ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、一ヵ月以上ぶりの庵パンです。
夏の暑さとか手強いまぐまぐした連中に阻まれて魔導の更新が遅れてしまいました。
今回もギャグかと思いきやシリアスめいた雰囲気になったり、節操ないです。
安定して書けんのかワタシハ……。


第三十四話 キシン

再びマッパ!!! にされてしまったサリメルを連れ、火威は城からの脱出を急ぐ。

「口の中がヒリヒリするんじゃが、ハンゾーは何ともないか?」

不意に掛けられた言葉を、火威は驚愕と畏怖でもって受け止めた。

失念していたが、そーいやー眷主と眷属の関係だった。

「あー、ちょっぴり腫れ物が出来そうなのかも。すいません、最近生活リズムが乱れていて」

質問を否定ではなく、脇道に逸らすのが火威の逃げ方だ。

そして、それは功を奏した。亜神歴100年程度しかないサリメルは、「そういうこともあるのかも」程度の認識でこの話を切り上げたのだ。

この先、200年、500年して新たな眷属を持つまではセーフである。まぁ火威の魂はサリメルの元に行くから、判明した後でこの時のことを度々話に挙げられそうではある。

 

凍結帝国前、戦術的待機中の隊と速やかに合流した火威は、サリメルが囚われたことで撤退直前であった事を知り冷汗をかいた。

この作戦を完遂する上で、サリメルが大きなファクターだとは知っていたが、そこまでとは考えもしなかった。

開門の魔法は、本作戦の肝であることが改めて知れる。

そのサリメルは、持って来た縦セタが全て破壊されてしまったので、リーリエに預けていた2つ目の髪の束のようなアイテムを使い、ロマの森まで別の衣装を取りに行っている。

伊丹やレレイが言うには、ジゼルの主神であるハーディという神を、信徒以外がその身に降ろしたことの褒美として貰えるアイテムらしい。

エロフが長命だからって、人間の時に何回降ろしているのか気になるところだが、他の所の神様と親し過ぎるんじゃァないかと思う。(ロゥリィ教徒の火威もダンカンの使徒であるモーターから色々貰っているが)

ロゥリィ曰く「男が嫌い」な神らしい。サリメルは両性大好きの両刀使いだから気が合うのかも知れない。

変態に技術をくれたことは、凍結帝国相手に今の状況に持ち込めたので感謝するしかない。

だが、炎龍を起こしたというのはいただけない。

もっとも、炎龍を始め古代龍は今やカマセ犬に凋落してしまったのだけれども。

 

*  *  *                      *  *  *

                              

 

「一階の天井は高くて7から10メートルくらい有りましたね」

氷の城の内部をマッピングしていた火威が柘植の質問に答えた。

現段階で敵が積極的に打って出て来ないのは、今までにそれだけの敵を倒して来たからであろうと指揮官や亜神達は考える。

先程までは城内に戦力を溜め込んで篭城している可能性も考えたが、火威とサリメルが直接見てきたことで否定された。ならば攻撃できる時間は限られているし、早々に攻め落とさなくてはならないとユエルを始め、複数の自衛官の意見が挙がった。

「でも、ちょっと考えて下さい」

栗林は、火威達が「反転攻勢」に出るのを軽挙と批判する。ロゼナクランツが未だに隠し玉を持っている可能性は否定できないのだ。

敵の本拠地を前にして、普段の栗林の言動からすると意外に思った火威とサリメルではあるが、味方の被害を抑える為には今までの事を洗い直して考えるのも必要性はある。

「それもそうじゃな」

薄明の頃合いから、今日の昼間中に陥とすことを目標として戦い挑み続けてきたから見落としていたのだ。敵には散々イレギュラーな方法を用いられて火威自身も痛い目に遭っている。

で、あれば、何をするべきか……。

「もう一度、“てーさつ”してみてはどうじゃ? 先程は邪魔されてしまったし」

以上のことから、柘植に状況を報告して南雲の指揮の下、火威は隊の協力を得て偵察を開始する。

 

本隊から50メートル程離れた白い建物の上、メンポを被った火威が魔導を収斂させると次第に氷の城の内部が見えてきた。

侵入時に人間大ゴーレムとの戦闘で、上階の裏庭らしき場合に出たが氷の城は山と一体になっているようだ。

だとすると、敵城内は火威が廻ったのより実際は広いのだろうし、実際にマッピングした地図と示し合わせてみても火威が今見る城内は巨大だ。

更に魔導を収斂し、光の精霊の望遠レンズを併用してみると、蟲人らしき影とメンポを用いても見れない箇所がいくつかある。

「なんじゃこら?」

言うなれば、テレビの砂嵐のような壁に遮られている。

見られたら拙いものがあるか、そう思わせる策か……。考える火威の耳に重低な発砲音が入る。特地入り武装した中でも特徴的なので聴いただけで解るのだが、やはりそれはイタリカで盗賊団をミンチにした代物、AH-1コブラから頂いてきたM197ガドリング砲だ。

「やはりあのゴーレム、魔導の使用に反応してきたか」

サリメルの言う通り、火威から300メートルほと城に寄った場所には、石で出来たゴーレムの破片が散らばっていた。

山脈周辺の村々から拉致された被害者の有無を調べるのも重要だが、コイツらが格納されている場所も気になる。

城の中で見たヒト種らしき女と黒髪のエルフがメンポで見える。メンポの仕様によってまじまじと直視するのは憚れるが、同じ部屋には交戦したのと仕様が違う人間大ゴーレムがヒト種の女と対となった玉座に座り、さながら謁見の間を思わせる。

あれが一連の事件の首謀者なら100年前に交戦経験があるサリメルやロゥリィに見てもらった方が早いだろう。

「サリさん!」

多少大きめの声で呼んだが彼女は背後にいた。気配を殺して味方に近付くのは勘弁してもらいたい。

サリメルが言うには、100年前に首謀者を断罪したのはロゥリィであり首謀者の死体は谷底に落ちたからサリメルはその姿形見ていない。

なので現在では火威自身の主神であるロゥリィ・マーキュリーに、見たことの仔細を話すことにした。

 

「ロゼナクランツの首領は爺さんのはずよぉ。ヒト種でも女ではないわぁ」

偵察をサリメルに任せ、ロゥリィに敵城内に見た者を報告し説明した火威は、ロゥリィからそのような返事を受けた。

「それでもぉ、馬鹿な魔導士の中には何しでかすか解らない奴もいるからぁ、そいつらが犯人ということも有り得るわねぇ」

この状況で玉座に座っているのだから、一連の事件の重要参考人には違いない。

そのことをロゥリィに確認してから、直接加茂にも報告して二人の確保を意見具申しに行く。

しかし加茂には先客がいた。

「火威、拉致被害者の情報だ」

火威やサリメルが凍結帝国に集中している間に、城の方角から民間人らしき3人の男が避難してきたのだ。

彼らが言うには、東側の塔にマリエスの重要人物が捕らえられているらしい。

「あなた達は何処から連れて来られたのぉ?」

ロゥリィは3人に聞くと、彼らは山脈の西側にあるコルロという村から連れてこられたらしい。

この山脈に住む者は環境に適応した亜人が多いと聞いていた火威は、少しばかり疑問を持つところではあるが、地球の人間だって様々な極地に住んでいる。この男達を怪しむ理由はないのだ。

仮にピニャ・コ・ラーダがこの場に居れば、男達の中の一人がゾルザル派帝国軍についたミュドラ勲爵士だと気付くのだが、薔薇騎士団の中で唯一面識のある彼女は帝都で政務を執っている。

 

*  *  *                      *  *  *

 

氷の城の東側に位置するマクワ・ロワ塔には城内からの襲撃を警戒しながらも簡単に近付くことが出来た。

先程は、一定の距離まで魔導による遠距離攻撃をしていた城も、その前面から炎を噴き出すように破壊されてからは大人しいものである。

脱出してきた男達はアドラ、サルメ、カーバインと名乗ったが、苦労して脱出してきただろうに、塔に幽閉されているマリエスの重要人物がいる最上階まで自衛官達を案内して行くと言う。

「そりゃちょっと困るんだが……。せっかく生還した拉致被害者にもしものことがあるとマズイし」

「しかし我々も以前に捕われているシュテルン卿の下で戦った兵士だ。救出部隊に加わる義務がある」

昔病没した母親以外、リーリエの家族はマリエスにいる弟の他はこの事件で戦死しているはずだ。

氷雪山脈において彼ら以外に『卿』を付けて呼ばれる存在はなく、リーリエにとっては吉報と言える。

だが、生きていたとしてどのような状態で生きているのかも解らない。心身に重大な障害を負ってたりするかもしれないのだ。

現に「医術者がいれば同道を願う」と言われるくらいだ。

しかし彼らからは栗林の同道を願われた。女性特有の気遣いを期待してのことらしいが、栗林という人物を知る者からすれば「ノコギリで外科手術」並の要望である。

一応、外科手術にノコギリを用いることはあるのだが……さておき、シュテルン卿が自身で動けない場合は、移送する力が必要になることもあるので、栗林の同道は認められてしまった。

「ちょ…何故栗林がっ?」

医術の心得があるのはサリメルだが、サリメルは防御魔法で本隊を守らなくてはならない。リーリエもまた、親族がどのような状態になっているか解らないと柘植一佐が慮ったのと、吹雪が起きた時は本隊の命綱なので行かせなかった。

火威が救出に向かうのは、脱出してきた3人の指名でもあるが『手っ取り早く終わらせて作戦を継続させたい』意向が働いたのである。

マクワ・ロワ塔前には敵が居ないので制圧するのは容易だった。問題はそれを維持するのに神経を使うことだ。

第二戦闘団隷下の津金一尉以下、6人の自衛官と薔薇騎士団の団員4名に抑えてもらいつつ火威と栗林、そして敵城内から脱出してきた3人の男が塔を駆け上るべく塔内に侵入した。

「こちらカラミティ。塔への侵入を開始する」

塔の頂上付近に窓、ないし通気口らしき穴を確認した火威が頚を縮めるようにしてインカムに言うと南雲から返答があった。

『カラミティ』というサーヴァントは聞いたことがないので『バーサーカー』のコードネームが欲しい火威だが、そのコードネームは栗林向けだと南雲や剣崎に言われてしまった。

既に日本に『バーサーカー』のコードネームを持つ特戦群隊員がいるのかもしれないが、栗林の特戦群入りを見越しているのではないかとも心配になる。妻となる女性には出来る限り安全なポジションにいてもらいたいと思うのが火威の心境だ。

「三尉、警戒して! 罠があります!」

特に気を抜いたつもりはないのだが、栗林に注意されてしまった。実際に飛んできた仕掛罠の矢を火威が目前で掴み握り潰しているのだが、結婚したら栗林に隠し事は出来なそうである。

制圧した塔の前は第二戦闘団隷下の津金一尉以下、6人の自衛官と薔薇騎士団の団員4名に抑えてもらい、火威と栗林、そして敵城内から脱出してきた3人の男が塔を駆け上るのだがマクワ・ロワという塔は火威がアルヌスに建てた『坂の下の火威城』の3倍程の高さがある。

間違いなく特地では『高層』と言える建造物で、それを駆け登りながら途中途中で会敵する敵勢力を斃すのは生半可な体力では務まらない。

だが、火威も栗林も生半可ではなかった。

魔法が使える上に特地の神の眷属である火威が生半可というか普通でないのは言うまでもないが、その婚約者である栗林すら人間辞めちゃってるレベルである。

火威は見ていた。一撃の掌底で人間一人を斃す業を。

筋肉だけで成せる業ではない。正にWAZAMAE!! アドラら三人の男達は、互いに顔を見合わせた。

「緑の人。敵集団に足止めされた際には貴官隷下の女兵士だけでも上階に行けるのでは?」

そんなことをアドラと名乗った男は言うが

「敵地で個別行動は全滅フラグでしょ。許可できません」

先が急がれるのも解るが、味方の命も大事なのだ。アドラの進言を受け入れる訳がない。

「そりゃ!」

階段を登りきり、最上階の部屋の扉をフルグランで叩き破って部屋を開けると、予想通りに爆発性の罠が仕掛られていた。

事前にメンバー全員に防御魔法を掛けて、なおかつ火威は龍甲の鎧を装備しているから大事はない。

マフラーが少し焦げた程度でしかない。その火威の視線の先に、目隠しに縄で手足を縛られて猿轡を噛まされ、拘束されて呻いている男と彼の喉元にショートナイフを当てる男がいる。そして、それ以外に四人の男が居た。火威に注ぐ敵意に満ちた目付きを見るに、どうも味方とは言えないようだ。

「こいつがどうなっても良いのか!? 武器を捨てろ!」

「……ちゃんと受け取れよ?」

言うが早いが、投げられた大剣がナイフの男の頭蓋を叩き割りって壁に突き刺さる。それに着くようにして飛んで来た火威が四人が抵抗する前に大剣の腹で叩き伏せた。取り敢えずミッションコンプリートである。

「すぐに縄とか取りますから」

火威の後から部屋に入って来た栗林は、斃された男の骸を除けて唸り続ける男の拘束を切り払おうとナイフを出した。

「待て! 栗林。先に目隠しから外せ」

今の部屋は高い塔の最上部にある。そこに窓なり通気口が空いているのだ。囚われていた男が別の場所から連れて来られた話は変わるが、そうでないとしたら……。

唸り続ける拘束された男の目隠しを栗林が解く。

そして露わになったのは、精気を感じさせない男の顔だった。




原作であるGATEも遂に海自が主役のシーズン2ですね。
ですが抜錨編、まだ読んでないです。文庫になったら一気に読みます。登場人物は江田島さん以外は一新されてそうですが、気になります。
そしてロゥリィ・マーキュリーの中の人、種田理紗さんが遂に復帰しましたね!
こりゃもうアニメで総撃編と冥門編やるしかないでしょ!
でしょ!?

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