〈物語〉シリーズ プレシーズン 【裁物語】   作:ルヴァンシュ

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「全国各地のロリカッケー皆さん、コンバトラー! この度は、二次創作小説『〈物語〉シリーズ プレシーズン 衣物語 しるしメイク 其ノ參、其ノ肆』をお読み下さり、誠にありがとうございます! 今回ウラガタリを担当しますのは、〈物語〉シリーズプロデューサーことこの私、八九寺真宵でございます! そして、今回のゲストは!」

「いえーい、全国各地の鬼畜な野郎ども見てるー? 〈物語〉シリーズ編集担当、式神童女の斧之木余接様だぜ。ぴーすぴーす」

「さあ始まりましたよ、『ウラガタリ』第三回!」

「まだ三回しかやってないんだ。もっとやってるものかと思っていたのだけれど」

「いやいや、もう三回目ですよ斧之木さん! 『副音声』にあたるポジションとしてその場のノリだけで生み出されたこのシリーズですが、何だかんだで三回目です!」

「ふうん。上手くやれてるの?」

「勿論ですとも、何を仰る!」

「前回、何やらとんでもないトラブルがあったらしいと小耳に挟んでいるのだけれど、じゃあ、その情報は間違っていたのかな」

「トラブル? はてさて何のことやら」

「なんでも、二回目にして早速〆切を破ったようじゃないか。リアルタイム更新、やっちゃったって聞いたのだけれど」

「おやおや斧之木さん、あれはトラブル等ではありませんよ! あれは実験の一種です! ああいう風に実験的な試みを行う事で、さらなる品質向上に繋がるという寸法な訳ですよ! 分かります?」

「開き直ってるね。開き直りまくりだね」

「開き直りの伝道師、八九寺真宵!」

「キャッチコピー多すぎ。なんでもかんでもキャッチコピーにしてると、そのうちあれが怒りにくるよ」

「やめて下さいよ!? 幾ら物怖じしないことで名を馳せている私と言えども、あの現象には流石にトラウマを植え付けられているのですよっ!」

「へー。そうなんだ。よっしゃ、良い事聞いた」

「おやおや、何か良い事ありましたね、ってまだ前書きですよ!」


■ 注意事項 ■

・約一万字です。
・〈物語〉シリーズのネタバレがかなり含まれております。
・『衣物語 しるしメイク 其ノ參、其ノ肆』のネタバレが含まれます。
・台本形式です。


「とまあこんなかんじで、ゆるーく、やって参りたいと思います!」

「緩みすぎてまた前回みたいな不祥事を起こさないと良いのだけれど」

「では、『ウラガタリ しるしメイク(下)』、スタートです!」



ウラガタリ しるしメイク(下)

[011]

 

 

「おい」

 

「おや、いきなりどうしました? 第一声から穏やかじゃなさすぎですよ?」

 

「そりゃあそうだ。おい。なんだよこれ。なんで『ウラガタリ』一発目で、僕、いきなりこんなもん見せられなくっちゃあならないんだ? ふざけんなよ」

 

「おやおや~? どこかお気に召さない場面でもありましたか~?」

 

「そのムカつく態度は、まあ僕の寛容さで許してやるとして――あのさ、自分が吐いてる姿を否応なしに見せられるってさ、これ結構な虐めだぜ。虐めというか、もう惨めじゃあないか、これ」

 

「まあまあ落ち着いて下さいよ。あくまでも阿良々木さんの視点からなんですから、小間物までは描写されてませんって」

 

「そういう問題じゃねえんだよ――いやあのさ、このシーンって、多分読者のうち何割かは引いたと思うんだよね。童女の嘔吐シーンなんて、誰が得するのさ。誰も得しないし、誰も望んでないよこんなもん」

 

「決めつけはよくありませんよ? 斧之木さん。もしかしたら、童女の嘔吐が大好きなロリカッケー変態野郎だっているかもしれないじゃないですか。そうやって決めつけるのは早計というものです」

 

「何でこんなことが決めつけられないんだよ。怖いよ、怖すぎるよ現代社会。もうそれロリカッケーというか、カッケーじゃないじゃん。格好良さが微塵もないよ」

 

「まあ人間として終わってそうなのは確かですけれど、しかし私達は幾度となくそういう視線を向けられてきた、言わば歴戦の勇者! 阿良々木さんに比べれば、全然大した事ありませんよ」

 

「そうだけど……鬼いちゃんって、異常性癖のハイブリッドモンスターだもんね」

 

「あそこまで行くと、いっそ格好良ささえ感じる領域ですよ。しかもそれを私達には隠そうともしない」

 

「あいつが本性剥き出しにするのって、まあ真宵姉さんに対してくらいだよね――そこのところ、どうなの? 毎回毎回セクハラ喰らってるけどさ、真宵姉さん的にはどうなの」

 

「不快です」

 

「はっきり言ったね」

 

「まあ、確かに多少は期待しているところもなくはないですよ? ですが、それとこれとは別問題です! 阿良々木さんの変態行為にほとほと呆れ返っているのは、紛れもない事実です!」

 

「そりゃあそうだ」

 

「私は変態ではありませんので! あくまでも私は誘い受けビッチなんかではなく、ついつい人を魅了してしまう罪なセクシーガールというだけです!」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

「セクシーガールって、誰の事?」

 

「私の事ですよっ!」

 

 

 

[012]

 

 

「え? 今のでオチがついたの?」

 

「みたいですね」

 

「おいおいマジかよ。内容について全然しゃべってないよ。不味いよ、これ放送事故級だよ」

 

「大丈夫です! そこを何とかするのが、斧之木さん、貴女のお仕事です!」

 

「大丈夫じゃねえよ。丸投げしてるだけじゃねえか。僕にも出来る事と出来ない事があるんだぞ」

 

「いやいや。縁の下の力持ち、最上級のバイプレイヤーたる貴女なら出来ますよ。私が保証します!」

 

「貴女に保障されてもね」

 

「しかし貴女、【かれんオウガ】での手腕は見事の一言でしたよ! よくぞ阿良々木さんの出番をあの程度に留めてくれましたと、心の底から感謝しております!」

 

「そんなに嫌なの? 鬼いちゃんの出演が」

 

「嫌というか……いやだって、『オフシーズン』なんですよ? そりゃあ出演しちゃ駄目でしょ」

 

「でも一応あいつ主人公だし、ちょっとくらい許してやってもいいんじゃないかと思うのだけれど」

 

「お、お、斧之木さんが阿良々木さんの擁護を!? ど、どど、どうしたのですか斧之木さん!? 阿良々木さんに何かされたんですか!?」

 

「慄きすぎだろ――いや別に。あいつの語りは比較的人気があると思うからね、売上的にはかなり貢献してくれると思うのだけれど」

 

「いやいや。そうは言いますが斧之木さん。それは語り部が阿良々木さんだけだった頃の時代の話ですよ。今では羽川さんを筆頭に、結構な方々が語り部を担当していますからね。人気ランキングもかなり変動していますよ」

 

「そうなんだ。へえ。なんだよ、じゃああいつ要らないじゃん。あーあ、擁護して損した」

 

「清々しいほどの手のひら返しですね」

 

「貴重な尺をあいつの為に割いたのは、織崎記のミルクティーにマカロンをぶち込んだ並のミスだ」

 

「いや、あれわざとでしょう」

 

「失礼だな。あれは善意の行動だ。甘いものに甘いものを投入すればもっと甘くなる、つまり、必然的にもっと美味しくなる」

 

「適当な理論ですね……」

 

「僕なりに、人間の味覚と趣味嗜好を考慮してとった行動だ。とやかく言うのはやめて欲しいな」

 

「全く反省してませんね貴女」

 

「当たり前だ。僕の辞書に反省の二文字はない」

 

「やれやれ、そんなんだから月火さんにアイスを食べてる姿を目撃されて、あまつさえ魔法少女の振りをすることになるんですよ」

 

「黙れ。触れるな。それは僕の黒歴史」

 

「あれを黒歴史にしてしまいますと、斧之木さんの語り部担当作品が一つたりとも無くなるのですが、いいんですか?」

 

「別にいいさ。怪異で最初に語り部を担当したという栄誉が残れば、それでいい」

 

「いやいや、残りませんよ。【つきひアンドゥ】が黒歴史になるとすれば、怪異初の語り部担当は、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターさんになる訳で、栄誉も何も残りませんよ」

 

「なんてこった。そんなトラップが仕掛けられていたなんて。くそっ、流石あの後期高齢者を吸血鬼にした張本鬼、揃って僕の邪魔をしやがる」

 

「どうです? これでも尚黒歴史と言い張りますか?」

 

「……ちっ」

 

「はっはは! 私の勝ちですよ! ははは! これからは好きなだけ魔法少女と呼ばせて頂きますね! きゃはっ!」

 

「……あのさ」

 

「何です? 魔法少女斧之木さん!」

 

「本編の内容――全然語ってなくね?」

 

「あっ」

 

 

 

[013]

 

 

「はい、そろそろ真面目にやりましょう」

 

「だね。流石に僕も編集のしようがない」

 

「えっと、何ですか? 織崎さんの独白……うわあ、一番触れ辛いとこじゃないですか」

 

「正直この辺は何喋ってもネタバレになりかねないからね……じゃあ、前の章の話でもする?」

 

「グッドアイデアです! では斧之木さん、淡海静さんについて、専門家的視点からの詳細な解説をどうぞ!」

 

「何のためにこの章への言及避けたか、もう一回言おうか?」

 

「あくまでも斧之木さんの私見です。ネタバレにはならないでしょう」

 

「いいの? いいならまあ、言うけど」

 

「どうぞどうぞ」

 

「んー……なんて勿体ぶったけれどさ、本編の方で語った以上の事は、あんまり僕には分からない」

 

「おや。弱気ですね、珍しい」

 

「だから、僕にも出来る事と出来ない事があってだな――確かに僕は専門家を名乗ってはいるけれど、正確に言うならば、僕は専門家の式神だ。言わば偽物――どうやっても知識量は本物には劣る」

 

「偽物、ですか」

 

「まあ、偽物と言うなら、それこそあの淡海静もそうなのだろうけれど――偽の名前を名乗っているという意味でね」

 

「淡海、静……名前で縛ると言いますが、しかしどこにも"織崎記"を連想させるワードがありませんよ」

 

「名前で縛ると言うのは、何も自分の名前を使うということとイコールじゃあない。あれはある種、その名前を持つ者に従えさせる為の縛りだ」

 

「なるほど……いや、だとすれば、おかしくないですか? 淡海さんは織崎さんの従者らしいですし、これはつまり、織崎さんは淡海さんを従えさせているということでしょう? これはどういう」

 

「そこで"静"が活きてくるのかもしれない。本編でも言ったけれど、"静め"は"鎮め"に繋がる――淡海静の反抗心を、"静"の字を使って封じているのかもしれない。或いは、別の方法かもしれない」

 

「確定的ではありませんね」

 

「確定するまでは確かな事は言えない。しかも、まだ判断材料が少なすぎる。お姉ちゃん、正弦、貝木おじさん、忍野お兄ちゃん、臥煙さんあたりならこれくらいで分かっちゃうかもしれないけれど」

 

「成程……では、この議論は後回しですか」

 

「そうだね。【しずめファントム】でその辺は語られるだろう」

 

「相当先の予告ですね!?」

 

「【製物――」

 

「ちょっと! 何のためにこの章への言及を避けたか思い出させて差し上げましょうか!? ネタバレ! それ凄くネタバレ!」

 

「あ。やっべ」

 

「ああもうどうするんですか……もう殆ど言っちゃっているじゃありませんか! どうしてくれるんですか、これえ!」

 

「ごめん。編集さん、ここ、カットで」

 

「編集担当は貴女です!!」

 

 

 

[014]

 

 

「僕たちを殺そうとするとは全く許しがたい」

 

「命知らずも良いところですよね。どれだけ私達が数多くの超有能な専門家たちと知り合いか、ちゃんと分かってるんですかね?」

 

「しかも臥煙さんの殺害予告とか、命知らずなんてどころじゃあない。無謀に等しいよ。無茶だし、無理だし、無駄だ」

 

「〈物語〉シリーズ全キャストの殺害なんて、一人たりとも成し遂げられる気がしませんよ。専門家たちは言うまでもありませんし、他の方々も一筋縄ではいかない豪傑ばかりですし」

 

「殺害どころか、そもそももう死んでる奴とかもいるしね。沼地蠟花とか、貴女とか」

 

「しかし気になるのは、このリストの中にデストピアさんやトロピカレスクさん、ギロチンカッターさんが入っていないという点ですね。斧之木さん、どう見ます」

 

「そうだね。まず、最高齢吸血鬼が入っていないのは、これは単純に実力差だろうね。あの後期高齢者のことを"旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード"とは言わず"忍野忍"と言ったあたり、こいつは"忍野忍"の状態のまま殺そうとしている、つまり、最初からフルパワーモードの忍先生と戦う気はないということだ。怪異の王に勝てる訳ないし――なら、あれを生み出した吸血鬼にも手を出す気はないという心理は当然の物と言える」

 

「ははあ、成る程。単純に作者の事情とかではなく」

 

「作者の事情とかではなく」

 

「では、トロピカレスクさんとギロチンカッターさんは?」

 

「その二人はもっと単純な理由だろう。そいつらはもう現世には居ない。影も形もない。存在が消滅した奴を殺す事は、流石に出来まいよ」

 

「ははあ、成る程。流石は斧之木さん、的確な分析をなさりますね。まさに、腐っても専門家ということでしょうか?」

 

「死体だけにってか――というかさ、デストピアだのトロピカレスクだの言ってるけど、これってとんでもないネタバレなんじゃないの? 良いのかよ」

 

「まあ、冒頭の注意書きを強調しておけば大丈夫でしょう。既に発売から一カ月が経とうとしていますし」

 

「その良い訳もいい加減だけれどね……【裂物語】の時点で【業物語】のちょっとしたネタは使われている訳だし」

 

「改めて考えると、アニメのみを視聴している方にはとことんまで優しくない小説ですね、これ。原作最新刊までを読んでいる事が可読条件となっていると言っても過言ではありませんね」

 

「その辺、ハードル高いよね。文字数云々の問題以前に」

 

「では、次の章ではその辺りの対策についてじっくりと語り合いましょう」

 

「いや、本編について語り合おうよ」

 

 

 

[015]

 

 

「きゃあ、何と言う事でしょう! 斧之木さんが死んでしまいました!」

 

「元から死体だけどね」

 

「両方とも人でなし!」

 

「お前もだろ」

 

「ほうほう、ここでさっきの嘔吐が影響してくる訳ですね。そうですよね?」

 

「んー、実はその辺微妙」

 

「おや? 調子が悪いことが、糸を千切ろうとしても傷を負う原因ではないのですか」

 

「うん。調子が悪かったのはそれ以前の問題だし――仮にあの場面で気分が悪くなかったとしても、僕が例外の方が多い規則(アンリミテッド・ルールブック)を使っても無駄だったろう。それ程にあの糸は強固だった」

 

「蜘蛛の糸、ですか。まあ蜘蛛の糸って、鋼鉄を上回る強度を誇るらしいですからね。しかも怪異ともなれば、尚更ということでしょうか」

 

「そうだね。千切ろうとしても、千切られるのがオチさ」

 

「"蜘蛛"とはどういうことですか? 怪異、ということでしょうか」

 

「うん、まあ、怪異だよ」

 

「おや? 煮え切りませんね」

 

「いや、僕自身もちゃんと把握している訳じゃあないから――蜘蛛の怪異って、本当多いんだよ。あの特異なフォルム故に、蜘蛛自体が怪異と思われていた時期さえあるんだ。まだ判断材料が少なすぎる。人に憑き、糸を使う蜘蛛の怪異なんて、それだけじゃあまだ多すぎて絞り込めない」

 

「ほう。では、この話題は保留と言う事ですね」

 

「そうだね。その辺りは来週から更新開始する〈物語〉シリーズ プレシーズン 第三作【裔物語】で少し明らかになるのかもしれない」

 

「宣伝を入れてきますね」

 

「本来ならこっちの宣伝に力を入れなくちゃいけない筈なんだけどね。本家の方は、いちいちこっちで宣伝染みたことしなくても十分ベストセラーだし」

 

「宣伝と言いましても、まだあまり進んでいませんからね。宣伝のしようがないと言いますか……というか、作者がそこまで高望みしていないというのも理由の一つなのですけれども」

 

「欲がねえんだよこの作者。読者が急増したあの時、まさかの二週間何もなしの完全休載をかましやがった位だからね。多分あの休載で大半の方が愛想尽かしたよ」

 

「老倉さんに一番感情移入が出来る方らしいですからね――おっと、そろそろ作者虐めを止めましょう。作者が喜んでしまいます」

 

「自虐に喜びを感じるとか、本当に人間として終わっているけれど――そうだね、止めよう。喜ばせたくないしね」

 

「では、次の章です」

 

「其ノ參、終わり」

 

 

 

[016]

 

 

「うわ出やがった。鬼婆だ」

 

「いやいや、これに関しては貴女の意図的な事でしょう!? ここで忍さんをディスるのは如何なものかと」

 

「分かってるよ。分かってるけど、つい反射的に罵倒してしまうんだ」

 

「もう、気を付けて下さいよ。一応この『ウラガタリ』内で話した事は世に出てしまうんですから、不用意な発言は控えた方が良いですよ。今この場に忍さんが居ないとはいえ、あの方がこれを読まないとは限らないのですから」

 

「問題ない。今のあいつは所詮幼女。ロリババアだ。僕が負ける道理はないね」

 

「その割には足が震えてらっしゃいますが」

 

「僕自身の体温が冷たいからね。寒くて震えてるのさ」

 

「難儀な身体ですね……」

 

「まあ、仮に後で僕がボコボコにされるとしても、それは今じゃあない。じゃあ今のうちにボロクソ言っておくのが得策だ」

 

「怖いもの知らずというか、それこそ無謀ですよ貴女」

 

「いえーい。後期高齢者、見てるー? ばーかばーか。ぴーすぴーす」

 

「織崎さんが手を出すまでもなく殺されそうなんですが!?」

 

「言うだけならタダだ。へーいへーい、悔しかったらここまで来てみろよ。無理だろうけどな。やーいやーい、金髪やーい」

 

「止めて下さい! 挑発しないで下さい! 本当に来たらどうするんですか!?」

 

「大丈夫さ。どうせこのウラガタリスタジオに這入って来る事なんて出来」

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!

 

「ひえっ」

 

「斧之木さああん!! 今すぐ謝って下さい!! このドアを連打している方が何者かは知りませんが、謝って下さいっ!!」

 

「いやあ、もう無駄だね。これは」

 

「ど、どうして嗅ぎつけられたのでしょう!? これ、あの方ですよね! 絶対あの方ですよね!?」

 

「どうやら時間が無いようだ。こっからはマジで巻きで行こうぜ」

 

「少しは反省して下さいっ!!」

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!

 

 

 

[017]

 

 

「やーいやーい、若作りババア」

 

「これ以上刺激するの止めて下さいます!?」

 

「僕は本編の台詞を引用しただけだ」

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!

 

「ひぃぃっ!? お、斧之木さん、本当に止めて下さい! このままでは、私までやられてしまいますよ!!」

 

「いいじゃねえか。地獄まで道連れだぜ」

 

「地獄とか私にとっては洒落になってないので止めて下さいよっ!!」

 

「大丈夫。所詮あいつに出来るのは、ドアを叩いてこの『ウラガタリ』を妨害する事だけだ。取るに足ら」

 

『聞こえ取るんじゃぞオノノキぃ!! これ以上儂の悪口を言えば、あらゆる手段を用いてうぬを甚振ってから惨たらしく殺す!!!』

 

「ひえっ」

 

「とうとう声まで聞こえてきましたよ!?」

 

『ついでにそこにおる迷子娘も巻き添えにして殺す!!!』

 

「ひぃぃぃぃ!!? 謝って!! 謝って下さい!!」

 

「嫌だ。僕は絶対に謝らないぞ」

 

「変な強情さを発揮するの、止めて下さいます!?」

 

「大丈夫。声は聞こえても実際に這入って来る事はないだろうし。問題ない問題ない」

 

「いや問題しかないですよ……どうやって帰るんですか。帰れませんよこれ。帰りを狙って殺しにかかってきますよ」

 

「その時は、一緒に逝こう」

 

「嫌ですよ!!」

 

『無事に帰れると思うなよ!! 否、無事に『ウラガタリ』を終えられると思うなよ!! 前代未聞の三人語りを実現させてやるわ!!』

 

「怖いです!! 殺気が既に部屋の中に侵入していますっ!!」

 

「真宵姉さん。腹括ろう」

 

「貴女の所為ですよ斧之木さんっ!!!」

 

 

 

[018]

 

 

「不味いですよ……今回無茶苦茶じゃあないですか……どう責任とってくれるんですかこれ」

 

「僕に罵倒させる隙を作った忍姉さんが悪い」

 

『その舌『心渡』で切り裂いてやる!!』

 

「やれるものならやってみろ。その頃には貴女は八つ裂きになっているだろうけどな」

 

「何でそんな強気なんですか貴女……?」

 

『ほう、八つ裂きを所望するか! よかろう! ならばまずはうぬの手足を一本一本引き千切り、その舌も引き千切ってから殺す!!』

 

「斧之木さん! ご自分の未来の事も考えて下さいっ!」

 

「お前もな」

 

「何でそんな偉そうなんですかっ!?」

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!!!!

 

「うわああああああああっ!!!」

 

「次の章行こうか。巻きで行こう」

 

「ま、待って下さい! まだここの内容について何も話していません!」

 

「本編も今の状況と似たようなものじゃあないか。僕と忍姉さんが口論してるだけだ。特筆する事なんて何もない」

 

「開き直ってますねえ! 開き直りまくりですねえ!!」

 

「ただ一つだけ言っておくと、忍姉さん。貴女がミスタードーナツのイメージキャラクターになった場合、売り上げは激減するだろう」

 

ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!!!!!

 

「斧之木いいいいいっ!!!」

 

「うわっ、真宵姉さんのタメ口なんて初めて聞いた」

 

「なんなら私手ずから貴女の舌を引き千切ってやってもいいんだからな!! 今私は、本気でキレてるんだからな!!」

 

「ごめん。次の章行こう」

 

「次は大人しくして下さいね!!」

 

 

 

[こよみクラム]

 

 

「鬼いちゃん、かっけー」

 

「身体を張って斧之木さんを助けるなんて、本当、男気を見せる時は見せるんですよねえ。今までの変態行為を全てチャラにしたくなる程度の格好良さがありますよ」

 

「そして復活した僕も格好良いね。今までの無礼行為が全てチャラになるくらいに」

 

『チャラにならんぞ!!!』

 

「くそっ」

 

「まず貴女、謝りましょうよ。一言たりとも謝罪の言葉を口にしてませんよね、貴女」

 

「僕がこいつに謝罪するなんてありえない。だが、ハーゲンダッツを僕に献上すると言うのであれば謝ってやってもいい」

 

「上からですねえ!」

 

「聞いたか、忍姉さん。今すぐハーゲンダッツを持ってこい。1ダースから議論してやる」

 

「貝木さんみたいなことを……」

 

『うぬの身体をハーゲンダッツにしてやろうか!!!』

 

ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!!!!!

 

「あいつ、何訳のわからない事言っているんだろう。僕の体がハーゲンダッツになる訳なんてないのに、馬鹿な奴」

 

「冗談抜きで死にますよ貴女」

 

「もう死んでる」

 

「そういう問題ではなくてですねっ!!」

 

「まあまあ、あんな乱入者は置いておいて、真面目な話をしよう」

 

「私はかなり真面目に私達の未来を憂いているのですが」

 

「なんかこの章だけ【こよみクラム】なんてサブタイトルがついているけれど、これは何で? きっと読者の大半が思っているよ。貴女、知ってるでしょう?」

 

「えっとですね。まず一つ、これは本来のタイトル【しるしメイク】に含まれていない怪異である蛤さんが中心となる回だからです」

 

「貝だけにってか」

 

「舌ひっこ抜きますよ」

 

「悪かったよ。で、他の理由は」

 

「二つ目が、まあ、今後の伏線の為ですね。はい」

 

「成る程。追求しちゃあ駄目なやつか」

 

「その通りです」

 

「了解。じゃあ、次行こうか」

 

「……忍さんが急に静かになったのが、非常に気になるところなのですが」

 

 

 

[019]

 

 

「ヒューッ!! 私、格好良いーっ!!」

 

「悔しいけど、本当格好良いね。ここの真宵姉さん。神様の風格ばっちりだよ。こんなの見せられたら誰だって信仰しちゃうよ」

 

「いやあ、それ程でも、ありますがねっ!! ははは!!」

 

「まあ、このシーンだけを抜き取ればの話だけれどね。普段の貴女を知っている僕としては、まず間違いなく絶対に貴女の信者になる事は無いだろう」

 

「えー」

 

「残念だったな。僕は何も信仰しないぜ」

 

「でも斧之木さん、私が神になってからというもの、結構私に助けられていませんか? ほら、【つきひアンドゥ】で」

 

「やめろ。やめろ。あれは僕の黒……」

 

「黒? 黒、なんですか? まさか、黒歴史とでも言うつもりですか? 言っちゃうつもりですか!?」

 

「……忍にお前を生贄に捧げたら、僕助かるかもしれないな」

 

『助からんぞ。死なす』

 

「ちえっ」

 

「神を生贄にするとか、罰あたりもいいところな発想ですね」

 

「なんか妙に黙ってやがるから、もうあいつ居なくなったと思ってたんだけどなあ。やれやれ、現実ってのはそうそう上手くいかないってこと、かな」

 

「格好良さげなことを格好良さげに言うのやめてくれませんかね」

 

「ロリカッケーだろ」

 

「いえ、ただのロリです」

 

「忍姉さんこそただのロリだよ。偉そぶっているロリババアさ」

 

「まだ言いますか貴女……」

 

「やーいやーい。悔しかったらここまで這入っておーいでー」

 

「止めて下さい刺激しないで下さい!!」

 

『よかろう』

 

「「え?」」

 

ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!! ガンッ!!! ガンッ!!! ガンッ!!!! ガンッ!!!! ガンッ!!!! ガンッ!!!!! ガンッ!!!!! ガンッ!!!!! ガンッ!!!!!!

 

「「――――っ!!!」」

 

(それは、余りに途轍もない光景でした。

(凄まじい音が連続で響いたかと思うと――絶対に破壊不能の筈の扉が、ひしゃげ、大穴が開いたのです。

(そして、大穴から、この部屋に這入って来たのは――)

 

「し、し、し――し、忍、さん?」

 

「……うっわ」

 

「かかっ――さっきからロリだのロリババアだの好き勝手言ってくれたのう、オノノキ。さあ、この姿を見てまだ言えるか? この鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに、まだ言えるか?」

 

 

 

[020]

 

 

「は!「はは!「ははは!「はははは!「ははははは!「ははははははっ!「ははは!「はは!「はははっ!「はははははは!!」

 

「ああもう……無茶苦茶ですよ……」

 

「ごめんね忍。僕、今日はもう貴女の悪口を言わないよ。だからねえ、踝を掴んで持ち上げるのを止めてもらっていいかな」

 

「断る」

 

「そっかあ」

 

「あの……忍さん、その姿は?」

 

「かかっ。儂もよく分からんが、まあこの空間ではなんでもありということじゃろうよ。かかっ!」

 

「は、はあ」

 

「さあ、どうした? 続けよ。さっきまで通り『ウラガタリ』を進めるがよかろう」

 

「じゃ、じゃあ……やりますか? 斧之木さん」

 

「やりたいのはやまやまなんだけどさ、この状態だとどうしようもないんだよ。ねえ忍さん。降ろしてよ」

 

「ならん」

 

「そっかあ」

 

「すみません斧之木さん……流石の私でも、全盛期の忍さんを操る事はとても出来ません。自業自得と思って、このまま続けましょう」

 

「お前も大概鬼だな」

 

「えっと、何でしたっけ? 織崎さんが逃げたところでしたっけ?」

 

「やれやれ、みすみす逃してしまうとは情けない。儂が今のように全盛期状態であれば、奴らなぞに遅れをとることはなかったものを」

 

「そうだね。全盛期の貴女は凄いもんね。格好良いもんね。最強だもんね。ほら、褒めたんだから降ろしてよ」

 

「ならん」

 

「そっかあ」

 

「……つ、次行きましょうか」

 

 

 

[021]

 

 

「最終章ですね」

 

「【衣物語】最終章でもあるね」

 

「僕が鬼いちゃんに言ったあの発言の答え合わせだね。まさかあれを本気でとらえた読者は居ないだろうよ」

 

「とは言え、シチュエーションがシチェーションですからね。吊り橋効果というものもありますし、全員が全員騙されなかったという事はないでしょう――無理がありますけれども」

 

「しかし鬼いちゃん、彼女持ちの身であの動揺とか、マジ引くわ。あの人誰かと結婚したとしても、いつか浮気するんじゃないかな」

 

「今の時点で似たようなものですからね。幾ら阿良々木ハーレムが崩壊気味とは言えど、それでも二股かけているようなものですし」

 

「へえ。じゃあ忍さん、邪魔だね痛い痛い痛い痛い痛い」

 

「ああん? 何か言ったかのう?」

 

「嘘です嘘ですマジごめん痛い痛い痛いやめてよ」

 

「ふん、最初から殊勝な態度をとっておればいいものを」

 

「泣きたい」

 

「自業自得です」

 

「鬼。蝸牛。神」

 

「それは悪口なんですか?」

 

「悪口じゃあない。事実を述べているだけだ」

 

「私も事実を言ったまでですよ――というか、私を身代わりにしようとしておいて擁護してもらえると思わないで下さいよ」

 

「世知辛いなあ。僕達親友だろ? 何か良い事あったんじゃなかったのかよ」

 

「まさか忍さんを呼び寄せてしまうとは想定外だったんです……私は強い方につく奴ですので!」

 

「あとで痛い目見せてやる」

 

「忍さん」

 

「ごめんね真宵姉さん」

 

「いいでしょう。苦しゅうないです。ははは!」

 

「何だこの地獄は」

 




「では不肖私からお別れの挨拶を。この度はウラガタリをお読み下さり、ありがとうございましたっ! いやあ、今回は前回の様な失態もなく、見事終える事が出来ましたね! 斧之木さん!」

「お前この収録終わったらすぐに病院行け。いいとこ教えてやるから」

「え? 私、別にどこも悪くないですよ」

「その性格が悪いっつってんだよ」

「しの」

「ごめんって。やめろよ、僕もう心が折れちゃうよ。バッテンマークの目になって泣いちゃうよ。【つきひフェニックス】の時みたいに」

「かかっ。あの時も儂にフルボッコにされたんじゃったのう? どうじゃ、今の気分は」

「最悪だ。これ以上なく最悪だ」

「まあ、これに懲りたら人の影口を止める事ですね。斧之木さん」

「おのれ、正論を言いやがって。お前今大分良い気になってるな」

「あ、分かりますー? ふふん、あの斧之木さんに対して圧倒的優位に立てるのですから、こうなるのは当たり前ですよ! 当然です!」

「じゃあ言ってやる。お前、次のウラガタリ担当誰か知ってるか?」

「ええ、勿論ですとも! 私と、しの……ぶ……さん」

「かかっ」

「…………」

「凄い顔になってるね。壮絶だぜ、今のお前」

「……ロ、ロリ姿、なんですよね?」

「さあ、どうじゃろうなあ」

「わ、私は、忍さんの味方ですからね! ね!」

「お前本当汚ねえな。流石蝸牛」

「汚いとか汚くないとかそういう話ではありません! 私の生死がかかっているのだから当然でしょう!」

「ざまあみろだぜ」

「誰の所為でこうなってるとお思いですか誰の所為で!!」

「なんでもかんでも人の所為にするのはよくないよ、真宵姉さん。それに僕は自分に正直に生きているだけだ。或いは死んでいるだけだ。貴女たちみたいな嘘吐きじゃあないのさ」

「うぬも今回で儂らの仲間入りをした癖に。『くらやみ』的な意味での」

「あっ、くそっ。そうだった。やっちまった」

「かかっ! 無様じゃのうオノノキよ! 手も足も出ぬとはまさにこの事じゃのう!?」

「くそう。お前のどこが美しいんだ。何がうつくし姫だ――」

「…………」

「あっ」

「……うぬ、儂の逆鱗に触れたな」

「……ごめん、忍姉さん」

「……こ、今回のウラガタリ、お相手は、な、なにも良い事がありそうな気がしません、八九寺真宵と」

「何か良い事あったらいいな。斧之木余接でした」

「最後に何か、言い残す事は?」

「…………」

「…………」

「…………」

「……やーいやーい、後期高齢者」

「死ね」

「ぐえっ」

「斧之木さーーーんっ!!!」

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