〈物語〉シリーズ プレシーズン 【裁物語】   作:ルヴァンシュ

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 想定外の前後編構成。申し訳ございません。

■ 以下、注意事項 ■

・約貮萬字以上。
・〈物語〉シリーズ、アニメ未放送分のネタバレを含みます。
・他、何か有れば書きます。

■ 黒齣 ■


第肆話 しるしスパイダー 其ノ伍

[016]

 

 

「全く。あんな必死になって逃げなくてもよいのではなくて? 私、傷付いてしまいましたわ」

 

 頭上の織崎ちゃんが言う。その手にはいつもの毒刀『鍍』ともう一振り、見たことのない刀が握られていた。いや、それは本当に刀なのかどうかさえ定かではない。

 というのも、刀身が見えなかったからだ。吸血鬼の視力を持ってしても、その刀は柄と鍔だけで構成されているように見えた。けれどもそれが刀であろうと断じたのは、刀身があるであろう場所で、光が不自然に反射していたからである。

 あれは恐らく、薄刀『針』――薄さに主眼の置かれた硝子細工のような刀。それならば、刀身が見えないのにも納得はいく。刀身が透明であれば、見えなくてもおかしくはない。

 

「傷付いたっつーか、僕の友達を傷付けてくれたのはどこのどいつだ。可愛い妹まで狙いやがって」

 

 狙うどころか、殺しやがった訳だが――まあそれについては下手人は別に居るのだが、こいつの息が掛かっていない訳がない。よってこいつの所為である。

 

「のこのこと儂らの前に出てきたこと、しっかりと後悔させてやろう。まあ安心せい。別にうぬを殺すつもりはないのじゃ――精々、半殺しくらいじゃろう」

「……吸血鬼度を上げましたのね」

 

 悪役じみた台詞を言う忍の姿を見て、織崎ちゃんは僕たちの吸血鬼度がギリギリまで上昇していることを悟ったようだ。小さく歯嚙みするのが見えた。

 

「……そんな程度で、私に勝てると思っておりますの? 中途半端に戦闘体制になったところで……結果は同じでしょうに」

「うぬが負けるという結果じゃろう?」

「あなた方が負けるという結果ですわよ!! 曲解しないでくださいまし!!」

「うわ怖っ。なんじゃあの女子、ヒステリー症候群か何かなのか」

「あんな風にすぐ怒るって、今まで何にも考えずに生きてきたのでしょうね」

「ぐぎぎぎぎぎ!!」

 

 歯軋りする織崎ちゃん。なんだかこの子、登場して最初はすぐに反撃されて歯軋りしてるような気がするんだが。スロースターターなのだろうか?

 

「今まで何も考えずにぃ!? それはそっくりそのままお前に返してやりますわよ、微刀『釵』、いや神崎日和ぃ!! お前にだけは言われたくありませんわ、機械人形の分際で生意気に!!」

「なんじゃあやつ……キレすぎじゃろ」

「哀しいですね……頭の病なのですよきっと」

「日和ちゃん、君って結構言うことキツイよな」

 

 頭の病とか、中々言わねえぞ……まあそれくらい毒がなくちゃ、僕たちの世界観についてこれないのかもしれないけれど。

 ……あれ、でもこの子って、もうちょっと純粋系のキャラじゃなかったっけ?

 

「さあ、どうでしたっけ。昔の話は忘れてしまいました」

「いや、初期は君、無邪気キャラだった筈だぞ。少なくとも煽るようなキャラじゃなかった筈だ」

 

 八九寺か。

 あのロリ神様に毒されたのか。

 

「まあ怪異というのは、人間からの影響をモロに受けるからの。無邪気であったのなら尚更、そういう悪影響も受けるじゃろうよ」

「えー」

 

 そうか……もう純粋だった頃の日和ちゃんは居ないのか。悲しいなあ。

 まあそりゃあなあ。悪影響が服を着て歩いてるような僕たちと絡んでたら、そりゃあそうなるよな。うん、割り切ろう。気を遣わなくて良くなったってことで割り切ろうか。

 

「……私思うのですけれど、戦闘前にこういうギャグ染みた無駄な雑談するのって何なんですの? あなた方流の儀式か何かですの?」

「お前そんなこと言い出したらこのシリーズの在り方自体が問題になってくるからやめろ」

 

 そもそも本来は雑談がメインのシリーズなのだ。寧ろこんな風にバトル展開になることの方が珍しいし、ぶっちゃけシリーズの空気に合ってないのである。

 

「まあもういいですわ……私には無関係ですし。あなた方がどれだけおふざけに走ろうとも、私はシリアスを貫き続けますわ」

「マリンマリンだのバーチャルアイドルだの言ってたやつが何言ってんだ」

「ですからあれは貴方を油断させるために話を合わせてやったのでしょうに!! 何ですの!? 私の親切心を無下にするつもりですの!?」

「油断させるためという前提がある時点で、僕に対する親切心がこれっぽっちも読み取れねえよ!」

 

「というか、だからこれですわよ! この会話が無駄だと言っているのですわよ!」

「知らねえよ! 元々の火種を蒔いたのはお前だ!」

「ぐぎぎぎぎ……!!」

 

 悔しそうに歯を食いしばって僕らを睨む織崎ちゃん。

 

 まあ確かになあ。雑談から繋がってバトルが始まるって、締まらないよなあ。そこは常々僕も思っていたところではある。

 けれども、今この状況で一番締まらないのはあいつ自身だということに、織崎ちゃんはまだ気付いていない――見下げられている僕らにははっきりと分かることなのだが。

 

「……忍、日和ちゃん」

 

 僕は小声で二人に呼び掛けた。ミニ作戦会議。

 

「なんじゃ」

「如何なさいましたか」

 

 小声で返してくる二人。

 

「そろそろあれに触れるか? 多分あれを指摘したらバトルが始まると思うんだけど」

「そうじゃのう。いい加減見ていて痛々しくなってきたしな」

「ではどうぞ、お任せします。阿良々木お兄ちゃん」

「僕かよ……だろうとは思ってたけどさ」

 

 ミニ作戦会議終了。僕は再び織崎ちゃんの方を、つまり上を向いた。

 

「織崎ちゃん」

「なんですの」

 

 ――さあ、ここが難関である。これから僕があいつに突きつけるのは、恐らく読者ももう気づいているであろう事実なのだけれど、これをどう言い放ってやるか、それが問題なのである。

 ストレートにいくか、或いはオブラートに包むか、何らかの暗喩を使うか――表現方法が多々あるのが言葉の難しいところであるのだが、しかしそんな中から一番のチョイスを求められるのが語り部である。

 ならば今回何が一番良いのか。それは最早言うまでもなく絶対的に答えは出ている。伊達に何年も語り部をやってきた訳ではないのだ。言ってしまえば、最早僕はベテランの域に達している。

 だからこそ失敗は許されない――失態を見せる訳にはいかない。そういうメタ的な事情は横に置いておくとしても、これから始まる織崎ちゃんとのバトルを一歩リードした状態から始めることが出来るかどうかが、この一言に掛かっている。

 

 さあ言うぞ。言ってやる。

 さーん、にーい、いーち。

 はい。

 

「お前外目からは想像出来ないほど、子供っぽいパンツ穿いてるんだな」

「これはそういう柄のストッキングですわ」

「!?」

「!?」

「!?」

 

 なんだと!? ス、スパッツ――!!?

 

 そう、織崎ちゃんは僕たちを糸の上から見下している訳だが、逆に言えば僕たちは自然と下から上を見上げる形になる。で、今織崎ちゃんは何を思っているのかミニスカートを履いているのである。

 そう、スカートの中身がモロに丸見えなのであった。

 それを指摘することによって織崎ちゃんの心理的動揺を誘い、隙をついて吸血鬼パワーで即座に制圧、残りのセクションは雑談で埋め尽くしてやろうと画策していたのである。

 

 のであったのだが。

 だったのに。

 

 ス、スパッツ――だと!?

 

「まさか私が下着を見られることを考慮せずにこうして立っていると思いましたの? 残念、私はそこまで考えなしではありませんことよ」

「くっ――!!」

 

 やられた――なんでそんなパンツの柄が書かれたスパッツなんか穿いてるんだとか、もうちょっといい柄はなかったのかとか、色々突っ込みたいところはあるのだが、もうそんなこと言ってられるような状況ではない。そんな立場ではもうない。

 今のはどう考えても完全に的外れな指摘だった。こんなことでは、当然バトルの主導権を握れるはずもない。見事にカウンターを食らってしまった。

 忍も日和ちゃんの表情にも驚愕が浮かんでいる。そりゃそうだ、パンツ柄のスパッツとか、分かる訳ねえよ。

 

 まずい。前代未聞レベルのピンチだ。このバトル、一気に暗雲が立ち込めてきた感がある――たかだかこの程度で大袈裟な、と思われるかもしれないけれど、これは僕のキャラ的な沽券にさえ関わってきかねない問題なのである。

 今まで幾度となく(不本意ながら)女子のスカートを捲り、(どういう訳か)数々の下着を巡ってきた所為で(全く遺憾なのだが)変態扱いされてきた僕が、ここに来てこんな初歩的なミスを犯してしまうとは――織崎記、なんて恐ろしい奴なんだ。

 

「恐ろしいのは貴方ですわよ阿良々木暦。こんな限りなくどうでもいいことにどれだけの文字数を消費しますの? 馬鹿ですの?」

「くっ……!」

 

 言い返すことが出来ない。反論というアクションを完全に封じられてしまった。

 

「ふふふ……何だかよく分かりませんけれど、あなた方に致命的なダメージを与えられたのであれば、態々特注で作った甲斐がありましたわ」

「特注だと!!?」

 

 この野郎、さらに爆弾を投下してきやがった! いや、この事実のどこがどう爆弾なのかは全く分からないけれど、しかし何故だかさらに追い討ちを掛けられたような気分になってしまった。

 特注って。こんなもんを特注って。

 だったら尚更、もっといい柄にしろよ!

 

「お前様、気を持ち直せ。動揺しておるのは十分伝わってくるが、失敗は失敗じゃ。諦めるしかない」

「くそう!!」

 

 織崎ちゃんへの第一撃の筈だったのに、僕らが一撃を食らってしまったのである。自分で自分の首を絞めた形な訳だ。

 

「哀れですわねえ、阿良々木暦。おほほほほ!」

「哀れむな! マジで哀しくなるからやめろ!」

「ならその哀しい気分のまま、逝ね!!」

「何っ!?」

 

 織崎ちゃんは高笑いした――と思った次の瞬間、本当に瞬きした一瞬――スカートの中身を晒す織崎ちゃん(地の文での精一杯の抵抗)と張り巡らされた糸しかなかった空中に、突如大量の刀が現れた。否、現れたというより、ぶら下がっていたというのが正しい。

 

 どこからともなく垂れている糸一本一本に、刀が一本一本括り付けられている。その刀はどれも同じような形をしていた――いや、"同じような"というのは少々語弊があった――"ような"は余計だった。

 同じ。

 全てが全く同じ――その長さは一寸足りとも違わず、その模様は一部足りともずれがない。

 完全に同じ刀、そしてそれが大量にあるということは――。

 

「千刀『鎩』――!!」

 

 『多さ』に主眼の置かれた、消耗品としての刀――四季崎記紀が作りし完成形変体刀が一本・千刀『鎩』!

 

「あら。知ってましたのね――まあ予想はしてましたけれど。刀についての情報をある程度知る日和号がそちらに居る以上、知っていて当然とさえ思っておりましたわ」

「…………」

 

 これを教えてもらったの、実はついさっきなんだけどな。

 

「ですが、そんなものをハンデと思うような私ではありませんわよ」

 

 と、織崎ちゃんが言った――と同時に、ぶら下がっていた大量の千刀が、一斉に雨のように落下してきた。全てが同じタイミングで。

 

「っ!!」

 

 この攻撃に、僕はデジャヴを覚えた――そうか、『鎧』の時、既に織崎ちゃんはこの刀を使っていたのかも――いや、今はそんなこと、どうでもいい!

 

「し、忍! 日和ちゃん! 僕の下に隠れ――」

「及びません、阿良々木お兄ちゃん!」

 

 それこそ『鎧』の時よろしく、また刀の雨に打たれようとした僕だったが、その時日和ちゃんが動いた――片方の刀を鞘から抜いた。

 刀――『斬れ味』に主眼のおかれた刀・斬刀『鈍』!

 

「微刀流・腥風零閃!」

 

 日和ちゃんは傘になろうと屈んでいた僕を踏み(踏まれてばっかだな僕)、刀の雨に向かって錐揉み状に回転しながら跳躍した――そして斬刀を目にも留まらぬ速さで左右に動かし、降ってくる千刀を次々と斬り裂いていく。斬り裂かれた刀はその場で消滅していった。

 

「……えっ!?」

 

 次々と斬られていく千刀――それを見て僕は驚嘆した。いや、僕が驚いているのは、刀が斬られると消滅していくことではない――それも驚くべきポイントではあるが――そこではなく。

 完成形変体刀が斬られている(・・・・・・・・・・・・・)――傷一つ付けることも叶わなかった、『心渡』さえ敵わなかった変体刀が、まるでただの飴細工であるかの如く、切断されていく。

 

 ――だから、斬刀なのか?

 あらゆるものを斬る刀――『心渡』では斬れないものさえ、両断することの出来る刀。

 そういえば、北白蛇神社に現れた謎の階段。あれを斬ったのも、この斬刀だった。そしてあれもまた、『心渡』では斬ることの出来ない、実体化した怪異――。

 そういう性質なのか? この刀は。

 実体化した怪異を斬ることの出来る刀――目には目を、歯には歯を、新種の怪異には新種の怪異を、ということか。

 

「ちっ……」

 

 織崎ちゃんの舌打ちが聞こえた。

 

「だからその刀は渡したくありませんでしたのに……ハンデと言うなら、その刀があなた方の手に渡っている時点で、もうハンデみたいなものでしたわよ」

「ハンデ――」

 

 たしかに、織崎ちゃんとしては堪ったものではないだろう。何せ本来ならば、僕たちはあの刀の一本さえ斬ることが出来ない筈だったのだから。それをこうして容易に斬ることが出来るようになったということは、織崎ちゃんから見れば僕たちが大幅に戦力アップしたことになる。

 妖刀『心渡』と斬刀『鈍』――チートレベルの刀を二振りも所有していることになるのだから。

 ハンデなんて生易しいものではない。

 

「ですが――もうこれ以上あなた方に逆転する隙は与えませんわ!」

 

 そう言うと織崎ちゃんは、糸の上で一度飛び跳ねた。そして再び糸を踏み、その反動を利用して、さらに高く跳び上がった――弦のように張り巡らされた糸は振動するようで、トランポリン染みた技を可能にした。

 跳んだ織崎ちゃんは空中で体を縦方向に百八十度回転させた。スカートが重力により捲り下がる(またもや無駄な抵抗)が、織崎ちゃんはそれを構うことなく、さらに上方に張られた糸を下から蹴り上げ――その反動を再び利用し、縦方向に何度も回転しながら僕たち目掛けて落下してきた。

 

「織刀流――」

「っ!!」

「――旋断双刃!!」

 

 両手に刀を構えたまま高速で回転しながら落下する姿は宛ら二枚刃のピザカッターのようであった。慌てて僕たちは左右に避けた。僕と忍は左に、日和ちゃんは右に(尚、忍と日和ちゃんは見事なステップで回避したが、僕は失敗して尻餅をついた。見るに耐えない)。

 

「っ…………!!」

 

 僕は戦慄した――回転を止めて二本の刀を太鼓のバチの如く振り上げたまま地面に膝をついた織崎ちゃん。彼女の両脚から僕たちがさっきいた場所より更に向こう側へ、地面に深い亀裂が出来ていた。もしも僕たちが横ではなく後ろに逃げていたら、間違いなく真っ二つになっていただろう。

 そして、その斬れ味もそうだが――明らかに刃が届かない程の遠方まで斬り裂かれている。衝撃波か何かを起こしたのか? 刃渡りが全く意味をなしていない。

 

「ちっ、残念ですわ。真っ二つに出来ると思いましたのに――まあそれも、時間の問題でしょうけれどね」

 

 織崎ちゃんはそう言いながら立ち上がった。

 

「……織刀流っていうのは――何なんだ?」

 

 僕もそう言いながら立ち上がる。だがこの質問は、些かこの緊迫した状況では的外れともいえる指摘だったかもしれない――虚刀流、微刀流ときて、織刀流――。

 

「なんでもかんでも刀の名前の後に流をつけりゃあいいってもんじゃねえぞ」

「まるで私が適当に名前を付けたとでもいうような物言いは止めてくれませんこと? そこの微刀流とは違って、私の流派は虚刀流と全刀流に連なる由緒ある流派――」

「全刀流?」

「あっ」

「…………」

 

 どうやら、図らずもまた新情報をさらっと言ってしまったらしい。

 口のガード、ちょっと緩すぎないか?

 

「……まあ……いいですわ」

「いいのかよ」

「……ええ――どうせそのうちバレる情報でしたし――それに、名前だけを知ったところで、それがどんな流派かはまだ言っておりませんし。故に大したハンデにはならないでしょう」

 

 なんだかただの開き直りのように思える言葉だったが、確かに織崎ちゃんの言う通りである。名前を知ったところで、それがどのような流派なのかは分からないのである。全刀流……全ての刀を扱える流派、とか?

 織崎ちゃんは、右手に持つ刀を僕に向けた。刃が薄く、不可視と言っても過言ではない刀・薄刀『針』――。

 

「どのみちあなた方はここで死ぬのですし、究極的には何を言ったところで何の意味もないのですけれど――千が一つ、万が一つ、億が一つのこともあるかもしれませんので、これ以上は教える気はありませんの」

 

 織崎ちゃんは言う。

 

「……相変わらずとんでもない自信だな、織崎ちゃん。言っておくが、僕を今までの僕と思って掛かっちゃあ、後悔することになるぜ」

 

 睨みを利かせながらハッタリを利かせる僕。いや、ハッタリと言うほどでもない筈である。織崎ちゃんの力は実質殆ど未知数と言っても過言ではないが、その死霊蜘蛛とやらがどれだけ強力にせよ、吸血鬼に匹敵する怪異ではないに違いないのだから。

 怪異の王(ノーライフキング)――吸血鬼。

 

「ふん。貴方こそ、私を舐めて掛かると後悔することになりますわよ」

 

 織崎ちゃんはそれでも、不敵に笑う。自分の敵ではないとでも言いたげに嗤う。

 

「あなた方は私の蜘蛛を知らない。本当の私を知らない。織刀『銘』――全てを織り交ぜた刀の力を、何一つ知りませんの」

 

 織崎ちゃんがそう言った直後。

 

「!!」

 

 織崎ちゃんの姿が、ふらりと揺れたかと思うと――突如として消えた。

 

「なっ――!?」

「お前様!! しゃがめ!!」

「っ!!」

 

 忍が叫ぶ――僕はすぐさましゃがみこんだ。否、それだと僕が能動的にしゃがんだように聞こえるかもしれないので言い直すと、叫んだと同時に忍が僕の頭を押さえ込み、地面に叩きつけた。つまり、半ば無理矢理しゃがまされた訳である。

 しかし、そんな見ようによっては仲間割れにさえ見えそうな行為をどうして責められようか。忍が僕を押さえ込んでくれなければ、僕も忍のようになっていた(・・・・・・・・・・)に違いないのだから。

 

 押さえ込まれたとほぼ同時――それはコンマ零零秒レベルのことだったと思う――に、僕の頭上を何か凄まじい風圧、或いは爆発が通り過ぎていった。そして、大量の血が僕の頭に重くのしかかった。

 

「っ――――!!!」

 

 僕は慌てて上を向いた。そして戦慄した。

 

 そこには。僕の頭上で、頭のない金髪の吸血鬼が、血をドロドロと首の切断面から垂れ流していたのだから。

 

「し――忍――っ!!!」

 

 僕の頭を掴む手から力が抜け、どちゃりと音を立て、忍の体は血の海の中に突っ伏した。

 

 と思った次の瞬間、僕を濡らした血が、地を海に変えた血が、一斉に蒸発した。そして血がなくなっていくと共に、突っ伏した体から美しい金髪を持った頭が生えてきた。

 頭の付け根から始まり、美しい髪の毛先まで――一瞬で再生すると、金髪金眼の吸血鬼は目を見開き、僕の首根っこを掴んで立ち上がらせた。

 

「お、忍野お姉ちゃん――」

 

 日和ちゃんの驚いたような声が聞こえた。そういえば彼女は忍の再生を見た事が無かったのだったか。

 

「油断するなよ。お前様、ヒヨリ――一瞬でも気を抜けば、死ぬぞ」

「っ!!」

 

 何事も無かったかのように体勢を整えた忍は、氷のように、血も凍るほど冷たい声で言った。

 忍にここまで言わせたことのある相手は、果たして今まで居ただろうか。一瞬でも気を抜けば死ぬ――千石と戦った時以来だろうか。そんなようなこと、あの吸血鬼退治の三人組に対してさえ言わなかったが。

 否応なしに気が引き締められる――甘く見ていた。さっき同じような反省をした筈なのに、僕はどこかで、この吸血鬼の力を過信しているのだ。

 過剰な信頼は身を滅ぼす――斧乃木ちゃんに何度か言われた言葉だ。

 

「惜しいですわね。どうやらもう少しスピードを上げる必要があるらしい――まあ、幾らでも限界なんて、限度なんて超した殺戮を見せて差し上げますわよ」

 

 掴み上げられた僕が振り返ると、そこには先ほどと同じように薄刀を僕に向けた織崎ちゃんが居た。

 だが、さっきとはどこか違った――どこかという言葉でぼかすには余りにも露骨すぎたけれど、しかし僕はそれに気付くのに数秒を要してしまった。いや、気付いていたのかもしれないけれど、それに気付いたということに気付けなかったのだ――そんな一瞬さえ、命取りになりかねないというのに。

 

 くない――織崎ちゃんの胸元に、乳房と乳房に挟まれるようにして、くないのようなものが突き刺さっていた。そのくないからは視認することが出来るほどの電気がバチバチと弾け飛んでいた。

 あれは、なんだ?

 

「混乱しているようですわね――ふふ、無理もありませんわ。この刀については、神崎日和も知りませんものね」

 

 胸元から電気を迸らせながら、日和ちゃんが言った――なんかさっきより血相がよく見えるのは気の所為か?

 

「どこまでも過激に参りますわよ。どれだけ警告タグが増えようとも知ったことではありませんことよ。寧ろ、打ち切りになってしまえば良いのですわ――いえ、悪いのかしら?」

 

 そんなメタ染みたことを言ってから、織崎ちゃんは悪鬼の如き笑みを浮かべ、瞬きする一瞬よりも遥かに短い速度で、僕の目の前に現れた。

 

「っ!!」

「否定しますわ。私は否定する――あなた方の存在を、この世界の存在を、この物語の存在を――!!」

 

 同時に、目も眩むような閃光が僕の視界を埋め尽くした。そして再び視界が戻ってきたと思えば、今度は視点が少しずつ下がっていくのを視認した。

 背後から声が聞こえた。

 

 

「私にときめいてもらいますわよ――阿良々木暦っ!!」

 

 

 

[017]

 

 

「ぐはっ!!」

 

 吹き飛ばされた織崎ちゃんは地面にぶつかってバウンドし、四度目のバウンド後にずざざざっと仰向けになって地面に滑り込んだ。地面は舗装されている道路とかではなく小石がごろごろ転がっている荒地だ――俯せよりはマシだろうが、結構なダメージに違いない。

 何せ僕が言うのだから――僕自身も全く同じことになっていた。相打ちというか……僕の方がバウンドが一回多かったしその上俯せだったけれど、受けたダメージは織崎ちゃんと大差あるまい。

 

 いや、寧ろ織崎ちゃんの方が大ダメージか。

 何せ、完全に攻撃を見切られて、制された上で、刀を破壊されたのだから、その精神的ダメージはあのプライドの高い高飛車な少女のこと、馬鹿にできないものがあろう。

 

 地面には小石に混じり、ガラスのような破片が混じっていた。それは他でもない、完成形変体刀が一本・薄刀『針』の残骸。織崎ちゃんの手には柄が握られているが、その刀身はもう残っていなかった。

 

 薄刀『針』――破壊。

 

「そ、そんな――薄刀が――私の――全刀流が――」

 

 上半身だけを起こし、手の中にある薄刀だったものを見つめながら、うわ言のように呟いた。

 

「馬鹿な――馬鹿な――否定しますわ、ひ、否定しますわ、こ、こんなの――」

「残念じゃったな、現実じゃ」

「っ!!」

 

 僕と織崎ちゃんの間に割り込むようにして、忍が降りてきた。背中に生えた翼は忍が降り立つと同時に変形し、豪奢なマントになった。

 

「かかっ。所詮そんな美術品での攻撃なんぞ、からくりが分かってしまえば大したことはない。うぬも相当眼に自信を持っておったようじゃが――儂の観察眼も、そう捨てたものではなかろう?」

「っ…………!!」

 

 偉そうに腕を組み、踏ん反り返る忍。全盛期程ではないにせよ、今の彼女には火憐程度の胸があるので、図らずも強調する形となった――いや、こいつのことだから強調したのかもしれない。

 実際、織崎ちゃんの猛攻を掻い潜り一撃を入れ薄刀を壊すことが出来たのは、半分以上が忍のお陰だということは何人たりとも否定しようがないだろう。それに彼女が居なければ、今頃僕は1ミリ四方の肉塊になって小石の仲間入りを果たしていたかもしれないのだから。

 

「まあ、うぬではなく、その美術品自体は褒めてやってもよい出来じゃったぞ? 儂自身驚いた――ただ薄っぺらいだけの出来損ないと思っておったが、まさかあのような利点があったとはな」

 

 そう、あれは想定外だった。予想外だった。忍が看破してくれなければ、僕はあの性質を永遠に見抜けなかっただろう。いや、永遠にというのは言い過ぎかもしれないけれど――いやいや、見抜く前に殺されていたと考えれば、案外言い過ぎではないのかもしれない。

 

 薄刀の性質――これが分かったことにより、この戦いはぐっと楽になった。一度目は防がれた日和ちゃんの奥義・微風刀風【神風嵐】もそれからクリーンヒット。それによって体勢を崩した織崎ちゃんに忍が一撃を見舞い、それによって隙が出来たところを僕が『心渡』で斬りかかったのである。

 ぶっちゃけ、薄刀の正体が分かってからはずっと僕たちのターンだった。ワンサイドゲームと言っても過言ではなかっただろう。あれ程までに息の合ったコンビネーションアタックが実現したのも、強力な一撃を放つ忍と、常に起点となってくれた日和ちゃんが居てこそのこと。

 だから、正直僕要らないんじゃないかと思ったが……まあ盾という役割を全うしたってことで、僕の参加を許してほしい。

 

「さて、と。まだやるか? うぬの自慢の刀が一本なくなった訳じゃが、まだやるか?」

「……い、一本……な、な、なくなった程度で」

「千刀か?」

「っ!!」

「かかっ」

 

 僕の側からは忍の金髪とマントしか見えないけれど、きっと今彼女はお馴染みのあの顔をしていることだろう。血も凍るような、凄惨な笑みを浮かべているのだろう。

 

「無駄じゃ無駄じゃやめておけ――どうせまた利用されるのがオチじゃぞ? 『千刀巡り』じゃったか……もうあれは儂らに通用せん」

「…………」

 

 煽るなあ。

 忍さん煽るなあ――僕は日和ちゃんに起き上がらせてもらいながら思った。

 

 『千刀巡り』――これもまた"多さ"に主眼のおかれた千刀の利点を生かした技だったのだろうが、しかし運用方法が悪かった。

 空中に張り巡らされた糸に繋ぎ、刀を落下させては元に戻すという戦法は脅威ではあったが、それはつまり、抜き身の刀を糸に近付けているということに他ならない。

 だから"それ"を利用した――繋がれた大量の刀を使い、空中の糸を切断したのだ。

 

 空中の糸は二段構造になっていて、織崎ちゃんが足場として使う一段目、そして千刀や双刀、或いは使用しない刀などを吊り下げておく二段目に分かれている。千刀は落下しても一段目の糸を切らない位置に配置されているが、その落下する刀を揺らしてしまえば、刃は糸に届いてしまうのだ。

 我ながらこれに気付くのに遅かったと感じたが――しかもこれを見抜いたのは僕ではなく日和ちゃんだ。相手の攻撃を自分の攻撃に変換する――僕みたいな吸血鬼パワーごり押しの奴には思いつかない戦法であった(言ってしまえば忍もごり押し戦法なのだが、あいつの場合手数と火力がとんでもないので僕とは比較にならない)。

 結果、一段目の糸を切り裂くことに成功した。糸の足場がなくなったお陰で、今こうして僕たちは地に足をつけている。

 

「ぐ――うぅ」

 

 織崎ちゃんが呻きながら立ち上がる。さっきまで小綺麗だった服には土や砂が纏わりつき、金色の髪は幾分か燻んでしまっている。

 

「…………」

 

 ボロボロな見た目ではあるが……しかし、翡翠色の目からは全く衰えない殺意が読み取れる。そうまでして、そうまでなって、どうしてそんなにも。

 歴史の改竄――ルートの融合――多分この件に関しては、実際に"ルート"が存在することを知っている僕ならば理解出来るはずなのだろうけれど、しかしそれでも、到底受け入れられる話ではない。

 

「っ…………ぐっ……」

 

 僕たちを殺したからといって、果たしてそれが何になるというのか――主人公。

 織崎ちゃんは僕を指してそう言っていた。

 

 正直に言うけれど、僕にはそれが、狂人の戯言にしか聞こえなかった。狂人呼ばわりするというのは道徳的に許されることではないけれど、しかしこればかりは狂っていると思ってしまったのである。

 

「……っ……――――」

 

 今まで散々メタ的に主人公主人公言ってきたけれど、あんなの冗談みたいなものである。実際のところ僕はその辺に居るような冴えない男でしかない。ただちょっと元伝説の吸血鬼の眷属になってしまったというだけの奴でしかない。

 冗談を真に受けられても困る。

 

「――…………」

 

 だって考えてもみてほしい。

 最強で無敵で無敗なチート系巻き込まれ系やれやれ系主人公が好まれる昨今、こんなサンドバックが意志を持って歩いているような奴が主人公な訳ないだろう。ちょっと考えれば分かることである。

 別に僕は最強でもないし、敵はいっぱい居るし、寧ろ勝利自体が珍しい。チートというなら忍の方がチートだし、巻き込まれるどころか自分から首を突っ込んでいるし、やれやれなんて格好つけてる余裕は一切無い。

 だから誤解しないでね。

 

「…………ふ」

 

 などと誰に向けた訳でも無い言い訳じみたことを考えていると、織崎ちゃんが言った。ふ? 麩?

 

「ふ――ふ――ふふふふふ――ふふふ――」

 

「阿良々木お兄ちゃん、あいつ笑ってますよ。いかなることでしょう?」

 

 日和ちゃんの言う通り。織崎ちゃんは突如、発作を起こしたかのように笑い出した。その目は相変わらず笑っておらず、僕たちの方をしっかり見据え、睨んでいるけれど。

 

「な、なんだよ――何がおかしい」

「ふふ、ふ、ふふふ――いえいえ、あなた方は何もおかしくありませんことよ――ただ、面白い演出が思い浮かびましてね? ふふふ――ああ、さぞあなた方は絶望することでしょうね――ふふふ、ふふふ!」

「は、はぁ?」

 

 演出、だと?

 絶望――どういうことだ。

 

 要は妄想で笑っているということなのだろうが――だが、ヤバい。

 何かがヤバい。

 言葉に出来ないけれど、雰囲気が変わったからとしか言いようがないけれど、しかし、もう一瞬でも隙を与えることは出来ないということを察するには、十分過ぎるほどの嗤いだった。

 

「忍!!」

「分かっておるわ!!」

「微刀流・疾風!!」

 

 僕と同じく危険性を感じたのか、忍と日和ちゃんが攻撃した――ここで僕が動けていないのが、なんとも情けない限りであったけれど――。

 

 忍の爪が左から襲い。

 日和ちゃんの刀が右から襲う。

 

 しかしそれらが織崎ちゃんに届くより、ほんの少しだけ速く――

 

「『悪刀七実』――【勝紅草】!!」

 

 織崎ちゃんがそう叫んだ瞬間、視界が真っ白に染まった。

 

 

 

[018]

 

 

 暫く思考停止してしまった――だが、暫くして、光に目が慣れてきたところで、その光の正体が分かった。

 電気だ。織崎ちゃんの胸に刺さったくないから、その尋常ではない光は放たれていた。光というか、電光というか。

 そう、電気――先程までとは比べ物にならない量の電気がくないから発せられているではないか。雷撃は四方八方に閃き、触れたものを容赦なく焼き焦がした。

 

「っ――――!?」

「きゃっ!!?」

 

 触れたもの――それには忍と日和ちゃんも含まれていた。日和ちゃんは斬りかかったところで即座に手を止め、後方へジャンプし回避した――服が焼け焦げたが――そして忍も即座にマントを盾代わりにして離脱、マントは言うまでもなく散り散りに燃え去った。

 

「お、お前!?」

「fffffふふふふふ!!! mmmもももう快進撃はそこまでですわわわよ!!! gggggg――◼︎◼︎◼︎◼︎――さあ、さあ、さあ、掛かってきななななさいまし!!! wwww私に触触触れられるのであれば!!! 来るがいいですわ!!!」

「っ――――!!」

 

 所々呂律が回っていない不明瞭な、しかし狂ったような大声で織崎ちゃんは言った。

 狂ったようなというか、狂っているとしかもう思えない――明らかにあれ、あいつ自身もダメージを受けている。しかも結構易からぬものを。

 そこまでするか。

 ここまでするか。

 

「お、おい! もうよせ! 見ているこっちが辛い!」

「sssss知りませんわよ貴方のののの感想なんて!!! 安心なさいmmまし、私が死ぬことは決してない!!! nnnnn何故ならばこの刀こそ、使用者の生命力力力を活性化させ、無理矢理無理矢理にで◼︎生き延びさせる、最も尤も凶悪な刀なななな――――"悪刀『鐚』"!!!!」

「悪刀――――」

 

 あれが、あのくないが、悪刀だと。

 くないなのに刀とは――いやまあ機械人形よりはよっぽど刀っぽいからまあまあ良しとするにしても、あれが、織崎ちゃんさえよく知らなかった凶悪なる刀か。

 

 使用者の生命力を活性化させ、無理矢理にでも生き延びさせる――どういうからくりだ? 電気で肉体に刺激か何かを与えているのだろうか? その辺りの医学知識には疎いので、それくらいしか思い浮かばないが。

 その性質は確かに"悪"だ。つまりそれは不死身と呼べる存在になることであり、不死身ということは、死にたくても死ねないということでもある。

 どんな苦痛を味わおうとも、どんな責め苦を受けようとも、決して死ぬことが許されない――それは地獄以外の何物でもないだろう。死んでは生き返る、生き返らせられる、地獄。

 春休み、嫌という程味わった。

 成る程、確かに凶悪である。凶悪極まりない。悪刀というその銘に相応しい性質と言えるだろう。

 

「さて……どうする、お前様よ」

 

 忍が言った。

 

「このままでは攻撃もままならんぞ」

「……あいつが自滅するまで待つってのは」

「それはそれでアリかもしれません」

 

 日和ちゃんが言った。

 

「あたいはあいつ(悪刀)のことをよく知りませんけれども、あいつが持っている雷の量には、きっと限りがある筈です。改竄……というか、改悪されていなければの話ですけれども」

「改悪……」

 

 雷を有する刀というだけでも結構なオカルトではあるが、しかしあくまで人の作ったものであるから、必ず限界は存在する筈なのである。

 しかし今、あの刀は怪異として現れている。ならばその限界が取り払われている可能性も、少なからず存在するのだ。

 常識と異なるからこそ、怪異。

 

「FFFFFFFF!!! 何なら試してみます? mmaまあ、この雷が尽き月るまで、◼︎◼︎◼︎方が生きられるわ訳ないのですけれどね!!! おほほほほhhほほ!!!!」

「っ…………」

 

 痛々しい。

 とても直視出来ない――目をギラギラと煌めかせながら痙攣し、尚も強気で僕たちを殺そうとする彼女が、あまりにも哀れに見えてくる。

 そんなに殺したいか。

 僕たちを。

 

「さあ、さあ、◼︎◼︎!!! 近付いて来い!!! 死ににににに来い!!! kkkkkこっ、来ないなら――kkkこちらから、行◼︎ますわよ!!!」

「っ!!」

 

 織崎ちゃんが狂って叫ぶ。僕たちは思わず身構えた――だが、それは大きな間違いだった。

 僕たちは、織崎ちゃんがこちらへ走ってくると思ってしまったのだ。先程の台詞から、雷を纏った突進か何かをしてくるのだと勘違いしてしまったのだ。

 "行く"をそのままの意味として捉えてしまったのである――"行く"は"来る"ではなかった。

 "攻撃する"というだけの意味――もっと言えば、"行く"というより"行かせる"が正解だった。

 

「FFFFFFFF!!! FFFFFFFF!!! 双刀『鎚』限定奥義・双刀之狂犬!!!」

 

 織崎ちゃんは痙攣しながら、指から糸を放って空中に吊り下げられた双刀を回収、すると共に、刀が手元に戻ってきた瞬間、織崎ちゃんはあらぬ方向を向き、空高く双刀を放り投げた。

 

 ……何だと?

 

「何やっとるのじゃ、あやつは? 遂に雷にやられたか」

 

 忍が言った。

 

「そうだとすれば、案外早く限界が来たようじゃのう――かかっ、何じゃ、所詮は見掛け倒しか」

 

 悪刀はあくまでも生命力を活性化させる刀。しかしそれは(多分)通常使用した場合の話であり、このレベルのオーバードーズをしてしまった場合、そもそも体がその雷に保つかどうかが分からないのであろう。

 事実、織崎ちゃんは今悪刀の影響でボロボロではないか――脳に何らかの悪影響が及んでいても何らおかしくは……

 

「――――っ!!!」

 

 と、その時である。日和ちゃんが突如、先程双刀が投合された方向へと走り出したではないか。

 

「ど、どうした!?」

「そんな――そんなまさか――っ!!」

「お、おい!?」

「FFFFFFFFFFFFFFFF!!!!」

 

 走り出した日和ちゃんを追って、僕と忍も駆け出した。だが、そんな日和ちゃんの前に電撃を撒き散らしながら織崎ちゃんが立ち塞がる。日和ちゃんは足を止めた。

 

「あ、あなた――あなた――」

「wWWW私の目論見にn気付くのノ之乃が遅過ぎましたわね、神崎日和――FFFFF」

 

 日和ちゃんの手はわなわなと震えていた。

 織崎ちゃんが嗤う。

 

「目論見……?」

 

 僕はクエスチョンマーク混じりに呟いた。

 答えはしっかりと返ってきたのだけれど、しかしこれに関しては答えなんて必要なかった。答えを聞く前に、誰よりも一番に、僕が気付くべきことだった。

 あの場所に、他の誰よりも足繁く通った、この僕こそが――。

 

「HH八九寺真◼︎の住まう社・北白蛇神社――FFFF、今頃はきはきっとttttt空高くから降ってきた石のかたまりたまりまりりによって、また崩壊◼︎◼︎◼︎かもしれませんわね。FFFFFFFF!!!」

 

 

 

[019]

 

 

「よくも、八九寺お姉ちゃんのお社を――!!!」

 

 織崎ちゃんから直に答えを教えられ、自分の勘が的中してしまっていたことを否応なしに知ってしまった日和ちゃんは、僕より先に激昂した。

 眩い雷を纏う織崎ちゃんに向かって、二本の刀をプロペラのように回転させながら突進した――プロペラは閃く雷撃をある程度弾くことが出来ていた。その様子は宛ら土中を掘り進む掘削機のようであり、そして見事、織崎ちゃんのすぐ近くまで接近することに成功した。

 

「微風刀風【神風――」

「虚刀流最終奥義・七花八裂【改】!!!」

「――――ぐぎゃあっ!!!」

 

 だが結果として、近付けただけだった――日和ちゃんは微刀流奥義を放とうとするも、それより織崎ちゃんの方が僅かに早かった。

 虚刀流最終奥義・七花八裂――虚刀流奥義と呼ばれる七つの技を連続して繰り出す技で、それを食らった相手は――名前通り八つ裂きとはいかないけれど、それに近い状態にまで身体を破壊される。実際に食らった僕が言うのだから間違いない。

 そして今現実として、その光景が目に映っているのだから、間違いようがなかった――間違いであってほしかった。

 

「ぐっ、うげっ、ぎっ――いぃ――――」

「っ――――!!!!」

 

 宙を舞う日和ちゃん――その体は腰辺りから上の上半身、下半身に分かれ、さらに左腕が引き千切られていた。

 

 ――随分と長い間、僕はそれを見つめているような感覚に襲われた。ただ衝撃で時間が鈍化しているだけだけれど、それは本当に味わったことのないような経験だった。

 臥煙さんに殺された時は、あれはあくまで走馬灯だったし、吸血鬼ハンター連中や忍との戦いに関しては、動体視力的な問題もあるので今回のこれと同じとは言い難い。

 

 歯車のような形をした肉を飛び散らしながら、結晶が混じる血を撒き散らしながら、日和ちゃんは地面に向かう。

 せめて受け止めるくらいは出来なかったのか――僕は情けないことに、そんな悲惨な状況にある日和ちゃんを、ただただ惚けて、突っ立って、見ていることしか出来なかったのである。

 だから、日和ちゃんの上半身を受け止めたのは忍だった。ゆっくりと落下する日和ちゃん、よりも速いスピードで落下地点へと走ると、彼女の上半身を受け止めたのであった。

 当然、受け止められなかった左腕と下半身は無残にもぐちゃりと地面に落下した。そしてそれを契機に、時間が加速し出したのである。

 

「っ――――ひ、日和ちゃんっ!!!」

 

 だから、遅えよ――そうツッコみたくなるけれど、しかしそんなツッコミを入れる資格も、入れられる資格も、僕には無いのだった。

 

「ぐえっ、がっ、ごぼぼ――うごぇっ」

「っ!!」

 

 遅まきながら、僕は日和ちゃんに駆け寄った。日和ちゃんの口からは血が止めどなく溢れ、血で口の中が一杯なのだろう、まともに喋ることさえ出来なくなっていた。

 

「ぼ、僕の血で――な、治るだろ!!?」

 

 そう思った僕は迷いなく、同じく左腕を『心渡』で切断した。左腕があった場所からは血が噴き出し、地面と日和ちゃんを濡らした。

 

 吸血鬼の血には、他者の傷を癒す力がある。吸血鬼もどきの僕の血が果たしてどこまで通用するかは分からないけれど、しかし吸血鬼度はギリギリまで上げている。きっと効果はある筈だ。

 ある筈なんだ。

 ある筈、なのに。

 

「お前様」

「な、な、なん、なんで」

「…………」

 

 忍が首を振った。

 

「なんで、治らないんだよ(・・・・・・・)

 

 そう、傷は全く治らなかった。

 勿論、失われた下半身までもが復活する、なんてそこまでの効果は希望していたものの、期待はしていなかった。僕としては精々、傷口が元通りに塞がる程度に治すことが出来れば、万々歳だった。

 でも、そんな低い志さえ、達成出来なかった。

 全く、何の効果もなかった――日和ちゃんの身体中に刻まれた傷が、一つ足りとも消滅しなかった。塞がらなかった。

 

 忍が言う。

 

「吸血鬼の血は、血の成分がある程度同じ相手でなければ機能せん。同属は言うまでもないが、人間にも効果があるのは、吸血鬼と人間は同じような血を持っているからじゃ」

「……お、同じよう、な」

「言うなれば、輸血と同じ原理じゃな。まあ儂は医学に関してはからっきしじゃが……輸血する血は同じ血液型のものでなければならないという話を聞いたことがある。それと同じじゃよ」

「…………」

 

 吸血鬼は人間の血を吸って生きる。それはつまり、人間の血と吸血鬼の血は、何らかの形で波長が合うということに他ならないのである。だから、吸血鬼の血は人間に作用する。

 しかし、日和ちゃんは人間ではない。"人間らしさ"に主眼の置かれた怪異――刀である。

 微刀『釵』。

 機械人形である彼女は、そもそもの話体内を巡る血はない。今こうして流れ出ている血は、あくまでも血を模したもの――人間を模したものでしかない。そしてそれはガワだけであり、その実態はまるで違う要素で構成されているのだろう。

 だから、人間の血とは違うから、吸血鬼の血は日和ちゃんに対し、何の影響も及ぼさないということか。

 

 マジかよ。

 嘘だろ。

 

「嘘だろ……」

「嘘ではない……事実、回復しておらんじゃろうが」

「…………っ」

 

 忍は冷静な面持ちで言う。その声も冷淡そのものだ。

 

「な、な、なら、し、忍。お前の血は」

「無理じゃよ。こればっかりは儂にも出来ぬ――チートチートと言われる儂ではあるが、こうして出来ぬこともあるのじゃよ」

 

 皮肉のように、吐き捨てるように、忍は言った。

 

 日和ちゃんの体には、無数の傷が付いていた。あちこちが歪に変形し、服もビリビリに破け、もう普通に胸が露出していたりするのだけれど、金属光沢のある肋骨が見えたり歯車みたいなものが漏れ出したりして、そんなことを気にしている余裕もなかった。

 少し前までは笑顔を浮かべていた顔も、ズタズタに引き裂かれていた。後頭部から眉間に向かって深い傷痕があり、そこからは止めどなく血が溢れ出ている。思わず僕は日和ちゃんの顔に触れた――が、その瞬間、日和ちゃんの作り物めいた片目がポロリと落下し、地面を転がった。

 

 織崎ちゃんは、絶望と言っていた。

 これか。

 こんなものを思い浮かべて、あいつは、嗤っていたのか。

 

「……………………」

「…………」

 

 僕は派手な光を放つ織崎ちゃんの方を向いた。

 

「FFFFFFFF!!! FFFFFFFF!!! あーあ残念んです話ワわねえ、阿良々木暦!!! 神崎日和!!! FFFFFF、私を甘く見るから、こういうことにことになっなっなってしまうのですわよ? おほほ、おほ、ほ、ほほほ、ほほほほhhhhhh!!!!」

「…………」

「…………」

 

 僕は『心渡』を構えた。それと同時に、忍は日和ちゃんをゆっくりと地面に降ろし――そして自身も体内から、『心渡』を取り出した。

 恐らくそれは、今僕が持っているような複製品ではない。死屍累生死郎の鎧から作り出された、正真正銘、本物の妖刀『心渡』。

 

「…………」

「…………」

 

 最早、僕と忍の間には言葉さえ要らなかった。ペアリングされていることによって、僕の考えていることは忍にダイレクトに伝わるから――というのもあるだろうけれど、恐らく、僕と忍の気持ちが一致したという要因が大きいに違いない。

 

 "織崎記を八つ裂きにする"――!!

 

 僕と忍は全く同じタイミングで駆け出した。走るスピードは忍の方が速かったというのは、言うまでもないだろうけれど、きっと僕のスピードもかなりのものだったと思う――吸血鬼補正抜きにしても。

 具体的には、八九寺に背後から襲い掛かる時レベルのスピードに匹敵しかねないほどであったと思う。

 

 走りながら、忍は左手で刀を構え、右手の爪を虎のように鋭く尖らせた。

 一方の僕は両手で刀を構えるくらいであった。しかもいまいち様になっていないような、不恰好な姿で。

 

 織崎ちゃんは舐め腐った笑みを浮かべながらガクガクと痙攣している――さっきまではその姿に同情心さえ芽生え掛けたけれど、今は全くそんな気持ちはなかった。

 ただひたすらに、馬鹿にされているとしか思えなかった。舐められているとしか思えなかった。余裕ぶっているようにしか見えなかった。

 

 電撃が僕たちを襲う――が、その電撃は僕の前方を走る忍が振るう怪異殺しによって次々と切り裂かれ、消滅していった。

 あくまでも怪異殺しが切れないのは、完成形変体刀本体のみ。電撃は刀から放たれる副産物的な怪異現象でしかない。よって、怪異殺しは正常に作用する。

 

 雷撃を無効化しながら走る忍と僕――その時、織崎ちゃんが体を捻るような姿勢をとった。

 

 来る!

 

「kykyky虚刀流最終奥義・七花八裂【応用編】――」

 

 だが、その技はもう既に見切っていた。最初に放たれるのは、体を捻り相手に拳を突き出す技・柳緑花紅。だがこの技は直線的な攻撃であり、左右に分かれた上で、更に跳躍してしまえば当たらないのであった。

 応用編とやらがどんな技かは知らないが、一撃で沈めてやる、織崎記――!!

 

「――と見せかkkkkけて真庭に忍法・足軽&虚刀流・杜若!!!!」

 

「何じゃと!?」

「なっ!?」

 

 僕たちは揃いも揃って、そんな情けない声を出してしまった――全くお笑いである。いくら気持ちが一致しているからといって、知能レベルまで一致しているのは如何なものだろうか。

 完全に騙された――フェイントを掛けられた。

 織崎ちゃんは僕たちから逃げるように、凄まじいスピードで駆け出した――その際にまたもや電撃が放たれたが、危うく忍が再度作り出したマントで防御した。

 

 僕たちは織崎ちゃんを視界にとらえた――が、僕は絶句した。

 織崎ちゃんが走り出した先、そこに居たのは、横たわっていたのは、日和ちゃんだったのだから。

 情けないにも、程がある。

 まだ痛め付けようというのか。

 

「やめろ!!! てめぇ――」

「ggggggご安心下さpsiいまし!!! 私はもう手を下すつもりはgございませんの!!! FFFFふ、私はただこいつに近付いて、一言言ってやるだけ――」

「っ!!!」

 

 まだ僕たちは地に足を着けていない。攻撃がスカ振りして不恰好に宙に浮いているだけ。

 

 だが、そんな状況で、忍は何かを察したのか、目を見開いて言葉になっていないような叫びをあげた。

 ただ一言言ってやるだけ?

 ただ一言?

 

「神崎日和――否、微刀『釵』」

 

 白く光る織崎ちゃんが、先程までとは違う明瞭な声で言った。

 

「はぁっ――ぐっ、げぁ――」

「貴女の怪異として与えられた役割は――果たして何だったかしらね?」

 

 呻く日和ちゃん。

 そして、僕は漸くここで気付いた――遅ればせながらにも程があるけれど、手遅れにも程があるけれど。

 

 待て。

 待ってくれよ。

 おい。

 おいおいおいおいおいおい。

 

 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て――

 

「貴女――阿良々木暦を殺すことが存在理由の怪異、ではありませんでしたっけ?」

「やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 多分、この時の僕は、本当に頭の中が真っ白だったのだと思う。いや、或いは、真っ黒に塗りつぶされていたのだと思う。

 真っ黒い、真っ暗い、暗闇のように。

 

 『くらやみ』のように。

 

 織崎ちゃんが、日和ちゃんの存在理由を述べた、その瞬間。

 織崎ちゃんと日和ちゃんの頭上に『くらやみ』が生じた。

 

 黒。圧倒的な黒――世界の法則にして、修正者。間違いを正す者。

 『くらやみ』。

 

 微刀『釵』――神崎日和は、本来僕たちを殺すために生まれた怪異だった。実際、それを遂行するために彼女と僕は戦った。

 そしてその結果、彼女は僕を殺すのではなく、守ることを選んだ――選んでしまった。

 それは誤りの選択肢だった。

 性質、或いは存在理由と間違った行動をとる怪異には天罰が下る。その執行者が『くらやみ』なのである。

 神崎日和は僕を守る怪異になった――それは、世界の法則から見れば、許されることではなかったのである。

 そして今、それをこうして指摘されたことにより、その間違いが露呈した。

 間違いを正す。

 

 『くらやみ』は、そのまま垂直に落下した。いや、落下したという表現はおかしい。なぜなら『くらやみ』は、そもそもそこに存在していないのだから。

 落下するための質量など持っていない。

 

 移動した――日和ちゃんと織崎ちゃんの方へと。

 

「ふふふふふ!!!」

 

 織崎ちゃんは『くらやみ』を後方回転によって避けた――が、日和ちゃんはお分かりの通り、動けない。

 なすすべもなく。

 

 『くらやみ』が、日和ちゃんの上半身を呑み込んだ。

 

 しかしそれだけでは飽き足らず、『くらやみ』は更に織崎ちゃんへ向かって移動した――てっきり織崎ちゃんを呑もうとしたのかと思ったけれど、そうではなく、目的は織崎ちゃんの後ろにあるものだった。

 

 日和ちゃんの下半身。

 

 織崎ちゃんは嗤いながら側転回避。『くらやみ』が通り過ぎた。そして通り過ぎた後には、日和ちゃんの下半身は残っていなかった。

 

 だが、まだ残っている――『くらやみ』はまたもや方向転換、織崎ちゃんの方へと向かう。もういっそのこと織崎ちゃんも呑み込んで欲しい――という気持ちを嘲笑うかのように、というか実際嘲笑いながら、また織崎ちゃんは回避、『くらやみ』は日和ちゃんの左腕を呑み込み、そして暫く血や歯車の付着した地面を削り取り――何事もなかったかのように、あっさりと消えた。

 

 その間、僅か五秒にも満たない出来事。

 たった五秒足らずで――日和ちゃんがこの世に存在した証が、一つ残らず、消滅してしまったのであった。

 

「…………」

 

 僕は遅蒔きながら、唖然とするより先に織崎ちゃんを睨んだ。

 織崎ちゃんはギラギラと煌めく目付きで嗤っている。

 忍もまた、血も凍るような目付きで睨む。

 

 この面子の中では、僕の睨みはいまいち迫力のないものに思えるかもしれない――なので、僕は思いっきり息を吸って。

 心の底から、湧き上がる怒りと憤りと悲しみと哀しみと恨みと怨みを乗せて、叫んだ。

 

「織崎イイイイイイイィィィィィィィィィィィィィッ!!!!」

 

 友達を作ると人間強度が下がるとは、我ながらよく言ったものである。

 お陰で人間強度どころか――人間性さえ捨ててもいいと思えてしまったよ。

 

 僕は刀の柄を、思いきり握り締めた。

 




■ 以下、豫告 ■

「忍野忍じゃ。

「うぬらの期待に応えて、またまたドーナツの話をしてやろう。ありがたく思え」


「儂が信奉するミスタードーナツの話なんじゃがな? いやはや、あの会社とんでもないものを作りおったらしくてのう。

「いや、これはオノノキ嬢から聞いた話なんじゃがな? 儂の情報筋にも中々限界があるので、儂が最初にその情報を得られんかったのは全く歯痒い限りなのじゃが。

「なんと、"しゃべるドーナツ"というものの開発に成功しておるらしいのじゃ!

「すごくない!? しゃべるドーナツじゃぞ!? なんじゃそれ! 今までの常識をこれでもかと覆すレベルの大発明ではないか!! ドーナツが喋る!? ぱないの!!

「いやあ、儂もあの会社には随分と世話になっとるし、見くびっておった訳ではないのじゃが、まさかここまでやるとは……もう本当、太陽が儂以外の誰かにぶっ倒されたとしてもここまで驚かんじゃ――

「ん?

「なんじゃ、今ミスタードーナツの素晴らしさについて語っておるというのに、水を差すな――あ? 日にちを見ろ? そりゃあうぬ、今日は四月つい……

「…………。


「……次回、裔物語 しるしスパイダー 其ノ陸」


「……オノノキはどこじゃ」

■ 表紙原案 ■

【挿絵表示】

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