ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
アニメの方は大方の予想通り、フラットが出て来ませんでしたな。
しかし残すところあと二話くらいでしょうか。健軍×ヴィフィータは成るのでしょうか。
心配な所です。
っていうか3期無いんでしょうか? 
2期で終わりとなると来週か再来週にでもゾルザルコロコロになってしまうんでしょうか!?


第三十四話 カラミティ

軍列を整えたゾルザル派帝国軍は、野戦する為に城外に出てきて正統政府軍の亜人部隊と激突する。

激突直接こそ個々の能力が優れる亜人の部隊が優勢であったが、彼らは他種族に対する対抗意識を持ち、頭に血が上がり易いという兵士には致命的な欠点を持っている。

金管ラッパの音が鳴り響くとゾルザル派の兵士達は、あっという間に退いた。

追撃のために陣列を離れてしまうドワーフの兵たち。だが鈍重な彼らの足では追い付ける訳もない。

息を切らせて陣形も崩れた。その彼らの側面から、ケンタウロスや騎兵が突撃を駆けてくる。

ドワーフ達は、たちまち穂先に掛けられ、馬蹄に蹴散らされてしまった。

 

「よしっ!」

ゾルザル派帝国軍の天幕からその様子を見ていた三将軍の一人、ヘルム・フレ・マイオは拳を握って歓喜する。

背後に居るゾルザル・エル・カエサルは頷き、天幕の後方に控える軍列に移動した。

敵方であるピニャ・コ・ラーダの軍隊が、有利である篭城戦を放棄して野戦で迎え討ってきた理由はゾルザルとて分かる。

戦いに夢中になっている自身を、そのまま捕らえてしまおうというのだろう。

だが、そうは行くか……という思いも有ったし、何より敵の弓兵の中にはダークエルフがいる。ダークエルフかエルフかは知らないが、エルフの中には風の精霊の力を借りて驚くべき飛距離と速度で矢を射る者が居るという。

イタリカの城塞からの目立った障害物は幕一枚しかない。そのような場所では、真っ先に狙われてしまうのである。

ゾルザルもこの戦争を通して学びつつあった。

そう、学びつつあったのである。どうせならクーデターも起こさず、あまつさえ馬上になどのらなければ、もうちょっと学べる機会は有っただろう。

「殿下、パドバカレーから出陣した第Ⅸ軍団が未だ到着しません」

知らせてきたのは帝権擁護委員で次期法務大臣のアブサンだ。

第Ⅸ軍団はグランスティードや攻城鎚など大型の武器を携行するから、城攻めには欠かせない存在なのだ。だがイタリカに残った敵軍は、有利である籠城戦をせずに、野戦に討って出てきた。

「捨て置け。幸いイタリカの連中は野戦で挑んでくるようだぞ」

だが遅れた理由がなんであれ、肝心な時に居ないのでは責任者に処罰が必要だろう。……そんな風に考えるゾルザルだから、死神が必死な思いで高速で走ってきているとは思わない。

アブサンは第Ⅸ軍団が何者かによって既に壊滅させられたのではないかと予感して口を開いた。

「ですが、殿……」

アブサンが言いかけたところで、それは起きた。

ドグォ!!

という音と共に、馬上のゾルザルに何か巨大な物がぶつかり、そのまま飛び去っていった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

坂道を越えたら、そこはゴリラだった。いや、もしかしたらサルかも知れないが、猿が軍列に加わる意味が判らない。

よもや人間と言うことはないだろう。あんなガタイの良い人間が居たら前線に送られるハズだ。

そんな推理をしたところで、火威が乗る荷車は人の背丈より遥かに高い空まで浮かび上がって、荷車のコントロールも火威に戻っていた。

そして一つの答えが閃く。

帝国では味痢飯というクソ不味い飯を非常食にするくらいなのだから、ゴリラやサルくらい食べてても不思議は無いかな、という結論に落ち着いたのだ。

下の方では何やら騒がしいが、突然空飛ぶ車が現れたのだから当然とも言える。

そして当て逃げも轢き逃げとかダメ。ゼッタイ。

一応は戦闘地域だからと、矢除けの加護を使ってから事故現場に向かったのである。

 

 

*  *                            *  *

 

 

「ぞ、ぞ、ゾルザル様!?」

ゾルザルにぶつかって一撃で半殺しにしたのは空飛ぶ荷車だった。どういう手合いの者かは判らないが、ジエイタイが使っている空飛ぶ箱舟とは違う。乗っているのは人物は竜甲を纏っているが、額の上に角一本の兜を被り赤い外套で顔を隠している。いや、もしかしたらそういう亜種の竜人かも知れない。

だがそういった竜人は、このアブサン、見た事ない。

それが、空中で旋回して再びこちらへ戻ってくる。温存の為に後方に控えていた弓兵部隊が、空が一瞬暗くなる程に矢を射かけるが、その全てが外れたか、或は当たっても大した事のなかったのように突っ込んでくる。

「天幕の将軍に伝令! ゾルザル殿下が重傷を負われたっ。一度撤収するぞ!」

その声に、動きの速い兵が三人ばかり走りだす。

ひょっとして新手の怪異か? そんな事を考えた時に、アブサンの頭は銃声と共に吹き飛ばされた。

 

 

*  *                            *  *

 

 

「ヴォラッケラー!? あれ敵じゃねぇか!」

ゾルザルの皇太子旗を確認してから帝権擁護委員を撃ち殺した火威は自らを罵りつつ、地上に近付いたところで再び自然風にコントロールを奪われて絶賛暴走中となった荷車を抑える。

だが敵の軍列と判った以上、気を付けるのは荷車の耐久度なので敵の心配をしてやる必要はない。せっかくだからと、総大将のゾルザルを探す。

シロフとサリメルを救助した直後の戦闘で、弾薬の残りは少ない。既に弾が尽きてる対物ライフルは分解して帯嚢の中だ。9mm拳銃も今となっては鈍器にしかならない。

手元に残っている手榴弾と爆轟で、眼下のゾルザル軍の隊列を絨毯爆撃したい衝動に駆られるが、古田陸士長が潜入してる可能性がある。味方を巻き込む恐れがあるなら無差別爆撃など出来ない。

と思ったら、今度は変な色のブタに激突してしまった。

どうせ敵しか居ないと思って操縦を放って考え事していたが、このブタ、何か言いたげである。

その時、前線にあるゾルザル派の天幕に向かう数人の兵士を見つけた。

一応、それらが向かう方向に向かって顔を確認すると、全員古田陸士長とは違う。

「逃げんなオラてめぇらっ!」

もう弾の残りも少ないからと、64式小銃で全員を射殺する。

ブタの方は、どうせ食用だと思い、最後の言葉くらい聞いてやろうかとも思ったが、やっぱり気持ち悪いのでイタリカの城壁に叩き付けて殺してしまった。

その背後の地上では、正統政府軍とゾルザル派帝国軍の戦闘が繰り広げられている。

「ッシャァ! ゾルザルのエテモンキー野郎探しは後回しだァ!」

荷車をゾルザル派帝国軍の列のド真ん中に向ける。そして一振りのグランスティードを背に担ぎ、両手に二振りの大剣を持つ。

 

 

*  *                             * * 

 

 

ゾルザル派の帝国兵が密集した場所に、二振りのグランスティードとピンの抜けた手榴弾を積んだ暴力の塊が突っ込む。

意思の無い凶暴な荷車は帝国兵の集団を撥ね飛ばし、あまつさえ爆発に兵士を巻き込んだ。

爆発自体は大したことは無かったが、帝国の未熟な鍛鉄技術で鍛えられたグランスティードはバラバラに分解されて吹き飛び、多くの兵を殺傷する。

ピニャは自衛隊が遂に戻ってきたのかと思ったが、それらしき人物は「チャースイテッコラー!」などという日本語(だと思う)の喚声を上げてケンタウロスの胴体を踏み潰し、大剣で腰断している一人しか確認出来ない。

その一人は敵の軍列の後方から空飛ぶ荷車に乗って出てきたが、敵の首魁を探す様子もなく、ただ敵の数を減らしているだけに見える。

「あ、あれは……ヒオドシ殿?」

ピニャのすぐ近くで敵と対峙しあうグレイが独白する。

「ヒオドシ殿とな?」

「はっ、以前にレクスの砦を単独で、血の一滴も流さずに制圧したジエイカンであります」

「小さい砦とは言え、一人でかっ」

とは言うグレイの言葉には、多少間違いがある。火威はこの時、ジャイアントオーガーを盛大に爆殺しているのだ。

そういえば、とピニャは思う。

クナップヌイからタンスカ経由でジエイタイのヘリに乗ってきた時、自身もヒオドシという男と会っていた事を思い出したのだ。

あの時はニホンと帝国では応急処置の方法が随分違うと感心してたが、その中に青い竜甲鎧のジエイカンが居たのを見ている。

その時に一緒に居た聖下も猊下も、中々に強いヒト種の男だと褒めていた。だがヒオドシという男は、兄様の顔を知らない。ジエイタイの事だから、何らかの方法で多くの者が兄様の顔を知る方法があるのかも知れないが、そんな不確実な要素に頼ってはいけないのだ。

 

ケンタウロスや騎馬兵の集団を薙ぎ払っていると、予想よりも早く大剣の刃が潰れて斬り難くなってくる。

剣に頼らず魔法を使おうにも、詠唱してる間もない。

かなりの数の敵を叩き殺して敵本陣までの道を拓こうとするが、敵の数はそれ以上に無尽蔵かと思える程に多い。

「チッ、しゃらクセェ!」

向かってきた重装兵をコークスクリューブロー(回転普通のパンチ)でぶっ飛ばすと、一つ、思い付いた。

空中で散々罵倒してしまったことを風の精霊に謝ってから……。

右腕に左回転の風を纏い

左腕に右回転の風を纏う

「喰らえやァ! カミッ! スァアラシッ!」

ケンタウロスと騎馬の集団に向かって巨大な竜巻を放つ。ちなみに藤田スケールにしてF5。

火威がフォルマル伯領に生み出した竜巻は大地を覆すように轟き、青い雷撃をも纏いながら打ち捨てられた刃物や鎧、そしてゾルザル派兵の一画を巻き込み空の彼方に消えていったのである。

「や、やべっ」

明らかにやり過ぎた。火威とてピニャが篭城戦をせずに、わざわさ城外に討ってでた理由は判る。

「ヒ、ヒオドシ殿!退ってくれ!」

ピニャの声が思いのほか近く聞こえる。と、思ったら、実際近かった。

知らない内にだいぶ戦線を敵に圧されていたらしい。

「屋敷のメイド達を護ってたもれ!」

ピニャの願いというか指示に、火威は是非も無くフォルマル邸へと向かっていった。




前回の最後で荷車が暴走した時点で、この展開は気付いた方も多いと思います。
というか、暴走させたらこの展開しか思い付きませんでした。

って……見直して見たらかなりの部分で脱字や余計な文が入ってるし…… (;


さて、今回は今さらながら日曜投降です。
前回は短めだったから今回は少し長めにしたのですが、折角の終盤なので次回もこのくらいにしたいですね。
実際に長くなるかは判らんのですが…… (゚A゚;)

そしてお気に入り指定が220突破!皆様、本当に有難う御座います!
久々になりますが、とにかく、ご意見など有りましたらご気軽にどうぞ!

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