ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
実のところ……でもないですが、実は時系列が原作と違っています。
最終決戦が二日に渡っています。そして今日の投稿の最後の方で二日目に入ります。

今回はハッタ―軍曹の台詞を借りようと思ったのですが
そんな空気じゃなかったので普通に進めています。

で、さり気無く水曜に投降できちゃったワケですが
中々調子が良かっただけなんです。

ホントもう、調子に波があるんで堪りませんわ。


第二十九話 不正規戦の鬼

黄昏時のアルヌスの食堂で、ジゼルが掃き掃除している。もうじき夕飯時だから、それまでに今の仕事を終えなければならない。

作戦中なのか、多くの隊員がアルヌスを離れているジエイタイの駐屯地から、課業終了のラッパが聞こえる。今日は食堂に来るジエイカン達はやはり少ない。

そうした中で、何時もヒオドシとつるんでるデクラとかいう男とダークエルフの女を見つけた。

出前という物があるにもかかわらず、他の客に気を遣って態々(わざわざ)早い食事をしに来たのかとも考えるが「料理長、後で他の所で食べる夕飯頼めますかね?」と注文している。早い時間に注文して、あとで取りに来るようだ。

昼時のように男が女に食べさせてもらうようだが、今は客自体が少ないとは言っても夕飯を食堂で食べるジエイカンは少なくないし、アルヌスに住む他の労働者も多く食べに来る。

昼にも散々見せつけてくれて見てる方が恥ずかしいくらいだったのだが、流石に本人達も恥ずかしかったらしい。

ヒオドシともイチャついたり、あわよくば踏んでもらいたいジゼルだが、他人がイチャついてるのを見ることには興味無い。

朝以降、ヒオドシという男に会ってないジゼルは彼の所在が気になっていた。

「デクラー、ヒオドシはどうしたー?」

出蔵は自身に話しかけてきた竜人の女性が、炎龍討伐の折りにテュバ山で見た亜神とは知らない。ただの馴れ馴れしい亜人くらいにしか思ってないが、竜人という種族が長命の種だという事は火威から仕入れた特地の知識として知っている。

もし、エプロンの下の白ゴスロリに似た神官服を見れば直ちに感付くのだろうが、エプロン姿の竜人女性を見ても、自身の先輩が彼女の事を「ゲイカ」と呼ぶのは何かしらの渾名だと思っている。

「任務中ですよー。恐らく戦争で最後の作戦になるんじゃないですかねぇ……」

「そ、それは心配だな……」

戦死してエムロイの下に行くつもりが無いヒオドシは、ジゼルに賽銭を渡して死後の天国行きを予約している。ジゼルも日に日に気になっていくヒオドシという男の魂を、自身の主神であるハーディが治める冥府に呼べる事に安心していた。

そこを、万が一にも戦死してしまってエムロイの所に行くのを心配したのである。

「まぁ、先輩なら味方の砲撃を受けなきゃ大丈夫でしょ。あの人も怪異の一種みたいに強くなってるし」

「そうだと良いんだけどな」

ジゼルがニホンのアキハバラからの帰りに見た特定の怪異は、ファルマートでは炎龍以外では全ての怪異に見られないくらいの圧倒的威圧感と殺気だった。そんなヤツと何度も戦って生きているなら、ヒオドシはきっと無事に生きて帰ってくるだろう。

デクラとダークエルフの女が注文を済ませてアルヌスの街に消えていく最中、ジゼルも漸く掃き掃除を終えた。

どうも、今日は仕事が遅れているようだ。これから手早く拭き掃除もしなければならない。

濡らした雑巾を床に押し付け、雑巾がけをする。その作業の中でお尻を突き出すことになるのだが、ジゼルは過去にミリッタの神官のお勤めを盗み見た事がある。現在その神官は使徒になり、方々でお勤めを果たしているとの話だが、その時の神官の格好と今の自分の格好を重ね合わせてしまった。

ヒオドシが、オレの……と、思わず猛ってしまった妄想で、少しだけ顔を紅潮させる。そんなところに声を掛けられるのだから、ジゼルの動揺はただ事ではない。

「ジゼルぅ~、ちゃんとやってるぅ?」

「お、お姉さまぁ!?」

死ぬ事が無く、どんな怪我をしてもたちまち再生する亜神ではあるが、紅潮させた顔の色までは一瞬で元には戻らない。

料理長が「中々真面目にやってますよ」と答えるが、ロゥリィはジゼルの顔色を窺ってみる。

「ふ~ん、ジゼルも誰かに懸想したのかしらぁ」

ものの見事に言い当てられた。だが亜神と人間が恋してはいけないという決まりも無いし、ロゥリィもイタミという男とベッタリだ。他に二人のエルフやヒトの少女も居るが、夫婦のような会話をしてる事がある。だからジゼルがヒトの男に懸想しても文句を言われる事は無いと考えた。

「ちょっと、ヒオドシってヤツに……」

「ジィゼルゥー?」

「ヒ、ヒオドシっていうオカタにですね……」

日頃、ロゥリィはジゼルに乱暴な口調を直すように言われている。

街中だと思って高を括って口調を直す努力も見せないでいると、解体・幽閉される。ロゥリィ聖下とはそういう亜神だ。

だが、全てを話す前にロゥリィはジゼルが言わんとする事に気付いたらしい。

「でもぉ、ヒオドシにはぁ未だ言わない方が良いわよぉ」

「な、なんでだ…なんでですかっ?」

ジゼルが火威と日本に行った事を知っていたロゥリィは、火威が現在懸想している女が居る事も知っている。その火威の好みで見ればジゼルも十分範疇に入るのだが、火威という男は一度決めた目標に突き進む傾向がある。

「フラれるからよぉ。ヒオドシには好きな女が居るのよぉ」

「えッ!?」

正直、余り異性からは好まれそうもない面構えだが、ちゃんとヒトの男らしく女にも興味があるらしい。

「アレでもこっちに来た時は可愛らしい顔してたのよぉ」

「エエッ!!!?」

主上から聞いた話では、ジエイタイがこの世界に来てから一年も経ってない。ヒオドシという男に何があったのか、サッパリ見当も付かない。デクラに会ったら詳しい話を聞いてみようと思うジゼルだ。

「って、ヒオドシは何でさっさとその女に……」

「機会を見ているのよぉ。それに簡単な話じゃないけどぉ……」

ロゥリィ曰く、火威が好きな女には別に好きな男が居て、その男は既に婚約中だと言う。だから火威は、絶好の機会が来るのを気長に待っているのだと言う。だが絶好の機会が来ても言葉だけでは事は済まないのだそうだ。

「それで、なんで鍛えてるんだろ……」

「貴方が思うほど単純な世界ではないわぁ」

ロゥリィは説明も面倒臭いとばかりに話を切り上げる。

「ま、まぁヒオドシが死んだら魂は主上様の所に来るし、それまで待つのでも……」

確かに火威は戦死しそうもない。好きな女とくっ付いても何時かは死ぬ事になるだろう。だがロゥリィは思う。

(ヒオドシィくらいの戦いぶりならぁ、エムロイの下に召されそうだけどぉ)

 

 

 *  *                            *  *

 

 

マーレスから大急ぎでベッサに向かった火威が見たのは、数ヵ所で幾度も瞬く銃火と砲火の光だ。大急ぎで来たと言っても極めて低空で、森に引っかからない程度の高度を取りながらの猛スピードという難しい状態で来なければならなかった。

だから戦場の光でも……いや、むしろ砲火の光が見えた事が、黒く深い森を越えて荒野が広がるベッサに辿り着いた事を実感させた。

「カラミティからヤタガラス。誘導支援を感謝する」

暗視鏡を使って見れば、火を放たれた荷車や恐獣の群れ、そして雑多な怪異と、塹壕を踏み抜いたらしき味方の八七式偵察警戒車(RCV)と、その脇に乗り付けた軽装甲機動車を中心に帝国兵が群がり、戦闘が始まっている。

周囲でも既に交戦状態だが、目下のところ急ぎ支援すべきは此処だろう。

「っしゃ! 今行くぞォ!」

高速で飛来するグライダーを切り離し、その勢いのまま犀に似た恐獣の眉間に飛び蹴りを衝き立てる。

「蹴り殺してやるッ! このド畜生がァーッ!」

眉間を粉砕されて恐獣が地に伏すと、RCVに向かって走る。最早、混戦状態なので攻撃してくる者を敵と判断するしかない。

その点で言えば、岩に擬装した攻城槌や戦象などの所属が明らかな敵性勢力は、余計な心配なく排除出来るから楽だった。

スリングで小銃を下げると、両手を戦象や攻城槌に向けて光輪を展開する。それぞれが15個と5つ展開したところで放つと、戦象は盛大に爆死して攻城槌も爆砕した。そればかりか、油や柴を積み上げた荷車までもを吹き飛ばしてしまう。

 

 

*  *                             *  *

 

 

 

「馬鹿な! あんな魔導士、一体何時現れた!?」

焦るのは丘の上で戦況を見ているゾルザル派の公爵、ウッディだ。

「以前、翡翠宮に現れたジエイタイの魔導士かも知れません」

伏兵としていた帝国兵に伝令を伝えたクレイトン男爵が、息を切らせながらもウッディに伝える。その伏兵も混戦の中で全滅してしまったようだ。

「くっ……つくづく忌まわしい!」

ゾルザルは必勝の策があると言っていた。ウッディは、その策をより確かなものにする為に、少しでも長く敵をこの地に釘付けにするしか無いのだ。

だが、それもジエイタイの魔導士の出現によって、容易に突破されそうになっている。

「なんで、あんなのが現れたんだ……!」

ウッディが思わず心情を吐露するが、それは自衛官なり日本人の顔を見て言うべきだろう。そうすれば答えてくれる筈だ。

「自業自得だろ」

と……。

 

 

*  *                            *  *

 

 

一両の74式戦車に群がった複数のトロルやゴブリンが、炎の精霊によって一気に焼き払われた。他の74式戦車に群がる怪異も、普通科隊員の援護射撃によって次々と確実に取り除かれていく。

『熱っちィーだろォーが火威ィー!』

夏場は車内温度が60℃にも達するという74式戦車の戦車長の一尉が文句をぶち撒けるが、今の場合は「ご容赦下さい」と手を合わせて拝むしかない。

最後の一体となった恐獣の胴体を波動砲で穿ち、ネギトロめいた死体に変えるとベッサの戦闘は終了した。

「恐獣の角が……イチ、ニィ……全部で7本か」

多分、価値のあるものだろうと、火威は早速皮算用する。チヌークなりで運んでもらえれば、戦後復興の足しになるかも知れない。

「まぁ良いや。これで道も開けた。火威三尉、戦力支援感謝する」

戦車のハッチから顔を出した戦車長が、通信を通さずに直接火威に話す。既にこの時、ゾルザル派の帝国将兵の多くが自衛隊や、自衛隊と行動を共にしている正統派帝国兵に投降していた。

自衛隊の全ての隊員は知る由もないが、その中にはウッディ公爵やクレイトン男爵も含まれている。だが、簡単に投降に至った訳ではない。向かってくる敵兵に対し、魔導を用いた火威がネギトロめいた死体に変え、散って逃げる怪異を小銃で撃ち殺すといった凶悪な所業を見た帝国の将兵は、逃げ場無しと悟って投降したのである。

もし火威より上位の者が居なければ、それすらも殺戮しかねないと思わせる殺気だったと、多くの正統派帝国兵は後に語っている。

その火威は4km離れた地点で切り離した落下傘を見つけた。自衛隊は裕福な国にあって、余り裕福な組織とは言えない。そして貧乏性の火威も、使える装備は可能な限り使い倒すという姿勢でこれまで生きてきた。

チヌークの着陸地点を確保した火威は、落下傘の切り離した部分を結んで再び風の精霊を召喚した。

この後、第四戦闘団とはフゥエの城塞で合流する事となっている。第四戦闘団がマレの城塞を攻略したという情報は届いていない。急げば十分に間に合う筈である。

顔を上げれば、既に東の空が明らんでいる。火威は朝焼けの空に飛び立っていった。




今日のジゼルの部分に出てくるミリッタの使徒……。
設定だけで出てきた思いっ切りオリキャラですが、予定では暫く後にも出て来ます。
まぁ、ちょっとエロいキャラじゃないかなぁ……。


戦争中は出て来ませんけどね?

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