〈物語〉シリーズ プレシーズン 【裁物語】   作:ルヴァンシュ

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「二次創作小説『〈物語〉シリーズ プレシーズン 裂物語 ひよりブレード 其ノ參、其ノ肆、其ノ伍』にひとかたならぬお引き立てを頂き、心より御礼申し上げます! 今回ウラガタリを担当させて頂きますのは、あたい、神崎日和でございます! そしてもう一人、心強い方が――アニメ副音声における偉大なる重鎮・羽川翼さんです!!」

「皆さま初めまして。ややあって今回のウラガタリを担当させて頂く事になりました、羽川翼です。短い間ですけれど、倦まず弛まずお役目を全うしますのでよろしくお願いします」

「う、うわあ……流石、全く緊張している感がありませんね。神ですか」

「いやいや日和ちゃん。それはいくらなんでも言いすぎだよ。確かに副音声ではそれなりに多く出演させて頂いているけれど、だからと言って全く緊張してない訳じゃないんだよ。戦場ヶ原さんや八九寺ちゃんがよく持ち上げてくれているけれど、別に重鎮でもないし、ましてや神なんかじゃないよ」

「なんという謙虚な姿勢!? 八九寺お姉ちゃんとは比べ物にならないほどの人間性ですね、いたく感銘を受けました!」

「謙虚だなんて……あのね、日和ちゃん。多分このウラガタリに臨むにあたって阿良々木君とか八九寺ちゃんから私に関するあることないこと吹き込まれていると思うけれど、それは全部忘れちゃっていいよ」

「それは荷が勝ちますね。あたいの記憶(めもりー)はちょっとやそっとのことでは削除不可能です。自力では絶対に消せません」

「うーん……ロボットとしては優秀な機能だけど、この場合はその優秀さが逆に機能しちゃったか――でも削除は出来なくても、上書きは出来るよね。このウラガタリが終わる頃には、きっとあの二人が語った羽川像が跡形もなく残っていないと思う」

「そうなのですか? でも、現時点では阿良々木お兄ちゃんと八九寺お姉ちゃんが言っていた人物像と一分の狂いもなく合致しますけれど」

「それはそれで怖いな……あの二人、特に阿良々木君は私のことをどんな風に伝えたのか興味はあるけれど、それを聞いちゃうと逆に今度は私が阿良々木君のことを色眼鏡で見ちゃいそう」

「ほう。色眼鏡ですか。眼鏡と言えば、羽川さんは若かりし頃眼鏡を掛けていらっしゃったと小耳に挟みました」

「今はまだ十代だから、世間一般的に見れば十分若いよ――うん、そうだね。去年の夏くらいまでは眼鏡を使ってたんだけど、今はコンタクトレンズを使っているよ」

「眼鏡の羽川さん……見てみたいですね」

「うーん……でも、髪も切っちゃってるし、今つけても似合わないんじゃないかな?」

「そうですか……いたく口惜しいですが、まあよしとしましょう――機会はまだまだあります」

「……んん?」

「では、これ以上長引かせて羽川さんにご迷惑をお掛け申し上げる訳には参りません。以下、注意事項です」


■ 注意事項 ■

・〈物語〉シリーズのネタバレがかなり含まれております。
・『裂物語 ひよりブレード 其ノ參、其ノ肆、其ノ伍』のネタバレが含まれます。
・台本形式です。


「では、少々長くなりましたが、これよりウラガタリを始めさせて頂きます!」

「ごゆっくりお楽しみくださいね」



ウラガタリ ひよりブレード(下)

[010]

 

「いきなり謎の場面から始まりましたね」

 

「謎だね」

 

「これをいきなり見せつけられた読者の心情が知りたいですね。急展開に次ぐ急展開で無茶苦茶じゃないですか」

 

「うーん。確かにこの構成は疑問に思う所だね――そもそもこの《ひよりブレード 其ノ參》って、このシリーズでは圧倒的に短い話なんだよね」

 

「そうです。恐らくそこが大半の読者が抱いていた疑問点だとあたいは思うのですが――なんで他は千の位で四捨五入したら二万字になるような話ばかりなのに、これはこんなにも短いのでしょう?」

 

「ええっと。一応それにはちゃんとした……とは言い難いけれど、理由があるんだよ。もともとこの《ひよりブレード》っていう話は全四話構成になる筈だったの。でも【裂物語】自体は全六話で構成される予定だったらしいよ。ほら、【歴物語】の《まよいカースト》。あれって初期設定では《第肆話 まよいカースト 其ノ壹、其ノ貮》になる予定だったんだよね。でもいざ書いてみると《ひよりブレード》が思いの外長くなっちゃって、逆に《まよいカースト》は短くなっちゃったんだよ。それで、【裂物語】は《ひよりブレード》オンリーの全五話になっちゃったの」

 

「は、はあ」

 

「でも《まよいカースト》をそのままお蔵入りにしちゃう、っていうのはちょっと問題があってね。この話、元は本編の一部だっただけあって今後の物語の伏線を張る話だったの。だからカットする訳にはいかない。じゃあどうするか、って作者さんが考えたところ、ちょうど配信が始まった短編アニメ【暦物語】――あ、そういえば、この【暦物語】の配信期間は2016年4月30日土曜日までなので、まだ見ていない方はお早めにご視聴下さい」

 

「おお、流れるような宣伝。ウラガタリにおける暗黙の了解である宣伝もあっさりとマスターしてしまうとは、流石永遠の委員長と呼ばれるだけあります」

 

「委員長は関係ないけどね。というか何そのキャッチコピー……話を戻すけど、そう、【暦物語】が始まって、そこから着目を得て――というかほぼ丸パクリして作られたのが短編集【歴物語】なの。《まよいカースト》は本当に短編以外の何物でもなかったから、その【歴物語】に含まれることになったんだって」

 

「はあ……そういう裏事情があったのですね」

 

「うん。……えっと、話しちゃっても良かったんだよね? このウラガタリって副音声とは違って、こういう裏設定とかを語るのが主な趣旨なんだよね?」

 

「そうなのですか? すみません、あたいそこまで詳しく聞いていないもので……でも、きっとそうだと思います」

 

「んん。副音声とは大分勝手が違うなあ。これは気を引き締めてかからないとね」

 

「気を引き締めて、ですか。引き締めると言えば、羽川さんって引き締まったいい体してますよね」

 

「はい!?」

 

「むちむちと言えば確かにそうですが、けれど太っているのかといえばそうではないという絶妙なラインを保ったボディライン……阿良々木お兄ちゃんの言っていた通りです」

 

「あの男、純粋な子どもに何を吹き込んでいるの……」

 

 

 

[011]

 

 

「ほらほら日和ちゃん、そんなことを言っている間にシリアス展開が始まってるよ。本編ではおふざけがなくなりつつあるよ」

 

「あ、本当ですね……ああ、ここですか……」

 

「一気にテンション下がったね」

 

「いやもう本当、ここに関しては阿良々木お兄ちゃんや八九寺お姉ちゃん、忍野お姉ちゃんに申し訳が立ちません……あたいの軽率な行動の所為で皆さんを危機に晒すことになってしまったのですから」

 

「過ぎた事は悔やんでも仕方ないよ。それに日和ちゃんはちゃんと反省してるんでしょう? じゃあそんな風に引き摺る必要は、ないんじゃないかな?」

 

「ですが……」

 

「"引き摺る"と"反省する"は全然違うんだよ、日和ちゃん。"反省"はずっと心に抱いておくべきものだけれど、"引き摺る"っていうのはいつまでも続けていちゃあ駄目なことなんだよ。いつまでもそのことを気に病んで引き摺っちゃうのは仕方のない事かもしれないけれど、でもそれは殊勝という言葉からはかけ離れている――寧ろ悪いイメージを与えてしまうことが多々ある。だから、ちゃんと反省したなら、もうそれでこの件に拘るのは終わり。あくまでもこの一件は今後の成長のための一部分でしかないと思うべきだと、私は思うな」

 

「羽川さん……はい。助言、ありがたく頂きます」

 

「助言だなんて。私はただ思った事を言っただけだよ。そんな大袈裟なことじゃあない――それに、あんまり私が言えた事じゃないしね」

 

「いいえ! あたい、羽川さんの言葉にいたく胸を打たれました。羽川さん! 羽川さんのこと、羽川先生って呼んでいいですか!?」

 

「先生!? いやいや、なんで先生!? 普通に呼んでくれていいんだよ?」

 

「ふ、普通……羽川お姉ちゃん、とかでしょうか」

 

「うん。それでいいよ」

 

「ですが、お姉ちゃんなんて呼び方では羽川お姉ちゃんの偉大さが分からないと思うんです! 皆さんには伝わりませんよ! それでもいいんですか!? あたいは嫌です!!」

 

「私は偉大なんかじゃないって……もう本当、あの二人には今度会った時お説教しないと」

 

「いえ、これはあたいの意見です。確かに多少あの二人に引き摺られている面もなきにしもあらずですけれど、羽川お姉ちゃんの背中から後光が見えるのは否定しようがありませんよ、はい」

 

「後光なんか発してません!」

 

「最早太陽と見紛うほどの明るさです」

 

「もう! 日和ちゃん、あんまり人をからかうものじゃないよ」

 

「ですか? あたいは褒めていただけなのですが……褒められるのを嫌がるだなんて、羽川お姉ちゃんはひねくれ者なんですね」

 

「ひねくれ者……なんだか新鮮な評価だけれど――うん、そうかも」

 

「へー。じゃあ、同じひねくれ者でも、八九寺お姉ちゃんよりもよっぽどこじらせているということなんですね。分かりました、後で然るべき方に報告しておきます」

 

「うん!?」

 

 

 

[012]

 

 

「微刀『釵』――ね」

 

「はい。これがあたいの真名です」

 

「奇策士とがめと鑢七花が八月に蒐集した刀――これって、どうなの? 日和ちゃんはその蒐集された"微刀『釵』"そのものなのかな?」

 

「えっとですね……実はそれ、あたい自身もよく分かっていなくて。あたいはその頃の記憶を確かに持っていますけれど、かと言って同一かと問われると……どうなんでしょう?」

 

「ふむふむ……じゃあやっぱり日和ちゃんは、その"刀集めの際に蒐集された日和号"を雛型、モチーフとして作られた模造怪異ってことなのかな? 現代に蘇えったと言う訳では無くて、あくまでもその記憶を引き継いでいる別物の怪異、なのかな」

 

「そうなのですか?」

 

「いや、推測でしかないけれどね」

 

「推測ですか……そこですよね、羽川お姉ちゃんの強みって」

 

「強み?」

 

「阿良々木お兄ちゃんが言ってました。羽川お姉ちゃんはその知識も半端ではありませんが、ただ知識として留めておくだけではなくて、きちんとそれらを有効活用してしまうところが、羽川お姉ちゃんの"本物"たる所以だと」

 

「本当阿良々木くんは大袈裟だね……どれだけ私を神格化すれば気が済むのよ」

 

「おや。ひねくれお姉ちゃんがまた何かひねくれたことを言っています」

 

「う…………」

 

「やれやれと言わざるを得ませんよ、羽川お姉ちゃん。貴女はもう少し横柄になるべきだとあたいは思いますね。そんな風に謙虚なばっかりだと、逆に顰蹙を買ってしまいますよ――先程の言葉をお借りすれば、殊勝という言葉からはかけ離れていると言わざるを得ませんね」

 

「おっと……そのまま返されちゃった」

 

「確かに謙虚というのはきっと美徳なんでしょうけれど、でも美徳だって行き過ぎれば悪徳になってしまいますよ。なんてあたいが言わなくても、羽川お姉ちゃんはきっと百も承知なのでしょうけれど…………あの、何でしたっけ? 何でもは知らないけど、何でも知ってる、みたいな……えっと……」

 

「……何でもは知らないわよ、知ってることだけ」

 

「はい、それです。ありがとうございました」

 

「はあ。……んん?」

 

「あ。別にこの後何もないですよ? からくり人形ゆえか、あたいは人を諭すということが大の苦手でして……はい、今のは貴女からその台詞を引き出すためのものでした」

 

「……ん、オッケー。分かった、概ね分かったよ……うん。前にもこんなことあったな……」

 

「では、次に参りましょう」

 

「……そうだね」

 

 

 

[013]

 

 

「見事に攫われてしまいましたね」

 

「だね。でもある意味、ヒロインらしいといえばヒロインらしいかも」

 

「律し鼠……何故ここで栗鼠がモチーフとして選ばれたのかというのは、この金髪ねーちゃんが語っている通りなのですかね?」

 

「金髪ねーちゃんって……えっと、それはメタ的な意味ではなく?」

 

「いいえ、メタ的な意味でです」

 

「だよね。逆にそうじゃなかったらどう答えれば良いのか分からなかったよ……とは言っても、名前の設定は殆ど阿良々木くんが地の文で言っちゃってる通りなんだよね。栗鼠っていうのはその名の通り鼠だし、"律し"っていうのも名前からの連想――ただし、この"りっし"は"りす"からの連想ではなく、実際は"りっす"からの連想なの」

 

「……それって、何か違うんですか?」

 

「うん。連想という点では同じだけれど――"栗鼠"って言う字はね、元々は漢語で"りっそ"或いは"りっす"っていう読み方だったの。それが日本語における"りす"の語源とされているんだって」

 

「はー。えっと、じゃあつまり、この"律し"を連想するにあたって、実は"りす"という読み方は無関係だった、ということですか?」

 

「そういうこと。"りす"になる一つ手前が、本当の語源だね」

 

「な、なるほどです!」

 

「栗鼠が登場怪異として選ばれた理由は、織崎さんが自白してくれている通りだね。身動きがとれなくなった隙に日和ちゃんが攫われるというこの流れがまず決まっていて、どうやってその結果に至るか肉付けしていく中で、作者さんがぱっと浮かんだのは、実は鼠なんだって。病原菌のイメージだね――でも、ただ鼠が襲いかかるだけじゃあ展開的に芸がないから、そこに栗というギミックを追加する事の出来る栗鼠に白羽の矢が立ったんだとか」

 

「ほう。つまり、ほぼ適当に選ばれたと言っても過言ではないということですね!」

 

「まあ、そこまで深い意図はなかったみたいだし、適当と言えば……まあ、適当なんだろうね」

 

「適当で作られた癖にこんなに強いのですか。ストーリー上の補正がかかり過ぎではないでしょうか」

 

「ストーリーによる補正、というかタイミングによる補正だね。阿良々木くんたちは完全に虚を突かれた形だし、なまじ忍ちゃんが怪異探知能力を少しだけ持っていたというのも相まって、こればっかりはタイミングが悪かったね。それこそ、初期設定の鼠だったら、きっとすぐに居場所を特定されて倒されていただろうし」

 

「なるほどです。なんだかんだで、最適な形に収まった、ということなのでしょうかね」

 

「だね――其ノ參、ここまで」

 

 

 

[014]

 

 

「八九寺お姉ちゃんは肝が据わっていらっしゃいますね。だからこそ、あたいはあの方を信仰しているのですよ」

 

「そうだね。八九寺ちゃんって、阿良々木くんが親友と呼ぶだけあってやっぱり彼とそっくりなんだよね――誰かを放っておけないお人好しさんなんだよ」

 

「お人好しですか。……あたいもこんな風に、誰かの為に奔走できるようになりたいですね」

 

「日和ちゃんならきっとなれるよ。あ、でも、奔走するのはいいけれど、暴走しちゃあ駄目だよ? ちゃんと冷静になって行動しないと」

 

「ふむ。それもそうですね。冷静――確かにオーバーヒートは避けなくてはなりませんね。機械的に言えば」

 

「それは違うキャラの口癖だよ……っていうか、日和ちゃんってオーバーヒートしちゃうの?」

 

「はい。あまりにも日光が強すぎる日に激しい動きをしてしまうと、なんだか体がぽかぽかと火照って来るのです。しかしそのまま行動を続行してしまうと、そのままどんどん熱くなって暑くなって、終いには体内から炎が漏れ出してしまうのです!」

 

「炎が漏れ出すって、それ相当な大事だよね!? え、それって怪異モードの時だけ? それとも、人間モードの時も?」

 

「人間モードの時もです」

 

「いや、軽く言うけれど日和ちゃん、それ普通に生命の危機に直結してると思うんだけど……」

 

「大丈夫です。そうならないために、あまりにも体内温度が上昇すると自動的に冷却水が放出される仕組みになっていますゆえ」

 

「汗とはまた違うんだね」

 

「はい。でも出来るだけ人間らしくということなのか、水は冷たい塩水を使用しています」

 

「妙なこだわりが感じられるね……」

 

「まあ滅多なことではオーバーヒートなんてしませんがね――夏真っ盛りの日差しの時くらいですよ」

 

「ふうん。……でもそれって、江戸時代頃の話だよね。今の時代の猛暑日と比べると――日和ちゃん、大丈夫?」

 

「何がですか?」

 

「……なんだか日和ちゃんの今後が凄く心配になってきたよ。多分昔の猛暑日と今の猛暑日とでは、結構な差があると思うんだよね。それに年々暑くなってるし……日和ちゃんに限らずとも、精密機器にとっても現代の夏は煉獄と形容してもおかしくはないからね」

 

「れ、煉獄ですか? 地獄なら聞いたことがありますけれど……獄刀の暗喩ですか?」

 

「獄刀?」

 

「あ、違うんですか。お父様――あ、四季崎記紀様のことです――が仰っていたのですが」

 

「……獄刀――四季崎記紀――え、日和ちゃん、それって」

 

「いえ、違うのならばお気になさらないで下さい。それにあたいの体の事も。あたいは羽川お姉ちゃんが思っている以上に頑強ですから」

 

「……そう? うん、なら安心だね」

 

「はい。安心して下さい」

 

「了解――」

 

 

 

[015]

 

 

「暴力的な妹さん方をお持ちなのですね、阿良々木お兄ちゃんは」

 

「暴力的……とは、ちょっと違うけどね。火憐ちゃんも月火ちゃんも、まだちょっと加減ってものが分かってないだけだよ」

 

「それはあまりフォローになっていないような気がしますよ羽川お姉ちゃん……阿良々木お兄ちゃんの言を信じるならば、妹さん方はもう既に十三歳を過ぎておられる筈。ならば立派な大人と言えるでしょう。なのにまだ未熟と言うのは、些か発達が遅いように感じます」

 

「うーん……確かに江戸時代において、女子は早いところでは十三歳から大人として扱われていたと言うけれど、今と昔では基準が違うからね。今は男子も女子も二十歳から大人として扱われることになっているし――昔はそれだけ社会進出が早かった訳だから、育て方も今よりよっぽど厳しかったんじゃないかな? ……まあこの辺りは、日和ちゃんの方が詳しいかな」

 

「あ、いえ。ご期待に添えず歯がゆいのですけれど、あたいは世を知らないもので……生まれてからずっとお父様の工房の警備を任されていたため、かの時代の文化などは全く知らないのです。知っていたとしても、本当に少しだけです」

 

「そうなんだ。ある意味箱入り娘だったんだね、日和ちゃん」

 

「ですから今は毎日が楽しくて仕方ありません! 阿良々木お兄ちゃんや八九寺お姉ちゃんと街中を自由に歩き回ると言うのは、この神崎日和にとって無類の幸せであります!」

 

「自由、か。うん、日和ちゃんのその気持ち、ちょっと分かるな」

 

「分かりますか! 流石羽川お姉ちゃん、何でも分かってますね!」

 

「何でもは分からないわよ、分かってることだけ」

 

「おお、変則パターン!」

 

「うーん、小さい子のフリを無視するのはあまりにも大人気ないからのってみたけど、今のはちょっとしっくりこないわね……何その会心の笑みは」

 

「ふふふ……ああいえ。これで阿良々木お兄ちゃんに良い報告が出来るということを密かに喜んでいただけです。お気になさらず」

 

「うん、全然密かじゃないから。おもいっきり表に出てたから――今ので確信に変わったよ、日和ちゃん」

 

「はい? 何がですか?」

 

「阿良々木くんの陰謀だよ――もう間違いない。いや、それまでの日和ちゃんの発言でもう分かり切っていたのだけれど、決定打がなかったからね……うん、これが終わったらすぐ旅に戻ろうかと思っていたけれど、お陰で寄るところが出来たよ」

 

「???」

 

「気にしないで――じゃあ、そんな訳で次にいこうか」

 

「あっはい」

 

 

 

[016]

 

 

「【傷物語〈Ⅱ 熱血篇〉】、2016年夏ロードショー! です!」

 

「律儀に宣伝するね」

 

「八九寺お姉ちゃんの意志を継いでおりますゆえ――それに、傷物語には羽川お姉ちゃんも出演していらっしゃるのでしょう? だったら尚の事です」

 

「う、うーん……私にとっては、あんまりあの頃の話って知られたくないことなんだよね。この点は、阿良々木くんと完璧に意志が一致してる」

 

「そうなのですか? えーっと……なんでしたっけ? 【傷物語〈Ⅰ 鉄血篇〉】では、羽川お姉ちゃん、下着を晒したんでしたっけ」

 

「うん、まあね……いや、下着を晒したっていうのなら、もう【猫物語】とかでも達成しちゃったりしている訳だけれど……」

 

「下着を晒したくらいでどうしたというのです? というか、あの程度のものを晒したくらいで恥ずかしがっていては羽川お姉ちゃん、江戸時代では暮らせませんよ。昔はふんどしか、或いは履いていないかのどちらかでしたからね」

 

「いや、そんな極論を言われてしまうと困るんだけど」

 

「因みにあたいは言うまでもなく履いていません」

 

「誰も聞いてないのに自分からなんというカミングアウトを!?」

 

「当然でしょう。だってあたい機械ですよ? 先程申し上げました通り、一応日光が動力源なので割と熱には強いですが、万が一の為に出来る限り体を冷却しなければならないのです。ならば、余計な布は出来るだけ着けない方がいいに決まっています」

 

「い、意外とまともな理由だった……」

 

「地肌を晒すのと比べれば、下着を晒すなんてなんてことないでしょう?」

 

「いやまあそうなんだけど……多分【熱血篇】では、地肌なんてレベルじゃないものを晒しちゃうと思うんだよね……」

 

胞衣(えな)ですか?」

 

「そんな訳ないでしょう!? いや分類的には近いかもしれないけれども――待って待って日和ちゃん、もうこの話はやめよう? このままだとこの小説、割と真面目にR-18タグをつけなくちゃいけなくなるから」

 

「はー。なんだかもう遅いような気がしますが、はい。承りました」

 

「他人事みたいに言うけれど、大概日和ちゃんの所為だからね」

 

 

 

[017]

 

 

「うーん、このシーンは私にとっては黒歴史みたいなものだね」

 

「え? そうなのですか? やっと登場したシーンであり唯一登場したシーンだというのに、黒歴史とは。此は如何に」

 

「いや、もう少し考えていれば、残る十一本の刀の情報を阿良々木くんに送るという選択が出来た筈なのに、それをしなかっただなんて……大失態だよ。寝起きがはっきりしているとは言ったけれど、やっぱり寝惚けていたみたいだね」

 

「はあ。寝惚けですか。人間は大変ですね」

 

「日和ちゃんはそういうこと、ないの?」

 

「基本的にはありませんね。確かに睡眠から覚めた後は記憶の読み込みに少々時間がかかるため受け答えが曖昧になりますが」

 

「うん、それを人は寝惚けてるって言うんだよ日和ちゃん」

 

「なんと。初耳ですねそれは」

 

「そうなんだ……機械も大変だね」

 

「いえ、そうでもないです――やっぱり大変なのは人間ですね」

 

「ん?」

 

「あたいが記憶を読み込む際は、人間モードの時だけなのですよ。機械モードの際のあたいは、そもそも人間的な意識、理性というものを所持していませんから、記憶を読み込む必要性がないのです」

 

「へえ。記憶を"読み込む"っていうと機械っぽいけれど、実際は人間モードの時だけ、か。確かに、あべこべっぽいのはあくまで表現の問題であって、機械としての日和ちゃんを考えれば当たり前のことだね」

 

「その通りです。羽川お姉ちゃんともあろう者がこのようなことをすぐに分からないとは、寝惚けているのですか?」

 

「……そう言われても仕方ないとは思うけれど、中々イラっとくる煽りだね、それ」

 

「時差ボケしているのですか?」

 

「それとこれとは関係ないとは思うけれど、確かに時差ボケはちょっとあるかも。たまに一分くらい間違えちゃう時があるし」

 

「……あたいは時間の間違いなんてありませんが、多分人間基準ではその程度のことを時差ボケとは言いません」

 

「うん? そうかな。でも時間を間違えちゃうなんて、私時間を意識するようになってからは一度もないよ?」

 

「羽川お姉ちゃん。少々言い辛いのですが、貴女本当に人間ですか?」

 

「純粋な……とは言い難いけれど、一応人間です」

 

「ですか。……なんだか貴女は、人間という生命体が所持する基本スキルのハードルをどんどん上げていらっしゃるように思うのですが」

 

「そう?」

 

「いや自覚しましょうよ」

 

 

 

[018]

 

 

「…………」

 

「は、羽川お姉ちゃん? なんだかお顔が怖いですよ」

 

「……ああ、ごめんね。この嫌な子が嫌らしく阿良々木くんを妨害しているシーンを見ると、ちょっと心の奥深くからざわっとした感情が湧きあがって来るもので」

 

「扇お姉ちゃん、ですか。この方のことお嫌いなんですか?」

 

「ううん。別に嫌いじゃあないよ。ただ嫌なだけ。生理的に受け付けないだけ。見ていると思わず燃やしたくなる程度に不快な気分になるだけ」

 

「それを世間一般では嫌いというのでは」

 

「私は扇ちゃんとは違うからね。扇ちゃんは私のことを嫌っているのでしょうけれど、私にとってはそんなの、後輩の僻み以外の何物でもないんだよと無理矢理言い聞かせているからね。先輩として、後輩のことを安易に嫌いって言っちゃうのは大人気ないでしょう?」

 

「でも嫌いなんですよね」

 

「否定はしないよ」

 

「羽川お姉ちゃんにも嫌いな人って居たんですね……」

 

「うーん。そうだね……苦手な人はいるけれど、嫌いとまでいくと……どうだろう? 扇ちゃん以外には思い付かないな」

 

「苦手な人。羽川お姉ちゃんが苦手としている方……誰ですか?」

 

「そうだね――まず、臥煙伊豆湖さんはちょっと苦手かな。あの人の前に立つと、なんだか全部が全部見透かされているような気分になって――忍野さんも同じような方だけれど、その見透かし方が違うというか」

 

「はあ。会ったことがありませんね」

 

「ドラマツルギーさんとエピソードくん――は、ちょっと違うかな。苦手とはまた違うジャンルというか――双子の吸血鬼や二人組の信徒も、苦手って訳ではないね」

 

「はあ。誰一人知りませんね」

 

「うん。だろうね。知ってたらびっくりだよ」

 

「あたいは羽川お姉ちゃんのようにはなれませんね――読者の皆様が羨ましいです。この話についてこれるだなんて」

 

「そうかな。私の苦手意識の話なんて、聞いても誰も得しないよ?」

 

「ええ、得はしませんでしょうけれど、羽川お姉ちゃんの一言一言には多大な徳が含まれておりますゆえ」

 

「神格化しすぎ……」

 

「あたいのこと、苦手ですか?」

 

「ある意味、苦手になってきたかも……」

 

 

 

[019]

 

 

「いよいよ決戦が近いですね」

 

「近いね」

 

「これはもう我慢できません、一気に読み進めてしまいましょう!」

 

「まあ、特に話すような裏設定なんかも、この場面では無いからね――この怪異に関する設定は、もうちょっと先で」

 

「では、其ノ肆ここまでです!」

 

 

 

[020]

 

 

「其ノ伍です!」

 

「色々触れたいところがあるから先に言っちゃうけれど、羽川ペディアって呼称はもう少しどうにかならなかったのかな」

 

「おや、不満ですか」

 

「不満というか、不適切というか。encyclopediaは百科事典という意味だけれど、そこまで言われるほどの知識量は誇っていないよ」

 

「はいでました。羽川お姉ちゃん特有の過剰な謙遜」

 

「いやそんなんじゃ」

 

「じゃあ聞きますけれど羽川お姉ちゃん。貴女は広辞苑とやらに載っている言葉を全て記憶していますか?」

 

「え? それは勿論。覚えてるよ」

 

「だそうです。皆さん、これからは一切の遠慮なく、羽川お姉ちゃんを羽川ペディアさんと呼びましょう」

 

「いや待って、それとこれとは関係ないよね!?」

 

「はい、これ以上羽川ペディアという言葉に触れるのは時間の無駄です。では次の話題へ参りましょう」

 

「急に仕切ってきたね!?」

 

「どうです? このあたいの姿。挿絵がないので、参考として【刀語 第八巻】を見て頂く事になりますけれども」

 

「どうって……うーん、阿良々木くんにはああ言ったけれど、やっぱり、どこからどう見ても刀には見えないよね。どう見てもからくり人形だよね」

 

「そうですよね」

 

「いや、日和ちゃんが言っちゃうともうおしまいでしょ」

 

「いえいえ、あたいも常々不思議に思っているのですよ。どうしてお父様はあたいを、"からくり"ではなく"刀"と言い張るのか。虚刀流もそうですけれど、あの方は自分が作成したもの全てを刀と言い張らなければならないとでも思っていらっしゃったのでしょうか」

 

「どうだろうね……でも、変体刀の中には西洋甲冑やくない、それにそもそも刀身自体がないものだってあるし、どれだけこじつけを重ねたところで、それらをきっぱりと刀であると断言するのはやっぱり無理があると思うな」

 

「ですよね」

 

「だから貴女が言っちゃうと元も子もないから」

 

 

 

[021]

 

 

「がらくた王女……あたい、そんな陰口を叩かれていたのですか」

 

「知らなかったの?」

 

「はい。初耳です。がらくた王女……王女はまあ良いとして、がらくたというのは、どうでしょう? これは最早悪口と言っても差支えないのではないでしょうか」

 

「日和ちゃんのことをがらくたって言ってるんじゃないと思うよ? あくまでもがらくただらけの場所にいる王女だから、がらくた王女っていうだけで」

 

「さて、どうでしょうね……まあ実際、あの頃のあたいは怪異ではありませんでしたから、一切の感情を持たない殺戮マシーンでした――陰口も、悪口も、甘んじて受け入れましょう」

 

「そう――日和ちゃんがそれでいいなら、私は何も言う事なし。……ねえ日和ちゃん」

 

「はい。なんでしょう」

 

「これ、私は知らないんだけどね。師走――つまり、日和号が破壊された時、一体何があったの?」

 

「さあ?」

 

「いやいや……」

 

「あたいはただ言われた通りに動いていただけでしたからね。命令の背景なんて知る必要がありませんでしたから」

 

「でも、壊された時のシチュエーションとかは? 覚えてないの?」

 

「中々酷なことを聞きますね……いえ、なんとなくは。確か、気に食わない邪魔な雑魚と一緒に嫌々ながら共闘して、瞬殺されたような気が」

 

「言い方……よっぽど嫌だったんだね」

 

「はい。あの女……誰でしたっけ。確か、灰賀欧(はいがおう)とかいう奴だった気がします。ええ、そうです。間違いありません」

 

「灰賀欧……確か、将軍家直属の御側人『十一人衆』の一人、だったよね」

 

「そうです。よくご存じですね。流石、何でも知っていらっしゃる」

 

「言わないよ」

 

「言いませんですか。……いや、本当に邪魔でした。ぶっちゃけ、あの女に従うくらいなら金髪ねーちゃんに従っていた方がよっぽどマシというものです」

 

「そこまで言う?」

 

「どちらも気に食わないですが、金髪ねーちゃんはあたいの邪魔をしないでしょうからね。のびのびと斬殺出来ます」

 

「日和ちゃんって、結構過激な子なんだね……」

 

 

 

[022]

 

 

「いやあ、凄まじい濃度の戦いでしたね」

 

「凄いね日和ちゃん。日和ちゃんってあんなに強いんだ」

 

「いえいえ。凄いと言うなら羽川お姉ちゃんですよ。なんであたいの繰り出す技を全部知ってるんですか。あたいの手の内全て読まれているじゃあないですか」

 

「別に凄くもなんともないよ。私はただ、原典に書かれてある事だけを阿良々木くんに教えただけなんだから」

 

「はいはいみなさーん。まーた羽川お姉ちゃんのせんがくひさい主張タイムが始まりましたよー。いえーい!」

 

「何そのハイテンション……いや、いくらなんでも浅学非才とまで言う気はないよ。そこまでいくと謙遜なんてレベルを通り越して嫌味にしか聞こえないからね」

 

「あれ、自覚あったんですか」

 

「流石にそれくらいはね。私も昔と比べてちゃんと成長してるんだよ」

 

「昔はどこまで自分を卑下してたんですかね……」

 

「でもね日和ちゃん、こればっかりは誰にだって出来ると思うよ。だって、別に考えてない訳だし……本当、本に書いてあったことそのままなんだから」

 

「そうなんですか? ではこのとき本が手元に合ったんですね。凄い偶然です」

 

「え? いやなかったけど」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「んー……すみません羽川お姉ちゃん。それはつまり要約すれば、"思い出して"あれらの対策を伝えたということですか? 何も見ず? あれだけの量を? 正確に?」

 

「うん」

 

「羽川お姉ちゃん」

 

「何かな?」

 

「それは……あの……」

 

「どうしたの?」

 

「いや、どうしたの? って……そんな風になんでもないような言い方しますけど、人間基準で考えれば、多分それは異常ですよ」

 

「異常は言い過ぎだと思うな」

 

「言い過ぎではありません。というかこの言葉でさえ足りません――何ですか貴女は。流し読みした程度の本の内容を正確に覚えて、しかもそれをぱっと思い出せるとか……そんなことが出来るのは機械くらいですよ。羽川お姉ちゃん」

 

「ん。んー……そうかも?」

 

「そうなんですよ。全く……貴女、世の中の機械のうち何パーセントかは倒せますよ」

 

「大袈裟な……あ、そういえば」

 

「え、話題変えるんですか」

 

「いや、だってまだこの鶏怪異についての設定をお話ししてないし……一応今後の予定では、もうこの怪異は登場しない可能性が高いから、ここで言っておかないと」

 

「はあ。そうですか。ではどうぞ」

 

「えっとね。まずこの怪異は鶏の怪異だけれど、より厳密なことを言うなら、東天紅鶏の怪異なの。東天紅鶏というのは、日本三大長鳴鶏の一種としても知られている天然記念物指定の鶏。だから名前はその東天紅をもじって、『陽天紅』っていうんだって」

 

「陽天紅ですか。……えっと、何故そこで鶏を選んだのですか?」

 

「ほら、鶏って朝を告げることで有名じゃない? だからまず、時間系の要素として候補に挙げられたのよね。そしてもう一つ、太陽に関する逸話があるかどうか――ほら、日和ちゃんと太陽って、切っても切り離せない関係じゃない? だから、太陽の要素を持つ鶏が選ばれたの。鶏って、太陽信仰とは非常に縁のある生物だからね」

 

「はー。では、何故数ある鶏の種類の中から、東天紅を選んだのですか?」

 

「そこはあんまり深い意味はないみたい。ただパッと目に入った名前が、偶然にも太陽を連想させる"紅"、"天"、これはこじつけっぽいけれど、太陽の昇る方角である"東"――これらの要素を見事に内包した名前だったからっていうのが理由なんだって」

 

「なるほどです。栗鼠のときもそうですけれど、一応それなりに考えられて怪異は設定されているんですね」

 

「うん。怪異は設定が重要だからね」

 

「ですね」

 

 

 

[023]

 

 

「"反抗"か――確かに、誰かに対して反抗の意を示すことが出来るのは命ある生き物だけだね。ただプログラムされるままに動く機械には絶対に出来ない、決して許されない行為」

 

「いやあ、この時は結構危なかったですよ。ギリギリで意識を保っていましたからね。本当――金髪ねーちゃんに対する反抗心でなんとか耐えましたけれども、こればっかりは改めて見てもひやひやします。場合によってはこの時本当に『日和号』が復活して阿良々木お兄ちゃんを切り刻んでしまいかねませんでしたから」

 

「ああ、ここの苦しそうにしてるのって、別に織崎ちゃんを油断させるための演技って訳じゃあなかったんだね」

 

「はい。普通に苦しかったです。だからここで解放された時の解放感と言ったらとてもとても筆舌に尽くしがたく――いやまあ解放されたんですから解放感があるのは当たり前のことなのですけれども――勢いにのったのでこの物語のキメの台詞を担当させて頂きました」

 

「キメ顔だった?」

 

「だったかもしれませんね。あたいはキメ顔でそう言った」

 

「でも、操られるがままだった機械人形が心を得て、操り主に叛逆するっていうのは、現実ではありえないことだけれどもフィクションでは結構王道のストーリーだったりするのよね。心なき存在が触れ合いによって意志を手に入れる――日和ちゃんの出典である【刀語】も、そういうストーリーだよね。感情無き剣士が、感情だらけの女に愛され、次第に感情を得る」

 

「はあ。しかし、鑢七花は果たして奇策師とがめに叛逆したのでしょうか?」

 

「どうだろうね? 最終巻が失われているから、どうとも言い辛いのだけれど……もしかしたら、うん。やっぱり命令に背いちゃったのかもね。意志を持つということは、自己を手にするということは、必ずその過程で他者を否定しなくちゃならないのだから」

 

「歴史は闇の中に、ですね」

 

「いつか知りたいね。結末」

 

 

 

[024]

 

 

「後日談、というか今回のオチです!」

 

「あはは……もうこれは阿良々木くんに真面目な折檻が必要みたいだね……」

 

「って、羽川お姉ちゃん目が怖いですよ!?」

 

「ははは、にゃっはっは……にゃははははは」

 

「ど、どうなさりましたか羽川お姉ちゃん!? なんだか言葉遣いが乱れていますよ!?」

 

「おっと。いけにゃいいけにゃい。ちょっと怒りの感情が露わににゃってしまったか。吾輩としたことが、最期の最後でにゃさけにゃい姿をさらしてしまったにゃあ」

 

「怖い怖い怖い怖いですよ!? な、なんか目が猫っぽくなっていますし、猫耳まで生えて――え!? 羽川お姉ちゃんってそういうキャラだったんですか!?」

 

「いやいや、本来ならばこのようにゃ現象が起きる事はありえにゃい。はっきり言って吾輩も混乱の渦中にあるが、しかしどうもこのウラガタリ空間では色々カオスなことが起こるのだろう? 聞いているぞ。忍ちゃんの完全体が嘗て乱入してきたという事件のことは」

 

「だからってかおす過ぎませんかね!? 待って下さい、今の羽川(?)お姉ちゃんって、どういう状況にあるのですか? もう何が何だか……」

 

「多分、ブラック羽川と苛虎の喋り方が入り混じっているのだろうにゃ……だが安心しろ、吾輩の人格はさっきまでと変わらず、羽川翼だにゃ」

 

「安心できると本気でお思いですか」

 

「まあ無理だろうにゃ」

 

「頼みますから早く元に戻って下さい。多分ですけれど、今の貴女の状態には読者の皆さんも戸惑っていると思いますので」

 

「ああ……頑張ってあとがきまでには元に戻ろう」

 

「お願いしますよ本当に……」

 

「だが何故このようにゃ現象が起こるのだろうか? いや、深い意味はにゃさそうにゃのではあるが、しかし吾輩はどうも気ににゃって仕方がにゃい。考えるだけ無駄で理解するのは無理で考察するのは無茶にゃのだろうが――」

 

「そ、そうですか……っていうかあの、すみません、この火の粉をどうにかして頂けないでしょうか? さっきからちらちらと舞っているのですが」

 

「すまにゃい。あとがきまでにはにゃんとかする」

 

「じゃあ本編はここまでですので早く何とかして下さい。あとあたいを怖がらせた補償として"斜め77度の並びで泣く泣く嘶くナナハン7台難なく並べて長眺め"を高らかに復唱して下さい」

 

「くっ……了承した――にゃ、にゃにゃめにゃにゃじゅうにゃにゃどのにゃらびでにゃくにゃくいにゃにゃくにゃにゃはんにゃにゃだいにゃんにゃくにゃらべてにゃがにゃがめ!!」

 

「いよっしゃあ!! やりましたよ阿良々木お兄ちゃあん!! この神崎日和、みっしょんこんぷりーとしましたあ!!」

 

「燃やし尽くしてやる」

 

「あっ、すみませんやめてやm

 




「ふぅ――終わったね。長丁場お疲れ様、日和ちゃん」

「は、はい。お、お疲れ様でした、羽川お姉ちゃん……」

「あー……もうそんなに怖がらなくていいよ。ほら、もう猫耳生えてないし、火も出せないよ」

「分かってます……分かってますが、軽くとらうまになりましたよ……こんな話、阿良々木お兄ちゃんからこれっぽっちも聞いていませんでした」

「そりゃあね。私だって予想出来なかったし――で、その阿良々木お兄ちゃんだね」

「はい?」

「もういちいち確認しなくてもいいとは思うんだけど――日和ちゃん。阿良々木くんから、何頼まれたの?」

「は、はい!!? い、い、いえ、べ、べべべ別に何も!!」

「動揺しすぎじゃない」

「あ、阿良々木お兄ちゃんは別に何も仰っていませんよ? ええ、何も仰っておりませんとも! 羽川お姉ちゃんの珍しい姿をあれこれ見て来て報告してくれ、あわよくばお声を録音して来てくれだなんて、一切!!」

「日和ちゃん、機械としては結構ポンコツの部類だよね」

「ポンコツ!?」

「よし! 聞きたいことも聞けたことだし――ではでは、そろそろ締めに入りましょうか」

「え!? あ、はい……」

「この度は『〈物語〉シリーズ プレシーズン ウラガタリ』をお読みくださり、誠に有難うございました。これからのウラガタリは今回のような分割更新式になりますので、ご了承下さいませ。さてさて、日和ちゃん。今回ウラガタリをやってみてどうだった?」

「そうですね。一応少し前に八九寺お姉ちゃんと一緒に『ウラバナシ』の方をやらせて頂いたのですが、あれとは比にならないくらい疲れましたね。もう喋りっぱなしですもん。その分達成感もありますけれど、残念ながら今のあたいにはそんな感傷に浸る程の体力が残っていませんね」

「あはは。やっぱりこれ疲れるよね――私も何度やっても慣れないよ。でも日和ちゃん。次も日和ちゃん、ウラガタリ担当なんだってね」

「はい!? え、ほ、本当ですか?」

「本当。今度は神原さんと一緒に」

「神原さんですか。どのような方なのでしょう……会ったことがありませんので、如何ともこめんとし辛いですが」

「きっと相性は良いんじゃないかな? 色んな意味で」

「色んな……?」

「うん。まあ、お互い頑張ろう。私もこの後、ウラバナシの収録があるし」

「え!? そうなんですか!?」

「そうだよ。次の【歴物語】は、僭越ながら私がメインを務めさせていただくお話だからね」

「そうですか……えっと、頑張って下さいね」

「はい。頑張ります。それじゃあ、いつもの終わりの挨拶、いってみよう! お相手は、何か良いことあったらいいね、羽川翼と!」

「何かよい事あったらいとうれし、神崎日和でした!」

「さようなら!」

「さらばです!」

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