ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

103 / 120
ドーモ、久々に庵パンです。
久々過ぎてタイトルに大字使おうとしてました。
当方、ちょっと長らく旅行へ……。
そろそろ蝕パンと堝蛎パンも呼んだ方が良いかも知れません。


第三十話 逆進攻

ハーディという巨大な魂魄を目印にして開いたゲートから、サガルマタに帰って来たのはジゼルだ。

「どうじゃった?」

ジゼルが帰還するなり、真っ先に問うたのはサリメルだ。

「ハンゾウの読み通り。度々大量に来たってよ」

「やはりか……」

呻くようにして顔を下げて思案していたサリメルだが、そこに栗林が加わる。

「この話、南雲二佐に伝えますか?」

「あぁ、いや……しかしアルヌスは如何にも忙しそうだからのぅ。余計なことに力を割く余裕は」

そこまで言って、思い直す。

「ともかく、ナグモと話し合ってみよう。ハンゾウの“てーさつ”の結果も知りたいし」

通常なら考えられないような手法も可能としてしまった火威の事を思い、栗林は考えを巡らす。

中規模程度の国家なら、独りで殲滅できるような力を個人で持っている男が火威だ。そんな隊員を、日本政府が遊ばせておく筈がない。

栗林と火威は日本に帰還後、出来るだけ早く籍を入れることを考えているが、自衛官同士の普通の夫婦生活というのは難しいかも知れない。

「む、クリバヤシ。どうしたよ?」

少しばかり考え事をしていたのを、ジゼルは察知して声を掛けた。」

「いや、特にコレといったことは」

「そうかァ? しっかりしてくれよ」

ジゼルに言われるとは思わなかった栗林である。手袋を取り、自身の顔を両手で張って気合を入れ直す。気弱になる原因は寒さか敵魔導士の業か。

パンパン、という小気味良い音がサガルマタの一角に響くと、栗林はサリメルを追って行った。

 

 

*  *                            *  *

 

 

凍結帝国の帝都とでも言うべき無人都市の中で、火威は思案する。

氷や雪の下に存在したこの都市は、数時間前に見つけたものだ。

この近くの民家に、ダーと思しき生物は存在する。

都市の未だ探してない場所には、敵勢力や拉致被害者がいるかも知れない。現時点の火威には、可能性があるだけでも探査する価値があるのだ。

そう考え索敵・捜索を始めた矢先、サリメルを通した帰還命令が下った。

勿論、火威も地下帝都の存在を伝達しているのだが、南雲の署名が入れば命令は絶対である。

仕方無し……そのような思考を巡らせ、火威は凍結帝国を後にした。

無論、サガルマタに帰れるからといって、警戒心を忘れて気軽に帰れるものではない。

 

火威がサガルマタに辿り着いたのは30分以上経ってからのことだ。

氷雪山脈に来て以降、身体の調子が良い……というか、魔導の調子が頗る良いので、その気になって物体浮遊の魔法を使えば早く帰還出来そうなものだが、雪面に足跡を残す訳にもいかないし、ましてや飛行中に空を切る音を出す訳にもいかない。

空を切るほど速く飛べるとは思わない火威だが、かなり速さであることは自覚している。念のため自重した形であった。

 

サガルマタに帰還した火威には、サリメルが開いたゲートを使ってそのままアルヌスでの作戦会議が待っていた。

氷雪山脈はロゼナ・クランツの影響下にあるため、相談事は筒抜けの可能性があるからだ。いや、可能性ではなく、その前提で行動しなければならない。

「まだ地下帝都を調べていないんすが……」

「まぁ、聞け。それな」

氷雪山脈は冬が深まりつつある。これ以上、放っておくことは敵に力を与えることになってしまう。

何より、サガルマタにマリエスの勢力や複数の亜神が来ていること、そして火威が凍結帝国内を偵察したことは、既にロゼナ・クランツ側に知られてしまっているらしい。

「えぇーっ!ちょっと待って。隠匿は完璧だった筈なのに」

「いや、まぁ相手がただのヒトなら絶対にバレないんじゃろうがな」

以上のことを踏まえた上で、サリメルや南雲を中心に立案されたロゼナ・クランツの攻略戦の作戦立案と、その実行は火威が考えていた以上に早かった。

 

 

*  *                            *  *    

 

 

「まさか一日に二往復しなけりゃならんとは」

「ボヤくなよ。成功させれば終わりだ」

剣崎の言う通り、この作戦がロゼナ・クランツへのトドメの一撃を秘めている。成功させれば、それで氷雪山脈のような極地に用は無くなるはずだ。

「じゃあちょっとオレは兵のヤツらに気合入れておくように言っとこ」

なぞと言ってアルヌスの傭兵訓練場近くに集う帝国兵と、途中から合流した鹿を意匠としたような亜人へと行こうとするジゼル。

だがそれを止めたのはサリメルだ。

「なんでだよ?」

「中に鹿男がいるじゃろ」

途中から合流した鹿男は、体質なのか角から絶えず獣脂を分泌させているせいで妙に臭い立つ。同族や鹿の雌にはそれがフェロモンとして非常に有効なのだが、他種族にとってはニオイの公害である。

「いや、お前。そういう差別は良くない」

何時の間にやら神としての自覚でも出来たのかジゼルが意見する。

「それだけなら、そうなんじゃがな」

曰く、この鹿男は種族の中では珍しく、他種族の女をエロ目で見るらしい。

「エロ目ってオマっ……!」

サリメルの言っている意味が理解できるのが、ジゼルには少し悲しい。

火威に懸想して思えば遠くへ来たものだ。

主に文化的意味で。

「絶対に猊下にも欲情するぞ。ハンゾウの見てる前でアレやコレやされても良いのか?」

「ノスリよりタチ悪ぃーな!?」

亜神を無理矢理手篭めにしようという者は、有無を言わさず断罪対象だが問題はそれだけに留まらない。

「こいつ、平時からイタいのじゃが自分を使徒だと思ってるらしくて更に痛々しいのじゃよ」

以前から日本の漫画やラノベを読み漁っているサリメルと違い、ジゼルには「イタい」という言葉の意味が解らない。

「どういうことだ?」

「あー……そうじゃな、見ていて“いたたまれない”ということじゃなぁ」

とりあえず、気合いを入れる役割はグレイやユエルに任せた。

なぜサリメルが鹿男の事情に詳しいかだが、それは敢えて聞かない。

ミリッタの神官は娼婦の役割も兼ねているのだ。サリメルもまた、ミリッタの神官である。

 

 

*  *                            *  *

 

再びサガルマタから凍結帝国へ向かう火威の見る山脈の空に、巨大な4つの影が見えた。

「あー、やっぱし来たか」

凍結帝国の城塞、ないし塔のような二つの施設の両脇に侍る龍種の生物だ。小出しに出して来るかと思ったが、空中機動できる最大戦力で一気迎え撃ってきたようだ。

「ぎょえ~~! 古代龍っぽいのが4匹も出て来たなぁん!?」

「ヤバいなぁ~ん。厚待遇で迎え撃たれるハゲさんも凄いけどっ」

「落ち着け。落ち着くんじゃウヌらっ! こっちの“えぇす”は彼奴らより速いぞ!」

火威を目印に、アルヌスから開いた小窓の向うにいるギャラリーがやんやと騒ぐ。実家の様な安心感がある場所から徒歩で30秒以内のところに戦場があるという、本来ならば有ってはおかしい状況がHENTAI魔導士サリメルの業で現実のものとなっていた。

この状況、なんなの?

「サリさん、流れ弾が飛び込むから閉めてて! 鉱物魔法みたいなモンだし無駄使いしないで!」

「いや、この金毛はヌシと違って豊富じゃから大丈夫」

「うっさい! 危ないから閉めれ!」

ぽっかりと空中に空いた穴の中で騒ぐ人間(実際は半精霊と神だが)に気付いたのか、龍の内の一頭がそこに突っ込んでいく。

「ちょっ……あっぶない!」

サっと散ったサリメルとノスリの連中を古代龍はその牙で捉えることは出来なかった、それどころか、小窓程度の大きさのゲートを閉じられて頸を切断されてしまう。

「……オゥケイ、一つ殺った!」

火威が頑張った訳ではないが、障害が一つ減ったことには違いない。だが排除対象は未だ3つもあるのだ。その内の一頭が口内に炎を蓄えるため、龍の喉に炎が湛えられるのが見れる。

攻撃の気配というものでは無い。炎を吐く種類の龍の喉を見れば、その前兆が直前に解る。

「……!」

言うべきセリフも思い付かない程に、火威も必死である。複数の古代龍に囲まれれば、必死になるのも当然ではある。だが火威は龍の顔前に近付き、右腕の射出式ブレードを構えた。

開かれた口からは高熱の炎が吐き出されるが、何重にも重ねた火威だ。直撃したところで

「どうということは無い!」

のである。

「ふんぬりゃア!」

開かれた口の中に全力のアッパーカット。踏ん張る地面はないが、物体浮遊の魔法も駆使して龍の口の中を深く貫く。続いて起きる爆発は口内を引き裂き、頭蓋を吹き飛ばした。

そこにもう一頭の龍が襲い掛かってくる。先程の攻撃で防御魔法も弱まっているであろう火威は大剣を盾にして火威は後退。

だがそこにもう一頭の龍が追撃を仕掛けてきた。火威は立体的機動で降下し、振り切ろうとする。

その時、上空から落ちる一筋の光弾が一頭の龍の胸を貫き脊髄を破壊した。

再び開いた小窓から、超電磁砲を使っての支援射撃である。先程のギャラリーよろしくアルヌスから穿門法で開いた小型のゲートは、本来は火力支援の手段だ。

「みっつぅーッ!!」

声高らかに処理された古代龍の数を言い挙げ、そのまま残りの一頭を排除すべくアトランダムな軌道と精霊魔法で自身の虚像を複数作りだし、接近する。

この分身の術(魔法)を、未だ隊の仲間に見せる機会が無いのが残念だが、今は一刻も早く龍に殺意をぶつけて斃さねばならない。

細かな軌道で龍を翻弄し、その頸にフルグランの刃を押しあてる。

「ふっのおおォオ!!」

断ち斬ると言うより、引き切り千切るようにして龍の首を切断する。古代龍の鱗を二分できたのはフルグランを鍛えたマブチスの業か、火威の筋力か、或は山脈に多く棲むプロトンの精霊の影響か。

「今度ぁテメェらを使わせてもらうぞォ!」

龍の死体を魔法で浮かし、先程偵察した蟲人がいるであろう雪の城塞にぶつけて押し潰す。

先程、サガルマタに集う自衛官に複数枚の凍結帝国上空写真を見せた結果、この要塞が魔法陣の枠割を担っているかも知れないという。

言ったのは栗林だ。魔導の基礎も知らない彼女だが、アルヌスのゲート閉門時に暴走し、蟲獣の世界と繋げてしまったのをカトーから聞いている。

今一度カトーに聞いても魔法陣の可能性は高いというし、サリメルも同じ意見だ。

「滅殺!! SHINI・SARASEェー!!」

潰れた雪の城塞に何本もの閃光が降り注ぎ、着弾し続けて爆発する。レレイ・ラ・レレーナの義姉、アルペシオ・エル・レレーナの必殺技「ANENO・IGEN」を火威なりに改良し、破壊力を高めた魔法である。

爆炎が収まった跡には雪が吹き飛び、要塞のあった場所の地表が抉れ、地中が見えていた。

 

 

*  *                            *  *

 

 

「火威から蟲人要塞兼魔法陣破壊の知らせが入った。お前らも覚悟決めておけ」

南雲が旗下の隊員に伝えてると、栗林からグレイへ、グレイからバラ騎士団と帝国兵、そしてマリエス兵と鹿男に伝わる。

「うぅむ、ちょっと妾も本気出しちゃおうか」

今まで本気じゃなかったらしいサリメルは、何処で手に入れたんだか紙袋を手に提げて物陰に隠れた。

「急いで。これからすぐなんだから」

一瞬、グランハムが呆れたような表情を作ったかと思うとサリメルを急かす。

「なにする気なんだ?」

「戦装束に着替えるんだってさ」

ジゼルの問いに、律儀ながらに応えるグランハムの声は、心なしか疲れているようにも聞こえたという。




今回は3部の中でも前回に続いて短めですね。そろそろ終わりも近いのですが栗林が目立ってないのが悩みどころ。
4部も栗林回にしようかと考えています。
まぁヒロイン全員回という予定なのですが……。

ネット環境が無い場所にいたというのも、竿尾先生とは別口で暫くジャパリパークに行ってました。
ケモノガールのフレンズたちが可愛かったです。
たま~に厳しいことをいうけど、カバさんがキレイなおねえさんでした。
ロッヂではタイリクオオカミとシャレたおはなしをたのしんだり。
やっぱりカバさんがイチバン好きです。(肉欲的意味で)
でもアライさんはもっと好きです(ネタ的意味で)
あぁ、でもハシビロコウちゃんもステキだしライオンさんのゆるゆるな感じも好きだし……。

はて? 当方がケモフレ難民とな?
いやいや、某ランボーや某第三帝国みたいなことにはなっていませんって。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。