取れない程に人が増えている。

そんな中で、火威はオークの姿を群衆の中に見た。

ゲェェ!? ナンデェ! オークナンデェ! 言葉には出なかったが、火威の表情がそう物語っていた。

一刻も早くゲートの中に逃げ込まなくては。最早、多少人の迷惑になろうと、目立たないように胸の前で荷物を抱える。オークの目に入るような目立つ行為は一切してはいけない。

いよいよ門のあるドームが見える所まで来る。もう小走りに行って警務官に声を掛けようとした。その時だ。

群衆の中から外国語が聞こえた。その方向を見ると、白人と白人と東洋人の混血…だが話してる言語を聞くと明らかにアメリカ人と言って良い独特の聞き取り難さがある米語で話している。人混みの雑踏で更に聞き難くなってるが、レレイ達の3人娘の他にも、帝国の皇女やその従者が来ていることを理解しているような話し振りだ。その上、「護衛を排除」や「速やかに来賓を確保」などと言う単語が聞こえる。皇女と従者が日本に来ている事は、自衛隊の一部や日本政府しか知らないことだ。スパイ天国と言われる日本故か、よく見れば外国人がちらほら見られる。全員が全員工作員では無いだろうが、確実に他国の工作員が混じっている。

「…………チクショウめ」

火威は門の近くの詰め所に荷物を置くと、再び人混みの中に入っていった。

この人混みの中では外国の妨害勢力も乱暴な事は出来るハズはない。それでも相手がどのような方法を取るか判らないし、もしかしたら思いも寄らない冴えた手法を使うかも知れない。

何れにせよ、イタリカで死神の如く無双を揮ったロゥリィが居れば、来賓は無事だろう。だが伊丹達のような自衛官は人間である。怪我もするし、下手すれば死ぬことだってあり得る。

火威はレレイから学んだ魔法で空気の玉を作ると、先程見た白人に思いっ切り投げつけた。強い力で押される程度だろう……そう思っていた火威が見たのは、宙を二回転程して地面に叩きつけられる白人だ。隣に居た混血白人の工作員も、周囲の人間も、何事かと白人を見る。

「…………死ぬがよい」

もう一つ作った空気の玉を、今度は混血の工作員に投げつける。空気の玉なので、ぶつけられても死ぬ事は無い。当たり所が余程悪くても死ぬような事は、たぶん無い。

吹っ飛んで地面にぐしゃりと落ちた工作員を、周囲の人間はまたも驚いて見ていた。が、直ぐに背広を着た男たちが白人と一緒に確保してしまった。

 

なんだ、公安が見てたんじゃん。そう思って踵を返し、特地に帰ろうとする火威。 の、脇の下から腕を伸ばして羽交い絞めにする人物。

「!?!?」

この時、火威は思い出した。

自分が特地に骨を埋める覚悟する切っ掛けとなった人物が、すぐ近くに居た事を。

ヤメロー! ヤメロー! という火威の悲鳴も虚しく、特地へ帰る三人娘への別れの言葉を送る人々に掻き消されてしまう。そしてそのまま新橋の格安ラブホテルに引きずり込まれてしまうのだった。

銀座和光の鎮魂の十四時の鐘が鳴り響く。




今回はかなり短めですが、次回以降もこの位になるかも知れません。
再投稿に際しては溜まっていた分を一度に投稿しましたが、これからはゆっくりになると思います。

ご意見、ご感想等、何卒お願いします。

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