ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
何だかんだ言って土曜日に間に合ってしまいました。

前から気付いてたんですけど、原作沿いだとヒロインの出番はかなり少なくなってしまいますね。
勝手に外伝まで作っちゃえばヒロインメインのを書けるんですが……。

あ、うん。
もう許可とか貰わずに自分の欲望の赴くまま書きますわい。

※12月27日
 ジープと高機が先頭を走っていたので修正。


第十六話 特地戦力調査隊

ここ最近、アルヌスの食堂には『ミード』なる飲料が並んでいる。早い話が蜂蜜酒だが、日本が存在する世界でも、新石器時代から飲まれていたというこの飲料を、火威はこよなく愛飲した。

ビールの美味さも日本酒の旨さも理解出来ない彼は、酒精の低い蜂蜜酒を冷やしたものにレモン汁と氷を投入し、さながら清涼飲料のように飲むのを好んでいた。

それを淹れたジョッキを片手に持ち、出蔵とその恋仲となったダークエルフのアリメル。そして旧第三偵察隊のメンバー数人と夕飯を取っている。

「先輩、落ち着いて見直すとこのオーク姉妹、かなりの巨乳っすよ」

言いながら出蔵は自身のスマートフォンを火威に見せる。

「服の上からでは判らないがな……出蔵、それは偽乳だ。欺瞞ッ!なんだよ。俺が拉致された時に見分済みだ」

「なッ……!?」

結構余裕あったんですね、と思う。それとも乳への飽くなき拘り故の使命感かとも思われた。

「でも大手企業の社長令嬢っすよ。勿体無い事したんじゃないスか?」

話を振ってきたのは倉田だが

「俺がどんな目に遭わされたと思ってるんだ! ホントに怖かったんだぞっ」

言い返したものの、追われ、あまつさえ捕まり、何の取り決めも成された覚えも無いのに執行された『刑』の恐怖と精神的ダメージは当人にしか判らない。

「だいたい子供にやる母乳にシリコンだか生理食塩水が混ざってたら可哀相だろうが」

実際には母乳は乳腺で作られるので、母乳に代わってシリコンやら生理食塩水が出てくる事は無い。下手な手術をすれば母乳自体が出なくなるだけだ。

その時、栗林が言った。火威は先程から気になってはいたが、彼女はかなりのハイペースで飲んでいる。

「でも結婚してみたら意外に良妻賢母だったかも知れませんよ? 三尉を追い掛けたのだって愛情深いからかも知れないですし」

「それは俺も少し思った。でもな、男子トイレにまで入ってきて、あまつさえ個室の鍵を壊して入ってくるなんて、どうかしてるだろ? 愛情深いとかじゃなくて最早病んでるってレベルだろっ」

そのくらいの愛情深さ……などと言おうとした栗林の言葉を遮り、火威は続ける。

「考えてみろ。全然好みでもない異性にしつこく追い回されて、しかも精神的に大ダメージを被ったりしたら誰だって逃げるだろうがっ!」

この場に居る男性は、そのままオークに追われた火威の立場を自分に置き換えることで簡単に想像できた。

真っ平御免である。

栗林も高校時代に空手部と新体操部を掛け持ちしていた時分、そのスタイルと顔だちの良さ故に多かったファンの中のキモオタに、レオタード姿の栗林自身のフィギュアを作られて見せつけられた事を思い出し、今更ながらに辟易した。

唯一、既婚者の仁科 哲也(にしな てつや)一等陸曹だけが余裕顔でビールを飲んでいる。

アリメルは何が起きたのかと、不思議そうな顔をしている。そもそも火威の最後の一言だけは日本語だった。

彼女は後に出蔵に、この時に何を話しているか聞いたが「世の中の辛さや悲しさの話をしてたんだよ」と、教えられたと言う。

 

 

皆が食欲を満たし、メンバーが一人二人と帰っていった頃になっても火威はまだ食べていたし栗林はまだ呑んでいた。

火威としては少なからず想っている相手と差しで飲めるのは悪い気がしないが、明日まで酒が残らないか、他人の事ながら心配だった。

「これ栗、もう帰って寝れ。二日酔いになっても知らねぇぞ」

「明日は休みれす……」

「あ、そなの」

栗林と食事で同席した事は少ないが、この女がここまで隙を見せるのは今まで無かった。

心を激しく揺さぶる事でも何かあったのかも知れないが、平和で治安の良いアルヌスと言っても「悪人は何処にでも居る」というのが火威の哲学である。火威や多くの人の目から見ても、魅力のある彼女をこの場に残していくのは憚れる。

「まぁ良いから寝るならちゃんと帰ってから寝れ。襲われちまうぞ」

そう促すと、栗林は火威の顔を見て言い放った。

「火威、ハゲロ」

「ちょっ、なに言い晒すこの栗ボー!?」

諸行無常に己の頭髪の散り行く様を受け入てる心づもりだった火威には、思いも寄らぬ一言だった。だが不意打ちとも言えるこの一言で、想いを寄せる相手との距離がグっと近くなった気がした。そして不用意にも

「おらっ、帰るぞ栗! とっつぁん、御代はここに置いておくよー」

テーブルに代金を置くと、栗林の両脇に手を差し込み、そのまま羽交い絞めのような格好で曹官の宿舎に引っ張って行こうとした。その時、

ドスッ

栗林の肘が火威の鳩尾に突き刺さった。

「あ、ごめん。体が勝手に」

条件反射で動いてしまったと言う栗林の前で火威が地面に突っ伏す。

(さ、流石はダーを格闘戦で倒した女……)

苦しさと痛みに耐えつつ、彼は先日のゾルザル軍掃討の報告書を思い返した。

古村崎とかいうマスゴミが、第四戦闘団四〇三中隊の出動に同行し、その際に先日悪所を発ったテュワルを救出したのである。

その時に栗林はチヌークの中でダーという巨大怪異に格闘戦を挑み、勝利している。

ダーは以前に火威がフォルマル邸にある本で見知った怪異で、しっかり自衛隊も知っている存在だからこれという被害は無い。

だがチヌークの中で、敢えて巨大怪異に格闘戦を挑み、しかも勝利するというのは「この女、やっぱ亜神」説が正しいとしか思えない。

「ま、まぁ良いから、ちゃんと帰って寝れ……」

地面に突っ伏し、鳩尾を押さえたまま火威が呟くように言う。

 

 

 *  *                     *  *

 

 

数日前、帝都の皇城 ウラ・ビアンカから皇帝、モルト・ソル・アウグスタスとピニャ・コ・ラーダが救出され、イタリカにて帝国正統政府を開府したという話は、帝国領内に瞬く間に広まった。それは、帝都内を行き来する行商人から伝わったものもあるが、自衛隊員自ら広めたものも多い。

広めた一人である相沢は、狭間陸将から次のような事を聞いていた。

帝国周辺の各国は、ゾルザル軍に与するか正統政府に与するか考え倦ねている。理由は銀座事件の逮捕者五千人が帝国正統派政府に与しても両軍の戦力が拮抗しているからだ。相沢二等陸尉と火威三等陸尉には帝国領内の戦力を調査し、正統政府に与するように進言してもらいたい。と。

 

以上のようなことを聞いた相沢は、火威を含む部下七人と現地人協力員四人を連れ、特地戦力調査隊の隊長に上番した。似たような名称の特地資源調査員と違い、こちらは曹官以下でも任務に就く事が出来る。

フォルマル伯爵領内の亜人の集落は正統政府に協力的で、頼まないでも力を貸してくれるので、相沢らが行かねばならないのはそれ以外の亜人の村や町だ。

高機動車に乗って地図とコンパスを使い、位置と向かう方角を確認しているのはベテランの伏見 基弘(ふしみ もとひろ)陸曹長だ。

既に幾つかの亜人の集落を回っているが、これまでの帝国の亜人に対する偏見や政策が災いし、内戦状態に陥ったとは言え正統政府の為に喜んで戦力を出してくれるような亜人はフォルマル領にしかおらず、今まで色よい返事は未だ貰えずに居る。

そうして時間だけが浪費され、これから向かうワーウルフの集落を最後として帰還しなければならない。

これまでに回った村や町で敵視されなかったのは、フォルマル家の紹介状があったり、相沢らがアルヌスの丘に居る緑の人たる自衛官だからだろう。アルヌスの街の良い評判は、思いのほか遠くまで伝わっていた。

「時間がありゃヴォーリアバニーの草原とか行きたいんですけどねぇ。遠過ぎますかねぇ」

先頭を走る73式小型トラック、通称ジープの中から、後方の高機動車、通称HMV(ハイ・モヴィリティ・ビークル)の中でイタリカで買ったファルマート大陸の大まかな地図を見ているであろう相沢に、火威が相談を振る。

『そりゃ遠過ぎますよ。それに最近戻ってきたデリラさんが言うには、ヴォーリアバニーの部族はゾルザルに滅ぼされているそうですから』

以前にアルヌスで事件を起こし、その際に大怪我を負って日本で治療を受けたデリラは、そのまま東京地裁で執行猶予付きの一審判決を素直に受け入れていた。だが大きな事件を起こした彼女はフォルマル邸にもアルヌスの食堂に戻るわけにもいかず、償いと称して自身が怪我を負わせた柳田二尉の介護に当たっている。あれだけの大怪我を負いながら一ヵ月程度で動けるようになり、医者を驚かしていたという。

「あん畜生め可愛いヴォーリアバニーを……。んじゃエルフとか、ダークエルフ探しますかね」

「エルフやダークエルフもその辺に居るものじゃないですよ。妖精種になると論外です」

その火威の言葉に反応したのはジープを運転する女性自衛官、宇多 千歳(うだ ちとせ)一等陸曹だ。栄養士資格を持っているという彼女は、とりわけ美人という訳ではないが、落ち着いた雰囲気を持ち、また周囲を落ち着かせる「お母さん」的な能力も備えている。彼女自身が自由に発動させれる能力でもないのだが、喧嘩でいきり立ったドワーフの大工を見ても「あらあら、まぁまぁ」で落ち着かせてしまうので、その辺りの能力をハーツ&マインドが必要になるであろう本任務に買われたのだ。

『それにダークエルフは散々苦労しましたから、そのうえ戦争に駆り出すのもなんだか……』

言ったのはジープの後方を走る高機動車を運転する内田 仁(うちだ ひとし)二等陸曹だ。秋田駐屯地から火威と共に特地に来た彼は、フォルマル邸から来た狐耳メイドに交際を申し込んだものの素気無く断られて今に至っている。

その彼に答えるようにして火威は言ってやった。

「エルフの部族は複数ある。お前が言ってるのはシュワルツの森のダークエルフだろう。エルフは怒るとこわいぞ。戦士だし、強い」

暫し、部隊内が沈黙に包まれる。そのネタが誰の理解も示さないところをみると、火威は口を開く。だが其処に被せるようにして通信を経て発言する者が居た。

『まぁその辺りは正統政府が大凡の位置を把握してるでしょうし、シュワルツの森から来たダークエルフも協力してくれてるようですから、俺らはそれ以外の亜人で協力してくれる人達を探した方が良いんじゃないですかね』

言ったのは最後尾の軽装甲機動車、通称LAV(ライト・アーマー・ビークル)を運転する日下部 洋輔 (くさかべ ようすけ)二等陸曹だ。彼は一言で言うなら『残念なイケメン』である。容姿や自衛官としての技能は否の打ち所が無いにもかかわらず、言う事に何かと品が無い。これで妻帯者だと言うのだから、火威などは世を呪う。

だが彼が今し方言った事は尤もだ。と、言うより、ワーウルフの集落に向かってる最中に火威が余計な提案をしたから話が脇道に驀進してしまったのである。ちなみに日下部の隣には、どいうワケだか第一戦闘団から引っこ抜かれた出蔵三等陸尉がいる。

ワーウルフの集落の位置を教えてくれたのは、高機動車に乗り、現地人協力員の名目で同行していて自身がワーウルフのウォルフだ。

他の三人の内の二人は薔薇騎士団のグレイ・コ・アルドとニコラシカ・レ・モンである。

自衛隊が勝手に他国の内戦の一方に肩入れしてもらえるように、周辺の戦力と交渉する訳には行かないので、実質的な交渉は彼ら行うという事になっている。

残りの一人はLAVの上部ハッチから対空警戒しているダークエルフだ。ヒトで言えば14~15歳くらいの少年に見える外見で、名をティト・エル・デルフと言う。彼もアリメルと同じように他のダークエルフには無い、妖精的な雰囲気を備えている。

ちなみにニコラシカは、女好きのウォルフが悪戯すると悪いのでジープの後部座席に乗っている

その彼女を含め、車列は対空警戒しながら進んでいる。

 

少し前からゾルザル軍は上空の翼竜から火炎瓶のような物を投下するという戦法を取っていた。

滅多に当たらない上に効果も薄く、近頃ではゾルザル軍もやっていないのだが、一応被害もあるので上空へ警戒しなくてはならない。

上空を警戒するに当たり、ティトが持つエルフの遠目は非常に頼りになった。300メートル先の森の中の木の枝に留まっている小鳥の羽の色まで識別してしまうのだ。

その彼が叫んだ。

『5リーグ先の丘! ドラゴン! 荷馬車を襲っている!』

ちっ……今度は見境い無しかよ。そう言いながら火威は先日手に入れたM95対物ライフルを携え、8km程先の丘の上を見る。(1リーグ1.6km)

翼竜を使うノウハウはゾルザル軍か正統政府にしかなく、翼龍の厩舎は現段階で全てゾルザル軍が保有していた。だから翼竜で荷馬車を襲うという行為は、偽装もせずに堂々とゾルザル軍が荷馬車を襲っていると考えて良い。

加害者側の身元を明らかにして盗賊行為を働いてるであろうゾルザル軍に、皮肉を込めて感心したように鼻を鳴らしたが、

『翼竜じゃない! もっと大きい!』

続けて伝えられたティトの声には、焦りと恐怖が感じられた。

 




公式のキャラ人気投票ですが、26日の午後23時時点でまさかのデリラ一位とは!?
こりゃぁビックリです。いやホント。

で、今回は新しい部隊を勝手に出してしまったんですが、この戦力調査隊……。
今回と次回でお役御免です多分。

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