もう異世界は懲り懲りだ⁉︎   作:葛城 大河

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新しい話を投稿‼︎ この第五話は和樹君と柚木先生の話になってる(?)かもです。


第五話 疑惑

「……はぁ……はぁ……はぁ………先生、もう少しで森を抜けます‼︎」

 

「………やっとか」

 

 

あのユニコーンから逃げる為に、全力で魔力強化して和樹達は、走っていた。そうしていると、和樹の視界に森の出口が映る。それに安堵して後ろに着いてきている柚木教諭達に顔を向けて言った。彼の言葉に柚木を始めとした少女達が、同様に安心した表情を浮かべる。あのユニコーンの雄叫びは最早、彼等には聞こえていない。それは完全にユニコーンとの距離を離した事を物語っていた。と、同時に和樹は後ろに視線を向ける。

 

 

(……………零士)

 

 

自分達を逃がす為に、囮をかって出たパートナーに思いを馳せる。あの時、囮を任せたが、やはり心配だ。例え、魔力がないのに自分の魔力強化した身体能力を追い越す力を持ってもだ。一瞬だけだったが、和樹はあの黒いユニコーンを見ている。アレはただの化け物でない。それ以上に(おぞ)ましいナニカだ。今でも姿を思い出すだけで、体がぶるっと震えてしまう。そんな自分に情けなさを覚えながら、手を強く握りしめた。そして和樹達は森の中から抜け出た。

 

 

必死に逃げていた為、全身から汗を流して和樹はその場に倒れこむ。後ろに居る柚木達も、その場に座り込んだ。すると、そんな彼等に慌てて近付く影があった。

 

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎ みなさんっ⁉︎」

 

 

ステラ・ウィル・エルステインだ。彼女は倒れ込む和樹や、柚木達に近付き上級回復魔法『ホーリーフィールド』を発動させた。ステラを中心に、光のフィールドが形成され、その中に居る和樹達の傷と疲労を回復させる。そしてなにがあったのか尋ねようと和樹に近付くと、突然、彼に腕を掴まれた。

 

 

「…………っ⁉︎」

 

「た、頼む。零士を助けてくれ」

 

「レイジ様? カズキ様っ、レイジ様になにかあったのですか⁉︎」

 

 

腕を掴まれて驚いたステラだが、しかし次に和樹が言った言葉に、この場に居ない篠宮零士になにか起こった事を理解して慌てて聞く。それに和樹ではなく、襲われた彼女達の中から柚木が答えた。

 

 

「行き成りユニコーンに襲われた」

 

「なっ⁉︎ ユニコーンにですか⁉︎」

 

「あぁ。全身が黒く禍々しい物を纏ったユニコーンにだ。篠宮は、そんなユニコーンから、私達を逃がす為に囮になった」

 

「………黒いユニコーン」

 

 

柚木の話した言葉に彼女は驚くしかない。やはり、ユニコーンに襲われたというのが衝撃だった。ユニコーンは『幻獣種』の中で一位、二位を張る程に大人しい。それがなにもされずに、行き成り襲うなど信じられなかった。それと柚木が言った中に気になる単語もあった。黒いユニコーン。そんな存在などステラは知らない。ユニコーンと言えば、汚れを知らない白い体表に、神々しい雰囲気を放つ『幻獣』である。まして、禍々しいなどとある訳がない。

 

 

だが、柚木の眼を見て、嘘ではないとステラは確信した。

 

 

「分かりました。レイジ様を助けましょう。ジーク‼︎ 兵士を編成させ、助けにいきましょう」

 

 

ステラは柚木に頷き、立ち上がると背後に居るジーク・フロウストに言葉を告げた。しかし、返ってきた物は否定の言葉だった。

 

 

「駄目です。そんな事よりも、他の勇者達を助ける事が優先です」

 

「なっ⁉︎ 本気ですかジークさん」

 

 

耳を疑うその発言に翡翠が声を上げた。ジークの言葉に翡翠だけではなく、他の者達も眼を見開く。その中でも和樹が、怒気を込めた声を出した。

 

 

「如何いう事だよそれ。ふざけんなっ‼︎」

 

「なにを怒っているんだ?」

 

 

まるで怒られた意味が分からない風に首を傾げるジークに、いっそう怒りが募る。そして再度、口を開こうとした時、ジークが言った。

 

 

「魔力なしが一人居なくなっただけだろ」

 

『ーーーーーッッッ⁉︎』

 

 

ジークが告げた言葉に、全員が硬直するのは当然と言えた。なにを言ってるんだ? 和樹はその言葉の意味を理解するのに時間を掛けた。それは少女達も同じく、体を止めている。価値観が違う。この世界で魔力がないものは、疎まれ、蔑まれ、差別の対象とされていた。それは、この目の前の男ジーク・フロウストとて例外ではなかった。魔力がないものは、弱者、即ち世界に対して役立たない無能者だと本気で思っている。

 

 

魔力を持たない者が、当たり前でないものが蔑まれるこの世界。それは魔力がない世界から来た和樹達とは価値観が違うのは当たり前だった。そんな事を薄々と理解していた彼等は、ここでその異常性に始めてぶつかった。まるで、魔力がない者が死んでも、それが如何したと気にも止めない目の前の男。それに対して、自分達の為に囮になった零士の姿を脳裏に思い浮かべた。

 

 

「本気で言ってるのかよ」

 

「あぁ、本気だ。所詮、魔力なしが一人居なくなっても、俺達に支障は(きた)さないだろう?」

 

 

本当に理解が出来ないと、ジークが首を傾げるのを見て、和樹は両手を握り締めて、キッと睨みつける。この目の前の男をぶん殴りたい。胸中でそう叫び、立ち上がろうとして、そこで近くから怒りの篭った叫びが響いた。

 

 

「口を慎みなさいっ‼︎ 貴方は、自分がなにを言っているのか分かっているのですか」

 

「ステラ………?」

 

 

それはステラだった。彼女はジークに鋭い視線を向けていた。

 

 

「す、ステラ様、なにをそんなに怒って」

 

「分からないのですかジークさん。貴方は魔力がないという理由で、人を一人見殺しにしようとしているのですよ。それが騎士団団長の発言ですか‼︎」

 

 

彼女の叫びに、ジークは戸惑うしかない。ステラはこの世界でのその差別がなによりも嫌いだった。何故、魔力のあるなしで、そこまで迫害するのか、彼女には如何しても理解できなかったのだ。魔力がなくとも、彼等は人間だ。にも関わらず、自分の父を始め、周りの人達は、それが当然と言わんばかりに蔑みの視線を向ける。唯一、差別をしないのは、自分とその専属メイド、そして姉妹達だ。彼女は、差別化が激しいこの世界を変えたく思っている。

 

 

自分の尊敬する姉もそう思っており、差別化をなくそうと、そういった、差別がない国々に自ら赴いて関係を築いている。それなのにこうして、目の前でしかも国の騎士団団長が発言した差別の言葉が許せなかった。しかも、それを自分達の身勝手で召喚した者に向けられれば尚更だ。ステラは、ジークから視線を外して森林に向けた。

 

 

「ジークさんが行かないというなら、私が行きます」

 

「っ⁉︎ だ、駄目ですステラ様⁉︎」

 

「退いて下さい。通れません」

 

 

物凄い速度で、ステラの前に移動すると、先には進ませないように進行を阻んだ。それに鋭い視線を向けるステラだ。お互いが見合い、緊迫した空気が漂い始めた。和樹達は、疲れている為、静かにその成り行きを見る事しか出来ない。暫く、皇女と団長の睨み合いが続く中、その時、森の中から草を踏み締める足音が聞こえた。それにジークが体を瞬時に森林に向けて、剣の柄に手を付ける。話にあった黒いユニコーンだと思ったが故の警戒だ。

 

 

もしも、柚木の話が本当であれば、あの魔力なしが生きているとは思えなかった。そして足音は近付いてきて、森から現れた。

 

 

「……………え?」

 

 

和樹から驚きの声が上がった。いや、和樹だけではない。柚木達も眼を見開いて、森林から出て来た人物を見た。

 

 

「ふぅ、やっと森から出られたな。ん? あ、和樹達も無事に出られたんだな」

 

「篠宮………?」

 

 

それは自分達を逃がす代わりに囮となった篠宮零士だった。彼はまるで、何事もなかったかのように、和樹達に笑みを浮かべていた。

 

 

「し、篠宮大丈夫なのか。怪我は⁉︎」

 

 

零士の無事な姿に柚木は、我に返ると急いで怪我がないかを聞いた。

 

 

「平気だよ黒原先生。言っただろ、俺は逃げ足だけは速いって」

 

 

両手を広げて、傷がない事を見せて大丈夫だと告げる零士に、五体満足だと安堵の息を吐く柚木だ。他の彩、渚、翡翠も安心したような表情を見せた。それに心配をかけてしまった事に零士は少し申し訳なくおもってしまう。と、そこでなにか雰囲気が可笑しい事に彼は気付いた。

 

 

「んで、なにがあったんだこれ?」

 

 

気になった雰囲気に口を開くが、誰も答えない。しかし、零士はステラとジークになにかあったのだと勘付いた。すると、ジークが零士に向けて言葉を紡いだ。

 

 

「おい、魔力なし。黒いユニコーンは如何した」

 

「ジークっ⁉︎」

 

 

ジークの蔑みを隠さない声音に、ステラが叱責する。その事に零士は大体、なにがあったのか理解した。

 

 

「俺もそれは分からない。なんか行き成り、どっか行っちまって」

 

「そうか」

 

 

しかし、その冷たい瞳に零士はあはは、と笑みを浮かべて返した。ジークはそんな零士に冷たい一瞥を向けてから、一言告げて顔を背ける。

 

 

「すいません。レイジ様」

 

「いや、別に気にしないでくれ。ステラ」

 

 

ジークの態度に謝るステラに、零士は手で頭を下げようとする彼女の行動を阻止した。こんな事で一国の皇女が頭を下げては駄目だ。それに彼は本当に気にしていない。というよりも、随分前に気にする事が馬鹿馬鹿しくなったのだ。あの蔑みの視線など空気と同じだ。あれ以上もの視線を受けた事があるのだから。

 

 

「で、ですが、それでは私の気が収まりません」

 

「ん〜、じゃあ一つ俺の頼みを聞いてくれよ。それで良いだろ」

 

「へ? そんな事でしたら、構いませんが。でも、本当にそれだけで良いのですか」

 

「あぁ、俺はそれで良いぞステラ」

 

 

一つの頼み事で、この事は終わりと言う零士に、その程度で良いのかと聞くステラだが、笑みを浮かべて零士は頷いた。目の前で笑みを浮かべる零士に、ステラは自分の顔が紅潮するのを自覚すると共に、何故か彼の笑顔を見ると自分までも楽しくなってきた。

 

 

それから数分後、煌崎達男性陣と、女性陣が騎士団達によって森林から連れ戻されたのであった。こうして色々な問題を起こしながらも実戦訓練は終わった。和樹や柚木、翡翠、渚、彩にエルステイン皇国の不信感だけを残して。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

闇。何処までいっても広がる闇の中に、ソレは居た。人の形をしたソレは、全身がドス黒く染まっており、背中から歪な翼を生やし、その瞳は血のように鮮血に染まっている。この存在の姿をもしも、ステラが見たのなら震えた口で、こう言っただろう。

 

 

ーーー『魔人』、と。

 

 

“魔神”によって無から生み出された眷属にして、“魔神”の意に従い破壊と蹂躙をする化け物だ。魔人は闇の中にポツンと一人立ちながら、言葉を紡いだ。

 

 

「ほぅ、『種』が破壊されたか。まさか、まだこの世界に、それだけの強者が居ようとは。………いや、もしかすると『種』を破壊したのは、噂の召喚された勇者かもしれないな」

 

 

勇者。それは希望の象徴であり、正義の体現者。そしてなによりも、自分を生み出した“魔神”様の宿敵。そこまで考えると魔人は『種』が破壊された場所を、探した。そして一つの森林が脳裏に浮かぶ。

 

 

「ふむ、ここで『種』が破壊されたみたいだな。という事は、この近くのどれかの国が勇者を召喚したのか」

 

 

『種』が破壊された森林付近の国々のどれかに勇者が居ると彼は推測した。だが、それは推測でしかない。勇者がたまたま、この森林に通りかかって破壊した事もあり得るのだ。ここで自分が、その国々に行って勇者が居なかったら無駄骨になってしまう。しかし、魔人は獰猛に口の端を吊り上げた。

 

 

「それが如何した。私は魔人だ。この身は、あのお方の為に人を蹂躙する。ならば、勇者が居ないならば居ないでそれでいい。その国を蹂躙するだけだ」

 

 

自分のいや、魔人としての存在意義を思い出し、そう口にする。次の目的は決まった。彼は右腕を頭上に上げて、手を握り締めた。次の瞬間。闇の世界が歪みを見せて行き、砕けた。バキバキバキと剥がれる闇の欠片。先程の闇は、この魔人が構築した世界だ。ならば、砕くのは造作もない。闇が晴れ、明るさが戻ると、そこは上空だった。そして彼は眼をとある方向にへと向ける。

 

 

「さて、行くとしましょう」

 

 

そう言うと、歪な両翼が動き視線を向けていた方角にへと移動を開始した。

 

 

「………私を楽しませて下さいよ」

 

 

魔人が向かう先は『聖天の森林』の近くにある国の一つ。エルステイン皇国である。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

森林から出て全員合流した零士達は、帰りは何事もなくエルステイン皇国に帰還していた。王城の中に入り、暫く歩くと休憩の為に解散した。因みに、衰弱した夏美と、足の怪我の所為で途中から気絶した那月は安静にと医務室に運ばれた。それに心配した女子生徒達だが、彩の回復魔法のお陰で、怪我は完治しており命に別条がないと知り、安心した一幕があった。

 

 

そして零士は自分の部屋に戻り、ベットに身を投げ出した。

 

 

「はぁ、疲れたぁ〜」

 

「おいおい大丈夫か零士」

 

 

身を投げ出す零士に、やっぱり心配で着いてきた和樹は苦笑した。彼がベットに体を沈ませる理由が分かったからだ。それを思うと、やはり自分の力の無さに苛立ちを覚える。零士はベットに体を預けながら、そんな和樹の心境を読み取ったのか、静かに口を開いた。

 

 

「………一人で背負い込むなよ和樹」

 

「っ⁉︎ 零士。だけど、俺はなにも出来なかったんだぞ」

 

「そんなのは当たり前だ和樹。寧ろ初めての実戦で、なんでも出来たら驚きだよ」

 

 

初の実戦ならそれは当然だと零士は、告げる。しかし和樹はそれに反論した。

 

 

「だけど、お前は冷静に対処してたじゃねぇか‼︎」

 

「あぁ〜それはなぁ」

 

 

それを言われると零士はなにも言えなくなった。なにせ、和樹にとっては初めての実戦だが、自分はそうではないのだから。今でも思い出す。篠宮零士の原点を。あの時は、とんでもなくグダグダだった。今回の和樹以上に酷かったと今でも思う。

 

 

「いや、まぁ俺は色々あるから」

 

 

流石に正直に答えれる訳がなく、出て来た言葉はそんな言い訳にもならない物だった。これに零士は自分を殴りたくなる。

 

 

「色々ってなんだよ」

 

「色々は色々だ。ま、まぁアレだ。和樹もすぐに強くなる。だから、そう背追い込むな」

 

 

零士の発言に尋ねてきた和樹だが、彼は無理矢理流してそう口にした。流された事に少し納得の行かないが、それでも和樹は諦めたように息を吐いた。そして零士の視線に合わせて言葉を紡いで行く。

 

 

「分かったよ。なんかお前を見てると、考えるのが馬鹿馬鹿しくなっちまった」

 

「おい、それは如何いう意味だよ」

 

 

和樹の言いように零士は不服そうに言うが、そこで和樹が真剣な顔を向けている事に気付く。

 

 

「零士。俺は強くなるぞ。絶対に強くなる」

 

 

その揺るがない意思を込めた瞳で和樹は言い放った。それに不服そうにしていた零士は、クスッと笑う。何処の世界でもこういう奴が居るのだ。本当の『勇者』としての資質を持つ奴が。黒いユニコーンと出会い恐怖を抱いた筈だ。あの化け物に対して全身に悪寒を覚えた筈だ。なのに、目の前のこいつは、それでも強くなると自分に誓ったのだ。胸に湧き上がる歓喜の感情を抑え込み、和樹に視線を向けた。

 

 

こいつは強くなる。それは確信だ。この男は強くなると、真の『勇者』になると。零士は確信した。その思いが揺るがない限り、何処までも愚直に強さを追い求めるだろう。黒いユニコーンに出会ったりと、今日は散々な一日だと思ったが、中々如何して今日は良い日ではないか。零士は改めて、その意思が篭った眼に顔を向ける。

 

 

「頑張れよ和樹。お前なら絶対に強くなる」

 

「あぁ‼︎ 見てろよ。俺は強くなるからな」

 

 

和樹は零士に断言した。強くなると。彼はこれから様々な脅威に出会うだろう。幾つもの困難に立ち向かうだろう。そしてそれらを乗り越えて、強くなって行くのだろう。嘗ての自分がそうだったように。未来の和樹の姿を思い浮かべて、今日は本当に良い日だと零士は思った。

 

 

この日に新たな『勇者』の誕生の産声が上がった。

 

 

それはまだ、誰も、零士しか知らない事だ。しかし、何時の日か知る日が来る事だろう。御手洗和樹の名を。零士はその日が来るのが待ち遠しくなった。そして『勇者』の資質を持つこいつを死なせないと、心の中で誓った。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

黒原柚木は、夏美と那月が居る医務室から出て回廊を歩いていた。その表情は真剣そのものだ。考えていたのは、森林での事である。あのジークの発言に、如何に魔力なしが不必要かを思い知らされた。これは危険だ。ステラに幾つも魔力なしの事を聞いて、その一言が脳裏を過ぎる。今はまだ平気だろう。しかし、近い内に誰かが、それこそ皇王が魔力なしの零士に害を出すかもしれない。そんな事は教師として絶対にさせてはならない事だ。しかし、あの王が零士に手を出す時、多くの人間が手を貸すだろう。それ程までに差別が根付いている。

 

 

この事を相談出来るのは、数人居るが、やはり有力なのはステラ皇女だ。彼女と一ヶ月居たが、その時に何度も、その差別に対して嫌な顔をしていた事を覚えている。恐らく、彼女も許せないのだろう。それが演技だったらお終いだが。

 

 

「くっ、如何すればいい。私は教師として、如何やって守れば良いのだ」

 

 

相手は国の王だ。如何に自分が勇者でも、抗えられない。彼女は端正な顔を歪めて、自分の無力差を痛感した。

 

 

「強くならなければ、駄目か」

 

 

強くなれば、功績を作れば自分の発言権も高くなる。そうすれば、零士をなにより生徒達を守り易くなる。彼女はもうこの国を信じられない。少しでも不信感を抱いてしまえば、それが膨らんでしまってこの国に対して、いや皇王に対して疑惑した出て来ない。あの男は、自分達を体の良い道具と思っているのではないか。そのような疑心だけが募るばかりだ。

 

 

それにあの王に柚木は、何度も聞いたのだ。自分達を元の世界に帰す事が出来るのか、と。しかし答えは返って来る事はなく、あの王ははぐらかすばかりだ。その事に柚木は帰る術がない、もしくは見つかっていないと理解した。この事は混乱を避ける為に生徒達には内緒にしている。だが、なんとか帰る術を探さなければならない。皇王は“魔神”を倒した後、国をあげてもてなすと言っていた。

 

 

しかし、“魔神”を倒した後の事を柚木は想像した。自分達に帰る術はない、そんな自分達がここに留まれば、“魔神”を倒せる程の存在を国は見逃さないだろう。最悪の結果として戦争の道具にされてしまうかも知れないのだ。それは行けない。それだけは阻止しなければいけない。自分だけなら良い、だが生徒も巻き込まれるのは看過出来ない。故に、探さなければならない。元の世界に帰る方法を、そして強力な権限を。

 

 

その両方を手に入れるには、やはり強さが必要だ。

 

 

「やはり、まずは強さを手に入れなければ駄目か」

 

 

自分の決めた方針を声に出す事によって、確固たるものとする。強くなる。守る為に。決意を胸に黒原柚木は、回廊を歩いて行った。

 

 

ここに和樹とは違う場所で、力を求めた女性が居た。他人を守る為に力を求める彼女もまた『勇者』の資質を持つのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




和樹君と柚木先生が『勇者』としての資質を持っていたという話でしたね。

え? 煌崎? 知らんなぁ誰だそいつ。

次回はステラ皇女に頼み事と、橘 夏美の話かも?

良い魔法が思い付いたら、ぜひ感想欄に。では、また次回をお楽しみに。

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