〈物語〉シリーズ プレシーズン 【裁物語】   作:ルヴァンシュ

18 / 30
 それは最悪な改悪。


■ 以下、注意事項 ■

・約貮萬壹仟字。
・〈物語〉シリーズ、アニメ未放送分ノネタバレ有リ。
・他、何カ有レバ書キマス。

■ 黒齣 ■


第肆話 しるしスパイダー 其ノ貮

[006]

 

 

「さて、私の豪勢なる屋敷に着くまで、暫く雑談に興じませんこと?」

「帰っていいか」

「そんなに嫌ですの!?」

「嫌だ」

 

 スパイダーマン顔負けの糸による高速移動により書店から退出した僕と織崎ちゃんだが、少し離れた場所で停止し、何故か歩きで向かうことになったのだ。

 何でだ。

 僕はてっきりあのままの状態で連れて行かれるものと思っていたのだが――というか、そっちの方がこいつと絡まなくて済むので良かったのだが。いや、絡むというのは物理的にではなく、会話的な意味でだ。

 

「絡って字、ふふ、糸が入ってますわね」

「だから何だ」

「……そこから繋げるのが貴方の役割ではありませんこと?」

「生憎だが僕は繋げられるような糸を持っていない。糸を使って縫合するのは君の役目だ」

「上手くありませんわね」 

「そうだ、僕は上手くないんだ。じゃあ帰っていいか」

「待って下さいましい!!」

 

 必死に引き止めてくる織崎ちゃん。わざわざ袖まで掴んで引き止めてくるのだから、きっと只事ではないのだろう。僕は唯々諾々とそれに従っ待て、どうして只事じゃないんだ? 袖を引っ張って止めるくらい、それ程珍しいことでもないだろうに。

 

「あっぶねえ……また何か思考がおかしくなりかけたぜ」

 

 危ない危ない。

 もう少しで車内の二の舞になる所だった。

 

「くっ……やはり一度私の糸を認識した相手に仕掛けるのは無理がありましたわ」

 

 やはり何かしていたらしい。懲りない奴である。また引っかかり掛けていた僕が言えたことではないのだけれど。

 僕は取り敢えず織崎ちゃんに着いて行く。唯々諾々ではなく、不承不承着いて行く。糸云々は抜きにしても、今ここでこいつから目を離せば解放された神原や日和ちゃん達に何を仕出かすか分からない。

 それに。

 

「つーか織崎ちゃん。その僕を洗脳しかけた能力も含めて、本当にちゃんと説明してくれるんだろうな?」

「当たり前ですわ。我がご先祖様に誓って、嘘ではありませんの」

「……その妙なご先祖様信仰も、説明してくれるんだよな?」

「……それを教えて、何か私に得がありますの?」

「…………」

 

 だから信用出来ないんだよ。

 そういうこと言うから信用してもらえないんだよ君は――つーかその台詞もいい加減基準が分からない。どう考えても能力について説明する方が一切得がないような気がするのに、どうしてその先祖信仰については頑なに隠すんだ。

 価値観が無茶苦茶すぎる。

 だから、その"ご先祖様に誓って"という言葉の重みもふわふわしたものなのだ。あくまで僕が抱いている希望的観測に基づき、この子を信用しているだけ――そこに根拠も何もない。

 

「……まあ、教えられることは教えますわ。その辺りは誠心誠意、答えさせて頂きますの」

「そうかい」

 

 誠心誠意は間違いなく嘘だろうが、教えてくれるというのは、本当だろう――先ほど述べた通り、これも僕の根拠なき希望的観測だが。

 

「だから、もう少しだけ私に対するその態度を軟化させても良いのではなくて? 私がこうしてそれなりに歩み寄って差し上げているというのに、そちらからは離れていくばかり。これでは人間関係などとても築けませんわ」

「その人間関係をぶち壊そうと、ぶち殺そうとしているのが君な訳なのだけれど」

 

 どの口が言う。

 つーか、軟化させているというのであれば、『私に何か得がありますの?』と言うのをまず止めろ。あれが一番腹立つ。

 

「……なあ、君は何がしたいんだ? 僕を殺したいんじゃないのか? なんで態々雑談しようとするんだよ。それこそ、君に何か得があるのか?」

「それを教えて、何か私に得が――」

「…………」

「――……」

 

 苦々しそうな顔で黙り込んだ織崎ちゃん。どうやら、自制しようとする気はあるらしい。その所為で余計この子の意図が分からなくなった感があるが。

 

「一応聞いておくけれど、君は僕たちを殺そうとしてるんだよな? それは今でも変わらない立場なんだよな?」

「当たり前ですわ。何を仰るのかと思えばそんなこと。はっ、もう少しまともな質問は出来ないものですの? 阿良々木暦」

「…………」

 

 うぜえ。素直にそう思った。

 本当に雑談する気があるのかと疑ってしまう――いやまあ質問には一応答えてくれたから別にそれ以上は今の会話に望まないけれど、もう少しまともな喋り方は出来ないものなのだろうか。

 

「しかも煽りも微妙だしな……ひたぎの二分の一にも満たねえよ」

「殺害対象と私を比較するの、止めてもらっていいですの?」

「おっと、思わず声に出てたか」

「わざとらしいですわね……そっちこそ煽りがなってませんことよ、阿良々木暦」

「悪いが僕のお喋りスキルは通常会話に全振りしている。煽りなんかに振ってるポイントは無えよ」

 

 まあ、僕のお喋りスキルなんてたかがしれているのだが。それこそ、ひたぎの二分の一にも満たない。僕は語彙が少ないのだ。

 

「語彙が少ないと言っても、そこは受験生でしたし、そこそこ語彙はある方なのではなくて? 少なくとも私よりはありそうですわよ」

「煽てても何も出ないぞ」

 

 煽りどころか、煽ても下手らしい。話術だけでは、正直なところ僕の圧勝なのではないだろうか。

 

「僕から出るのはただ一つの台詞だ。織崎ちゃん、帰っていいか」

「事あるごとに帰ろうとするのやめて頂けますこと!?」

「だってまだ着かねえのかよ。いい加減にしろよ。会話も全く弾まねえし――つーかそもそも、何で君と僕はこうして雑談っぽいことをしながら歩いているんだよ。あのワイヤーアクションはどうした」

 

 ワイヤーアクションというか、ウェブサーフィンと言った方がいいのかもしれないけれど――何せワイヤー以上の強度を誇っているものの、究極的には蜘蛛の糸なのだから。

 多分。

 

「……いやいや、阿良々木暦。貴方には常識がありませんの? 普通こんな真昼間にあんな目立つ事、する訳がないでしょうに。馬鹿ですの? 死にますの?」

「馬鹿であることは否定しないし死なそうとしているのは君だが、そこまで言われる謂れはない」

 

 いちいち煽らないと喋る事が出来ないのだろうか。嘗てそんな子に出会った事があるけれど、その子と比べたら差が歴然過ぎる。どう考えても彼女の方が上だろう――地濃は別に織崎ちゃんの暗殺リストには入っていなかった筈なので、遠慮なく比較出来る。

 

 ……まあそれはさておくとして――成る程、確かに常識的な理由である。というか、尤もな理由だ。今僕たちの頭上には燦々と輝く太陽がある。真昼間もいいところだ。いくら田舎町とは言え、時間が時間故に目撃される可能性も夜よりは圧倒的に高いのだ。

 どうしてこの程度の事を思いつかなかったのだろうか――先程図書館で交わした会話で、織崎ちゃんは人目につきたがらないという事を知った筈なのに。いや、織崎ちゃんに限らずとも、そもそも怪異現象を一般の方に見せるというのは余りにもリスクが大きすぎる。

 怪異を目撃することは、即ち怪異に惹かれやすくなることを意味する。それは決して喜ばしい事ではないだろう。怪異なんて、本当は知らなくても良い、知らない方が良いものなのだから。

 世の中には知らない方がいい事もあるというが、怪異とは正しくそれなのだ。

 

「まあ、私も一角の専門家もどき。怪異を公に晒すような真似は、出来るだけしたくはありませんのよ」

 

 織崎ちゃんは言う。その言葉に納得しかけたが、しかしよく考えてみればそもそも公衆の面前、というか公共の場である図書館内であのウェブサーフィンを行ったことについてはどう説明をつけるつもりなのだろう。

 

「……ふん。あれについては貴方の拉致を優先した形になりましたわ。言い訳も何もありませんの」

「堂々と拉致宣言してんじゃねえよ」

 

 あの連れ去り方は拉致と呼んでも差し支えのないものだったけれど、自覚があったのか。タチ悪いな。

 

 ……ん? あれ?

 待て待て、僕何か見落としてないか? 何か織崎ちゃんに関わる新情報がさらっと出されたような気がするのだが、気の所為か?

 織崎ちゃんが怪異の専門家、なんて――そんな事、今まで聞いた事あったっけ?

 

「…………ちっ」

「あ、無かったんだ」

 

 どうやらこの少女、ここに来て失言してしまったらしい。しかもこの反応から察するに、このまま隠し通しておくつもりだった事なのかもしれない。

 うん、やっぱこの子、色々残念だ。

 

「……織崎の血統であるところのこの私を残念と評すとは、阿良々木暦、それは私の血統を侮辱するに等しい事ですわよ」

「おいおい、自分の血統を盾に使うなんて、本当にその織崎の血統とやらを誇りに思ってるのか?」

「っ……!! 思っていますわ!! 貴方に、貴方に何が分かりますの!!」

「え、いや、だから何も知らないんだけど……」

 

 声を荒らげる織崎ちゃん。図星だったのか、或いは本当に血統を侮辱されるのが嫌なのか。どちらだ。

 どちらにしても、沸点が低すぎるような気もするが――人の事を言えないけれど。

 

「ぐぎぎぎぎ……! いつもいつもお前らは、織崎の血統を馬鹿にする――馬鹿にして、改竄して、改悪する!!」

「お、おい、落ち着けよ織崎ちゃん――」

「これが落ち着いて――!!! っ……」

 

 今にも僕に掴みかからんとする程の気迫――だが、ここで自制を試みるあたり、決して理性的ではないということなのだろう。或いは、これも演出か。

 『鎧』の時も日和ちゃんの時もだが、この子は演出に拘る節がある。もしかしたらこの激昂さえ演技なのかもしれない。それくらい疑ってかからねばならない。

 

「ふ、ふっ……ま、まあ良いですわ。私は無知には寛大ですの。ええ、寛大ですとも! 今この場で貴方を必殺仕事人三味線屋の勇次さんよろしく絞殺しない程度には、私寛大ですわ!」

「比較的ネタが古いよ!」

 

 まあ古いと言っても、それなりに有名なネタだし知名度は高いと思うけれど、しかし彼が必殺仕事人シリーズに登場したのは10年以上前なのだ。もしかしたら今の若い子たちは知らないかもしれない。

 

「糸を使って暗殺するというあの手法は、同じ糸使いとして非常に勉強になりますわ。実際あれを見て、豪那のギミックを思いついた位ですし」

「あ? 豪那のギミックだと?」

「あっ」

「…………」

 

 苦々しそうな顔で口元を抑える織崎ちゃん。どうやらまたドジったらしい。

 なんだろう、問うに落ちず語るに落ちるというか……もうこの子は自分から喋らない方が身の為なのではないだろうか?

 この子、拷問とかしなくても勝手にペラペラ喋ってくれるタイプの子だと思うんだ。

 

「……後で説明しますわ」

「お、おう」

 

 多分、織崎ちゃんとしてはこのまま必殺仕事人で雑談を回したかったのだろう、すっげー落ち込んでる。口を滑らすから……。

 

「まあそれは兎も角阿良々木暦。そろそろ目的地到着ですわ。良かったですわね、もうすぐ私との雑談タイムは終わりですわよ」

「え? あ、ああ。そうなのか」

 

 思わず曖昧な返事を返してしまった――ああそうだ、僕こいつと喋るの嫌いだったんだっけ。すっかり忘れていた。あんまりにもこの子が失敗ばかりするから、同情心のようなものでも芽生えてしまったのだろうか? 嫌いなことを忘れるなんて。

 

「なんでだろう、もう少し君と喋っていたかったという気持ちが僕の中にあるんだが」

「どういう心境の変化ですの……というか何故今頃そんな心変わりを? もっと早く心変わりして下さいまし」

「いやあ、もっと喋ればもっとポロリを狙えるかな、と」

「私そんな安い女ではありませんことよ。甘く見ないで下さいまし」

「別に甘く見てるわけじゃねえよ」

「じゃあ辛く見ていますの?」

「辛口ではあるかもしれないし見てて辛くなる程墓穴掘ってるけど辛く見てはいない」

「というか、辛く見るって何ですのよ」

「知るかよ! 君が言い出したんだろうが!」

 

 辛く見るなどという日本語は存在しない。……よな? あったらご一報を。

 

「大体、私はギャルゲーで例えると、攻略難易度最難関のキャラですわよ? ときメモで言うところの藤崎詩織ですわ」

「君はどうして微妙に古いネタを使うんだ?」

 

 最近の子がついてこれないと思う。

 織崎ちゃんに限らず、今更だけどさ。

 

「ふん、バーチャルアイドルの先駆けとなったかの有名人も、今や過去の存在なのですわね。歴史の流れというものは残酷ですわ」

 

 まあ、結構なブームを巻き起こしたからな。キャラ名義で曲を出すという、最近ではあまり珍しいことではなくなった手法を最初に行った訳だし。そういう意味では、〈物語〉シリーズの先輩とも言えるのか?

 

「しかし、そんな時代があったことを考えると、今のバーチャルアイドルの進歩ってすげえな。ラブライバーだっけ? あれが流行語大賞に入ったりする時代だもんな」

「ですわね。昔からすれば考えられませんわ。それに最近ではバーチャルキャラクターそのものがライブをする時代ですものね。スプラトゥーンとか、記憶に新しいですわ」

「あ、ごめん。そういう割と最近のゲームにまで話を広げられると僕が付いていけない」

 

 主人公として不甲斐ないと思うけれど、残念ながら僕はゲーム機を購入するようなタイプじゃないのだ。専らゲーセン派である。

 今の子にとっては最近のゲームについての雑談の方が付いてこれるのだろうけれど……。

 

「……そういう意味じゃ、君の方が話題の範囲は広いんだな。なんか負けた気分だ」

「何の勝ち負けですの……というか、どうせゲーセン派と言っても最近の筐体は知らないのでしょう? ラブ&ベリーとかマリンマリンとか、その辺りの知識で止まっているのでしょう? ゲーセン派とさえ呼べませんわ」

「くそっ、そのマリンマリンさえ分からない……」

 

 ムシキングとかなら分かるが、何故そんなマイナー所を。普通にダンレボとか言えよ。

 時代の流れを感じて悲しくなるじゃあないか。

 

「なんでゲーム関連の話題になるとそんなに活発化するんだよ君は」

「だって好きですもの。ゲーム。歴史の流れを感じられて、素晴らしいですわ」

「へえ……」

「ゲーム&ウォッチとか、今でも偶にやってますわ」

「お前千石と気が合いそうだよな」

 

 確かあいつ、妙にマイナーなレトロゲーが好きだった筈。この子となら対等に語らえるかも……?

 

「嫌ですわ。私、あれの性格そのものが嫌いですので。それに私は別にレトロゲームに造詣が深いという訳ではありませんの」

「そうかよ」

「なんて言ってるうちに到着ですわよ阿良々木暦。目的地到着ですわ」

「え? マジかよ。もう雑談終わりなのか?」

「初期と態度が違いすぎますわ……」

 

 それは僕自身も思った。雑談が出来るってだけで態度を軟化させるとか、チョロ過ぎる。

 名残惜しい所だが、しかしここからは多分シリアスパートだ。切り替えねばならない。忘れがちだが、この子は僕たちの命を狙う暗殺者なのだから。

 

 織崎ちゃんと僕の眼前に建っていたのは、一軒の屋敷だった。荒廃気味の見た目をした屋敷。僕はこの屋敷に見覚えがある。

 先程会話の中に出てきた、"豪那"だろう。

 

 織崎ちゃんは扉を開けた。

 

「さあお入り下さいまし、阿良々木暦。ミルクティーの一杯や二杯や三杯や四杯や五杯や六杯や七杯や八杯や九杯でも飲みながら、語って下さいまし」

 

 語るのは、君の方なのだが。

 

 

 

[007]

 

 

 屋敷に入った僕は、驚愕することとなった。一度入ったことのある屋敷なので、それだけ油断していたということなのかもしれない。

 屋敷の中に入った瞬間は前回と同じような、廃墟と呼ぶに等しい内部構造だったのだが、織崎ちゃんが扉を閉めた瞬間、辺りに散らばるがらくたや瓦礫などは一つ残らず金銀財宝へと姿を変えた。壁や天井、床が黄金色に変わり、部屋の中心には金色のコーヒーテーブルと玉座を連想させるようなアイアンチェアーが二脚現れた。

 突然の眩しさに目を細めた――この様相自体は前回見たけれど、まさか扉を開けてすぐこの部屋とは。内部を改造することも出来るってことか。前回はもう少し歩いた先にこの部屋があったのだが。

 

「さあ、お掛けになってお待ち下さいまし、阿良々木暦。私アフタヌーンティーの用意をしてきますわ」

「あ、ああ。どうも――って、アフタヌーンティー!?」

「そうですわよ? それが何か」

「いや、それが何かって、そんなすました顔で言われても……」

「?」

 

 不思議そうに首を傾げる織崎ちゃん。常識が無いような人を見る目で僕を見るな。

 アフタヌーンティーと言えば、イギリスにおける上流階級文化だった筈である。そんなもんをさらっと経験していいのか?

 僕の葛藤を気にせず、織崎ちゃんは着々と慣れた手つきで準備を始める――待て待て、話を勝手に進めるな。どうすればいいんだ。僕は何をすればいいんだ。

 

「別に何もしなくて結構ですわ。後、そんな風に突っ立っていないで早く座って下さいまし。用意の邪魔ですわ」

「あ、ああ。悪い」

 

 僕は椅子に座った。座り心地は悪くない。

 

 次々とテーブルの上が充実していく。アフタヌーンティーと聞けばまず思い浮かべるであろう三段のケーキスタンド、恐らくミルクティーが入っているのであろう大きめのティーポット、ミルクティーが既に淹れられたティーカップとソーサ、クリームのようなものが入った瓶など。どれも金色だったり翡翠色だったり、明らかに一般の店では売ってないような代物ばかりであった。

 織崎ちゃんは最後に真っ白い皿を僕と自分に配ると、向かいの椅子に座った。

 

「さあ、頂きましょうか」

「待て待て待て待て!! ちょっと待て!!」

「なんですの? 松野チョロ松」

「確かに声というか中の人は同じだし攻略難度の低いチョロいキャラであることは認めるけれど、しかし織崎ちゃん、僕の名前は阿良々木暦だ!」

「そうですの。じゃあ早く頂きましょう」

「だから待てや!!」

「なんですの? 阿良々木暦」

「いや、そんなさらっと普通にアフタヌーンティーを始めようとするな。ちゃんと説明してくれ。何なんだこれは、どういう意図があってこんな事になった。僕はこれにどう反応すればいいんだ。つーか、どう食べればいいんだ! 僕アフタヌーンティーのマナーなんて知らねえよ!!」

 

 上流階級の人々が発祥となった文化には、必ず大量のマナーが付いて回る。恐らくそれはこのアフタヌーンティーも例外ではないだろう。きっと食べる順序や食べ方と言ったマナーがある筈だ。

 しかし、残念ながら僕はそういったマナーは一切知らない。阿良々木家は一般的な中流階級であり、マナーも何もあったものではない。況してや外国の文化など、僕が知る訳がないのだ。羽川やひたぎ、忍あたりは知ってそうだが、生憎僕はこういう知識はからっきしなのだ。だから勝手に始められても何をどうすればいいのか全く分からない。

 ただただ慌てふためき、混乱する事しか出来なくなってしまうという無様な姿を読者にお見せすることとなってしまうのだ。

 

「別にそこまで深く考える必要はありませんわ。普通に食べれば良いのですわ」

「君にとっての普通と僕にとっての普通は間違いなく違うと思うのだが」

「マナーに拘る必要はありませんわ――楽しんで食べれば、それで良いんですの」

「この状況で楽しめというのか」

 

 酷すぎる。況してやこの後織崎ちゃんの目論見やら何やらが語られるというのに、それを楽しんで聞けというのか。

 

「だからどうしてそんなに拘りますの? 貴方は正式な手順を踏まないと何も出来ない呪いにでも掛かってますの?」

「いや……そんなもんなのか?」

「そんなものですわ――別にここは本場イギリスではありませんし、どうしても何らかのマナーを守りたいなら……まあ取り敢えず、サンドイッチからお食べになれば如何?」

「……じゃあ、そうさせてもらうよ」

 

 ケーキスタンド下段の皿にはサンドイッチが盛られていた。挟まっているのは、キュウリか?

 このサンドイッチを取る動作にも、何らかの作法があるのかもしれないが、あまり聞きすぎるのも良くないので、僕は手近なものを取ることにした。

 

「いただきます」

「Tuck in」

「え? 何だって?」

「……これまで説明しなければなりませんの?」

「あ、いえ。別にいいです」

 

 僕は慌ててサンドイッチを手に取った。駄目だ、落ち着こう。タッキン? 何だそれは。頂きます的な意味か? 落ち着け。落ち着こう。いちいち今聞かなくてもいい、今度羽川とかひたぎに聞けばいい。無学さに泣きたくなるけれど、気にしない。

 

 サンドイッチを一口。

 挟まっていたのはやはりキュウリだった。噛んだ瞬間、あの独特な固い感触が歯にぶつかった。

 うん。普通に美味しい――パンもパサパサしていたりしている訳ではなく、味付けも良い。最高の味という訳ではないが、文句をつけるような所は僕程度の舌では思い浮かばない。

 

「これ、織崎ちゃんが作ったのか?」

「ええ。お口に合ったようで何よりですわ」

 

 織崎ちゃんはミルクティーを飲む――そう言えば、何でティーカップのすぐ隣の小皿にマカロンが大量に乗ってるんだ? 何でティーカップの隣なんだ?

 ……まさか、気に入ったのだろうか? 斧乃木ちゃんのハプニング(恐らく故意)の所為で、織崎ちゃんのミルクティーにマカロンが混入してしまったことがあった。あの時の反応を見る限り美味しかったらしいが……。

 

「私、その国独特の文化というものが好きなのですわ。文化には歴史がよく反映されていますもの――アフタヌーンティーはイギリス独特の文化。元々は第7代ベッドフォード公爵のご夫人であるアンナ・マリアが、女性向けの社交の場として始めたものですの」

「女性向け……じゃあ僕普通にアウトじゃねえか」

「今と昔では違いますわよ? 今では男性も参加してますわ」

「だ、だよな」

「もしも今でも女性向けであれば、女装しなければなりませんわよ、貴方」

「やめろ。女装の話はするな」

 

 色々トラウマなのだ。もう僕は異性を演じたくはない。

 

「つーか、女装なんかで参加できるわけねえだろう」

「当たり前ですわね。打ち首まっしぐらですわ」

「怖い!」

 

 そんな厳しくしなくてもいいだろう、と思うけれど、よく考えてみればそれは今の時代でも同じではないだろうか。物理的に死ぬか社会的に死ぬかの違いだけで。

 

「何でアフタヌーンティーなんだ? 普通にミルクティーを出してくれるだけでも僕としては十分だったのだけれど」

「一応貴方は殺害対象とは言え、客人であることには間違いありませんわ。前回とはいざ知らず、今回は全て織り込み済み――客人に対して急拵えのぞんざいな歓迎をしたとなれば、ご先祖様に顔向け出来ませんわ」

 

 そう言うと織崎ちゃんはサンドイッチを食べた。僕もそれにつられて食べる。

 

 ――そう、ご先祖様。

 僕は別に織崎ちゃんとアフタヌーンティーを楽しみに来た訳ではない。織崎ちゃんから全ての説明を受けるため、ここへ拉致されてきたのだ。

 

「そのご先祖様ってのは、誰のことを指してるんだ?」

「決まっていますわ。私へと連なる全ての人々――全てのご先祖様。誰か特定のご先祖様に対する敬意ではなく、この織崎という血統全てに対する敬意ですわ」

「なんでそんなに敬っているのかは、教えてくれるのか?」

「教えて、私に何か得でもあ……まあ、ええ。いいでしょう」

 

 台詞を自制してくれた。代名詞と呼べる台詞だったのかもしれない。なんか申し訳ないな。

 

「というか、別にそこまで理由はありませんのですけれどね――普通に物心ついた時から、私はこの血統に誇りを持っていましたわ。もしかしたら、お母様とかお父様に刷り込まれたのかもしれませんけれども……まあ今は、自分の意思で敬っておりますわ」

「そのご両親は、今どうしてるんだ?」

「死にましたわ」

「死っ……」

「別に珍しい事ではありませんでしょう? 特に貴方にとっては。今まで貴方はそういった――親を亡くした方々と接してきたはず。羽川翼を始めとして、神原駿河、老倉育なんかもそうですわね?」

「……だからといって、慣れねえよ」

 

 というか、慣れてはいけない。これが大人というのであれば兎も角、その挙げられた奴らは皆二十歳にも満たない奴らなのだ。決して普通とは言えたものではない。

 

「なんで亡くなったんだ」

「知りませんわ。10歳くらいの頃、でしたかしら……気付いたらいつの間にか亡くなってましたの」

「いつの間にかって」

「そうとしか表現出来ませんわ。元々放任気味なご両親でしたし、顔を合わせるのもまあ、偶にくらいでしたし――だからどのタイミングで亡くなっていたのか、分かりませんの。ああ、別に気の毒にとか、そういう言葉は要りませんわよ? 寧ろ私はあの方々により深い感謝を抱くことが出来るようになったのだから、私としては悲しい事ではありませんわ」

「より感謝?」

「私がご先祖様を心から敬っているのは、先程説明した通りですわ」

「…………」

 

 先祖という言葉の定義は、既に亡くなった数世代前の血縁者全般を指す。つまり織崎ちゃんは、そんな放任気味であったというご両親が、ご先祖様と呼ぶべき存在となったが故に心から感謝できるようになったということか。

 それは――良いことなのだろうか?

 

「良いとか悪いとか、そういう話ではありませんわ。そんな価値観で私は行動していませんの。ご先祖様になったのだから敬うべき(・・・・・・・・・・・・・・・・)――ただそれだけのシンプルな話ですわ。敬う対象が増えたところで、私は別に苦にも感じませんし」

「……そのご先祖信仰は、僕たちを狙う理由と関係があるのか?」

「大いにありますわ。尤も、関係あるのはご両親なんて浅い世代ではなく、もっと遡った昔の世代――織崎が、"四季崎"であった頃の世代ですわ」

「四季崎――」

 

 四季崎と言えば、思い浮かぶのはかの刀鍛冶。完成形変体刀とやらを作りあげた、仮想の登場人物。

 

 四季崎記紀――。

 

「そう、私は四季崎記紀の子孫。そしてその血統を受け継ぐ末裔――という話は、この間しましたわよね?」

「……まあな」

 

 確かにこの間はそんなことを言っていた。だが、四季崎記紀というのは仮想の人物なのではないのか? それとも、あの物語のモデルとなった人物が居て――それが、織崎ちゃんの先祖?

 

「その微妙な顔を見ると、どうやら私の血筋に掛けられた最悪の呪いを知ったようですわね」

「え? 最悪の呪い?」

「そう――最悪というか、改悪と言うべきですかしら?」

「改悪――」

 

 とは、どういうことだ? 呪い? 何のことだ。

 

「――いまいち、ピンとこないんだが」

「……でしょうね」

 

 織崎ちゃんは溜息を吐き、サンドイッチを手にとって食べた。僕も食べる。

 

「所詮そんなところでしょうよ――私の誇り高き血統は、そうやって呪われ、穢され、封じられていく」

「封じられ……?」

「歴史というのはデリケートなものですわ」

 

 織崎ちゃんが言う。

 

「人は昔に戻ることが出来ませんわ。それはタイムマシンでも発明されなければ、絶対に覆されることのない常識ですの。そしてそれは恐らく、永遠に覆されることはない」

 

 永遠に覆されることはない。決して叶うことのない、人類の夢――夢物語。

 実際、僕と忍は過去へ戻ることの難しさをよく知っている。身をもって味わっている。あの時実際に向かったのは別ルートの過去であったのだけれど、しかしその際忍が用いた怪異エネルギーは凄まじい量であった。

 曰く、時間遡行とは時間の流れに逆らうこと、言ってしまえば流れのある川で流れに逆らって泳ぐようなものであり、先の時間に進むより遥かに難しい、とか。

 

「過去に立ち返ることは出来ても戻ることは出来ない――そしてそれ故に、過去は歴史となり、その当事者しか知りえないものとなるのですわ」

「当事者しか――知りえない」

「過ぎてしまったことはどうすることも出来ないとは、正しくその通りですわ。歴史を正しく認識することが出来るのはそこに居合わせた当事者だけ。当事者以外がその過去――歴史を正しく認識することは、どう足掻いても不可能なのですわ」

 

 織崎ちゃんはミルクティーにマカロンを入れた。ああ、やっぱり気に入ってたのか、それ。

 

「だからこそ、歴史はデリケート。特に当事者が居なくなり、誰も真実を知らなくなった歴史というのは、言ってしまえば誰でもその歴史を改竄することが出来るということに等しいのですわ。お分かり?」

「ああ……まあ」

 

 織崎ちゃんはスプーンでマカロンを掬い上げ、食べた。美味しそうだ。

 

「誰も知るものが居ないなら、幾らでも歴史をでっち上げることが出来る――改竄し、改悪することが出来ますの」

 

 織崎ちゃんは苦々しげな表情で言う。

 

「そしてそれは、不都合なものを隠す時に最も活用されますわ……私の血筋を隠す時のように――変体刀の真実を隠す時のように」

「変体刀の――真実」

 

 織崎ちゃんはケーキスタンド中段のスコーンに手を伸ばした。僕もそれにつられ、思わず手を伸ばした。まだサンドイッチを食べ切っていないが、いいのだろうか?

 

「貴方の四季崎記紀に対する反応から察するに、あの本――『刀語』を読みましたのでしょう?」

「……ああ」

「あれこそ最も最悪な改悪。私の血筋を冒涜する、血統の歴史を穢す呪いなのですわ」

「……それはつまり、あの本には四季崎に関する何らかの描写が改変されてたりしているってことか? 一応言っておくけれど、僕はあの本を全部読んだ訳じゃあないぜ。一巻しか読んでない」

「それで十分ですわ」

 

 織崎ちゃんはスコーンを齧った。僕も齧る。普通に美味しい――外側はカリッとしていて、中はしっとりとしている。これがスコーンか。

 

「……そして貴方は、あれが架空の物語だと、そう知ったのでしょう?」

「え? ああ、まあ」

 

 巻末の翻訳者コメントに、そう書いていたからな。そうでなかったとしても、あの刀集めが実際にあった出来事ならば歴史の参考書に載っていてもおかしくはない筈。なのにそんなことが書かれている参考書は一冊もなかった、つまり、あれは創作ということである。

 

「その認識が既に間違っているのですわ。阿良々木暦」

「え――」

「あれは決して架空の物語ではありませんわ。実際に過去に起きた、歴とした事実であり正史――幕府より遣わされた『奇策士とがめ』、虚刀流七代目当主『鑢七花』、その姉である『鑢七実』、そして日本最強の剣士『錆白兵』、さらに奇々怪界な鎖を纏った忍『真庭蝙蝠』――全てが実在の人物で、歴史改竄の被害者達なのですわ」

 

 織崎ちゃんはスコーンを食べた。

 

 

 

[008]

 

 

 あの物語は実は正史であり、登場人物は皆実在した、なんて言われても納得できる筈もない。それは僕から言わせてみれば、浦島太郎や桃太郎が実在すると言っているようなとのに思える――例えが些か幼稚すぎたかもしれないけれど。

 仮に織崎ちゃんの言う通り、あれらが全て正史とするならば、ついこの間まで血眼になって歴史を勉強していた僕が知らないのはおかしい。日本全国を行脚するという大規模な刀集め――そんなものが実際にあったならば、参考書どころか教科書に載っても何ら不思議ではない筈だ。

 

「そこが改竄なのですわ――事実を恰も架空であるかのようにする、これも立派な改竄ですわ」

 

 困ったものですわね――と言い、織崎ちゃんはミルクティーを飲んだ。

 

「……仮にその話を信じるとしても、じゃあなんでその事実は改竄されたんだ? 理由が思い浮かばない」

 

 一体どれが検閲の琴線に触れたんだ? 真庭忍軍だろうか? あの荒唐無稽さが、ある意味一番架空染みているように思えたのだが。

 

「いいえ、まにわには関係ありませんわ……いえ、多少は関係ある、のかしら?」

「まにわにって……」

「真庭忍軍の愛称ですわ。あのまま読み進めていれば何れ登場する愛称。概ね好評だったらしいですわよ」

「しかも好評だったんだ……」

 

 馬鹿ばっかりなのかあの世界は。もうちょっとセンス良い愛称は無かったのかと思うけれども。

 まあそんなことはどうでもいいや。

 

「真に危険視されたのは、四季崎の血統そのものですわ」

「四季崎の血統……」

「そう」

 

 織崎ちゃんはスコーンをひと齧り。

 

「どうも四季崎の血統を嫌う何者かによって事実は隠蔽されたらしいのですわ。一説では、それは同じく四季崎の血統であったとも言われておりますけれど――というか、私が調査した結果、そう結論付けたのですれけども」

「調査なんてしたのか」

「ご先祖様を敬い血統を愛するこの私が、一切の調査を行わないと思いまして? 四季崎の末裔たるこの私が、この世界の違和感に気付かないと思いましたの?」

「この世界の――違和感だって?」

「そう、違和感」

 

 織崎ちゃんはミルクティーを一口飲んだ。僕もつられて飲む。

 

「改竄された世界には、必ず何らかの違和感が生じるものなのですわ。それは先の大乱の首謀者たる『飛騨鷹比等』が証明している」

「飛騨鷹比等?」

「……貴方、これからあの本を読む気はありますの?」

「……どうだろう」

 

 正直、無さそうな気がする。幾ら現代仮名遣いに直されているとはいえ、古風な文章であることに変わりはない。古風な文章というのはそれだけで、なんとなく読み辛いように感じるものなのだ。

 

「ならもうネタバレ気味に言ってしまいましょう――飛騨鷹比等とは我が四季崎の血統に抗おうとした存在ですわ」

「抗おうとした……」

「そう。酷いものですわよね? 自分を産んだ血統に対して歯向かおうだなんて、身の程知らずも良いところですわ」

「自分を産んだ……つまり、そいつは四季崎の血統ってことか?」

「いいえ。無関係ですわ」

「……?」

「けれど、全くの無関係という訳ではありませんの」

 

 織崎ちゃんはスコーンを食べた。僕の皿にあるスコーンは一向に無くなる気配がない。

 

「飛騨鷹比等とは、四季崎の血統により筋書きに加えられた(・・・・・・・・・)存在ですの。それは他の方も同じこと、ですわ」

「……訳分かんねえ」

 

 僕は必死に整理を試みた――が、分からない。筋書きに加えられた? どういう意味だ? 四季崎の血統じゃないなら――え? どういう事だ?

 

「四季崎とは、占術師の家系ですわ。これは以前言いましたわね」

「ああ、聞いた……それがどう関係あるんだ」

「未来は過去とは違いますわ」

 

 織崎ちゃんは脚を組んだ。

 

「未だ誰も見ないから未来――故に、故意で未来を変える事は決して出来ませんの。当事者一人さえ居ない先の話を改竄するなど、普通は土台無理な話なのですわ」

「じゃあ――」

「ですけれども、未来が見えるのであれば話は違いますわ」

 

 織崎ちゃんが言う。

 

未来を観測できるなら(・・・・・・・・・・)同じくコントロールも出来る(・・・・・・・・・・・・・)ということですわ――占術師たる私の誇り高きご先祖様は未来を視、そしてそれを改竄することが出来た。そしてその手段の一つが、この――」

 

 織崎ちゃんは、右手を高く掲げた。すると一瞬の瞬きの内に、その右手には黒い刀が握られていた。禍々しい雰囲気を放つ刀。

 

「――完成形変体刀、ですわ」

 

 完成形変体刀の十二本が一本――"毒刀『鍍』"。

 

「四季崎記紀はこの刀――千本もの変体刀を全国各地にばら撒いた。本来の未来ではありえなかった数々の、オーパーツとも呼ぶべき刀――それにより、未来は改竄されましたの」

「……その改竄の結果生まれたのが、飛騨鷹比等ってことか」

「その通り」

 

 四季崎ちゃんは『鍍』を椅子にもたれ掛けさせるように置いた。

 

「飛騨鷹比等は、歴史が改竄されたものであるということを生まれた時から感じていましたわ――それはご先祖様の目論見通りであり、『銓』の影響でもありましたわ」

 

 『銓』? なんだろう、と思ったが、胸の内に秘めておく。恐らくこれは口が滑った類の奴だ。反応してしまえば、話が面倒臭くなる。ただでさえ説明をだるく感じているであろう読者は多いだろうに、これ以上余計な会話を展開する訳にはいかない。

 

「飛騨鷹比等とは、四季崎の血統により生み出された安全装置。歴史改竄がおかしな方向に進んだ結果、それをさらに修正する役割を負わされた存在――であった筈なのだけれど、これがまあ見事に歯向かって……お陰でこんな結末を迎えてしまったとも言えるのですわ」

「……こんな結末ってのは、四季崎の血統自体が改竄されたことを言っているのか?」

「その通り――本名は不明ですけれど、本来四季崎の血統である筈の『否定姫』と呼ばれるご先祖様が、奇策士とがめの報告書に何やら細工したらしくて。お陰で本来は『四季崎』であったところを、『織崎』へと改竄されたという訳ですわ」

 

 名前が時代を経て変質するというのは、数え切れない程の例がある。それは表記が間違っていたり訛ったりしていくうちに変質していくもので、例を一つ挙げるとするならば、『浪白公園』もその一つだ。これは本来『白蛇公園』であったところが表記揺れにより変化し、名前が変質してしまったことに由来する。

 

 だが、そういう事か――四季崎なんて、どう表記しても三文字が二文字にならないし、頑張って縦に並べてみても織崎にはとても見えない。しかしそれが偶然ではなく意図的な改竄であったのであれば、この変質も納得がいく。

 

「名前というのは非常に重要なものなのですわ。それは貴方も、お分かりですわよね」

「ああ。分かってる」

 

 今まで何回か言ってきたことなので簡潔にするが、名前というのは使い方によってはその存在を縛ったりすることが出来る強力な呪いのようなものなのだ。

 

「その細工により、四季崎は封印されましたわ。四季崎は架空の苗字となり、現実に存在する四季崎は織崎という苗字へと改竄された――私のご先祖様は皆、架空のものにされたのですわ」

 

 現実には存在しない、物語上にしか存在しない――偽りの血統にされたのですわ!

 織崎ちゃんは語気を強めて言った。そしてクールダウンの意か、ミルクティーを一気飲みした。

 

 ……そういう事情だったのか。

 歴史の改竄とはつまり、彼女のご先祖様が生きた時代そのものが、ありもしないものとして処理されたということだった。時代が無くなったということは、当然その時代に住む人々もまた架空の存在として処理されるということに他ならない。

 織崎ちゃんは、それが我慢ならなかったのか。自分の先祖を、信仰と言っても過言ではない程に敬う彼女にとって、それは我慢できない程の改悪だったのだ。

 

 ――僕ならどう思うのだろうか?

 自分のルーツが完全に消されたとしたら――僕は、どう思うのだろうか?

 ……正直、そこまで重要視することはないだろう。僕は血筋を尊重するような奴じゃない。系図を眺めたことなんて、一度たりともない。

 

 だから僕には測りかねる――織崎ちゃんはそれを知った時、どれ程怒り狂ったのだろうか。

 それは誰にも想像出来ないだろう。彼女と同じくらい、先祖を敬っている人にしか、知りえないことだろう。

 

「…………ん」

 

 僕は皿に乗っていたスコーンを食べた――と、その時思った。

 

 ――で?

 って。

 

 いやまあ、織崎ちゃんが言う"改竄"の意味は分かったし、ご先祖様への敬愛は分かったのだけれど、しかし肝心な所が分からない。

 

「――それでどうして、君は僕たちを殺そうとしているんだ?」

「…………」

 

 そう、何よりの問題はこれなのだ。そもそも僕たちは、じゃあなんでこの子に命を狙われているのだ、という話である。

 今の説明では全く説明出来ない――別に僕たちが歴史を改竄した張本人であるという訳でもないのに。

 

「……私が貴方たちを狙うのは――」

 

 織崎ちゃんが言う。

 

「――貴方たちが、本来あるべき歴史を破壊しているからですわ」

 

 

 

[009]

 

 

「僕たちが、歴史を――壊しているだって?」

「そうですわ」

「えっと……つまり、どういうことだ? 僕たちはその、改竄された歴史の上で生きているから、とか――そういう意味か?」

「いいえ、違いますわ」

 

 違うのか。

 

 じゃあ、どういう意味だ? 僕たちが歴史を破壊している――どうやって?

 全く、身に覚えがないのだが。

 

「でしょうよ。ふん、当事者はいつだって無自覚にデリケートなものを破壊する――それがどれだけ尊い歴史であろうと、いとも容易く破壊する――それが、私には、我慢ならない!!」

「っ!!」

 

 な、なんだ? 織崎ちゃんは激昂したようにテーブルを叩く。

 僕は織崎ちゃんの逆鱗に触れてしまったというのか? 無自覚に破壊する? 分からない。全てが分からない。

 この子は、何が言いたいんだ?

 

「私が言いたいのは――」

 

 織崎ちゃんは立ち上がり、僕を睨んだ。

 

「――貴方たちが存在しているから、四季崎の歴史は復活しないということですわよ!!」

 

 そう叫ぶと、織崎ちゃんはティーポットに入っているミルクティーを一気に飲む――クールダウン、なのか?

 

 ……これだけ激昂して言ってくれたのだが、それでも、全く分からない。どうして僕たちが居れば四季崎の歴史は復活しないんだ?

 そもそもさっきの話では、四季崎が目論んだ歴史改竄というのは結局失敗して、手痛いカウンターを食らったという話だったように思うのだが――復活も何も、それは僕たちが居なくても結局不可能であるように思えるのだが。

 

「だから……貴方たちが存在している所為で、本来あった筈の世界観が塗り潰されているということですわよ! 貴方たちが住む世界観に!」

「待ってくれ、本当に意味が分からない。え? 僕たちの住む世界観? 分からん分からん」

「何故分からないんですの!! 貴方なら、他の誰よりも理解することができる筈だというのに!!」

「え!?」

「貴方なら――このルートの主人公である阿良々木暦なら、理解出来るでしょうがっ!!」

「っ…………」

 

 しゅ、主人公だと?

 ……いやまあ、散々メタ発言気味に主人公主人公言ってきた僕ではあるけれど――ん? "ルート"だと?

 

 "ルート"――つまり、平行世界……別時空……。

 

「……えっと……待ってくれよ、もうちょっとで何とか思い付きそう……」

「…………」

 

 世界観を塗り潰した――この世界観という単語を、ルートに置き換えてみると、どうなる?

 

 僕たちの世界観が塗り潰した――僕たちが住むルートが、本来あるべきルート――つまり、その『四季崎の改竄が失敗した後に生じる未来』を、塗り潰した……?

 

 別ルートと別ルートが融合して――片方のルートは、消え去った……?

 

「っと……つまり……僕たちの住むルートと、その四季崎の改竄が失敗したルートが融合して……それで……元あったルートは僕たちのルートに、上書きされた……?」

「……概ねそれで良いですわ」

「あ、良いんだ」

 

 ……いや良くねえよ。何が良いんだよ。

 

「……あの、織崎ちゃん? 一つ言っていい?」

「……どうぞ」

「これ……僕たち、とんだとばっちりなんだけど!!?」

「…………」

 

 織崎ちゃんは僕を睨んだまま、ケーキを食べた。

 ……いや、食ってんじゃねえよ。

 

「ルート融合って……いや知らねえよ!! なんだよその理由!? 計り知れなさすぎるだろうが色んな意味で!! それを教えられて、僕たちに何が出来るんだよ!? それで僕たちを殺して何になるってんだ!? 動機は分かった、だがその結果どうなるのかが全く分からない!!」

 

 織崎ちゃんは僕を鬼の形相で睨みつつケーキを食べた――いやだから食ってんじゃねえよ! 鬼の形相になりたいのは、こっちなんだよ! つーか鬼だけどな僕は!

 

「そんな訳の分からない理由で僕たちは君に狙われていたのか!? そんな理由で僕たちに納得しろってのか!? 納得なんて出来る訳ないだろうが!!」

「……分かりませんの?」

「ああ、分からない。これと僕たちを殺すことについて何がどう繋がるのかこれっぽっちも分からない。説明しろ、織崎ちゃん」

「……ふん」

 

 織崎ちゃんはミルクティーを飲んだ。

 

「それを教えて――私に何か得でもありますの?」

「っ――――!!」

 

 ――ここでその台詞を使うのか。

 それが僕の激昂を狙ったものだとすれば、大した策士だ――惚れ惚れする程だよ、本当に。

 何せ僕はその狙い通り、しっかりキレてしまったのだから。

 

 僕は立ち上がろうとした――立ち上がって何をする訳でもないけれど、いつまでも見下されているのを我慢するなど、今の僕には到底出来ないことだった。

 

 が――それは叶わぬ願いだった。

 

 僕は椅子から立ち上がることが出来なかった――まるで何かにそれを止められているかのように、椅子に縫い付けられているかのように。

 或いは――糸か何かで縛られているかのように。

 

「し、しまった――!!」

「ふふふ、馬鹿ですわねえ」

 

 織崎ちゃんは僕を見下したまま嗤う――いや本当、何が『しまった』だ!

 何で僕はこんな簡単な事に気付かなかった――初めてこの部屋に入った時も、全く同じ手口で拘束されたじゃあないか! 僕には学習能力が無いのか!?

 というか、これが罠である可能性を一切考慮していなかった――何故考えなかった!? どうして僕はのこのこと、こんな――!!

 蜘蛛の糸か!? いやでも、僕は一度仕掛けられそうになった時、それに気付いた! なら、これは蜘蛛の糸とやらではなく――!!

 

「いいえ、しっかりと蜘蛛の糸ですわよ。阿良々木暦」

「なっ……!?」

「私がただ雑談をしているだけと思いまして? この私が、あんな分かりやすいどうでもいいタイミングで糸を仕掛けると思いまして? あれはフェイクではなく、本命は別にあったとは思わなかった訳ですのね?」

「っ…………!!」

 

 道中、僕は一度糸を仕掛けられた事に気付いたけれど、あれさえも作戦に織り込み済みだったというのか!? 本命の糸は別にあった――フェイクに気を取られて、気付かなかったってのかよ!?

 あの雑談もまた、僕に疑念を抱かせないための隠れ蓑ってことか! ということはこの歓迎もまた、僕を動揺させる事によって余計な事を考えさせない為に用意されたもの――!!

 

「蜘蛛は用意周到なのですわ。糸をありとあらゆる方向に張り巡らせ、獲物が引っ掛かるのを待つ――張り巡らせるのも滅多やたらではなく、確実に獲物を狩る為に計算し尽くした末に糸を張る。それは私も同じですわ、阿良々木暦」

「く、蜘蛛――」

「そう、蜘蛛。節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目に属する生物の総称――そしてその中でも私がこの身に宿すのは、ジョロウグモの怪異」

 

 織崎ちゃんは、そう言いながら毒刀『鍍』を拾い上げた。

 

「『死霊蜘蛛』!!」

「っ……!!」

 

 織崎ちゃんは『鍍』を構えた。

 

 死霊蜘蛛――それがこの怪異の名前か。

 いや、名前が分かったからなんだって言うんだ? このままこの怪異の事をこの状況で教えてもらえるとはとても思えない。今は考察は後回しにして、優先すべきは、ここからの脱出だ――!!

 

「し、忍!! この糸、斬ってくれ!!」

 

 僕は影に棲む相棒に向かって叫んだ――忍の持つ妖刀『心渡』は、例外を除いてあらゆる怪異を一刀の下に斬り伏せる。そしてそれは死霊蜘蛛の糸も例外ではない!

 だが――。

 

「し、忍? お、おい?」

「……ふふふふっ」

 

 影からは、何の応答も無かった。

 

「う、嘘だろ? 寝てるのか? し、忍――起きろ、忍――!!」

「無駄ですわ無駄ですわ無駄ですわ!! 何故この私がこの屋敷まで貴方を連れて来たか、少しは考えて下さいまし!! ただアフタヌーンティーを披露する為だけに連れて来たとお思いかしら!?」

「っ――――!!」

 

 な、何かあるのか? この部屋に、何か仕掛けられているのか? その所為で忍は、反応しないのか!? だとすれば、どれだけ僕は馬鹿なんだ――愚かなんだ!!

 

「周りをよく見渡してご覧下さいまし! 阿良々木暦!!」

「ま、周り――――っ!?」

 

 僕は首だけ動かして周りを見た。金色。金色。金色――だが、その金色の壁に、幾つか不自然な箇所があった事に気付いた。その個所は長方形で、奇怪な模様と文字が書かれていた。

 

「ふ、札――!!」

「ご名答!! 私がこの部屋に貴方を再び招待したのは、誰にも貴方を助けさせない為――この札はあらゆる怪異をこの部屋に寄せ付けない! 予め例外に設定しておいた私の死霊蜘蛛と、貴方という吸血鬼もどき以外は!! 扉が開かれない限り、この部屋に現れることは絶対に出来ない!!」

「なっ――――」

 

 た、助けは――忍の助けは、期待出来ないってことか? 外部からの、助けしか――!

 

「外部からも不可能!! 私が札を内側にしか貼っていないとお思いかしら!? 当然外側にも貼ってある――この豪那は、先程言った例外を除いて、怪異の因子を持つ者には決して見つけられない!!」

「っ――――!!」

 

「神である八九寺真宵にも、悪魔を宿す神原駿河にも、蛞蝓豆腐の因子を持つ千石撫子にも、猫と虎を飼う羽川翼にも、蜂の針が刺さった阿良々木火憐にも、しでの鳥である阿良々木月火にも、吸血鬼の搾りかすである忍野忍にも、式神である斧乃木余接にも、貴方のダブルである忍野扇にも、微刀『釵』たる神崎日和にも――誰も開けることはできないし、見つけられない――助けに来る者は、誰もいませんわ!! おーっほっほっほ――!!」

「な――そ、それは――それは――」

 

 笑い方にツッコむ気力さえ起きない僕は、ただ譫言のようにことばにならない単語を繰り返す事くらいしか出来なかった――助けは来ない。ここまで絶望する言葉が今まであっただろうか?

 人は一人で勝手に助かるだけ、とは言うけれど、そして僕自身もよく引用するけれど、結局のところ、僕は誰かに何度も助けられてこうして命を繋いできたということを、否応なく認識させられた。

 

 織崎ちゃんは刀を構えた。真っ黒な刀身を持つ異様で禍々しい刀――毒刀『鍍』!

 

「全て、全てが織り込み済み――全て私の予定通りで思惑通り。これで貴方を、確実に殺すことが出来る」

 

 目の前にあったテーブルが横にスライドした。僕と織崎ちゃんを隔てるものは、もう何もない。

 

「ま……待って……待ってくれ、織崎ちゃん――」

「主導権は私にありますわ。阿良々木暦。貴方は最早この場において何の権限も持っていない」

「ま、待て! は、話し合おう! 話せば分かる――」

「いいえ分かり合えませんわ! それは貴方も先程理解したことではなくて!?」

「っ!!」

「ふっ、ふふふふ――」

 

 織崎ちゃんは嗤いながら、僕に躙り寄る――そして、僕の首に刃を近付けた。

 

「冥土の土産に教えて差し上げますわ、阿良々木暦。私の事を、もう一つだけ」

「や、やめろ。冥土の土産なんて言うなよ、それじゃあまるで僕がこのまま殺されるかのようじゃ――」

 

 我ながらあまりにも往生際が悪いと思う。だが、僕はここで死ぬ訳にはいかない――こんな所で、死んでたまるかよ!

 こんな、無様な死に方――!!

 

「私こそ、四季崎記紀最後の遺品、四季崎という血統の末裔、全てを織り交ぜ創り上げられた、最後にして最強の変体刀――『究極形変体刀・"織刀『銘』"』!!」

「っ!!」

 

 究極形変体刀だと――織刀『銘』!?

 それは――何というか、極秘も極秘の情報なんじゃあないのか!? そんなものを聞かれても無いのに教えるなんて――勝ち誇ってやがる、織崎記――!!!

 

「この銘にかけて、私は貴方を殺す!! さらばですわ、阿良々木暦!! 阿鼻地獄で苦しんで苦しんで苦しみ抜いて堕ちろ!! 直に友達を一人残らず送ってやる!!」

 

 織崎ちゃんは、刀を振りかぶった。

 

「死ね――阿良々木暦!!!」

「っ――――」

 

 僕は目を閉じた――それは絶望だったのだろう。もう確実に助からないという、絶望――実際、助かる手段が、算段が、全く浮かばなかったのだ。

 

 畜生。

 これでおしまいなのか、僕は――春休みに何度も死んで、ついこの間も殺されたばかりだってのに――こんなにも、死ぬのが怖いなんて。

 当たり前だ、死ぬ事に慣れる訳がない。ましてや今回は間違いなく生き返ることなど不可能なのだから。

 夢渡を使える忍は動けない。

 

 もう――無理だ。

 

 と。

 

 諦めたその瞬間である――この部屋を覆い尽くす黄金よりも眩い光とともに、そいつが現れたのは。

 扉を開けて、後光を浴びながら現れたのは。

 

「っ!!?」

 

 僕は織崎ちゃんのそんな声に驚き、一瞬瞼を開けた、が、眩しさに目を細めた。織崎ちゃんは素早く僕から離れ、扉の方を睨んだ。

 

「――随分と豪華絢爛な場所で乳繰り合ってるわね、暦。外側からは全然分からなかったけれど」

「っ――――!!」

 

 僕もまた、目を細めたまま、扉の方を向いた。

 

「お、お前は――まさか――そんな――」

「しかし暦。この私に何の説明もなく伏線もなく、こうしてラブホテル紛いの場所で浮気するなんていい度胸じゃない。全く呆れるわ。海豚だってもう少し立派な学習能力を持っているというのに、ちっとも学習しないのね」

 

 そこに立っていたのは、僕のよく知る人物だった。というか、よく知るどころか――。

 

「――ひ、ひたぎ――」

 

 どころか、僕の彼女だった。

 

 戦場ヶ原ひたぎ。

 

 ひたぎは言い放った。

 

「本当、馬鹿な彼氏を持つと賢い彼女は苦労するわね」

 

 そんな毒舌さえ、最早天使の言葉のように聞こえた僕が居た。

 




■ 以下、豫告 ■

「戦場ヶ原ひたぎ様です。

「本編では最後の最後に滅茶苦茶格好良く登場した阿良々木暦の救世主たるこの私が予告を担当してやる事に感謝して頂戴」


「アフタヌーンティーって、直訳すれば普通に『午後のお茶』なんていうどこぞの飲料を連想する日本語になってしまう訳だけれど、こういう風に、訳してしまえばなんてことないのに英語にするとなんだか格好良く思える言葉って、いろいろあるわよね。

「例えば、スパイダーマンなんていうのもその類よね。あれも直訳すると蜘蛛男なんて格好良くない名前に成り下がるわ。

「蜘蛛男なんて、まるで変態か何かのように思えるけれど、しかしどうして外国語にすると格好良く思えるのでしょうね?

「これは私見だけれど、人間っていうのは何だかんだで異文化を心の底のどこかで好んでいる訳よ。例え口では外国が嫌いと言っていても、感性は正直なのよね。

「実際、日本では英語とかが格好いいと思われがちだけれど、例えばアメリカの人達からすれば、日本語はかなり魅力的なものに見えるらしいし。

「そう考えると、互いに自分の国の特色を全面的に押し出した文化を形成することによって、国同士の嫌悪感みたいなものは少なくなるのではないか、なんて真面目なことを言ってみたりして」


「次回、裔物語 しるしスパイダー 其ノ參」


「もっとも、そんな程度の事で解消される程、嫌悪という感情は甘いものではないのだけれど」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。