ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

117 / 120
時間外業務ってこの回に限ったものじゃないんですが……。
またサブタイ思い付かない症候群が発症しまして、この有様です。


第三話 時間外業務

火威の幼少期が赤貧家庭であったことは、以前にも幾度となく述べた。

3人兄弟の末っ子として生を受け、雑草のお浸しに革靴を煮て脂を掬って食べるような家庭に育ったのである。

ここまで赤貧家庭になったのは、新潟県の名士の家庭に生まれ育った父が進学の為に東京に来てから当時16歳だった母を孕ませ、そのまま結婚したからだ。

当時、新潟の父の実家では大学卒業と共に結婚するはずだった許嫁の女性がいたのだが、父はそれを蹴って東京で母と結婚した。

その結果、実家からは勘当されて大学の授業料と母の出産費用、そして産まれてくる子供の養育費から生活費一切を両親が稼がなければならなくなったのだ。

母が働ける時は屋根のあるところで暮らせるが、貧乏人の子沢山を地で行く火威家である。兄が産まれてた3年後、母は火威半蔵の姉を妊娠する。

ヤレば出来ると分かってる筈なのだが、正月の貧乏人はソレくらいしか娯楽が無かったらしい。

しかし家庭の経済状況は当の両親が誰より知っているので、これで打ち止めか?

と思われた。

が、そこは貧乏人故の子沢山。2年後の正月に本作の主人公である火威半蔵を妊娠してしまったのである。

子供が3人で子沢山と言うと首を傾げる諸兄が少なからず居ると思うが。エンゲル係数が95%に迫る彼らは住んでる飛火野市の隣町である立川の防災センターで、年末に年1回、消費期限が迫った乾パンを無料供出する度に兄弟総出で貰いに行くほど逼迫していたのである。

だが貧乏に慣れると何とかなるモノで、本当の意味で最低限の生活が出来ていた火威家だ。

粟の飯を主食としていた当家だが、食料が底を尽きると子供達の間食で近くのパン屋から無料でもらっていたパンの耳で空腹を満たし、父が社会に出て法律の勉強をしながら仕事を始めて経済状況が改善すると、パンの耳は煮干しにレベルアップした。

兄が高校に入る前に父は地方裁判所の裁判官の資格を得たので、火威家の経済状況は一変。大型の犬を飼い、兄弟全員が大学を卒業できるまでになったのである。

しかし、裕福になっても彼等の貧乏性は治らない。取り分け産まれた頃から貧乏で、兄弟の末っ子として育ち、衣服にしろ筆記用具にしろ兄姉のお譲りなり余り物しか使わせて貰えなかった火威半蔵の倹約振りは堂が入っていた。

 

 

*  *                             *  *

 

「……それで母が兄を産んだ時はまだ17だったんですよ。日本に帰還した時は4~5年から10年くらい経ってるかもしれませんし、菅原さんもシェリーちゃんとご結婚する時には世間の目も厳しくない歳になってるんじゃないですかね?」

帝国の内戦が終結するまでイタリカの倉庫を改造して済んでた菅原だが、今は帝都内の自衛隊事務所近くに住んでいた。

イタリカのフォルマル邸はミュイの姉達が連れてきた別の貴族の支配下に置かれていたのだ。

イタリカ市内を通行するにも、つまらん税を取ろうとする役人の目を欺き、精霊魔法で姿を消した火威はフォルマル邸に侵入。

そこでウォーリアバニーのメイドであるマミーナから、イタリカに起こったことを聞かされたのである。

イタリカの状態は酷いことになっていた。

ミュイを後見していたピニャが派遣したガルフ・ス・トリームという代官が追い出され、ミュイの姉達がミュイの婿として連れて来たローバッハ・フレ・ローエンという男がイタリカのを支配したのだという。

このローバッハという男は本当に馬鹿な男で、道路を通っただけでも施設使用料、また猫拝観料と意味不明な税を取り、彼らが来て以降、亜人メイドは過去の考課に関係なく下働きに降格となった。

しかもヒト種メイドには恥ずかしげもなく手を付け、モームという火威と面識のある古参のヒト種メイドに共に枕頭させたのである。

特地に来て、イタリカに出入りするようになった火威が世話になったメイドだ。美人と言える女性で、食事に誘った際にやんわり断られたが義理もある。

火威は、ローバッハのアホを少々制裁してやろうと考えた。

戦時ではないので血祭りに上げるのは駄目だし、他人に累が及ぶといけないので奴が独りの時に空気の玉でぶっとばして帝都にきた。

高々宙を舞ってから地面に叩き付けられて気絶はしたが、死んではないだろう。毛髪という贄がないのに威力の高い魔法が出てしまったものである。

 

 

*  *                             *  *

 

菅原の所在がイタリカから帝都に移っているという情報がアルヌスの自衛隊に届いていなかったようだから、帝都とアルヌスの間のイタリカで情報が止められてたのだろうと考えた火威だが、菅原はイタリカから移動する際に複数羽の鸚鵡鳩通信でアルヌスに情報を送っていた。

一羽もアルヌスに来てないところをみると、途中で鷲か鷹などの猛禽にやられたこのだろう。今後、アルヌスと帝都の連絡をする時は火威が連絡員をやらされそうな話だ。

ともあれ、アルヌスに帰還したら速やかに隊に報告しなければならない。

しかし菅原も中々の切れ者である。官僚になるくらいなら切れ者なのは間違いないが、氷雪山脈で起きたことをそれとなくリークして、自衛隊に継戦能力が残ってることを帝国貴族に匂わせようとは。

銀座世界側の装備もなく、複数の山を吹き飛ばした事実が分かれば、物資が無くなった自衛隊とならまともに戦えると考える者は現れないはず。

火威はそんなことを言ったが、これはピニャから菅原に示されたことらしい。

まさかピニャは個人の力で山を吹き飛ばす自衛官がいるとは思わなかったろうが、氷雪山脈での戦いを帝国貴族にそれとなく広め、賠償金の支払いを停止させようと主張する元老議員を牽制しようというのだ。

あの姫様も中々腹芸が上手くなったものである。

 

 

*  *                               *  *

 

 

その後、火威はまた7~8時間程かけてアルヌスへ帰還した。

時間は既に夕方となって、平時から課業が終わる時間である

食糧も乏しく資金もないから皆が無理をして働いてる。

休暇だと言うのに、こんな事が間々起きては堪らない。

物体浮遊の魔法で車を飛ばすというのは中々の重労働である。酷く体力を消耗するのだ。

体力のオバケだからと言って毎日やらされたら本当にオバケになり兼ねん。

駐屯地に帰還を伝えてから、火威はそそくさと自宅に帰る。

昨夜は妻が余りの名器(拷問的意味で)なので全然寝れなかったから、今日はゆっくり休みたい。

坂の下の忍者屋敷に向かう。

昨日は対ロゼナクランツのジャイアント過ぎるオーガー相手に、レレイに改造されたゴーレムがプロレスを演じた後の片付けをしていた栗林とミューとリシュの様子を見に行かなければならない。

特に、寒冷地の氷雪山脈からアルヌスに来たミューとリシュが不自由をしていないか聞かなければならない。アロンからミューの身柄を任されたのは火威なのだ。彼女は奴隷という身分だったが、日本に編入されたアルヌスでは奴隷制度は御法度である。

昨日1日で4階と3階の半分は片付いていた。3階の残りを後片付けしている栗林に聞くと、2人は2回の後片付けをしているという。

「それはそうと、ただいま志乃さ~ん」

例え愛妻と言っても栗林相手だから、後ろから近付く時は裏拳と肘鉄に警戒しつつ、背中から抱き締める。

「どうしたんですか半蔵さん」

少し照れながら後ろから抱き付く旦那を横目で見やり、回されたその手に触れる栗林。

「いや、まだ籍がは入れられないけどさ、昨日あんなことが有ったとはいえ愛情が薄れてないことを示そうと……」

恐らく、氷雪山脈の筋肉精霊が筋肉の塊とも言える愛妻に取り憑いたのかも知れないが、今度サリメルに“遭った”らそのことも聞かねばならない。そしなければ妻との間に子を儲けることもできなくなる。

2階に降りると、片付いてない奥の部屋から物音がする。

ミューかリシュなのだろうから、片付けが済んでないなら手伝おうと火威は奥の部屋に進んだ。

そこで見たモノは、白いシーツから白い足を生やしたた何か。

「メ、メジェド様!?」

この世界は神が居て自衛官と共に戦闘に臨むことがある世界だ。不可視の神がいても不思議ではないのではないか?

というかこの神の危ないところは、目からか何か(ビーム?)を出してオシリスの敵を殺すらしいことにある。

咄嗟の事で魔法が間に合わず、火威は後ろに仰け反ってひっくり返った。

「駄目でしょ! リシュ!」

火威の悲鳴と倒れた音を聞き、すぐさまミューが飛んで来た。

メジェド様かと思ったのは、シーツを被って遊んでいたリシュだったようだ。メジェド様でなかったことと、魔法が間に合わなかったことに感謝しなければならない。

「い、いや。何でもなかったから」

良い大人がシーツを被った子供に驚かされるとは、これ以上ない赤っ恥である。

考えて見なくても、ここは特地で銀座からエジプトまで1万キロ程度と離れているのだ。

しかし氷雪山脈でロゼナクランツが使役してきた生ける屍や、蟲獣の他新たな虫型の脅威をその手で排除してきた火威が驚き、怯えてひっくり返ったことが余程不思議なことだったらしい。

「しかし、ヒオドシ様に何かあっては親方様に向ける顔も御座いません。一体どうなさったのでしょうか?」

親方様とはリーリエやアロンという2人シュテルン姓の者達のことだろう。いや、冥府に赴いた兄、父、母も含まれると考えた方が良い。

「いや、ちょっとさ、俺の世界の神様におっかないのが居てさ、見られると死ぬっていうのがいるから」

「ニホンにそんな恐ろしい神が!?」

「いや、日本から遠く離れた外国の古い神だけどさ。子供の悪戯描きみたいなデザインだから最近日本で徐々に知られて来てるの」

デザインし難いものならリシュがシーツを被ったところで間違えようがない。古代エジプト人のセンスに文句を言いたいところである。

「後で組合には俺からも言っておくけど、先ずはこっち片付けからにしよう」

そう言いながら、火威は家がプロレスしたこと割れた調度品の欠片を集めていったのだった。

 

*  *                             *  *

 

 

その頃、帝都からイタリカへ向かう道筋に一つの荷馬車がある。

3トリー角ばってるうぃすきぃHIぼおる10リットル缶(というかアルミ製の樽)を2本と、サリメルとリーリエを乗せ、何時ぞやの帝国商人のシロフ・ホ・マクガイヤが操る馬車だ。

内戦の末期にイタリカ近くで恐い思いをした彼だが、その時からサリメルの実力を信じ、彼女が同じ魔導士だという女性を連れてるならイタリカから外れた道を通っても大丈夫だろう。

イタリカを通行するために支払わければならない税の高さは帝都の商人達の間でも頭を悩ますものだった。

しかし、イタリカを通らず別の道を使うと賊が蔓延ってることが多い。

安全代と思ってイタリカの税を甘んじて受け入れるか、傭兵でも雇って道を反れるしかないのだ。

しかし今日は実力の高い魔導士が二人もいる。

ここは彼女達に守ってもらうしかない。

サリメルもシロフからイタリカで政変が起きたことは聞いていた。

折角帝都で発揮した「見えないエロス」の効果を確認したのに、イタリカで同じ事をやったら娼婦として男に抱かれただけでも税をとられそうだ。

まだ内戦中のある時、髪の長い女とずっ友(ずっと友達的意味)になることがあった。

男と閨を共にする時は簡単に肌を魅せてはいけないというのがずっ友の意見だったが、どうせ全てを晒すなら最初から裸でも変わらんだろうというのがサリメルの意見だ。

この意見の対立で衝突することもあった二人だが、昨日から今朝のかけて「見えないエロス」を実践してみたら見事に嵌まったのである。

ずっ友が言ってた「見えないからこそ観たい」という男心を、サリメルは1500歳にしてようやく理解したのだ。

力のある貴族や悪所の顔役から指命が来て、あっという間に今では貴重品である琥珀酒を手にいれることが出来たのである。

商店などで売ってた訳ではない。貴族に強請って高い金で買い取らせてもらったのだ。ミリエムから(勝手に)借りた5粒のフェトランに、更に5粒のフェトランも入手した。ずっ友から教わった方法とフェトランの二本柱で、ハンゾウの奴に迫ってみなくては。

サリメルの口角がニヤリと引かれる。




メジェド様は半ばGATEの公式キャラとなっております。
版権は古代エジプトだから、もうフリーだね!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。