〈物語〉シリーズ プレシーズン 【裁物語】 作:ルヴァンシュ
「いや何ですかその前説!? 高圧的すぎじゃないですか! 上から目線もいいところじゃないですかっ!」
「なんじゃうぬ、儂に意見するのか? うぬも前回のオノノキ譲のようにフルボッコにしてやろうか? かかっ、あやつあの後情けない捨て台詞を吐きおったわ。ざまあない!」
「あの……あんまり物語をまたいでの前回ネタは控えるように言われていたと思うのですが」
「おや、そうじゃったか? ああ、だから今の儂は幼女姿なのか」
「そうですよ。開幕数行でルール無視しないでくださいっ。幾らあなたと言えど、ルールは絶対です!」
「ふん、まあよいわ。仕方ない」
「なんで渋々なんですか……えー、こほん! はい、そして私がもう一人のウラガタリ担当、八九寺真宵です!」
「うぬ、もうこれで三度目か。やっておるなあ」
「そうですよー。何せ本編出演率がかーなーりー高いですからね私は! プレシーズンのメインヒロインと言っても差支えないほどですから! 戦場ヶ原さんの比じゃありませんよ!」
「まあ、儂はほぼ百パーセント本編に登場しておるのじゃがな。しかもうぬより大活躍」
「それを言うなら斧之木さんだってそうじゃありませんか? 今回の物語では登場しませんが、登場したらあの方、尋常じゃない活躍っぷりを見せてくれるじゃないですか」
「ちっ」
「露骨な舌打ちやめてください」
「ちょっとばかし有能じゃからって意気がりおって。なにが
「いや、それ言い出したらあなたの肩書きだって似たようなものでしょうに……」
「鉄血にして熱血にして冷血の、というやつか? あれは儂が考えたというか、元ネタは別にあると言うか」
「あーはいはい分かりました。それより、前書きで語りすぎですし、そろそろ本編について語りましょうか」
「えー」
「何故に不満げなのですか」
「このままずっとグダグダとオノノキのことをディスっていたい」
「陰湿な……」
「あーもう分かった分かった! じゃあほら、早く注意書きを見せよ! はい、早く!」
「急になげやりにならないで下さいっ! まだ始まってさえないんですからね!?」
■ 注意事項 ■
・約1万字です。
・〈物語〉シリーズのネタバレがかなり含まれております。
・『裂物語 しるしメイク 其ノ壹、其ノ貮』のネタバレが含まれます。
・台本形式です。
「では、ウラガタリ、スタートです!」
「前書きだけで千字か……」
「こんなに前書きを消費する小説、中々あるんですかね」
[001]
「〈物語〉シリーズ恒例、メインキャラクターのフルネームから始まる前説! 今回は神崎日和ちゃんです!」
「ふむ。このヒヨリに関しては、もう語ってよいのかの?」
「いえ、彼女がちゃんと登場してから語ってください」
「むう。じゃあなんじゃ、儂らはこれを見て何を語ればよいのじゃ。我があるじ様の屁理屈染みた無駄に長いこの前書きの何を語れと?」
「いきなり辛辣ですね!?」
「いきなり本音を誤解を恐れずに言わせてもらうがな、儂はこの分かったようなことをべらべらと語る部分は必要ないと思っておる。普通に直行で本編を始めればよいものを、こんな風にグダグダと語ってしまうから読者が離れていくのじゃ、と儂は思う」
「いやいや何を仰るのですか忍さん。寧ろこの部分があるからこそ、集客効果があるのです! 確かにここは本編とあんまり関係ありませんけれど、この[001]で今後の展開をそれとなく、或いは露骨に示唆する事によって、読者が引き付けられるんじゃないですか! 分かってませんね貴女は」
「じゃあうぬよ! 通算閲覧数のグラフをみても分かるが、どんどん閲覧数が減ってきておるのは何故じゃ!? これの所為ではなかったのか!?」
「いや絶対違うでしょう!? それは純粋に作者の腕前に由来するものですから! ある意味関係ありますけれど、実質無関係です!」
「おいおい迷子娘よ、まるで読者の気持ちを分かったように言うのう。かかっ! なんと傲慢なやつであろうか!」
「分かりますとも! このハーメルン、というか昨今の小説で一番重要、ラノベ三大要素と呼ばれるものが、この作品には一切存在しないのです! そういう面から考えてもこの小説が伸び悩むのは当たり前と言うべきでしょう」
「ラノベ三大要素?」
「ずばり――転生! 異世界! チート!」
「ずばりすぎるわ直球すぎるわ!! 数多ある小説を一括りに纏めるような単語を使いおって! ちゅーかこれ評価1の嵐を叩きこまれたらどうするんじゃ!?」
「大丈夫、その時は作者が謝罪しますから」
「謝罪でどうにかなるのか……」
「いや、別にこれらを悪口として使っている訳ではありませんよ? ただ、最近のラノベはこの三要素がふんだんに盛り込まれてあるものが多いなあと思っただけです」
「オブラートに包めとるようで包めておらんぞうぬ」
「まあでも実際、そこまで目くじらを立てるような要素でないことは誰の目にも明らかでしょう。ほら、この小説だってチートキャラが大半を占めてますし」
「儂とかな」
「転生ブームだって、ぶっちゃけちょっと前に前世ネタが流行ったのと似たようなものですし。異世界ネタなんかは、最早古典的なネタと言っても差し支えがないものですしね」
「考察するのう。本編と全く関係無い話を」
「あ、そうでした本編! 忘れてました――えっと、ああそうだ! これら三つのジャンルの共通項は、いずれも自然界ではありえない、どうしようもなく人工的なものである! ……みたいなかんじで絡めるっていうのは」
「微妙じゃのう……しかもまた文字数を食いそうな話を」
「もういいじゃないですか文字数なんてこの際! 本編なんて一話平均約一万八千字ですよ! 今更ですって」
「じゃから敬遠されるんじゃないのかのう、この小説……」
[002]
「すみません忍さん、私さっきの忍さんのご意見に大賛成ですっ!!」
「分かりやすいくらいあっさりと掌を反したな」
「いやあ、やっぱりいりませんよね阿良々木さんの無駄無駄無駄なモノローグ! 何エピローグに偽装した前振りとかいう意味不明なことやってるんですかこの方は! いちいち私を襲う際にそんなこと考えるのやめてほしいですよ全く! いや襲う事自体もやめてほしいですけども!」
「なんじゃうぬ、襲ってほしいのではなかったのか? 嫌よ嫌よも好きのうち、みたいな理由で」
「い、いやあの……答えにくい事言うの止めて下さいっ!」
「かかっ! 図星か! なんじゃうぬ、見た目に違わぬ乙女な思考回路しおって! このツンデレ娘め!」
「ツンデレじゃありませんっ! それにそのあだ名は戦場ヶ原さんのものでしょう!」
「むう。それはそうなんじゃが、しかし最近日本文化に浸っていくうち、『あれ? もしかしてツンデレ娘って、全然ツンデレ娘じゃなくね? ツンデレっていうか、デレ駄々洩れじゃね!?』と思い始めてな」
「デレ駄々洩れというのは微妙なところですが……まあ最近はツンデレではありませんよねあの方は」
「かといってヤンデレとやらでもなかろう? なんなんじゃろうなあ奴は。まともな出番がなさすぎて、この儂でもキャラをしっかりと把握しきれておらん」
「まあ戦場ヶ原さんでさえ自分のキャラを忘れがちですしね」
「そこで儂は考えた! 『あれ? もしかして迷子娘の方がツンデレ娘じゃね? そもそも迷子娘だって迷子娘じゃなくね!?』とな!」
「最近の私が迷子状態からめでたく脱したのは間違いありませんが、私がツンデレだというあなたの見解には異議を唱えさせて頂きたいですね!」
「ほう? 儂に意見するか? よかろう来るがよい! 儂の判断がこれっぽっちも間違っておらんことを、うぬの論理を論破し証明してくれよう!」
「では言わせて頂きますがね忍さん。ツンデレと呼ばれる人種が何故デレの気持ちを隠してツンを表に出すと言う、余りにも非効率的かつ矛盾した行動をとるかお分かりですか?」
「知る訳なかろう。日本人でもない奴に何を求めておるんじゃうぬ」
「恥ずかしいからです! 自分の気持ちを素直に相手に伝えようと思っても、『きゃっ! こんなこと○○君に言うの恥ずかしいわ! こんなの私のキャラじゃないし、もしかしたら誰かに見られてるかも……私の気持ちがバレたら、きっとみんなの笑い物だわ! そんなの嫌っ!』みたいな羞恥心が邪魔することによって、本音と建前がごちゃ混ぜになって溶け合い、その結果、放っておいた絵の具のように固形化してとげとげしくなってしまうというのが、ツンデレという連中です」
「ほう。……なんじゃ今の演技」
「触れないで下さい。それこそ恥ずかしいですから」
「ふむ……で、うぬは? そんなこと考えておらんと?」
「当たり前です! 私はそんなうじうじしてるような奴とは一味も二味も違うのです! その場その場で自分の気持ちに正直に生きる……それがこの私、八九寺真宵なのですっ!」
「じゃあさっきの発言はなんじゃい」
「いやいや、あれも一応本音ですからね? ええまあ確かにいつも嫌がっているのは振りですよ否定しません。ですが、本当にやめてほしいと思っているのもまた事実! あの方の変態行為はどんどんエスカレートしていますし、今と昔ではレベルが違うのです」
「確かに、うぬがあの発言をしたのは半年ほど前じゃったな」
「そう! よってここから導き出される結論は……私はツンデレではない、けれども真のツンデレはあなたです、忍野忍さんっ!!」
「なんじゃと!?」
[003]
「待て、ここで章転換するのか!?」
「ええ。ちょっと今回は一章につき喋りすぎですし。だいたい一千文字を心がけましょう」
「ま、まあそういうことなら……って待て。これではツンデレ議論が、結局儂がツンデレでした、という形で終わってしまうではないか! 儂はそのような勝ち逃げ許さんぞ!」
「いやいや、この結論はあなたが何言おうと絶対に覆らない不変の真理です。読者百人に聞けば百人中九十九人がイエスと答える程度に」
「おい、ノーが一人いるではないか! そやつの意見を無視するな!」
「だってその一人って忍さんですから。無効票です」
「じゃあ最初から聞くな! ちゅーか儂は読者ではない!!」
「まあまあ忍さん。あんまり前章の話を引き摺るのはよくありませんし、本編についてちゃんと話しましょう。お役目を忘れてはなりませんよ?」
「うぬ、この収録が終わってから覚えておれよ……」
「さ、切り替えて行きましょう! おっと、どうやら日和ちゃんが漸く登場したシーンのようですね」
「……そうじゃな。あと、うぬがゴッドカースト最下位級というのが明らかになったシーンでもある」
「いやあ本当、困りますね。神様業界でもカーストなんてものがあるとは、この八九寺真宵の目を以てしても見抜けませんでしたよ」
「どこの南斗五車星じゃ……儂が神をやっておった頃は、別にそんなことなかったんじゃがなあ」
「そりゃああなたを虐められるやつなんてそうそう居ませんよ。私はその時の話をよくは知りませんけれど、あなたその時全盛期だったのでしょう? そりゃあ誰もあなたを敵に回したくありませんって」
「そうかの? かかっ、まあ儂の全盛期は本当になんでも出来たからのう。比喩でもなんでもなく、やろうと思った事は大概実現できたほどのパワーを誇っておった時期じゃしなあ」
「はあ……羨ましいですね」
「そう良い事でもなかったがな……『くらやみ』に襲われたし、何よりあの訳分からん幽霊に怨まれておるし」
「淡海静さんですか」
「なんなんじゃろうな、あやつは。正直儂としては面倒くさいからさっさと成仏するなり滅ぶなりしてほしいもんじゃ」
「まあまあそう言わずに。どうせt……【裁物語】の次くらいの物語までの命ですし、初期キャラ勢として寛容な気持ちで受け入れて差し上げましょう」
「偉そうじゃな」
「神ですから」
「ちゅーか【裁物語】なんて言ってしまってよかったのか? 二つ先の物語じゃろう」
「あー大丈夫です。このウラガタリが世に出る時点では既に【裁物語】というタイトルは公表されてますからね」
「ならよいのじゃが」
[004]
「どうも今回は変なところで章転換が発生するな」
「文字数縛りです。仕方ありません」
「もうその縛りなくしたらどうじゃ?」
「いいえそうはいきません! 前にも言いましたが、このウラガタリには一話平均文字数を下げるという役割が別にありますからね。あんまり長くする訳にはいかないのです」
「あんまり詐欺とかし過ぎると読者から叩かれるぞ……っちゅーか叩かれそうな要素多すぎないか? この小説」
「利益を求めすぎると、必ずどこかで綻びが出来てしまいますからね……叩かれているだけの内ならまだいいですけど、既存の読者が離れてしまうという展開だけはなんとか避けられるギリギリのラインを模索していきたいところですね! 恐れ多くもこんな小説を宣伝してくださった方たちだっていますし、やりすぎないようにしませんと」
「まあ、読者がゼロ人にならない限りはどうとでもなろうよ」
「いや、流石にそのレベルまで警戒しなければならない領域まで来ると本当洒落になりませんから」
「しかしこんな風にだらだらと本編と全く無関係な雑談をしていては、その日はそう遠くないかもしれんぞ?」
「珍しくまともな事言いますね……本編ですか。阿良々木さんの日頃の行いが祟っていますね」
「こやつ何かにつけて自分はロリコンじゃない宣言をするが、しかし態々そんなことを自分から言いだすと言う事は、自分がロリコンであると自白しているようなもんじゃと言う事に何故こやつは気付かんのかのう」
「別に指摘された訳でもなんでもなく、自分から唐突に釈明を始めていますからね。自覚ありですよこれは!」
「これ以上こやつの症状が進行してしまえば、いつか必ず刑務所行き間違いなしじゃな。かかっ! 両親に捕まえられる息子とは、なんと皮肉な事よのう」
「ご両親だって――いやそもそも息子さんを捕まえたくないでしょうけど――まさか性犯罪者として息子さんを逮捕することになるとしたら、どんな気持ちになるのでしょうね?」
「まあまず署内での肩身が狭くなるじゃろうな。そして降格され、いずれは職を失う羽目に……」
「親不孝者過ぎますね……」
「地獄に突き落とされたような気分になるじゃろうなあ――まあ一番ダメージがでかそうなのが妹御たちじゃろうが」
「ああ、確かに。妹さんたちって二人とも阿良々木さんのことを何だかんだで好いてますからねー」
「じゃな――うぬ、あやつらと会った事あるのか?」
「いえ。ですがさn……見回り中にお見かけする事はありますね。特徴は阿良々木さんからそれとなしに聞いていますので、一発で分かります」
「ほう? ではうぬ、我があるじ様さえ知らぬ妹御たちの一面を見ておると言うことかの?」
「そういうことになりますね! ふふ、後でお教えしましょうか? 妹さん達のデートの様子とか」
「姿が見えんのを良い事に何やっとるんじゃうぬは……まあ暇つぶしに聞いてやる」
「いやあ、なんか阿良々木さんに圧勝した気がして、気分いいですね!!」
「いい性格しとるなあ、うぬは」
[005]
「アニメ《終物語 第4巻及び第5巻》、今月27日に発売予定です!」
「なんじゃ急に」
「いえ、本編でも宣伝はしていますが、ここでも一応やっておこうと思いまして! 何せ忍さんが大活躍の回ですし! ほら見て下さいこのパッケージ! 全盛期の忍さんと死屍累生死郎さんが背中合わせに立っていますよ! かっこいー!」
「生死郎のやつまでパッケージ進出か……一方で儂のもう一人の卷属は、まだ一度もパッケージイラストに描かれておらん、と」
「阿良々木さん……」
「アロハ小僧、カイキ、生死郎がパッケージ進出する中、まだパッケージになっとらん男どもは、あの気に食わん吸血鬼ハンター三人組とよう分からん折り紙使い、そして我があるじ様……なんでこんなマイナーメンバーの中に主人公が混ざっとるんじゃ」
「だ、大丈夫ですよ! きっと【終物語(下)】ではパッケージもらえますって!」
「どうだか……【暦物語】でも微妙じゃしなあ」
「ちっちっち、違いますよ忍さん」
「あん?」
「2016年6月29日発売アニメ《暦物語》BD&DVD! ちゃんとここまで言いきって下さい! 全く、何年この仕事やってるんですかあなたは!」
「なんでこんなことで怒られにゃあならんのじゃ!?」
「宣伝に命掛けて下さい!」
「宣伝に命を掛ける小説とかマジで聞いた事ないわ!」
「あなた吸血鬼でしょう? 命の一つや二つくらい掛けても痛くも痒くもないでしょうに」
「昔の話じゃ! 今は不死性を殆ど失っておるし」
「はあ、嘆かわしいですね……」
「嘆かわしいのはうぬじゃ……我があるじ様も言っておるが、礼節は守らんとそろそろ冗談抜きで打ち切りになるぞ」
「おかしいですね。何故だか今回のウラガタリは死と隣り合わせなような気がしますよ」
「概ねうぬの所為でな」
「ところでパチンコと言えば、パチスロ《偽物語》が」
「宣伝はもういい! さっきから本編についてこれっぽっちも語っておらんぞ!」
「稼働していますが、18歳未満の方は絶対に立ち寄らないで下さいって言おうとしたんですが」
「……お、おう」
「私が宣伝ばかりすると思ってるんですか? 心外ですね! 謝れください謝れください!」
「さっきからの行いの所為じゃ! 謝れくださいってなんじゃ、日本語を喋れ!」
「謝れって言うのもキャラに合ってない気がするので」
「なんじゃその理由……」
「【其ノ壹】、ここまでです!」
[006]
「はい、こっから【ひよりブレード 其ノ貮】です!」
「いやいや今のでオチがついたのか!? ついとらんじゃろう!?」
「いえ、オチとか関係なく千文字に到達したので」
「雑じゃなあ……」
「まあ話数も章も切り替わったので切り替えて行きましょう――アニメにすると、この話からオープニングが挿入されますね」
「オープニングか。ヒヨリが歌うのかの?」
「ですね。刀語第八話エンディングでお馴染み、《からくり眠り談》をイメージしています」
「……それ本当にこの話からで良いのか? ネタバレ過ぎやせんじゃろうか」
「別に大丈夫でしょう。タイトルの時点で読者の大半は正体を察していらっしゃったでしょうし」
「ひよりブレードか――まあそれは次回のウラガタリで、じゃな。まだ今回で正体は分からん」
「ですね――それはそれとして。阿良々木さんは相変わらず醜態を晒していきますね。流石は鬼です」
「トポロジーとかなんとか言われても分かる訳無かろうに。なんじゃトポロジーって。トーラスとドーナツの違いくらい意味が分からん!」
「トーラスですか……どうやらそのトーラスというのも、トポロジー関連の単語らしいですよ」
「なんじゃと!?」
「【こよみトーラス】でメインキャラだった方が何を仰っているのです」
「おのれ……いや、儂は常々思うのじゃが、なぜ【こよみドーナツ】ではなく【こよみトーラス】なのかさっぱり分からんのじゃ。なんなんじゃろうな? 予測不能性を出したかったのかの?」
「結構タイトルから予想したものと内容が違う話が多いですよね、【暦物語】って」
「【こよみマウンテン】【こよみナッシング】【こよみデッド】はまあ確かにその通りじゃった。【こよみストーン】や【こよみフラワー】、【こよみサンド】【こよみウォーター】【こよみツリー】は分かる。【こよみティー】【こよみウインド】もよしとしよう。じゃが問題は【こよみトーラス】……と【こよみシード】じゃ」
「なんで一瞬言葉に窮したんですか」
「いや……並べてみると案外そのままなタイトルじゃな、って思って」
「まあ問題なのは何故ドーナツではなくトーラスなのか、という話ですし」
「あれ本編ではトーラスという単語よりドーナツの方がよっぽどよく出てきていたと思うんじゃがなあ。しのぶドーナツへの布石か?」
「どんなストーリーになるんですかそれ……」
「儂がポンデライオンとその仲間たちと激闘を繰り広げる熱血な物語となろう」
「熱血ですかー」
「《傷物語Ⅱ 熱血篇》、2016年夏公開! 我があるじ様の貴重な雄姿、見逃すでないぞ!」
「あなたも結局宣伝してるじゃないですかっ!?」
[007]
「いやあ、まさにこの時は天にも昇るような心地じゃったわい! ドーナツの山をひたすらに食い続けると言う快感……こんなもの知ってしまえば、もうこれより少ない量のドーナツなんかでは我慢出来ん!」
「いやあ、阿良々木さんには本当に無理をさせてしまいましたね。この場を借りてお礼をいいましょうか」
「賛成じゃな! 今回ばかりは儂も心から礼を言うぞ!」
「店員さん、本当にありがとうございました! あと阿良々木さんも」
「名も知らぬ店員よ、儂はうぬに本心からの謝辞を述べよう! ありがとうございました! あと我があるじ様」
「ではここで忍さんに質問です! 今回食べたドーナツの中で、どれが一番美味しかったですか?」
「むう……うぬはなんと残酷な質問をするのじゃ? 儂に? 選べと?」
「む、無理ですか」
「全部美味に決まっておろう? いやまあゴールデンチョコレートがやっぱり一番のお気に入りではあるよ? あるけれども! ミスタードーナツで販売されておるドーナツが不味い訳ないじゃろうがそれくらい考えて物を言え宣伝娘!!」
「宣伝娘!?」
「うぬによく似合っておろう? うぬは迷子でもツンデレでもない……宣伝娘じゃ!」
「ぐっ……じゃ、じゃああなたはどうなんですか!? あなただってミスタードーナツの宣伝をここぞとばかりに叩きこんでくるじゃないですかっ! あなただって立派な宣伝娘です!」
「よいかハチクジ。人間誰でも生きておるだけで何かを意識的に、或いは無意識的に宣伝してしまう存在――言わば、命ある広告塔なのじゃ」
「おっと何か言い始めましたよ」
「そう考えれば、どうじゃ? 別に宣伝娘というあだ名が悪いものではないように思えるじゃろう? じゃって当たり前のことをしておるだけなのじゃから! これは蔑称でも悪口でもなんでもない――宣伝娘とはつまり、ただの娘であることと同義じゃ!!」
「ストレートに悪口じゃないですか!!」
[008]
「誰の頭がサザエさんみたいじゃと!?」
「ひとっことたりとも言ってませんから!! アトムとさえ言ってませんから!! 条件反射的に危ないネタを使うのは止めて下さい!!」
「別に良かろう。ある意味タイムリーなネタじゃし」
「タイムリーだからこそやめろと言っているんですっ!」
「まあ、儂はよく知らんからこれ以上何をネタにすれば分からん。これ以上は控えよう――微妙な知識でネタに走ればファンから袋叩きにされることは目に見えておる」
「よく知らないなら止めましょうよ」
「この栗の木、元ネタはなんじゃったかの?」
「三度栗伝説ですね。詳しくはググってくれると分かりますけれど、この話に出てくる栗の木とは完璧全くの別物です。あくまで栗が三つ生っているという点、ただそれだけの元ネタです」
「もっと良いネタはなかったのか? なんでまたこんな微妙な形で採用しておるんじゃ」
「その答えはただ一つです。栗に関する伝承が中々見付からなかったから! はい、以上です!」
「もっと詳しく調べろよ。もうちょっとやりようがあったじゃろうが」
「まあこの栗の木自体が飽くまで前座に過ぎませんし、それに本当はこの木のシーンって、当初のプロットでは存在しなかった後付けのシーンなんですよね」
「ほう? そうなのか」
「えーっと……まあこれくらいなら言っちゃってもいいですかね? この後【其ノ參】で栗鼠の怪異が登場するんですが、本来この回で登場するメイン以外の怪異って、実はそいつだけだったんですよね。いやまあ私と忍さんとかは省いたうえで」
「ではちょっと前に登場した蛤も?」
「はい。あれは本当に後付けですね! 当初はあれ、影も形もありませんでしたから」
「ほほう。となると……初期プロットってどんだけ薄味だったんじゃ」
「プロットとは言いますが、あくまで大雑把な流れでしかありませんけど。基本この物語って、最初に結末を決めて、どうやってそこに持って行くか考えながら概ねの流れを作っていくという手法を用いられて作っています」
「ふむ。つまり、言ってしまえばそもそもラスト以外全てが後付けでしかないと言う事か」
「そういうことになりますね。しかもこのシリーズ自体実は衣、■、裂、■、裔、裁の順でプロットが組まれていますので、裔物語と裁物語は物語自体が後付けみたいなものなのです」
「はー、計画性のない……」
「ですね。……そして作者の計画性のなさが最も如実に表れているのが、このウラガタリな訳で……」
「じゃな……」
[009]
「〈物語〉シリーズ オフシーズン最新刊【業物語】、好評発売中! お求めはお近くの書店にて!!」
「やはり開口一番に宣伝してきたなこの娘」
「本編にも書いてあるように、宣伝ネタはこちらでしか出来ませんからね。そして作者ネタもここだけですし――まあやれるときに好き放題やっておきましょうという寸法です!」
「ふむ。しかしそうか、これが書かれたのは【業物語】発売前だったのじゃな……時間の流れというのは全く早いのう」
「あなたが言うと重みがありますねー。何せ約六百年も生きた吸血鬼なんですから! しかし六百年……気も遠くなるような時間ですけれど、そんな期間、いったい何をしてお過ごしになられていたのですか?」
「何をして、と言われてもな――まあ、その辺の国をぶらぶらと渡り歩いておっただけじゃよ。孤高の旅人というやつじゃ」
「孤高ですか。憧れますね! たった一人で、誰の目も気にせずに国から国へと渡り歩く旅行者……くぅ! かっこいいですっ!」
「そんな楽しいものでもなかったがな……特に、人間だった頃は毎日が地獄じゃった」
「地獄ですか」
「そう、地獄――まあその辺りは【業物語】を読んでくれれば概ね察することが出来るじゃろうて」
「やっぱりあなたも宣伝娘ですよ……何言ったところで宣伝に帰結するじゃないですか」
「かかっ――まあ、もうこの会話が世に放たれる時点では【裔物語】が完結しているらしいので言ってしまうが、ここからの展開、特に【裁物語】以降からは【業物語】を読んでおらんとかなり辛い部分も出てくると思うのじゃよ。少なくともアニメオンリー派は何が何だか分からんじゃろう」
「まあアニメオンリー派の皆様にいきなり核心に触れるレベルのネタバレをぶち込んだこの小説ですし、その辺もう今更な気もしますけどね……そしてそれも伸びない要因の一つ、と」
「今後の展開も、原作がどう出るかによって大幅な路線変更を強いられ、その結果意図せずに最新刊のネタバレを組み込まざるを得ない時だってあるしな。まあ【裁物語】は完璧に意図してのネタバレ全開なのじゃが」
「【裁物語】は一番路線変更を余儀なくされましたからね――というか忍さん、これ【裂物語】のウラガタリですよね? あんまり先々のことについて語りまくるのはちょっと控えましょう……今後のウラガタリのネタが無くなってしまいます」
「えー? いいじゃろうが、どうせウラガタリなんて殆ど誰も見とらんのじゃし」
「そういうこと言うのやめましょう!! 第四回目にしてウラガタリ自体の意義を問うのはやめて下さいっ!!」
「いや実際儂思うんじゃよなー。本編だけを待っておる読者は、ウラガタリを放送しておる間は失望したような気分になるじゃろう? 人離れるじゃろう? あら不思議打ち切りに!」
「……まあ言いたいことは分かりますよ。確かにこのウラガタリの形態は何らかの改善が必要でしょうね」
「じゃろう? よし! じゃあこれは次回のウラガタリの議題ということで、今回のウラガタリはここまで! 【其ノ貮】、終了じゃ!」
「強引ですね!!」
「かかっ! 今回だけに留まらず、次回にまで話題を提供してやる儂! なんて優しい奴なのじゃろうか、なんて慈愛に満ちた奴なのじゃろうか! 刃の下に心どころか、心が全面に出てしまっておるの! かかっ!」
「そんなこと自分で言ってる時点で慈愛もへったくれもありませんけども」
「エンディングは【衣物語】と同じなのか?」
「そうですね。【憑物語】EDの【border】でお願いしたいところです。オープニングは違いますけれど、エンディングは物語二つ分同じものを使用します」
「む? あっちは確か【whiz】だったような気が」
「気の所為です。怪異の仕業です」
「いや作者の都合じゃろう」
「いや【歴物語】なんてものを作ってしまった手前、如何にも【暦物語】丸パクリなそっちのエンディングはどう考えても【whiz】になってしまうんですよ。まあこんなどうでもいい設定がコロコロ変わることくらいは読者の皆様もきっと寛大なお心で許してくださる筈です!」
「【歴物語】か……作ったはいいものの、作者がどうにも扱いあぐねているあれか」
「まあ、もうそろそろ何らかの更新があるようなのでお待ち下さい。二話ぐらいあるそうですよ」
「二話。どんな話じゃ」
「流石にまだ投稿もされてない話のネタバレは厳禁ですよ忍さん! でもまあ、片方は次回のウラガタリ更新と同時に投稿される予定というところから、だいたい誰がメインになるのか予想はつくでしょうね」
「奴か」
「奴です」
「本当に予告通りにいくのかの? 【衣物語】の通例に従って【裂物語】の表紙も作成中らしいが、まだ下書き状態だと言うではないか。それに刀娘のデザイン絵まで……普通に〆切に遅れそうな気がするがのう」
「別に誰も望んでいないのに馬鹿みたいな無茶を仕出かして結局何も出来ずに妥協して終わるのがこの作者ですからね。油断なりません」
「果たして信用を取り返せるか、見ものじゃな」
「ですね――と、作者に発破を掛けたところでお別れの挨拶を! 『〈物語〉シリーズ プレシーズン ウラガタリ』をお読み頂き、誠にありがとうございました! 次回のウラガタリは、この物語のメインヒロイン日和ちゃん、そして! 本家本元副音声の重鎮こと完全無欠の委員長・羽川翼さんをお迎えしてお送り致します!!」
「ほう、元委員長か」
「はい! お忙しいところ、無茶を言ってなんとか予定を入れて頂きました」
「うぬと刀娘でもよかったのではないのか?」
「それはそうなんですけど、ただこの機会を逃すと羽川さんをお呼び出来なさそうだなあ、と思いましたので!」
「プロデューサー権限を濫用するでないわ」
「はいはいそんな訳で次回もお楽しみに! お相手は、何か良いことあったらいいです! 八九寺真宵と!」
「何か良いことあったらぱないの! 忍野忍じゃった!」
「次回も今回と同じような更新方式でいきますよ!」
「さらばじゃ!」