〈物語〉シリーズ プレシーズン 【裁物語】   作:ルヴァンシュ

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 時系列は【ひよりブレード】直後。

■ 以下、注意事項 ■

・短々編です。
・〈物語〉シリーズ、アニメ未放送分のネタバレを含みます。
・他、何か有れば書きます。

■ 黒齣 ■


歴物語(短々編集)
第神話 まよいカースト


[001]

 

 八九寺真宵の為に奔走するというのは、実は僕にとって結構よくあることなのである。あの慇懃無礼な大親友は、結構な割合で厄介ごとを持ってくる。いや、持ってくるというとあいつが悪いように聞こえるけれども、実際のところ殆ど僕が自分から首を突っ込んでいる訳で。

 僕は、別にそれを苦には思ってはいない。寧ろ光栄とさえ思っている。何せ彼女は神様なのだから。

 蝸牛の神。

 敬うべき存在――地縛霊、浮遊霊ときて神霊とは、凄まじいまでの階級特進だ。

 

 と、ここまでだとまるで僕が八九寺に阿っているように聞こえるかもしれないけれど、全然そんなことはない。何せ僕と八九寺は一切の遠慮がない仲なのだから――そういう意味では、一番の大親友と言えるほどの仲なのだから。

 光栄と思っているのは、だからそこなのだ。あの人見知りであるところの八九寺が、僕を友達としてくれていることが、何よりも光栄だ。神様だから、とか、そういうのは後付けでしかないのだ。

 だから今回の件に僕が絡んだ――八九寺に言わせれば「一枚噛んだ」のは、こういう理由だ。理由が無いのが理由。

 何せ僕の大親友が虐められているなんて、そんなこと、あいつの大親友として、看過できる訳がないのだから。

 

 

[002]

 

 日和ちゃんとの決闘を無事乗り越えた、その直後の話である。僕たちは扇ちゃんから拝借した車に八九寺、日和ちゃんを乗せ、北白蛇神社へと帰った。

 帰ったとは言うが、あくまでもそれが帰路だったのは八九寺と日和ちゃんであり、僕にとっては帰路ではなく、次なる目的地へと向かう路程であった。

 

「しかしこの車というものは凄いですね! 馬も牛も使わないのに動くなんて……からくりの進歩を感じます! いたく感動しました!」

「君が言うか日和ちゃん」

 

 さて、決闘へ向かう道中では全くと言っていいほど会話がなかったのだが、それが嘘であるかのように車内は賑やかだった。

 

 日和ちゃんは車を知らないらしく――生まれた時代を考えれば当然ではあるが――その騒ぎようと言ったら並大抵のものではなかった。車体の観察だけに10分程度を費やしたという衝撃の事実から察してほしい。

 別に、僕はその件について悪い気はしていない。賑やかなのはいいことだし、何より日和ちゃんが笑顔になってくれるのは、僕の本望だ――本望なのだけれど。

 

 しかし、いまいち如何ともし難いのが、日和ちゃんが夢中になっている車は、これは僕の愛すべき愛車であるニュービートルではなく、扇ちゃんの車である、漆黒のフォルクスワーゲン・ザ・ビートルであるということだ。

 扇ちゃんめ。

 

 余りにも酷い八つ当たりなのは百も承知だが、この車が、僕のでなくても、よりにもよって扇ちゃんの車であるということに嫉妬心を覚えなくもない。もしもここまでが扇ちゃんの計画だとするならば、僕は完全敗北したと言えよう。舌戦だって、実際は勝利したとは言い難いのに、更に勝利を重ねてくるとは、流石扇ちゃん、死体蹴りに余念がない。

 

 そんな訳で(どんな訳だ)、心ゆくまで外観を観察した後、漸く日和ちゃんが車内に乗ってくれた。僕は日和ちゃんを後部座席に乗せ(例に漏れず助手席に乗りたがったが、だから僕の運転技術では助手席に誰かを乗せるなんて荷が重すぎるのだ)、ついでに八九寺も乗せてやり、北白蛇神社へと車を走らせたのである。回想終わり。

 

「ちょっと待って下さいはにゃらぎさん。どうして私がついで扱いなんですか。神様であるところの私をついで扱いするとは、随分と軽んじて下さいますね」

「別にお前を軽んじてはいないけれど、しかし八九寺。僕のことを、言葉を学習していく王子の埴輪の口癖みたいに呼ぶな。僕の名前は阿良々木だ」

「失礼、噛みました」

「違う、わざとだ……」

「かみまみた」

「わざとじゃない!?」

「埴輪居た」

「居てたまるか!」

 

 とは言うものの、一度兜を轢いてしまった身である、バックミラーやサイドミラー、フロントガラスなどから念の為確認したが、埴輪はどこにもなかった。

 

「だって八九寺、お前、神通力とか何かそういうかんじの神様パワーで帰れるだろ?」

「何ですかその設定! そんな設定私にはありませんよ! 私はただ蝸牛と蛞蝓を統べる神様というだけです!」

「いいや、あるね。お前なら出来る。出来るさ」

「そんな根拠がどこにありますか!?」

「根拠? おいおい、神様がそんな理屈を求めるなよ。俗っぽいぜ」

「何故か怒られました!?」

 

「八九寺お姉ちゃんそんなことも出来るんですか!? 是非見せてください! 出来るだけすぐに!」

「日和さん!? この男の言うことに騙されてはいけませんよ! こいつはとんでもない詐欺師ですからね!!」

「おおっと!? 聞き捨てならないな! 僕を詐欺師扱いするな! 変態扱いならまだしも、詐欺師扱いだけは絶対に止めろ!!」

「そうですか! では今日から貴方はロリコン野郎の変態です!」

「あ、やっぱ変態扱いも止めて!」

「では最低のチキン野郎です!」

「チキン野郎も止めろ! 僕をチキンと言うな、鶏なんかと一緒にするなあ!!」

 

 鶏と聞くと、つい先ほどまである意味苦しめられたあの怪異が脳裏を過るのだ。そう言えばあれ、結局何て名前だったのだろうか。

 

「鶏と言えば、あたい、ケンタッキーなる場所を聞いたことがあります! 行ってみたいですねー」

「どこで聞いたんだ……いやまあ、僕としては日和ちゃんの期待に応えたいのはやまやまなのだけれど、懐がだな……」

「懐刀?」

「響きは似てるけど違う」

「なるほど、お金の問題ですか……では仕方ありませんね。でもいつかは連れて行ってくださると嬉しいです」

「お、おう」

 

 返事はしたのだけれど、この辺りにケンタッキーの店舗は残念ながら存在しない。この田舎町にあるファーストフード店は、精々ミスタードーナツとモスバーガーくらいである。

 ど田舎なのだ。

 

「そう言えば、その"ど"って何なんでしょうかね? 超弩級の"弩"なのでしょうか?」

「おいおい、日本語のプロが知らないことを僕が知ってる訳ないだろ。しっかりしてくれ八九寺」

「……貴方、高校卒業生ですよね?」

「受験勉強の中に"ど"の由来なんて含まれてねえよ」

「日和さんは知ってますか?」

「申し訳ありません。あたい、世の中をあまり知らなくて……」

「あ、いえ、恐らく大半の方が存じ上げていないことと思いますので、別に気にしなくても」

「このあたいとしたことが、お兄ちゃんやお姉ちゃんの役に立てないなんて。いたく心苦しいです」

 

 因みに、後で羽川に聞いたところによれば、どうやらど田舎の"ど"は超弩級とかの"弩"とは違うようで、軽蔑や罵るといった意味を付加する働きを持つ接頭語らしい。へえ。

 

 とまあこんな感じで、そうこうしながら走行しているうちに、無事に僕たちは目的地に到着した。

 北白蛇神社である。

 八九寺の家であり、そして今日からは日和ちゃんの家でもある場所――僕は車を元あった場所にも停車させ、車から降りた。

 

「…………」

 

 僕たちは階段を上る。

 

 階段には、大量の落ち葉が敷かれていた――否、ばら撒かれていた、と言った方が正しいのだろうか? 八九寺が言っていたことが本当なら、この季節外れの落ち葉は、八九寺を虐めているという許し難い神様の仕業らしいが。

 仕業というか、御業というか――しかし御業と表現するには、どうもスケールが小さい。いや、こんな大量の落ち葉を、階段が見えない程になるまでばら撒くというのは、とても人間業とは思えないものではあるが、かと言ってこれが神の仕業とするならば、なんというか、小さい。

 なんだか、小学生レベルの悪戯のように思えてくる。いや、確かに規模は小学生レベルどころか、だから人間レベルを遥かに超えたものなのだけれど、発想が小学生レベル過ぎる。

 言っちゃあ悪いが、そんな低レベルの神が八九寺を虐めているのだと思うと、腸が煮えくり返る思いになる。煮えたぎった腸でビンタしたくなる。

 

「腸ですか。日和さん、阿良々木さんの腹を掻っ捌いてやってください」

「了解しました」

「待て待て待て待て!! そんなことしたら先に僕が死んじゃうよ!」

 

 酷いことを平然と言いやがる。怒りが八九寺の方に向きそうだぜ。

 しかも日和ちゃん、本当に刀の切っ先を僕に向けている――完成形変体刀が二本、斬刀『鈍』と、絶刀『鉋』。なんでも斬れる刀と、なんでも斬れない刀である。

 

「つーか日和ちゃん、そんな命令聞くなよ!」

「ほう。それはどうして」

「ど、どうしてって……」

「答えられないのですか?」

「いや、普通に考えて……え、何? 日和ちゃんどうしたの?」

「あたいの力が及ぶ限り、八九寺お姉ちゃんのお達しは聞き入れていくつもりなので」

「僕の命令は!?」

「聞きません」

「なっ!?」

「はっはっはっは!! 分かりましたね阿良々木さん!! これからはパワーバランスが逆転しますよ! この私にセクシャルハラスメントを働こうものなら、この頼れる日和ちゃんが、貴方をぶった切ります!!」

「逆転どころか、今以上にパワーバランスが崩壊するよ!」

 

 つーか今の段階で、そこまで僕が優位に立っているという訳でもなかった。神様と吸血鬼もどきの人間とか、もう肩書きの時点で僕は八九寺に劣っていたようなものなのだが。

 

 そんな感じで。

 冗談混じりの雑談を交わしながら(冗談だよな?)、僕たちは北白蛇神社の階段を上り切ったのだった。

 

 

[003]

 

 上り切った筈だった。

 

 少なくとも、社へと続く階段は、間違いなく――上り切った筈だ。僕は何度もこの神社を訪れているから、ある程度どれだけ上れば辿り着けるかは覚えているし、八九寺に至ってはここに住んでいる。だから、間違える筈がないのだ。

 なのに、今、僕たちの目の前には、本殿の真前には、真っ白に輝く透明の階段が、遥か遠く、天の彼方に向かって伸びていたのだ。

 

「おや、いつの間に工事が行われたのでしょう? 鬼の居ぬ間に、ではなく、神の居ぬ間に工事とは、不届き者もいたものです!」

「いや、どう考えても工事じゃねえだろ、これは」

 

 工事なんかでなんとかなるような問題ではない。そもそも北白蛇神社の本殿はこの山の頂上にあり、これ以上階段を増やすなんてことは、山そのものを大きくしない限りは不可能なのだ。

 

 僕はその階段に近付いた――透明とは言えど、それは全く形が見えない訳ではなく、言わばガラスのような階段である。透き通る階段を通して、向こう側の本殿が見えた。

 

「……十字架?」

 

 階段を見て、僕は呟いた。

 よく見ると、階段には十字架の模様が描かれていた。余すところなく、階段を埋め尽くすようにして。

 

「なんで十字架が?」

「神様っぽいと思ったんじゃないですか。ほら、神様と聞かれて最初に連想するのはキリストさんですし」

「曲がりなりにも日本の神様なんだから、せめて天照大神とか、日本の神様を連想しろよ」

「はい? ああ、目玉のお袋さんですか」

「何だその呼び方」

「だってあの方、伊邪那岐さんが左目を洗った時に誕生したそうじゃないですか。あの親父さんと似てるじゃないですか!」

「全然違うだろ! 左目しか共通点ねえよ!」

「とても私には、あんな引きこもりを最初に連想するなんてことは出来ませんね。あんな豆腐メンタル、八百万の神様の風上にも置けません!」

「お前が虐められてる理由、なんとなく分かったよ!」

 

 下位カーストじゃなくたって、そりゃあ反感を買うわ。つーか、悪戯程度で済んでいるのが不思議である。

 

「それにしても、きらきらとして美しいきざはしですね。今のわざはこんなに進んでいるのですか」

「きざはし?」

「あ。えっと、あれのことです」

「ああ、(きざはし)――いや、今の技術はこんなにも進んで……るかもしれないけれど、少なくとも、この町にそんな職人さんは居ねえよ」

 

 居たとしても、こんな場所にある神社にまでわざわざやって来ないだろう。竹林に囲まれた本殿に、洋風というか、如何にも"聖"を前面に押し出したような階段なんて、似合わない。ある意味、嫌がらせのようなものである。

 だから、一番可能性が高いのは、元々あった階段に落ち葉をばら撒くとと言う陰湿なことを仕出かした、八九寺を虐めているという神がこの階段を作ったという可能性である。落ち葉と同じく、景観を悪くするためにこの階段を設置したと考えれば、ありえない話ではない。

 

「ただ、じゃあなんで十字架なんだ、って話だが」

「もしかして、海外の神様なのでしょうか? 態々こんな極東の島国にまで出勤してくるとは、ご苦労なものですね」

「海外の神様……」

 

 成る程、有り得る。と言うか、それしか考えられない。日本由来の神様が、海外由来のシンボルを使用するとは考え難いからな。

 

「……そうだとすると、どうしてその外から来た神様は、このようなきざはしを作ったのでしょう? あたい、気になります」

 

 日和ちゃんが言った。

 そう。犯人が海外の存在であるということが分かった以上、これ以上考えてもその犯人に一撃をお見舞いすることは出来ないということであり、では次に考えるべきは、どうして犯人は、この階段を設置したのかということだ。

 

「見栄えを悪くするにしても、どうしてきざはしを選んだのでしょう? やっぱり、何かわけがあるのでしょうか」

「まあ、あるでしょうね」

 

 景観を悪くするためだけが目的ならば、態々階段を置く必要はない。それこそ、落ち葉を更にばら撒けばいいだけの話だし、それでも足りないというのであれば、そこら中に十字架をばら撒けばいい。なのにそれをせず、こんな大掛かりな階段を設置する。

 

「私を本殿に入れないようにするため、ですかね?」

「いやあ、そうだとするなら、本殿の入り口あたりに、何らかのプレートとか、そういうのを置いておけばいいだけの話だろ?」

「標識。はあ、まあ確かに。アニメ化物語でゲスト出演されていた、あの工事中の看板のようなものを」

「何故それを連想した……」

「あれもめっきり使われなくなってしまいましたね。まあそんなものを置かれたところで、私は怯みませんが」

「うん。だから、一例だよ。こんな大掛かりなもんを設置しなくてもいいって話」

「あ、でもアニメ暦物語第2話に登場するあの阿良々木さんに似た看板! あれを置かれると少々怯んでしまいますね……」

「なんで僕の看板だったら怯むんだよ! つーか、宣伝っぽいことしてんじゃねえ!」

 

 確か僕の記憶が正しければ、本編の方ではこういった宣伝染みた行為は控えるという話だった筈である。早速破るのか。

 

「いえいえ阿良々木さん。これは短々編であり、歴物語ですよ。本編でもなければウラガタリでもない、第三のコンテンツです!」

「第三のコンテンツ?」

 

 なんだろう、第三のコンテンツというと、どうにもこう、完全版商法のようなものを感じてしまうのだけれど。

 

「完全版商法というか、番外編商法と言いますか。この短々編集のポジションを例を挙げて説明しますと、〈物語〉シリーズ初のドラマCDであるところの【佰物語】、或いは、現在絶賛上映中の【傷物語I】で配布されている【混物語】のようなポジションであると言えば、分かりやすいでしょうか」

「また微妙な……」

「これらのように、本編とは言い辛い、けれども副音声とかとはまた違う、そんな第三のコンテンツがこれらであり、それと同じく、本編とは言い辛い、けれどもウラガタリとはまた違う、そんな短々編が、この歴物語です」

「だから本編でのルールは通用しない、と」

「はい。こちらでは宣伝ネタは解禁されておりますが、作者ネタは依然として禁止ですので。作者ネタが見たい方はウラガタリを見てください」

「居ないと思うけどな」

 

 ふーん。

 まあ、どちらにせよ、メタ発言はどれにでもあるので、人を選ぶのは変わらないけれども。

 

 閑話休題。

 

「まあそんなメタ的な話は置いておいて、現実を見ようぜ」

「阿良々木さんが日和さんを押し倒しているという、どう見ても18禁な現実を見ろというのですか?」

「やめろ、出鱈目を言うな」

「や、やめて下さい阿良々木お兄ちゃん! あたい、まだ花を散らしたくありません!」

「やめろ! 出鱈目を言うな!」

 

 釈明しておくが、僕は決してそのような行為に及んでいない。そもそも日和ちゃんを押し倒してなんていない。全てが八九寺と日和ちゃんの出鱈目である。日和ちゃんもノるなっつってんだよ。

 

「ふふふ、文字だけというのは実に恐ろしいものですね。阿良々木さんがどのような釈明をしたところで、実際はどちらなのかは誰にも分かりませんよ!」

「く、くそう! 猪口才な!」

 

 つーか、メタ発言は置いといてって言ったのに、全然置いてねえじゃねえか! メタもメタ過ぎるわ!

 

「はっはっは! さあ阿良々木さん! このまま性犯罪者としてその名を轟かせるが良いですよ!! はっはっは!!」

「てめえ、僕に何か恨みでもあるのか!?」

「恨みというなら恨み骨髄ですよ! 骨髄どころか延髄にまで染み込むほどです!」

「僕が何をした!?」

「セクハラ」

「真顔で言うなよ! あれはスキンシップだ!」

「違います、あれはセクハラです。誰が何と言おうと性的嫌がらせですよあれは。訴えたら多分私、勝訴出来るほどに」

「そ、そんな……」

 

 僕はがっくりと膝をついた――嘘だろ? お前、そんな風に思ってたの……?

 日和ちゃんの目線が痛い……って待て待て、なんで? 何で僕、敗北した加害者みたいになってんの? 僕どう考えたって被害者なんだが。つーか、虐めだろこれただの!

 

「虐めではありません。惨めです!」

「お前虐められてるストレスを僕に向けて発散してるんじゃあねえだろうな!?」

「あ、そうでした! 私虐められてましたっけ」

「もうこの件放置していいな!? もう僕帰っていいか!?」

「いや帰っていいかも何も、付いてきたのは阿良々木さんの勝手じゃないですか!?」

 

 まあね。

 ほっとけないからね。

 

「あーもう、どうすればいいですかこれ! というか、何で階段なんですか! どこに続く階段なんですかこれー!」

「癇癪を起こした子供かお前は!」

 

 じたばたする八九寺。じたばたしたいのはこっちだよ畜生。

 

 ……ん?

 どこに続く階段――ああ、そうだ。

 

「……ちょっと、この階段上ってみようか」

 

 僕は透明な階段を見て言った。

 階段というのであれば、必ずその先がある筈である。どこへ続くのか(・・・・・・・)――盲点だった。

 

「え? でも阿良々木さん、階段を上れるのですか?」

「お前僕を舐めすぎだろ」

 

 下に見過ぎである。僕を赤子が何かと勘違いしているのではないだろうか。

 

 僕は溜息を吐き、階段に足を掛けた。

 が。

 

「痛っ!?」

「阿良々木お兄ちゃん!?」

 

 すぐに僕は足を降ろした――な、何だ? 階段に足が触れた瞬間、足裏に電気が流れたかのような感覚を覚えた。

 どういうことだ? と、僕は階段に目を降ろしたが、そうだ、十字架だ。階段には、十字架の模様が描かれている。

 十字架。それは、吸血鬼の苦手なものの代表格。しまった、完全に失念していた。

 

「ほら、だから言ったじゃないですか。上れるのか、って」

「あ、ああ。確かに……」

 

 これは僕に落ち度がある。十字架を最初に確認しておきながら、なんという失態であろうか。僕の体は日和ちゃんと戦った際、吸血鬼度が増している。なので、まだ吸血鬼度はある程度上昇したままなのだ。だから十字架が効いた。

 

「くっ……マジかよ、じゃあ僕は、この状況に対して何も出来ないってことか」

 

 足手まといもいいところである。何せ、手も足も出ないのだから。真に舐めていたのは、僕だったようだ。

 

「では、足手まといの阿良々木さんの代わりに、不肖私が階段を上りましょう」

「いや、駄目だ!」

 

 僕は八九寺を制止した。

 過保護と思われるかもしれないけれど、しかし相手は得体の知れない神である。このこれ見よがしな吸血鬼対策の他にも、何らかの対策が施されていないとは限らないのだ。心配性と言われればそれまでだが……。

 

「阿良々木さん、自分がダメージを受けたから、ビビってるんですか?」

「……あんまり否定出来ない」

 

 まだ僕の足裏には、先程の痺れたような感覚が残っている。ビリったし、ビビった。

 だからさっきより、警戒度が増したのは確かなのだ――少なくともこの階段は、僕に対して敵意を向けている。そして僕への対策が施されているということはつまり、八九寺への対策もまた、然り。

 

「……では、どうすれば」

「うん、どうしよう……」

 

 何というか、これで僕たちはこの階段に手出し出来なくなった感がある。

 相手が僕のことを知っているということは、どこからか知らないが、少なくとも八九寺に関する情報は全て手に入れている可能性がある。場合によっては、日和ちゃんの情報さえも、手に入れているかもしれない。

 お手上げ、である。

 

「差し出がましいですけど」

「ん?」

 

 そう思った直後、日和ちゃんが実際に手を挙げた。

 

「どうした? 日和ちゃん。階段を消す方法か何か思いついたか」

「きざはしを消す方ではありませんが……あの、これを置いたわけの方で」

「わけ?」

「はい」

 

 日和ちゃんは言った。

 

「これ、あたいたちが上るのではなくて……その神様が、ここに来るための、降りるためのきざはし、なのではないでしょうか」

 

 

[004]

 

 上りではなく、下り。

 日和ちゃんが、そんな逆転の発想染みた考えを告げた直後、大量の十字架が、階段の上段に現れた。いや、現れたというと語弊がある――大量の十字架が、浮き上がった(・・・・・・)というのが正しい表現だろう。

 

「――――っ!!」

 

 階段の模様が、浮き上がった――現象は上の段から順に、下の段へと向かってくる。

 僕たちの方へと、向かってくる。

 

「え? え? ま、まさか本当に? あ、あたい、戯れで言ったのですが――」

 

 言った本人が一番動揺してんじゃねえよ。

 

 僕たちの方へと向かってくる――つまり、降りてくる。

 次々と浮かび上がる十字架――これを仕掛けた神が、本当に降りてきたのか? そうだとすると、とんだ架け橋もあったものだが。

 仮にそうだとすれば、何の為に? 何の為にそいつは、ここに向かっている。海外からでも十分嫌がらせは出来ていた筈だ。なのに態々自分が出向くだと――どういうことだ?

 まさか。

 

 八九寺を自ら襲い(・・・・・・・・)この神社を乗っ取るつもりなのでは(・・・・・・・・・・・・・・・・)――だとすると、マズい! 何としてでもこいつがここに降り立つのを阻止しないと、八九寺が――!

 

「――――っ!?」

 

 そう思った瞬間、突如、吐き気がする程のプレッシャーが僕を襲った。階段に意識が向く。すると、浮き上がる十字架の上に、さっきまで何も居なかった空間に、歪んだ人影が立っているではないか。ゆらゆらと蠢く、君の悪い影――。

 

 こいつが――八九寺を虐め、この階段を設置した奴か!

 

「「「!」」」

 

 人影は、口と思しき部位を開いた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

「……な、なんだ」

 

 神と思しきその人影が言い放った言葉は、日本語ではなかった。いや、そもそも言葉だったのかどうかも怪しい。その声はくぐもっており、殆ど奇音にしか聞こえなかったのだ。

 だが、それをじっくりと精査する時間もない。ましてやその声に応える必要もないだろう。これが何であれ、この場に降り立たせる訳にはいかない。

 

「……八九寺、日和ちゃん、下がってろ」

 

 僕は人影を睨んだ――階段に触れることさえ出来ない僕が前に出たところで何が出来るのか甚だ疑問ではあるけれど、かと言って何もしない訳にもいかない。

 人影はゆらゆらと揺れる。不定形に歪む姿は不気味で、とても十字架の上に立っていいような、神聖な存在には見えなかった。だが、十字架に触れている時点で、僕よりは神聖な存在であることは確かなのだろう。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■? ■■■■■? ■■■■■■■■■! ――■■■■■■■■■■■■■!! ■■■■■■■■■■■■■■」

「……何言ってんだか分かんねえよ」

 

 人影は奇音を発し続ける。その不気味な姿も相まって、まるで呪詛か何かのようにさえ思えた――こんなのが。

 こんな奴が、八九寺を。

 

「……熱くなるなよ、お前様」

 

 ふと、僕の足元にある影の中から声がした。

 

「冷静に対処せよ――今のうぬに敵う相手ではない」

「忍?」

 

 僕の影から聞こえる声は、確かに忍のものだった。姿は現さないが、どうやら現在の状況を把握しているらしい。それに、僕とあれの力量差さえも。

 

「■■■■■■■■■■■? ■■■■■■■■■■■■■!? ―――――――――――!! ■■■■■■■■■■■■!!」

 

 人影が呻いた。今度は多少聞き取れる単語があった、ような気もするのだが――。

 

「忍、『心渡』を貸してくれ」

「否、『心渡』では斬れん」

「え?」

 

 『心渡』では、斬れないだって?

 ということはつまり、こいつは――あの変体刀と、同じような存在ということか?

 

「違う。階段の方じゃ。あの影はただのまやかし――本体はあの階段じゃ」

「か、階段が?」

「あの階段は実体化しておる。どういう原理かは分からんが――兎に角、あの影が降りてくる前に、階段をどうにかせよ」

「いや、どうにかせよって言われても!」

 

 どうにもならないから、こんな状況に置かれている訳で――。

 

「幸い、ここにはあの階段を斬ることが出来る『刀』があるではないか」

「『刀』――」

「階段を斬ってしまえば、通路を断ってしまえば、"あれ"は降り立つことは出来んじゃろう」

 

 ――それっきり、忍は黙り込んでしまった。

 

 僕は人影を睨んだまま、日和ちゃんに言った。

 

「日和ちゃん」

「はい」

「頼みたいことがある」

「何なりと」

「……あの階段、斬ってくれないか」

「……斬れる、のでしょうか?」

「多分――その"斬刀『鈍』"を使えば、斬れる筈だ」

「斬刀――」

 

 忍のアドバイス通りに考えるなら、今この状況であの階段を斬ることができるのは、日和ちゃんの持つ"斬刀『鈍』"しかない。

 斬刀『鈍』――ありとあらゆるものを切断する刀。

 『心渡』で斬れないのであれば、最早この刀に望みを託すしかない。

 

 

「――心得ました」

 

 

 日和ちゃんは言う。

 

「■■■■、■■■、■■■■■■■■■■■■■■■!」

 

 影が呻く。

 影は呻きながら、段々と階段を降りてくる――この境内に、降り立つ為に。

 

「――微刀流」

「え、微刀流?」

「疾風」

 

 そう言うか言わないか――一瞬、僕の隣を風が吹き抜いたかと思うと、日和ちゃんは既に、階段のすぐ前方で刀を構えていた。

 微刀流・疾風――それは、日和号としてではなく、神崎日和としての技だった。

 ……突然出てきた単語故に、少し取り乱してしまったことは、大目に見て欲しい。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

「微刀斬刀流・閃風!!」

「え、微刀斬刀流?」

 

 微刀斬刀流――それは、斬刀を用いた一閃の居合。

 日和ちゃんは目にも留まらぬ速さで斬刀を振るった――そして一泊置いた後、斬られた部分が破片をあげて、崩壊した。

 ……またもや突然出てきた単語に取り乱してしまったことを、どうか許して欲しい。

 

「■■■■!? ■■■■■■■■■■――!! ―――――――――――!!!」

 

 影がくぐもった奇音を発する――階段は斬られた場所からどんどん崩壊していった。十字架は空中で割れ、影もどんどん歪み、ついには階段と一緒に、それらも目の前から消滅した。

 

「……………」

 

 僕と八九寺の目の前に残されたのは、残心している日和ちゃんと、はっきりと見えるようになった本殿だけであった。

 

「……や、やったんですかね?」

 

 八九寺が言う。

 

「……や、やったんじゃね?」

 

 僕が言う。

 

「……はい、やりました」

 

 日和ちゃんが言う。

 

 暫く僕たちは無言だった。プレッシャーから解き放たれた開放感に浸っていたのかもしれない。それ程までに、圧倒的な威圧感、プレッシャーを、あの影は誇っていた。

 

 神――か。

 なんというか、八九寺といつも一緒に居るから、神様が身近に居るから分かっていなかったのかもしれないけれど、本来神と呼ばれる存在は、僕たちみたいな奴にとって圧倒的で絶対的な存在なんだということを、改めて思い知らされた。

 小学生みたい――なんて、とても言えたものではない。

 どうしようもなく上位の存在――パワーピラミッドの頂点、最上位カースト。

 

「…………」

 

 ……黙りながら、僕はあの影が発した言葉について、思わず考えた。

 "あれ"の発した奇音は殆どが聞き取れないものだったけれど、その言葉だけは、唯一聞き取ることが出来た――が、それは僕自身の耳を、疑わざるをえないような言葉だった。

 

 それは、単語であり、そして、最近では殆ど耳にしなくなった単語でもあった。

 

 ――"ハートアンダーブレード"。

 

 

[005]

 

 後日談というか、今回のオチ。

 

 結局、あの奇妙な人影の正体は分からず終いだった。本当にあれが虐めていた張本人だったのか、それとも別の何かだったのかは、あの階段が無くなった以上、知る由もない。

 あの後、正気に戻った僕たちは、勝利を喜び合った。そして興奮冷めやらぬ中、境内の掃除を施行した。大量にばら撒かれた落ち葉を掃除した。境内がある程度綺麗になった後、僕は二人に別れを告げ、帰宅した。

 

 次の日。

 

 僕が帰った後どうなったのか気になったので、北白蛇神社に足を運んでみたところ、あの大量にあった落ち葉が綺麗さっぱりなくなっていた。

 

 八九寺曰く、

 

「朝目が覚めたらこうなってました」

 

 とのこと。

 日和ちゃん曰く、

 

「朝まで掃いたらこうなってました」

 

 とのこと。

 

 どうやら僕が帰った後、特に何もなかったらしい。あの階段が再び現れることも、落ち葉が更にばら撒かれることもなかったようだ。

 

 ――あの影は、結局何だったのだろうか。僕の聞き間違えかもしれないが、"ハートアンダーブレード"なんて単語が出てくるなんて、全く思いも寄らなかった。

 忍の旧名――忍に何らかの関わりがあるということか。もしそうだとすれば、再び僕があの影に相対する日が来るのかもしれない。忍の関係者、関係神ならば、僕にとっても関係があるのだから。

 

 どうやら織崎ちゃんに関するあれこれが終わった後も、或いは、終わるまでにも、まだ僕が立ち向かわなくてはならないような、首を突っ込まなければならないような案件が控えているのだと思うと、少々うんざりするような気分になってしまうのであった。

 何せ、自分のことを好き好んでやりたがる奴なんて、そうそう居ないのだから。

 




■ ウラバナシ ■


[001]


「この度は、二次創作小説『〈物語〉シリーズ プレシーズン 歴物語 第神話 まよいカースト』をお読み下さり、誠にありがとうございます! 今回ウラバナシを担当しますのは、日本語の伝道師、迷える者達の導神こと私、八九寺真宵です! そして!?」

「皆さま、この度は、二次創作小」

「それもう言いました」

「あっはい! 皆さま、お初にお目にかかれていたく嬉しいです、神埼日和でございます」

「もう、日和さん! もうちょっと流れってものを理解しておいて下さいっ!」

「す、すみません! このような催しは初めてなものでして……」

「むう。まあいいでしょう! 寛大な八九寺真宵大明神は許しましょう!」

「上からですね……」

「神様ですし――さてさて前置きはこの辺で十分でしょう! そんな訳で始まりです、ウラバナシ!」

「流れが速いですね……というか、どうしてウラバナシなのですか? ウラガタリではなく」

「えー? そこから説明するんですかー?」

「す、すみません。至らないものでして」

「ふふん、良いでしょう! ウラバナシとは!」

「ウラバナシとは!?」

「まあ『ウラガタリ』の【歴物語】バージョンですね。言うなれば『ウラガタリ』のショートバージョン、劣化版です」

「わざわざ劣っているかのような言い方をしなくても……」

「いえいえ、何せ実際に短いですしね。短すぎる為、わざわざこれの為だけに話数を割くのは如何なものか、ということで、この後書きの場を借りて語っております」

「短いと言ってもきっと四千字は超えますよ、でも」

「いえいえ、それでも普段の『ウラガタリ』の半分程度ですよ、短い短い! いくら『ウラガタリ』の役割が、平均文字数を下げて敷居も下げる、ということとは言え、流石にこの文字数ではねえ」

「そんなつもりだったのですか、あれ」

「だってこの小説、平均文字数が一万五千字以上なんですよ! 絶対辟易する方が出てきますって!」

「出来の題なのでは……」

「知りませんね」

「あっはい」

「とにかくまあ、短い訳ですよ。どう足搔いても短くなる訳ですよ。本編自体が短いのですから、そりゃあ付随するこれも短くなるというものです――なので、最初はこういうのはしない、と言う話だったのですが、後書きを使うという事を思い付かれて……はあ、仕事が増えて大変ですよ」

「お、お疲れ様です」

「『ウラガタリ』でもこれから暫くは出ずっぱりだと言うのに――他人事みたいに言ってますけれど、日和さん。貴女もそのうち『ウラガタリ』に出演して頂きますからね。今回以上に喋らないといけないんですからね」

「はい。成程、つまりこれはその為の習いということですね。あい心得ました!」

「では、次の章行ってみましょう!」

「はい! ……あれ、中身については?」



[002]


「いやあ、日和さんは本当に従順ですね!」

「いきなり何を言うのかと思えば……というか、本当に前の章の中身について何も触れませんでしたね」

「そういうものです」

「ですか」

「ですよ――ああ、そう言えば、一つ言い忘れていました」

「はい?」

「これ、リアルタイム更新です」

「またですか!? 風の噂に聞いたところ、『ウラガタリ』の方でも似たようなことになったらしいですけれども――またですか!?」

「まあ、仕方ありませんね! というか、こればっかりは『ウラバナシ』の使用上仕様のない事です。何せこの形式で更新する場合、必ず投稿した後で編集することになりますから、当然、リアルタイム更新となる訳ですよ」

「ええ……あの、今日のうちに更新するのではなかったのですか?」

「はい。だから更新し始めたじゃあないですか。アナウンスを出した日に」

「…………」

「と言う訳でこちらもこちらでリアルタイム更新! 恐らくは後二時間程度で終了する筈ですので、そこのところ、ご理解とご協力お願いします!」

「お詫び申し上げます」

「はい、と言う訳で本編について語り合いましょう!」

「あっはい」

「日和さん、ケンタッキーに行きたいとか言ってましたよね。どうです? あれから結局連れて行ってもらえたんですか?」

「あー、まだですね。でもいいんです。我ながら差し出がましいお願いでしたし、聞き入れて頂けるとは露ほどにも思っておりませんから」

「欲がありませんねえ。こう言う時は自分を主張していきましょうよ! そんなことを言っていると、あの男は何もしてくれませんよ!」

「そうなのですか?」

「そうです! 全く、私が苛められている、なんて、そういうどうでもいい所はよく気付く癖に、重要なところでは鈍いんですよねー、あの男は」

「ほう。それはそれは」

「……日和さん」

「はい?」

「前から思ってましたけれど、私と貴女、かなり喋り方が被ってますよね。性格とかは全く被っていませんけれど、キャラクターの記号として最も重要である喋り方が被ってますよね」

「そうですか? でもあたい、これでもお恥ずかしながら、人ならざるからくりですし――やはり敬わなければ」

「むー……確かにそれはそうですが」

「それに、あたいは八九寺お姉ちゃんのように難しい言葉を知りませんから、思いの外似ていないのではないでしょうか」

「そうですか?」

「はい、きっと」

「……まあ、キャラ被りなんて理由で、個性を無くさせると言うのは横暴が過ぎますからね」

「え? あたいに性質(たち)を捨てさせるおつもりだったのですか?」

「当たり前じゃあないですか! 私は捨てる気ありませんし! さらっさら!!」

「……もうなんか、天晴れとしか言いようがありませんね。貴女」

「えへっ!」

「褒めてませんよ……」



[003]


「って、また中身について話していないではないですかあ!!」

「こういうものなんですから、割り切りましょうよ」

「あっはい」

「変な所で吃驚するほど従順ですね……まあ確かにそろそろ本編について語らないと、いい加減読者から石と言う名の低評価を投げられかねませんからね、もう少しだけ真面目にやりましょう」

「そもそもりあるたいむこうしんなんてやっているじてんで石を投げられる切っ掛けは十分だと思うのですが……」

「うーん、とは言いましても、この章って殆ど【歴物語】について語っているだけなんですよねえ。まあ階段を発見したとかそういうイベントはありましたけれども」

「第三のこんてんつですか。でも、この物語の中身って【裂物語】に含まれていてもそこまでおかしくはないようなものですよね? 何で別々にしたのですか?」

「ああ、それは単純に、『ウラガタリ』がし辛いからです」

「そんな理由(わけ)……」

「いやあ、最初はこの【まよいカースト】、【裂物語】に内包される予定でして。で、【歴物語】にはこれとは別の話【ひよりショッピング】が含まれる予定でした」

「あたいの名前を冠する話ですか!? そんな、恐れ多い……!」

「いやいや自己主張弱すぎでしょう……ほぼオリジナルキャラだからって、そんな恐縮しなくていいんですよ?」

「いえ、そんな……」

「周りを見て下さいよ。織崎さんとか淡海さんとか、あの二人に比べればまだマシな方じゃないですか貴女。日和号という下地がある分」

「ですが、あたいは一歩下がったところにいなければならないんです! そういうたちなんです! そういう定めなんですよあたいは!! 分かりますか!?」

「あっはい! って、何で私が怒られているのですか!?」

「出すぎた真似では御座いますが、しかし言わせて頂きます! これはあたいの歴としたきゃらせっていですので、曲げるつもりはございません! 露ほども! からくりですので!!」

「わ、分かりましたよ! そういう所では自己主張が強いですね、貴女……」

「いやあそれほどでも」

「褒めてません。いや、ちょっと褒めてます。私はてっきり、旧千石さんのように弱弱しいキャラなのかな、と思ってましたので」

「違いますよ……刀を持った弱弱しい方なんておりません。どんな方ですかそれ」

「そうですよね! ははは!」

「ですが、出すぎた真似だったのは間違いございません! 謹んでお詫び申し上げます! すみませんでした」

「この辺りは旧千石さんのキャラですね……」



[004]


「はい、そんな訳で、いよいよ黒幕の登場です! 死ね!!」

「いきなり酷い物言いですね!? 奥ゆかしさの欠片もありませんよ!」

「はっ! この私を散々苛めておいて、何をまあ堂々と階段を降りているのですかこいつは! どこの馬の骨かは知りませんが、ざまあみろですよこんちくしょう!」

「いたく気にしているじゃあないですか……全く気にしていないような風を装っていたのに」

「あんなの振りですよ振り! これは私の問題ですし、これ以上阿良々木さんに迷惑を掛けさせたくありませんでしたからね」

「八九寺お姉ちゃん、阿良々木お兄ちゃんの事げに好きなんですね。うふふ、見ていて微笑ましいです」

「え? いやそう言うのではなく……何故微笑ましい?」

「いっそのこと奪ってしまえばいいでしょうに。戦場ヶ原から」

「呼び捨て!? 戦場ヶ原さんを呼び捨てにしますか!?」

「何を恐れているのですか? 奪ってしまいましょうよ、寝取ってしまいましょうよ、盗ってしまいましょうよ!」

「怖いもの知らず過ぎますよ貴女!? というか、そもそも貴女は戦場ヶ原さんのことを知らない設定では」

「まあそうですけれど、でも、『副音声』ではよくあることではないですか。こういうの」

「『副音声』は知ってるんですか……」

「この辺りは予め聞いてきました。ですがまだまだ至らぬゆえ、初めにあのような誤ちを犯してしまい……また謝りたくなってきました」

「いや私には謝らなくて良いですから、戦場ヶ原さんに謝りましょうよ! あの方子供嫌いですし、何より怖いんですよ!」

「知りませんね、戦場ヶ原の怖さなんて! だってあたい、あの方のこと知りませんし!」

「どうしちゃったんですか日和さん!? 最初の方の謙虚な貴女はどこへ行ったのです!? 戻して下さいよキャラを! その慇懃無礼というキャラは私の物です! 性格まで似ちゃったらいよいよ区別が付かなくなります! 苦情の嵐ですよ!」

「はい、心得ました」

「えっ、何でです? 何であそこまで暴走して、急に従順になるんですか? 分かりません……私には貴女のキャラが分かりませんよ」

「私は八九寺お姉ちゃんの心者です。そこは揺るぎません」

「そ、そうですか……不味いですね、ここに来てペースを乱されてしまいました。後少しだったのに」

「ですが出すぎた真似でした。申し訳ございませんでした」

「だーかーら、謝るなら戦場ヶ原さんにして下さいよーっ!」

「戦場ヶ原、申し訳ございませんでした」

「扱いがぞんざい過ぎますっ!?」



[005]


「えー、何だかんだと言っている間に最終章ですよ、栞さん」

「早いですね……って、八九寺お姉ちゃん。あたいの名前を、まるで本の間に挟むあの薄っぺらいせーぶぽいんとのように呼ばないで下さい。あたいの名前は神埼日和です!!」

「失礼、噛みました」

「違います、わざとです……」

「かみまみた」

「わざとではない!?」

「借りました」

「本をですかっ!? 栞ごと!?」

「栞は抜き取りました。ついでに栞は頂きます」

「いや返しましょうよ!」

「挟んでおく方が悪いのです! 私に非は一切合財ありません! 清廉潔白の身です! なので裁判所には出廷しません!」

「そうですよね、罪有りになりますからね!」

「はい、いつものテンプレートも終了しました所で、締めと参りましょう」

「やっぱりわざとじゃないですかあ!」

「日和さん、どうでしたか? 『ウラバナシ』の記念すべき第一回を担当出来て」

「えっと……何と言うか、疲れますね。ずっとこうして喋り続けると言う事の辛さを知りました、はい」

「そう、辛いんですよこれ! ですが、普段いまいち喋ったことのない相手とお喋りすると言うのは、結構新鮮なんですよ。面白いですし!」

「うう、流石八九寺お姉ちゃん、言う事が違いますね……でもあたい、八九寺お姉ちゃんとはたくさん喋ってますよ」

「大丈夫です! このシリーズに参加している限り、必ず次の機会がありますから! そしてその次の機会は、割ともうすぐです!」

「『ウラガタリ』ですか……今日の倍喋らないといけないのでしょう?」

「いやあ、倍どころか1.5倍ですよ」

「はい!?」

「何せ貴女が初出演する『ウラガタリ』は【裂物語 ひよりブレード(下)】――其ノ參、其ノ肆、其ノ伍の三話分語る回ですから」

「嘘でしょう!? はい!? なんでそんな仕打ちを!?」

「安心して下さい! この回には『副音声』の守護神とも呼ばれたあのお方も参加して下さいますから、きっと日和さんを導いてくれる筈です!」

「しゅごしん……!」

「まあ、そんなに気を張らなくて良いですよ。ゆるーくやれば良いんです、ゆるーく」

「緩く……はい、心得ました!」

「ではではそんな訳で伏線を残しつつ、今回はこの辺でお開きにさせて頂きたいと思います!」

「お付き合い頂き、誠にありがとうございました」

「今回のウラバナシ、お相手は、何かいい事あったらいいです、八九寺真宵と!」

「何かよい事あったらいとうれし、神埼日和でした!」

「信者はいつでも募集中ですよー!」

「是非、北白蛇神社にお賽銭を!」

「皆さまの信仰」

「皆さまのご支援」

「「お待ちしております!!」」

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